「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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新・階級社会

 昨年読んだ記事の中で衝撃を受けたものの一つに、雑誌「週刊ダイヤモンド」の四月の記事、「あなたの階級はどれ?現代版カーストの恐怖」がありました。「日本の格差が拡大し固定化されて、新しい階級社会が出現してしまった」という内容です。この説の主要な提唱者の一人が早稲田大学橋本健二教授。まず、橋本氏が提唱している「新・階級社会」の概要を下の図に示します。

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                         (週刊ダイヤモンド 2018.4.7号 P32より)

注:上の図は、図の右下隅にカーソルを持っていくと出てくる (+) マークをクリックすると拡大します。(以下の図・表も同様です)

 上の図の中の数字を表としてまとめたものを下に示します。
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 「労働者階級」を除く他の四つの階級では、2005年対比で2015年の個人年収と世帯年収がいずれも下がっています。「現在は戦後最長の景気回復中と政府発表 」と先日のニュースで報道されていましたが、「これも最近話題の、政府のウソの一つ?」と疑いたくもなります。

 この表の中で注目されるのは、「アンダークラス」の貧困率と男性未婚率の異常なまでの高さでしょう。少子化対策は、この階級を構成している非正規労働者の待遇改善なくしてあり得ないことを示しています。

 最近法案成立した外国人労働者の受け入れ大幅拡大も、この法案を要求した経済界の主な狙いは、このアンダークラスの量的拡大を意図したものに他ならないと感じます。実際に外国人労働者が大量に入ってくれば、この下にさらに新たな階級が形成される可能性も出てくるでしょう。

 さて、上の記事の元となった橋本教授の「新・階級社会」(講談社現代新書)を最近入手したので、その内容も簡単に紹介しておきます。この本の冒頭に、日本社会の格差が確実に拡大しつつあることを示すグラフが出てきます。下の図です。
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 「ジニ係数」が大きいほど格差は拡大し、この係数が1の場合には、一人がすべての収入を独占し他は収入ゼロ、ジニ係数がゼロの場合には社会構成員全員が等しく同じ収入を得るということになります。「ジニ係数再分配所得)」とは、富裕層から多く税金を取って社会保障費等で貧困層に還元した後のジニ係数を意味しています。
 いずれにしても、「男女別賃金格差」が横ばい(先進国では日本が一番男女間の格差が大きい)であることを除けば、個人間の格差を意味するジニ係数を始めとして、企業規模別、産業業種別、生活保護率等、ほぼすべての指標が近年の日本社会の格差拡大を示しているのです。

 この小さな本には豊富なデータが含まれていて、とてもすべては紹介しきれませんが、読んで最も衝撃的だったのは、アンダークラスの健康状態が飛びぬけて悪いこと、精神疾患も一番多いこと、そして体格すらも他の階級に比べて劣っているという事実です。このことは、格差が家族単位で固定化され、拡大再生産されている実態を表しています。それは、体格が一番良好な「資本家階級」層の大半が、親からその地位を相続している事実によっても裏付けられているのです。

 「アンダークラスの連中が病気になろうと、早死にしようと、自分には関係ない。俺は、自分と自分の家族だけががリッチで長生きできさえすればそれでいい。」と思っている人も多いかもしれません。しかし、橋本教授はこの本の中で、「先進国の中では格差の大きい国ほど平均寿命が短くなる傾向がある」と述べています。犯罪が増加し社会的ストレスが増えることで、日常の不安感と生活コストが増すことが影響しているのではないかとのことです。

 就職氷河期に世に出てその多くが非正規化した世代は、現在四十代前後。老後の備えをするような余裕はありません。彼らが退職するころには社会保障費はさらに巨額になるとともに、日本社会のストレスもかって経験したことがないレベルにまで高まるでしょう。

 橋本教授らの社会学者グループの調査対象は各階級別の意識や政党支持にまで及んでいます。「資本家階級」の多くが支持する政党については、予想通りの結果でした。この階級は外国人(おそらく、白人以外の外国人)を見下す傾向が一番強いという結果も出ています。いわゆるネトウヨは、貧困層ではなくて富裕層が大半のようです。

 さて、なぜ現代の日本では、米国、フランス、韓国で頻発しているような困窮する若者の反乱がおきないのでしょうか?橋本教授は、現在の日本で蔓延している「自己責任論」に原因があるのではないかと分析しています。

 「お前が今貧乏なのは、お前が今まで努力してこなかった結果だ」という自己責任論を一番支持しているのは当然「資本家階級」なのですが、他の階級でも、アンダークラスにおいてさえも、一定程度の支持者が見られるのです。

 皆がほぼ同じ程度の家庭環境の元で育てられることがあらかじめ保障されている北欧のような社会でならともかく、階級社会と化した今の日本で「自己責任論」を振り回すのは無理があります。

 経営者の子供と、ひとり親の元で育つ子供を同じスタートラインに立たせて「よーいドン」して、負けた後者を「お前の努力不足」と切り捨てるのは残酷と言うほかはない。母子家庭が九割を占める「ひとり親家庭」の貧困率は現在50%超、主要国中最悪です。「親の年収が一千万円を超えていなければ東大に入るのは無理」と言われるようになった昨今です。

 自己責任論と言えば、筆者の経験でも、従業員がサービス残業まみれで働いているいわゆるブラック企業ほど、自分の能力不足を自覚したがるタイプの人が多いように感じます。こういう人たちによくみられるのは、ただでさえ少ない自由時間を使って自己啓発本を買い、セミナーに参加しては自分の能力を伸ばそうとしていること。会社の組織自体に欠陥があるのではという発想をせず、期待に応えようとひたすら周りに自分を合わせようと個人で努力し続けること。結果として、このタイプの人たちがブラック企業を支え延命させているのです。

 我々の世代の少し上のいわゆる「全共闘世代」は、ヘルメットをかぶり徒党を組んでゲバ棒を振り回し、機動隊に石を投げて暴れていました。自己肯定的な彼らにとって、敵はあくまで自分の外にありました。ゲバ棒を捨てて就職した彼らの多くは、相変わらず自己肯定的なままに、今度は企業戦士となりライバル企業を敵として、自分の会社の発展のために夜中まで働きました。

 一方、今の若い世代は、あくまで個人の範囲にとどまり内向し、自分の敵を自分自身の中に見出そうとしているように見えます。「今の自分が苦しいのは、何よりも今までの自分がダメだったからだ」と自身を責め続けているのではないでしょうか。日本特有の「引きこもり現象」も、この自己責任論の蔓延と関連がありそうです。

 この「新・日本の階級社会」を読んで、今の日本はちょうど分岐点にさしかかっているように感じました。このまま惰性で先に進んでしまうと、将来の日本はずいぶん暗い社会になりそうな予感がします。日本の将来について再考してみたい方に一読をお勧めします。

 なお、「開かれた市政をつくる市民の会」のサイトで何度も取り上げていますが、下の図に示すように、現在の鳥取市職員中の非正規職員の割合は50%を超えています。人口20万人弱の規模の自治体の中では、おそらく国内最悪の比率。自治体自らが「アンダークラス」を量産し続けている鳥取市、いったい誰のための市政なのでしょうか? 
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/P太拝