先週末の5/12土曜日の午後、鳥取市のとりぎん文化会館で行われた「人口減少に負けない地域づくりを考える」フォーラムに参加してみました。主催は「とっとり地域自治研究所(設立準備会)」という団体です。約100人の参加があり、なかなかの盛況でした。概要を報告します。
・当日資料の表紙
(1)基調講演 中山徹 奈良女子大教授
中山教授は「大阪自治体問題研究所」の理事長を務めておられるとのこと。今回の講演では、最初に高度成長期以降の日本の自治体行政の変遷の歴史を解説。さらに、現在の日本の大問題である「人口減少による地域の衰退」への対処方法について踏み込んだ発言を提起されました。すべての内容の紹介はできませんが、特に印象に残ったのは以下の点です。
① 世界の先進国の中で、首都圏への人口集中が進んでいるのは唯一日本だけである。1960年代以降、日本各地からの人口流出が急速に進行する一方で、現在の東京圏の人口は全人口の約三割にまで急増している。少子化傾向の強い東京に、さらに人口が集中することで少子化の流れが加速している。
一方、ドイツの首都ベルリンの人口は全国民の5%に満たず、金融の中心はフランクフルトに、製造業の拠点はドイツ国内各地に分散している。 米国の首都ワシントンやニューヨークの人口もそれぞれ全人口の数%程度で、その比率は減少傾向にあり、むしろ、米国南部や太平洋岸の方が産業が集積すると共に人口が増えている。日本での東京圏への人口集中は、自然現象ではなく明らかに政策的なものである。東京周辺に次々に大型の建設投資を計画して関連業界への利益を維持することが、その目的である。
② 高度成長時代には「国土の均衡ある発展」が唄われていたが、現在は地域間格差の拡大が止まらない。各地域を活性化するためには、東京に吸い取られている富を地元に振り向けて、地域内で循環させることが必要。
③ 各自治体の現在の動向は、次の二種類に分けられる。
(a) 開発型自治体:過去には起債で、現在は市民サービス削減によって財源をねん出して、大規模商業施設や国際会議場などを作り外国人観光客を誘致。仮に投資が成功し外部からの富を獲得できても、その富が地域に回らない構造になっている。
④ コスト削減のため民営化を推進している自治体が多いが、その結果、地域内の富の循環が減って地域内格差が増大する。拠点となる公共施設は地域に残して地域コミュニティを再編し、貧困の連鎖を防ぐための教育と社会保障を確保するべきである。「行政の民営化」ではなく、「行政の地域化」が必要である。
(2)シンポジウム 「人口減少に負けない地域づくり」
最初に、中山教授以外のシンポジスト三名の方からの報告がありました。実際の活動例としての日野町と鳥取市鹿野町の報告は、大変面白く興味深いものがありました。なお、筆者による補足を( )内に適宜付け加えています。
① 多田憲一郎 鳥大地域学部教授 「人口減少に負けない地域経済の発展戦略」
岡山県真庭市の「バイオマスタウン構想」の事例を紹介。1993年に地域の自発的組織として始まった「21世紀の真庭塾」が母体となって、地域の基幹産業である林業を基盤とした資源利用や技術開発が発展。現在では地域内の様々な資源を活用した数多くの商品を生み出している。
② 増原聡 日南町長 「コンパクトビレッジ 課題解決に向けた取り組み」
現在の日南町の人口は約4400人で、町の面積は県の一割を占める。高齢化率は51.1%。戦後の最大時には約1万6千人。「人口研究所の予想では2040年には2500人まで減るとされているが、自分は楽観的な人間なのであまり心配はしていない。この8年間に町外から約500人が移住してきた。」
「日南町では、消費税が上がっても公共料金は上げていない。町の税収は年間4億円だが町の基金は60億円を確保している。いつ資金が必要となるかもしれないので、不要な出費はできるだけ省くことで積み上げてきた。」
(上の基金額は特定目的用の基金も含んだ基金全体の金額と思われます。県内各自治体の基金の現状は県のサイトから見ることができます。これによると、自治体が任意の目的に使える「財政調整基金」の額は、H28年度時点で日南町が約21億円であるのに対し、人口が日南町の40倍以上ある鳥取市は約34億円です。
地震や洪水などの突発的災害が発生した場合、当面の対策を実施するための財源としては、自前で準備した「財政調整基金」に頼るしかありません。100億円かけて市庁舎を新築するよりも、災害に備えて「財政調整基金」を優先して増やすほうが、はるかに市民の安全・安心につながるはず。鳥取市の市民一人当たりの「財政調整基金」は、たったの二万円にも届いていないのが現状なのです。)
「町役場、病院、道の駅、商店街、図書館等が約1km圏内にあるので、これを中心地として維持し、町民は各集落からそこに通ってもらう。この中心地を障碍者も含めた町民みんなが働ける場所にしていきたい。各集落の集会所は維持し続ける。住民がいなくなると、すぐに荒廃してケモノのスミカになってしまう。」
「困っているのは、高齢者が、移住してくる若者を結果的に追い出してしまっていること。移住者に『彼氏はいるのか、うちの息子はどうだ?』とか、『大学を出た者がトマト栽培をするのか!』とか・・。こんな言葉をかけることで、移住予備軍の中での日南町の評判が悪くなってしまう。」
「地域協力隊にはあまり期待していない。三年たてば帰ってしまい町内に根付かない例が大半。」
「住民との集会では特定の人ばかりが発言する傾向が強いので、町長としては、『町民の声なき声』を聴くように努めている。」(今の鳥取市長に聞かせたい話!)
・日南町のコンパクトビレッジ構想
(日南町の公式サイトも丁寧に作られていてなかなかに面白い内容です。是非ごらんください。)
③佐々木千代子 いんしゅう鹿野まちづくり協議会 理事長
「私たちの会は平成12年に立ち上げました。鹿野町を『自分の子供たちが帰ってきたい町にしたい』ためです。そのためには、『親たち自身が楽しんでいる町、大人になってから子供のころに色々と楽しい経験したことを思い出せる町』にすればよいと思いました。」
「アート系を中心に、いろんなイベントをやって楽しんでいます。例えば「虚無僧行脚」は、昔から行われていた伝統を拡大したもので、今では全国から尺八を吹きたい人達もたくさん集まって来るようになりました。」
「力を入れているのは、町内で増えている空き家の再生です。家主さんの不安を解消するために、いったんは私たち協議会が借り受けてから、管理に責任をもって貸し出す方式が主流です。町内には江戸時代に測量に訪れた伊能忠敬が泊った古民家(登録有形文化財)もあり、探せばいろいろな価値を持つ物件が出てきます。」
・年を追って増え続けるイベント、若者の協力で空き家再生
「芸術関係を主に、尾道市など他の自治体や関西の大学を相互に訪問して交流を深めている。私たちのやり方は、幹部だけの数名が出かけるのではなくなるべく多くのメンバーで訪問するスタイル。若い女性がいると、結構、人が集まって来ます。」
「空き家活用の結果、協議会の紹介で移住した人の数も年々増えてきました(下図参照)。協議会を介さない移住者も増えており、今年の四月には鹿野町では去年より人口が16人増えたそうです。私自身の家も含めて、うちの近所でも都会に出ていた子供たちが家族を連れて帰ってきました。」
・空き家活用件数の現状、協議会を経由した移住者の推移
(「いんしゅう鹿野まちづくり協議会」のサイトもご覧ください。)
(3)感想
筆者は当日の夕方に所要があったため、シンポジウムに参加された四名の方の議論については、残念ながら拝聴することなく会場を後にしました。しかし、日南町と鹿野町の実践内容は、報告だけ聞いていても大変に面白く、他の自治体にとっても大いに参考になるのではないでしょうか。
印象に残ったのは、増原町長も、佐々木理事長も、共にユーモアとサービス精神にあふれていること。こういう人が中心にいると、その周りに人がたくさん集まって来るのだなと思いました。佐々木さんの、「親がまず自分たちで楽しむ」方針というのもいいですね。誰かが楽しんで何かやっていると、「何だろう?」と自然と人が集まって来るものです。
さて、このフォーラムの主張は、従来の企業誘致による地域振興では企業が撤退した後には何も残らない、これからは、自分たちの地域の中にある資源と技術に基づいて地域再生を図るべきというものでした。
ひるがえって我が鳥取市を見ると、いまだに外部企業を誘致することばかりに熱心です。市民から集めた税金を使って工場用地を確保し、進出企業には法人税その他を優遇、はなはだしきは工場や機械まで市が準備してタダ同然で貸し出している。その結果、最近は製菓、薬品、航空機部品等の会社が次々に進出してきていますが、互いの産業上での関係は全くありません。外部から部材・原料を持ち込んで、市内の安い労働力で加工し再び外部に売るだけであり、市内の既存の産業と結びつくこともありません。
こんなやり方では、進出企業が撤退した跡には何も残らないことは、かって市の主力産業であった電機産業の衰退ですでに十分経験したはず。今の鳥取市政には、過去の自らの失敗に学ぼうとする姿勢が全く見られないと言わざるを得ません。こんなことでは、(旧鹿野町域は別としても、)鳥取市全体としての人口減少には歯止めがかからないでしょう。
最後に、今回のシンポジウムを主催された「とっとり地域自治研究所(設立準備会)」ですが、今年の11月に設立総会を開くとのこと。総会参加者は事前に申し込みをとのことです。案内文を下に示しておきます。
以上/P太拝