「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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平井県政の二期八年を検証する (3) -企業誘致、ナノ社の場合(1)-

 県内経済の低迷が続く鳥取県にとって、今一番必要とされているのは雇用の確保です。筆者の周囲でも、都会の大学に子供を進学させたが、県内に就職先がないためそのまま都会で就職してしまったという話が実に多い。少子化の上にさらに若者の流出が続いては、自分たちの街の将来に希望が持てるはずもありません。県外から企業を誘致して来て雇用を確保するというのが、一番即効性のある対策なのですが、平井県政はこの問題にどのように取り組んできたのでしょうか。
 
 県内への企業誘致で最近では最大の話題となったのは、なんと言っても電動自動車メーカーのナノオプトニクス・エナジー(以下、ナノ社)の米子市への誘致の件でしょう。この件について、以下、新聞やネット上で報道された内容を時系列的にまとめてみました。
 
・第一期 「マスコミを通じて派手に計画発表」
 
2010.3.24 「米子に電気自動車専門工場、来春稼働。年間10万台目標。ベンチャー企業シムドライブが開発したEVを量産化」
 
2010.3.29 EV工場、米子市進出で県・市と調印。五年間で地元雇用800人、2015年度に売上一千億円。高級スポーツカーを量産」
 
 
 
20103月に電気自動車会社が米子市に進出とのニュースを聞いた時には、本当にびっくりしました。「なんで米子に?」と思いました。というのも、車メーカーが車関係の部品メーカーがほとんど無い場所に進出することなど、普通はありえないことだからです。そんな場所に組み立て工場を建てても、部品の開発にも調達にもコストがかかって仕方がない。当時、筆者はまだ電気関係の技術者としてメシを食っていたので、「少しはこちらにも仕事がまわるかも・・・」という期待もあり、少し背景を調べてみることにしました。
 

①調べて分かったこと。

米子市進出の理由はすぐ判りました。藤原社長が米子市出身だったのです。「故郷に錦を飾りたかったのネ。」といちおうは納得。
 
②調べて疑問に思ったこと。
 
(1) 藤原社長は京大の天文学科の出身であるが、ソフトウェア業界での経歴が長い。パソコンソフト業界でかっては非常に有名であったアスキー社に在籍していたこともある。しかし、製造業の経験は天体望遠鏡関連装置の開発経験がある程度らしい。EV車はガソリン車に比べれば部品点数は少ないが、それでも部品の数は数万点もある。この社長の経歴を見る限り、彼が中心になってEV車の量産をコントロールできるとはとても思えない。車の生産に長く関わってきた優秀なエンジニアを多数確保していなければ、安定した生産はとうてい無理。その準備はできているのか?
 
(2) 車の開発にはとても時間がかかる。新規部品を採用する場合には、検討開始から量産までに四年程度はかかるのが普通。電気製品に比べて車の開発期間が長いのは、信頼性の確認に時間を要するためである。電気製品は火災を起こさないことに留意するだけで大方は済むが、車の不具合は人が死ぬことに直結するので大変なことになる。最近エアバックの不具合で話題になっているタカタ社のように、死亡事故を起こすと本当に会社がつぶれかねない。ナノ社は一年後に量産開始すると言っているが、そのためにはこの進出発表の時点で、すでに量産直前の状態に近い試作車を十分に走らせて問題点のほとんどをつぶしておかなければならない。その段階まで完了しているのか?
 
(3) シムドライブ社は慶応大学の清水浩教授が立ち上げたEV専門のベンチャー会社であり、’00年代中ごろには車輪が八つもある怪物のようなEV車エリーカがマスコミで何度も話題になった。報道内容を見る限りは、この車の量産化を狙っているらしいが、あのような特異な車が、本当に年に一万台も売れるのか?市場調査はしたのだろうか?
 
 調査した結果は、どうもマユツバっぽいなという印象でした。その後は、筆者自身あまり鳥取にいなかったこともあり、この件についてはすっかり忘れていました。
そういえば、この発表の一、二年後に、昔の職場の同僚がモノ好きにも米子まで様子を見に行ったものの、「外から見たが、工場はガラガラで操業しているようにはとても見えなかった」と話していたのを聞いた記憶があります。当然、進出一年後に操業開始との計画はホゴになってしまいました。
 
第二期 「EVから方針変更、福祉車両へ」
 
 次の展開を知ったのは、発表から三年も経った2013年の4月のことでした。日本海新聞に次のような記事が載っていました。八輪のEV怪物車エリーカの量産は、いつの間にか立ち消えになってしまったようです。
 
2013.4.12 「超小型モビリティの開発二号車を発表。また、三月に発表したソファ型の一号車を発売開始、価格は180250万円。年間二千台が目標。」
 
 思わず笑ったのは、この開発二号車です。次のサイトに写真が載っているので見てください。平井知事が笑顔で乗っているが、この車がなんとも格好が悪い。いわゆる板金加工で鉄板を折り曲げただけの試作車で、工業高校のクラブ活動でも似たようなものは造れるでしょう。これから量産車のイメージを想像することは到底不可能。ナノ社も、知事も、「鳥取県民のレベルなら、こんなモノで十分にダマせる。」と思ったのかも知れない。
この写真一枚から、ナノ社には、出資者である県と、マスコミに評価してもらうためには極めて重要であるはずの試作品にかけるおカネすら無いこと、量産までの道のりがはるかに遠いことがよくわかる。モノつくりの内容と手順がわかっている人物であったら、出資者としてこんな車に乗せられて、マスコミに写真を撮られることを断固拒否したはずです。まあ、元々が、彼自身の身から出たサビなのです。
 
 
 さらに一号車の販売価格が高すぎます。実際に商売することを想定して付けた値段とは、とても思えません。このソファ型一号車の詳しい仕様は発表されてはいませんが、似たような用途の電動車椅子(最近はお年寄りや障害者の方が乗っているのを路上でよく見かけるようになった)の価格は、高い物でも40万円くらい、安いものでは十数万円です。
 このような市場の相場の中で、百万円以上もするこの一号車をあえて購入するのは、知事から購入を命じられた公的機関か、県へのゴマすりが目的の民間団体だけでしょう。このような競争力の全く無い製品を無理して購入することは、結局、税金の無駄遣いをさらに増やすことになるだけです。

 このソファ型量産車のことは、次のサイトにも載っています。
 

(ここがナノ社の公式ホームページ)

(以下、次回へ続く)