「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

当ブログの内容は編集者個人の見解であり、「市民の会」の公式見解ではありません。当ブログへのリンク、記事内容の引用等はご自由に!

台風19号による決壊の大部分は本・支流の合流付近

 またまた水害関連の話題になってしまいますが、昨日の朝日新聞の第一面に、10/12に上陸した台風19号がもたらした水害の分析結果に関する記事が載っていました。読んでいない方のために、以下、記事の一部を抜粋しておきましょう。なお、記事の前半部分は下記サイトで無料で読むことができます。

堤防決壊の8割、支流と本流の合流点に集中 台風19号

************************************************************************

  『台風19号の大雨で堤防が決壊した140カ所(71河川)のうち、8割にあたる112カ所(62河川)が、支流と本流の合流点から約1キロの範囲だったことが、朝日新聞のまとめでわかった。専門家は「合流点近くに住む人は、浸水が起きやすいことを自覚しておくべきだ」と指摘している。

 朝日新聞は、国土交通省と河川決壊があった宮城、福島、栃木、茨城、埼玉、長野、新潟の7県が発表した資料や担当者への取材で、台風19号で決壊した71河川の堤防140カ所の具体的な地点を特定。川幅などの小さな川(支流)が大きな川(本流)に合流する地点と、その決壊箇所の関係を調べた。それによると、合流点から約1キロの範囲で支流の堤防が決壊していたのは、35カ所(28河川)だった。・・・本流側でも合流点近くの77カ所(38河川)の堤防が決壊した。・・・ 

 河川氾濫(はんらん)のメカニズムに詳しい早稲田大の関根正人教授(河川工学)によると、河川のなだらかさや橋が近くにあるかなどによって変わるが、合流点から約1キロ以内の決壊であれば、多くで「バックウォーター現象」が起きた可能性があるという。・・・昨年の西日本豪雨でも(この現象が)起きており、岡山県倉敷市真備町では、本流との合流点付近で支流の堤防が次々と決壊し、50人以上が犠牲になった。

・・・・ 関根教授は、「自治体は長い目で見て、合流点付近の危険性を踏まえた街づくりを検討した方がいい」と話している。』

**********************************************************************************

 鳥取市の新市庁舎は新袋川が千代川に合流する地点のすぐそばにあり、下の図に示すように新庁舎は合流点から1km以内の距離(合流点を川の中心線の交わる点とするのか、堤防が合体する点とするのかのいずれにせよ、この場合は両方とも1km以内)。

f:id:tottoriponta:20191109115136j:plain

 堤防の高さを上げて対策すればいいとの意見があるかもしれないが、堤防の強度を上げるためには、堤防の高さだけでなく幅も広げなければならない。川に隣接する市街地の土地を買収して堤防の幅を広げるためには巨額の資金が必要となるだろう。さらに、堤防の高さを上げるならば、それと同時に近くの千代川にかかっている三つの橋や鉄橋の高さも上げなければ意味がない。その費用は莫大な額となるだろう。国交省やJRが巨額の資金提供に簡単に同意するとは到底思えない。

 当ブログの11/1付の記事の中で触れた最近水害に見舞われた河原町や青谷町の場合も、いずれも浸水地区は二つの川の合流点のすぐそばであった。

 さて、市庁舎が水没し防災対策の拠点としての機能が失われた実例が、四年前の鬼怒川の氾濫により発生した常総市役所の浸水騒ぎでした。

「常総市役所の衝撃! 自治体の新築庁舎は本当に頼れる防災拠点か?」

 この記事によると、浸水被害の前年の11月末に完成した常総市の新市庁舎については、市自ら安全性の高い建物であることをうたい、「防災拠点としての高い耐震性の確保」を実現したと自慢していますが、地震以外の災害については想定外だったようです。実際、当時の常総市長は被災から4日後の14日、「(堤防が壊れる)『決壊』は想定していなかった。(洪水が起きても水が溢れるだけの)『越水』の想定だった」と語っていたとのこと。

 常総市がまとめた「平成27年常総市鬼怒川水害対応に関する検証報告書 」(PDFで128ページもある!)の中に掲載されていた氾濫範囲を下に示します。鬼怒川と小貝川にはさまれた市域であり、地形的に水害についても配慮するのが当然であるはずなのに、なぜか関係者の頭の中には地震対策のことしかなかったようです。

 

f:id:tottoriponta:20191109132633j:plain

 鳥取市の新市庁舎でも、位置条例可決後の2015年5月に公表した「みんなでつくる鳥取市庁舎の考え方」の「基本的な五つの考え方」のまず第一番目に「① 防災機能の強化」を上げています。

 その中で市は、

『防災対策の拠点は、災害発生時こそ機能しなければなりません。そのためには、地震に強い建物であるだけではなく、常設の災害対策本部会議室、途絶えることないライフライン設備、市民にしっかり情報を伝える通信設備、さらには屋外に十分な災害対策のための平面スペースが必要です。これら防災機能の強化は、「市民の命とくらし」を守ることを最優先に新たな施設の整備で実現します。』

 と述べています。常総市と同じような内容で水害のことは全く触れられていず、地震対策が中心の記述です。


 当「市民の会」ではこの新市庁舎で水害に対する備え等の安全性が考慮されていないことを問題視し、2016年9月に深沢市長あてに公開質問状を提出しました。その経過を当会サイトの2016/10/15記事に、また、市長回答の概要を一覧表にまとめておきました。なお、この市長回答の第一番目の内容は、実に「役人回答の典型例」であると感じたので、今後の参考のために、具体的なやり取りの内容を以下に示しておきましょう。

********************************************************************************************

【 当会からの質問 1】 現在立案中の 新庁舎設計案では、水害対策として庁舎基礎を1.2mかさ上げするとの事ですが、主要道路への接続路を水没しない高さまでかさ上げしなければ、この新庁舎は防災拠点としての用をなしません。市庁舎の周辺が水没した場合、周辺道路との連絡をどのようにして確保する予定なのか、詳細をお示しください。


【 市長回答】 国土交通省発表の洪水浸水想定区域図によると、千代川が氾濫した場合、主要道路・現本庁舎敷地・新本庁舎敷地を含めた中心市街地の多くの範囲で浸水が想定されており、その間の車両通行に支障が出る可能性があります。したがって、出水や水位の上昇が懸念される場合、災害対策要員となる職員はあらかじめ災害対策本部に待機することとしておりますし、状況に応じて危険箇所や避難所についてもあらかじめ職員を 派遣することなどにより、迅速な災害配備体制をとることとしています。

***********************************************************************************************

 皆さん、この回答をどう思いますか?

 市長は当会からの質問に全く答えていませんね。まさに、うわべだけは丁寧な言葉を使いながら、よく読めば、故意に質問内容を無視して人を小馬鹿にしているという態度が透けて見えます。以下、その理由。

① 当会が新市庁舎周辺に特定して水没する危険性を指摘しているのに対して、「国交省中心市街地全域が浸水すると想定」などと、勝手によその地区のことまで持ち出しておいて各地区における浸水程度の差を無視し、指摘内容を故意に無害化して回答。

② 当会が周辺道路が水没した場合にどう対処するのかについて質問しているのに、「職員をあらかじめ新市庁舎内に待機させることが対策」と回答。市庁舎内に職員が何百人いたところで、周辺道路の水没が止められるはずもない!(アホか!!) せめて、「水没したら防災倉庫からボートで救援物資を運び出す予定、そのためのボートを購入します」という程度の回答はしてほしかった。

 仮に、高校入試や大学入試にこのような質問が出題された場合、この市長回答のたぐいの回答を書いた受験生がいたら、採点者が「文章読解能力は全くゼロ」として不合格の烙印を下すことは必定。

 聞くところによると、最近の鳥取市の採用職員はみな高学歴者ぞろいとのこと。この回答も、市長が自分の周りにいる元々は優秀であったはずの職員に書かせたのでしょう。就職時には優秀と言われていた職員を、このように平気な顔で恥ずかしげもなくトンチンカンな回答を書かせるように育て上げるのが、現在の「鳥取市役所という名のシステム」であるらしい。市民からの質問に対して、うわべは誠実に見せかけながら実際の内容は皆無な回答が書ける能力、上部からの指示に沿うようにデータを操作してもっともらしく見せる能力、等々が高い職員ほど上に出世できるシステムが既に出来上がっているようです。

 さて、浸水の過去の事例に戻ります。堤防が破損しなくても川沿いの公共施設が水没した例もあります。当ブログの2015/09/17付の記事の中の豊岡市の公立豊岡病院水没の事例を以下に示します。この病院は浸水被害の翌年に西側の丘の上に移転しています。

豊岡・円山川破堤

 破堤という言葉が使われていますが、これも先回の11/1の記事に載せた市内面影地区の事例と同様に「内水氾濫」によるものです。川沿いの地下水位が高い場所では、堤防が壊れていなくても地域内に降った雨が集中し車が水没する危険性があります。このような過去の水害事例、川沿いに公共施設をつくることがいかに水害に対しては無防備であるかは、ネットを通じて容易に情報検索できるようになった今日、調べる気さえあればいくらでもデータを入手できたはず。

 鳥取市の新市庁舎の現在の位置の決定に当たっては過去約十年間にわたっていくつもの専門家を含んだ委員会が存在しましたが、それらの委員会を常に主導してきたのは土木工学が専門のかっては鳥大学長でもあった鳥大名誉教授の先生でした。この先生は、残念ながら、建物を建てることについては詳しくても、その建てる場所の安全性については無知だったようです。

 約100億円をかけて新築した鳥取市新庁舎が、今後、もし万一、常総市新庁舎と同様に水没することになったら、当初は全国から同情と支援を受けることでしょう。

 しかし、

「①この新庁舎が日本史上で初めて、市民による住民投票結果を市長がひっくり返して建設が強行されたこと」、

「②当初の予定建設費が市長によってどんどんと吊り上げられて、結果的に約100億円の国民・市民の税金を投入することとなったこと」。そして、

「③水害に対しては比較的安全であった旧庁舎から、わざわざより危険性の高い千代川沿いを選んで移転したこと」

を全国が知ったならば、同情は一転して、侮蔑・軽蔑へと変わることでしょう。「自業自得」との言葉も聞こえてきそうです。

 その時に赤っ恥をかくのは、前市長、現市長、移転に賛成した議員だけにはとどまらず、この地を選定した「専門家」の先生方も同様の評価を受けることとなるでしょう。

/P太拝