「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

当ブログの内容は編集者個人の見解であり、「市民の会」の公式見解ではありません。当ブログへのリンク、記事内容の引用等はご自由に!

中国の台湾侵攻の可能性について(4) -日本の安全保障体制-

(1)「台湾有事」の際に日本が攻撃される可能性

 前回で述べたように、米国内の世論を考慮すれば、中国が台湾に武力侵攻する際に、侵攻する中国軍を米軍が直接攻撃する可能性は低いように思う。ただし、武力侵攻時に当然予想される中国海軍と空軍による台湾への海上封鎖に対しては、米軍が干渉しようとする可能性は高いだろう。

 封鎖が長期間続けば、エネルギー、食料、各種資材の大半を自給できない台湾の敗北は明白だからである。台湾をみすみす見殺しにするようでは、西太平洋における米国の同盟国である日韓豪との間の信頼関係も崩れることにもなる。中国による台湾の併合後には、西太平洋全体がじわじわと中国の勢力圏内に組み込まれて行くことは確実だろう。

 中国の台湾侵攻に対して米軍が動けば、日本も「安全保障関連法」に従って自衛隊を出動させ米軍に対する支援を行うことになるだろう。その場合には、在日米軍基地と自衛隊基地、場合によっては民間の港と空港までもが、中国軍による攻撃対象となり得る。

 下の図に日本国内の米軍基地と自衛隊基地・施設(海自と航自のみ、陸自は数が多いので省略)の配置を示しておこう。(防衛省自衛隊の駐屯地と基地の一覧地図 より)

図-1 国内の米軍基地、自衛隊基地・施設

 自衛隊基地の中では、地理的に台湾に近く有事の出動が予想される南西諸島と九州の基地・施設が中国軍による攻撃対象となる可能性は高い。在日米軍基地は基地ごとに役割分担が違うので、その地理的位置に関わらず全てが中国軍の攻撃対象になり得る。


 自衛隊の施設の多くが通信用施設だが、現代の戦争では開戦後には真っ先に相手国の軍の通信施設が狙われる。いわば人体の神経系に相当する通信網を寸断しておいてから、眼と耳とをふさがれた敵の部隊を一個ずつ片付けていくというやり方である。数年前の鳥取市議会で海上自衛隊の通信施設を鳥取市内に誘致しようという動きがあったが、仮に誘致していたら有事の際には確実に狙われることになっただろう。ロシア軍のように敵が精密誘導装置の無いミサイルを大量に撃ち込んできた場合、施設周辺の一般民家も広範に被害を受けることは今のウクライナの現状に見る通りなのである。

 上の図を見た人たちの中からは、「日本が攻撃されかねないから、台湾有事の際には自衛隊は米軍に協力するな! 戦争に巻き込まれるな!」という声が挙がることは十分に予想される。しかし、台湾が中国のものになれば、台湾が領有権を主張して来た尖閣諸島も当然中国のものになる。

 これらの無人島の帰属よりもさらに問題なのが、日本列島と世界各地とを結ぶ主要航路が台湾東岸に設置された中国軍のミサイルの脅威にさらされるようになることである。

 台湾と同様にエネルギーも食料も自給できない日本にとっては、のど元にナイフを突きつけられたような形となる。軍事的圧力の元に政治的・経済的な要求を次々に突き付けてくるのがロシアや中国の常套手段である。当然、中国からの日本への各分野にわたる圧力は今以上に激しくなることだろう。

 「何事も『事なかれ主義』で済ませて決断を先送りしているうちに、将来、さらに危機的な状況を招いてお手上げになる」というのが、我々日本人の顕著な特徴なのである。将来に対する想像力を最大限に発揮するべき時期が近付いている。

 中国が台湾を海上封鎖する際には、当然、ネット経由の情報網も封鎖しようとするだろう。特に台湾や日本のような島嶼国家では、他国との通信の大部分を海底ケーブルを経由した光通信に依存している。

 下の記事によれば、この海底ケーブルは物理的に容易に切断可能とのことである。有事の際には台湾周辺の海底ケーブルが切断されるのみならず、日本が米国と共に台湾支援に動いた場合には日米間のケーブルの切断すらも想定しておかなければならないだろう。

 最近頻繁に報道されている日本近海での中国の海洋調査船の活動も、その目的の一つとして海底ケーブルの精密な位置の把握があるのではないだろうか。日本の場合、海外との通信で海底ケーブルによらない衛星経由等による部分の割合は、全体の通信量の1%でしかないとのこと。台湾有事の際には、政府と民間とを問わず、対外業務の大部分が長期にわたってストップする可能性がある。

「ヤバすぎる日本の海底ケーブル 台湾有事でネット接続全滅リスク」


 なお、戦争時に相手国の海底ケーブルを切断するという発想は、元々はロシア軍に由来するようだ。次の記事の2から3ページにかけての記載によると、ロシア海軍は海底ケーブル切断用の深海小型原子力潜水艦を既に配備済らしい。

「世界最強の攻撃原潜が就役、息を吹き返しているロシア海軍の潜水艦戦闘力」

(2)各国の「愛国心」の比較

ここでは、参考資料として各国のいわゆる「愛国心」について比較しておこう。世界各国の研究機関・大学が合同で、「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という問に対する各国別の回答を数年おきに調査している。

 ここで「愛国心」とカッコ付きにしたのは、筆者には「戦争に行くことでしか愛国心が発揮できないのか、他の行動で示してはいけないのか」という疑問があるからだ。単純に「愛国心」の調査というよりも、「自分自身に関わる問題として自国の戦争をどのように捉えているか」という姿勢に対する調査と言った方が適当なように思う。

 最新の集計結果を下の図に示す。また主要国別の推移も併せて示す。

 

図-2 各国の最新の回答の比較

 

図-3 各国の回答内容の推移

 

これらの図の出所は次の記事による。

「「国のために戦いますか?」日本人の「はい」率は世界最低13%…50歳以上の国防意識ガタ落ちの意外な理由」

 日本は「はい」の回答が世界で一番低いが、これには元の記事の解説にあるように、「交戦権を否定し軍隊を持たない」と規定した憲法第九条の影響があることは明らかだろう。「わからない」という回答が世界で一番多い点からもそのことがうかがえる。

 また、これも解説にあるが、日本、イタリア、ドイツと第二次世界大戦の敗戦国である旧枢軸国側に「はい」の比率が低いのも、先の戦争での悲惨な体験を反映しているのだろう。

 仮に、この調査の設問が「あなたの国が他国によって侵略された場合には、国のために戦いますか」との問いであったならば、ずいぶんと違った回答結果になったのではないか。この調査結果から、ただちに「愛国心を高めるために、憲法第九条を直ちに廃止せよ!」というような短絡的な主張をすべきではなかろう。

 中国で「はい」の比率が最近急増しているのは、グローバリズムを意味する「全球化」と社会安定の「和諧社会」とを指向した胡錦涛政権と、19世紀以降に失われた国のプライドを回復させようとする「中国の夢」の実現を指向する習近平政権の違いを明確に示しているように思われる。

 また、最近の中国報道を読んでいて気になるのは、大学生などの高度教育を受けている若年層、特に精華大学や北京大学などのトップクラスの大学の学生が共産党政権を強く支持する傾向が強まったことだ。胡錦涛政権の頃は、学歴が高い層になるほど、時の政権には無関心か、または批判的な傾向が強かったように記憶している。

 ちなみに、中国国内での軍の存在感は日本とは比べ物にならないほど大きい。筆者が中国で仕事をしていた頃、CCTV国営放送テレビの7チャンネルは国防と農業関連の専門チャンネルであった。休みの日にホテルでぼんやりとこのチャンネルを見ていると、例えば「白菜の栽培方法」を紹介した番組の後に「日本連合艦隊のミッドウェーでの惨敗の原因」に関する解説番組が出て来たりして結構笑えた。古くは「孫氏の兵法」の紹介から最新の「米軍の配置の現状」の解説に至るまで、軍事情報が満載のチャンネルであった。

 高速道路には軍専用のレーンが設けてあって、激しい渋滞が続いていても、軍関係の車だけは渋滞を横目に高速で通過していく。街を歩くと、今は人民解放軍の下部組織に組み込まれているが、国内治安担当の「武装警察」の隊員が鋭い目であたりを見回しながら歩いているのをよく目にした。迷彩服姿の彼らを目にすると、やはり何がしかの緊張感を感じてしまうのであった。

「中国の愛国教育、習体制で先鋭化 幼児に「訓練」も」

 中国の近年の経済発展が若者に国への信頼を深めさせたことは間違いないが、今後は一転して中国経済の停滞が、特に若年層を集中して襲うことになるだろう。現在は国民からかなり信頼されている習政権も、今後は加速度的にその信頼を失墜していくことだろう。そうなる前にということで、台湾侵攻計画を前倒しされてはたまらないのである。

(3)日本の安全保障体制について

 さて、我々にとっての一番の問題が日本の安全保障体制をどう構築するかという点である。

 過去には自衛隊の位置づけをどうするかが最大の問題となってきたのだが、筆者は以前から自衛隊の存在を認めるべきと考えて来た。この点では、いわゆる「護憲勢力」の考え方と異なっている。そうはっきりと思うようになったのは、やはり頻繁に中国に出かけるようになって、その軍事優先の実態を見てからのことである。

 米国、ロシア、中国などのいわゆる大国が、話し合いによってその領土を拡大したという歴史的な事実はほとんどない。大国の多くが、戦争か、または武力を背景とした威嚇によって少しずつその版図を拡げて来たのである。

 ロシアは毛皮を求めてシベリアを東進して少数民族を次々に支配下に納め、次には南進して、イスラム圏の中央アジア諸国や旧オスマントルコと何度も戦争を繰り返しては領土を拡大して来た。

 中国は清の時代に新彊ウイグルの武力併合などによって最大版図に達したが、満州族が建てた清王朝が獲得した領土を、古代から「中華民族」に属していたと現在の漢民族を主体とする共産党政府が主張するのには無理がある。そもそも「中華民族」という概念は、現在の中国領土をむりやり保持するために作り出された概念に過ぎない。

 現在の中国とは、漢民族の本土と、その実質的な植民地であるところの内蒙古、新彊ウイグルチベットとを合わせた複合体であると言ってよいだろう。この点で現在の中国は、戦前の大日本帝国が、日本列島本土と、その植民地である朝鮮半島、台湾、満州国、(旧琉球国の国民や北海道のアイヌ民族も植民地の中に含まれるだろう)から成立していた構図にそっくりなのである。一等国民である本土民が植民地に続々と移住し、各民族固有の言語を奪っては本土の言語・習慣を強制し、彼らを二等国民とみなして差別して来た点もウリ二つである。

 米国も大国の例にならって、主に戦争でその領土を拡大して来た。1776年の英国からの独立後、先住民を武力で屈服させ、また英国やメキシコと戦争を繰り返しながら領土を拡大させてきた。米国がロシアや中国と異なるのは、領土のかなりの部分をフランス、スペイン、ロシアから買収して来た点である。例えばアラスカは1867年にロシアから買収している。当時の技術と物流の水準では、アラスカから入手できる商品は野生動物の毛皮くらいしかなかったからだろう。

 現代の米国には領土をさらに拡大する意図は希薄である。軍事、情報産業、金融で圧倒的な技術と影響力とを持つことで、米国は領土主権には関係なく世界中から利益を得る手法を既に習得済みだからだ。先進国の多くが米国にならってこの分野での競争に励んでいる現在、今さら戦争で領土を獲得しようとしているロシアなどは、明らかに前世紀の遺物の代表的存在であると言ってよいだろう。

 ただし、過去の世界の歴史を踏まえれば、依然として戦争によって領土を、或いは経済的な利益の提供を相手国に強制しようとする国は、ロシア以外にも今後も出て来るだろう。個々の人間が善と悪の両面を持つからには、国家も善と悪の両面とをあわせ持つのである。

 起こり得る最悪の危機を想定して、あらかじめそれに対する準備をしておくのが政治の役割である。平和への願望を述べるだけで、起こり得る危機への対処方法を考えず、そのための具体的な準備もしないのでは、宗教団体と何ら変わりはない。例えが適切かどうかはわからないが、いつなんどき対向車が突っ込んでくるかも知れないのに、「自分は絶対に事故には会わない」と信じて保険に入らないドライバーのようなものである。

 さて、以下に、筆者自身の日本の安全保障に対する考え方の変遷を記しておこう。2015年9月に安保法制法案が国会で成立し、その後はこの法律の撤廃を求める運動が全国で盛り上がった。鳥取県内でも2016年6月に鳥取市内で撤廃を求める集会が開催され、筆者も参加した。この集会の概要については、参加した当日に当ブログで報告している。

「「憲法シンポジウム 県民集会+パレード」に参加しました」

「お前は、自衛隊の存在を容認しておきながら、自衛隊が米軍を支援する安保法制案に反対するとは何事か?」と言われそうだが、筆者の当時の考えは以下であった。

憲法第九条は「日本は軍隊を持たない」と規定しているのに、実際には自衛隊という名の交戦可能な軍隊が既に存在している。これが第一の矛盾である。
憲法上は軍隊を持っていないはずの日本が、有事には米軍に軍事協力するというのは更なる矛盾である。
安倍内閣(当時)は、まずは正々堂々と国民に自衛隊の存在の是非を問うべきである。憲法と国の実態との矛盾を放置したままで、小手先の法律成立で国民を誤魔化すことは許されない。

 

 上に述べたように、当時の筆者は既に憲法第九条の改定(自衛隊に関する規定の追加)を容認する考えを持っていた。この集会に参加した際、同じく参加していた某団体の方から「政府は平和憲法を守れ」という内容への署名を求められたが、上のような考えを述べて丁重にお断りした。筆者と同様な考えを持っていた人がこの集会の参加者の中にもかなりいたのだろうが、その割合はよくわからない。

 さて、この集会に参加して一年以上もたってから次の記事を読んだ。一読して目が覚める思いがした。この記事がきっかけで、それまでの日本の安全保障に対する自分の考えを根本的に転換することとなった。

「「9条は全面削除しても何の支障もない」 戦争を放棄したのは日本だけではない」

 この記事で紹介されている篠田英朗・東京外国語大学教授の主張の概要を以下に示しておこう。

・「戦争放棄」は日本国憲法だけが規定しているのではなく、元々、1928年に日本も含めて主要国が締結した「不戦条約」と、第二次大戦後に成立した国連の「国連憲章」にその主張が明確に定められている。
( 国連憲章 2条4項 :すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。)

・したがって、日本も含めて、不戦条約に署名した全ての国、国連に加盟した全ての国には戦争を放棄するべき義務がある。(ただし、戦争を始めた国に対する実効性のある罰則はない。)

・集団安全保障と自衛権に基づく武力行使は「戦争」には該当せず、集団安全保障と自衛のための戦力を持つ権利は、不戦条約と国連憲章に同意した全ての国が有している。ゆえに、現在の日本国憲法のもとで、外国からの攻撃に対して日本を守るための自衛隊が既に存在していることは「違憲」ではなく、何の問題もない。

・日本は現憲法の元で既に70年以上も平和国家として国際的に貢献して来た。国連に加盟している以上は、戦争放棄を既に了承し、かつ自衛権を持つことも保証されているのだから、憲法九条は削除してもかまわない。ただし、国際的に誤解を招く恐れもあるから、現行のままであってもさしつかえはない。

 

 要するに、「外国からの攻撃に対して日本を守るためには、憲法を改正して自衛隊の存在を公認する必要がある」という主張は、不戦条約と国連憲章の内容を未だによく理解できていない人たちが言っていることだということになる。

 既に解決済のことを、ことさらに選挙のスローガンとして声高に主張しようとするのは、意図して国民を特定の方向に誘導しようとするポピュリズムの一種と評すべきなのかもしれない。憲法九条に関する不毛な論争は、もういい加減にやめるべきだろう。なお、最近政界の一部で唱えられている「先制攻撃容認論」は自衛権の範囲を超えるものであり、不戦条約と国連憲章とに違反していることは明らかである。

 

(4)「核共有」論について

今年の三月に安倍晋三元総理が「ウクライナNATOに入って欧州のように核共有していれば、ロシアの侵攻のようなことは起こらなかっただろう」との発言をした。

「「核共有」安倍元首相 “現実直視し日本も議論進める必要ある” 」

この「核共有」という制度の内容についてあらためて見ておこう。

wikipedia「ニュークリア・シェアリング」

上記の解説の「歴史」の項を読めばわかるように、欧州の核共有制度は冷戦の時代の遺産とも言うべきものである。ソ連崩壊の前には480個の米国の核兵器が欧州に配備されていた。現時点では核爆弾100個に削減されている。まだロシアがどう出るのかはわからないので、とりあえず幾分かは残しておこうというものである。

日本には「非核三原則」があり、核兵器はつくることも、持つことも、外部から搬入することも禁止すると国際的に宣言している。この原則を破って米軍の核兵器を国内に持ち込んだらどうなるか。敵国からの攻撃の際には核兵器を置いている基地が真っ先に核攻撃の目標となることは明白だろう。(提唱者に敬意を表す意味で山口県岩国基地が適当かもしれない。)

 このシリーズの二回目で既に述べたように、日本が中国やロシアと全面核戦争を戦っても到底勝ち目はないのである。数発の核兵器を持っている程度では抑止力にはならない。かと言って、中国に対して戦おうとする日本のために、米国が全面核戦争に踏み込んでまで支援するとは到底思えない。「通常兵器は支援するが、被害が米本土まで及びかねない全面核戦争には、とても付き合えない」というのが正直なところだろう。

 ロシアについては、そもそも彼らには天然資源をほとんど持たない日本を攻撃して占領する理由が無い。北方領土については既に実質的に占有済なので、後は日本人がそのことを忘れてくれるのを待っていればよい。日本については、時々武力で威嚇することで、技術と資金面でロシアに協力させればそれで十分と思っていることだろう。

安全保障の専門家の意見も、総じて日本の核共有については否定的である。

「米の核専門家が詳説「安倍元首相が提起の核共有、日本の安保にメリットない」」

 

 そもそも日本、韓国、台湾の東アジア三カ国は、他国との円滑な貿易なくしては経済的には国の存続が不可能なのである。農業生産性の高い水田耕作を長年続けてきたことで、人口稠密となると共に協調性と勤勉性が養われ、近代産業、特に製造業に適した人材を大量に生み出すことで経済発展を遂げることができた。しかし、その結果として狭い国土に多くの人口を抱えるようになったために、海外からの資源の輸入なくしては現在の生活水準が維持できない経済構造となってしまったのである。

 これら三か国のエネルギーと食料の自給率が著しく低いことはこのシリーズの第二回目で既に見た通りだ。三カ国が得意とする製造業においても、素材となる鉄以下の金属原料や、化学原料の大部分を海外からの輸入に頼っているのである。

 仮に、今後、日本が核武装に踏み切ったと仮定しよう。唯一の被爆国である日本ですら核武装したとなれば、世界中の国に自国も核武装してよいというお墨付きを与えたようなものだ。日本に続いて韓国も核武装することはほぼ確実である。

 世界のあちこちで、特に国家間の対立が激しい中東やアフリカで小規模の核戦争が始まりかねない。結果的に世界各国の関係は複雑化し、世界経済は第二次世界大戦前と同じくブロック化の度合いを強めるだろう。自由な貿易なくしては国の現状すら維持できない日本にとっては、最悪の展開となるだろう。

 独裁傾向の強い政治家ほど核兵器を持ちたがる。その代表的存在が今年二月に亡くなった石原慎太郎であった。安倍晋三氏が突如として「核共有」の議論を持ち出したのは、自分の支持者に向けて進軍ラッパを吹いて勇ましい姿勢を見せただけのことなのだろうが、核共有が持たらす結果を熟慮した上での発言ではなかったことも確実だろう。その点では、いかにも彼の持つ資質にふさわしい発言であったと言えるのかもしれない。

 今年の秋に習近平の三期目続投が正式に決まったならば、中国に進出している日本企業は台湾有事時のリスク回避の具体策の検討を早急に始めるべきだ。少なくとも中国への新規投資は棚上げするべきだろう。

 また、日韓米政府と欧州諸国とが連帯して台湾侵攻後の強力な経済制裁内容を事前に中国に突き付けておけば、習近平もある程度は侵攻を躊躇する可能性はあると思うが、どうだろうか。

/P太拝