「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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東京五輪雑感

一昨日で東京2020終了。カネまみれの五輪という印象が強かったので、開会式も閉会式も見ませんでした。以下、この二週間ほどのうちに感じたことを書きとめておきたいと思います。

(1)開催時期だけを見ても、IOCJOCの選手へのリスペクトはゼロ

我々日本人にとっては、近年、梅雨明けの七月下旬がほぼ毎年のように猛烈な暑さとなることは既に常識。2013年に東京での開催が決まった時の経緯については筆者はよく覚えていないのだが、招致責任者である当時の都知事猪瀬直樹徳洲会から五千万円の賄賂を受け取ったとして、2013年末に就任して約一年で辞任)であった。また、開催を支援する立場にある国のトップは安倍晋三前総理であった。

彼らは「東京の夏は温暖で五輪には理想的」だと説明して今回の五輪を誘致したらしい。(他にも、もう一つのウソがある。安倍前総理は「福島第一原発事故は既にアンダーコントロール」と主張して五輪を誘致したが、それから八年たっても汚染処理水は放出できず、炉心デブリの取り出しは技術的に極めて困難な状況であり、廃炉計画全体の見通しすらも未だにあいまいなままである。このどこが「アンダーコントロール」なのか?)


「「地獄のような嘘」東京五輪の暑さに海外から批判続出。“理想的な気候”と招致したのに」
「『温暖で晴れの日が多い東京の夏』は、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」との猪瀬・安倍の主張は、日本人なら誰でも即座にウソだとわかる。しかし、日本の夏の不快な蒸し暑さを経験したことのない外国人にはこのウソを見破れない人が多いのだろう。

我々は、彼ら政治家のつくウソには既に慣れてしまい見え透いたウソにも何とも思わなくなってしまっているのだが、総理や都知事が世界に向かって大ウソをつくのは国としての信用にかかわる大問題なのである。
さて実際の酷暑の程度はどんなものだっただろうか。今年は太平洋高気圧があまり発達しなかったので関東地方では西からの山越えのフェーン現象が起こらず、例年に比べれば35℃を超えるような地点はかなり少なかったはずなのだが・・・。

「国立競技場が「40度」の酷暑を記録!現地取材の英記者が嘆き、韓国メディアは五輪招致時の“アピール“に言及」
この記事はトラックのそばに設置されている公式温度計についての話だが、陸上競技日程の後半になると、なぜかこの温度計の表示が消えていた。外国からの酷暑批判を恐れてのセコい処置なのだろう。
筆者は根っからの陸上競技マニアなので、世界的な陸上競技の大会の中継はできる限り見るようにしている。7/31だっただろうか、午前11時ごろに国立競技場での陸上競技中継を見ていたら、アナウンサーが「先ほどフィールドの芝生の上に置いてある温度計を見たら44℃もありました」と話していた。これは多分、ハンディタイプの小さな温度計での測定値なのだろう。

「出場106人中30人棄権、倒れ込む選手も…夏マラソンの過酷さ示す」
東京でのマラソン実施は危険とのことで会場を札幌に移したのだが、それでもこの惨状である。日本の服部選手はフラフラの状態で73位でゴールしたが、その直後には体温が40℃を超える重度の熱中症になっていたことが確認されたそうである。今後の選手生命にもかかわりかねない事態であった。

選手は国の代表としての責任感を周囲から強要されがちであり、五輪では普通のレースよりもとかく無理をする傾向が強い。「アスリートファースト」の公式的な掛け声とは真逆であり、競技の実態は完全にIOCJOCの説明に相反している。
アメリカへのテレビ放映の視聴率狙いでこの時期での開催を決めたIOCJOCには、参加する選手への敬意・リスペクトのかけらも見られないのである。各国の代表選手は、彼らがさらにカネと権力を集めるための単なる道具であり将棋のコマに過ぎないのではないか。

そもそも、数十種類にも及ぶ異質な競技の国際大会を、なぜ一定の期間内にまとめて一つの都市でやらなければならないのか?本当に個々の選手を尊重しているのであれば、IOCは各競技ごとに選手のベストを尽くせる競技環境と気候条件とを提供すべきだが、それは同一都市で同一期間中に一律に実現できるものでは到底ない。
さらに、数十万、数百万人もの大量の観客を一カ所に集めれば、人類全体に差し迫った喫緊の課題である低炭素推進方針にも逆行する。今回心配されたようにパンデミック感染をさらに促進することにもなりかねない。

二千数百年前には多くても人口数十万人程度であっただろうギリシャでやっていた小さなイベントを、人口70億人を超える現代の地球規模で数十種目に増やしてまで、なぜやらなければならないのか?巨額の費用をかけてやるとすればその意義は何なのか?世界各地での紛争、飢餓や貧困、人権無視や差別、不平等、各民族の自由と伝統文化への抑圧を放置しておきながら、看板だけで中身がない「平和の祭典」を開いていていいのか?五輪の全面的な見直しが必要だろう。

 

(2)その他の問題点

酷暑以外にも不満を訴える選手は多い。
「五輪=競泳女子エフィモワ「東京大会はアンフェア」」


「テレビ&冷蔵庫なしの選手村 ロシアの〝クレーム〟に「基本的に有償レンタル」」
JOC側は「事前に申し込みが無かったから」とのことだが、「テレビや冷蔵庫くらい、選手村全室に据え付けておけよ。自称、先進国でしょ!」と言いたい。

「メインプレスセンターの食事が高額[海外メディア陣に粗末なおもてなしをする理由]」
下に示すように、竹中平蔵傘下のパソナやその他の日本政府御用達の企業には日給35万円も支払っている一方で、参加選手や報道関係者というお客様に対してはこのような塩対応では、クリステルのあの「おもてなし!」の約束はいったいどこへと消えてしまったのか?都民税や国民の納めた税金の大半は、「おもてなし」には使われずに政府の身内企業へと流れてしまったのではないか?


「「東京五輪の日当は35万円」 国会で暴露された東急エージェンシー、パソナへの“厚遇”」

参加選手からの直接の不満以外にも、この東京五輪の招致決定経過には不明朗な点が多い。巨額のカネが絡むようになってしまった現在の五輪には、動機不純な連中が数多く集まってくるようになってしまったのだろう。

次の記事は三年も前のものだが、政府と癒着した企業が無償参加のボランティアを食い物にする構造を既にその時点で予測している。ボランティアの大半は善意で応募しているのだろうが、すこし離れた立場から客観的に見ると、この五輪の機会を利用して電通パソナなどがボランティアの善意に付け込んで参加者に当然支払うべき人件費を浮かせて儲けている実態が見えてくる。

「東京五輪「ブラックボランティア」中身をみたらこんなにヒドかった」

 

次の記事は誘致過程での賄賂疑惑に関するもの。


「JOCが弁護費用2億円負担 五輪招致で疑惑の元会長に」

この記事によると、竹田恒和元理事長は「本件は、理事長の職務として行った行為であり、私的な利益や動機は全くありません。」と話しているそうだが、こんなことに公的機関の資金を流用するのは全くもって言語同断である。こんな説明では、資金を提供した協賛企業も含めて、JOC組織全体で賄賂工作にかかわっていたと受け取られかねない。
東京五輪誘致の成功によって、その立役者としての竹田氏の知名度と各方面からの引き合いがさらに増えたことは間違いないだろう。wikipediaによれば「ネトウヨのアイドル」と称され、かつ元皇族の末裔であり再び皇族としての復活を願っているであろう竹田氏のあの有名な息子にしても、親父の威光の元でテレビ出演や著作本の販売額が増えたことは確実だったろう。竹田氏の弁護費用はあくまで竹田氏自身が私費で負担すべきである。
さらに下の記事によれば、竹田元理事長は、東京五輪誘致のためにIOC元委員の息子が関係するブラックタイディングス(BT)社に2.3億円を支払った以外にも、総計で11億円超にのぼる内容不明な海外送金をしていたそうである。

「五輪招致、海外送金11億円 疑惑BT社以外は非公表」

さて、2013年に東京五輪招致に成功した当時の責任者、猪瀬、安倍、竹田、森の四名は、今回の開催前にはそろいもそろって姿を消してしまった。安倍前総理に至っては、リオ五輪閉会式の際にはスーパーマリオの着ぐるみまで着たそうだが(渡航費と着ぐるみ製作費用は国民の税金から)、今回は開会式にすら出なかったらしい。いったいどこへ消えたのやら。今後、この四人が決して再登場することのないように願いたいものである。

「招致から旗振り役の4人全員が去った トラブル続き東京五輪への道」


「リオ五輪閉会式 安倍首相の“スーパーマリオ”に非難と嘲笑」
「一将功成りて万骨枯る」と言うが、この場合には「全将罪を得て国庫枯る」だろう。

なお今回、女性や障がい者に対する差別言辞や演出を開始直前で止めるなど、積年で溜まったウミを若干ながら出せた点については、良い前例となるので評価したい。

 

(3)日本陸上短距離陣惨敗の背景

さて、今回の五輪で筆者が熱心に観戦したのは、先回のリオ五輪と同様に陸上競技と七人制ラグビーだけだった。五輪終盤になってからそれまで無関心だった女子バスケチームの大活躍にビックリ、米国との決勝戦に注目し、小さな日本女性が大きな米国選手の隙間をすり抜けてショットを決めるプレーには大いに拍手を送ったものだが、ここでは日本陸上短距離陣の今回の惨敗の背景について触れてみたい。
結論から言えば、現在の日本短距離陣は世界と戦うにはまだ実力不足であったと言ってよいだろう。リオの時と違って100mで九秒台記録保持者が既に四人出たこともあって一部のマスコミは大いに期待したようだが、どのような条件下でも九秒台が出せる選手は日本にはまだいない。日本選手の九秒台はその時々の試合時に追い風に恵まれた面が大きい。各選手の過去の記録、今回の予選での記録、世界の有力選手の記録について、この風の影響を補正して風速ゼロ時の記録に換算し比較してみよう。下にその結果を示す(図のクリックで拡大)。
なお、使用したデータはwikipedia「100メートル競走」 による、

 

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無風時への換算には次のサイトを使用した。無風時の換算に国内で一番よく使われているサイトのようであるが、その計算の根拠が明らかにされていないので上の換算値は参考程度としていただきたい。
「記録の無風換算 関東高校陸上競技結果情報」

上の無風補正後の数字に見るように、現時点では日本勢は誰一人として無風時には10秒の壁を切れてはいないだろうことが判る。新国立競技場では構造的に外部からの風が入ってこないので、鳥取や福井のような海から吹く追い風は期待できない。最初の予選段階ですら、日本選手はほぼ自己ベストに近い記録で走らなければば準決勝には進めないのである。今後は、五輪や世界選手権の決勝に進むためには9.8秒台を経験して置く必要があるだろう。
ここで注目されるのは、決勝で金メダルを取ったイタリアのマルセル・ジェイコブスと中国の蘇炳添だ。マルセルの従来記録は山縣選手と同じ9.95であったが、山縣と同組の予選の段階で自己記録を突破する9.94、決勝ではさらに更新して世界歴代十位に相当する9.80を出した。蘇選手も準決勝の段階で自らが持つアジア記録9.91を大幅に更新する9.83を記録した(この時にはテレビで見ていたが、思わず「スゴイ!」と唸ってしまった)。新国立競技場のトラック材質は世界最高峰と言われており、ポンポンとよくはずむそうである。彼らの大幅な自己記録更新にはこのトラック材質が味方した可能性が大きいようだ。なお、以前にも書いたが、鳥取市布勢運動公園のトラックの材質はこの新国立競技場と同じメーカーのものを使用している(たしかイタリア製とか、完全に同一材質かどうかは不明。)。

100m、200m共に全員が予選敗退した日本短距離陣は、400mリレー決勝でもバトン渡しに失敗して惨敗した。仮にバトン渡しがうまくいっていたとしても、以前とは異なり各チームのバトン技術も向上しているから上位に食い込むのは難しかっただろう。このリレーの惨敗は、あえてリスクを無視してギリギリの線を狙ったためだろうが、元々の原因は個々の選手の走力の不足にある。
今回の五輪では白人のイタリア選手が優勝、また中国選手がアジア人としては従来にない驚異的な記録を出すなど、かっての決勝に残るのは黒人選手のみであった時代からの変化がみられる。東アジア人の蘇炳添選手が出せた記録が日本人選手にも出せないはずはなかろう。今回の失敗にめげずに、基本的な走力の強化から再度取り組んでもらいたものである。

 

(4)TVと共に膨張肥大してきた五輪の行方は?

 今回の五輪のせいで一番困ったのは、それまでNHKBSで見ていた米大リーグの中継が見られなくなったことだった。大谷選手のホームランを見てスカっとしたいのに、後でネット上のツイッターの短い動画を見るしかなくなってしまった。色々探したら、Abema TVで無料でライブ配信していることが判り、最近はそちらを見るようにしている。NHKBSの画面よりもパソコンで見る画面の方が各数字が判りやすい。担当しているアナウンサーもMLBの知識は豊富だ。

残念なのはオールスターでのホームラン競争の疲れなのか、後半戦に入ってから大谷のバッティングが不調になってしまったことだ(日本のオールスター戦は十数年前から全く見ていないが、今年初めてMLBのオールスター戦を見た。その前日のホームラン競争はまさに球場全体がお祭り騒ぎで、アメリカ人の活力を感じて結構面白かった。)。

五輪期間中はテレビのどのチャンネルを回しても競技中継か五輪の話題ばかりだった。関心の持てない競技が大半なので、普段と同様にテレビはあまり見ずに主な情報はネット経由で得ていた。このテレビが五輪にハイジャックされたような状況は将来も続くのだろうか。

あまり人気のない弱小競技にとっては、五輪は競技内容を知ってもらう絶好の機会なのだろうが、サッカーのような世界的な人気スポーツにとっては五輪の意義はたいしてないのだろう。中国やロシアのような全体主義的国家にとっては五輪はナショナリズムを鼓舞する絶好の機会だが、民主主義を国是とする国家にとっては、自分の支持率を挙げたい政権担当の政治家は別として、国が獲得するメダルの数は大した問題ではない。マスコミは今回日本が獲得したメダル数は過去最高とさかんに報じているが、競技種目数が激増しているのだから、平均的にはどの国でも過去最高になって当たり前なのである。

筆者の例でいえば、昨年まではプロ野球では楽天を応援していたが、今年からMLBエンゼルスへと移ってしまった。楽天のオーナー某氏が、地道に頑張っている監督のクビを毎年のようにサッサと切ってしまうことに愛想がつきたのである。幸い、大谷選手というたぐいまれな選手が今年になって本格的に活躍しはじめたこともあり、今年見ている野球の試合はエンゼルスがらみのものが大半だ。おかげで日本の選手よりもMLBの選手の方に親しみを覚えるようになった。


ネット経由であれば、比較的簡単に海外のスポーツを見ることも海外に配信することも出来る。仮にあまり人気のないスポーツであっても、世界中のファンを集めればかなりの数になるだろう。四年に一度の五輪でたった数時間だけテレビ放映してもらうよりも、日頃からネットで情報発信し、できればライブ中継までできるようになれば、競技の普及には大きな効果があるのではないだろうか。

さて、この酷暑の中での五輪開催の元凶である米国NBCテレビの五輪番組の視聴率だが、どうやら過去最低となりそうな状況らしい。今後のテレビの衰退は必然的だから、テレビ業界の要求に完全適応してしまった今の五輪の在り方を全面的に見直す時期が今きているのだろう。

オワコン(終わったコンテンツ)という言葉があるが、テレビと五輪は既にオワコンの代表例となってしまったのかもしれない。各種目の世界選手権を、そのつど十分な時間をかけてネット配信したほうが、各種目の振興のためにはよほど有意義であるように思う。
「五輪独占放映権のNBC、期待外れの視聴率低迷で一部広告主へ補償策提案も」

/P太拝