「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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倉吉市のバルコスって、知ってる?

先日の地震では、鳥取県中部は大変だったようですね。筆者は鳥取市在住なので、たいした被害はありませんでした。帰宅してみたら、家の台所の床に置いていたペットボトルが倒れていた程度でした。

一方、倉吉市内の知人のメールによると、家の外観は幸い何ともなかったものの、家の内部はモノが散乱、片付けがこれから大変とのことでした。

さて、倉吉といえば、谷口ジローの漫画にも描かれているように「時が止まったような街」との印象があります。白壁土蔵群の近くの路地を歩くたびに、なつかしい「昭和の記憶」がよみがえってきます。あの土蔵の白壁が崩れてしまった映像をニュースで見て、何とも痛々しい思いがしました。

そんな昭和のレトロ雰囲気がたっぷりの倉吉にも、世界に知られるユニークな企業があります。バルコスという、婦人向けのパッグを作っている小さな会社です。昨日の「ダイヤモンドオンライン」で紹介されていました。以前からニュースで社名は目にしていましたが、筆者がファッションには何の関心も持っていないこともあり、その活動内容についてはほとんど知りませんでした。


( 余談ですが、このダイヤモンドオンラインでは、三年前に当会の前身である「市庁舎新築移転を問う市民の会」も紹介されました。下に紹介する当時の記事の中には、昨年急逝された当時の幹事のT.T氏も登場しており感慨深いものがあります。


全国的経済紙「ダイヤモンド」の分身である同サイトでの鳥取県内発の情報の紹介は、今回のバルコスがこの三年前の記事以来の快挙です。)

さて、このバルコスを紹介した理由ですが、この会社の姿勢が、日本の地方企業が今後進むべき道を明確に示しているように感じたからです。本社の従業員は現在37名という小さな企業ですが、倉吉の本社は企画、設計、試作に特化。中国などの海外の協力企業が試作の一部と生産を担当、営業のターゲットは主として欧州という、小粒でありながら、まさにグローバルに展開している企業です。

この記事のあちこちに地方の中小企業へのヒントが埋まっていると思います。その例をこの記事の中から抜粋してみましょう。
 
① 「・・・バルコスの子会社があるフィレンツェは、人口約35万人です。・・・観光客が年間約300万人訪れる街で、ファッション、農業、観光で成り立っています。世界遺産があるのですが、それなら日本にもある。・・・ファッションはもちろん、キャンティワインなど世界に認められている農業がある街なんですよ。」
 
→ 小都市だからと言って、自ら卑下することはない。街全体をブランド化して人を呼び込めばよい。
 
② 「・・・いいものを作っていても、価格では中国に負ける。・・・・だからといって、価格を下げると品質が保てない。コストを削減すれば生産者が疲弊する。・・・・本当にいいものを作って製品に納得してもらい、高付加価値で金額に納得してもらう、これがベストです。」

→ 日本の地方企業の未来は、「高品質化・高付加価値化」+「市場を全世界に求める」ことの中にある。大企業ではシェアも意識しなければならないが、小さい規模でよいと腹をくくれば、世界市場の中の高付加価値分野に特化することで企業は成長できる。

 
③ 「これからの日本人がやることはローテクの付加価値。・・・文化度の高さでモノを売る時代です。たぶんアニメとかでしょ、今、日本が誇れるのは。アニメはこの時代にありながら、特別な時空のゆらぎの中で生まれた文化。余裕があってゆとりがある環境だから、精神性を表現できているわけです。日本のアニメには裏打ちされた匠の技巧と、「余裕とヌキ」があるから世界中の人が楽しめるんですよね。つまり「ゆとり」です。これを、今の若者と時代の両方が持っている。これからの日本はバブルを目指すんじゃなくて、50年安定することを目指すべきです。」
 
→ 今まで日本が追求してきたハイテクから、ローテクへの転換が必要。ローテクが評価されるためには、それを裏で支える文化と感性への共感が不可欠。その文化と感性は、作り手に余裕とゆとりがあってこそ生み出される。このグローバル化の時代の中で逆説的だが、鎖国をしていた江戸時代の文化が大いに参考になると思う。
 
鳥取市の駅前には「万年筆博士」という小さな会社があります。このバルコスの記事を読んでいて、その会社の事を思い出しました。
 
もう一つ、鳥取市の世界的な企業と言えば、シーズンオフにはイチローもトレーニングに来ると言う、小山氏のあのトレーニング施設、「ワールド・ウィング」ですね。
 
これら二社とも、経営者自身の、自分が扱うモノの品質に対する異常なまでのこだわりが、新たな価値と顧客の高い評価を生み出したのだと思います。これは、バルコスの経営方針に共通するものです。
 
鳥取では(他の地方都市でも似たりよったりですが・・)、雇用の確保のために、自治体の担当者が東京や大阪の大企業に日参し、地元の土地や労働力を安売りして工場進出を勝ち取るという光景が従来の流れでした。
 
 1990年代に入ってからは、この構図が通用しなくなりました。より安い労働力を求める大企業は、国内よりも中国等の海外に目を向けるようになりました。この傾向を一気に加速したのが2008年のリーマンショックです。電機関係の企業が一斉に鳥取の生産工場を閉鎖して事業を縮小、生産拠点を海外に移す例もありました。
 
現在は、県や市が税金で貸工場を建設して、日本中から進出企業を募って雇用を確保したと知事や市長が「成果」を誇っている状況です。初期投資が抑えられることと、低賃金を目当として進出してきた企業なので、地元からの雇用者に対する労働分配率は相当低いのでしょう。おそらくは、これらの新規進出企業が予定している雇用者の大半は非正規なのではないでしょうか。
 
進出企業には、鳥取へのこだわりは元々からありません。将来、リーマンショックの再来があれば、2008年と同じ光景を目にすることとなるでしょう。行政は仕事をしているふりをすることに汲々としているだけにしか見えません。
 
そもそも、自治体職員に実効性のある経済振興策を期待すること自体が間違いなのでしょう。安定した職場を求めて役所に就職した人たちが、起業のノウハウを民間に指導できるはずもありません。結局は、私たち自身が自分の仕事に対して強いこだわりを持って、試行錯誤しながら品質を高め、市場での価値を高めるしかないのでしょう。
 
バルコス、万年筆博士、ワールド・ウィングのような、小さくても世界中から人をひきつけるような企業がたくさん生まれてくれば、沈滞した鳥取にも活気が出て来ます。そこで働く人も自分の仕事にプライドが持てることでしょう。
 
行政が他県から企業をたくさん誘致しても、やりがいの無い低賃金の作業に従事する人間が量産されるばかり、この街は活気とプライドを失うばかりです。自分が何に対して一番こだわりを持っているのかを良く考えて、私たち自身で「小さな起業」を試みてみましょう。
 
/以上