「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(5)  -全国各地の風車による健康被害の実例-

この風力発電に関する記事シリーズも今回で五回目。ここで全国各地での過去の風車による健康被害の実例をいったんまとめておきたいと思います。過去の事例を詳しく見ていくことで、鳥取市で計画されている風力発電事業の問題点がさらに明確になるはずです。

(1)各地の風車による健康被害の実例

 各地の風車からの騒音・低周波音による被害を下の表-1にまとめた。この内容は単にネット上の記事をまとめただけであり、鳥取環境大による現地調査で鳥取県内での大量のクレームと被害者の存在が初めて明らかになったように、この他にも表面に出ていない被害例はたくさんあるのだろう。

風車の建設場所は中山間地や奥山が大半であり、その近くの住民はネット発信に不慣れな高齢者が大半と思われるので、綿密な現地調査をしない限り国内での風車被害の全貌は見えてこないだろう。


下の表をクリックすると、別画面でこの表が拡大表示されます。(以下の表・図も同様)。なお、例の(8)から(10)は、この記事シリーズの三回目で紹介した被害例の再録です。

表-1 国内の風車騒音・低周波音による健康被害

 f:id:tottoriponta:20210423081048j:plain・文献
「石狩風車の低周波音測定結果・・」 
「風力発電、実は「エコ」じゃない」 
「環境省 騒音に係る環境被害について」 
「風力発電、近所で頭痛・不眠 環境省、風車の騒音調査」  
「愛知 田原市の風車騒音問題 中日新聞」
「風車騒音・低周波音による健康被害 風車問題伊豆ネットワーク」
「風力発電 施設近くの住宅内で低周波音・・」 
「風力発電、低周波被害の実態把握 「考える会」が訴え」 
⑨「2020/11/15 明治小講演会 武田氏提供資料」当サイト記事
「高知県大月町大洞山ウインドファーム考察 その2 被害者たちの証言」 
「低周波音被害について医学的な調査・研究と十分な規制基準を求める意見書 日弁連」  
⑫「伊豆熱川における騒音・低周波音被害」


以下、これらの被害例を見ての感想。

・国内で大型の風力発電が開始された十数年前には、住宅から200~300mという近距離でも事業者は平気で風車を建てていた。伊方町での被害(例 4)に見るように、その結果は惨憺たるものとなった。県内でも湯梨浜町の風車(既に撤去済み)は伊方町の1000kWよりも低出力の600kWであったが、鳥取環境大の調査結果に見るように、風車を直接見上げる位置にあった西側の泊地区では、風車からの距離が200~300mでも多くの住民が健康被害を訴えている。

・2010年代に入ると風車出力も2000kW以上へと大型化し、それに伴って風車からの距離が1km以上離れた地域でも被害が発生するようになった (例 8,9,10)。

・人間だけでなく、各種の動物も風車からの騒音を不快に感じているものと推測される。犬、猫、野鳥、ウミガメ、魚などの異常行動が確認されている(例 2,6)。

・2014年2月にブレードが破損した愛知県豊橋市細谷の風車(例 6)はGE製の出力1500kWだが、同一メーカーで同一出力の東伯発電所の風車が2020年1月に同様のブレード破損事故を起こしている。鳥取県内にはGE製で同一出力の風車が現在24基有り(大山、中山、東伯の各発電所)、今後も同様の事故が発生する可能性がある。

・風車による深刻な健康被害を受けている住民が各地にいる一方で、同じ集落内に居住しているにも関わらず被害をそれほど感じていない住民もいることは確かだが、これは前回の記事で述べたように自宅の共振周波数が風車から発生する低周波音の周波数と一致するか否かによるものと推測される。

幸運にも自宅の共振周波数が風車から発生する周波数からずれている場合には、自宅の揺れはそれほどでもないだろう。逆に一致した場合には、自宅の揺れは深刻な状態となり不眠や不快感の原因となる。自分の自宅が風車からの低周波音波に共振するかどうかは、実際に風車が建って羽根が回り出してみなければ判らないだろう。前回の記事で既に述べているが、「家が新築なら安全」とも言い切れない。

・風車による健康被害は確実に存在する。事業者や環境省は、もっぱら「精神的なものが原因、気のせい」と強調するばかりだが、どの例でも「転居すれば改善する」との報告が大半であり、風車と健康被害との因果関係は明白である。自分の集落近くでの風車建設を容認する人たちは、最悪の場合には、自分自身の自宅を捨てて遠くに引っ越す可能性があることもあらかじめ了解しておくべきだろう。

・風車による健康被害が救済された事例は、今回調べた限りでは過去には全く無い。裁判に訴えた例としてはわずかに田原市での例5があるが、名古屋地裁環境省の騒音基準を根拠にこの訴えを簡単に却下してしまった。

風車による健康被害者は、今までずっと泣き寝入りしてばかりである。現在話題となっている新型コロナ対策のワクチン接種の場合には血栓症が百万人に一例出ただけでも大騒ぎになるが、風車による健康被害では一つの集落中で何割もの住民が被害を訴えているというのに、政治家も自治体も大半のマスコミも、被害住民の訴えを無視し続けている。
例8の和歌山県由良町の場合には、町議会の場での風車被害に関する質問自体を議長が公然と拒否する始末である。風車の被害者はその絶対数が少ないので、選挙の票には結びつかないと政治家は思っているのだろう。
最近の政治家や役人は、「安全安心が最優先」とか、「被害者に寄り添って・・」とか、口先だけのきれいごとを毎日のように連発してはいるが、こと風車騒音の被害者に対しては、彼らのうちの誰一人として被害者に寄り添おうとしては来なかった。裁判所も、既に田原市での例に見るように、行政や大企業の味方となって事なかれ主義に徹してしまう有様である。蛇足だが、最近の裁判官のやる気の無さ・正義感の無さについては、最近読んだ次の記事でその背景がやっと理解できた。ご参考まで。
「人事に異常な興味を示す日本の裁判官の特異性」 

・以上に述べたように、政治家も、環境省も、自治体も、裁判所も頼りにならない現状では、住民自身が風車による健康被害の実態をよく知って、風車建設用の土地を事業者に絶対に渡さないことでしか自分たちの生活と健康とを守れないことは明らかである。上の表に挙げたような健康被害鳥取県内で今後も再現してしまうようでは、身をもって風車による健康被害を体験し、その被害の深刻さを訴えてきた全国各地の被害者の皆さんに対して申し訳ない。

 

(2)鳥取市青谷町で計画中の大規模風力発電について

当サイトの風車記事シリーズでは、当初は鳥取市南西部の風力発電計画を念頭に置いて執筆してきたが、青谷町で計画中の別の風力発電計画の内容を知るにつれて、この計画の危険性も非常に深刻であることに気づいた。以下、この青谷町での計画について、全国各地の健康被害の実例を踏まえながら検証してみよう。

従来、鳥取県内に設置されてきた風車の大半は平地またはゆるやかな丘陵地に設置されて来た。しかし今回鳥取市内で計画されている二つの風車計画は、共に集落からの高度差が少なくとも200m程度はある山の尾根上に風車が建設される予定となっている。上の表-1に挙げた被害例を見ると、その大半が山の尾根上に建設された風車による被害である。
平地に建設した風車の場合には、風車よりも下方に放射された騒音の大半は地面で反射して上空に帰り、人家のある集落までは届かない。しかし、風車の下方が斜面となっている場合には、騒音は斜面に沿って広がり集落に届く割合が増える。また山地の谷間にある集落では、周りの山々からの反射音が谷間に集まってくる。前々回の記事中で述べた「音溜まり」現象である。風車から1~2km離れていても被害例が報告された上の表の例8と例9は、いずれも山に囲まれた谷間にある集落での被害例である。

青谷町で風力発電を計画している自然電力(株)が2017年に提出した「環境影響評価方法書」の概要版を見てみよう。三ページ目に風車の建設予定地が赤い丸で表示されている。この赤丸を中心として半径1kmで青い円を描いた図を下の図-1に示す。ちなみに半径1kmというのはとりあえずの目安であって、この円の外では被害は無いということを意味してはいない。上記の表-1によれば、2000kWの風車から2km離れていても被害を訴えている人がいる。仮に半径2kmで円を書いた場合には、浜村、鹿野、青谷の市街地のすぐそばにまで円が達することになる。

図-1 青谷風力発電所の風車予定配置図

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2017年時点で、この事業者は「2000~3000kWの風車を最大15基程度立てる」としていたが、今年2/14の日本海新聞の報道によると「2000~4000kWを12基程度建てる」との内容に変更されている。風車の出力が当初の計画よりも大きくなっており、表-1の被害例よりもさらに広範囲に被害が及ぶ可能性は高い。

さて、この図-1を見ると、「青谷発電所」とは言いながら、気高町側の方に健康被害がより多く出ることが予想される。気高町下原付近から鹿野町殿に至るまで、この谷沿いの集落の大半が風車から1km圏内に入っている。対して青谷町側で1km圏内に入るのは蔵内、養郷、早牛、山根の一部にとどまる。

今回、地形の詳細を把握するために国土地理院のサイトでこの地域の地図を入手して一番驚いたのが、蔵内地区が典型的な「音溜まり」の地形の中に位置していることだった。下の図-2と図-3を使って詳しく説明しよう。これらの図の中の直線は、図中の小さい窓に表示されている地形断面図の位置を示す。

図-2 蔵内地区北側

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図-3 蔵内地区南側

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蔵内集落は、南からの蔵内川が日置谷沿いの平野に出て日置川に合流する地点に位置している。集落の南西には山根地区との間を隔てる標高185mの舟山がそびえる。

蔵内より南側の風車、図-1の⑥から⑩あたりまでの風車から出た低周波音は、蔵内川の渓谷の中を両岸で反射を繰り返しながら北に進み、平野への出口で蔵内集落にぶつかる。一方、北側の風車の③~⑤から出た低周波音は舟山にぶつかり、その反射波が集落を襲う。各風車から出た低周波音は日置川の西側の山地で反射されるが、その反射波も日置川の対岸の蔵内地区に集まってくるだろう。同地区が「風車騒音の音溜まり」となる可能性は極めて高い。

下の図-4には、蔵内地区の地形断面図と表-1に示した健康被害を受けた各地のそれとの比較を示す。縦と横の縮尺はほぼ同一にそろえてある。また、地形を強調するために、全ての断面図で縦方向の縮尺を横方向の縮尺の三倍としている。

図-4 蔵内地区と風車による健康被害を受けた各地との地形の比較

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赤い楕円で示した所が集落の位置であり、蔵内集落と風車との位置関係は、既に健康被害が発生している各集落と風車との位置関係に非常によく似ている。しかも蔵内集落の近くに建設される風車の出力は、表-1の風車よりもさらに強いのである。

参考のために、各被害地の地図も図-5,6,7として併せて掲載しておく。地図中の赤い丸が風車の位置である。

図-5 東伊豆町熱川温泉

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図-6 由良町畑地区

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図-7 伊賀市上阿波汁付地区

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上記の2/14付け新聞報道によれば、この予定地の大半が蔵内地区の所有であり、同地区はこの風力発電計画に対して、既に「集落全体が賛成して、土地の売買契約を昨年結んだ」そうである。

同地区には巨額の売却金が入ることになるが、同時に風車による深刻な健康被害を被る可能性も極めて高い。いくら集落にカネが入っても、集落住民の多くが家を捨てて逃げ出してしまうようでは元も子もない。そもそも、この風車建設によって、同地区は他の集落で発生する健康被害者から強い恨みをかうことになるだろう。後で人から恨まれるような選択はしてはいけない。

 

(3)鳥取市南西部で計画中の大規模風力発電について

鳥取市南西部の中山間地で計画中の日本風力エネルギーによる風力発電所建設計画については、まだ風車の位置が確定していないので健康被害を受ける可能性のある地域の正確な地図は描けないが、大体の予想図を図-8として下に示す。

図-8 鳥取市南西部での風車予定配置図

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青谷の場合と同様に、青い円で風車から半径1kmの範囲を示した。風車の位置としては、赤い線が山の稜線上に設定された風車建設予定地なので、この赤い線のそれぞれの末端に風車を建てるものと仮定して青い円を描いた。鹿野町、明治地区、東郷地区、神戸地区、河原町北村地区の主要集落が、共通して風車から大体1~1.5kmの範囲内にあることが判る。この計画で予定されている風車の出力は4500kWであり、表-1での最大出力2000kWの2.25倍もあるので、「1km離れていけば大丈夫」などとは絶対に言えない。

特に三方を山に囲まれた盆地である岩坪集落について注目して、同集落については近くの予定地の赤い線の中で集落に一番近い地点を中心に青い円を描いてみた。岩坪が三方向の予定地からちょうど1km程度ずつ離れていることがよく判る。この集落も典型的な「音溜まり」となる盆地地形の中に位置しており、計画通りに風車が建てられた場合には深刻な健康被害を被る可能性が高い。

下の図-9には岩坪集落の写真を載せておこう。昨年の11月に初めて現地に行った時に、集落入口から西向きに撮った写真だが、陽当たりが良く周囲の展望も開けていて、鳥取市の中心部に割と近いにも関わらず「山間の別天地」というような印象を受けた。春先の桃や桜の咲く頃には、桃源郷のような風景が見られるのかもしれない。この穏やかな景観の周りを多数の巨大風車が取り囲む風景などは、想像したくもない。

図-9 岩坪地区の写真(2020年11月撮影)

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この写真の正面左側に見えるの山の上には、当初の計画通りであれば、高さ150mの風車が少なくとも二、三本は建つだろう。写真を撮影した地点の右側の尾根上にも一本、左側の河原町との境界をなす尾根上には数多くの風車が建つ見込みだ。

風車が建った後で発生する健康被害のために、市内の勤め先にも十分に通える距離にあり自然環境にも恵まれているこの土地を捨てて逃げ出さなければならなくなったとしたら、こんなに不幸なことは無いと思うのだが・・。地元の方の思いはどうなのだろうか。

次回は風力発電所建設による地元経済への影響について考察する予定です。

/P太拝