「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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日本の教育格差の原因はどこにあるのか?

 明けましておめでとうございます。

 この正月、当地は雪も無く穏やかな天気で過ごせました。数日前に、近くの田んぼのあぜ道で菜の花が咲いているのを見ました。異常です。地球温暖化で、鳥取の冬が高知や宮崎並みになったのでしょうか?

 さて、今回も教育面の格差の話題です。まず、その背景となる社会全体の格差の現状について。

 年末に、「ポスト資本主義」広井良典岩波新書)という本を読みました。著者の専攻はもともとは科学史とのこと。この本の内容では、経済分野だけに留まらず科学技術の発展を踏まえた社会変化の現状について広範囲に分析されています。この本の中から二つの図表を紹介しましょう。

①各国のジニ係数の比較

 ジニ係数とはその社会内部の経済格差の尺度。簡単に言えば、ジニ係数がゼロの場合、社会の構成員の所得は完全に平等。ジニ係数が1の場合は、たった一人がその社会の全所得を独占していることになります。ジニ係数が0.4を超えると、社会内部で騒乱が多発し始めると言われています。

 下に各国のジニ係数の比較を示します。
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 一般に、日本の社会は他国に比べれば格差が少ないと言われていますが、それは、「アメリカに比較すれば・・」という条件付きであることがわかります。日本の格差は北欧諸国に比べてはるかに大きいのです。日本は、アングロサクソン流の、規制が無くて資本が自由に動き回れる国である米英と大差のない国であることがわかります。

 日本は戦後一貫してアメリカの後を追いかけてきました。今後も、トランプのアメリカの後を追って、さらにジニ係数が増加する可能性が大でしょう。

② 人生前半の社会保障

 資本主義の前提となるのは個人の創意に基づく自由競争ですが、 各個人が人生のスタートラインにおいて不平等では自由な競争にはなりえません。資本主義を存続・発展させるためには、スタートラインの平等、つまり教育機会の均等化が必要であると言うのが、上に紹介した本の著者の指摘です。このためには人生の前半、つまり、子どもと若者世代に対する政府支援、つまり社会保障費と教育費の公的支援が必要になります。

 下の図は子供・若者世代に対する社会保障費の対GDP比率を各国で比較したものです。日本の若者に対する社会保障費は、弱肉強食国家の代表であるアメリカからさえも大きく劣っています。日本という国が、いかに若者・子供世代への支援と機会均等を怠っているか、一目瞭然でしょう。先回の記事で、「教育の機会を奪うことによる格差の固定化・拡大」について述べましたが、その根本原因はここにあると思います。

 なお、下図では若年層の障害者に対する費用支出を赤線でつないでみました。若い障害者に対する福祉を強調するのは、パラリンピックの時だけということにならないようにしたいものです。
 
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③ 教育費の公的支援

 上に紹介した広井氏の著書から離れ、別の資料を見てみましょう。次の図は先進各国における公的に支援された教育費の支出のGDPに対する比率を示したものです。
 
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 実に、六年連続で先進国の中では最下位。日本の子供の数が少ないとはいえ、あんまりな数字です。

 ・14歳以下の子供の人口比率(%)
    日本    12.6
    ドイツ    13.1
    イタリア  13.8
    韓国    14.3
    イギリス  17.7

 子供一人あたりの教育費公的支出でも、日本は経済が低迷するイタリアと並んで最下位レベルのようです。

④ 幼児教育費も最下位レベル

 OECDでは先進国とそれに準ずる国の教育に関するデータをまとめています。次の文科省のサイトから原文を見ることができます。なお、元のOECDのデータから抽出して文科省が作った日本語の概要も載っていますが、例によって、日本に都合の悪いデータは意図的に排除している傾向が鮮明なので注意してください。


この中の2016年版(英文)にある各国の小学校入学前の幼児を対象とする教育費用の対GDP比の比較を下に示します。

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 ここでも日本は最下位レベル。幼児教育に掛けている費用は平均の四分の一。トップのノルウェースウェーデンに比べれば、実に九分の一。これが少子化問題の根源でしょう。

 この費用の中には保育園や幼稚園の運営費が含まれています。安倍総理は今年は保育士の給料を月に数千円上げると言っていますが、その効果は焼け石に水でしかないことは明白です。

⑤ その他の教育関連データの各国比較

 OECDのデータからほかの教育費関係に関する各国の順位もまとめてみました。2008年と2013年の比較表を下に示します。なお、2013年分のデータは、④で紹介したサイトの中の2016年版(英文)に載っています。
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注:④の「公的総支出」とは、国の中央政府と地方政府(自治体)の歳出の総和を示す。
 
 どの項目を見ても、日本は先進国中の最下位グループ。高等教育費(大学と専門学校が対象)だけが平均レベルですが、この順位もむしろ低下傾向にあります。
 
 日本は教育費自体が国の経済力であるGDPに比べて少なく、さらに教育費への政府補助が少ないのです。子供の教育は親の責任でやりなさいという訳です。これでは格差はどんどん拡大するばかりです。
 
 資源が無くて国民の能力だけが頼りの日本で、肝心の教育にかける費用がこんな状態では、将来はどうなることやら?
 
 こんなことになった第一の原因は、日本の政治家にあると思います。高齢者ほど投票率は高いので、与党も野党も高齢者寄りの政策を、甘いことばっかりを主張している。子供には選挙権はないので、若者や子供のための政策は常に後回しになっている。
 
 国会議員から村会議員にいたるまで、国の将来よりも、自分の議員のイスをとりあえず確保することばかりを考えているのが現状でしょう。財源をはっきりと示さないままに甘いことばっかり言っている政治家は、どうせ何の役にもたたないので、次の選挙でどんどん落としましょう。財源をはっきりと示して、あえて厳しいことを言える政治家がほとんどいないことが、最近の投票率の低下の根本原因だと思います。
 
 労働人口が減る中では税収増も見込めない。アメリカやドイツのように移民で労働力を増やすことには反対の意識を持っている国民も多い。GDP比で世界一の借金を抱えた日本政府にできることは、高齢者への社会保障費を削って教育費に回す以外には手段が無いことは明らかでしょう。
 
 働ける高齢者はどんどん働きましょう。筆者自身も、近いうちに65歳となり高齢者の仲間入りをすることになりますが、最近のニュースによると、高齢者の定義を75歳以上に引き上げる動きがあるとのこと。基本的には歓迎です。(すでに決定している年金額の大幅ダウンは、しないでほしいけれど・・・。)
 
 健康で働ける高齢者は、遊ぶのもホドホドにして、働いて少しでもいいから税金を納めて、働けない高齢者、障害者、若者、子供への社会保障費と教育費を支える力の一助となること。これこそが、日本を国家破綻から救う道なのではないでしょうか。
 
/以上