「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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アベノミクスの成果とはいったい何だったのか(1) -求人倍率は本当に上がったのか?-

 過去数年間、鳥取市政を観察していて判ったことがある。与党議員は、与党に属していること自体に大きな意義と利益とを見出しているということだ。与党である限りは行政側の情報を野党よりもいち早く入手できる。同じ与党である首長を介して市職員に個別に圧力をかけることも、その気にさえなれば十分可能だろう。次回の選挙で再選するためには、予算権限を持つ行政と一体になって動くことが何よりも大事。与党の綱領や政策などははっきり言ってどうでもよい。要するに、議員は与党に属してさえいれば何かと得なのである。

 この構造は国政でも変わらないらしい。単なる文言に過ぎない政治信条よりも、与党で居続けることの方が何よりも大事という議員が与党の大半を占めているように見える。党是であったはずの池田大作氏の平和主義に反してまでも、「ぬれ落ち葉」とか「下駄の歯の雪」と揶揄されながらも自民党にしがみつき続けている公明党がその典型例だろう。

 民主党が政権を取った際には自民党から民主に鞍替えする議員が続出した。自民党が政権を奪還してからは、反対に旧民主党から自民へと引っ越す議員がポロポロとさみだれのようにいまだに続いている。このような議員体質を見れば、菅氏有利と見たとたんに各派閥が一気に菅支持へと雪崩を打ったのも当然の現象だろう。

 菅氏が「安倍政権の継承」を明言したからには、自分たちの既得権益や縄張りは従来通りに保護される。改革を唱える候補が勝てば、かえって自分が損をする可能性も出て来るかもしれない。早く勝ち馬に乗れば、その分、後でおいしいポストにつけるはず。後は、先を争って新総理に対する忠誠心を表明するだけのこと。

 こんなことばかりを繰り返して重要な政策転換をいつまでも先送りしているうちに、日本人全員がユデガエルになってしまうのではないかと危惧する人は、筆者以外にもたくさんいると思うのだが・・・。

 本日、自民党総裁選が行われるが既に勝敗は決定済。もはや各候補の主張を載せた記事をいちいち読む気にもなれない。総理の辞任表明の際には「やっと終わった」といったんは喜んだのだが、総裁就任間違いないとされる後継者が「安倍政権の継承」をうたっているようでは、いままでの流れが大きくは変わらないことは確実だろう。

 特に言えることは、政権からの情報発信がますます隠ぺい化の度合いを深めるだろうということ。記者会見で「菅官房長官の天敵」と言われた東京新聞の望月記者がそのように指摘している。フジ産経と読売の御用新聞化はますます露骨になるだろう。突っ込み処が多かった安倍政権とは異なり、菅政権では表面的な整合性は整えられるものの、情報隠蔽度と陰湿度はさらに増すことになりそうである。モリカケ・サクラ問題についても、全容解明はますます困難となりそうだ。

「菅首相誕生で政権とメディアの関係はどうなる」

 次の記事も参考になる。人事面で官僚に圧力をかけることで自分の思い通りに操るという点については菅氏は非常に優秀なようだが、それが国民のためではなく、もっぱら自分への権力集中を強化することに使われているように見えるのが哀しい。昨日の報道にも「菅氏は内閣人事局を維持する意向」とあった。官僚による総理へのへつらいと忖度とが今まで以上に強まることになるだろう。
 また、ふるさと納税制度が富裕層への優遇策であることは明白であり、菅氏がとりわけ熱心であったIR誘致も米国巨大企業への日本市場の提供であることは明らかだ。今後の菅政権では「格差是正」は選挙対策向けのスローガンにとどまり、日本国内は日米の大企業の草刈り場と化して「国内の格差の拡大」が実質的に加速する可能性は高い。

「菅官房長官に意見して“左遷”された元総務官僚が実名告発 -「役人を押さえつけることがリーダーシップと思っている」-」

 総裁選での勝敗は既に決定済で各候補の比較記事も最近は冴えないが、少し前の記事で面白いと思ったものも紹介しておこう。筆者の古谷経衡氏はパニック障害の病歴がある元ネトウヨと自称しており、ネトウヨからの距離感に基づいて各候補を採点している。石破氏が最高点の5点で小泉進次郎が0点というのも面白い。ただし、ネトウヨが最も嫌っているのが石破氏であるという古谷氏の主張が正しいのかどうかについてはよく判らない(筆者は、ネトウヨの主張内容などはほとんど読む気がしないので・・)。

「ふるさと納税、カジノ推進、辺野古移設…本当は地方重視の「真逆」 菅義偉の評価は「星1.5」 -ポスト安倍を辛口採点-」

 菅氏自身の経歴については、約一年前にジャーナリストの戸坂弘毅氏が書いた次の記事があるのでそちらを参照されたい。これを読む限りでは、菅政権は来年秋の自民党総裁選までのつなぎで終わる可能性が高いように思う。

「次期首相に最も近い男・菅官房長官、哀しいまでの「中身のなさ」-腕力はあるが、志はない-」

 さて、メディアの提供する記事をまとめて紹介ばかりしているだけでは本ブログの存在価値は乏しいので、筆者が集計したデータも示しておこう。菅氏は「アベノミクスの継承」を主張しているが、アベノミクスの成果とはいったいなんだったのか。総理が交代する今の時点でいったん振り返ってみたい。

 各種世論調査によると、安倍内閣の強固な支持層は二十代から三十代にかけての若年層とのこと。支持の主な理由は、安倍内閣発足以来、求人倍率が上がって現在の四十代が経験したような「就職氷河期」から脱したこと、さらに若者に多い嫌韓層にアピールすべく韓国に対して強い態度を取り続けたことにあるようだ。

 後者の理由については、中韓叩きで読者を引き付ける以外にはもはや経営選択肢を持てないフジ産経グループと同様の手法だが、安倍内閣では韓国は叩いても、「中国という巨大な虎の尾」を踏むことについては慎重に避けている点が異なる。いずれにしても、経営不振の新聞社や米国史上最も愚かな大統領であるトランプ政権の真似をして、特定の国や民族への敵視をことさら強調することで支持率を稼ごうとする手法は、まともな政権が取るやり方とは到底思えない。

 さて、若者層が安倍内閣を支持する理由のひとつとされる「求人倍率の増加」について実際のデータを調べてみた。グラフを以下に示す。なお、これらのデータは以下のサイトから引用した。

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0301.html
https://www.works-i.com/surveys/adoption/graduate.html

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 求人倍率の推移を見ると、大きなピークは、①バブル崩壊直前の1990年、②リーマンショック直前の2007~2008年、③コロナショック(?)直前の2019年、の三か所である(③については2020年の求人倍率が低下することは既に確定的。)「就職氷河期」と言われた2000年前後は、確かに、求人倍率が過去45年間の最低値となっている。

 大学新卒は正規職が大半であり、一般求人は正規と非正規の全ての職種形態が対象のはず。安倍内閣になってから大学新卒に対する求人倍率が改善したと思い込んでいる若年層が多いようだが、実態は未だに2007~2008年の求人倍率には届いていないのである。

 一般求人倍率については、最近は既にリーマンショック前のピークを越えて改善が続いてきたが、これは非正規職に対する求人が大幅に増えてきたことを反映しているものと推測される。安倍内閣の七年間で雇用率は改善したものの、賃金格差はむしろ拡大しているはずだ。

 さて、最近の求人倍率の改善理由の第一に挙げられるのは、何と言っても国内労働人口の急速な減少であろう。上の図に赤い点線で生産年齢人口の増減率を示しているが(元のデータが五年おきなのでそれを反映)、改めて過去の生産年齢人口の推移を下に示しておこう。

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 1995年をピークに、以降は急速な減少傾向が続いている。既にビーク時に比べて約16%も減少している。特に2010~2015年にかけて大きく落ち込んでいるが、これは1950年以前に生まれた「段階の世代」が60歳を超えたためである。ちょうどこの労働人口の急減期とリーマンショックからの回復期が、運よく安倍内閣の前半と重なったために、「アベノミクスで雇用が改善した」という誤解が生じたものと思われる。

 実際には、リーマンショック等の外部からの影響はあったものの、2000年以降は労働人口の減少に反比例して求人倍率は基本的に右肩上がりなのである。要するに、仮に安倍晋三氏以外の人物が総理であったとしても、仮に民主党政権が2013年以降も今までずっと続いていたとしても、求人倍率という指標に関しては過去の十年間と同様に上昇し続けていた可能性は極めて高い。

 日本の生産年齢人口は今後も急速な減少が続き、2050年あたりまでは年率1.0~1.5%で減っていくものと予測されている(2012年の政府予測による)。雇用面では今後も「人手不足」が続くとはいうものの、日本の今の経済規模を維持し続けるだけでも大変な課題となることは間違いないだろう。

 多くのマスコミが政府の広報機関と化しつつある現状の中では、政府が提供するプロパガンタやフェイクニュースを信じ込まないためには、自分自身で事実を確認するしかない。幸い、ネット上で多くの公的データが公開されるようになってきたので、自分でデータをまとめたうえで考えることも可能となった。皆様にも、是非、マスコミ報道のみで判断するのではなく、自分自身による検証を試みられることをお勧めしたい。

/P太拝