「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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三代ごとに政府が潰れる国(3)-犯罪の発生傾向-

先回は戦後日本の政治の劣化について見てきました。では、戦後の日本の社会面はどうなのでしょうか。社会が安定に向かっているかどうかは、その国の犯罪件数の増減で判断することができるでしょう。今回は主に戦後の日本の犯罪件数の推移について調べてみることにしました。

 

(1)各種犯罪件数の推移

下の図に交通事故も含めた戦後の各種犯罪の推移を示す。ここで窃盗とは、脅迫によらずに人の金品や財物を盗むことを指しており、空き巣狙い、ひったくり、万引き、置き引き、スリ、横領、車上荒らし、自転車・車泥棒、盗電等を指している。窃盗を除く刑法犯とは、殺人、傷害、強盗、放火、強姦、痴漢、暴行、詐欺などの犯罪を言う。過失運転致死傷等は、死傷者が出た交通事故を指している。

図-1 各種犯罪発生率の推移  歯(図・表はクリックで拡大、以下同様)

警察庁の統計及び総務省統計局の人口資料による-

この図によると、各種犯罪ともに2000年前後に急速な上昇がみられるが、これは1999年以降に警察庁が複数の通達を出して、「警察が犯罪被害者の相談に積極的に応じる」ように方向転換したためだろうと言われている。

この通達によって軽微な事案の届け出が急増したものの、実際の検挙人数はほぼ減少傾向にある。このグラフの縦軸の「認知件数」とは警察が届け出を受け付けた数であり、必ずしも実際に犯罪が発生した数ではない。

一例として窃盗の推移を見ておこう。下に示すように、認知件数は2002年にピークを示しているが、検挙件数も検挙人員も年々減少する傾向にある。検挙件数が検挙人員よりも多いのは、一人の犯人が複数の犯行に関わっていたためである。

図-2 窃盗の認知件数、検挙件数、検挙人員の推移


出典元:「なぜ犯罪は減少しているのか」龍谷大学 浜井浩一 2013年 。

以下、最も凶悪な犯罪である殺人罪について見ておこう。調べてみるまでは知らなかったが、意外にも、殺人の被害者も他の犯罪と同様に減少傾向にある。

図-3 戦後の他殺、自殺による死亡者数の推移
 

この図で、他殺者数が減少する一方で自殺者数が増加傾向にあることに注目されたい。また、自殺者と失業率の強い相関も明らかだ。1990年代からの「バブル経済崩壊」と「就職氷河期」に伴って失業率は増加、それに伴って自殺者数も増加した。2010年代に入って団塊世代が順次退職したことで、一転、人手不足となって失業率は下がり、それに伴って自殺者数も低下して現在は小康状態となっている。

しかし、今後に経済が再度不振になれば自殺率も再び上がるだろう。自殺率に注目する必要があるのは、最近増えて来た「通り魔事件」や「大量殺人事件」と自殺との関係が明白だからである。この点については後ほど触れることにしたい。

さて、日本での他殺者数は年々減少傾向にあるのだが、他の国ではどうなのだろうか。これも予想外だったのだが、この殺人事件数の減少傾向は全世界的に共通であった。

主要国の他殺率の長期推移を次に示す。銃規制が出来ず毎日のように大量殺人事件が発生している米国以外では、他殺率は長期低落傾向にある。

図-4 主要国の他殺率の長期推移

より多くの国の他殺率の傾向も見ておこう。
図-5 近年の他殺率の推移(国際比較)

これらの図から各国の2019年(一部の国は2018年)の他殺率を読み取り、その国の2021年の一人当りGDPとの関係を調べた。結果を次の図に示す。

図-6 各国の他殺率と一人当りGDPの関係

事前に予想していた通りなのだが、一人当りGDPが高い国、つまり豊かな国になるほど他殺率は低い。ただし、地域ごとの傾向があり、仮に一人当りGDPが同程度であっても、欧州とアジアでは他殺率は総じて低く、北米・南米とアフリカは高い傾向がある。

北米・南米で他殺率が高いのには麻薬等の薬物中毒の影響が大きいようだ。他殺率の差が極めて大きいために縦軸は対数目盛としたが、この図中で最高のジャマイカの他殺率は最低のシンガポールの237倍にもなる。

余談だが、この図を見ていてあらためて感じるのが日本の経済の長期停滞だ。一人当たりの名目GDPで日本がシンガポールに並ばれたのは20年くらい前だった印象があるが(実際に調べてみたら1997年だった)、今では約二倍近い差がついてしまっている。

この図のGDPは2021年時点のものだが、昨年来の円安もあって、現時点ではすでに韓国にも抜かれているのかもしれない。
「一人当たりの名目GDP(USドル)の推移(1980~2022年) (韓国, 日本)」

 

(2)最近は若年者の犯罪は減り、高齢者は逆に増加

日本国内の犯罪の傾向についてもう少し詳しく見ていこう。最近の国内犯罪の特徴は、若年層の犯罪が減って高齢者の犯罪が増加していることである。

30歳以下の若年層が犯罪者の過半を占めているのが従来の常識だったが、最近ではこの常識が通用しなくなって来ている。以下、上に示した竜谷大の浜井氏の論文の内容に沿って紹介していこう。

下の図は、各年齢層千人当たりの窃盗犯の検挙人数を示したものである。年代と共に日本の総人口における各年齢層の比率は変化するが、このグラフについては各年齢層を一定数の千人に固定しているから、図に示した値をそのまま見比べることができる。

図-6 人口千人当たりの各年齢層別の窃盗犯検挙人員の推移

全体としては1990年代に最も窃盗犯が減っており、若年層については、いったん急激に低下してから近年になって再び増加する傾向となっている。しかし、50代以上に関しては徐々に増加傾向にあり、特に60代以上に限るとほぼ一貫して増加が続いている。

この背景には、当然だが高齢者の生活困窮があるのだろう。「年金だけではやっていけないので、つい手が出て万引きしてしまった」というようなケースが増えていると思われる。何十年も前から当然予想できたはずの高齢化に国の年金制度改革が追い付いていなかった結果がこれである。政治家と行政の不作為がこんなところにも表れている。

 

次に年齢別殺人犯の推移について見ていこう。次の図は1970年と2005年における各年齢層十万人当たりの殺人犯検挙人数を比較したものである。

図-7 人口十万人当たりの各年齢層別の殺人犯検挙人員の推移

16歳から49歳にかけての年齢層では殺人犯が明らかに減っているが、15歳以下と50歳以上では逆に増えている。この最近の傾向の背景については、上述の論文の中で浜井氏が以下のように述べている。

・最近は「青年層が人を殺さなくなった」。むしろ50歳以上で殺人犯が増えている。
・1949年公布の経済的理由による妊娠中絶を認めた「優性保護法」改正が大きく影響している可能性がある。
・当時、妊娠中絶を認めた当初の目的は、急激な人口増加の抑制、妊娠・出産・育児による貧困化の防止、生活保護費の抑制による財政支出の削減、食糧難の解消等にあった。しかし、結果的に「貧乏人の子だくさん」が減ったことで、家庭内殺人の大きな要因である貧困問題がかなり解消されたのかもしれない。

 

また、同じ論文の中では、世界的な殺人事件の減少傾向について、米国の著名な心理学者であるスティーブン・ピンカー氏の以下の主張が紹介されている。

・現在、我々は人類史上で最も暴力の少ない社会に生きている。欧州では西暦1200年頃から殺人率が減少していることが、様々な資料から明らかである。
・犯罪による殺人のみに限らず、戦争や死刑、拷問による死も長期的に減少してきている。
・これらの事実は、人類が種としても社会としても発展して来たことで、あらゆる意味での暴力を回避する傾向が強まった結果である。
・政治、教育、経済、国際化の発展が復讐や暴力への衝動を制御し、理性の力で暴力への誘惑を減退させることに成功した。
・我々の中にある「内なる悪魔」と「よりよき天使」の戦いで後者が勝利して、人類は暴力を克服しつつあることの現れである。

ピンカー氏はユダヤ系の家系の出身であり、ユダヤ教から派生したキリスト教と同様に、この世界を善と悪の戦いの場と捉えているようだ。「悪を滅ぼして善が勝利することが人類の目標」との考えのようだが、この考え方はどうも筆者にはしっくりこない。というのも、自らを完全な善と自称する勢力が、彼らが悪と呼ぶ集団に対して残虐非道な行為を行った事例は、世界史上にはあまたあるからである。

自分としては、「人間には善と悪、陽と陰、光と闇の二面性があり、それを上手に制御できるようになることが目標」というように考えたいが、これは東洋的な思想傾向なのかもしれない。

生物学的に考えてみても、数十万年、数百万年の以前から他の動物や人類の他の種族との闘争のために必要であり、遺伝的にも保持されて来た人類の暴力性・攻撃性が、わずか数世代~数十世代で急速に消滅するとは思えない。ただし、世界史上でたびたび発生した、敵対勢力に対する大量虐殺のようなことが起こった後では、そのような結果となることもあるのかも知れない。

なぜ、最近は犯罪が急速に減りつつあるのか、自分なりに考えた仮説を以下に二つ挙げておこう。

 

① 情報化社会への爆発的進展

筆者が小学生となった1960年前後までは、我が家にまで届く情報メディアはラジオと新聞の二つしかなかった。ラジオでドラマを聞いても音声から各場面を想像するしかないのだが、今から思えば子供の想像力を育てる上では効果的だったのかもしれない。当時、ラジオドラマの「赤胴鈴之助」に熱中していた記憶があるが、先ほど調べてみたら自分が小学校に上がる以前の番組であった。

その一、二年後には二軒先の家に近所で初めてテレビが入った。夏休みの間、夜になると近所の人たちと一緒にその家の窓越しにテレビ番組を見せてもらっていた。その頃に「恐怖のミイラ」というホラー番組があったが、それを見た後は自分の家までのわずか十数mの暗闇が恐ろしく、全力で走って一目散に玄関にたどり着いた記憶がある。番組の内容は全然覚えていないのだが・・。

近所に負けまいとして親父が頑張ったのか、その年の冬には我が家にもテレビが入ったと記憶している。それからは一家全員でテレビに熱中した。

当時はプロレス中継に興奮し過ぎてテレビの前で急死する年寄りが全国で続出。我が家でも、同居していた祖母が金曜日の夜になるとテレビの前に座り込み、「力道山 対 噛みつきブラッシー」などの試合に細い腕を振り回して大興奮しながら日本勢を応援していた。「急死するんじゃ?..?」と心配して見守っていたものである。(明治生まれの祖母は在日韓国・朝鮮人に対する差別意識が強かったが、力道山朝鮮半島の出身者だとは知らないまま、三十数年前に亡くなった。それで良かったのか、悪かったのか。)

あれは多分、戦争で負けたアメリカに対するプロレスの場を借りての復讐戦の意味合いが強かったのだろう。興行側は敵役としてアメリカ人選手ばかりを集め、それに強く反応したのが戦争で辛酸を舐めた中年以降の世代であった。

テレビの出現で「憎むべき敵」が一気に増えた。東京五輪の女子バレーボール決勝戦で日本と対戦したソ連チーム、柔道のヘーシンク、V9巨人軍等々(小学生当時、周りの友達の大半が頭の上に載せていたのは、巨人軍を天敵とする阪神の野球帽であった。南海ホークスの帽子をかぶっていたのは、いつも筆者一人だけであった。)。

スポーツ、特に国家間の団体チームの対戦は、実際の戦争の代替行為に等しいと言ってもよいだろう。あるチームのファンになることで、一つの集団への帰属意識が生まれる。テレビ中継があるスポーツ、特に野球と相撲とが大人気となった。近所の子とのケンカを繰り返してガキ大将の座を獲得するよりも、少年野球の大会でホームランを打つことの方がはるかにカッコよくなったのである。

現在の筆者自身もラグビーやサッカーの代表戦は必ず見てしまうクチである。特定の企業や地域に対する思い入れは特には無いので、応援するとしたら国の代表チームくらいしかないということもある。なお、野球のWBCには今までは全く興味がなかったが、今年の大会では各国のトップ選手が勢ぞろいすることもあり、大いに楽しみたいと思っている。

代表戦の観戦中は大いにナショナリズムを発揮したいが、終わってしまえばラグビーノーサイド精神に戻りたい。レベルが高ければ他国同士の試合も楽しみだ。実際、昨年のサッカーW杯決勝戦のアルゼンチン対フランスの試合は、今まで見たサッカーの試合の中では最高の内容であった。

サッカーの試合に負けて実際の戦争を始めた国が以前にあったそうだが、本当のバカというしかない。「ウクライナ戦争なんかしないで、サッカーの試合で済ませろよ」とロシアには言いたいものである。

ネットが普及して個人からの発信が可能になると、さらに敵となり得る対象が急速に拡大した。政治家、役人、大企業、外国、タレント、スポーツ選手やチーム、はては自分の同級生に至るまで、炎上させる相手には事欠かない。

ネット経由で相手を攻撃することで、自分の脳内に発生した攻撃衝動の大半が発散消費される。人を殺して見たくなったら、戦争ゲームをやればとりあえずは闘争本能を満足させることができるのである。

スマホやパソコンに向かってさえいれば、攻撃本能の大半が満たされるようになってしまった。身近な家族、同級生、先生などを実際に殴ってストレスを発散させるまでもない。リアルな世界で暴力を振るうのはめんどくさいし、実際にそれをやったら刑務所にぶち込まれかねない。刑務所に入ったら、SNSも、戦争ゲームもできなくなってしまうのである(フィリピンの刑務所なら出来るのかも)。

これが世界的に犯罪が急減しつつあることの理由だろう。ただし、金銭や物品に関しては、スマホ経由で手に入れるにはかなりの技術と知識とを必要とする。暴力犯罪が急速に減少する一方で、万引きや置き引きなどの窃盗犯はむしろ増加するのかもしれない。

図-6で示した「他殺率と一人当りGDP」の相関関係も、以上で述べた考えを支持しているように思う。裕福な国ほど国民が利用できる情報メディアは多岐にわたる。豊富な情報に接することで、自らの内にある暴力性を客観的に見つめ直す機会も多くなるだろうからである。

 

②世界共通現象としての男性ホルモンの急減

世界各国で男性の精子の数が急減していることは既に広く知られている。これも各国の少子化の要因のひとつなのだろう。精子をつくるためには男性ホルモンの一種であるテストステロンの濃度が一定量必要だが、その濃度も減ってきているそうである。

「ヒトの精子の減少加速 70年代から6割減、打つ手見えず」

テストステロンと言えば男性の外見を男らしくするホルモンであると同時に、その攻撃性にも関係するとされていることが多い。そこで、「テストステロン+攻撃性」で検索してみると、意外にもその関係については否定的な記事が多かった。

ただし、これらのサイトはサプリメント販売を目的とするものが大半であった。どうやら筋肉増強の目的でのテストステロン入りのサプリメント販売が、既に一定規模の市場を獲得しているようだ。「このサプリを飲むと人への攻撃性や支配欲が増します」なんてことは販売する上では到底書けないから、否定的な研究結果を集めて記事を作っているのだろう。

そこで、サプリ販売には関係なさそうなサイトに限定して調べてみると、やはりテストステロンと攻撃性との相関関係は有意に存在しているようである。

「テストステロン -wikipedia- 攻撃性・犯罪性の項目」

・「ほとんどの研究は、成人の犯罪性とテストステロンの関連性を支持している。(ただし、)少年の非行とテストステロンに関するほとんどすべての研究は有意ではない。また、ほとんどの研究では、テストステロンが反社会的行動アルコール依存症などの犯罪性に結びつく行動や性格特性と関連していることが判っている。」

・「テストステロンと支配性の間には直接的な相関関係があり、特に刑務所内で最も暴力的な犯罪者はテストステロン値が高いことが研究で明らかになっている。」

「男性ホルモンは人間不信を高める:研究結果」
・「テストステロンは、信頼を減じ、警戒心を抱かせて用心深くさせる」

これらの研究結果から、最近の男性のテストステロン分泌量の減少が「精子の減少」を招くと同時に、「犯罪発生率の減少」をも引き起こしているとの仮説が成立すると思うのである。

さて、殺人事件が年々減少しているというのは、今回調べてみて判った意外な事実であった。ただし、犯罪面に関する我々の現在の一番の関心事とは、最近頻発する「通り魔事件」や「無差別大量殺人」のように、自分が攻撃されるいわれが無いのに、ある日突然に命を奪われかねないという不安感なのである。

次回はこの点について考察してみたい。

/P太拝