「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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資本主義の終焉について(2)

先回の記事の続きです。

資本主義の終りを主張する水野和夫氏の本、「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)については、以前、このブログでも紹介したことがあります。


先回紹介した、「内田氏+白井氏の対談」をきっけかに、この本を再読してみました。再読によって、また新たな発見をすることができました。
以下、筆者の印象に残った内容を紹介します。(下線部分は筆者によるもの。)

なお、水野氏が主張する「資本主義が終焉を迎えつつある」ことの論拠は、この本の第一章と第二章で、過去約700年に及ぶ西欧資本主義の歴史を踏まえた上の結論として詳しく述べられています。

過去に金利が最低利率に落ち込んだのは17世紀の初頭であり、当時、西欧経済の中心地であったイタリアのジェノバでの金利は1.1%まで低下したとのこと。当時、南米で掘り出された銀がイタリアに集まり、資本は潤沢にあったが投資先が無くなり、利益率が、ひいては金利が極端に低下したそうです。この時の資本主義の停滞は、イギリスが東インド会社を設立し世界の海洋を支配して、世界各地に新しい市場を獲得すると言う「空間革命」が始まったことによって終息しました。

ひるがえって現代は、日本とドイツ等の国債金利がマイナスになるなど、経済史上ではじめての現象が発生しています。要するに、世界の隅々までが投資対象となったことで、逆に新規に投資する対象が世界のどこにも見出せなくなってきているのです。

なお、水野氏が言うところの資本主義の近代資本主義の成立条件とは、「中心が周辺から資源・労働力を安価に購入して高く売る」ことです。このことを念頭に置いてこの本を読めば、その内容が平易に理解できるでしょう。

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「資本主義の終焉と歴史の危機」の内容概要

第一章 「資本主義の延命策で帰って苦しむアメリカ」

・資源国の力が強まったこと、新興国の需要が高まった事による資源価格の上昇が、先進国企業の利潤率低下をもたらした。
新自由主義と金融帝国化との結合によりアメリカ国内の格差は拡大。
・グローバリゼーションとは「中心」と「周辺」の組み替え作業。新たな周辺とは、アメリカのサブプライム層、日本の非正規社員、EUのギリシャキプロス
新興国で消費されるものは新興国で生産されることになる。先進国が輸出主導で成長するというのは、もはや幻想。

第二章 「新興国の近代化がもたらすパラドックス

・先進国の過剰マネーが新興国の過剰な生産設備をもたらした。これらの急速な是正は信用収縮と失業を生み出す。
グローバル化を進めた資本側は、国境にとらわれることなく生産拠点を選ぶことができるようになった。
・新しい政治・経済システムへの移行を伴う二十一世紀の「価格革命」の収束は2030年代か。このころに日本と中国の一人当たりGDPがほぼ同一となると予想するため。
・今世紀の「価格革命」では、資本が国家を超越し、資本に国家が従属する資本主義への移行を伴う。
グローバル化とは、南北で仕切られていた格差を、北側と南側の各々の内部に再配置するプロセス。
・近代資本主義の土俵の上での覇権国の交代はもはや起きない。次の覇権は、資本主義とは異なるシステムを構築した国が握ることになる。


第三章 「日本の未来をつくる脱成長モデル」

・資本主義の限界と矛盾を覆い隠すために引き起こされるのがバブル。バブル崩壊後には、賃金の減少や失業、その対策として国債の増発とゼロ金利政策が行なわれ、さらなる超低金利を招く。
グローバル化が進んだ現在、アベノミクスの「第一の矢」のように一国の国内だけで金融緩和をしてもバブルの発生原因となるだけであり、デフレからの脱却は出来ない。
アベノミクスの「第二の矢」、積極的財政出動は過剰設備を増やすだけであり、企業と国家の財政を悪化させている。その結果、勤労者への分配が減るという現象が発生している。
グローバル化新興国の資源消費量は増加し、資源価格は上昇した。その結果、先進国は実物経済から高い利潤をあげることはできなくなった。もはや、「経済成長が全てを癒す」という近代資本主義の価値観は実現不可能。
・長らくゼロ金利が続いている日本は、世界で一番早く「資本主義の卒業資格」を手にしている。
日本は、社会保障も含めて、ゼロ成長でも維持可能な財政制度を設計しなければいけない。

第四章 「西欧の終焉」 (省略)

第五章 「資本主義はいかにして終わるのか」

・資本主義は資本が自己増殖するプロセスであり、利潤を求めて新たな「周辺」を生み出そうとする。国内に無理やり「周辺」を作り出そうとしている例として、日本では労働規制を緩和して非正規雇用者を増やし、浮いた社会保険や福利厚生のコストを企業の利益にしている動きが挙げられる。
・資本主義では、誰かブレーキ役がいないとうまく機能せず、その強欲さゆえに資本主義は自己破壊を起こしてしまうもの。このブレーキ役を過去に務めたのが、アダム・スミスマルクスケインズ等であった
・このブレーキを全部取り去れと主張するのが、現在の新自由主義とその延長線上にあるグローバル資本主義
ハード・ランディングのシナリオとしては、中国の過剰生産設備バブルの崩壊がきっかけとなる可能性が高い。この場合には、世界全体のデフレが深刻化、永続化する。膨大な国家債務を帳消しにするために、戦争とインフレに走る国が出てくる可能性もある。
・ソフト・ランディングに至る道としては、世界の主要な国家が団結して、グローバル資本主義の暴走に対しブレーキをかける必要がある。
民主主義の経済的な意味とは、適切な労働分配率を維持するということ
・日本の財界は法人税を下げろと強く主張するが、法人税を下げても、その利益は資本家が独占してしまい賃金には反映されない。国家財政を健全にして分配機能を強める方が、多くの人々に利益をもたらすはず。

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この本を読み返してみて、自分の今までの考えをあらためたことが一点あります。

筆者は製造メーカーに長年勤務していたこともあって、ばくぜんとはですが、「自由貿易を拡大することは基本的に良いこと」だと考えていました。各国間の貿易障壁を取り去って、ヒトとモノの移動が活発化するほど、世界はフラットになり、どんどん良くなるものと思っていました。具体的な政策でいえば、TTPの批准には賛成でした。

しかし、この本を読み返しながら考えたのは、「過度にヒト、モノ、資本の流通を自由化しすぎるとかえって良くないのでは?」と言うことです。

かって、電機業界では、「同じ製品分野で日本国内でシェア三位以内までに入っていれば、その会社はつぶれない」との法則(?)がありました。シェア下位の企業は、会社を存続させるだけの利益率を確保することができず、いずれはその分野から撤退してしまうという例が数多くありました。

この法則が通用しなくなったのは、電機製品の海外生産が拡大し始めた'90年代以降の事です。電機業界は、各業界の中では真っ先に国境を越えてモノと資本が自由に移動し始めた業界でした。ヒト、モノ、技術、資本の自由な移動が続いた結果、最近のシャープの例に見るように、現在では日本でシェアトップの企業であっても海外企業に買収されてしまう時代となってしまいました。TTPとは、この電機業界で起こっている現象を、その他のすべての業界に広げようとする動きにほかならないのではないでしょうか。

現時点では、「同じ製品分野で世界で三位以内に入っていればつぶれない」と訂正する必要がありそうです。世界で三位以内に入れなければ、その企業は将来淘汰される可能性が高いでしょう。世界市場で勝った企業は勝ち組としてぼう大な利益を享受、一方、世界市場で負けた企業は撤退・解散することになります。当然、一つの国の中での勝ち組と負け組の格差は拡大し続けるでしょう。

この本を読んで、TPP批准には反対するべきとの根拠を明確にすることができました。

もう一つの成果としては、アベノミクス批判の視点が明確になったことです。例えば、現在議論されている参院選後の経済対策の事業規模。当初の10兆円規模どころか、今朝の新聞によると「20~30兆円規模に膨張」するとか。この中の目玉としてリニア新幹線の早期完成のために3兆円規模をJR東海に貸し出すそうです。

この水野氏の本の第三章によると、過剰設備を増やしても国と企業の財政を悪化させて勤労者への配分が減るだけの結果に終わるとのこと。例えば、既存の新幹線に並行するリニア新幹線の建設は、まさにこの過剰設備にほかならないでしょう。

現在、新幹線での東京大阪間の移動に要する時間は144分。計画では2045年リニア新幹線の完成でこれが67分になるとのこと。移動時間を一時間短縮することにどれだけのニーズがあるのでしょうか。2045年には日本国内のビジネス人口の数は現在よりも確実に減っている。さらに、外国人観光客が大部分がトンネルのリニアに乗りたがるとは到底思えない。

在来線を何日もかけてゆっくりと回る豪華列車が人気を集めている現在、JR東海がなんでこんな巨額投資を始めるのかがわからない。開発した技術を誇りたいと言うだけの単なるミエのためなのか?例によって、与党建設族による大手ゼネコンへの利益供与にほかならないのではないか?このツケは、結局は我々国民に回ってくるのでしょう。


ちまたにあふれている経済書やネット上の経済情報が扱っているのは、最近数日から、せいぜい過去数十年の期間に関するものばかりです。この本で水野氏が展開した、過去数百年にわたり資本主義の歴史を振り返ってみるというのは、実に斬新な手法であると思います。この手法と同様なやり方で、現在起こっていることと類似の現象を過去の歴史の中に求めてみるのも面白いでしょう。

新書版の小さな本ですが、この本が含んでいる内容は実に大きいものがあります。ぜひ、一読していただきたいと思います。

/以上