「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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平井県政の二期八年を検証する(6) -湖山池汽水化事業(1)-

失敗続きの平井県政の中でも、最大の失敗事業となりそうなのが、2012年から始まった湖山池の汽水化事業です。以下、この事業の内容を調べてみたいと思います。
 
① シジミが欲しくて、池を海に変えた?
 
 県と市の公式説明では、この事業の主な目的は、近年増えてきたアオコとヒシを根絶することとされています。しかし、その真の目的は、湖山池の水を従来の塩分が海水の1/20以下と薄い状態から、東郷池のような海水の数分の一の塩分の汽水湖に変えて、シジミが採れる池に変えることであると断定してよいと思います。
 
 そもそも、池のヒシやアオコを根絶するためと称してほぼ淡水状態であった池に海水を導入した事例は、鳥取市湖山池が日本近代史上初です。鳥取県鳥取市がこの事業で行なったように、ヒシを根絶することが目的と称して、行政自らが池の塩分濃度を一気に上げて環境を激変させ、従来池に生息していた生物を皆殺しにしたような事例は日本国内では前代未聞。おそらく、世界の先進国でもこんな例は無いでしょう。今後、この湖山池汽水化事業は、環境行政上におけるもっとも愚劣な事業として、今後何世紀にもわたって、世界中の環境行政の教科書に記載され続けることになると予想します。
 
 まず、国内各地の自治体が、ヒシ繁茂に対してどのような政策を取っているかを確認してみたいと思います。
 
長野県諏訪湖では、行政がトヨタなどの企業の協力を得ながら、ヒシを刈り取り堆肥化して周辺の農家やNPO法人に配布する事業を毎年実施中です。
 
 また、福井県三方五湖でも近年ヒシの繁茂が問題になっていますが、下のサイトに示すように、大学と協力して、湖内に生息する植物・動物の相互関係を十分に調査・把握し、その結果を市民に公開しながら、落としどころを探る努力を続けています。この資料の3ページ目には、「ヒシは三方湖にもともとあった植物であり、今後もうまくつきあっていく必要があります」と明記されています。ここでも、栄養分を戸外に持ち出すためのヒシの刈り取り作業が毎年行われています。
 
 各自治体とも、大学の研究者等の学外の知恵を取り入れながら慎重にヒシ対策を進めています。その検討過程は上に紹介したサイトの資料に見るように、市民に十分に時間をかけて説明し、市民の合意を得ながら進められています。基本的には、ヒシを刈り取って湖外に持ち出すことで、池の富栄養化を防止しようというものです。
 
 一方、湖山池の場合、ヒシ対策の検討は全て鳥取県鳥取市が共同で開催する「湖山池会議」の中だけで進められてきました。この会議は県と市の幹部職員だけで構成され、外部の人間は傍聴はできますが発言は認められていません。鳥大などの研究者に対して、公開の場での検討依頼もありませんでした。当然、市民に対する十分な説明もありません。このような中で、突如、ヒシ対策のためと称して湖山池に塩分を大量に導入することが決定されてしまいました。
 
 なぜ、鳥取県鳥取市は、ヒシとの共存点、落としどころを探ろうともせずに、ヒシやコイやフナ、カラスガイやトンボ、その他の今まで何百年にもわたって湖山池に安住の地を見出していた無数の生きものたちを、海水を導入して一気に殺しつくすという暴挙に出たのでしょうか?筆者が見る限り、この愚かな事業を始めた最大の理由は、行政トップの「シジミに対する強い欲望」にあると考えます。
 
 元々、湖山池の水は過去数百年間にわたって塩分濃度が薄い状態にあり、シジミの生息には適していません。鳥大の鶴崎教授によれば、「古文書などによって池の漁獲物や植生を調べた結果、池の北東側の砂丘が発達して海との接続が絶たれた約400年前以来、湖山池の塩分濃度はずっと現在と同じ程度の薄い塩分濃度であった」とのことです。
 
県は、「汽水化で湖山池の環境が回復して良くなったので、シジミが採れるようになった」とさかんに宣伝していますが、過去の約四百年間に湖山池でシジミ漁が行なわれた記録はありません。唯一、現在の漁協幹部が三十年前にすでに養殖を試みたようですが、塩分濃度が合わなかったためか失敗しています。
 
最近の県の動きを調べてみたところ、湖山池の塩分濃度をシジミに最適な濃度に向けて一気に増やそうとする動きは、片山前知事が退任し平井知事が就任した2007年の直後から一気に始まっていました。具体的には次のような流れです。
 
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(1) 20074月に平井氏が知事に初当選。この前後の数年間は東郷池シジミは年200ton程度の漁獲高があり、関西の市場では「黒いダイヤ」ともてはやされていた。(後で資料を掲載しますが、その後東郷池シジミの漁獲量は激減。)
 
(2) 2008年から県栽培漁業センターが、突然、新規テーマとして「湖山池でのシジミ増殖試験」を開始した。それまでは、東郷池でのシジミ増殖事業を毎年実施していただけであった。
 
(3) 2008年から県園芸試験場にて三年間の予定で、「湖山池塩分導入にかかわる野菜への影響に関する試験」を開始。農業関係者に対する補償金を払うための理由づけが目的と推定。後で取り上げる予定だが、その試験内容はまことにズサン。
 
(4) 2010年に県衛生環境研究所で「ヒシに対する塩分影響調査」を実施。池に塩分を大量導入するための理由づけが必要だった。
 
(5) 20105月に平井知事と当時の竹内鳥取市長が意見交換会を実施。この時の合意内容に基づいて「湖山池会議」の設置を決定。
 
(6) 2010.6.25に第一回湖山池会議を開催。この時のメンバーは、県側のトップが河原正彦統轄監(現在は鳥取環境大学副理事長)、市側のトップは深澤義彦副市長(現在は鳥取市長)。
この湖山池会議は各担当からの報告が主であり、事業方針をめぐる議論はほとんどありません。毎度おなじみの行政主催の報道陣に対するセレモニーです。事業の方針に関する主要な議論は、非公開の場で、行政トップを含めた少人数で行われているはずです。
 
(7) 2010.10.29に第三回湖山池会議を開催。この会議で市民に対するアンケートを実施することを決定。このアンケートは’10年の年末に行われたが、塩分濃度が異なる四つの案を示して、そのうちのどれかを選択させるものであった。
ヒシ対策としてそれまで二年間実施してきたヒシの刈り取り・回収については、その効果の報告もなく、アンケートの選択肢の中にも無かった。つまり、この時点で塩分を上げるという方針が初めて表面に出てきたといってよい。
アンケートは極めて誘導的な内容で、現状よりも塩分濃度を上げた方が、池の環境がよくなるという説明が主であった。詳しい内容については下記サイトを参照されたい。このアンケートの結果だとして、池の塩分濃度の上限を海水の約六分の一に引き上げることが決定された。
 
(このサイトの(3)「過去掲載記事」の④「湖山池塩分濃度は、今どういう状態なのか?」の中に県と市が実施したアンケートの内容が記載されている。)
 
 
(8) 20121月 県と市が「湖山池将来ビジョン」を発表。この中では何の説明も無いままに、池の塩分濃度の上限が海水の四分の一へとさらに引き上げられていた。(管理幅の中央値がシジミ繁殖に最適な海水の六分の一になるように調整したものと推測。)
 
 上記の(2)~(4)に見るように、所属部門の異なる各試験機関に対して、湖山池汽水化を準備するための各種調査・試験の指示を次々に出せるのは、一部門の部長級だけでは絶対に不可能。当然、県政全体を統括するトップ、つまり県知事の主導、または承認のもとに実施されたとしか考えられません
 
 さらに、現在の汽水化事業の内容の中にも、「シジミに対する配慮」が最大限まで盛り込まれています。名目としては別の目的を掲げているものの、この湖山池汽水化事業の本質は、「シジミ養殖のための事業」にほかならない。
 
(9)この汽水化事業では、池の水の塩分管理目標をシジミ養殖の最適値(海水塩分濃度の1/6)に設定している。夏季中の塩分濃度がこの値から大幅にずれると、親貝が夏に産卵した卵が成長できずに死んでしまうからである。夏以外の季節であればシジミは、ほとんど海水に近い高塩分中でも、淡水に近い低塩分中でも生きられる。
 
(10)池東岸の浅場では、去年から「護岸を兼ねた浅場造成」と称して大量の砂で湖底を覆砂している。湖山池のシジミのほとんどは池の東岸付近で採れている。シジミは水深が浅く、かつ砂が多い湖底でないと生きられない。泥が多い場所ではシジミは生息できない。シジミの生息場所を増やして、生産量を増大させることが目的の覆砂事業であることは明らか。
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 さて、県と市は、累計で数十億円にも上る巨額の税金を投資して、湖山池をシジミ養殖池へと変貌させようとしています。その過程で、環境を激変させ無数の生きものを殺しており、生物多様性を最大限尊重するという最近の世界の環境行政の流れに全く逆行している最悪の事業と言ってよい。
 
 この事業はその点だけでも到底容認できる事業ではないが、そもそも湖山池でシジミの養殖は本当に可能なのでしょうか?事業として毎年安定して営めるものなのでしょうか?次回はその点について検証してみたいと思います。