「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

当ブログの内容は編集者個人の見解であり、「市民の会」の公式見解ではありません。当ブログへのリンク、記事内容の引用等はご自由に!

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(1)  -水害への影響-

鳥取市南西部の中山間地で現在事業計画が進行中の「鳥取風力発電事業」。国内で最大級の陸上風力発電事業が突然降ってわいたかのようになぜ持ち上がったのか、そして、この事業が抱えている問題点とはいったい何なのかを調べてみたいと思います。今後数回に分けて問題点を検証していく予定です。

まずは、この計画の概要の紹介、さらに防災面、特に水害の危険性について調べてみました。

(1)事業計画の概要

事業計画地域を下の図-1に示します。赤い線が風車の設置予定地、それを含む黒い線で囲んだ地域が事業の実施区域。この区域から飛び出している細く折れ曲がった二重線は、主要道路からこの実施区域に接続する林道や広域農道を示しています。青い線は各谷の中を流れる主要河川です。

赤い線の上に建てる風車は、4500kW出力という国内では前例が無いほどの超大型風力発電機であり、全部で32本を設置。予定している最大出力が144MWという、陸上の風力発電としては現在国内で最大規模の事業計画です。なお、この事業者の事業計画については、次のサイトの「(仮称)鳥取風力発電事業 環境影響評価方法書」から確認することができます。

「VENA ENERGY  2018年アーカイブ」

 

(図-1)鳥取風力発電事業計画地域

f:id:tottoriponta:20210217091958j:plain

この4500kW出力の風車、羽根の直径が約130m、羽根の中心位置の高さ約85m、羽根の先端の最高高さは約150mと非常に巨大なものです。日常生活における実際の感覚としては、いったいどのような感じに見えるのでしょうか?

鳥取市の象徴であり市民が日頃から慣れ親しんでいる久松山の山頂にこの風車を仮に建た場合を想像してみれば、その巨大さが実感できるでしょう。下にその予想図を示します。とりぎん文化会館の裏の駐車場から県庁第二庁舎、県警本部、久松山を見上げる角度で2021年2月に撮影した写真に、予定されている寸法の風車を重ねて合成しました。この写真の撮影位置から久松山山頂までの距離は地図上の水平距離にして1060m、県庁第二庁舎の中央部までの距離は218mです。


(図-2)久松山山頂に高さ150mの巨大風車を建ててみたら・・・

f:id:tottoriponta:20210217092332j:plain

この風車の高さ150mは標高263mの久松山の約六割弱。この予想図の左側に見える九階建ての県庁第二庁舎の高さは約30m(右端の塔部を除く)と推定され、この第二庁舎を五つ積み重ねてようやく高さ150mの風車単体の羽根のてっぺんに届くという実に巨大な風車です。谷底から毎日こんなものを見上げながらの生活は、実に憂鬱なものとなるでしょう。

事業予定地域内、及びその近接地域に住んでいる鳥取市民の数を下の表-1に示します。市の公式サイトから2020年12月末時点の住民登録者数を抜粋したものです。風車予定地から2~3km以内の集落の人口、合計で約三千人強の市民が風車の直接の影響を受けることになるものと予想されます。

(表-1) 

f:id:tottoriponta:20210217095813j:plain

予定地域内には三本の谷があり、それぞれに沿って明治(細見地区を含む)、東郷、神戸の三地区があります。予定地域に隣接する地区としては河原町西郷地区、長柄川(湖山川上流部)が流れる吉岡地区上流部、鹿野町末用(すえもち)川の上流部があります。

予定地域内の山の標高は200~700mの程度。各集落の標高は50~200mの範囲であり、この事業計画が実現すれば、上の図-2に示した久松山予想図とよく似た風景が各地に出現することになります。

明治谷住民のみなさんは、谷の東西に沿って二列に林立する巨大風車に挟まれて生活することになります。岩坪地区に至っては、集落の周り三か所に立つ風車に囲まれた生活となります。

次回以降にあらためて述べる予定ですが、風車から発生する超低周波騒音による健康被害が全国各地で数多く報告されています。風車による集落振興どころか、村の住民がみな逃げ出してしまって廃村に至る可能性が高いように思います。

この事業を推進しているのはシンガポールに本社がある海外資本の企業(後述)ですが、このように数千人の住民が昔から住んでいる地区にあえて巨大風車を林立しようとする動機は、この地域内に中国電力の高圧送電線が通っているからにほかなりません。既存の高圧線に接続するためのインフラ整備は発電事業者自身の負担になるので、なるべく自分たちの投資負担が少ない地域を選んだ結果、この事業計画が立案されたものと推測します。

さらに、この地域内には各谷を連結する尾根越えの林道や広域農道が数多く走っており、風車を建設する尾根筋までの部材や設備の運搬が容易であるという点も、この地域が選ばれた大きな理由でしょう。事業者がより多くの経済的利益を得ることだけを目的とした事業計画であり、計画の初期の段階から地域住民の存在が一貫して無視され続けていることは明らかです。

 

(2)野坂川の氾濫の可能性

(2-1)2018年9月、台風24号通過時の野坂川の水位

今から約二年半前の2018年9月30日の夜、台風24号が和歌山県に上陸。この台風に向かって吹いた日本海からの水蒸気を多量に含む北西風が中国山地にぶつかることで、鳥取県内でもかなり大量の雨が降りました。鷲峰山-高山-高鉢山からなる西因幡山地の麓にある旧気高郡内の降水量が特に多く、青谷町下善田では近くの川の氾濫で介護施設が床上浸水、その高さは人の胸までが水につかるほどであったと報道されました。

「平成30年台風第24号に関わる災害(第8報) 鳥取県」

この日の夜、野坂川でも氾濫の寸前までいっていましたが、その事実はほとんど知られていません。翌日の10/1の朝、徳吉付近の野坂川で筆者が撮影した写真を下に示します。場所はカインズホームの少し西側にある徳尾大橋の北側。濁流が堤防を越えるまでには、目分量であと1.5mほどでした。

(図-3)2018年10/1朝 野坂川徳

f:id:tottoriponta:20210217094152j:plain

(図-4)2018年10/1朝 野坂川徳

f:id:tottoriponta:20210217094017j:plain


9/30に鳥取市内の各地に出された避難勧告と避難指示、アメダス雨量、野坂川と千代川水位計データなどを、以下に時系列で示します。野坂川に関する項目を赤字でし召します。なお、避難指示、及び避難勧告の項目中の数字は指示・勧告対象者の人数を示しています。

17:47 青谷町西町、駅前、吉川に「避難指示」  864
18:08 青谷町下善田に「避難指示」       24
18:24 野坂川徳尾の国交省水位計が「避難判断水位」3.7mを突破。
18:47 青谷町東町に「避難指示」        75
19:00 青谷、鹿野町河内、佐治町加瀬木のアメダスの一時間雨量が一斉にピーク値に到達。各々のピーク値は、順に 44, 41, 21(mm/h)。以降の雨量は急速に減少し、22hには三か所ともに一時間雨量が5mm/h以下となる。
19:38 鹿野町小別所、鷲峰、河内に「避難勧告」 496
19:24 野坂川徳尾の国交省水位計が「氾濫危険水位」4.3mを突破。
20:10 気高町逢坂地区に「避難勧告」      1,009
20:12 徳尾、徳吉、緑ヶ丘1,2丁目、南安長1,2丁目に「避難勧告」 6,247
20:44 鹿野町寺内、宮方、中園、岡木、乙亥正に「避難勧告」 527
20:47 福部町細川(駅前地区)に「避難勧告」  294
20:54 野坂川徳尾の国交省水位計がこの日のピーク値 4.96mを記録。
22:00 千代川行徳の国交省水位計がこの日のピーク値 4.15mを記録。なお同地の「避難判断水位」は5.9m、「氾濫危険水位」は6.7m。

野坂川よりも海側に位置する徳尾、徳吉、緑ヶ丘、南安長の対象者合計が六千人以上と突出して多いことが目を引きます。なお、この点については当ブログの記事で既に指摘済ですが、野坂川の水位が「避難判断水位」を超えてから1時間48分、「氾濫危険水位」を超えて48分も経ってからようやく「避難勧告」を出した当時の鳥取市の対応にもかなり問題があると思います。

この台風24号による降雨量は旧気高郡地域で多く、八頭郡内ではそれほどではありませんでした。9/30の県東部各地のアメダスの一日の全降雨量(mm)は、鹿野町河内 321.5、青谷 241、佐治町加瀬木205.5、鳥取 124.5、智頭 129、若桜 103.5、岩井 122、湖山 136.5 でした。

同じ年の2018年7月には、全国で263名の死者、倉敷市真備町だけでもそのうちの51名もの死者を出した「七月豪雨」が発生しました。この「七月豪雨」の際に、河原町内の千代川の水位があと10cmを残して堤防と同じ高さに達する寸前であったことは当時の新聞各紙の報道等でよく知られています。当時の県東部各地の雨量は、連続で大雨が続いた7/5~7/7の三日間だけでも、智頭 476.5 、佐治 450.5、鹿野 368.5、若桜 391、鳥取 308 を記録しました。

この七月豪雨の際、千代川行徳の国交省水位計は、7/7の 01:20にピーク値6.03mまで到達し「避難判断水位」の5.9mを超えました。

仮に、9/30にも智頭や若桜方面で七月豪雨に近い量の雨が降って千代川行徳の水位が5m以上になっていたならば、野坂川の流れの千代川への合流が妨げられて野坂川の水位がさらに上がり、川の水が堤防を越えていた可能性もかなり高かったでしょう。野坂川と千代川の合流点は、行徳の水位計から下流にたった1.1kmしか離れていないのです。

下の図-5には、9/30前後の野坂川徳尾の国交省水位計の記録を示しています。水位がピークに達するまでの約4時間の水位の上昇速度は平均で0.7m/h程度でした。千代川の行徳の水位が当時の最大値4.15mのままでとどまっていたとしても、鹿野河内や野坂川上流の降水量が30~40mm/hのままであと三時間以上続いていたならば、徳尾の水位がさらに1.5m以上あがって氾濫が発生していたことはほぼ確実だったでしょう。


(図-5)2018年9/29~10/1の野坂川徳尾水位計の水位変化f:id:tottoriponta:20210217100929j:plain

以上のような事実を踏まえれば、この2018年9月30日の夜に野坂川が氾濫しないですんだのは、「単にラッキーであった」ためというほかはありません。

①台風による豪雨の範囲が八頭郡などの千代川上流方面にも及んでいた。

②台風の動きがより遅くなったために、野坂川上流の豪雨があと三時間ほど長く続いていた。

日本海の海水温がより高いために大量の水蒸気が流れ込んで、さらに大量の雨を降らせていた。

以上の三つの要因のうちのどれか一つが付け加わっていたならば、この日の夜、野坂川の氾濫が確実に発生していたでしょう。

徳尾付近で野坂川の水が堤防を越えて氾濫が発生した場合、流れ出た水をさえぎるものは日本海に至るまでの間には何ひとつありません。9/30の夜に避難勧告の対象となった六千人強に加えて、商栄町、南隈、晩稲も水没地帯となる可能性が考えられます。

流出する水量が多い場合には、古海、岩吉、千代水、湖山町東までも避難指示の対象となりかねない。野坂川がいったん氾濫すれば、千代川と湖山川の堤防で囲まれた約一万一千人が住む地域が、かつ鳥取市の商業活動の中心でもある地域が、全て水没する可能性もあり得るのです。

 

(2-2)風力発電のための道路が山の保水力を低下させる

上に述べた野坂川氾濫の危険性は、地球温暖化による近年の豪雨頻発もあって、今後さらに高まるものと予想されます。では、現在この地域に計画されている大規模風力発電事業の水害に対する影響はどうなるのでしょうか。

風車は必ず山の稜線上に建てられます。斜面上に建てた場合には、風の向きによっては風車が回らないこともあります。全方向からの風をくまなく利用するためには、風車を一番高い所に建てなければなりません。必然的に山脈の稜線上に風車がずらりと並ぶことになります。当然、風車の建設や管理のために必要な道路も、山の尾根上の木を全て伐採し尾根の土を削って作られることになります。尾根周辺の木は風の強さを弱めることになるので、風力発電にとっては邪魔者でしかありません。

最初に紹介した図-1の赤い線で示した風車設置予定地の合計の長さは、直線で近似しただけでも約40kmになります。細かな屈曲も含めれば50kmを超えることは確実でしょう。幅が十数mの未舗装の道路を50km以上も稜線に沿って作った場合、山の保水力が大幅に低下することは間違いありません。道路両脇の高木も、風を妨げる原因となるために切り倒されるので、さらに保水力が低下します。

昨年の11/15に明治郷づくり協議会と明治地区公民館の主催で、明治小学校体育館において「風力発電学習会」が開催されました。当日の講師を務めた武田恵世氏は、風車が集中する三重県青山高原を中心に風力発電の問題点を長年調査されてきた方です。

青山高原では1999年に国内初の発電用風車が建設され、現在の風車の数は91基にまで増えているとのこと。この講演会で示された風力発電のために建設した道路の惨状を以下に紹介します。

 

(図-6)三重県青山高原他の風車建設・管理道路の現状

f:id:tottoriponta:20210304074113j:plain

f:id:tottoriponta:20210304074221j:plain

f:id:tottoriponta:20210304074336j:plain

f:id:tottoriponta:20210304074424j:plain

一枚目は稜線上に作られた道路、土はむき出しのままです。

二枚目は道路建設の前後の比較。広葉樹林がみな伐採されて道路となってしまいました。この状態で大雨が降れば土砂の流出が起きるのは当然です。なお、鳥取市の風車予定地の山々はこの二枚目のような高原状ではなく、もっと山腹の傾斜が強い山ばかりです。

三枚目は青山高原で風車建設のために作った道路の現在の惨状です。

四枚目は宮崎県での道路建設が引き起こした土砂崩れの一例。

昨年2020年の9/25~9/27には、この三日間の総雨量で鹿野河内 249mm、佐治加瀬木 219mmの大雨が降り、河原町北村と佐治町高山で二十カ所以上もの林道崩落や土砂流出が発生しました。このように、高山周辺の林道では毎年のように豪雨や雪解けによる通行止めが発生しています(あんな急斜面の山腹に林道を作れば、崩落するのは当然。)今回の風車予定地の南部ではこの林道を利用して風車建設を進めることになっています。

この昨年九月に発生した林道災害の復旧工事は、鳥取市が昨年の11月補正予算で確保した二億円弱を使って実施中ですが、民間業者が風車建設のために尾根上に設置した道路が土砂流出を引き起こした場合には、いったい誰が直すのでしょうか?土砂が山の両側の山腹に流出しても、尾根上の道路が通行可能でさえあれば、余計なコストを負担したくない民間業者がそのまま放置し続ける可能性は極めて高いでしょう。結果として、青山高原のように土砂崩れだらけの山と化してしまう危険性が高いのです。

この地域の山々がさらに保水力を失ってしまえば、豪雨時の野坂川の水量はますます増えることになります。この地域のその他の河川の水量も増えるでしょう。有富川、細見川、曳田川は千代川の中流域に直接流れ込みます。今でさえ危険な千代川の水位を、さらに上げることになります。この風車建設問題は、単に建設予定地の住民だけの問題ではありません。鳥取市全体の問題として考えなければなりません。

 

(2-3)土石流の危険性 -風車建設予定地の北半分の地層は風化した花崗岩

園芸用や庭土としてよく使われているマサツチ(真砂土)という土があります。鉢植え用の土として使うことも多く、ホームセンターの園芸コーナーには必ず置いてある人気商品です。この土は風化した花崗岩を砕いて作りますが、この風車予定地の北半分の山地の表層のほとんどがこの風化花崗岩鳥取花崗岩)からできているのです。

この風化花崗岩は非常に脆く、少し圧力をかけると容易に砕けるため、余計な養分や病害虫を含まない土づくりには最適です。そのことは同時に、この風化花崗岩が非常に崩れやすい性質であることを意味しています。広島県岡山県に特に多い土石流災害の大半は、この風化花崗岩からなる真砂土地帯で発生しているのです。

「西日本豪雨から2年 土砂災害の多い中国地方の課題とは」 

下の図-7には風車建設予定地の断層と風化花崗岩の概略の位置を示します。断層については次回で触れることにして、今回は風化花崗岩の話題に限定しましょう。図のオレンジ色の線、神戸地区の高路から明治地区の河内、さらに鹿野町小畑の上流部を結ぶ線から北の山地部分がこの風化花崗岩が地表に現れている地帯です。


(図-7)断層と風化花崗岩の範囲

f:id:tottoriponta:20210304073324j:plain

この予定地の中だけでも、真砂土を採取している採石場が少なくとも四カ所は確認できます。そのうちの二か所(いずれも口細見地区)の写真を以下に示します。過去の採掘場所も他に何カ所かあるものと思われます。図-1に示した事業計画によれば、図-8の採石場から右に尾根上を500mほど進んだ地点から風車建設が始まることになっています。


(図-8)真砂土採石場① 2021年2月撮影

f:id:tottoriponta:20210218070741j:plain

 

(図-9)真砂土採石場② 2021年2月撮影

f:id:tottoriponta:20210218091531j:plain


広島の真砂土地帯には、手で筒を土中に押し込めるほど軟らかい所もあるそうです。鳥取花崗岩はそこまでは風化していないようですが、一般の岩盤よりも相当もろいことは間違いないでしょう。地震の際の風車の倒壊を防ぐためには、風車の基礎工事には多額の費用をかける必要があります。

さらに心配なのは、尾根に沿って作った道路からの真砂土の流出です。下の図-10には鳥取市の防災マップで指定されている「土砂災害危険区域」を灰色の網掛けで示しています(「Yahoo japan 土砂災害マップ」から転載)。鳥取市の防災マップにはもっと詳しい情報が載っていますので、より詳しく知りたい方はそちらを参照してください。

 

(図-10)土砂災害危険区域の分布

f:id:tottoriponta:20210304073446j:plain


図中の黄色の線から北が真砂土地帯です。有富川、野坂川、長柄川の各流域の真砂土地帯に含まれている地域に土石流による危険地区が集中していることがよく判ります。この真砂土地帯の稜線上に道路を作った.場合には、土石流の危険性が現在よりもさらに増すことは確実です。土石流が起きないまでも、道路の両側の山腹斜面への土砂の流出によって植生が破壊されれば、保水力が低下して各河川の氾濫の危険性が増すことも確実です。

なお、砂見川沿いの上砂見から下砂見にかけての神戸谷では、土石流よりも地滑りの危険性が高くなっています。この.付近の表層を成す「河原火砕岩」は水を含むことで滑りやすくなり、実際に1970年代にはこの谷の中で大規模な地滑りが発生しています。西隣の谷の高路でも、1969年に地すべりが発生して県道が通行止めになりました。風車建設によって各地の山の保水力が失われれば、当然、地すべりも現在よりも頻発することになります。

(2-4)野坂川の下流部は既に「天井川

この野坂川の上中流部が真砂土地帯であることの影響と思われますが、野坂川下流域の川床の上昇についても触れておかなければなりません。地元の方は既によくご存じと思いますが、野坂川の下流域、野坂集落の少し下流(集落の北側)の宮谷付近の野坂川の河川敷は、左岸側の農耕地よりも明らかに高くなっています。いわゆる「天井川」であり、水害常襲地帯によくみられるタイプの川です。

このことは、左岸の堤防上を通っている県道49号線を車で走りながら左右を見比べただけでもよく判ります。河川敷から県道までの高さよりも、左岸の畑地から道路までの高さの方が数mは高いのです。大雨が降るたびに上流から流れてきた真砂土が、流れがゆるやかになるこの辺りに集中して堆積したためでしょう。上の(2-1)で徳尾付近での氾濫危険性について触れましたが、この宮谷付近での氾濫発生の可能性も相当高そうです。

最近、国交省は野坂川の水位計を従来の設置場所の徳尾から宮谷へと移設しましたが、徳尾よりも宮谷の方がより危険と判断したためかもしれません。この辺りで野坂川が決壊した場合には、氾濫の範囲がさらに里仁、布勢、湖山町南へと広がる事態も想定されます。この風車設置計画をそのまま認めてしまえば、さらに真砂土を流出させることで野坂川の氾濫危険性を今よりももっと高めることは間違いないでしょう。

(以下、次回に続く)

/P太拝