「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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一人当たり県民所得、鳥取県は三年連続ブービー賞!(4)

(先回からの続き)

(5)パフォーマンス県政
 
 '99年から二期八年間にわたり知事を務めた片山氏は'07年に退任。'07/4に実施された知事選の結果を受け、知事の座は現在の平井知事へと引き継がれた。この知事選では、平井氏は対立候補共産党系無所属の山内氏の四倍以上の票を獲得、完全な圧勝であった。

 平井氏は片山知事の時代に副知事を務めており、当然、片山県政の後継者と誰もが見なしていた。筆者もそのように受け止めていたが、そのような見方はすぐに変更を要することになった。

 平井氏が当選してからしばらくして、地元紙に「県が液晶産業支援に本腰」との記事が載った。'07年当時、鳥取市では鳥取三洋の液晶部門を引き継いだエプソンイメージングデバイス米子市では富士通の液晶部門を工場ごと引き継いだシャープ米子が稼働中であった。韓国、台湾メーカーに急速に追い上げられているとはいえ、まだまだその生産額は県内の製造業としては群を抜いて大きい。県は液晶産業を支援するために研究支援チームを立ち上げるとのことだった。

 筆者は、この記事を読んで疑問に思った。「県が液晶研究を支援すると言っても、出せるカネはせいぜい年間で一億円程度だろう。その程度の出資で、液晶の分野でいったい何ができるというのか?」。当時、液晶の開発は少ない予算でも可能な基礎研究の段階はとっくの昔に終了し、国境を越えた設備投資競争の段階に突入していた。ちなみに、シャープが約5000億円を投資して堺市に当時の世界最大規模の液晶TV用の工場を建設するという計画を発表したのが、同じ'07年であった。(同工場は'09年に稼働開始したが、その後のてん末は御存じの通り。今では台湾企業の傘下にある。)

 さらに、県が液晶研究に注力するとしても、そもそも、当時の県の研究機関には液晶の専門家など一人もいなかったはず。人材の育成をどうするつもだったのだろうか?県職員を企業に派遣して一から教えてもらうつもりだったのか。ただでさえ忙しい民間企業の技術者にとっては、完全に足手まといな仕事でしかない。

 筆者の当時の印象は、「この新知事は、よほど、ハヤリものが好きなんだろうな」というものであった。当時のマスコミの論調は、「日本の技術の将来は液晶にかかっている」というのが主流であったからだ。

 さて、この記事を書くにあたって、当時の液晶関連の県予算を少し調べてみた。その一例を下に示す。


 この事業は'07年11月の補正予算であり、かつ知事要求とあるから、その年の春に当選した新知事の指示でこの予算が通ったことは間違いない。この県負担分だけでも約四千万円を費やした液晶研究用機器は、現在は主に鳥大に置いてあるのかもしれないが、何かの役に立ったのだろか?この予算案に載っている「液晶ブレークスルー研究所」という研究所の名称は、この予算案の中でしか見られない。

 ほかの液晶関連の予算として人材育成の補助金も出ているが、全部合わせても年間数千万円くらいであった。この液晶関係の補助金は、数年間続いただけで消滅している。結局、「液晶産業支援」と派手にぶち上げたものの、その内実は大したことはなかったし、成果も出なかったのである。ほぼすべての県民が、その内容を何も知らないうちに終息してしまった事業であった。

 いまから見れば、今までの平井県政の九年間は、「最初は派手に宣伝するが、すぐに尻すぼみ」というパターンの繰り返しであるように見える。液晶産業の次に来たのが、米子市に誘致した電気自動車メーカー「ナノオプトニクス・エナジー(以下、ナノ社)」をめぐる例の騒動だ。この件については、すでに当ブログの去年の4/5の記事と、4/6の記事で取り上げているので、経過の詳細はそちらを参照願いたい。

 去年の四月時点で、県はナノ社に対して約3億円の補助金を供与済だが、その回収はどうするつもりなのだろうか?去年のブログでは、筆者は「回収するには司法の場に持ち込むしかないだろう」と書いた。しかし、未だに県はナノ社を提訴していない。今後も県が同社を提訴することは、まずありえないだろう。

 なぜならば、県が提訴してマスコミがこの件の一連の経過を報道することになれば、「車関係の技術者を一人も確保していなかったナノ社に、電気自動車の開発資金として三億円も補助してしまった県の大失態」が白日のもとにさらされてしまうからである。県は、自分たちの責任を問われないために臭いものにフタをして、県民が忘れてくれるのをひたすら待っているのだろう。結局、県トップと県幹部の判断能力欠如による失敗と、それを隠そうとする自己保身のために、県民が苦労して収めた税金をムダに浪費されてしまったのである。

 なお、ナノ社のホームページはすでに閉鎖されてしまっている。企業としての活動は既に終息しているようだ。県がいつまでも同社への補助金の回収を放置しているようであれば、今後、県民が県に対して司法的な請求を起こす事態さえもあり得るだろう。

 ナノ社以外での平井県政の大失態の別の例としては、当ブログの去年四月の記事でも触れたが、2012年から始まった「湖山池汽水化事業」が挙げられる。詳細は、昨年の4/11記事4/14記事4/20記事を参照されたい。

 この事業を一言で表現すれば、「シジミが欲しくて湖山池に海水を入れた事業」にほかならない。巨額の費用を費やしてシジミが養殖できる湖山池に変えたつもりだったが、その結果は芳しくない。事業開始して四年目の今年、市内のスーパーで湖山池産のシジミを見かける回数は、当初よりも明らかに少なくなっている。筆者が去年の4/14記事で「湖山池でシジミを養殖するのは地形的にムリ!」と予想した通りの結果になりつつある。

 これは、池に塩分を入れたことにより、比重差で池の水の垂直方向の対流が妨げられて有機物が湖底に滞留。その有機物の分解時に酸素が消費され湖底が無酸素化し、シジミなどの湖底生物が死滅するためである。実際に、今年の夏に湖山池湖底が無酸素化した時間総数は、過去二年間の各々の総数を大幅に上回っている。

(なお、去年の時点では、この事業の費用総額を調査すると予定と言っていましたが、担当部門があまりにも多岐にわたっていることもあり、未だに完了していなくてスミマせん。ただし、池周辺の農業者への補償金、農業用水の付け替え費用、護岸工事費、湖底の覆砂工事費、ヘドロ回収費等の総額は、既に十億円を超えているものと思われます。ちなみに、この中の護岸工事と覆砂工事では、湖底を砂で覆うことを前提としています。湖底が砂でなければシジミは生息できないからです。)

 平井知事が始めた湖山池の汽水化事業は、我が貧乏県にとって巨額な費用をムダにしただけでは収まらず、県の無形文化財である伝統の石ガマ漁をも破壊してしまった。今年二月に実施された石ガマ漁では、県と市の職員がボランティアで多数参加したそうだ。地元の三津集落のやる気が失せたのを隠ぺいして昔のように活気があるように見せるためだったのではないか。ある新聞は、この冬にこの漁の様子を二度にわたって掲載、読者に石ガマ漁が復活したとの印象を与えた。しかし、漁獲量が以前の数十分の一となったのに、「石ガマ漁は復活した」と言えるのだろうか?

 石ガマ漁の絶滅のみにとどまらず、湖山池汽水化事業は、江戸初期以来、約四百年にわたって維持されてきた湖山池の生態系を完全に破壊してしまった。ある生物研究者は、「前知事の時代には、鳥取県環境保護の最先進県であった。それが今では、一挙に全国最低県へと後退してしまった」と述べている。先々回に述べたように、鳥取県の売り物は豊かな自然環境のはずなのだが、湖山池では県当局自からが、先祖から受け継いできた優れた自然環境を破壊してしまったのである。

 湖山池の現在の状況は全国の環境団体からも注目されている。例として記事を二つだけ紹介しておこう。なお、下の二番目の記事タイトルには「カネ儲け」とあるが、滑稽なのは、今の湖山池事業は税金を大量に持ち出しているだけで、ほとんど誰も「カネ儲け」出来ていないことだ。現在の湖山池事業は税金を吸い込むだけであり、文字通り、「ドロ沼化」しつつある。


 液晶、ナノ社、湖山池と述べてきたが、詳しく調べれは、同様に失敗した県事業はいくらでも出て来るだろう。これらの失敗に共通するのは、「当初は県広報やマスコミを使って派手に壮大な構想をぶち上げるが、当初の計画はすぐに挫折。何の成果も上げないままに、構想自体がいつのまにやら消滅」という展開である。この原因は、やはり今の県政における「行き過ぎたトップダウン体制」であろう。

 事前の綿密な調査と分析をしないままに、トップの思いつきで派手な構想を次々と発表。いざ着手してみると、すぐに問題点が山ほど出てきて進退が窮まるというパターンの繰り返しである。トップの意志を偏重するあまり、数千人はいるはずの県職員の個々の創意能力が生かされていないのではないか?トップの無茶な構想にまったく異議を唱えず、自己保身のため、ひたすら服従しているだけの県幹部も情けない。

 こんな、トップの選挙目当てのパフォーマンスのためだけの組織なら、いっそ県を廃止し道州制にしてトップの総数を減らした方が、職員は伸び伸びと自発的に仕事ができるのではないかとさえ思うしだいである。

 さて、今までいろいろと批判してきたが、現職の平井知事の評判はすこぶる良好である。去年の三月にダイヤモンド社が実施したアンケートでは、県民からの評価が高い知事として、平井氏は全国で三位であったらしい。(元の記事はネット上で無料では読めないので、結果を引用したブログを紹介しました。)同氏はダジャレや仮装パフォーマンスでも有名であり、しばしばテレビの全国版にも登場している。

 まあ、あれぐらいマスコミに登場していれば人気は当然出るだろう。何しろ、夕方のNHKのローカルニュースで平井氏が登場しない日はほとんど無いように見えるのだから。リオ五輪の閉会式に総理が仮装して現れただけで、安倍内閣の支持率が5%ほど上がったそうだ。そういう国の政治家としては、しごく当然の行動なのだろう。

 問題は、知事個人の人気が高い一方で、県の経済力は低下の一途をたどり回復の兆しが一向に見えないことである。経済力が高いことイコール幸福ではないとはいうものの、やはり経済が良好でなければ、県民の生活の安定や将来の希望は望めない。仮に知事個人の人気が全国最低であっても、県経済が上向いてさえいれば県民ははるかに幸福に感じるはずだ。

 上に挙げたような失敗事業は数多くあるものの、公平に見れば、全体としては平井県政は県財政の引き締め努力を続けているように見える。この点に限定すれば、市庁舎新築問題のように、税金のムダ遣いが自己目的化している鳥取市政とは雲泥の差だ。(比較対象があまりにもヒド過ぎるから、差がついて見えるとも言えるのだが・・。)

 経済面での施策は振るわないが、障がい者対策などの福祉関係では現県政は良くやっているという印象はある。ただし、筆者は福祉関係事業の内容の詳細までは踏み込んで調べてはいない。現場からの評価結果がどうであるかが気になるところだ。

 最後に、マスコミに一言。最近のテレビや新聞の鳥取ローカルに関する報道では、行政に関する記事に関しては批判的な視点がほとんど見られない。県や市の公表する広報をそのまま転載している記事が大半である。既にどこかに発表された内容をコピーして掲載するだけでは、情報としての価値は全くゼロである。こんなことでは、そのうちに皆がスマホやパソコンで県や市の広報を読むだけになるだろう。カネを払って新聞を買うような人はいなくなる。

 自己保身に専念している県の幹部職員と同様に、jマスコミ各社も既存のシステムに乗っかったまま、ひたすらおとなしくしていればずいぶんと気楽だろうが、それは従来のマスコミ全体の死滅への道にほかならないと思う。県の経済活動が振るわないのも、県経済低迷の実態を記事として取り上げて行政の尻を叩く報道機関がいないことも一因ではないか?一人当たり県民所得が46位であることを記事として取り上げたのは、本ブログが県内で初ではないだろうか?

 マスコミ各社の行政報道担当者の、今後の奮起を期待したいものである。

/以上