「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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北朝鮮ミサイルの日本攻撃能力は?

 たいへん遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。本年も、お暇な時に拙論を一読いただければ幸いです。

 さて、昨日読んだ記事の中に非常に重要と思われる記事があったので、紹介しておきましょう。昨年12月に読売新聞が行った世論調査で、米国の北朝鮮への軍事力行使に対して日本国民の47%が支持し、不支持は46%だったそうです。この結果に対して、軍事評論家の田岡俊司氏が次のような記事を「ダイヤモンドオンライン」に寄稿しています。
 記事の概要は以下のようになります。

・米国が北朝鮮に攻撃を加えれば北朝鮮の壊滅は必至。その場合、自暴自棄となった金正恩は、開戦直後の攻撃で破壊されず残った核弾頭を全て発射する可能性が極めて高い。
 
北朝鮮は昨年9月に水爆と称する地下核実験を実施したが、この規模の爆発が東京中心部で起こった場合、死傷者は400万人以上に達すると想定される。

・米国では、北朝鮮との戦争になっても、大量の死者が発生するのは「あっちの方(韓国と日本との意味)」であり米国本土には影響しないとの見解をトランプ大統領自身が述べている。

北朝鮮は中距離のノドンミサイル(射程距離1300kmであり日本のほぼ全域が到達範囲)だけでも200~300発を有している。さらに射程距離が長いテポドンやムスダンも多数保有している。これを防御する自衛隊イージス艦の能力は最大でも32発を撃ち落とせるだけである。イージスが落とせなかったミサイルは要所に配備したパトリオットが対応することになるが、パトリオットは一か所について4発までしか対応できない。要するに、一か所に同時に十数発もミサイルを撃たれてしまえば、自衛隊は対処のしようがない。

北朝鮮のミサイル基地は、その大半が中国との国境沿いの山岳地帯に設けた地下トンネルの中にあり、開戦しても破壊できるのは極く一部にとどまると予想される。全部を破壊しようとすれば地上軍を投入するしかないが、対国内世論上、米国にはその選択肢はありえない。

・2023年に配備が予定されているイージス・アショアやイージス艦倍増が完了しても、北朝鮮の持っているミサイル全量には到底対応不可能。これから数千億円を投資しても「儀礼的」な対応にしかならない。

・以上の事実を踏まえれば、日本国民の半数近くが米国の北朝鮮への軍事力行使を容認している現状は、日本自身にとって極めて危険である。

 付け加えるならば、北朝鮮指導者が自暴自棄となった場合に狙うのは、東京や大阪の大都市や米軍基地、自衛隊基地だけではない。下に示すように、北朝鮮は昨年秋に、日本国内に約五十基ある原発も攻撃の対象にすると政府高官が公言している。各地の原発に貯めこんでいる使用済み核燃料がいったん大気中に飛散してしまったら、どんな田舎に住んでいようと避難する場所はほとんどない。窓を閉め切って、水と食料が尽きるまでは家の中に閉じこもりつづけるほかはない。

 


 

 また、北朝鮮のミサイルは発射10分後には東京に到達するとされている。以前から田岡氏が指摘しているように、Jアラートも各自治体の避難訓練も、実質的な危機対応には到底なりえないのでしょう。これも、行政による「実際の役には立たないが格好だけ対策したふり」の一例に過ぎないなのだろうと思います。

 さて、上記の危機的状況は決して絵空事ではなく、何%(数十%?)かの確率で今後起こりうることなのですが、ここで上に述べた破滅的ストーリーよりもう少し確率的に確からしい世界、より安全な世界に立ち戻って考えてみましょう。この問題に対する、現在の一般的な見方は次のようになるのでしょう。

① 北朝鮮金正恩の目的は、今後の自分の政権維持の保障を米国から取り付けること以外にない。核実験やICBM発射もそのための手段であり、より有利な交渉条件を引き出すためのパフォーマンスにほかならない。米国と全面的に戦争状態に入ることは軍事的には自殺行為でしかないので、よほど追い詰められない限り自らの選択肢としてはありえない。

② 米国としては、北朝鮮対策よりも、中国、ロシア、イスラエルを含む中東に対する対策の方がより重要なはず。朝鮮半島には約25万人の米国人が滞在していることもあり、北朝鮮に対して突発的な軍事行動を仕掛けることはまずありえない。仮にあるとすれば、支持率がさらに下がったトランプが、挽回策として強引に北朝鮮に対する先制攻撃をしかけるケースだろうか。その場合でも米国の国是として、事前に米国市民を日韓両国から避難させようとするだろうから、ある日突然に攻撃開始ということにはならないだろう。

③ 北朝鮮の持っている核兵器とミサイルの技術が元々は旧ソ連のものであることは、過去の多数の記事で周知の事実。

プーチンは、表面的には北朝鮮制裁にある程度は協力するフリをしながら、陰では北朝鮮への軍事的経済的支援をやめることはないだろう。米国の軍事力をシリアやウクライナ以外にも分散させ、ロシアをかってのソ連並みの軍事大国として復活させることがプーチンの願望であるからだ。

 要するに、いくら制裁を強めても、北朝鮮金王朝存続の生命線である核技術を放棄することはありえない。またロシアだけでなく、金王朝はともかく北朝鮮という緩衝国家が無くなっては困る中国も、陰での北朝鮮支援を止めることはないだろう。結論としては、当面は現在の三すくみ(六すくみ?)の状態がしばらく続き、その中で北朝鮮は米国まで届くICBMの完成度を高めるというのが最も可能性が高いシナリオだろう。
 
 安倍総理が日本国民に対して北朝鮮の危機をあおることで、この状況を利用して悲願の憲法改正に弾みをつけようとしているのはミエミエである。しかし、国政のトップとしてなすべきことは、まず国民の生命と財産の確保であるはず。防衛費を数千億円程度増やすことで北朝鮮の核攻撃は防げるというような、安易に国民を錯覚させるような言動は慎むべきたべろう。

 さらに、北朝鮮が攻撃してくると本気で予想しているのであれば、安倍内閣自身が率先して具体的かつ有効な避難方法と非難場所を国民に示すべきであろう。テポドンが実際に飛んできた場合にも、「物陰にうずくまって、手で目をおおってください」と言っているだけでは、国民に対しあまりに無責任と言うほかはない。

 昨日の報道によると、スウェーデンはロシア軍侵攻の危険性が増しているとして、国民に注意を喚起したそうである。安倍総理が本当に米国の武力攻撃と心中するつもりがあるのであれば、日本国民に対して同様の声明を行う義務があるはずだ。

 さて、トランプとゴルフをする回数に比例してアメリカからの高価な武器の購入額を増やしている安倍総理についても触れておこう。

今後、トランプが一転して金正恩と握手する可能性があることも忘れてはならない。ICBMの開発中止と制裁緩和を天秤にかける取引等が考えられる。

 その場合には、日本が攻撃を受けるリスクは何ら軽減されることにはならない。「自ら進んで屋根に登ってみたらトランプに梯子をはずされた」というみっともないことになる。日本国内の核武装論者はかえって喜ぶかもしれないが、実際に核戦争が起こってしまったら、そこには勝者はいない。人類全体が敗者となることを肝に命ずるべきだろう。

 北朝鮮問題については、武力による解決以外の道も今から検討しておくことが絶対に必要だろう。人権無視の金王朝北朝鮮との長期にわたる共存は考えただけでも気が滅入るが、朝鮮半島と日本で数十万から数百万人の犠牲者が出て国土全体が放射能汚染される破滅的事態に比べれば、はるかにましである。我々は、日本政府の根拠のない口先だけは勇ましい説明に安易に同調せず、実際に戦争が起こった時の悲惨さを今から想像しておく必要があると思う。

「追記」
 こういう記事を書いたとたんに、元自衛隊司令官と称する方が、「米朝戦争は今年の四月か七月に行われる」との予測記事を昨日の日付で出していた。

 皆さんはこの記事を読んでどう思われるだろうか?筆者はあまりにも楽観的にすぎると思う。この元司令官殿は、金正恩は米軍の空爆で国内の核基地・ミサイル基地が全て破壊されるのを傍観するだけで、まったく何もできないはずだと主張しているらしい。
 しかし、金王朝の過酷統治の正統性は、唯一、核兵器を持っていてアメリカもそれを恐れているという一点だけによって保たれていることは誰が見ても明白だろう。核兵器を失った金正恩の命令に北朝鮮軍部が従うはずもないどころか、核兵器を失ったとたんに金正恩が軍部によって即刻処刑される可能性すらあり得る。核兵器を全て失なうと同時に金王朝が崩壊する可能性は極めて高いのだから、当然、死なばもろともで、韓国、日本と両国にある米軍基地に対してありったけのミサイルを連続して打ちこむ事態が想定される。

 さらに、金正恩が攻撃の対象を日本だけに限定して韓国を除外した場合、過去の歴史背景もあって、未来の朝鮮半島においては横死した金正恩がむしろ英雄視される可能性(李舜臣のように)さえもあり得るのかもしれない。日本だけは安全などと主張する根拠は、一体どこから出て来るのだろうか?

 元自衛隊幹部にしては、あまりにもお粗末なレベルの状況把握能力だと思う。ただし、彼らが危機をあおる一方で、その反面では極度に楽観的な見方をするのにはそれなりの理由がある。危機をあおるほどに、その危機に対処する軍備の必要性を強調することで、今後の防衛省の獲得予算の積み増しが期待されるからである。防衛省OBとしては、しごく当然の行動なのだろう。

 このような根拠も無く楽観的な、かつ勇ましい記事をあちこちに氾濫させることで、国民の半数近くが米国の北朝鮮への軍事行動を容認する現在の雰囲気が醸成されてきたのである。この元自衛隊幹部殿の記事こそ、その典型例にほかならない。

 約80年前、日中戦争から太平洋戦争にかけて日本をドロ沼に引きずり込んだのは、その大半が独走した陸軍の責任であるかのように言われているが、実は当時の世論も戦争拡大を大いに後押ししていた。朝日、毎日、読売の大新聞が軍部に忖度して戦果を過大に報道するたびに、それに熱狂した市民たちが日本各地で毎晩のように祝勝の提灯行列をやっていたのである。

 この北朝鮮問題に関する日本の立場を例えてみれば、ずっと外野席からヤジを飛ばしていたつもりだったのに、いつの間にやらマウンドに引きずり出されて滅多打ちをくらう破目にもなりかねない。マスコミの記事には簡単に同調しない冷静な眼が必要な時期にきている。

 
/P太拝