「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(8)   -青谷町風力発電事業の現地を確認 気高・鹿野町編-

 先回は「青谷町風力発電事業」計画の青谷町側から見た影響について取り上げました。今回は気高町鹿野町側への影響について見ていきます。

 現地には昨年12月上旬と今年一月上旬の二回訪れました。以下に示す景観予想図で使用した写真は今年の一月に撮影したものです。海沿いでは正月に降った雪は既に消えていましたが、鹿野町まで行くと積雪がたくさん残っていてビックリしました。

(1)事業計画の概要

 この計画を推進している自然電力(株)(本社:福岡市)による風車の設置予定図をあらためて図-1に示す。

 青谷町と気高町の境界である南北に伸びる丘陵上の約5kmにわたって合計12基の風車を建てる予定であり、各風車の出力は一基あたり2000~4000kW、高さは120~150mにもなる。

 以下の説明のために、各風車には北から順にNo.1~12を、また青谷町早牛地区の西側に計画されている二基の風車にはNo.13,14の仮番号を付けた。また図中の赤い×印は下に示す景観予想図に使用する写真を撮影した地点を、赤い〇印は風車に隣接する各集落を代表する地点を示している。


図-1 風車の設置予定図(図、表はクリックで拡大。以下、同様)

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 なお、図の右下に示したオレンジ色の丸印7個は、青谷風力とは別に鳥取市南西部の中山間地に計画中の「鳥取風力発電事業」の風車が設置された場合に想定した設置場所である。この事業計画はシンガポールに拠点を置くヴィーナエナジーによるものであり、当初の計画によれば出力4500kW、高さ約150mの風車を計32基立てる予定となっている。風車の詳しい設置位置については現段階では公表されていない。この計画に比べれば、青谷町風力発電事業の計画は風車間の距離が著しく近いことがよく判る。

 鹿野町鬼入道地区の南側の鷲峰山から毛無山にかけての稜線もヴィーナエナジーによるこの計画に含まれており、計画全体では風車間の間隔は約1km弱と推定されることから、この付近の稜線には7基程度の風車が設置されるものと予想して仮に配置してみた。青谷町と市南西部の二つの計画が共に実現した場合には、鹿野町の南東側と西側に多数の風車が林立することになる。

 

(2)気高町鹿野町側から見た場合に予想される景観

 以下、自然電力(株)が当初の計画通りに風車を設置した場合に各地で予想される景観図を示す。設置される風車は全て出力4000kW、高さ150mと仮定する。出力2000kWの風車を設置した場合でも高さは120mはあるので、景観にはさほど変わりはない。

 

気高町下原・会下」 

 図-2に気高町高江から西側の下原・会下地区を望んだ場合の景観予想図を示す。また、風車と各集落の位置関係と撮影した地点は図-3に示す。なお、図-3の地図は国土地理院地図サイトから得た地図をそのまま使用しており、地図中の小さいウィンドウは撮影点から一番近い風車までの直線に沿った地形断面図を示している。

 この撮影点からはNo.5までの5基の風車が見えると予想される。撮影点から一番近いNo.3までの距離は1.61km。ただし、下原・会下地区の中の、例えば図-3の赤丸の地点からNo.3までの距離は0.99kmしかない。

 

図-2 気高町高江からの景観予想図

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図-3 風車No.3、下原・会下、撮影点の位置関係

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気高町山宮」

 図-4に景観予想図、図-5に風車、集落位置、この写真の撮影点の地図を示す。一番近いNo.8は撮影点からは0.86km離れているが、集落内の赤丸の地点からは0.67kmしか離れていない。

図-4 気高町山宮からの景観予想図

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図-5 風車No.8、山宮、撮影点の位置関係

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気高町上原」 
 図-6に景観予想図、図-7に風車、集落位置、この写真の撮影点の地図を示す。一番近いNo.10は撮影点からは0.67km離れているが、集落内の赤丸の地点からは0.51kmしか離れていない。

図-6 気高町上原からの景観予想図

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図-7 風車No.10、上原、撮影点の位置関係

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鹿野町今市・越路ヶ丘」 

 鹿野町中心部から国道9号に向かって北に伸びる県道32号線沿い、鹿野かちみ園から南に約500m離れた地点から撮影した写真を使用して景観予想図を作成した。

図-8は景観予想図、図-9は風車と撮影地点の位置関係を示す。一番近いNo.10から撮影地点までは1.95km、図-9中に赤丸で示した越路ヶ丘西端地点までは1.30kmである。

なお、図-8の中には含まれていないが、No.6の風車の右側にNo.7との間の角度とほぼ同じほど離れてNo.5の風車の上半分ほどが見えるはずである。結局、この地点からは計8基の風車が見えることになる。

 

図-8 鹿野町今市からの景観予想図

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図-9 風車No.10、越路ヶ丘、今市、撮影点の位置関係

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 この付近には鹿野温泉があり、温泉を利用する施設として国民宿舎、温泉病院、民間保養施設、日帰り入浴施設等が点在している。また越路ヶ丘地区は全戸給湯施設を備えた分譲地として開発された経緯があり、主として関西方面からの移住者が多いようだ。

 後述の図-10等で示すように、風車から2km離れていても健康被害を訴える事例が全国各地で報告されており、風車が建設された後でもこの地域全体が今まで通りに保養地として人気を集められるのか、はなはだ疑問である。少なくとも越路ヶ丘地区等の地価がこの風車建設によって今後下落する可能性は高いだろう。


 旧気高郡三町の中では、鹿野町は旧城下町の風情と温泉、演劇団体等の文化関連団体の誘致、地元による街おこし活動などで観光客の人気を集めており、最近は都会からの移住者も増えて人口減少も下げ止まりつつあると聞いていたが、この「青谷町風力発電事業」はせっかくのその動きに水を差すことになるだろう。先例としては、都会から河原町北村へ移住を予定していた一家が「鳥取風力発電事業」の計画を聞いて急遽移住を取りやめたことが、既に二年前に新聞報道されている。

 

(3)青谷町側、さらに全国各地の風車による健康被害を受けている地域との比較

 気高町側から見る風車は、青谷町側から見るよりもはるかに高くそびえることになるだろう。これは図-1の風車配置図から判るように風車の位置が著しく気高町側に寄っているためである。

 さらに、図-1から風車No.1~5と風車No.6~12との間に約1kmの空白地帯があることがわかるが、これはこの予定地の主たる地権者である蔵内地区からなるべく風車を離して立てようと意図したことによるものだろう。蔵内地区から意図的に風車を離した分だけ、他の地区、特に気高町側が余計に健康被害のリスクにさらされることになる。

 各集落から各風車への距離を一覧表にした結果を表-1に示す。集落を代表する地点としては、図-3,5,7,9の中の赤丸の位置を再度確認されたい。比較のために青谷町蔵内地区の神社横の橋の上(図-1中の赤丸)から各風車への距離と仰角も表の末尾に示している。各風車の高さは全て150mであるとしてその最高点への仰角を計算している。

 なお、これら赤丸の地点の、例えば「標高17+2m」とあるのは、その地点の標高に人の眼の高さをプラスした海面からのおおよその標高を意味している。各集落から各風車への距離の中での最短の距離と最大の仰角とを赤色の太字で示した。山宮、上原両地区では、蔵内地区に比べて風車までの距離が著しく短いことが一目瞭然だろう。

 

表-1 各集落から各風車までの水平距離と仰角の比較

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 参考までに、仰角の大きさを身近な例で示しておこう。例えば室内で自分の眼と同じ高さ(立っていても座っていても良い)の壁の上に目印を付けておき、さらにそこから1m高い所に別の目印を付ける。

 表中の、①下原・会下や、④鹿野町越路ヶ丘のように仰角14~16度の場合、その仰角は壁から3.5mほど離れてこの1m上の目印を見る角度に相当する。

 ②山宮地区の仰角27.6度は、壁から2m離れて1m上の目印を見上げる角度とほぼ同じである。

 ③上原地区の仰角33.6度に至っては、壁から1.5m離れて1m上の目印を見上げる角度と同じである。このような角度で見上げる頭上で回り続ける羽根を毎日見ていても気にならない人は、この世の中にはほとんどいないだろう。少し昔の言い方をすれば、風車が立ったら「嫁の来てがなくなる」ことになりかねない。

 次に、各集落と風車の間の地形断面図を見てみよう。図-10に気高・鹿野側各集落と青谷側、さらに全国各地で既に風車による健康被害を受けている地域との地形断面図の比較を示す。比較のため、縦横の縮尺は全て同一にそろえてある。

 

図-10 各集落と風車の間の地形断面図の比較

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 一目でわかるように、風車からの距離が気高町側の山宮や上原と同程度なのは青谷町側では早牛地区だけである。

 さらに、これらの地区は既に風車による健康被害を受けた全国の各地区(被害実態の詳細については当風車シリーズ記事の五回目を参照のこと)よりもさらに風車に近く、しかもこの「青谷町風力発電事業」の風車の出力は、最大で各地で健康被害を引き起こした風車の二倍以上に達する。こんなことでは、これらの地区が風車による健康被害を受けるであろうことは、もはや確実と言ってよい。風車が建設されても一円も入って来ない多くの周辺集落が、なぜこのような被害を受けなければならないのだろうか?


 事業者である自然電力(株)が全国での風車による過去の健康被害例を全く学んでいないことも強く指摘しておかなければならない。仮に学んでいれば、出力2000kW以上の風車を人家から500~600mの近距離に立てるような無謀な計画を立案することなど、最初からありえないからである。

  最近は、SDGs「持続可能な開発目標」という言葉を耳にすることが多い。この目標に向けて努力を始めた自治体、企業、省庁は既に数多いのだが、この「青谷町風力発電事業」は、SDGsで掲げられている多くの目標である「人々に保健と福祉を」、「人や国の不平等をなくそう」、「住み続けられるまちづくりを」、「平和と公正を全ての人に」等々に明らかに相反するものである。この事業は、地域住民の健康を害し、地域内での分断を強め、地域全体の包括的な発展を阻害しようとしている。

 この事業を進めている自然電力(株)はもちろんのこと、このような地域住民の人権を無視する事業や事業者に出資する金融機関、このような事業によって発電した電気を買う電力会社やその電気を使う企業・消費者、また、このような事業を安易に認可する自治体や政府関係機関、いずれにも「自分たちはSDGsを推進しています」と胸を張って言う資格は全くないと言ってよいだろう。

 我々は、単純に「再生エネルギーの割合が増えた」という点だけを取り上げて拍手するべきではない。そのエネルギーを生み出す過程で、一人たりとも犠牲者を出すことがあってはいけないのである。

 

(4)まとめ

 仮にこの自然電力(株)の当初計画通りに風車が立ったとして、実際に運転が始まって周辺の集落で健康被害が発生した場合には、その被害者は救済されるだろうか。残念ながら、その可能性は今のところは全くないと言ってよいだろう。

 おそらく、事業者と地権者との正式契約には健康被害への言及やそれが発生した場合の補償については一言も盛り込まれないだろう。上に見たように、自然電力(株)は風車による健康被害などは最初から全くないものと決めてかかったうえで、この無謀な事業計画を立案しているのである。

 そもそも、地域住民の健康と人権とを無視するこのような企業が大手を振って横行している根本的な原因は、風力発電に対する環境省の現在の姿勢にある。昨年春の当ブログの一連の風車シリーズ記事の四回目(「鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(4)」)で既に説明したように、2018年の時点で環境省の風車騒音に対する公式見解を以下のように表明している。「20Hz以下の超低周波音は人間の耳には聞こえないとされているから、いくら大きくても健康被害には関係ないはず」という考えがこの見解の背景にある。

『・・「これまでに国内外で得られた研究結果を踏まえると、風力発電施設から発生する騒音が人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。また、風力発電施設から発生する超低周波音・低周波音と健康影響については、明らかな関連を示す知見は確認できない。・・』(「日本における風車騒音のガイドライン」 日本音響学会誌74巻5号より)

 この環境省の見解は、2013年に発足した騒音対策の専門家による委員会である「「風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会」によってまとめられたものである。(「風力発電施設から発生する騒音等に対する取組について」 総務省機関誌 ちょうせい99号より)

 この委員会の座長を務めた町田信夫教授は、近頃何かと世間を騒がせている日本大学の所属だが、最近では下の秋田県での記事に見るように、風車建設予定地を頻繁に訪れては「風車騒音による健康被害は未だに公式には立証されていない」と力説して回っておられるようである。環境省も町田教授も共に、日本の各地で健康被害を訴え続けている住民の存在を全く無視しているように見える。

「風力発電施設における騒音及び超低周波音について(日大 町田教授)」

 

 さて、当風車シリーズ記事の四回目で既に述べたように、筆者は風車から発生する数Hz前後の超低周波音が家屋の持つ共振周波数に同調することで、時間と共に家屋の揺れが激しくなることが健康被害の主因だろうと推測している。被害者が共通して訴えている、めまい、頭痛、吐き気、耳鳴り、耳のふさがり感、不眠などの症状は、揺れ続ける船や車に長時間乗ることで発生する乗り物酔いの症状とほぼ共通しているからである。

 この仮説を立証するのは簡単である。健康被害を訴えている被害者の住居内の壁面や床面の振動レベルを振動計、または加速度計で実際に測定してみればよい。人体の振動レベルと健康被害との関係について調べた論文は既に世の中に数多くあるだろうから、その間をひもづけることが出来れば、風車建設と健康被害との間の因果関係が成立する。

 また、このようなデータを蓄積しておくことは、今後同様な被害者を出さないためにも必要不可欠なことである。この分野に関係する研究者には、今後の研究テーマの候補として取り上げていただくように是非お願いしたい。

 とはいえ、風力発電業者と地元との間で結んだ契約には健康被害に関する条文は現時点では皆無だろうから、既に健康被害を受け続けている被害者に関しては、いくら振動に関するデータを取ってみたところで事業者が素直に補償してくれるとは到底思えない。

 被害者救済のためには、あとは裁判に訴えるしかないのだが、関連する法律や契約が無い場合には、裁判所は既存の公的文書を基に判断するはずだ。現在、風車騒音被害については公的には環境省の見解しか存在しないので、裁判に訴えても裁判所に門前払いされる確率は極めて高い。この流れの経過は、当風車シリーズ記事の五回目の「健康被害実例 ⑤ 愛知県田原市での実例」に見る通りなのである。

 今後、この裁判所の姿勢を変えていくためには、遠回りにはなるが、やはり、「風車稼働 → 家屋の振動 → 住民の健康被害」という因果関係を実証するためのデータの蓄積が不可欠だろう。

 さて、以上の議論の結論としては、「一度、近所に風車が立ったら、もうおしまい」ということである。風力発電事業者の一般的な借地契約期間は20年間のようだが、20年後に風車が撤去されて更地になった時には、周辺集落が空き家だらけになっている可能性は高い。

 特に、この「青谷町風力発電事業」については、住民に対する健康被害を全く考慮していない最悪の事業計画と断言してよいだろう。この計画を実施した場合には、旧気高郡三町の過疎化は現在よりもさらにより一層進むことになるだろう。

 この事業に用地を提供する予定の地権者には、ぜひとも再考と賢明な判断とをお願いしたい。

 仮に今後、これらの風車群が計画通りに青谷町に立ったとして、自分の集落や周辺集落で健康被害が発生した場合、地権者には法的な責任は発生しないのかも知れないが、自分の集落の被害者と周辺集落の被害者に対する道義的な責任をまぬがれることは出来ないだろう。

/p太拝

 

歌詞

 

追記:先回の記事では、今回の記事の(2)に示したような「景観予想図」の作り方について改めて説明する予定としていましたが、かなり複雑で長い説明となり、かつ技術的な内容に偏るため、今回の記事に含めることは見合わせました。景観予想図の作り方について問い合わせたい方は、別途、次のアドレスにその旨のメールを送ってください。

以上、お手数ですがよろしくお願いいたします。

e-mail:  mailto@sustainabletori.com