「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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電力の地産地消のすすめ

 先回に続き、最近参加したイベントの話題です。3/9(土)に鳥取市さざんか会館で「鳥取県消費者大会 講演 -生存可能社会に向けた社会の変革-」が開催されました。

いかにもカタい題ですが、講演される京大名誉教授の内藤正明氏は長年にわたり環境問題の重要さを訴えて来たこの分野の第一人者とのこと。退官後に自らの退職金でNPO法人を設立されたそうです。以前から原発問題や地球温暖化に強い関心を持っていた筆者としては、この機会にもう一度勉強しなおそうと思った次第です。

 約一時間超の講演は脱線あり、関西人特有のオチありで、なかなかに楽しいものでした。会場からは女性を中心に時々笑いが漏れていました。内藤先生は既に終活に入られたそうですが、予定時間を軽くオーバーして主催者側を少々あわてさせるという元気さを発揮されていました。当日の参加者は約60名。もっと多くの人にこの話を聞いてもらいたいものでした。

 以下、当日の配布資料の一部を引用しながら概要を紹介します。なお、講演資料に使われたイラストの一部は「ハイムーン工房」さんのものであり、同工房のコメントによると元のイラストは自由に使ってよいとのことなので、以下の漫画イラストは直接同工房のサイトから引っ張ってきています。漫画以外の図は後援会当日に配布された資料からの抜粋です。

(1)講演 「生存可能社会に向けた社会の変革」 内藤正明

・ 何十年も前から、自分は「このままCO2を出し続けていれば温暖化で地球はダメになる」と指摘し、太陽光発電など再生可能エネルギーへの転換を主張し続けてきたが、霞が関の役人からは「それで可能なのは全エネルギーのたかだか、0.数パーセント、屁のツッパリにもならん」と嘲笑されてきた。しかし最近、日本の再生可能エネルギーの割合は飛躍的に増え、世の中の風向きが変わってきた。

(注: 今年3/11付の日経新聞記事によると、経産省データによる電源の構成比は、2017年度の原発3.1%に対して、再生エネルギー全体の割合は16.0%、うち太陽光が5.2%となり、太陽光は既に原発を超えている。
2010年には、原発25.1%に対して、再生エネルギー全体が9.4%、うち太陽光は0.3%であった。)

・ 霞が関の役人とは環境問題で何十年も付き合ってきた。霞が関から出てくる政策は、その大半が「いかにして日本の大企業にもうけさせるか」という観点からのものである。彼らは、「一般国民は、大企業の儲けからしみ出て来るお余りを受け取ればそれで十分、受け取った以上は文句を言うな。」と考えている。それどころか、自分が天下りするためのポストの増設に躍起になっている。

・ 国際的な取り組みは「低炭素」から「2050年までに脱炭素」へと移ってきたが、地球温暖化の防止は非常に困難。日本では国が、温暖化防止から、「いかに温暖化に順応して生きのびるか」との目標へ方針転換。温暖化対策としての新製品を開発し、これを国民に買わせる方向。
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・ 事業が社会に配慮しているかどうかを認めてもらうための「認証システム」(動物福祉への配慮など)が普及し始めた。さらに強制力のある制度として「炭素税」、「環境税」が検討されている。

・ 日本は人口減少に伴って地方社会崩壊の危機を迎えており、これを食い止めるためには「地方自立」、「脱近代の模索」、「ソーシャルファミリー(社会的な家族)」、「地方循環経済の確立」が必要。

・ 日本の食品は「安全・安心」だと日本人は信じているが、日本で認可されている食品添加物の数は欧米に比べて圧倒的に多い。(日本1550品目に対して、英21、米133、独64、仏32)。地域社会と事業者の自主規制が必要だ。

・現在は地球全体が「資源と環境の危機」に瀕しており、十年後には39億人が渇水に悩むと予想されている。また、「自然生態系も崩壊」しつつあり、毎年、九州と四国を合わせた面積の森林が消失している。これらに伴って、現在のグローバル経済も崩壊の危機にあり、これを救う手段としては、「地域の循環経済の形成」を急ぐしかない。

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・ 下の図に示すように、自動車を運転することで発生するCO2の量は飛びぬけて多い。最近は省エネのために照明器具のほぼ全てがLEDに切り替えられつつあるが、家の中の照明すべてをLEDに取り換えてみても、自動車を10分間運転することにより排出するCO2の量には到底追いつかない。

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・ 滋賀県嘉田由紀子前知事とは京大教員時代からの友人(嘉田さんは、京大教員仲間ではマドンナと呼ばれていた)。嘉田知事の時代には、知事と協力して温暖化防止のための様々な提案を行った。県議会は反対したが知事が押し切った。その成果として滋賀県では、例えば琵琶湖から京都までを瀬田川宇治川水系を経由して船で貨物を輸送する試みが始まっている。

・ 現在、内藤先生が注力しているのは、地域社会で住民が互いに支えあう共同体・ソーシャルファミリーの実現。実践例としては滋賀県東近江市があり、「東近江三方よし基金」(内藤先生が理事長)による取り組みが挙げられる。高齢者・障碍者の就労支援、太陽光発電などエネルギーの地域内での自給、ごみリサイクル・森林保全等の環境事業などの分野で活動中。

・ 今後進むべき方向としては、下の図の右側から左側への移行をあげられていました。経済の分野では、当サイトで昨年末に紹介した米子市出身の宇沢弘文氏の思想的立場が、あの「竹中平蔵」氏の立場とはまさに正反対の対極に位置しているのがとても興味深い。
 日本がこれから目指すべき社会は、「メンバーは組織のためにある」軍隊や株式会社を中心とする社会ではなく、「組織がメンバーのためにある」はずの協同組合、NPO、地域社会などが中心の社会であるべきだ、というのが内藤先生の主張です。
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                         (画面右下隅のクリックで拡大します)

(2)電力の地域内自給に関する報告
 講演に続いて、電力の地域内自給の実践例として、以下の二つの団体からの報告がありました。

(a)「原発フリーのグリーンコープでんき」 グリーンコープ生協とっとり 小倉理事長

 グリーンコープは食べ物の安全を守る運動から始まった組織。2011年の福島の原発事故をきっかけにエネルギー供給の問題にも踏み込んだ。現在、大阪から鹿児島まで西日本の14の団体と連合して活動中。九州を主に七カ所に太陽光発電所を設置、さらに地域と共同で設置したものが五カ所。
 鳥取県内ではまだ未設置。過去には北栄町に好適地を見つけたが、2億円の建設費に対して中国電力が6億円の電力網への接続費用を要求してきたので設置を断念した。

 電気料金の約三分の一が電力網で電気を送るための「託送料金」(電線使用料)だが、その中には稼働していない原発の託送料も余分に含まれている。
 2020年には託送料の見直しが行われるが、この中には原発廃炉費用や原発事故の賠償費用が上乗せされようとしている。この案は国会での審議を経ることなく、経産省の省令で決められようとしている。原発のために電力料金の余計な値上げをされないように監視を強めなければならない。

 (b)「株式会社とっとり市民電力の設立と取り組みのご紹介」 同社 大谷部長

 「とっとり市民電力」は鳥取ガス90%、鳥取市が10%を出資して設立した会社。鳥取市からの人的支援はなく、現在の社員は鳥取ガスからの三名のみ。
 現在、鳥取県内の電力需要の35%が再生可能エネルギーで構成されており、この比率は全国平均の約二倍。残りの大半は中国電力の火力(その大部分は石炭火力)。
 平成27年に「とっとり市民電力」を設立、主に市内の公的施設に電力を供給。現在、3500件程度の顧客を確保している。現在、年間360kWHを供給して年間約10億円の売り上げ、三期連続増収中である。
 供給電力の大半は外部購入だが、自前の発電所も持っており、主なものとしては、市内東郷地区の3haに2MW、710世帯分の太陽光発電、秋里下水処理場に400世帯分のバイオマス(メタンガス)発電を稼働中。今後、県の水力発電所が民間委託(コンセッション化)される計画があり、そちらにも参入していきたい。

(3)感想
 今回の講演を聞いて、自分自身の課題として今後取り組もうと思ったことは次の二点。

(A) 自動車に乗る時間を減らし、極力自転車を利用する。
 筆者は、現在、一日に30分程度、自動車を運転している。仕事の関係でこの時間をゼロにはできないが、今後はなるべく自転車を活用するようにしたい。今までもエアコンはなるべく使わないようにしてはいたが、車のCO2排出量とは比較にならないことが判った。

(B) 再生可能エネルギーによる電力を多く提供している事業者への切り替えを検討する。
 別に、筆者の友人や親せきが生協や鳥取ガスに勤めているわけでもなく、また、特に中国電力に対して恨みがあるわけでもないが、「原発はすぐに廃止すべき」と従来から考えて来た我が身としては、この機会に切り替えに踏み切りたい。

 各大手電力会社の経営者や与党政治家は、今までの原発推進路線を惰性で延長することしか考えていないのだろう。約五十年前、原発は「トイレのない新築マンション」と言われていた。あれから五十年も経つというのに、いまだに「使用済み核燃料廃棄場というトイレ」のないままに、「原発による電力は安い」と言ってマンションに住み続けることを推奨しようとする人たちがいる。彼らは、今後のトイレ建設費用と、それを将来約十万年間も維持管理し続ける費用を計算に入れないでモノを言っているのである。未だにトイレひとつすら作れない産業を、なんで先端技術と言えるのか?

 私たちは、次の世代に「迷惑なモノ」を押し付けたくないだけなのである。
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/P太拝