「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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新庁舎新築への公金支出差止訴訟、第一審は敗訴。

 先週の9/30に鳥取地裁での、「鳥取の未来を次世代につなぐ会」(以下、「つなぐ会」)による「新庁舎への公金支出差し止め訴訟」の判決を傍聴してきました。既に、新聞等で報道されていますが、被告の鳥取市長側が勝訴という結果でした。この結果を受けて、原告側はただちに控訴手続きに入りました。今後は広島高裁松江支部に場所を移して控訴審が開始されることになります。

(1)今回の原告提訴の趣旨

 「つなぐ会」の今回の提訴の主な趣旨は次の二つの点にあると思います。(あくまで筆者個人が理解した範囲での趣旨内容です。)

 ① 市議会への情報提供に関する市長の意図的な怠慢

 2014年12月に議会は市庁舎移転の位置条例を可決したが、それまでの議論の中で、市長は市議会に対して議論を尽くすに足りるだけの十分な情報を与えていないことは明らか。

 一例を挙げれば、消費税は2014年4月の時点ですでに8%に増税済み、建設資材の高騰なども2014年12月の位置条例可決以前の段階で明白になっていたにも関わらず、市長はその情報に基づいて試算した新庁舎建設コストを議会に対して明らかにしなかった。その結果、2013年11月に市が発表した「基本改革素案」の中で市が推奨した整備案①のイニシャルコスト65.6億円という試算が、明確に変更されないままに位置条例の採決が実施されてしまった。

 位置条例が可決されて約半年後の2015年5月になってから、市長はイニシャルコストは実際には98.4億円かかることが判明したと、突如公表した。その理由として、市長は消費税率の引き上げ、資材の高騰を理由に挙げた。

 資材の高騰については、2013年の春ごろから東日本大震災の復興事業の影響で資材価格と労賃が高騰していることが、各報道機関によって繰り返し報道されていた。報道の一例を下に示す。


 このことを、当時、新庁舎の建設コスト試算を担当していた庁舎整備局が知らなかったはずはない。市が資材高騰で建設費が上がるとの再試算を発表したのは、この話題が出てから約二年も経ってからだった。

 消費税については、この間の消費税率の変遷と、市庁舎問題の経緯を以下に時系列的にまとめてみた。 

年月日             事象                    当時の消費税率

H25/10/1   安倍内閣、'14/4の5%→8%消費税率変更を最終決定            5%

H25/11/8  庁舎整備局、イニシャルコスト65.6億円の整備案①          5%
         (新築移転案)を推奨  (消費税率 5%で計算)

H26/4/1   消費税率5%→8%の変更を施行                    8%

H26/11/18 安倍総理、'15/10施行予定の8%→10%の一年半先送りを表明 8%   
 
H26/12/26 市議会で位置条例が可決・成立                     8%

H27/5    庁舎整備局、イニシャルコストが98.4億円と再提示                        8%
                     (消費税率 8%で計算)

H27/6   安倍総理、'17/4施行予定の8%→10%の二年半先送りを再表明  8%

 この表を見れば、市が議会に対する説明責任を三度にわたって放棄していることがはっきりと判る。

 一回目は2013/11に、五か月後には消費税が5%から8%に上がることが明白となっているにもかかわらず、あえて5%で計算したコストを示したこと。新庁舎設計には全く着手していない段階であり、五か月後までに設計・入札が完了できるはずもないのに、5%で計算したのである。

 二回目は、すでに消費税率8%が現実に運用されてから8か月も経っているのに、位置条例と言う重要な条例の採決の前に8%で計算したコストを議会に提示することもなく、議員には5%で計算した65.6億円のままであると錯覚させた状態で、議会で採決を実施したことである。

 三回目は、実際に消費税率8%が施行されてから一年以上、位置条例が採決されてから半年近くも経ってほとぼりがさめてから、ようやく8%で計算したコストを公表したこと。

 これら三回の事象は、当時、市議会と市民に対して正確な情報を意図的に与えようとしなかったという竹内前市長、深澤現市長の姿勢を明確に示している。

 ② 拘束力を持たない住民投票でも、その結果は尊重されるべきであり、その結果を否定するためには一定の合理的な理由が必要

 今回の提訴の趣旨の二点目は、住民投票結果の尊重義務に関するものである。自治体当局が住民投票結果を否定した例は、我が鳥取市の例を除けば、過去には全国で一例しかない(H25年9月時点)。

 H25年9月に当「開かれた市政をつくる市民の会」の前身の「市庁舎新築移転を問う市民の会」が主催した、武田真一成蹊大学教授による講演会「住民投票のあるべき姿を問う」によれば、このただ一つの例外は、宮崎県小林市の産廃処理施設建設をめぐって1997年に実施された住民投票であった。この投票結果では、「建設反対」が59%と圧勝したものの、既に施設建設が完了して稼働中であったこと、施設の認可権限は県知事にあり市の権限では稼働中止ができなかった等の理由で、結局は、この施設の稼働中止は見送られた。

 この小林市の例では、ある程度はやむを得ない事情があって、住民投票結果が実施に移されなかったものと判断される。

 しかし、鳥取市住民投票結果をひっくり返した一連の経過では、やむを得ない事情も、一定の合理的な理由も認められない。市が合理的な判断と説明している内容の一つ一つを詳しく見て行けば、そこにあるのは、客観性と公平性を著しく欠いた、市自身による一方的な情報提供(プロパガンダ)である。上に示した消費税率に関する市のコスト計算の一連の醜態を見ただけでも、その実態は明白だろう。

 同後援会で武田教授が紹介した全国各地での過去の21例の住民投票では、上の小林市と鳥取市の2例以外の19例では、そのすべてにおいて、おおむねは住民投票の結果に従ってその後の自治体の政策が進められている。

 竹内功前市長と深澤義彦現市長による、2012年の住民投票結果で支持された「現庁舎耐震改修案」を全面否定して「新築移転案」を強引に推進してきた今までの一連の行為は、日本の地方自治の民主主義を公然と破壊した稀有な例として、長く後世に語り伝えられることとなるだろう。

(2) 今回の第一審判決の内容

 さて、今回の判決では、上に述べた原告提訴の趣旨に対して十分な判断を下して否決に至ったのだろうか?原告側の杉山弁護士から判決文のコピーをいただいたので、その内容の一部を以下に紹介する。

判決文 第15ページ
 「・・・しかしながら,上記金額に差額が生じた理由は、上記4(10)のとおり、平成25年11月の鳥取市庁舎整備全体構想(素案)を公表した後の新たな事情として、① 平成26年度以降の資材や労務単価の高騰に伴う増加(約10億円)、② 平成26年4月の消費税率の改正に伴う増加(約4億円)、・・・よって、本件議決における事業費の想定に事実誤認があったとの原告らの主張は理由がない。」

 この裁判長は、費用の高騰はH26年度以降の状況変化によるものだとして原告の訴えを一蹴しているが、「そちらこそ、よく調べてから判決文を書け!」と言いたい!事実関係を詳しく調べることもなく、単に被告の市長側の言い分を丸のみにして書いたに過ぎない、まことにお粗末と言うほかはない判決文である。

 上の(1)の①で述べたように、H26年12月の位置条例採決の時点で、消費税がすでにその年の4月には8%となっていたことも、資材費が既に高騰していることも公知であった。にもかかわらず、深澤市長が実態に即した費用概算を市民と市議会に再提示せずに位置条例採決に臨んだことは、自治体の首長としての説明責任の放棄であり、市民への誠意のカケラも見られない。

判決文 第16ページ
 「・・・位置条例案が否定された後、鳥取市議会議員選挙を経て、同年12月に被告が本件議案を提出したという一連の経過からして、鳥取市長及び市議会が、住民投票の結果と異なる新庁舎建設案を内容とする本件議案の提出ないし本件議決に至るまでに、住民投票の結果を尊重し、住民に対し慎重に説明を行い、その理解を得ながら手続を進めてきたことがうかがえるもので、特に不合理な点は見当たらない。よって原告らの上記主張は理由がない。」
 
 深澤市長の一連の行為のどこが、「住民に対し慎重に説明を行い、その理解を得ながら手続きを進めてきた」と言えるのか、この判決文では何一つ説明をしていない。深澤市長は当選以来、この市庁舎移転の件では、市民に対する説明の場に自ら立ったことは一度もないのである。
 
 (1)の②で述べたように、住民投票結果と真逆の政策をあえて実施するためには、それ相応の市側の合理的な理由が必要である。この裁判長は、原告側を非難するばかりで、被告側が住民投票結果と異なる政策を選んだ経過の合理的理由については、避けるばかりで触れようとはしないのである。
 
 この四月に担当の裁判長が交代するまでは、この裁判ではある程度は訴状の内容まで踏み込んだ審議が行われるものと期待していた。少なくとも前任の大島裁判長はそのような姿勢を見せていたと思う。ところが、裁判長が現在の藤澤氏(前任者よりも大幅に若い)に交代してからは雰囲気がガラリと変わった。新しい裁判長としての最初の公判(本年の5/11、非公開)の場で、いきない「あと一回公判をやって結審する」と原告側に言い渡したとのことである。審議内容を十分に把握しようともせずに、最初から幕引きを図ったと疑われても仕方のない行為である。
 
 今回の判決結果の印象を一言で言うならば、「遠くから森の外観を眺めただけで、森全体の評価を下した。森の中に入って、個々の木の状態を見ようとはしなかった。」というものである。近くに寄ったら木が腐っているだろうとの予感がしたので、あえて遠くからの観察のみで事を納めようとしたというところではないか。新任の土地でもあり、あえて最初から行政当局とのトラブルは起こしたくないとの政治的判断が働いた、というのは筆者の空想だろうか?
 
 日本の民主主義を支えているのが立法、司法、行政の三権分立制にあることは、いまさら言うまでもない。司法が、「行政がすでに決めたことだから・・」と行政当局の政策をつねに追認しているようでは、司法の自殺行為にほかならない。司法の権威は失墜し、日本の民主主義も危機に瀕することになるだろう。表面上の手続きの整合性を重視するのみで、その裏に隠れている真相への想像力が欠落している人物でも判決を下せるのであれば、近い将来、ロボットでも裁判官が務まるだろう。
 
 「鳥取の未来を次世代につなぐ会」には、引き続き、控訴審でも頑張っていただきたいものである。同会を応援する意味も含めて、判決文をさらに読みこんで論点を整理した上で、当「開かれた市政をつくる市民の会」のサイトにも、改めてこの判決結果に関する記事を再掲載する予定である。
 
/以上