「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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アベノミクスとはいったい何だったのか(2) -賃金、世帯収入、消費の推移-

 河井克行元法相は自身の裁判で弁護団を一括解任、その後に同じ弁護士を再び採用するなど、明らかな裁判遅延行為を繰り返している。これは、なるべく裁判を長引かせて議員歳費をできるだけ多く手に入れようとするためという見方が一般的である。

「「なんで検察官の方を向くんだ!」威圧に号泣 河井克行・案里被告の裁判は“無法地帯”」

 今年の夏には、河井夫妻は獄中にいながらにして多額の夏のボーナスを受け取っている。

「河井夫妻にも夏の「ボーナス」、2人で638万円 野党は「議員辞職を」と批判」

 現在獄中にいる国会議員としてはもう一人、IR事業にからんで中国企業から多額の賄賂を受け取った容疑で逮捕された自民党秋元司衆院議員がいる。この議員に支払われ続けている歳費は年間で四千万円以上になるそうだ。同議員の公設秘書等に支払われる金額も含めれば、年間で七千万円を超える税金が犯罪者の可能性が極めて高い人物とその周辺に支払われ続けていることになる。河井克行河井案里がそれぞれ受け取っている税金もこれとほぼ同額だろう。

「秋元司容疑者再逮捕されても議員辞職せず “無駄な給料”がいくら払われ続けるのか」

 調べてみると、逮捕された国会議員に対する歳費凍結法案は、既に2003年に当時の民主党によって国会に提出されたが不成立に終わっている。日本学術会議に支払っている税金10億円で大騒ぎするよりも、かくも愚劣、かつ我利我利亡者に過ぎない逮捕議員三名に支払っている無駄な税金を凍結する方を優先すべきであろう。ちなみに、河井克行は以前から菅総理の側近としてよく知られており、秋元司は二階派の所属である。

 さて、前置きが長くなったが、今回の本題はアベノミクスの評価の続きである(第一回目は当ブログの9/14付の記事)。菅内閣発足早々に日本学術会議の任命拒否事件が起こったため、そちらの方に時間を費やしてしまった。

 我々の個々の生活にとって最重要事項といってよい収入と消費の安倍政権下での推移について調べてみよう。いくつかの記事を読んだ中では、次の岩崎氏の記事が最もデータ面で充実していたので、その内容を紹介したい。

「貧困層とお金持ち 「アベノミクス恩恵」の大格差 -「格差が拡大した」との通説をデータで検証する-」

 

(1)実質賃金は下落、世帯収入は増加、株価と企業利益は急上昇

 記事中のデータの概要は以下のようになる。重要と思われる部分を赤字で示した。各々、安倍政権下の七年間(2012~2019年)の各収入指標の変化について。一部のデータは六年間について。なお、それぞれに調査機関と調査方法が異なるので、例えば④と⑤の給与増加率の間には若干の差がある。

 

①個人の賃金 実質賃金(名目賃金から物価上昇の影響を差し引いたもの)
 7年間で105.3 → 99.6 (2015年を100とする) と5.7ポイントの低下

 ②世帯の収入 世帯当たりの実収入(家族の名目賃金の合計)
 2012年……51万8506円(月額平均)→ 2019年……58万6149円(同)と約6万8千円、13.0%の増加。

 ③世帯の可処分所得 可処分所得(実収入から税金・各種社会保険料を除いた残り)
 2012年……42万5005円(月額平均)→ 2019年……47万6645円(同)と約5.2万円、12.2%の増加。

 ④平均給与(年間)
 2012年……408万円 → 2018年……440万7000円(男545万円、女293万1000円)と32.7万円、8.0%の増加。

 ⑤正規雇用者と非正規雇用者の平均給与(年間) 
 「正規雇用者」 2012年……467.6万円 → 2018年……503.5万円 と35.9万円、7.7%の増加。
 「非正規雇用者」2012年……168.0万円 → 2018年……179.0万円 と11.0万円、6.5%の増加。
正規と非正規の給与格差は、299.6万円から324.5万円へと、24.9万円、8.3%の増加。

 ⑥相対的貧困率(世帯の可処分所得が、全世帯の中央値の半分に満たない世帯の割合)
 2012年…16.1% → 2015年…15.7% → 2018年…15.4% とほぼ横ばい。
なお、子供の貧困率は、2012年=16.3% → 2015年=13.9% → 2018年=13.5% と若干改善。

 ⑦企業の経常利益(税引き前利益) 
 2013年……59兆6381億円(全産業)→ 2018年……83兆9177億円(同)と約24.3兆円、40.7%の増加。

 ⑧企業の人件費
 2013年=196兆円 → 2018年=208兆円と12兆円、6.1%の増加。

 ⑨家計支出(2人以上の世帯当たり) 
 2012年……343万4026円 → 2019年……352万0547円 と8.7万円、2.5%の増加。

 このうち、基礎的支出(食品や家賃、光熱費、保険医療といった生活に欠かせない支出)
2012年……190万4710円 → 2019年……200万2085円 と、約9.7万円、5.1%の増加。

 選択的支出(生活に直接必要ではない贅沢品、教養娯楽費等の支出)
2012年……152万9317円 → 2019年……151万8463円 と、約1.1万円、0.7%の減少。

 ⑩日経平均株価 
 2012年12月25日……1万0080円 → 2020年8月28日……2万2882円  約1.28万円、127%、2.3培もの急増

 ⑪首都圏マンション平均価格  
 2012年……4540万円 → 2019年……5980万円 と1440万円、31.7%の増加。
なお、その他の住宅地、戸建て住宅等の平均価格は、おおむね横ばい。地方では下落傾向が続く。

 ⑫国民負担率 =(租税負担率+社会保障負担率)/国民所得

 2012年……39.7% → 2020年……44.6%(見込み) と4.9%の上昇。消費税増税社会保障費増加で負担が大きく増加した。

 

 なお、上の①を除いて、②~⑤、⑨、⑪については名目賃金、名目価格での表示なので、これらを実質賃金、実質価格に修正するためには、この間の物価上昇分を差し引かねばならない。消費者物価の変化は次のようになる

消費者物価(総合) 2012年 96.2 → 2019年 101.8 (2015年を100とする)  七年間で5.6ポイントの増加。

「政府統計の総合窓口 -統計で見る日本-」

 この物価上昇分を差し引くと、④の平均給与、⑤の雇用者報酬は六年間でわずかに1~3%程度の伸びでしかない。特に、⑨の家計支出については、増加どころかマイナス3.1%の減少である。これでは、多くの国民が「生活が苦しくなった」と感じるのも当然のことだろう。

 

(2)妻の「外助の功」で世帯収入を維持

上のデータによると、①個人賃金は減少。その一方で、②世帯収入と③可処分所得は増加と矛盾する結果となっている。その理由を大和総研の研究員による次の記事で知ることができる。

「賃金上がってると主張するアベノミクスの実態——それは専業主婦世帯の減少だった」


この記事では、夫婦共に30~34才で子供二人の四人世帯を例として、2012年から2018年にかけてのデータの推移をまとめている。この間の可処分所得の変化を示す図を下に転載した。

 左から、「(a)妻が正社員」、「(b)妻が専業主婦」、「(c)妻がパート」の三種類に分類。2012年から2018年の六年間で、(a)36→43%、(b)34→25%、(c)29→31%と変化している。要するに、今まで専業主婦であった妻のかなりの部分が外に働きに出るようになったのである。世帯平均としての収入と可処分所得の増加は、妻が働く世帯が大きく増加したことで全体としての平均値も上昇したことによるものであろう。

 一方で世帯の可処分所得については、(a),(b),(c)のいずれの種類においても若干減っている。自由に使えるおカネは一向に増えず、むしろ減少しているのである。

 

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 上の例は若い世代のみの世帯のケースであるが、一般世帯でも定年を過ぎた高齢者が働き続けている例は相当増えているはずだ。(1)の②世帯収入、③世帯可処分所得が増えている理由は、従来は働いていなかった妻と高齢者が続々と働き始めていることによるのだろう。家族総動員で忙しく働くことでやっと生計を維持しているのが、アベノミクスの七年間の家計の実情なのである。

   以上の結果をまとめてみると、アベノミクスは株を持っている高額所得者や企業(特に大企業)を大いに潤したが、一般世帯の家計への恩恵は少なかったことが明らかである。特に、税や社会保障費の負担増のために、主婦や高齢者までもが働きに出なければ家計を維持できなくなっている構造が浮かび上がってくる。日本人の大半はアベノミクスの七年間を経てより忙しくなり、生活上の時間的余裕がなくなってきたのである。

 全体として言えば、アベノミクスは大企業の関係者については大いに恩恵を施したが、大企業の雇用者数は、自営業も含めた日本全体の就業者約6200万人の約二割でしかない。残りの八割がアベノミクスで特に恩恵を受けることは無かった。それどころか、破綻した中小零細業者から放出された大量の労働者が、安価な非正規労働者として、現在、続々と大企業の傘下に吸収され続けているのである。

 菅内閣安倍内閣の 路線を全面的に受け継ぐと表明しているので、上に述べた格差拡大傾向が今後も続くことは間違いない。今までと異なるのは今回のコロナ禍の影響であり、今後、大企業も含めた全就業者・全世帯の平均収入が一時的にせよ大きく低下することは避けられない。

 既に、「「GO TO トラベル」で業績が上向き始めたのは高級旅館・ホテルとJTB等の大手旅行代理店だけ、中小零細の旅館・ホテルや代理店は、もはやつぶれる寸前!」との報道が目立つようになってきた。大企業とそれに癒着した政治家による「コロナ禍に乗じた税金の火事場泥棒」の典型例であろう。

 つぶれた中小零細企業の従業員は、その多くが非正規職としてより大きな規模の企業に吸収されることになるだろう。菅内閣の下で今まで以上に格差が拡大しないように、今後の同内閣の政策の行方を注意深く見守りたいものである。

/P太拝