「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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一人当たり県民所得、鳥取県は三年連続ブービー賞!(2)

(先回からの続き)
 
さて、鳥取県の県民所得の2010年頃からの急落の原因はどこにあるのでしょうか?、以下の要因が大きく影響していると思います。
 
(1)主力産業であった電機関連産業の衰退

下に県内の製造業の品目別売上高の推移(2005-2014)を示します(県統計課のサイトからデータを収集)。
この図では売り上げの大きい主要四品目のみを示しています。他の品目は多くても年間売上300億円程度であり、全体への影響は少ないのです。

目に付くのは、「電子部品・デバイス」の急激な落ち込み。2014年の売り上げは1390億円であり、ピーク時の2006年の約四割にまで激減。液晶パネルの生産大手であった鳥取三洋電機の衰退・撤退の影響が実に大きいものであったことが判ります。同様に、鳥取三洋などの製品であった「電機・機械」も、2014年の売り上げは786億円とピークの2006年の約六割にまで減少しています。

イメージ 1
 
(2)電機産業に替わる主要産業の育成が急務

鳥取県内の製造業全体の出荷額は2014年では6804億円。ピークの2007年の1兆1408億円の約六割へと激減しています。この五千億円近くもの減少分を他の産業で少しは穴埋めできていれば、一人当たり県民所得はかっての30位台半ばから、一挙に全国46位にまで転落することはなかったはず。

かっての主要産業であった電機産業の復活の望みは、もはやありえません。今や、電機産業の核心部品である液晶や半導体の世界最大の生産拠点は、その座を日本から奪った韓国や台湾から、さらに中国へと移りつつあり、今後、日本に帰ってくる部分があるとしても全体のごく一部だけでしょう。

上の主要製造品目の中で、唯一増加しているのは「食料品」。2014年の出荷額は1344億円。2005年からは15%増加しています。飛躍的とはいかないものの、今後も着実な伸びは期待できそうです。

日本のGDPの1%強が農林水産業第一次産業)、二割強は「製造業+建設業」のいわゆる第二次産業、残りの約八割弱がサービス業などの第三次産業です。鳥取県内のサービス業を見てみましょう。下に県内サービス業の各部門の売上高を示します。(総務庁統計局サイトより)

なお、県内建設業の総売上高のデータは、ネット上では見つけることができませんでした。

・2013年 鳥取県内サービス産業部門別売上

    部門   売上高(億円/年) 県内サービス業全体に対する比率(%)
   医療・福祉        3196            32.4
   生活関連・娯楽          1715                          17.4
   運輸・郵便                 1399                          14.2
   宿泊・飲食                 1121                          11.4
   不動産・物品賃貸       1092                          11.1
   その他                      1342
(県内サービス業全体    9866 )

全国でのサービス業全体に対する各部門の比率と比較すると、県内では「医療・福祉」、「宿泊・飲食」の比率が全国よりも高くなっています。全国での比率は、「医療・福祉」がサービス業全体の15.4%、「宿泊・飲食」が9.1%。鳥取県では、全国に比較して、「医療・福祉」部門の比率が極めて高いという特徴があります。さらに医療・福祉分野への投資効率を高めることで、医療・福祉の先進地・集積地として県外から人を呼び込める可能性があります。

「宿泊・飲食」の比率をもっと高めることでも、県外から人を呼び込むことも可能でしょう。食べ物の分野で特色を出すことで、観光地を通過するだけではなく、その近くで一泊してもらえるようにもなります。
 
そのためには、県内の旅館・ホテルの質を高めることが不可欠。県内には、サービスの品質が極めて低い旅館・ホテルがいまだに見受けられます。これらが自然淘汰されるのを待っていては、少数の不良業者のために県全体の印象が決定的に悪化することは避けられない。業界内や行政からの強力な指導が絶対に必要だと思います。

(3)農林水産業も有望

筆者が考える鳥取県の強みは次の二点。

①人口密度が低いこと
②降水量が多いこと

二点とも、従来は欠点とされる傾向が強かったが、そう捨てたものでもありません。鳥取県の人口密度163人/km2は、日本全体の341/km2の半分以下。近隣諸国では、韓国が503人/km2、中国は国全体では145人/km2だが、発展著しい東部沿海地区の各省は、ほとんどが500~800人/km2。北京市上海市では2000人/km2を超えています。チベットの高地や新疆ウイグルの砂漠まで含んだ中国全体の人口密度と、鳥取県のそれとがほぼ同じというのは、何だか面白い。(某政治家の「鳥取は日本のチベット」発言の発端は、ここからか?)

何が言いたいかというと、鳥取県は東アジアの中ではトップクラスで自然環境が豊かだということ。筆者は仕事でよく韓国や中国を回ったが、両国ともかなりの奥地に行った時を除いて、眼にする森林は実に貧弱でした。

山陰地方は、東アジアの中では降水量がかなり多い方です。雨や雪が多く森林が豊かなことが十分な農業用水の確保を保証しています。巨大な面積を有する大国であっても、水が無ければ植物は何一つ育たない。面積が狭くても水さえ常時確保できれば、作物の高収量生産は可能です。気候変動がさらに激しくなり、人口と食料需要の増加が続くと予想される今後の世界環境において、タダで空から優良農地の上に降ってくる雨は、極めて重要な資源になると言ってよいでしょう。

鳥取県農林水産業の生産額は、農業が679億円、漁業150億円、林業20億円(2013年、林業のみ2012年)、合計で現状では年間849億円でしかない。このうちの多くの部分が加工に回されて、最初に示した製品出荷額中の「食料品」となっています。

単に生鮮品として売るのではなく、加工・販売までを視野に入れて生産者が売ることを意識して農業生産を行うことが重要でしょう。農産物の競争力を高めるためには、いわゆる「六次産業化」が不可欠です。

時流の変化によって消えてしまった主要産業のことをいつまでも嘆いていても、何も返っては来ません。
 
山陰地方よりも冬の気候がさらに厳しい北陸三県は、最近では、いずれも富裕な県・暮らしやすい県として国内で広く認知されるようになりました。一人当たり県民所得の順位は富山県が全国七位、石川県が十五位、福井県は二十一位です。鳥取県が全国四十六番目にいつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。

北陸新幹線が通ったから北陸が豊かになったのではなく、北陸が豊かで発展しつつあるから、JRが新幹線を北陸まで延長する計画を立てたのです。政治家を集めて旗を振っているだけでは、産業が衰退し続ける地方にJRが身銭を切ってインフラを投資するはずもない。各自治体のお偉いサンの皆様、勘違いしないでください。

山陰や北陸出身の人間の強みは、目立たない所に居てもコツコツと地道な努力を積み重ねることができる点にあります。北陸の人たちにできて、鳥取の人間にできないワケがない。いきなり高望みをしても、絵に描いたモチで終わるだけです。自分の足元をしっかり見つめて、一歩ずつ、また登り返せばよいのです。頑張りましょう!

(次回に続く)