「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

当ブログの内容は編集者個人の見解であり、「市民の会」の公式見解ではありません。当ブログへのリンク、記事内容の引用等はご自由に!

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(9)  -日本での今後の風力発電の可能性-

 子供の頃、母が定期購読していた雑誌「暮らしの手帖」を毎号熱心に読んでいた。特に料理や住宅のレイアウトの記事が好きだった。そのせいか今でも料理には何かと興味があって、面白そうなレシピを見つけると真似して作ってみたりしている。他の兄弟二人はこの雑誌には全然興味を示していなかったから、自分はちょっと変わった男の子だったのかもしれない。

 小学校の高学年の時だったか、中学に入ってからだったかは思い出せないが、1960年代の後半に入った頃、この雑誌のコラム欄に小さな記事が載っていた。一読して驚いた。

 「『このまま二酸化炭素を排出しつづけていると、地球は急速に温暖化する』と米国の科学者が予想」という内容だった。昨年秋にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏が温暖化に関する最初の論文を発表したのが1967年だそうだから、この科学者が真鍋氏であった可能性は高い。当時は日本人による研究成果だとは想像すらしなかった。

 1967年は漫画家の手塚治虫氏が「火の鳥」の連載を開始した年でもある。それまでの「鉄腕アトム」に代表される科学文明肯定的な内容から一転して、「火の鳥」での手塚氏は科学文明に依存し過ぎたために荒廃してしまった地球を、いわゆるディストピアを描くようになっていた。翌年の1968年には、水俣病の原因はチッソ水俣工場の廃液に含まれるメチル水銀化合物であったと当時の厚生省が公式に認定している。「このまま科学文明がさらに進んだら、地球は一体どうなってしまうのか」という疑問が人々の間に広まり始めた時代であり、筆者もその影響を強く受けた一人であったことは間違いない。

 地元の高校を出て大学の理学部に進学、そこを卒業して、いったんはソフトウェア企業に就職した。しかし、大学を出る頃には太陽電池などのエネルギー関係の研究がやりたくなっていた。色々と探して、別の大学の大学院で当時注目され始めていた水素エネルギーの活用方法を研究することにした。

 具体的には水素を吸蔵する金属の調査とその利用方法の研究である。自分が扱った材料ではないが、その後、この水素吸蔵合金の分野からはニッケル水素合金が生まれて電池材料として利用されるようになり、現在のリチウムイオン電池が登場するまでは広く使われて来た。

 この1970年代から80年代にかけては、世界中が第一次、第二次のオイルショックを経験してたことで化石燃料以外のエネルギー源の検討が始まった時代だった。二酸化炭素の排出増による温暖化を懸念する声も次第に高まってきた。水素以外にも、太陽電池風力発電バイオマス利用、太陽熱発電等々、現在の再生可能エネルギーの主役や脇役が一斉に登場し始めた時代でもあった。

 大学院修了後は家の事情もあって鳥取に帰り、電気部品メーカーで技術者として働き続け、退職して今に至っている。会社の仕事では、再生可能エネルギーの生産そのものではないが、太陽光発電用やEV用の電源部品の設計・生産にも関わって来た。このような筆者自身の過去の経歴もあり、今でも再生可能エネルギー全般に対しては強い関心を持ち続けている。

 最近になって脱炭素化の動きが加速し、この種のエネルギーの実用化が本格的に始まったことは少々関わったことがある者としては嬉しい限りだ。しかし、そのことは同時に地球温暖化の進行が目に見えて現れて危機的状況となりつつあることを示している。

 さて、前置きのつもりで始めた個人的な話が長くなってしまった。以下、昨年から調べて来た風力発電について、鳥取県内での当面の事業計画からはいったん離れて、日本全体での風力発電の可能性についてまとめてみたい。筆者は、風力発電については再生可能エネルギーの有力候補のひとつとして以前から基本的には賛成してきた。しかし、日本での実施状況をあらためて調べてみると、そうも言ってはおられなくなってきたのである。

 

(1)日本での陸上風力発電の可能性

 図-1に日本全国での年間を通じた平均風速の分布図を示す。中国・四国地方については拡大して示している。(「NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第三章 風力発電」より転載)
現在のコスト試算によると、風力発電である程度の利益が出せる目安としては、年間平均風速で7m/秒が必要だそうである。図の中の明るい緑の部分から赤色にかけてがそれに相当する。白色の部分は都市近郊のために風車設置不適か、データ無しの地域のようである。

図-1 日本の陸上での年間平均風速の分布(図のクリックで拡大、以下同様)

f:id:tottoriponta:20220216103921j:plain

 この図を見ると、風力発電でコスト的に有利な赤色の地域は、日本列島の脊梁部や各県の境界をなす分水嶺が大半である。これらの大半が国立・国定公園や各自治体指定の自然公園で占められていると思われる。このような場所に風車を林立させることは、国民の憩いの場所である優れた景観地と、国内にわずかに残された自然保護地域とを破壊することにつながる。

 また、分水嶺であるこれらの地域で風車設置のために森林を伐採することは、その地域の保水能力を低下させることを意味している。その結果、下流での水害危険性が今以上に増すことは容易に予想される。温暖化で今後さらに豪雨災害が増えることは確実であり、その対策として、またCO2吸収の面でも、森林面積を今以上に増やすことが求められている現在、森林を大規模に伐採するような事業は許可されるべきではない。

 風車が立っている限り、その周りの木が高く成長することは許されない。木が高くなればその分だけ風が弱まるからである。この点で風力発電事業は、伐採後に再び植林することが多い一般的な林業とは異なる。風車が増えれば増えるほど、その地域の森には草や灌木しか生えることが許されない裸地や林道が増えていくのである。

 図-1からは風の強い地域は高い山か、海岸地帯が多いことも判る。海岸に近くなるほど、一般的には人口密集地が増加する。先回までの記事で見て来たように、環境省の公式見解とは逆に、風車による健康被害は日本列島の各地で既に発生しているのである。景観面は別にしても、人家から数km以内に数千kW級の風車を建てることは、それだけで既に「地元住民に対する人権侵害」であると言ってよいだろう。

 地域経済振興の面でも、日本の風車設置方式の現状には問題が多い。デンマーク再生可能エネルギーでは最先進国であり、2020年の全消費電力のうち実に80%が再生エネルギーによっており、うち風力は46%、太陽光は4%、残りの大半はバイオエネルギーとのこと。
「2020年、太陽光と風力がデンマークの電力の半分以上を供給」

 デンマークでこれほどまでに風力発電が普及した背景には、この国に特有の風力発電設置の仕組みにそのカギがあるとされている。

 デンマークの陸上風力発電所は、その全てが各風車周辺の地域住民によって所有されており、電力を売って得た利益の全てが住民に還元される。地域内に風力発電所を作るかどうかについても、その計画全体が地域住民の議論と出資しだいで決められている(風力発電を促進している国からの出資も、当然あるはず)。

 また、国のルールとして、景観保護のために海岸や湖岸から300m以内では風車も含めた全ての人工物の設置が禁止されている。さらに、森林を伐採して風車を設置することも禁止されている。このような制約を受けない限られた候補地だけに風車を建てても風力エネルギーの割合を増やせてきたのは、この国の地形の大半が一万数千年前までこの地を覆っていた氷河に削られてできた平原であり、その国土の土地利用の大半が広大な牧場であることが大きく寄与しているものと思われる。

 一方、我が国の国土は急傾斜の山地が大半であり、海岸近くの狭い平地に人口が密集している。人家から離れて風車を建てようとすれば、山を切り開いて道を作り森を伐採するしかないが、大量の雨が降る日本では、これは土砂崩れや下流での氾濫を引き起こすことにつながる。


 また、日本では陸上も洋上も含めて、風力発電所の設置計画は、現在、そのほぼ全てが専門業者によって立案されている。業者が地図をにらんで地形と送電線の配置から候補地を勝手に決めて、それまでは縁もゆかりもなかった土地に突然乗り込んできては、わずかな借地料と引き換えに平身低頭しては土地を借りようとする。運よく借地契約が成立すれば次には国の認可が必要になるが、許認可権を持つ経済産業省は元々から風力発電推進の立場だから、よほどのことがない限り不認可にはならない。あとは業者がどんどん風車を建てて発電を始めるだけである。

 いったん風車が立ってしまえば、日々の発電量の把握や故障のチェックはセンサー経由で自動的に本社に送られるから、現地に事務所を設ける必要はない。巨大な風車が何十本も立っても、地元での常勤の雇用者は全く必要ないだろう。あるとすれば、故障や災害が発生した時に一時的に地元の業者を使うことくらいだろう。

 そして、風車が発電した電力を電力会社に売ったおカネの大半が業者の本社がある大都市へと流れていく。地元ではわずかな借地料が地権者に入るだけで、一円も入って来ないその他の住民は、周り続ける風車の下で少なくとも二十年間は我慢して暮らすしかない。

 デンマークのような風車設置方式であれば、地域の資源を利用して得た利益の大半がその地域の住民へと還元される。対して日本の現在の方式では、風力という地域資源を利用して得た利益の大半が資本が集中している大都市へと流れてしまい、風車周辺の地域内にはほとんど還元されない。その結果、風車が立った地域の貧困化と衰退とがより一層加速化されることになるだろう

 日本の地理的条件が元々風力発電に適していないことを除いても、これでは我が国で風力発電がなかなか普及しないのも当然の結果と言ってよいだろう。

 さて、結論としては、日本では陸上の風力発電所については、もうこれ以上は必要ないと思う。むしろ、これまで全国各地で地元住民に健康被害をもたらし迷惑をかけてきた風車については、速やかに停止して撤去すべきである。

 このような近所迷惑な風車を所有・管理している業者、その業者から電力を買っている電力会社、さらにはそのような電力会社に電気代を支払っている企業・自治体・消費者は、国連が提唱しているSDGsの流れに自らが逆行する存在になってしまったことを自覚するべきである。

 欧州で大いに発展してきた現在の大規模風力発電システムだが、日本の国土と社会の実情に対しては不適合な点があまりにも多すぎる。欧米で流行ったものをそのまま輸入してサルマネしているだけでは、政治家や霞が関の官僚は仕事をしたことにはならない。

 話が今回の主題からは外れるが、彼らの最大の失敗例こそが、既に難破船と化した今の日本の原子力発電体制であろう。国土の至るところで毎日のように地震が発生しては地殻が動き、平均して一万年に一度は九州全体を覆いかねない破局的巨大噴火が襲う、この世界一といっていいほど地質的に不安定な日本列島のいったいどこで使用済み放射性核燃料を今後十万年間にわたって保管するつもりなのか?未だに原発再稼働を唱えている政治家、官僚、関連業界には、この問いに対して答える義務がある。

 

(2)日本での洋上風力発電の可能性

 最初に次の図-2の全世界での洋上での風力エネルギー密度分布を見ていただこう。なお、図-2から図-4までは、図-1と同じ資料からの転載である。

 

図-2 世界の洋上での風力エネルギー密度分布

f:id:tottoriponta:20220216104731j:plain

 この図の中の風力エネルギー密度とは、風車のローター(羽根)が回転する範囲の面積1平方mあたりを通過する風の持つエネルギーを表している。既に述べた陸上風力発電で採算が採れる値の下限の平均風速7m/秒は、空気の温度にもよるが、風力エネルギー密度200W/m2にほぼ相当する。この密度にローターの掃引面積を掛けると風車の概略の出力が得られる。

 図-2の日本付近の風力エネルギー密度を見ると、夏に低く冬には高い。これは冬には北緯50度付近に北極を中心とする偏西風帯が移動して来て西からの風が強くなるためである。夏には逆に南緯50度付近に西からの偏西風帯ができて北半球の風は弱くなる。赤道付近には東から西に風が吹く貿易風帯があり、これは季節に応じて南北に移動はするものの、その風の強さの季節変化は偏西風帯ほど極端ではない。

 偏西風帯ができる原因だが、赤道付近の空気が太陽熱で上昇して上空で冷やされ、北半球では北緯20~30度付近に冷やされた空気が下降して中緯度高圧帯(亜熱帯高圧帯ともいう)が形成される。ここから北極付近の低圧帯に向かって風が吹く際に、地球の自転の影響を受けて西から東への方向成分が加わることで偏西風帯が形成される。

 風力発電の将来にも関係するが、地球温暖化が進むにつれて、この中緯度高圧帯はしだいに北へ移動するものと予想される。その結果、北半球の偏西風帯も長期的に見れば現在よりもさらに北へと移動するだろう。この現象は既に始まっているものと思われる。その傍証としては、最近の世界各地の乾燥地の湿潤化や乾燥地帯自身の北上が始まっていることが挙げられる。最近、世界中の乾燥地で毎年のように頻発している観測史上最大の集中豪雨も、この湿潤化の一例とみてよいだろう。

 中緯度高圧帯ではほとんど雨が降らないので平坦な地形は一般には砂漠化しているのだが、サハラ砂漠ではその南縁部の湿潤化が最近になって始まったとの報告があるようだ。実際、現在よりも温暖であった7000~8000年前のサハラ砂漠では、今よりも降水量が多く、大半が草地になっていて川さえも流れていたことが確認されている。

 当時の日本では今よりも気温が1~2度は高かったとされているが、この温度上昇の値は今後の温暖化予測での上昇値が小さいケースに相当している。サハラ砂漠が草原であった頃は日本では海面が上昇していた縄文海進のピークに近い時期でもあり、関東地方の南部では縄文海進のピーク時には海面が今よりも4m前後は高かった(ただし、この海進現象が世界共通のものであったという確証は今の所は無いらしい)。

 中国の乾燥地帯では湿潤化が進んでいる。これも中緯度高圧帯の北への移動の表れだろう。

「中国・黄土高原に「緑」よみがえった 地球温暖化の思わぬ影響」

 ここに挙げたサハラ砂漠や関東地方、中国乾燥地帯の例に見るように、平均気温が数度上がっただけでも地球全体の地表の姿は大きく変わる。今後の温暖化の進展によって偏西風帯が北に移動すれば、日本付近の風力エネルギーが減ることはまず間違いない。そのことを計算に入れて風力発電の今後の経済性を再計算するべきだろう。

 仮に今すぐに温暖化ガス排出量をゼロにしても、温暖化は急には止まらない。世界中の生態系が激変した結果、全ての産業、都市、国家の急速な衰退または発展が今後数十年のうちに世界中で観察されることになるだろう。地球温暖化の影響は現在の我々が予想しているよりもさらに深刻なものとなる可能性は高い。

 次に、陸上及び一部の海域を含んだ欧州での年間平均風速の分布を下の図-3に示す。西から順にアイルランド、英国、北海、デンマーク、ドイツ沿岸からバルト海と、風力発電で採算が取れるとされる平均風速7m/秒以上の地帯が東西に帯状に連なっている。この帯の中心の緯度は北緯55度前後であり、上で述べた偏西風帯に他ならない。

 この図から、風力発電が偏西風帯に位置する国に限定で有利な発電システムであることがよく判る。それとは対照的に、地中海及びそれを取り囲む南欧では風力発電がコスト的に全く引き合わないことも理解できる。

 

図-3 欧州の年間平均風速の分布図

f:id:tottoriponta:20220216105422j:plain

 次に日本周辺の洋上での年間平均風速を図-4に示す。

 

図-4 日本周辺の洋上での年間平均風速

f:id:tottoriponta:20220216105746j:plain

 風力発電で十分に採算が取れそうな候補地は東北北部と北海道沿岸とに集中している。これは偏西風帯に近いためだが、極東での偏西風帯の年間平均の中心線が欧州と同じ北緯55度であると仮定すると、その緯度線はオホーツク海サハリン島の北端からカムチャツカ半島の中ほどを通っている。

 現時点では、オホーツク海に洋上風車を設置してその電力を日本まで引っ張ってくることは政治的にほぼ不可能だろうし、送電線が長くなることや冬季の台風並みの暴風への対策など技術的にも難しい点が多いだろう。

 十数年前からと記憶しているが、鳥取県の海岸沿いの洋上に洋上風力を設置する計画がいくつか持ち上がったものの、いずれの話もいつの間にか消えていた。この図を見てその理由がようやく判った。山陰海岸近くの洋上では、十分に採算が取れるほどの風が見込めなかったことがその主な理由だったようだ。

 図-4では関東南部の洋上や、鹿児島県と奄美諸島の間の洋上も風力発電の適地とされている。この辺りでは夏には太平洋高気圧からの南風が吹き、冬には北西の季節風が吹くので、年間を通じての平均風速が高くなるのだろう。

 洋上風力発電では水深も重要な要素になる。海底に風車の基部を直接設置する「着床式」は水深がせいぜい数十mまでしか使えないらしく、それより深い場所ではよりコスト高の「浮体式」になる。

 日本周辺の海洋の水深については次のサイトで知ることができる。左側の「地形・地質」をクリックすると「等深線」という表示が現れる。それをさらにクリックすると地図上に日本周辺の等深線が表示される。
「海しる 海洋状況表示システム」

 この等深線を見ると、日本の本土周辺の水深50mの範囲は、その大半が沿岸から数km程度である。それに対して、英国の東にあり洋上風車が数多く建設されている北海全体の平均水深は、たったの90mでしかない。陸上風力と同様に、洋上風力でも日本の地形は欧州に比べて著しく不利である。

 日本近海では北九州から朝鮮半島にかけては比較的浅い海域となっているが、図-4に見るように、この辺りの平均風速は特に高くはない。北九州市九州電力などはこの海域での洋上風力にずいぶん力を入れているようだが、果たして採算は取れるのだろうか。下の計画での風車調達先はデンマークのヴェスタス社(三菱重工が一部出資)になる予定だ。
「洋上風力、北九州港に25基計画 長崎は外資誘致に意欲」

 風車本体については、日本メーカーは陸上風力用の大型風車からは既に全面撤退したものの、東芝だけは洋上風力用の風車の生産を続ける予定とのこと。日立と三菱は、今後は洋上発電用の関連機器の生産に特化するつもりのようだ。
「どうする日立、東芝、三菱電機。再生エネにビジネスチャンス」

 着床式洋上風力での最近のビッグニュースは、何と言っても三菱商事中部電力を主とする企業グループが秋田沖などの三か所の予定地の入札を独占したことだろう。
「FIT価格は驚きの11.99円/kWh、3海域での着床式洋上風力の入札結果が明らかに」
「洋上風力入札、三菱商事が圧勝 AmazonやGEが後押し」


 この話題で気になるのは、設置が予定されている計134基の1万3千kW級の巨大風車(鳥取市内の二カ所で計画されている4千kW級の約三倍の出力、海面からの推定高さは260m程度か)の全てが米国GE製であるという点だ。洋上風車の実績がほとんどないGEが作った風車が、日本の台風の猛烈な暴風に耐えられるだろうか。欧州では風速40m/秒程度で「史上最大」と大騒ぎしているのである。
「欧州北部、暴風雨「キアラ」で混乱  追い風でNY─ロンドン便が最速記録更新」

 12円/kWhという価格が本当に実現できるのかも疑問だ。おそらく、今後、為替は円安がさらに加速する方向に進むだろう。現在問題になっている世界的な資材価格の急騰も、今後の早いうちに元の価格に戻るとは考えにくい。計画の三地域のうちで一番稼働予定が早いのは2028年だが、その頃には大幅な価格修正が行われているのではなかろうか。

洋上風力発電のコストについては、当ブログの昨年5/12の記事で既に論文二編を紹介しているが、以下に再度紹介しておこう。

「風況の違いによる日本と欧州の洋上風力発電経済性の比較」

 この論文は、東大の研究者が昨年1月に公表したもの。この中で、秋田沖よりも風況が良い石狩湾にヴェスタス製の9500kWの風車を仮に設置した場合のコスト計算結果が公開されている。その値は発電原価で約19.5円/kWhであり、売価にすれば今回の三菱商事グループの見積もり価格の二倍程度になる。

 三菱商事グループはどうやってこの差を埋めるつもりなのだろうか?この中には英国近海の北海と日本海北部の発電量を比較した試算も含まれているが、上に述べたようにその風況差は圧倒的だ。同一の風車をそれぞれに設置した場合、北海での発電量は日本海でのそれの五割増しと試算されている。

 もう一つの論文は、世界銀行の環境ガイドラインを担当していた英国人専門家による経済データの分析結果を、キャノンの研究所があらためて紹介したものである。
「風力発電のコストは上昇している -英国からの報告-」


 この英国からの報告によれば、今後、陸上も洋上も含めて風力発電のコストが大きく下がる可能性はなく、むしろ上昇する可能性が高い。風力発電事業者とそれに投資した金融機関は破綻するか、あるいは英国の消費者が将来に電力料金の高騰圧力を受けることになるだろうとの結論である。この結論は発電事業者の過去の会計報告を分析して得たものであり、説得力がある。

 さて、洋上風力の今後の見通しについて検索すればいくらでも読むことが出来るのだが、その大半が洋上風力は今後急速に伸びるとの楽観的な見解を示している。その一例を以下に挙げておこう。この資料をまとめた自然エネルギー財団とはソフトバンク孫正義氏が設立した財団である。

「洋上風力発電に関する世界の動向(第二版)」

 発電事業者や設備メーカーなどの関連業界が出している資料では、当然だがバラ色の未来を描いていることが多い。顧客及び金融機関等の出資者を確保するために、事業者や設備メーカーには「実態よりも話を盛ろうとする」傾向がある。企業の技術者であった筆者にも、その気持ちは判らないでもない。
 この財団は風力発電を推進する立場ではあるが、メーカーからは距離を置いた、かなり客観的な立場らしいので、その信頼度は高いほうだろう。それでも、この資料のP15の、洋上発電の発電コストは将来的には下がっていくという予測は、上で紹介した英国人専門家による論文の結論とは完全に相反するものである。

 洋上風力の将来予測の大半が「風車を大型化することにより将来のコストは低下する」と楽観視しているが、上の専門家の論文では「欧州の実態では、風車の規模が大きくなるほどコストが上がっている」としている。また、同論文では「洋上風力の部品が故障するまでの時間は陸上風力のそれの約半分」とも述べている。

 ちょうど今が洋上発電バブルの真っ盛りらしく、毎日のように関連ニュースが流れているが、バブル時に出資したカネが後で丸ごと消えてしまったというのは我々が何度も見てきた話だ。「・・だろう」という希望的観測に満ちた流行の記事よりも、現実のデータを積み重ねて分析した地味な論文の方を重視するべきだ。ハヤリモノに弱い人が多い政治家や自治体首長・職員の皆様は、特に注意された方がよいでしょう。

 注意点をもう一つ。既に日本は、圧倒的な力を持つ欧州の風力発電メーカーの草刈り場と化しているということである。「風力でも負けたか、しっかりしろ、日本の技術陣!」的な記事が最近は多いのだが、これは、欧州の、それも特定の国だけが自然条件的に風力に恵まれたことの結果なのである。

 新規技術を育てるためには、まずは手を出しやすい国内市場で経験を積む必要があるが、同一の風車を設置しても英国の2/3の電力しか得られない日本では、経験を積む機会すら乏しい。国内のメーカーが風車生産から次々に撤退していったのもやむを得ないことだろう。

 明治以降、日本は「とにかく、欧米に追い付け追い越せ」ばかりをやって来た。地理的にも社会構造的にも風力発電には不利な条件であるにも関わらず、それでも風力発電も欧米に追い付かなければと頑張ろうとしているのはその伝統の一環だろう。
 欧州以外の偏西風帯の大半では人口が少なくて需要自体が乏しい。その他の地域は風力には恵まれていないので風力発電はコスト面で不利だろう。中国は洋上よりも国内の砂漠地帯の風力を利用した方がコスト的には安いし、そもそも設備の大半を自国で作るだろう。

 国土が狭くて再生可能エネルギー源に乏しく、偏西風帯からは若干距離があり、かつ国内の風車メーカーがほぼ消えてしまった日本こそが、欧州にとっては洋上風力の格好の売り込み先なのである。風力発電の分野では、欧州から今の日本を見れば「カモがネギ背負って自分で歩いて来た」ようなものだろう。

この点に関する関連記事をひとつだけ紹介しておこう。下の記事の筆者も「日本の洋上発電の将来はバラ色」と思っているようだが、外資に対する警戒心は認められる。
「日本政府「原発45基分を洋上発電」 意欲的な政策を外資が虎視眈々と狙うワケ」

 浮体式の洋上風力に関しては、本当に日本の洋上風力の主体になり得るかどうか非常に怪しいものがある。上の英国専門家の論文によると、北海での浮体式の実際のコストは着床式の約二倍となっている。現時点では浮体式風力発電は日本国内では実証試験の段階に過ぎない。

 2012年に震災復興の鳴り物入りで始まった福島沖での浮体式三基による国費900億円をかけた試験も、相次ぐ故障でまともなデータも取れないままに2020年に終了した。三菱重工による7千kW機は稼働当初から不具合が頻発し、稼働率が10%を超えられないままに早々に撤去。日立による2kW機と5kW機も、これといった成果を得られないままに終了した。

 三基の風車の撤去が終わった現在、三菱も日立も浮体式事業の今後については公式には一言も発言していない。国が言っている「2040年に原発45基分の洋上発電実現」の目標の中には浮体式も含まれているのだろう(上に挙げた三菱商事が入札で獲得した三海域の着床式出力全ての合計が169万kW、原発1.7基分にしかならない)。このままでは、この国の計画自体が「絵にかいた餅」のままに終わる恐れがある。

「福島・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業のいま」
「福島沖風力発電2基撤去へ 国、民間引き継ぎ断念」


 さて、洋上風力全般に対する筆者の結論を言えば、将来の電力価格、外資依存度の増加、温暖化による将来の風力の減少、水産業・環境・地域住民への影響、景観や観光資源の劣化、地域経済の衰退等々、疑問点や問題点が非常に多いことを指摘しなければならない。

 また、洋上風力の事業規模は従来の陸上風力とは比較にならないほど広域かつ巨大化することになる。その結果、事業計画の大半は国と巨大資本を有する多国籍企業が主導し、地域住民が関与できる範囲は著しく狭められることになるだろう。デンマークの陸上風力に見るような「民主的な」風力発電導入プロセスは、洋上風力では過去のものとなるだろう。洋上風力が導入された地域での民主主義、「住民が住民自身の将来を決める権利」が形骸化していく恐れが多分にある。

 景観面で言えば、洋上風力を主力電源として今後推進して、秋田県青森県の沿岸などをギッシリと林立する風車でとり囲んでしまってよいものだろうか。国は2040年までに原発45基分を沿岸に立てるとしているが、沿岸の景観がどう変わるのかも併せて示すべきだろう。また超低周波音による健康被害水産業や野生生物への影響の問題などを、あいまいにしたままで進めてはならない。

 コロナ禍が収まれば、外国人観光客が再び増えることは間違いないだろう(今よりも「さらに安い日本」になっているだろうから・・)。欧米や中国からの観光客が、欧米製の風車に覆いつくされた日本の海岸を見てどう思うだろうか。「自分の国の景色と同じじゃないか」と思うのではないか。他の国と同じ景観になってしまったら、わざわざ日本に来る必要も、来る値打ちも無くなる。

 個人的な思いとしては、水平線まで巨大風車が林立するような無機質な風景は関東や関西などの巨大工業地帯の周りだけに限定してもらいたい。エネルギーは地産地消でやるべき、風車はその必要性が高い地域に率先して立てるべきだ。

 海は、海岸から水平線まで何も無くてこそ、本当の海だと思う。


(3)その他の再生可能エネルギーについて

 ここまで読んで来られた方の中には、「お前は、日本では原発風力発電もダメだと言うが、じゃあ、一体、日本では再生可能エネルギーに取り組まなくてよいのか!世界中が脱炭素化を加速している時に、日本だけバスに乗り遅れてもよいのか!」と一喝される方がいるかもしれない。以下、日本の地理的条件に戻って考えてみたい。

 日本の陸地面積は世界全体の陸地面積の0.25%に過ぎない。一方で日本の排他的経済水域は世界各国の中では比較的広く、世界全体の海洋面積の1.24%を占めている。さらに、現在の日本のエネルギー消費量は世界全体の消費量の3.06%を占めている。

 各国で生産できる再生可能エネルギーの総量は、大まかに言って、その国の面積や領海にほぼ比例するだろう。排他的経済水域の活用が今後の課題だが、上で述べた浮体式洋上風力の実現の困難さに見るように、エネルギー源としての海洋の利用技術はまだ産業化にはほど遠い。陸地面積の少なさと消費エネルギー量の多さから見れば、近い将来、日本が自国の領土と排他的経済水域だけを使って国内で必要なエネルギー全てを生産することができるとは到底思えない。

 ちなみに、2020年の時点での日本の一次エネルギーの構成比率だが、そのほぼ全量を輸入している「石油+天然ガス+石炭」の合計だけで全体の87%を占めており、国内生産は水力4%、他の再生可能エネルギーが7%に過ぎない。
「エネ百科  主要国の一次エネルギー構成」


 今後、省エネをさらに進め、かつ再生可能エネルギーの自給割合を高める努力を続けるとしても、かなりの割合を他国から供給してもらうしかない。世界全体の温暖化の防止こそが日本にとっても喫緊の課題である。日本国内だけで脱炭素化を進めても温暖化対策にはなり得ない。日本が、あくまでも自国内での再生エネルギーの生産にこだわって今後もCO2を出し続けるよりも、まずは海外での再生エネルギーの生産(太陽光や風力により生産した水素やアンモニアなど)に対する技術・資金の両面での協力と、日本への輸入方法の開発を進めることで、世界の脱炭素化をリードするべきだろう。

 また、元々地理的には不利な風力発電に取り組む前に、もっと容易に脱炭素化できる方法がまだたくさん残っている。例えば、都会のビルの屋上全てに太陽光パネルを並べることを義務付けるというアイデアは昔からあるが、その実施状況はどうなっているのだろうか。国や自治体が補助金制度を拡充しさえすれば、設置可能なビルはまだたくさん残っているはずだ。エネルギーを消費場所のすぐ近くで生産することで、いつ襲ってくるか判らない大災害に対して強い都市の実現も可能となるだろう。

 「太陽光発電が増えると需要とのアンバランスが生じる」という指摘があり、実際に九州では太陽光発電を制限するケースが増えている。しかし、これもずいぶん昔から言われて来た「EVを普及させて、そのバッテリーを日中は蓄電池代わりに使おう」というアイデアが未だに生かされていないからである。太陽光で発電した電力でEVを充電する場合には電力価格を安くするようにすれば、EVの蓄電池としての利用も急速に進むだろう。

 つい最近までのトヨタは、「EVを急速に普及させても、化石燃料で発電している電力で充電するのでは脱炭素化にならない」と主張してEV生産の拡大には否定的であった。「世界のトヨタ」にしては、ずいぶんとその視野が狭かったと思う。

 EVを普及させて蓄電池としても併用できるようにすれば、現在、再生エネルギー普及の大きな障害となっている電力の需要と供給のアンバランスの問題がかなり解消されるのである。EVを率先させて普及させれば、脱炭素化の流れもさらに一層加速されるはずだ。そのためには政府の政策の方向も重要になって来る。企業も各省庁も、自分のタコツボの中だけに安住していないで、外の世界の全体の関連をよく把握したうえで共同で将来像を描くべきである。

 さて、最近になって知った残念なニュースがある。現在の太陽電池で主流であるシリコン系とは全く異なる、ペロブスカイトという金属酸化物系の物質を用いた太陽電池が世界各国で急速な勢いで開発されつつある。

 下の記事に示すように、昨年の九月にはポーランドで世界初の量産が始まった。今年中には中国や英国でも量産が始まるそうだ。特徴は薄くて軽く、建物外壁やEV車の屋根にも容易に貼りつけられる点である。製法も簡単で、現在のシリコン系よりも大幅に安くなることもメリットだ。東京中のビルの外壁に張りめぐらせば、東京全体を自給自足の発電所にすることも将来的には可能かもしれない。

「コスト半減、どこでも貼れる新太陽電池 初の量産」


 このペロブスカイト型太陽電池は、あまり知られてはいないが日本発の技術である。横浜桐蔭大学の宮坂力教授が、2009年に世界で初めてこの種の材料が太陽電池として利用できることを示した。かっての青色LEDのように今後世界的に広く普及する可能性は高く、まさにノーベル賞級の成果と言っても差し支えないだろう。

 残念なのは、上の記事の末尾に説明があるように海外特許を出願していなかったということだ。そのことは、筆者はこの記事を読むまでは全く知らなかった。出願したのは国内特許だけなので、海外での同太陽電池の現在の爆発的な研究拡大や生産を抑えることはもはや不可能だ。

 海外特許を出願してさえいれば、少なくとも2029年頃までは、日本がこの発明の成果を独占するか、少なくとも競合相手をコントロールすることは出来ていただろう。世界の姿を一変させるような画期的な技術であるというのに、それを生み出した日本ではなく、外国で先に量産化されてしまったのは何とも情けないというほかはない。

 所属する大学が小規模であり、経営陣や管理スタッフの中に技術内容と発展可能性とを正しく評価できる人材がいなかったであろうことも影響したのだろう。国内の大学はどこも経費節減で苦しんでおり、海外出願に必要な数百万円の出費は当事者にとってはなかなか決断し難い金額だったのだろう。こういう時にこそ国の支援が必要なのだが、経産省や科技省の官僚は欧米でハヤリの技術のサルマネに忙しいばかりで、自分たちの足元に転がっているダイヤの原石には目をくれようともしないのである。

/P太拝