「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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新型肺炎に思う、これからの中国

  以前、中国で一緒に働いていた知人が、現在は華北の某市に住んでいます。連日の報道にだんだん心配になり、先週メールで現地の状況を問い合わせてみました。帰ってきた返事は「マスク不足でほとんど外出できなくなってしまい、実に困っている」とのこと。

 わずかでも送ってあげれば助けになるかと思い、さっそく鳥取市内のドラッグストアやスーパーを数軒回ってみました。しかし、どこに行っても、本当にマスクがない!どこの店でも、マスク売り場だけがほぼ空っぽという異常な状態。数個だけ棚においてある店もあったが、その横には「一家族につき一個だけ販売します」との張り紙。これではどうしようもない。

 家に帰って家族に話したら、「先月から既にマスク不足、世間知らず。」と笑われました。これだけマスク不足が深刻だとは思わなかった。もしも、これから日本でも感染が広まってしまったら、我々もマスク不足で苦しむことになりかねない。

 そんなこんなで心配になり、今回の新型肺炎の蔓延状況について改めて調べてみました。

・死亡率 「新型ウイルス、全国の死亡率は2.1%、 武漢は4.9% 中国衛生当局」

 「2/4の時点で、死者は湖北省に集中していて全国の97%を占め、湖北省の確定感染者の死亡率は3.1%。武漢市の死者数は全国の74%を占め、武漢市の死亡率は4.9%」。対して「湖北省を除くその他地域の死亡率は0.16%」とのこと。

 武漢市の死亡率が異常に高いのは、既に感染してしまった膨大な患者数に対して医療体制が全く追い付いていず、実質的に医療現場が崩壊してしまっているためと推測されます。発生患者数が少ない湖北省以外の中国国内では、従来の医療体制で対応できるために症状が悪化する例は極く少ないようです。

 

・日本国内での蔓延の危険性について

 医療当事者による最近の記事を以下に三件紹介しておきます。上に述べた「湖北省以外の中国国内」と同様に、患者の発生が単発的であれば現在の日本の医療体制で十分に対応できるので、それほど恐れる必要はないとのこと。用心するに越したことはありませんが、健康な人に関しては通常のインフルエンザよりも少し危険度が上がるという程度のようです。ただし、免疫力が低下している高齢者、および持病を持っている人に関しては、十分に注意する必要があります。

「新型コロナウイルス、メディアは危険性を強調しすぎ? 専門家「日本の感染拡大予防策はおおむね成功」」

「新型コロナウイルス感染症 実際に診た医師の印象」

「ワクチンも治療法もない新型肺炎。一般人ができる最大の「防衛策」は?」

 
 さて、この新型肺炎騒動は今後の中国に対してどのような影響を与えるのでしょうか。経済的な影響については連日のように報道されているので、あらためてここに書くまでもなく、以下、社会的な側面について考えてみたいと思います。

 そもそも、武漢でこれほどまでに感染が広がった原因が、湖北省武漢市の幹部に蔓延している「上部からの指示待ち」体質にあることは明らかです。

「新型肺炎は人災、「習近平に追従」で出世の弊害露呈 」

 上ばかり見上げては上司からの評価に一喜一憂し、人民の困窮に目をそらして彼らから取り上げた税金に寄生しているだけの「ヒラメ官僚」や「カレイ小役人」の増加はなにも湖北省だけに限ったことではないらしい。政治体制がトップダウンになればなるほどに、この種の役人が増えていくのは間違いない。中国に限った話ではなくて、長期政権が続く日本でも同様に隠蔽官僚が増えていることは、日々の新聞の紙面を見ればすぐに判ることだ。

 ただし、日本の役人の隠蔽体質がまだ中国ほどにはひどくないのは、日本社会の意思決定プロセスが主としてボトムアップによっているためだろう。組織の中に気骨ある人間が存在する場合には、部下であっても上層部に対して上からの方針と異なる対案を逆提案することもおおむね許されている。日本社会の弱点は、むしろ、組織の上層部があまりにもリーダーシップを取りたがらないという点にあると思う。

 先月末から一連の新型肺炎に関する記事を読んだり見たりしていて、筆者が注目したのは一週間ほど前に見たTBS系列のテレビ報道でした。武漢市内の医療スタッフが出勤の交通手段の確保ができずに困っている中、ボランティアの青年が無償で自分の車を運転してスタッフを病院まで送り届けていました。市政府があてにならないので、自分たちで自主的に行動する姿勢が生まれつつある。

 このようなボランティアの登場は、2008年の四川大震災の辺りから目立つようになってきています。無能で隠蔽体質の役人を批判していても一向にラチがあかないので、自ら行動して社会を良くしていこうという積極的な市民が増えているようです。

 もう一つ注目した記事は、ボランティアの登場とは対照的な、復古的な動きについてのものです。

「新型肺炎ショックが、中国共産党の「致命的弱体化」をさらけ出した」

 中国の伝統的な統治体制では、科挙中央政府に採用された役人は全国各地を転々と異動するのですが、彼らの統治は県レベルよりも上の領域にとどまり、県を構成する数多くの農村集落内の統治はそれぞれの集落の自治に任されていました。集落は主として父系を同じくする宗族ごとに構成されており、現在でも「李家村」(李家の村)とか「王家村」(王家の村)というような集落名が至るところに残っています。

 中央政府の法律は集落内までは及ばず、現代でも中国人が国の法律を軽視する傾向にあるのは、この伝統が影響しているようです。また、中国人の、いったん人間関係ができた人に対しては非常に手厚くもてなすが、無関係な人に対しては極めて冷淡な傾向があるというのも、この宗族意識の延長線上にあるのではないかと思います。「国家は税金を取り立てるだけで、結局はあてにはならない。本当に頼りになるのは、親戚をはじめとする身内だけ。」というのが中国人の本音でしょう。

 この宗族を基本とする集落自治体制は、1949年の共産党政権の成立後に徐々に解体され、1966年から始まった文化大革命で個人が直接共産党に結び付くことを強制されたことにより、いったんは完全消滅したかのように見えました。しかし、結局、共産党は宗族に代わる新たな中国社会の紐帯とはなりえなかったようです。今世紀に入ってからの中国共産党による法輪功への大弾圧、最近の無認可キリスト教会に対する大規模な打ちこわしなどは、国民相互を結びつける社会の紐帯としての宗教団体の台頭を中国共産党が何よりも恐れていることの裏返しです。

 話は脱線しますが、華南の工場で働いていたころ、休日に市内の仏教寺院を訪問したことがありました。意外に思ったのは、参拝者の多くが若い世代であり年配者が少なかったことでした。若い世代ほど精神的にすがる何かを求めているように見えました。ちなみに、お寺の壁には「中国仏教界は、中国共産党の全面的な指導の下に活動しています」というような意味の文章が大きく掲げられていました。

 今回の新型肺炎騒動がなかなか収束しない場合、あるいはこれがきっかけで中国経済が大幅に落ち込んだ場合、習近平体制の信頼の失墜は当然予想されることです。国民に選挙で信任されていない中国共産党がその独裁的統治の正当性の根拠としているのは、かっては「侵略者の日本軍を追い出した」ことでしたが、現在では「順調な経済発展により国民をみな豊かにするという政府の約束と、それに対する国民からの期待」にしかありません。いったん経済が落ち込めば、「かっての宗族集団や地域小集団の方が、共産党よりも頼りになる」という意識が生まれかねません。

 昔の貧困な中国を知っていて「中国の急速な経済発展は共産党の指導のおかげ」と考える傾向が強い文革経験世代は既に中国国民の半分以下となり、順調な経済発展の時代しか知らない四十才台以下が国民の過半数となっています。経済のつまづきが中国政治の大転換に直結することは大いにありうることです。

 中国経済の動向は各都市の不動産価格の動向を見るのが判りやすいと思います。中国人が日本に来て爆買いができるのも不動産価格の高騰があればこそです。現在の大都市のマンション価格は既にかっての日本のバブル期以上と言ってよく、中央政府は不動産価格の急落を必死になって食い止めようとするでしょうが、今回の肺炎騒動をきっかけにいつ暴落が始まってももおかしくない。中国経済がパニック化すれば日本経済に与える影響も深刻でしょう。今後の中国の地価動向に要注目です。

/P太拝