「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(6)   -地域と国の経済への影響-

 風力発電の最大の問題点として低周波音による健康被害が挙げられますが、今まで見てきたように、環境省は「耳に聞こえる周波数音域」だけで環境基準を設定している現状を全く変えようとはしていません。低周波音域については、ずっと知らん振りを決め込んでいます。国民の人権を役所自ら無視しており、最近話題のSDGsの方針に明らかに反しています。環境省も、風力発電を推進してきた多くの企業も、今後はSDGs不適格団体と呼ぶべきでしょう。
 さて、そのように指摘してみても、「少々の被害者の発生には目をつぶっても、経済発展を優先すべき」と言う声も少なからずあるのでしょう。もちろん、彼ら自身は風車から遠く離れた安全な地域に住んでいるのでしょう。

 今回は風車が地域経済、さらに日本の経済にもたらす影響について考えてみたいと思います。なお、風車関係の記事は今回でいったん終了し、今後の展開に応じてまた取り上げていく予定です。

 (1)風力発電所建設工事の内容

風力発電所の設置に賛成する人々の中には、設置に伴う建設工事によって地域に落ちるカネに期待している方が多いのかもしれない。しかし、一般の企業誘致に伴う工場等の建設工事とは異なり、こと風車の建設に関しては、その特殊性ゆえに地元企業が参入する余地は多くない。以下、鳥取市南西部での風力発電所設置計画(以下、鳥取風力)と青谷町での設置計画(以下、青谷風力)についてその内容を見ていこう。

鳥取風力の事業者である日本風力エネルギー(株)の親会社であるヴィーナ・エナジーのサイトの「企業情報」を見ると、「建設工事等の施工管理は系列会社のヴィーナ・エナジー・エンジニアリング(株)」が担当する」とある。また「事業案内」のページの施工管理の項目には、「アジア太平洋地域に渡って事業展開する規模の経済を生かし。調達と施工にかかるコストを最適化」とある。要するに事業者のグループ内で既に施工のヒナ型は出来上がっており、地元企業に参入する余地があるとすれば、その下請け作業に限られることになる。
また、風車の部材搬入・建設には特殊な技術が必要であり、長さ100m近い羽根の輸送、高さ100m近いクレーンの現地での組み立て等は到底地元企業の手に負えるものではない。

風車の基礎工事や搬入路の建設あたりに地元企業の参入機会があるのだろうが、先の第一回の記事で既に指摘したように、稜線上での数十kmにも及ぶ作業道・管理道の設置は、今でさえ危ない鳥取市の水害危険性をさらに増すことになる。

青谷風力に関しては、そもそも風車の設置位置からして既存の農道脇に建設することとなっており、新たな道路建設は予定されていない。風車の基礎工事だけに地元企業の参入余地があるのだろう。この事業者である自然電力(株)も自前の施工会社を持っており、風車建設についてはこの会社が全体の施工管理を行うことになるようである。


(2)風力発電所建設後の地域経済への影響

風力発電所が稼働し始めてから後の運用では、基本的に現地に人が駐在する必要はない。発電量や風況、機器異常などのデータはリアルタイムで事業者の本社に送信されるはずである。故障が起こった場合には中央から専門家チームを派遣しなければならず、仮に現地に数人のスタッフがいたとしても、彼らだけでは手の打ちようがない。風力発電所の開設による地元での雇用吸収力はほぼゼロと断言してよいだろう。

再生エネルギー発電施設はどこでもこれと似たようなもので、筆者は2014年に当時国内最大級と言われた米子市「鳥取米子ソーラーパーク」(出力42,900kW)を見学したことがあったが、併設の環境学習施設に来訪者への説明のための職員二名が配置されているだけであった。この職員の方に確認したところ、発電業務に直接かかわっている人は現地にはゼロで、ソフトバンクの本社からリアルタイムでデータの全てを監視・記録しているとのことだった。

次に事業者が支払う土地借用料について見てみよう。2020/8/21付の日本海新聞の報道によれば、鳥取風力の予定地の中に位置し、その周囲三方に風車が建つとされている岩坪集落では、事業者から契約後に地代として年間で約450万円を自治会に支払うとの説明を受けているそうである。予定地のどの範囲が同集落の持ち分になるのかは不明だが、少なくとも風車数本分には相当するのだろう。

年間で数百万円が入っても、風車による健康被害のために先祖代々の家を捨てて村を出ていく人間が増えるようでは元も子もない。また、外部から補助金や支援金などの名目で巨額のおカネが流れ込んできたために、今までは仲が良かった集落内の人間関係が壊れてしまったというのもよく聞く話である。

そもそも、前回の記事で示したような風車からの低周波音のせいで夜に安眠できなくなった家に、自分の子供や孫が泊りに帰って来てくれるはずもない。そうなってしまえば、借地契約が終わる20年ほど先には村の中が空家と廃屋だらけになってしまうことは確実だろう。風車の建設は、地域振興どころか中山間地の過疎化をより一層加速させることになるだろう。

青谷風力については、予定地の大半を所有する蔵内地区が既に事業者との間に土地の売買契約を結んだと報道されている。それが事実ならば、前回の記事で既に指摘したように同地区は風車の低周波音による健康被害を集中して受けることになるだろう。

土地売却金額はかなりの巨額になるのかもしれないが、それと引き換えに、近いうちに村そのものが消滅してしまう可能性もある。風車の麓に立つ集落の土地は、買い手がつかないままに暴落するだろう。蔵内集落以外の風車周辺の集落では、健康被害を受けるだけでおカネは全然入って来ないのだから、風車建設は全くのマイナスでしかない。

既に報道されているように、河原町北村地区では県外から移住予定であった数家族が風車建設の計画を聴いて既に移住を取りやめている。わざわざ移住してきて風車の下に住みたがる人間はめったにはいない。地元の人間が逃げ出し、移住してくる人もいないとなれば、近い将来には、廃村となった無人の家々を見下ろしながら風車だけがクルクルと回り続ける光景が目に浮かぶ。人が住まなくなれば、集落の周辺の農地も荒廃するのは当然の結果である。

景観に対する風車の影響については、近いうちに具体的な予想図も含めて改めて記事にしたい。いま言えることは、風車が林立する景観は明らかに鳥取県内の観光業にとってマイナスに作用するだろうということである。

現在はコロナ禍のさなかにあってインバウンドによる外国人客の訪問はゼロだが、この騒ぎが収まれば再び観光客も増えるだろう。彼らが鳥取県に求めるものは、自国では見ることができない「伝統的な日本の田舎の光景」なのである。林立する風車をバックにきれいな着物を来て写真を撮りたがる外国人客はいないだろう。

 (3)日本経済の中での風力発電の位置づけ

鳥取風力の事業者の日本風力エネルギー(株)はシンガポールに本拠を置くヴィーナ・エナジーの子会社である。風車が発電した電力の大半が中国電力に売却され、その代金は東京に集められて最終的にはシンガポールに送金されることになるだろう。青谷電力の事業者の自然電力(株)の本社は福岡市にあるので、福岡に電力の売却金が流れることになる。鳥取市は場所を貸しているだけなのである。

'00年代の自治体による風力発電ブームの時には電力売却金は一応は自治体の収益になっていたが、その後、税金で建てられた風車は次々に民間企業へと売却されていった。現在、鳥取県内で公営で運営されているのは、鳥取市越路で県が運営している鳥取放牧場風力発電所の一カ所だけだ。公営の風力発電所であれば、まだ地元に還元される資金をも期待することもできたのだが、自治体が風力発電を運営しても赤字になるだけのようである。

日本全体としての風力発電の位置付けについても確認しておこう。まず設備面でいえば、昨年の段階で陸上風車を生産する日本メーカーはゼロになった。2019年から2020年にかけて、日立、三菱重工日本製鋼所の三社が次々に自社での風車生産の終了を公表した。数百kW以下の小型風車のメーカーはまだ国内に何社かあるようだが、今後、日本国内に建つ大型風車は全て外国メーカー製になる。

鳥取風力でも、青谷風力でも、外国製の巨大な風車が林立することになる。特に鳥取風力の場合には、外国資本が外国製の風車を鳥取市内に建設し、鳥取に吹く風を利用して得た電力を作り、それを売って得た利益の大半が再び外国に還元される。「植民地化」という言葉が脳裏に浮かぶ。国内に風力発電所をさらに建設することは、イコール、他の事業でせっかく稼いだ貴重な外貨を国外に流出させることに他ならない。

参考までに、2019年時点での風力発電メーカーの世界シェアを確認しておいていただきたい。15位までを欧米と中国メーカーで独占しており、日本のメーカーの名前はどこにもない。なお、三菱や日立などの大手メーカーは自前の生産はやめたものの、外国製の風車の国内販売は続けるとのこと。
「風力発電メーカー市場シェア 2019年」

余談だが、太陽光発電設備の世界シェアも似たようなもので、かっては世界のトップに立っていた日本だが、国別ランキングで見れば既に世界六位以下に転落してしまっている。
「2019年の世界太陽電池市場、シェアトップ5社は?」

鳥取市内でも、メガソーラーとも言えない数十m四方ほどの小規模太陽光発電所が最近は猛烈な勢いであちこちに設置されているが、近くに行って調べてみると、使われているパネルのほぼ全てが中国製である。最近は日本製を全く見ない。電圧を直流から交流に変換するパワーコンバーター(略称パワコン)も多くが中国製で、今話題のファーウェイ製のパワコンも複数の発電所で最近確認している。

次に風力発電のコスト競争力も確認しておこう。「風力発電は非常に低価格」というのは最近よく聞く言葉だが、詳しく調べると実態はそうでもない。次の表は2020年時点での各種再生エネルギーによる電力の調達価格(配電業者が発電業者から調達する価格)である(クリックで拡大)。経産省資源エネルギー庁が昨年11月に公表した文献から引用した。

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数年前は確かに太陽光よりも風力の方が安かったのだが、近年の太陽光パネルの急激な値下がりで、現在は太陽光発電の方が大幅に安くなっている。風力発電のコストは、近年は低価格化の速度が緩慢となっている。
なお、我々が毎月支払っている電力価格は、中国電力を例にとると、一般家庭向け、小規模な商店・事業所向けが21~25円/kWh(300kWh/月以下の場合。基本料金込み、燃料費調整額と再生エネルギー賦課金は除く)となっている。太陽光発電の電力価格とは大差があるが、電力用途の過半を占める大型の工場や事業所向けの高圧・特別高圧電力の料金は、通常時は15円/kWh以下、夜間は9円台/kWhとなっている。中国電力太陽光発電の電力を買って大儲けしているわけではなさそうである。

今後、風力発電のコストも太陽光発電並みに年々安くなっていくのだろうか。キャノンの研究所による次の記事が参考になる。

「風力発電のコストは上昇している -英国からの報告-」
以下は要約。なお、文中の英国ポンド表示は、現在の為替水準である1ポンド=151円で円に換算した。

・この調査結果は、過去15年以上にわたる欧州内に風力発電所を所有・運営する350社以上の監査済会計報告から得られた、実際の発電コスト(=資本費+運用費)のデータに基づいている。
・英国の洋上風力の資本コストは、洋上発電の総累積容量が年々大きくなるほどに上昇している。累積出力が百万kWの頃には1000kW発電に要する資本は平均で3.5億円であったが、累積で千六百万kWとなった最近の時点では、1000kWの発電のために平均で7億円の資本が必要となった。これは時間の経過とともに、海岸からより遠く、より深い地点での立地を余儀なくされたためである。
・浮体式洋上発電に要する資本コストは着床式の約二倍。
・陸上風力も同じ傾向であり、年々資本コストが上昇している。これは従来よりもより困難な場所での設置を強いられることによる。
・着床式洋上風力発電所の運転コストは操業時間の経過と共に上昇する。水深10m未満の浅い海に設置した場合、1000kW当たりの運転コストは操業1年目が755万円、操業12年目で1360万円。水深30m以上の深い海の場合には、1000kW当たりの運転コストは操業1年目が2870万円、12年目が5440万円となる。
・この運転費の増加により、操業開始から15年以内に運転費が市場電力価格を上回ることになる。操業して15年以内に資本費を回収しなければならない。
・洋上風力では機器の故障率が陸上風力に比べて著しく高い。陸上風力では、古い小型(1000kW以下)のものは、2005年以降に建設された2000kW以上のものよりもはるかに故障が少なかった。

この英国からの報告によれば、今後、陸上も洋上も含めて風力発電のコストが大きく下がる可能性はなく、むしろ上昇する可能性が高い。風力発電業者と投資した金融機関は破綻するか、あるいは英国の消費者が将来にも電力料金の高騰圧力を受けることになるだろうとの結論である。

公平のために、欧州の洋上風力発電について楽観的な将来予測をしている文献も紹介しておこう。これは我が国の経産省のサイトからの引用である。

「欧州における洋上風力発電の規模について」

詳細については文献そのものを参照していただきたいが、ここでも風力発電所の規模が大きくなっても電力コストは下がらず、むしろ上がる傾向が見て取れる。また経産省が最近強調している「欧州の風力発電は7円/kWh程度と安価」というのは実例のごく一部に過ぎず、英国とドイツの発電所の大半では10~16円/kWhとなっている。

さらに、この文献では発電コストとして毎年の売却価格が一定である「平準化価格」を採用しているが、これは上記文献①では、その末尾で「時間の経過とともにコストも性能も体系的に変化することを考慮していない、非常に誤解を招く指標」であるとして厳しく批判されている。

また、東大の先生が書いた次の文献によれば、現在、日本政府が力を入れている洋上風力発電で欧州並みの安い電力を得ることは、自然条件の違いから見て全く不可能とのこと。
「風況の違いによる日本と欧州の洋上風力発電経済性の比較」

以下に簡単な要約を示す。なお、この文献での洋上発電とは着床洋上発電を意味しており、浮体洋上発電のことではないと推測される。また、①の文献に示された設置場所の海の深さの違いによる資本コストの差も考慮されてはいない。

・欧州洋上(北海)7地点、日本北海道・北東北洋上(日本海)4地点、台湾洋上(台湾海峡)5地点について、NASAによる風況実測値を元に各風車の設備利用率を計算した。その結果、設備の年間平均利用率として欧州55%、日本35%、台湾36%を得た。同一の発電機を使っても、日本と台湾では欧州の約2/3の電力しか生み出せない。欧州では年間を通じて強い偏西風が吹いているのに対して、台湾では春の、日本では夏の風速低下の影響が大きい。
・日本では欧州よりも風がほとんど吹かない日が長く続く傾向があり、この期間に備えて、風力以外の代替電源の準備が欧州よりもより多く必要となる。このことが風力発電のコストをさらに押し上げる。
・採算性の比較のために、日本と欧州に同一の洋上発電所(デンマークVestas社製 9500kW×37基)を建設した場合の売電価格を試算した。結果は欧州12.6円/kWhに対して日本19.5円/kWhとなった。この差は地理的自然条件である風況の差によって生じるものであり、技術開発や運転習熟度によって埋められるものではない。

 以上の文献を読む限り、風力発電の未来は暗いと言ってよいだろう。日本をはじめとして各国政府は現状の実態を無視して洋上風力によるバラ色の未来を描き続けてはいるが、結果的には「絵にかいた餅」に終わる可能性は高い。そのツケは、風力発電業者と金融業者の破綻や、電力価格の値上げによる消費者への負担転嫁という形で表面化するだろう。風力発電に投資してきた、或いはこれから投資しようとしている金融関係の方には、今一度、欧州での実態を精査されることをお勧めしたい。

なお、最近は1万kW級の巨大洋上風車の建設が既に始まっているようだが、海の生物への影響はないのだろうか。空気中と水中では音波に対するインピーダンスが大きく異なるために、インピーダンスのミスマッチング効果により空中から水面に当たった音波の大半は反射されて再び空中に戻る。しかし、風車が巨大になれば水中に侵入する低周波音波の持つエネルギーも無視できなくなるだろう。

クジラは低周波音を使って互いに会話している。イルカやクジラの保護に熱心な欧米の研究機関が、こと洋上風車に関しては沈黙を決め込んでいるように見えるのが不思議だ。先回の当サイトの記事では、「陸上風車のそばの海から魚やウミガメが姿を消した」との声も紹介している。

 (4)日本は再生エネルギー戦略の見直しが必要

二酸化炭素の排出急増による地球温暖化の可能性については、先見性を持つ優れた科学者によって1960年代という早い時期から繰り返し指摘され続けてきていた。筆者は大学生の頃から日本は再生エネルギーの採用を早急に拡大すべきであると考えてきた。

最近、この点についてようやく全地球的な共通認識が得られるようになってきたことは実に喜ばしいが、単に二酸化炭素を排出しないというだけで石油・石炭に代わる代替エネルギーとしていまだに原子力発電を主張するヤカラが存在しているのが何とも不思議である。

彼らが原発再稼働に賛成し続けるのであれば、再稼働の結果としてさらに排出される放射性廃棄物という名の核のゴミの少なくとも今後の発生分については、この先の十万年間の核のゴミを保管する場所と費用と安全についても彼ら自身がその責任を負うべきであるのは当然の話だろう。貧乏自治体の首長の頬下駄を札束(元々は国民が納めた税金!)でひっぱたいて核ゴミの処分を押し付けておいて、自分たちは安全な場所にいて政府に決めさせた有利な価格の元に金儲けしようという連中は、人として最低ランクでしかない。

原発問題はさておいて、再生エネルギーの一種としての風力発電については、筆者は今までは基本的に賛成の立場だったが、今回の調査でその考えを完全に改めた。風力発電には問題点があまりにも多すぎる。今回得た結論は、「風力発電は、少なくとも日本には似合わない」。今までの一連の記事の中でその理由を述べて来たが、ここであらためて以下にまとめておこう。

① 低周波音による健康被害は明らかに現実に発生している。しかし。環境省は「耳に聞こえる周波数範囲だけが問題」だとして被害者の声を無視し続けている。その結果、風車からの騒音被害によって不眠となり健康を害した住民、寿命を縮めた住民、自宅を捨てて逃げ出した住民が、何の補償も受けられずに「泣き寝入り」するしかないという深刻な人権問題が発生している。

② 近年の風車の大型化に伴って、低周波音による健康被害が従来よりもさらに広範囲で発生するものと予想される。人口密度の高い日本では、陸上の風車をこれ以上増やすことは人権上、許されるものではない。

③ 日本の国土の75%が山地と言われている。人家の近くに建てられないうえに、標高が高いほど風が強くなる傾向もあって、近年は風車を山の稜線上に建てるしかなくなってきている。しかし、日本の山々は一般に急傾斜であり、稜線や山腹の森を切り開いて道路を付けることで山の保水力は低下する。さらに温暖化によって今後さらに豪雨被害が増えることは、既に社会の常識となってきている。防災上の観点からも、山地での風車建設は中止すべきである。

④ 日本の風力発電メーカーは既に壊滅状態だが、これはある意味で当然な結果ともいえる。人口稠密で広大な未利用荒地がほぼ皆無な日本では、元々から風力発電の適地は乏しい。国内で十分な実績を積めず商品力も十分に磨けていないメーカーがいきなり海外に進出しても、コストがかさむばかりで勝負にならないのは当然の結果である。

広大な牧場や不毛荒地を国内に持つ欧米、国内に砂漠や未利用乾燥地を有する中国が相手では、まず地理的条件からして日本は不利である。元々から条件的に不利な分野で、あえて頑張る必要はない。現在の日本の人口は世界人口の約1.7%に過ぎない。「どんな分野でも日本がトップ」でならなければならない理由など、何もない。

⑤ このように不利な条件下でも、経産省は「これからは洋上発電だ」と意気盛んなようだが、大半の設備を外国から輸入までして、あえて取り組む必要がある事業とは思えない。上の文献で見たように欧州よりも風況が劣る日本では、さらに設備の輸入経費も加えれば、欧州並みの低コストの実現は絶対に無理である。風力発電という事業は偏西風帯に位置していて常に強風が吹く欧州でこそ成立する事業であり、他の地域で猿真似する必要はない。中でも日本は、地理的かつ社会構造的に見て、風力発電には最も不適な国の筆頭だろう。

⑥ そもそも、風力発電事業は風況が適している欧州でこそ実績はあるが、ほかに地理的条件が欧州に似た地域として挙げられるのは、同じく偏西風帯に位置するカナダ西海岸や南米パタゴニアくらいしかないのではないか。これらの地域は電力消費地からあまりにも遠いために、当面の事業化の可能性は低い。

本家本元の欧州でも風車を建てる適地が乏しくなっているために、今後は陸上・洋上ともにコストはむしろ上昇する傾向にあるようである。風力発電再生可能エネルギーの主力には到底なり得ないだろう。

⑦ 観光・景観面でも風力発電はマイナスである。かって島根半島に風車を建てる計画があったが、「出雲大社のそばに風車を建てるなんて・・」と反対する声が圧倒的で建設中止になったという新聞記事を読んだ記憶がある。十数年前だったか、鳥取砂丘の西端にも小規模な風車を建てる計画があったが、これも砂丘の景観を損ねるとの反対があって計画撤回となった。

最近では、昨年、山形県出羽三山に巨大風車を40本も建てる計画があったが、計画を公表して直ぐに知事を始めとする山形県内からの猛烈な抗議にさらされて、公表してひと月も経たないうちに事業者の前田建設は計画の白紙撤回に追い込まれている。

「霊場・出羽三山に大型風力発電計画 山形県など反発」
筆者もこの記事を見た時には「何と乱暴な! 神様の住む山をいったい何だと思っているんだ!?」とあきれたものである。今回、風力発電の経済性を調査してみて、神様を山から追い出したうえに経済的にも成り立たない、誰のためにもならない本当にブザマな事業計画であったと改めて感じたしだいである。東京都内の全てのビルの屋上に政府補助金付きで太陽光パネル設置を義務付けた方が、経済的にはよほど有意義だろう。

観光客が見たいものは、古来から「神々が居ます」とされて来た伝説を伝える山々、人々の日々の信仰と崇敬の想いが先祖代々投影されてきた山々と、その麓に住む人々の暮らしと笑顔である。クルクル回る機械が針のように林立するだけの、人間の欲望に引き裂かれたような山々を、わざわざカネを払って見に来るようなモノ好きなどはいないだろう。

⑧ パネルの大半を中国製に依存することになってしまったとはいえ、再生可能エネルギーの中では太陽光発電が既に最も低コストなのだから、当面は太陽光を主体に温暖化対策を進めていけばよいだろう。「山を切り開いてメガソーラーを作ったために、豪雨時に川があふれた」等、いくつかの環境問題も発生してはいるが、風力発電に比べれば、太陽光ではそれほど深刻な問題は出ていないようである。
従来のシリコン製の太陽光パネル以外では、日本が開発で世界に先行しているペロブスカイト型太陽電池が特に有望である。薄くて自由に曲げることが出来、窓に張り付けても発電できる。車のボディや都会のビルの壁や窓に張り付ければ、純正の産地直送電源になる。日本は新型の蓄電池の開発でも世界に先行しており、太陽光発電の余剰電力をためておいて夜間に使えるようにするなど巨大な需要が期待できる。

国内の太陽光発電だけで国内で必要なエネルギーを賄うのは無理だろうから、足りない分はオーストラリア等、日本との関係が安定している国の砂漠で太陽光発電した電力で水を電気分解し、発生した水素をタンカーで日本に運べばよい。水素の運搬に必要な技術も、既に日本国内では実用化の一歩手前にまで来ている。

今後コストが下がる見込みがない風力発電をさらに拡大することは、将来の消費者の負担をさらに増やすことになるだけだから、経産省は洋上風力拡大政策を即刻止めるべきだ。日本が先行している分野には集中的に投資する一方で、もはや勝てる見込みのない事業分野からはさっさと撤退すべきである。対GDP政府負債比率では世界最悪の指定席に長らく座り続けている我が国には、将来主力となる見込みのない事業、事業者の赤字が確実な事業にさらに税金をつぎ込む余裕など全くないはずだ。

しかし我が国の現状では、霞が関の官僚は、国の将来よりも自分の老後の生活の安定を最優先しているように見える。担当する事業の前途が見込み無しとの結論を下して自分の代で廃止させてしまった場合、事業をつぶした張本人というマイナス評価を自ら引き受けるのみならず、前任者である先輩の顔にも泥を塗ることになる。先輩との人間関係は当然悪化、自分の将来の出世にも差し支えることになる。一番望ましいのは、担当する事業の可否の判断は先送りしてそのままダラダラと継続させ、誰か適当な後継者を早く見つけて押し付けてしまい、自分自身はもっと前途有望な事業の担当にさっさと乗り換えることだろう。かくして、将来見込みのないテーマの数は高級官僚の人数に比例して膨らみ続け、国費の浪費も牛のヨダレのごとくいつまでも続くのである。

/P太拝

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(5)  -全国各地の風車による健康被害の実例-

この風力発電に関する記事シリーズも今回で五回目。ここで全国各地での過去の風車による健康被害の実例をいったんまとめておきたいと思います。過去の事例を詳しく見ていくことで、鳥取市で計画されている風力発電事業の問題点がさらに明確になるはずです。

(1)各地の風車による健康被害の実例

 各地の風車からの騒音・低周波音による被害を下の表-1にまとめた。この内容は単にネット上の記事をまとめただけであり、鳥取環境大による現地調査で鳥取県内での大量のクレームと被害者の存在が初めて明らかになったように、この他にも表面に出ていない被害例はたくさんあるのだろう。

風車の建設場所は中山間地や奥山が大半であり、その近くの住民はネット発信に不慣れな高齢者が大半と思われるので、綿密な現地調査をしない限り国内での風車被害の全貌は見えてこないだろう。


下の表をクリックすると、別画面でこの表が拡大表示されます。(以下の表・図も同様)。なお、例の(8)から(10)は、この記事シリーズの三回目で紹介した被害例の再録です。

表-1 国内の風車騒音・低周波音による健康被害

 f:id:tottoriponta:20210423081048j:plain・文献
「石狩風車の低周波音測定結果・・」 
「風力発電、実は「エコ」じゃない」 
「環境省 騒音に係る環境被害について」 
「風力発電、近所で頭痛・不眠 環境省、風車の騒音調査」  
「愛知 田原市の風車騒音問題 中日新聞」
「風車騒音・低周波音による健康被害 風車問題伊豆ネットワーク」
「風力発電 施設近くの住宅内で低周波音・・」 
「風力発電、低周波被害の実態把握 「考える会」が訴え」 
⑨「2020/11/15 明治小講演会 武田氏提供資料」当サイト記事
「高知県大月町大洞山ウインドファーム考察 その2 被害者たちの証言」 
「低周波音被害について医学的な調査・研究と十分な規制基準を求める意見書 日弁連」  
⑫「伊豆熱川における騒音・低周波音被害」


以下、これらの被害例を見ての感想。

・国内で大型の風力発電が開始された十数年前には、住宅から200~300mという近距離でも事業者は平気で風車を建てていた。伊方町での被害(例 4)に見るように、その結果は惨憺たるものとなった。県内でも湯梨浜町の風車(既に撤去済み)は伊方町の1000kWよりも低出力の600kWであったが、鳥取環境大の調査結果に見るように、風車を直接見上げる位置にあった西側の泊地区では、風車からの距離が200~300mでも多くの住民が健康被害を訴えている。

・2010年代に入ると風車出力も2000kW以上へと大型化し、それに伴って風車からの距離が1km以上離れた地域でも被害が発生するようになった (例 8,9,10)。

・人間だけでなく、各種の動物も風車からの騒音を不快に感じているものと推測される。犬、猫、野鳥、ウミガメ、魚などの異常行動が確認されている(例 2,6)。

・2014年2月にブレードが破損した愛知県豊橋市細谷の風車(例 6)はGE製の出力1500kWだが、同一メーカーで同一出力の東伯発電所の風車が2020年1月に同様のブレード破損事故を起こしている。鳥取県内にはGE製で同一出力の風車が現在24基有り(大山、中山、東伯の各発電所)、今後も同様の事故が発生する可能性がある。

・風車による深刻な健康被害を受けている住民が各地にいる一方で、同じ集落内に居住しているにも関わらず被害をそれほど感じていない住民もいることは確かだが、これは前回の記事で述べたように自宅の共振周波数が風車から発生する低周波音の周波数と一致するか否かによるものと推測される。

幸運にも自宅の共振周波数が風車から発生する周波数からずれている場合には、自宅の揺れはそれほどでもないだろう。逆に一致した場合には、自宅の揺れは深刻な状態となり不眠や不快感の原因となる。自分の自宅が風車からの低周波音波に共振するかどうかは、実際に風車が建って羽根が回り出してみなければ判らないだろう。前回の記事で既に述べているが、「家が新築なら安全」とも言い切れない。

・風車による健康被害は確実に存在する。事業者や環境省は、もっぱら「精神的なものが原因、気のせい」と強調するばかりだが、どの例でも「転居すれば改善する」との報告が大半であり、風車と健康被害との因果関係は明白である。自分の集落近くでの風車建設を容認する人たちは、最悪の場合には、自分自身の自宅を捨てて遠くに引っ越す可能性があることもあらかじめ了解しておくべきだろう。

・風車による健康被害が救済された事例は、今回調べた限りでは過去には全く無い。裁判に訴えた例としてはわずかに田原市での例5があるが、名古屋地裁環境省の騒音基準を根拠にこの訴えを簡単に却下してしまった。

風車による健康被害者は、今までずっと泣き寝入りしてばかりである。現在話題となっている新型コロナ対策のワクチン接種の場合には血栓症が百万人に一例出ただけでも大騒ぎになるが、風車による健康被害では一つの集落中で何割もの住民が被害を訴えているというのに、政治家も自治体も大半のマスコミも、被害住民の訴えを無視し続けている。
例8の和歌山県由良町の場合には、町議会の場での風車被害に関する質問自体を議長が公然と拒否する始末である。風車の被害者はその絶対数が少ないので、選挙の票には結びつかないと政治家は思っているのだろう。
最近の政治家や役人は、「安全安心が最優先」とか、「被害者に寄り添って・・」とか、口先だけのきれいごとを毎日のように連発してはいるが、こと風車騒音の被害者に対しては、彼らのうちの誰一人として被害者に寄り添おうとしては来なかった。裁判所も、既に田原市での例に見るように、行政や大企業の味方となって事なかれ主義に徹してしまう有様である。蛇足だが、最近の裁判官のやる気の無さ・正義感の無さについては、最近読んだ次の記事でその背景がやっと理解できた。ご参考まで。
「人事に異常な興味を示す日本の裁判官の特異性」 

・以上に述べたように、政治家も、環境省も、自治体も、裁判所も頼りにならない現状では、住民自身が風車による健康被害の実態をよく知って、風車建設用の土地を事業者に絶対に渡さないことでしか自分たちの生活と健康とを守れないことは明らかである。上の表に挙げたような健康被害鳥取県内で今後も再現してしまうようでは、身をもって風車による健康被害を体験し、その被害の深刻さを訴えてきた全国各地の被害者の皆さんに対して申し訳ない。

 

(2)鳥取市青谷町で計画中の大規模風力発電について

当サイトの風車記事シリーズでは、当初は鳥取市南西部の風力発電計画を念頭に置いて執筆してきたが、青谷町で計画中の別の風力発電計画の内容を知るにつれて、この計画の危険性も非常に深刻であることに気づいた。以下、この青谷町での計画について、全国各地の健康被害の実例を踏まえながら検証してみよう。

従来、鳥取県内に設置されてきた風車の大半は平地またはゆるやかな丘陵地に設置されて来た。しかし今回鳥取市内で計画されている二つの風車計画は、共に集落からの高度差が少なくとも200m程度はある山の尾根上に風車が建設される予定となっている。上の表-1に挙げた被害例を見ると、その大半が山の尾根上に建設された風車による被害である。
平地に建設した風車の場合には、風車よりも下方に放射された騒音の大半は地面で反射して上空に帰り、人家のある集落までは届かない。しかし、風車の下方が斜面となっている場合には、騒音は斜面に沿って広がり集落に届く割合が増える。また山地の谷間にある集落では、周りの山々からの反射音が谷間に集まってくる。前々回の記事中で述べた「音溜まり」現象である。風車から1~2km離れていても被害例が報告された上の表の例8と例9は、いずれも山に囲まれた谷間にある集落での被害例である。

青谷町で風力発電を計画している自然電力(株)が2017年に提出した「環境影響評価方法書」の概要版を見てみよう。三ページ目に風車の建設予定地が赤い丸で表示されている。この赤丸を中心として半径1kmで青い円を描いた図を下の図-1に示す。ちなみに半径1kmというのはとりあえずの目安であって、この円の外では被害は無いということを意味してはいない。上記の表-1によれば、2000kWの風車から2km離れていても被害を訴えている人がいる。仮に半径2kmで円を書いた場合には、浜村、鹿野、青谷の市街地のすぐそばにまで円が達することになる。

図-1 青谷風力発電所の風車予定配置図

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2017年時点で、この事業者は「2000~3000kWの風車を最大15基程度立てる」としていたが、今年2/14の日本海新聞の報道によると「2000~4000kWを12基程度建てる」との内容に変更されている。風車の出力が当初の計画よりも大きくなっており、表-1の被害例よりもさらに広範囲に被害が及ぶ可能性は高い。

さて、この図-1を見ると、「青谷発電所」とは言いながら、気高町側の方に健康被害がより多く出ることが予想される。気高町下原付近から鹿野町殿に至るまで、この谷沿いの集落の大半が風車から1km圏内に入っている。対して青谷町側で1km圏内に入るのは蔵内、養郷、早牛、山根の一部にとどまる。

今回、地形の詳細を把握するために国土地理院のサイトでこの地域の地図を入手して一番驚いたのが、蔵内地区が典型的な「音溜まり」の地形の中に位置していることだった。下の図-2と図-3を使って詳しく説明しよう。これらの図の中の直線は、図中の小さい窓に表示されている地形断面図の位置を示す。

図-2 蔵内地区北側

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図-3 蔵内地区南側

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蔵内集落は、南からの蔵内川が日置谷沿いの平野に出て日置川に合流する地点に位置している。集落の南西には山根地区との間を隔てる標高185mの舟山がそびえる。

蔵内より南側の風車、図-1の⑥から⑩あたりまでの風車から出た低周波音は、蔵内川の渓谷の中を両岸で反射を繰り返しながら北に進み、平野への出口で蔵内集落にぶつかる。一方、北側の風車の③~⑤から出た低周波音は舟山にぶつかり、その反射波が集落を襲う。各風車から出た低周波音は日置川の西側の山地で反射されるが、その反射波も日置川の対岸の蔵内地区に集まってくるだろう。同地区が「風車騒音の音溜まり」となる可能性は極めて高い。

下の図-4には、蔵内地区の地形断面図と表-1に示した健康被害を受けた各地のそれとの比較を示す。縦と横の縮尺はほぼ同一にそろえてある。また、地形を強調するために、全ての断面図で縦方向の縮尺を横方向の縮尺の三倍としている。

図-4 蔵内地区と風車による健康被害を受けた各地との地形の比較

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赤い楕円で示した所が集落の位置であり、蔵内集落と風車との位置関係は、既に健康被害が発生している各集落と風車との位置関係に非常によく似ている。しかも蔵内集落の近くに建設される風車の出力は、表-1の風車よりもさらに強いのである。

参考のために、各被害地の地図も図-5,6,7として併せて掲載しておく。地図中の赤い丸が風車の位置である。

図-5 東伊豆町熱川温泉

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図-6 由良町畑地区

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図-7 伊賀市上阿波汁付地区

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上記の2/14付け新聞報道によれば、この予定地の大半が蔵内地区の所有であり、同地区はこの風力発電計画に対して、既に「集落全体が賛成して、土地の売買契約を昨年結んだ」そうである。

同地区には巨額の売却金が入ることになるが、同時に風車による深刻な健康被害を被る可能性も極めて高い。いくら集落にカネが入っても、集落住民の多くが家を捨てて逃げ出してしまうようでは元も子もない。そもそも、この風車建設によって、同地区は他の集落で発生する健康被害者から強い恨みをかうことになるだろう。後で人から恨まれるような選択はしてはいけない。

 

(3)鳥取市南西部で計画中の大規模風力発電について

鳥取市南西部の中山間地で計画中の日本風力エネルギーによる風力発電所建設計画については、まだ風車の位置が確定していないので健康被害を受ける可能性のある地域の正確な地図は描けないが、大体の予想図を図-8として下に示す。

図-8 鳥取市南西部での風車予定配置図

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青谷の場合と同様に、青い円で風車から半径1kmの範囲を示した。風車の位置としては、赤い線が山の稜線上に設定された風車建設予定地なので、この赤い線のそれぞれの末端に風車を建てるものと仮定して青い円を描いた。鹿野町、明治地区、東郷地区、神戸地区、河原町北村地区の主要集落が、共通して風車から大体1~1.5kmの範囲内にあることが判る。この計画で予定されている風車の出力は4500kWであり、表-1での最大出力2000kWの2.25倍もあるので、「1km離れていけば大丈夫」などとは絶対に言えない。

特に三方を山に囲まれた盆地である岩坪集落について注目して、同集落については近くの予定地の赤い線の中で集落に一番近い地点を中心に青い円を描いてみた。岩坪が三方向の予定地からちょうど1km程度ずつ離れていることがよく判る。この集落も典型的な「音溜まり」となる盆地地形の中に位置しており、計画通りに風車が建てられた場合には深刻な健康被害を被る可能性が高い。

下の図-9には岩坪集落の写真を載せておこう。昨年の11月に初めて現地に行った時に、集落入口から西向きに撮った写真だが、陽当たりが良く周囲の展望も開けていて、鳥取市の中心部に割と近いにも関わらず「山間の別天地」というような印象を受けた。春先の桃や桜の咲く頃には、桃源郷のような風景が見られるのかもしれない。この穏やかな景観の周りを多数の巨大風車が取り囲む風景などは、想像したくもない。

図-9 岩坪地区の写真(2020年11月撮影)

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この写真の正面左側に見えるの山の上には、当初の計画通りであれば、高さ150mの風車が少なくとも二、三本は建つだろう。写真を撮影した地点の右側の尾根上にも一本、左側の河原町との境界をなす尾根上には数多くの風車が建つ見込みだ。

風車が建った後で発生する健康被害のために、市内の勤め先にも十分に通える距離にあり自然環境にも恵まれているこの土地を捨てて逃げ出さなければならなくなったとしたら、こんなに不幸なことは無いと思うのだが・・。地元の方の思いはどうなのだろうか。

次回は風力発電所建設による地元経済への影響について考察する予定です。

/P太拝

 

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(4)  -風車の超低周波騒音による健康被害の原因-

前回からの続きです。以下に示す図や表は、クリックすることで拡大できます。

風車から発生する超低周波音が人体に与える影響を詳しく見ていきます。なお、以下で使う「超低周波音」と言う用語は、通常は人間の聴覚では捉えるのが困難とされている20Hz以下の音波や振動のことを指します。

 

(1)人体の共振周波数について

次の表-1と図-1は、騒音測定を業務としている民間業者のサイトからの抜粋である。特に「風車からの騒音による健康被害」を取り上げているわけではなく、一般的な低周波音が人体に与える影響についてまとめたものである。前回で紹介した風車の周辺住民が訴えている症状(赤字で示す)とほぼ一致していることに注意されたい。

表-1
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図-1

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低周波振動が人体に及ぼす影響について一番よく研究している業界は、何と言っても自動車関連業界だろう。快適な乗り心地を実現するためには、運転時に車体や路面から伝わってくる振動が人体に与える影響を把握しておくことが不可欠だからである。次の文献に注目してみたい。

「これであなたも(クルマに乗った際の)人体共振ツウ?」


この記事は自動車業界の内情に詳しい方が書いたもので、マツダの新車開発時のデータを元に人体の各部分の共振周波数について述べている。その該当部分を抜粋して下に示しておこう。

1〜2Hz:三半規管
クルマ酔いの原因になる周波数帯。船の揺れのようなゆったりした振動。人間の三半規管の中にはリンパ液が入っており、その傾きを感知して平衡感覚をみています。ところが、1〜2Hzの振動を受けると三半規管内部のリンパ液が共振してしまい、目で感じる傾きと三半規管で感じる傾きがずれ、脳が混乱して気持ち悪くなる……と。

4〜7Hz:頭部
5〜6Hz:脊椎(上体)
10数Hz:内臓 
人間に疲労を与えつつ、もっとも不快に感じる周波数は4〜8Hzだそう。長距離ドライブした際、「なんだかこのクルマ疲れるなぁ」と感じたとしたら、そのクルマは4〜8Hzの振動成分が多いと考えられそうです。

12〜13Hz:上腕/太ももの筋肉
ステアリングを握った腕の筋肉がぶるぶる震えたとしたら、それは12〜13Hzの振動で腕の筋肉が共振している証拠です。太ももだけ揺れる現象が起きるのも10Hz帯の振動が原因だそう。

20〜30Hz:皮膚
皮膚がもっとも震えやすい共振周波数帯です。iPhoneのバイブレーションは22Hzだそう。持ち主に気づいてもらってナンボですから、皮膚が敏感に感じ取る周波数に設定しているわけですね。・・・」

ここで補足説明をしておくと、「共振周波数」とは、例えば、ギターの弦をゆっくりはじいても強くはじいても、はじく弦ごとに楽器全体が必ずそれぞれ異なる周波数(音の高さ)で振動するが、その弦ごとで一番振動しやすい周波数のことを言う。
人間の体も、頭とか腕、脚など、部分に分けてみれば、ギターの弦のようにそれぞれ決まった周波数で振動しやすい。例えば人間の胴体は、脊椎・内臓・筋肉・脂肪が組み合わさってできている一種のバネのようなもので、外部からその共振周波数に近い振動や音波がやってくると、それからエネルギーをもらって大きく振動するようになる(共鳴現象という)。

要するに外部の振動に合わせて体の各部分が大きく揺り動かされることになるのだが、当事者にとっては、自分の意志に反して体の部分ごとにバラバラに大きく揺さぶられるので、その結果として極めて不快に感じることになる。

もう一例、最近読んだ記事から別の事例を紹介しておこう。乗り物好きの人は既にご存じと思うが、ホンダが数年前に販売開始した小型ジェット機ホンダジェットが二年続けて世界シェアトップになったとの記事からの引用である。ホンダやソニーなどパイオニア精神旺盛な企業が元から好きな筆者であるがゆえに、興味深々でこの記事を読んだものである。(共同通信  47NEWS  2021/3/26記事)


「ホンダジェットで「航空業界変える」  開発会社の藤野社長インタビュー 」

この記事では、開発者の藤野社長と取材者とのやり取りの中に次の記載がある。航空業界でも、低周波振動を抑えることで人体の肉体疲労が軽減されるというのは、既に常識のようだ。風車の低周波音による健康被害と乗り物酔いの症状がよく似ているのは、決して偶然ではない。

「―ホンダジェットが優れている点は?
 (同類機の中で)最も高く飛べて、最も速い。燃費も良い。快適性も圧倒的に良く、乗り比べれば誰でも感じる。他社はシェアを奪われないように値引きで戦っている。それでも昨年のシェアが5割を超え、顧客の評価を得られた。

 ―なぜ快適なのか?
 乗ったときの振動や騒音をかなり抑えている。急な風でも揺れが少ない。揺れた後もびしっと安定し、すぐに振動が収まるので「ポルシェみたいだ」と言われる。主翼の上にエンジンを付けたことで、肉体的な疲れにつながる低周波の振動が少ない。2時間ほど乗った後の疲労が競合機とは全然違う。・・・」

 さて、上のように記事の一部引用だけでは物足りないが、マツダ以外のトヨタ、日産、ホンダその他の各メーカーも、ノウハウの塊である自社の詳細なデータを簡単に公表するはずがない。そこで正式な論文はないかとネット上で探したところ、千葉大学による1996年の文献を見つけた。

「垂直正弦振動 における人体の伝達特性」

詳細は原文を読んでいただくとして、以下、この文献で行われた人体に対する振動試験の測定結果だけを述べよう。被験者の振動に対する姿勢は、振動台に対して腰かけている座姿勢とその上に横たわっている仰臥姿勢の二種類。原文中のグラフにはPhase(位相差)のデータがあるが、この値が-90degとなる周波数が共振周波数に等しいものとみなしてよい。仰臥姿勢のデータでは共振周波数が不明瞭な傾向があるので、共振周波数が明瞭な座姿勢についてのみ以下に示す。

下腿:20Hz以上、大腿:14Hz、腹部:11~14Hz、胸部:8Hz、頭部:8Hz

この結果は、最初に紹介した記事中のマツダ由来のデータと大体において一致していると言ってよいだろう。なお、人体各部の寸法が異なれば共振周波数も異なり、上腕のように寸法が小さい部分ほど共振周波数は高くなる。従って、子供や小柄な大人の各部位の共振周波数は、高身長の大人のそれよりも全体的に高くなるはずだ。

なお、最初に紹介した記事の中には、1~2Hzで「三半規管内のリンパ液が共振して・・」との表現があるが、小さな管の中の液体が1~2Hzという超低周波に共振することは、どう考えてもあり得ない。元のデータが公開されることは無いだろうから推測するしかないが、三半規管の加速度検知の仕組みからみれば、リンパ液は慣性で静止していて、逆に頭部または体全体が1~2Hzで振動している状態なのだろう。

(2)家屋の共振周波数
 風車からの低周波騒音による健康被害の中には「家屋の振動」という現象も報告されているが、家屋も人体と同様に共振周波数を持つ。一例として国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所による次の記事を挙げておこう。
「木造住宅につたわってくる揺れを見る」

図-2

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この資料の中の図(図-2として上に示す)によると、試験した住宅の共振周波数は8Hz付近と推測されるがその近くの周波数でもかなり揺れている。資料中の写真を見るとこの住宅は二階建ての新築物件のようだが、古い住宅でも木材という共通の材料を使っているからには、新旧を問わず同じような周波数帯に共振周波数があるものと推測される。
住宅の共振周波数は、地震の際に住宅が破壊される大きな要因としても最近注目されているが、下の資料などを見ると木造住宅での共振周波数(固有周期、固有振動数とも言う)は0.1~0.5Hzとなっている。この差については、今のところはよくわからないが、1Hz以下の超低周波音の大きさにも注目しておく必要があるだろう。
「制振設計事務所のつぶやき」

森林総合研究所の資料に戻ると、文中に「共振により特定の周波数で住宅の外よりも揺れが大きくなった」とある。風車から発生する20Hz以下の超低周波音に同期して住宅全体が大きく揺れる可能性は高い。
共振周波数における振動の減衰しやすさは「振動のQ値」で表わされ、Q値が高いほど振動が大きくなり易い。軟組織の多い人体よりも硬い材料で作られている建物の方がQ値は高いので、風車からの超低周波音が住宅内に居る人の体に直接影響するよりも、いったん住宅が風車からの超低周波音で大きく振動し、その振動がさらに住宅内の人体に及ぼす影響の方が大きいのではないだろうか。このあたりのデータについては、最近は高性能のレーザー振動計などがレンタルで安価に借りられるようになったので、実際の風車による健康被害の現場で容易に測定できるはずである。

(3)パワーの小さい音波で人体や家屋を大きく揺らすのは不可能か?

 以上で述べたように、風車の発する超低周波音で住宅や人体が揺さぶられるのが健康被害の原因だと言えば、「音波の持っているパワーではそのような大きく振動させるのは無理」という反論が必ず返ってくるだろう。確かに音波の一つ一つの波に限れば、それが持っているエネルギーは小さい。しかし、家屋や人体の共振周波数に等しい周波数が外部から何百回、何千回と繰り返し加わる場合には、話が別である。

例としてブランコ(図-2)を考えよう。ブランコは振り子の一種であり、その振幅が小さい場合には、「振り子時計」に見るようにほぼ一定の周期で振動する。その周期の逆数こそがブランコの持つ共振周波数に他ならない。

図-3

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上の図-3では子供同士だが、ブランコに体重の重い大人が乗り、小さな子供が大人の背中を押す場合を考えてみよう。子供が押すタイミングが適切であれば、即ち、ブランコが後側の最高点に達してから落下し始める時に合わせて背中を押してやれば、小さな子供の力でも何十回と押すことを繰り返しているうちにブランコは大きく振れるようになる。

振動系の持つ共振周波数に等しい周波数の外力を加えてやれば、外部から振動系にエネルギーが供給され続けることでその振幅は時間と共に増大する。これが共鳴効果である。
ここで前回に図-2として紹介した風車の発生する音波の周波数分布(スペクトル)を再度確認してみよう。下に今回の図-4として改めて示す。

図-4

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補正しない前の本来の音圧分布を示すP特性は、人の耳には聞こえないとされている20Hz以下でも、低周波になると共に次第に増大する連続的なスペクトルを示している。多少の風速の変動があって風車の回転数が変わっても、各周波数での音圧強度は大きく落ちることはないものと予想される。
以下、思考実験として、家屋の共振周波数を5Hzと仮定してみよう。風車が移転している限り騒音は発生し、風速が大きくなると共にその各周波数における音圧は大きくなるが、その中には5Hzの成分も当然含まれているはずである。風車が10分間回り続けると、5Hzの空気振動が5×60×100=3000回も外から家屋を繰り返し押し続けることになる。音波の持つエネルギーのうちの一定の割合が共鳴効果によって家屋に吸収され振動のエネルギーに変わることで、家屋の振動は時間と共に大きくなる。風車が一時間回り続ければ、18000回も押されることになる。その結果として、家が大きく揺れ出しても何の不思議もない。
家の中で寝ている人には5Hzの振動は聞こえないが、その体は家と共に振動する。三半規管の中のリンパ液は体の振動についていけないために、脳は体の振動を検知してしまう。こうなると、とても眠れたものではない。ゆれを感じると同時に、家の振動が人体に伝わることで頭や胸、腹部に圧迫感を感じることとなる。おそらくは、このプロセス全体が風車による健康被害の正体なのだろう。

 

(4)環境省の風車騒音ガイダンスについて

ここで改めて環境省の風車騒音に関する見解について触れておきたい。例えば、2018年時点での環境省ガイドラインの概略は以下の資料に示すとおりである。
「日本における風車騒音のガイドライン」日本音響学会誌74巻5号

この資料の三ページ目には以下の記述がある。
「これまでに国内外で得られた研究結果を踏まえると、風力発電施設から発生する騒音が人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。また、風力発電施設から発生する超低周波音・低周波音と健康影響については、明らかな関連を示す知見は確認できない。」

このように、環境省は風車から発生する騒音、特に低周波音と健康被害の因果関係を一貫して認めていない。しかし、彼らが公開している関連資料やその主張内容については、以下に示すような疑問点がある。

① 環境省の提出する資料には客観性が乏しい。
例えば、上に示したガイダンスの図-5に風車からの騒音と他の騒音(交通騒音等)のスペクトルの比較を載せているが、一見して風車の騒音は他の騒音より低くなっていることが判る。しかし、風車から遠く離れて測定すれば風車騒音が低くなるのは当たり前であり、風車出力と測定時の風車からの距離も併せて示さなければ、客観性のある比較にはならない。
さらに図-5の説明として「・・風車騒音を測定した結果からは、・・他の環境騒音と比べても、特に低い周波数成分の卓越は見られない。」とあるが、図-5を見れば、20Hz以下でこの風車騒音の傾きは他の騒音とは明らかに異なっており、低周波になるほど騒音が増加している。環境省のこの記述は、彼ら自身が示しているデータにさえも矛盾している。
また、このガイダンスの図-2では「風力発電施設と最近接の苦情者宅の距離」を示しているが、最遠方の苦情者宅までの距離を示さなければ日本国民の風車による健康被害を防ぐ上では無意味であることは、前回の記事で指摘した通りである。

② 健康被害の原因を20Hz以上の可聴周波数の範囲内だけに求め、超低周波音の影響に対して無視し続けるのはなぜなのか?
 超低周波音まで考慮したP特性の風車騒音の持つエネルギーは、可聴周波数だけを考慮したA特性のそれの百倍以上から一千倍近くにも及ぶ。(前回紹介した鳥取環境大による文献中の図-6を参照されたい。音波の持つエネルギーは10dB増えるごとに10倍になる。)風車騒音の持つエネルギーの大半を占める超低周波音の影響について検討することは必要不可欠なはずだが、環境省は何故か一貫して具体的な検討を拒否し続けている。

③ 運転時に10~15Hzの超低周波音を発生するエコキュートによる騒音被害については、既に被害者勝訴の判例が次々と出ている。消費者庁やメーカー側も、健康被害の原因がエコキュートにあることを既に認めている。なぜ、風車騒音だけは例外なのか?
関連サイトを以下に示しておこう。他にも、エコキュートの騒音被害に関する記事は検索すればいくらでも出て来る。
「エコキュートと低周波騒音」
「エコキュートの騒音トラブルを防ぐ騒音対策 裁判事例も?」

上の二番目のサイトによれば、エコキュートからの騒音は「市内の深夜、図書館、静かな住宅地の昼」の騒音レベルの40dBとほぼ同等とあるが、それでも実際に健康被害が発生している。
鳥取環境大の文献の図-5によれば、1000kW風車から250m離れた地点でのP特性の実測値は、県内五カ所の発電所についてその値の全てが60dBを上回っている。音圧は距離に反比例して減衰するから、500m地点でのP特性は少なくとも54dB以上と推定される(音圧については、20dBごとに10倍になる。距離が倍になるごとに風車からの騒音の音圧は半分になって6dB下がる。)。これでは県内で風車による健康被害を訴える住民が多いのも当然だろう。

④ 筆者が今回の記事で書いた内容は、空いた時間に時々ネット上の文献を約一か月間にわたって集めながら考察することによって構成したものである。普通のレベルの技術者・研究者であれば、集中して取り組めばもっと短時間で筆者と同様の結論に達しただろう。
まして、優秀な研究者ぞろいの環境省の担当者の面々が、超低周波音の健康への影響の深刻さに気づいていないはずはない。そもそも、上に挙げたエコキュートによる超低周波音による健康被害の実態について、環境省の騒音担当者が全く知らないことなど到底ありえない。現在の環境省の風車騒音ガイダンスは、意図的に歪曲された可能性が大である。

 

(5)今の環境省の姿勢には大いに失望

今回、この風車騒音問題を調べていて一番ショックだったのは、環境省の国民に対する姿勢の変化であった。筆者の世代の人間にとっては、旧環境庁は「国民を公害から守る正義の味方」というイメージが強かった。それというのも、1971年に実質的な初代環境庁長官に就任した大石武一氏の当時の大活躍が未だに脳裏に強く残っているからである。

大石武一氏の活躍の詳細については、別途wikipedia等の記事の内容を読んでいただきたいが、積年の課題であった水俣病患者の本格的救済、尾瀬大雪山等の自然公園内での観光道路の建設阻止、鳥獣保護への積極的な取り組み等が同氏の功績として既に公認されている。現在の日本列島が美しい自然環境に恵まれていると世界から称賛されているのも、かなりの部分で大石氏の存在があったからこそと言ってもよいのだろう。
環境庁環境省に昇格したのが2001年である。省になったからには他の省庁に対する影響力も強くなったのだろうと今までずっと思っていたのだが、今回の風車騒音の調査の過程でその期待は完全に裏切られた。少なくとも、こと風車騒音に関する限りは、今の環境省はいつの間にか経産省の子分に成り下がってしまったらしい。最近の大石さんは、苦虫をかみつぶしたような顔をしながら雲の上から霞が関を見下ろしているのではなかろうか。

/P太拝

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(3)  -風車騒音による健康被害の実態-

前回からの続きです。以下に示す図や表は、クリックすることで拡大できます。

(注:当初、3/19にこの三回目の記事をアップしましたが、本日4/4に筆者の操作ミスでうっかりと記事を消してしまいました。元の原稿を頼りに再度アップしましたが、細かな点では当初のバージョンと違っているかもしれません。申し訳ありません。)

 

(1)鳥取県内の風車が発生する騒音のレベル

全国各地の風力発電所から発生する騒音に対する住民からの苦情は年々増加しているようだが、まずは鳥取県内の状況について確認しておきたい。県内各地の風車から出る騒音と近隣住民からの苦情をまとめた文献としては、鳥取環境大学のグループが2012年に公表した下記の文献がある。現在から十年近くも前の論文だが、風車騒音と周辺住民からの苦情とをまとめて論じた文献は現在に至るまで希少であり、その点ではもっと高く評価されてよい内容であると思う。

「鳥取県における発電用風車の騒音に係る調査報告」
内容の詳細は本文を読んでいただきたいが、以下はその概要について。

① 鳥取県内の発電用風車は調査した2011年時点で41基。(下記の表-1)うち40基について、風車からの距離を変えながら発生する騒音の音圧を測定した。

(なお、その後に県内で新設された発電用風車は無く、現時点での県内風車数は40基である。2018年に湯梨浜町の一基が解体・撤去された。撤去費用は予算額で約3500万円、決算額は不明。また、大山、名和、中山、東伯の四発電所については、現在は日本風力開発(株)が運営会社となっている。)

表-1

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② 各風車から半径500m以内にある民家・事業所645戸にアンケート用紙を配布又は送付し、風車に対する意見の記入を依頼した。回収できたのは445戸分、回収率は68%。アンケートの集計結果を表-2に示す。苦情率は0%から44%までと発電所によって大差がある。またあらかじめ設定した各苦情項目に対する苦情肯定件数を図-1に示す。

表-2

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図-1

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図-1の内容がやや見づらいので、多い順に以下にあらためて記しておこう。振動に関する苦情が、35/127=27.6%もあることに注目されたい。

・振動感がある。                  25
・よく眠れない。                  19
・イライラする。                  14
・頭の上に違和感。                 11
・集中力の低下。音、振動が続いている感じがする。 各10
・ストレスや不安。                  8
・頭痛。耳の痛み、不快感。             各7
・肩の凝りが激しい。血圧上昇。耳鳴りがやまない。  各5
・胃のむかつき、吐き気。               1     計127件

③ 風車に対する自由な意見も求めている。否定的な意見の中で多かったのは、「風車への落雷が不安」が26、「回転時の影、光が気になる」が24。

④ 風車から発生する音の圧力(音圧)の周波数測定を実施。下の図-2がその測定結果であり、P特性は補正しない本来の測定値のデータ、A特性は人間の可聴感度に合わせて測定値を補正したデータ、図の一番右の青い丸はP特性を全周波数についてエネルギー的に積算したパワーレベル値、赤い丸は同じくA特性について積算したパワーレベル値である。

図-2

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(以下は筆者による補足:
 音圧の単位dB(デシベル)は、音圧が10倍になるごとに20ずつ増加する。音の持つエネルギーについては、エネルギーが10倍になるごとにdBは10ずつ上がる。図-2の青丸と赤丸の差は26dBあり、エネルギーの倍率に換算すると、P特性による音のエネルギーはA特性のそれの178倍にもなる。

しかし、環境省が現在示している風力発電に関する指針によると、「風車騒音による健康被害は、主として人間の可聴周波数領域(20Hz以上)での騒音により発生する」とされており、A特性が基準値以下でさえあれば、風車による騒音は健康被害の原因にはならないとしている。P特性の値の大小についてはほとんど考慮されていない。全国各地での風車騒音による健康被害訴訟では今までは被害者側が全て敗訴しているようだが、この環境省の指針が裁判所の判断に大きく影響しているものと推測される。
現実には、上の図-1に挙げたような健康被害の症状の大半が低周波振動によって発生していることはもはや公知であり、図-2の左側の低周波領域のP特性とA特性の差の部分が健康被害の主因であると考えられる。この環境大の文献の冒頭でも、「A特性のみを考慮し、超低周波音、低周波音を無視している」ことへの疑念が読み取れるように思う。この点については次回で詳しく述べる予定。
なお、図-2のP特性では3Hz付近にピークがあるが、これは三枚ある羽根が支持塔の前を通過するたびに発生する超低周波音を示していると推測される。その周波数は一秒間に羽根が塔の前を通過する回数に等しい。)

 

(2)鳥取市南部で計画中の国内最大級の4500kWの風車の騒音は?

上の表-1に示したように、現在、鳥取県内で稼働している風車の発電容量は最大でも1500kW、鳥取市南部で現在計画中の風車の発電容量はその三倍の4500kWにもなる。この風車から発生する騒音はいったいどの程度になるのだろうか。

現在世界中で稼働している大規模な風車の大半が回転軸が水平で三枚羽のプロペラ風車であり、規模が多少変わっても発電効率は大きくは変化しないものと予想される。騒音発生によるエネルギー損失は風車全体のエネルギー損失の一部であり、騒音の持つエネルギーも風車の発電容量におおむね比例して増加するだろう。

下の図-3は環境省による文献(公害等調整機関紙「ちょうせい」2019年 第99号中の記事)に載っていたグラフを加工したものである。

図-3

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風車の製造業者17社が提供した風車定格容量と一定条件下(おそらく風車にかなり近い距離)で測定したA特性騒音との関係をプロットしている。元のグラフから個別データを拾い、エクセルに移植して線形近似の青い点線を引いた。縦軸は音波のパワーレベルをdBの対数表示から線形表示に換算した。騒音値100dBを相対値で100とみなした。

元のグラフには3000kWまでのデータしかなかったので、それから上は点線を外挿した。定格容量にほぼ比例して騒音のパワーも増えている。結果として、4500kWでのA特性騒音パワーレベルは1500kWのそれの約三倍になるとの結論を得た。

(注:3/19にアップしたバージョンでは縦軸はdB表示としていたが、横軸が線形、縦軸が対数表示では問題があると思いグラフを作りなおした。出力にほぼ比例して騒音パワーレベルが増加するという結果には変わりがなかった。)

では、4500kWの風車の場合、騒音の到達距離はどこまで伸びるのだろうか。風車の近くで風車からの音波の大半が空中を経由してやってくる場合には、音波は球面波となるので、音波が運ぶエネルギーは途中の損失を無視すれば距離の二乗に反比例して減衰する。その様子は図-3と同じ環境省の文献に載っている図で見ることが出来る(図-4)。

図-4

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縦軸は音波が運ぶエネルギーである音のパワーレベルを示す。図中の赤い線は距離の二乗に反比例して減衰するカーブであり、風車からの距離が倍になるごとに6dB下がるが、各距離における平均値を示す赤い点もほぼこの赤い線の上にある。従って、音のパワーレベルは予想通りに距離の二乗に反比例して減衰するとみてよい。

下の図-5には別のデータを示す。これは淡路島の風車について大学関係者グループが測定したもので、定格2500kWの風車から距離を変えて測定した結果である。

図-5

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このグラフでは横軸の距離の目盛りが対数表示になっているために測定値が直線状になっているが、この測定結果でも距離が二倍になるごとに6dB下がっており、パワーレベルは距離の二乗に反比例して減衰するとみなしてよい。なお、これら二つの図ののデータはいずれもA特性で測定されており、P特性で測定されたデータではない。

以上のデータから、以下のような推論が可能だろう。

① 風車から500m離れた地点での4500kW風車の音波のエネルギーは1500kW風車の三倍。
② 音波のエネルギーはほぼ距離の二乗に反比例して減衰するとみなしてよい。その場合、1500kWの風車の500m離れた地点で得られる音圧と同じ値は、4500kWの風車では500mの√3=1.732倍の866m離れた地点でようやく得られることになる。
③ 4500kWの風車から約900m以内の集落では、上の環境大の調査結果と同様に、集落の半分近くの住民からクレームが来る可能性が考えられる。

 

(3)風車騒音に対する地形の影響

現在までに鳥取県内に設置されている風車は、そのほぼ全てが海岸近くの平坦地、またはなだらかな丘陵地帯に位置している。今回の計画のように風車基部と周辺集落との標高差が数百mに及ぶようなケースは、定格容量が一基あたり1000kWと小規模で周囲に民家がない鳥取市空山の県営放牧場発電所を除けば、県内では前例が無い。

参考のために、今回計画での高路周辺の地形と(毎回、高路を引き合いに出して申し訳ないが・・)、環境大の調査対象の一つである東伯発電所の地形を比較してみよう。この東伯発電所は、鳥取市空山の発電所を除いた発電所の中では最も内陸部に位置している。また苦情率44%と最も苦情が多い発電所でもある。

下の図-6に国土地理院のサイトから入手した高路周辺の地図を示す。風車の位置としては、とりあえずは、集落の西側の谷を登りつめた明治谷との間の稜線上に設置するものと仮定した。風車と集落との間の距離は約1200m、風車と集落とを直線で結びその間の地形の断面図を図中の右側に示した。国土地理院の地図サイトでは、右上にある「ツール」の中の「断面図」の機能を使うと、任意の二点間を結ぶ直線に沿った地形断面図を簡単に得ることができる。

図-6

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同様にして、下の図-7には環境大の文献の末尾の東伯発電所でNo.21と表示されている風車(赤丸で表示)周辺の地図と、風車とその近くの西高尾集落の間の断面図を示す。この集落では、風車から450~500mの距離にある10戸のうちの4戸が風車による健康被害を訴えている。参考のために環境大文献から当該箇所を切り抜いた図を図-8として示す。

図-7

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図-8

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地形の比較のために、水平・垂直の縮尺を揃えて両方の断面図を切り出して並べた比較図を図-9に示す。

図-9

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地形差を強調するために、高さ方向の縮尺を水平方向の六倍にしているが、それでも東伯町の方はほぼ平坦な地形といってよい。対して高路の場合には、まさに山間の集落そのものである。この断面図以外でも、高路では周囲のほぼ全方位に対して高さ300m程度の山々が連なっていて、開いているのは川の上流と下流方向だけであり、どこで叫んでもコダマが帰ってくるような地形である。この近くに風車を設置した場合には、周囲の山々からの反射波がかなり発生することは確実だろう。
なお、図-9中に示した風車の大きさは、その実際の大きさを反映したものである。東伯の風車は表-1に示すように最上部の高さが100m、ローター直径は70m。対して計画中の風車は高さ150m、ローター直径は130mとなる予定。

 以上に示したように、今回の風車計画は県内初となる山間部への設置であり、従来の経験はあまり参考にはならない。加えて従来の三倍もの発電容量を持つ巨大風車であり、慎重に対応しなければ設置後には大変なことになりかねない。

 

(4)低周波の音波は障害物の後ろに回り込みやすい

上の高路に関する図-6を見て「風車と集落との間に山が来るように風車位置を決めて集落に直接音波が来ないようにすれば、騒音は大きく減るのではないか」という人がいるかもしれない。確かに、我々が通常話している程度の周波数(数百Hz~数kHz)であれば、間に障害物を置けば音波はかなり減衰する。しかし、数Hz程度の低い周波数の音波(空気振動と言うほうが適切だろう)の場合には途中の障害物を回り込んでその背後に届いてしまう傾向が強い。
一般的に言って波動とは、それが音波であっても電波でも、その波長に近い大きさの物体を回り込んでさらに先に進むという性質がある。ビルの谷間でもAMラジオはよく聞こえるが、FMは聞こえにくいのはこのためだ。
気温20℃時の音速は約340mだから、周波数が1Hzの場合の音波の波長は340m、2Hzでは170m、10Hzでは34m。音波はこの波長に近い物体の後ろに簡単に回り込んでしまう。従って、仮に集落からは風車が山で隠れて見えない位置に風車を設置しても、騒音中の低い周波数分の空気振動はかなりの割合で集落に届くものと予想される。風車騒音では、上に示した図-2のP特性とA特性の差で示したように低周波音の持つエネルギーが大半なのである。

次の記事は防音材を扱う業者によるものであるが、参考とされたい。
「音の回析、音の入射角と反射角と、音溜まり」

この中に音が集まりやすい場所を指す「音溜まり」という業界用語があるが、周囲を山に囲まれた山間の集落は、まさにこの「音溜まり」に相当する。さらに、音、特に低周波音は地形に沿って曲がりながら進むので、谷沿いに音波が集まりやすい。集落は複数の谷の出合いに位置することが多いので、集落の中でも特に風車が位置する谷に近い家ほど低周波音を受けやすいだろう。
さらに問題なのは、色々な方向からの反射波が集まる場所では、音波が互いに干渉して音を強め合ったり弱め合ったりすることである。自分の家では騒音がうるさかったり家が揺れたりするが、隣りの家は何ともないというようなことが起こりかねない。一つの集落の中でも、騒音被害を受ける家と受けない家に分かれるだろうが、どの家がそうなるのかは実際に風車を建ててみなければ判らない。事前のシミュレーションをするには地形や前提条件が複雑すぎるし、事前診断を業者に要求しても業者は絶対に引き受けないだろう(後で補償問題につながりかねないから)。

(5)全国各地の風車騒音被害の実態

以下に全国各地で起こっている風車による健康被害の実態をいくつか紹介しておこう。まだ収集例は少ないが、今後さらに事例を集めて健康被害が起こりやすい条件を明らかにしていきたい。

(5-1)昨年11月の明治小講演会で紹介された事例

以下に、被害者の住所、風車定格容量、被害者宅と風車の間の距離、被害者年齢等とあわせて示す。

和歌山県由良町 1990kw 1.3km 女性 70才
「つらい時は、夜中に車に乗って数km離れたコンビニの駐車場まで行って寝る。」
「按摩さんは「ここに来ると、何か恐ろしいような異様な感覚がある」と言っていた。」(視覚障碍者は視覚以外に敏感)

三重県伊賀市上阿波汁付 2000kw 1.2km
「生まれた時から渓流のそばに住んでいて渓流や滝の音は気にならないが、風車の音はたまらん。」
「年取って耳は聞こえなくなってきたが、風車の音だけはこたえる。」(老人は低周波音により敏感)

三重県伊賀市上阿波汁付 2000kw
風車から最短で1kmに位置する同集落では、全8戸中5戸が風車による睡眠妨害を訴えている。夫婦で木造住宅に暮らす女性(70)は「グワン、グワンと風車の音がうるさくて睡眠薬を飲まないと眠れないときもある」と訴える。

和歌山県由良町 1.5km
「国道と線路の横に家があって、その音は気にならんし一時的やが、風車の音はずっとでつらい。」

和歌山県由良町 2km
「恐ろしい音が地面から柱を伝って入って来る。」

⑥オーストラリア ウォータールー 3000kw×37基
約3km離れている集落では、皆が自宅を出てゴーストタウンに。

(5-2)高知県在住の方のネット記事より収集 

高知県大月町 大洞山ウインドファーム(3,000kw×11基)の直近風車から1km弱

「2018年の3月に風車が運転を始めてからズンズンという地響きがし始め、頭が痛い、夜眠れないという症状が続いた。雨戸を閉めても室内で振動が反響する。はじめは隣の家のエアコンか船の音かと思っていた。ところが、隣の人が体調を崩して亡くなって、その後に風車の音だと気づいた。風車が建つ前は凪のときなど夜はとても静かだったのに、今は音がひどくて眠れない。住民が知らない間に風車が建ち、稼働が始まると超低周波音に苦しめられる。」

和歌山県由良町 2011年11月に、新たに直近風車700mで2,000kwが5基(由良風力発電所)建ち稼働開始 故谷口愛子さん

「天井からヒュー、ヒュー、壁はドン、ドン、ドン、ドン、畳の下からドッドッドッドの音がする。『これなんやろう?』と思うて、3日間怖くて、怖くて、眠れずに廊下を行ったり来たり、行ったり来たりしていました。そして、『あっ、もしかして、あの風車かわからん』と思って役場の参事に電話したのですが、『風車のことをいうのはあんただけ』と無視されました。
私は由良町に畑地区に50年住んで、みんな友達なので、34人に聞いたら、すごい被害を訴えてくれました。ひとりは『医者にレントゲンやMRIを撮ってもらい、何回も医者を替えたが、原因は分からない』と言われた。もうひとりは『体がこわばって靴下がはけない。耳が痛い、飛行機に乗った時みたい』と言います。私も耳がすごく痛かったのでお医者さんへ行ったら、『鼓膜が破れている』と言われました。」

③北海道 3,300kwが19基と1,500kwが2基の計21基の風車から5kmほど離れて住む N氏

「回転翼直径が148mもあるので屋根と屋根の間から羽が回転するのが見える。普通の日もあるが、朝、頭痛で目が覚めたり、2~3日具合が悪かったりする。体調が悪いと回転数を記録する。以前は近くに行っていたが、頭痛がひどく体調が悪くなることがはっきり分かってから、全く近づかない。1km以内はすぐ離れる。」

上の(5-1),(5-2)で紹介した和歌山県由良町三重県伊賀市高知県大月町の事例では、いずれも風車の設置場所が被害者宅よりも標高差にして200m~300m程度高く、自宅から風車を見上げる配置になっている。これは、風車が計画されている鳥取市南部の地形とよく似た配置である。

 

(5-3)風車と被害者宅間の距離に関する環境省の公表データ

 いったい、自分の家が風車から何km離れていれば健康被害を受けなくて済むのだろうか。鳥取県内の平坦地においては、風車容量が1500kWの場合に0.5kmでは距離が不足していることは環境大の調査で既に明らかになっている。環境省が風車と被害者間の距離に関するデータを上の(2)の図-3を引用したのと同じ文献に載せているので、下に図-10として示す。この図のデータは環境省が全国の自治体に問い合わせて、その回答を集計したもの。あくまで住民から自治体に苦情があった件数だけであり、住民から業者への苦情は含まれていない。

図-10

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この図の元々の表題「定格出力と最も近い苦情者宅までの距離」というのを読んで何か気になりませんか?『「最も近い苦情者」までの距離は判った。では、「最も遠い苦情者」までの距離はいくらなんだ』と聞きたくなりませんか?

環境省のこのグループが書いたほかの文献を読んでも同じ表現がしてあり、どうやら彼らには、被害者全体についての風車からの距離分布を知られたくない気配が濃厚である。
筆者は最初にこの図を見た時、「1500m離れていれば、ほぼ大丈夫なんだ」と思ってしまった。二回目に見直した時にその内容がおかしいことにやっと気づいたが、実際にはこの図の全ての点より上方にさらに多数の点が分布しているものと思われる。環境省は、風車から遠く離れたところにも被害者がいるという事実を極力隠したいのだろう。
彼らが意図的に元データの一部だけを公開するようにして、国民への印象操作を狙った可能性は高い。最近、永田町と霞が関で大流行している、官僚による「ご飯論法」の一変種なのかもしれない。

鳥取市青谷町でも別の業者による風力発電所建設計画が進行中であり、先月の2/14の日本海新聞の記事によると、2000~4000kWの風車を約12本建てる計画とのこと。同じ記事によると、青谷町養郷地区の区長氏は「地区からは風車は見えない位置だし、距離も500mは離れている」と心配ないような口ぶりらしい。この区長氏には、当ブログの内容をよく読んでいただきたいものである。

環境省は全然頼りになりそうもないが、風車建設を止めるのは簡単である。要するに、「風車建設のための土地を業者に貸さなければよい」だけのことだ。元々、電力を売って利益を得ることしか考えていない業者が、高圧線への距離と地形だけを見てこの地域を選定したに過ぎないのである。国や自治体による公共事業でもないし、民間企業からの一方的な土地借用の申し出に応じる義理も理由も無い。私利私欲だけで勝手に押しかけて来た連中のために、今までの平和で平穏な生活が乱されようとしているのだ。


彼らにとっては、この地域に住んでいる住民は邪魔な存在でしかない。土地の契約が完了するまでは殊勝な態度を取り続けるだろうが、風車が建って稼働し始めたら、騒音被害が起こっても後は知らぬ存ぜぬとなるに決まっている。風車による健康被害が全国各地で起こっているが、今までに被害者が補償された例はほぼ皆無だろう。風車の稼働停止を求める裁判も各地で起こったが、勝訴した例は一件もない。この点については、風車による健康被害を一貫して認めていない環境省の責任は極めて重大である。

「風車が建てられてしまったら、もうおしまい」というのが、全国各地の健康被害者が共通して語っていることだ。現在、業者に土地を貸したいと考えている人たちは、風車が建った後の全ての結果についても自身に責任があることを自覚した上で、今後行動するべきである。

次回では、低周波音による健康被害についてより詳しく取り上げる予定です。

/P太拝

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(2)  -予定地の現状-

前回からの続きです。

(3)風車建設予定地では林道沿いに無数の崩落

かなり暖かい日が続いた先週。そろそろ山の雪も溶けた頃と思い、初めて風車の建設予定地を訪れてみました。訪れた場所は明治地区の松上から東郷地区の高路にかけての林道。風車の誘致に一番積極的なのが高路集落との報道があり、まずその周辺を見たいと思ったからです。現地に行ってみたら、この林道の周辺も脆くて崩れやすい風化花崗岩からなる真砂土地帯であることが判りました。

下の地図(図-1)中の赤い丸で示した山中をクネクネとうねっている道路がその林道です。

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なお、地図の中央やや左の上下に走っている直線は中国電力の高圧線。風車の建設予定地は、この高圧線の右側に沿って両方の谷の中間を上下に走る稜線上となっています。業者が高圧線に接続しやすい場所を風車予定地として選定していることがよく判ります。

以下、現地を見ての感想です。

「松上の郵便局を過ぎてからすぐに左折してこの林道に入り、しばらくは杉林や雑木林の中を行く。雪は所々の道路脇に残ってはいるが、車の通行の障害となるほどではない。

少し登ったあたりから、道路上に落ちたり倒れかかったりした倒木が次々と現れた。数日前に誰かが切っておいてくれたので無事に通過できたが、そうでなかったら、ノコギリを持って来なかった自分は最初の一本目で引き返すしかなかった。

稜線の近くまで上がると道の山側沿いの崖がくずれているのが目につくようになってきた。撮影した写真のいくつかを下に示す。

 

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試しに、崖の下に落ちていた岩(下の写真左)を拾い、腰の高さからアスファルト舗装の上に自然落下させたら、下の写真右に見るように簡単に砕けてしまった。一応は岩の形をしてはいるものの、風化した花崗岩とはずいぶん脆いものであることを実感する。

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稜線に沿って北に林道を進む。稜線に近いせいなのか、ずいぶん乾燥した林だと感じた。土壌の保水力も乏しいのだろう。右手の山側からは無数の崩落と路上の落石。一方、左の谷側には大きなコンクリートブロックを何重にも積んで路肩が作られ、その上に設置されたガードレールもまだ壊れてはいないので安心感がある。路上の落石を慎重に避けながら運転しなければならないものの、車を走らせていてもそう危険は感じない。

しかし、それも税金が原資の公共事業で整備した公共道路だからこそであり、営利目的の民間企業が風車の建設と管理用に稜線に沿って作った道路には、十分な路肩整備どころか舗装すらも無い可能性が高い。その結果、大雨が降るたびに路肩から大量の土砂が谷や山腹に流出すると予想される。この地域の稜線上に道路を張り巡らすことは、鳥取市の防災上の致命傷となりかねない。

この林道沿いの森の現状について言えば、樹種の大半が生育が劣るか既に枯れてしまった松であり、松を置き換えつつある広葉常緑樹も生育が悪く高木はめったに見ない。おそらく保水力と栄養分が少ない真砂土が土壌の大半を占め、かつ、その土壌の厚みがかなり薄いためだろう。ここに杉やヒノキを植林しても、十分に育つとはとても思えない。

この地域の山々は当面の開発は避けて現状のまま防災保安林として保全し、土壌の蓄積を図って将来の林産資源の復活に期待するのが最善の策ではないかと思う。下手に開発に着手してしまえば、土砂の流出を加速させて下流の水害危険性を高める結果となるだろう。

さて、有富川沿いの東郷地区の谷を見下ろす地点まで来て、後は高路の集落まで一気に坂を下る。この坂の途中の道路沿いでも、少なくとも六カ所以上で崩落していた。一例を下の写真に示す。

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稜線付近の崩落地よりもこの付近の崩落の方が粒子が細かく、この写真に見るように道路沿いでは既に砂状になって堆積していた。全部で約7km長の林道を通ったが、確認した崩落地の数は実に数十カ所を数えた。要するに、この付近の山の土質は既にボロボロの状態にあると言ってよい。」

以上、実際に現場を見て真砂土地帯の崩落のすさまじさを実感した次第です。

なお、先回の記事の図-7と図-9では有富川沿いの真砂土地帯は「新田集落から北」としていましたが、今回の林道の実際の通行で「高路から北」であることを確認しました。元々の資料も、よく見ると「高路から北」でした。筆者の勘違いでありお詫びします。先回の記事中の図も訂正しておきました。

ちなみに、先回の記事で紹介した三重県青山高原の風車管理道路での崩落の実例ですが、この青山高原も真砂土地帯にあることが確認できました。詳しくは次のサイト中の地質図を見てください。青山高原は地質図中に黄色で示された「花崗岩質岩 領家変性帯」の中にあります。
「森林作業道と地域の地質 三重県」

鳥取市南西部のこの真砂土地帯に当初計画通りに数多くの風車を建設した場合、将来的には、現在の三重県青山高原と同様に多数の崩落が発生する可能性が高いものと予想します。

次回は、予定地周辺の住民にとっては特に関心が高い「風車の騒音問題」を取り上げる予定です。

/P太拝 

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(1)  -水害への影響-

鳥取市南西部の中山間地で現在事業計画が進行中の「鳥取風力発電事業」。国内で最大級の陸上風力発電事業が突然降ってわいたかのようになぜ持ち上がったのか、そして、この事業が抱えている問題点とはいったい何なのかを調べてみたいと思います。今後数回に分けて問題点を検証していく予定です。

まずは、この計画の概要の紹介、さらに防災面、特に水害の危険性について調べてみました。

(1)事業計画の概要

事業計画地域を下の図-1に示します。赤い線が風車の設置予定地、それを含む黒い線で囲んだ地域が事業の実施区域。この区域から飛び出している細く折れ曲がった二重線は、主要道路からこの実施区域に接続する林道や広域農道を示しています。青い線は各谷の中を流れる主要河川です。

赤い線の上に建てる風車は、4500kW出力という国内では前例が無いほどの超大型風力発電機であり、全部で32本を設置。予定している最大出力が144MWという、陸上の風力発電としては現在国内で最大規模の事業計画です。なお、この事業者の事業計画については、次のサイトの「(仮称)鳥取風力発電事業 環境影響評価方法書」から確認することができます。

「VENA ENERGY  2018年アーカイブ」

 

(図-1)鳥取風力発電事業計画地域

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この4500kW出力の風車、羽根の直径が約130m、羽根の中心位置の高さ約85m、羽根の先端の最高高さは約150mと非常に巨大なものです。日常生活における実際の感覚としては、いったいどのような感じに見えるのでしょうか?

鳥取市の象徴であり市民が日頃から慣れ親しんでいる久松山の山頂にこの風車を仮に建た場合を想像してみれば、その巨大さが実感できるでしょう。下にその予想図を示します。とりぎん文化会館の裏の駐車場から県庁第二庁舎、県警本部、久松山を見上げる角度で2021年2月に撮影した写真に、予定されている寸法の風車を重ねて合成しました。この写真の撮影位置から久松山山頂までの距離は地図上の水平距離にして1060m、県庁第二庁舎の中央部までの距離は218mです。


(図-2)久松山山頂に高さ150mの巨大風車を建ててみたら・・・

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この風車の高さ150mは標高263mの久松山の約六割弱。この予想図の左側に見える九階建ての県庁第二庁舎の高さは約30m(右端の塔部を除く)と推定され、この第二庁舎を五つ積み重ねてようやく高さ150mの風車単体の羽根のてっぺんに届くという実に巨大な風車です。谷底から毎日こんなものを見上げながらの生活は、実に憂鬱なものとなるでしょう。

事業予定地域内、及びその近接地域に住んでいる鳥取市民の数を下の表-1に示します。市の公式サイトから2020年12月末時点の住民登録者数を抜粋したものです。風車予定地から2~3km以内の集落の人口、合計で約三千人強の市民が風車の直接の影響を受けることになるものと予想されます。

(表-1) 

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予定地域内には三本の谷があり、それぞれに沿って明治(細見地区を含む)、東郷、神戸の三地区があります。予定地域に隣接する地区としては河原町西郷地区、長柄川(湖山川上流部)が流れる吉岡地区上流部、鹿野町末用(すえもち)川の上流部があります。

予定地域内の山の標高は200~700mの程度。各集落の標高は50~200mの範囲であり、この事業計画が実現すれば、上の図-2に示した久松山予想図とよく似た風景が各地に出現することになります。

明治谷住民のみなさんは、谷の東西に沿って二列に林立する巨大風車に挟まれて生活することになります。岩坪地区に至っては、集落の周り三か所に立つ風車に囲まれた生活となります。

次回以降にあらためて述べる予定ですが、風車から発生する超低周波騒音による健康被害が全国各地で数多く報告されています。風車による集落振興どころか、村の住民がみな逃げ出してしまって廃村に至る可能性が高いように思います。

この事業を推進しているのはシンガポールに本社がある海外資本の企業(後述)ですが、このように数千人の住民が昔から住んでいる地区にあえて巨大風車を林立しようとする動機は、この地域内に中国電力の高圧送電線が通っているからにほかなりません。既存の高圧線に接続するためのインフラ整備は発電事業者自身の負担になるので、なるべく自分たちの投資負担が少ない地域を選んだ結果、この事業計画が立案されたものと推測します。

さらに、この地域内には各谷を連結する尾根越えの林道や広域農道が数多く走っており、風車を建設する尾根筋までの部材や設備の運搬が容易であるという点も、この地域が選ばれた大きな理由でしょう。事業者がより多くの経済的利益を得ることだけを目的とした事業計画であり、計画の初期の段階から地域住民の存在が一貫して無視され続けていることは明らかです。

 

(2)野坂川の氾濫の可能性

(2-1)2018年9月、台風24号通過時の野坂川の水位

今から約二年半前の2018年9月30日の夜、台風24号が和歌山県に上陸。この台風に向かって吹いた日本海からの水蒸気を多量に含む北西風が中国山地にぶつかることで、鳥取県内でもかなり大量の雨が降りました。鷲峰山-高山-高鉢山からなる西因幡山地の麓にある旧気高郡内の降水量が特に多く、青谷町下善田では近くの川の氾濫で介護施設が床上浸水、その高さは人の胸までが水につかるほどであったと報道されました。

「平成30年台風第24号に関わる災害(第8報) 鳥取県」

この日の夜、野坂川でも氾濫の寸前までいっていましたが、その事実はほとんど知られていません。翌日の10/1の朝、徳吉付近の野坂川で筆者が撮影した写真を下に示します。場所はカインズホームの少し西側にある徳尾大橋の北側。濁流が堤防を越えるまでには、目分量であと1.5mほどでした。

(図-3)2018年10/1朝 野坂川徳

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(図-4)2018年10/1朝 野坂川徳

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9/30に鳥取市内の各地に出された避難勧告と避難指示、アメダス雨量、野坂川と千代川水位計データなどを、以下に時系列で示します。野坂川に関する項目を赤字でし召します。なお、避難指示、及び避難勧告の項目中の数字は指示・勧告対象者の人数を示しています。

17:47 青谷町西町、駅前、吉川に「避難指示」  864
18:08 青谷町下善田に「避難指示」       24
18:24 野坂川徳尾の国交省水位計が「避難判断水位」3.7mを突破。
18:47 青谷町東町に「避難指示」        75
19:00 青谷、鹿野町河内、佐治町加瀬木のアメダスの一時間雨量が一斉にピーク値に到達。各々のピーク値は、順に 44, 41, 21(mm/h)。以降の雨量は急速に減少し、22hには三か所ともに一時間雨量が5mm/h以下となる。
19:38 鹿野町小別所、鷲峰、河内に「避難勧告」 496
19:24 野坂川徳尾の国交省水位計が「氾濫危険水位」4.3mを突破。
20:10 気高町逢坂地区に「避難勧告」      1,009
20:12 徳尾、徳吉、緑ヶ丘1,2丁目、南安長1,2丁目に「避難勧告」 6,247
20:44 鹿野町寺内、宮方、中園、岡木、乙亥正に「避難勧告」 527
20:47 福部町細川(駅前地区)に「避難勧告」  294
20:54 野坂川徳尾の国交省水位計がこの日のピーク値 4.96mを記録。
22:00 千代川行徳の国交省水位計がこの日のピーク値 4.15mを記録。なお同地の「避難判断水位」は5.9m、「氾濫危険水位」は6.7m。

野坂川よりも海側に位置する徳尾、徳吉、緑ヶ丘、南安長の対象者合計が六千人以上と突出して多いことが目を引きます。なお、この点については当ブログの記事で既に指摘済ですが、野坂川の水位が「避難判断水位」を超えてから1時間48分、「氾濫危険水位」を超えて48分も経ってからようやく「避難勧告」を出した当時の鳥取市の対応にもかなり問題があると思います。

この台風24号による降雨量は旧気高郡地域で多く、八頭郡内ではそれほどではありませんでした。9/30の県東部各地のアメダスの一日の全降雨量(mm)は、鹿野町河内 321.5、青谷 241、佐治町加瀬木205.5、鳥取 124.5、智頭 129、若桜 103.5、岩井 122、湖山 136.5 でした。

同じ年の2018年7月には、全国で263名の死者、倉敷市真備町だけでもそのうちの51名もの死者を出した「七月豪雨」が発生しました。この「七月豪雨」の際に、河原町内の千代川の水位があと10cmを残して堤防と同じ高さに達する寸前であったことは当時の新聞各紙の報道等でよく知られています。当時の県東部各地の雨量は、連続で大雨が続いた7/5~7/7の三日間だけでも、智頭 476.5 、佐治 450.5、鹿野 368.5、若桜 391、鳥取 308 を記録しました。

この七月豪雨の際、千代川行徳の国交省水位計は、7/7の 01:20にピーク値6.03mまで到達し「避難判断水位」の5.9mを超えました。

仮に、9/30にも智頭や若桜方面で七月豪雨に近い量の雨が降って千代川行徳の水位が5m以上になっていたならば、野坂川の流れの千代川への合流が妨げられて野坂川の水位がさらに上がり、川の水が堤防を越えていた可能性もかなり高かったでしょう。野坂川と千代川の合流点は、行徳の水位計から下流にたった1.1kmしか離れていないのです。

下の図-5には、9/30前後の野坂川徳尾の国交省水位計の記録を示しています。水位がピークに達するまでの約4時間の水位の上昇速度は平均で0.7m/h程度でした。千代川の行徳の水位が当時の最大値4.15mのままでとどまっていたとしても、鹿野河内や野坂川上流の降水量が30~40mm/hのままであと三時間以上続いていたならば、徳尾の水位がさらに1.5m以上あがって氾濫が発生していたことはほぼ確実だったでしょう。


(図-5)2018年9/29~10/1の野坂川徳尾水位計の水位変化f:id:tottoriponta:20210217100929j:plain

以上のような事実を踏まえれば、この2018年9月30日の夜に野坂川が氾濫しないですんだのは、「単にラッキーであった」ためというほかはありません。

①台風による豪雨の範囲が八頭郡などの千代川上流方面にも及んでいた。

②台風の動きがより遅くなったために、野坂川上流の豪雨があと三時間ほど長く続いていた。

日本海の海水温がより高いために大量の水蒸気が流れ込んで、さらに大量の雨を降らせていた。

以上の三つの要因のうちのどれか一つが付け加わっていたならば、この日の夜、野坂川の氾濫が確実に発生していたでしょう。

徳尾付近で野坂川の水が堤防を越えて氾濫が発生した場合、流れ出た水をさえぎるものは日本海に至るまでの間には何ひとつありません。9/30の夜に避難勧告の対象となった六千人強に加えて、商栄町、南隈、晩稲も水没地帯となる可能性が考えられます。

流出する水量が多い場合には、古海、岩吉、千代水、湖山町東までも避難指示の対象となりかねない。野坂川がいったん氾濫すれば、千代川と湖山川の堤防で囲まれた約一万一千人が住む地域が、かつ鳥取市の商業活動の中心でもある地域が、全て水没する可能性もあり得るのです。

 

(2-2)風力発電のための道路が山の保水力を低下させる

上に述べた野坂川氾濫の危険性は、地球温暖化による近年の豪雨頻発もあって、今後さらに高まるものと予想されます。では、現在この地域に計画されている大規模風力発電事業の水害に対する影響はどうなるのでしょうか。

風車は必ず山の稜線上に建てられます。斜面上に建てた場合には、風の向きによっては風車が回らないこともあります。全方向からの風をくまなく利用するためには、風車を一番高い所に建てなければなりません。必然的に山脈の稜線上に風車がずらりと並ぶことになります。当然、風車の建設や管理のために必要な道路も、山の尾根上の木を全て伐採し尾根の土を削って作られることになります。尾根周辺の木は風の強さを弱めることになるので、風力発電にとっては邪魔者でしかありません。

最初に紹介した図-1の赤い線で示した風車設置予定地の合計の長さは、直線で近似しただけでも約40kmになります。細かな屈曲も含めれば50kmを超えることは確実でしょう。幅が十数mの未舗装の道路を50km以上も稜線に沿って作った場合、山の保水力が大幅に低下することは間違いありません。道路両脇の高木も、風を妨げる原因となるために切り倒されるので、さらに保水力が低下します。

昨年の11/15に明治郷づくり協議会と明治地区公民館の主催で、明治小学校体育館において「風力発電学習会」が開催されました。当日の講師を務めた武田恵世氏は、風車が集中する三重県青山高原を中心に風力発電の問題点を長年調査されてきた方です。

青山高原では1999年に国内初の発電用風車が建設され、現在の風車の数は91基にまで増えているとのこと。この講演会で示された風力発電のために建設した道路の惨状を以下に紹介します。

 

(図-6)三重県青山高原他の風車建設・管理道路の現状

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一枚目は稜線上に作られた道路、土はむき出しのままです。

二枚目は道路建設の前後の比較。広葉樹林がみな伐採されて道路となってしまいました。この状態で大雨が降れば土砂の流出が起きるのは当然です。なお、鳥取市の風車予定地の山々はこの二枚目のような高原状ではなく、もっと山腹の傾斜が強い山ばかりです。

三枚目は青山高原で風車建設のために作った道路の現在の惨状です。

四枚目は宮崎県での道路建設が引き起こした土砂崩れの一例。

昨年2020年の9/25~9/27には、この三日間の総雨量で鹿野河内 249mm、佐治加瀬木 219mmの大雨が降り、河原町北村と佐治町高山で二十カ所以上もの林道崩落や土砂流出が発生しました。このように、高山周辺の林道では毎年のように豪雨や雪解けによる通行止めが発生しています(あんな急斜面の山腹に林道を作れば、崩落するのは当然。)今回の風車予定地の南部ではこの林道を利用して風車建設を進めることになっています。

この昨年九月に発生した林道災害の復旧工事は、鳥取市が昨年の11月補正予算で確保した二億円弱を使って実施中ですが、民間業者が風車建設のために尾根上に設置した道路が土砂流出を引き起こした場合には、いったい誰が直すのでしょうか?土砂が山の両側の山腹に流出しても、尾根上の道路が通行可能でさえあれば、余計なコストを負担したくない民間業者がそのまま放置し続ける可能性は極めて高いでしょう。結果として、青山高原のように土砂崩れだらけの山と化してしまう危険性が高いのです。

この地域の山々がさらに保水力を失ってしまえば、豪雨時の野坂川の水量はますます増えることになります。この地域のその他の河川の水量も増えるでしょう。有富川、細見川、曳田川は千代川の中流域に直接流れ込みます。今でさえ危険な千代川の水位を、さらに上げることになります。この風車建設問題は、単に建設予定地の住民だけの問題ではありません。鳥取市全体の問題として考えなければなりません。

 

(2-3)土石流の危険性 -風車建設予定地の北半分の地層は風化した花崗岩

園芸用や庭土としてよく使われているマサツチ(真砂土)という土があります。鉢植え用の土として使うことも多く、ホームセンターの園芸コーナーには必ず置いてある人気商品です。この土は風化した花崗岩を砕いて作りますが、この風車予定地の北半分の山地の表層のほとんどがこの風化花崗岩鳥取花崗岩)からできているのです。

この風化花崗岩は非常に脆く、少し圧力をかけると容易に砕けるため、余計な養分や病害虫を含まない土づくりには最適です。そのことは同時に、この風化花崗岩が非常に崩れやすい性質であることを意味しています。広島県岡山県に特に多い土石流災害の大半は、この風化花崗岩からなる真砂土地帯で発生しているのです。

「西日本豪雨から2年 土砂災害の多い中国地方の課題とは」 

下の図-7には風車建設予定地の断層と風化花崗岩の概略の位置を示します。断層については次回で触れることにして、今回は風化花崗岩の話題に限定しましょう。図のオレンジ色の線、神戸地区の高路から明治地区の河内、さらに鹿野町小畑の上流部を結ぶ線から北の山地部分がこの風化花崗岩が地表に現れている地帯です。


(図-7)断層と風化花崗岩の範囲

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この予定地の中だけでも、真砂土を採取している採石場が少なくとも四カ所は確認できます。そのうちの二か所(いずれも口細見地区)の写真を以下に示します。過去の採掘場所も他に何カ所かあるものと思われます。図-1に示した事業計画によれば、図-8の採石場から右に尾根上を500mほど進んだ地点から風車建設が始まることになっています。


(図-8)真砂土採石場① 2021年2月撮影

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(図-9)真砂土採石場② 2021年2月撮影

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広島の真砂土地帯には、手で筒を土中に押し込めるほど軟らかい所もあるそうです。鳥取花崗岩はそこまでは風化していないようですが、一般の岩盤よりも相当もろいことは間違いないでしょう。地震の際の風車の倒壊を防ぐためには、風車の基礎工事には多額の費用をかける必要があります。

さらに心配なのは、尾根に沿って作った道路からの真砂土の流出です。下の図-10には鳥取市の防災マップで指定されている「土砂災害危険区域」を灰色の網掛けで示しています(「Yahoo japan 土砂災害マップ」から転載)。鳥取市の防災マップにはもっと詳しい情報が載っていますので、より詳しく知りたい方はそちらを参照してください。

 

(図-10)土砂災害危険区域の分布

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図中の黄色の線から北が真砂土地帯です。有富川、野坂川、長柄川の各流域の真砂土地帯に含まれている地域に土石流による危険地区が集中していることがよく判ります。この真砂土地帯の稜線上に道路を作った.場合には、土石流の危険性が現在よりもさらに増すことは確実です。土石流が起きないまでも、道路の両側の山腹斜面への土砂の流出によって植生が破壊されれば、保水力が低下して各河川の氾濫の危険性が増すことも確実です。

なお、砂見川沿いの上砂見から下砂見にかけての神戸谷では、土石流よりも地滑りの危険性が高くなっています。この.付近の表層を成す「河原火砕岩」は水を含むことで滑りやすくなり、実際に1970年代にはこの谷の中で大規模な地滑りが発生しています。西隣の谷の高路でも、1969年に地すべりが発生して県道が通行止めになりました。風車建設によって各地の山の保水力が失われれば、当然、地すべりも現在よりも頻発することになります。

(2-4)野坂川の下流部は既に「天井川

この野坂川の上中流部が真砂土地帯であることの影響と思われますが、野坂川下流域の川床の上昇についても触れておかなければなりません。地元の方は既によくご存じと思いますが、野坂川の下流域、野坂集落の少し下流(集落の北側)の宮谷付近の野坂川の河川敷は、左岸側の農耕地よりも明らかに高くなっています。いわゆる「天井川」であり、水害常襲地帯によくみられるタイプの川です。

このことは、左岸の堤防上を通っている県道49号線を車で走りながら左右を見比べただけでもよく判ります。河川敷から県道までの高さよりも、左岸の畑地から道路までの高さの方が数mは高いのです。大雨が降るたびに上流から流れてきた真砂土が、流れがゆるやかになるこの辺りに集中して堆積したためでしょう。上の(2-1)で徳尾付近での氾濫危険性について触れましたが、この宮谷付近での氾濫発生の可能性も相当高そうです。

最近、国交省は野坂川の水位計を従来の設置場所の徳尾から宮谷へと移設しましたが、徳尾よりも宮谷の方がより危険と判断したためかもしれません。この辺りで野坂川が決壊した場合には、氾濫の範囲がさらに里仁、布勢、湖山町南へと広がる事態も想定されます。この風車設置計画をそのまま認めてしまえば、さらに真砂土を流出させることで野坂川の氾濫危険性を今よりももっと高めることは間違いないでしょう。

(以下、次回に続く)

/P太拝

中国の不動産バブルの崩壊はいつ来る?

先週、中国関連の記事を数本立て続けに読んでいて、住宅価格の推移に注視していれば中国の今後の行く先が見えてくるのではないかと思うようになりました。以下に各記事を紹介しておきます。

 

(1)「中国人はなぜお金持ちになったのか…都市部世帯の持ち家は平均1.5軒」

 この記事の内容を要約すると、

① 中国の都市部住民世帯の住宅保有率は96%。一世帯平均で1.5軒の住宅を保有
 (なお、ここで言う「都市部住民」とは都市戸籍の所有者であり、都市部に出稼ぎに来ている農民戸籍者は含まれていないと思われる。次の資料によれば、2020年時点での都市戸籍保有者は全人口の45%の約6.4億人、都市に住む農村戸籍者は15%の約2.2億人、残りの40%、5.7億人と推定される。

 一世帯の構成人員が三人と仮定すると、中国全体の世帯数は4.8億世帯。都市戸籍者が保有しながら自分では住んでいない住宅戸数は約1.0億戸。その半分が都市に住む農村戸籍者に貸しだされているものと仮定すると、約5千万戸が空き家のままとなっていることになる。

「中国が「戸籍取得制限」を緩和…各都市の取得条件と取得状況」

② 中国人が住宅取得に熱心なのは、自分が住むためではなく投資が目的。過去二十数年間、住宅価格は急激な上昇を続けてきた。今の中年以降の中国人には、不動産は絶対に上がるものという信仰がある。

 日本でも1980年代後半のバブル最盛期の頃には、「土地を買っておきさえすれば絶対に儲かる」という人が大勢いた。最近の中国の状況はその時期の日本によく似ている。

③ この住宅価格高騰の発端は、1990年代の国有企業民営化でそれまで住んでいた公営住宅が個人に払い下げられたことにある。

 筆者は'00年代から仕事で頻繁に中国に出張するようになったが、取引先の人と話すと、以前は国有企業に勤めていたが、民営化で解雇されて起業したという人が多かった。苦労はしたのだろうが、その一方で、民営化のおかげで生まれて初めて自分自身の個人財産を手に入れた人もたくさんいたようだ。

 2010年代に話題になっていた「中国人による爆買い」の主人公は、この住宅価格の値上がりに伴う転売によって多くの利益を得た人たちなのだろう。勤務先からの給料だけで外国に行って爆買いできる人は、あんなには多くは無かったはずだ。

 今後、住宅価格の上昇が止まれば、今までの中国人の海外旅行熱も一気に醒めるだろう。コロナ収束後のかってのインバウンドの再現も期待薄となるわけで、日本経済にとっても他人ごとではなくなるのだが、その肝心の住宅価格の先行きがあやしくなって来ているというのが次の記事。

 

(2)「中国で「住宅格差」が深刻化、バブル再燃の上海と沈みゆく地方都市」

 この記事を書いた姫田さんも、最初の記事の筆者の中島さんも、かなり以前から主に中国で活動している女性の華人圏ウォッチャーである。お二人ともに中国の庶民レベルの人々との付き合いが長く、肌で感じた中国社会の変化を詳しく書いてくれる。とかく硬い内容になりがちな男性ウォッチャーのレポートに比べれば別の視点であり面白い。

 さて、この記事の要約は以下のようになる。

① 地方ではコロナ禍でローンが払えなくなって売りに出された住宅が急速に増えているが、上海や北京など大都市では住宅需要は高く、依然として値上がりが続いている。

② コロナ感染を避けて欧米などから帰国する留学生が急増中。彼らの多くは高度人材を優遇する上海などの大都市で就労・起業する。これが上海の住宅価格を押し上げる大きな要因となつている。

③ 上海とは対照的に、沿岸部の浙江省温州市では2011年の住宅バブル崩壊以来の人口流出が続く。他の地方都市も似たような状況となりつつある。

 温州の住宅バブル崩壊直前に当時の新聞報道を読んだ記憶がある。確か、温州市内の平均住宅価格が市民の平均年収の数十倍という異常な状況と書いてあったように思う。ローンの返済に収入の大半を吸い取られ、広い新居で貧困生活を送っている若夫婦の話が載っていた。

 筆者は上海には出張で何回か行ったが、2011年に訪れた時、地元の人から「上海で結婚するためには、男の側が日本円で三千万円程度は持っていなければならない」と聞いたことがある。この三千万円の大半は、要するに彼が所有し夫婦の新居となるはずの住宅の評価額に他ならない。

 現在の上海の住宅価格(現在の平均価格は1平方mあたり約3万元=約48万円)は十年前の約二倍になっているから、現在では六千万円程度の財産を持っていなければ結婚できないことになる。三十才前後の若者が自力で準備できるはずもなく、大半は両親や親戚が工面するのだろうが、それにしても何ともすさまじい話である。日本の若い男性諸君、「新婚後の住まいが賃貸アパートでもかまわないわ」と言ってくれる日本の女性たちを、もっと大事にするべきだと思うぞ。

 なお、上に挙げた上海の場合はかなり特殊なケースであり、他の地方では花婿に要求される条件はずっと低いらしい。ちなみに、中国人男性は日本人男性に比べてはるかに家事に協力的であり、料理が得意な男性も多い。特に上海人男性は女性に対して優しいとも聞く。中国人男性と結婚したい日本の女性は、まずは上海に行ってみるのがよいのではなかろうか。ただし、筆者の見立ては、あくまでも「中国住宅バブルの将来の崩壊は必然的」なので、その辺は自己責任で判断されたい。

 最近の中国の住宅価格の推移を見ると、都市人口(例えば上海市戸籍であっても、農村部に住んでいる市民はこの中には含まれない)が一千万人以上の上海、北京、深セン、広州の一線級都市では依然として上昇。上の記事が例として挙げた温州はやや特異な例であり、その他の都市人口一千万人以下の都市(各都市名については、上の(1)の①に紹介した「中国が「戸籍取得制限」を緩和・・・」の記事を参照されたい)は大体は横ばいで推移している。

 四つの一線級都市の都市人口を合わせても中国全人口の4.7%でしかないので、大都市だけを見て「中国の住宅価格は依然として上昇中」と判断するのは間違いのもとになる。中国全体としては、住宅価格は当面は横ばいというのが正しい見方ではないだろうか。

さて、この先はいったいどうなるのだろうか。次の記事は、住宅需要を支えるべき若年層が最近は就職に苦労しているという内容だ。

(3)「中国で就職難民「大量発生」…エリートを待ち受ける「苛酷すぎる下放政策」」
① 2019年時点での中国の大学進学率は53.8%、2021年の想定卒業者数は909万人で、日本の卒業者数の約15倍と推定。
 ちなみにここでの大学の定義は、四年制大学、大学院、短期大学の全てを含む。詳しくは「世界の大学進学率 国別ランキング・推移」のページの中の、「解説全文を表示する」をクリックされたい。

② 2020年大卒者の推定就職率は20%、卒業者中の約八割の就職浪人が職を求めている現状。これに、さらに2021年新規大卒者を加えれば1600万人以上の求職者が発生するが、今の状況のままでは大量の就職浪人(少なくとも1200万人)が発生する見込み。

③ 北京大学の研究者によれば、都市部の就業人口を5億人とみて、昨年6月の調査によれば、その20%の1億人が失業していると推定される。この現状では就職浪人1200万人の就職は非常に困難。

④ 大卒者の就職難に対する対策として中国政府は「新時代の上山下郷」政策の奨励を開始した。これは文化大革命時代の下放政策の再現版であり、知識人層を半強制的に辺境地区に送り込もうとするものだが、約50年前ならともかく、現代の大学生が政府の指示に素直に従うとは到底思えない。

 この記事からわかるのは、新規住宅購入を期待されている若年層の大半が、住宅購入資金を稼ぐどころか就職することすらままならないという現実である。近い将来、住宅需要が急減して中国全土で住宅価格の下落がはじまることは確実だろう。

 デジタル化の波は世界共通であり、特に中国はいち早くその波に乗って、既に日本よりもかなり先を行っていることは日々の報道でご存じの通りだ。事務・企画部門の生産性は急速に向上している。昔の日本でいうところの、ホワイトカラーに相当する部門の求人需要は細るばかりである。デジタル化で製造部門の生産性も著しく改善しており、作業者はもちろんのこと、能力のあまり高くない技術者層もリストラの対象となりつつあるのではないか。

 米中対立の影響もあって、中国の「世界の工場」としての地位が揺らぎ始めてはいるものの、中国国内の工場現場では優秀な作業者への需要はいまだに強いようだ。しかし、中国では、大卒者が工場現場の作業者や販売店の店頭に立つことは常識的にはありえない。

 かって大卒者が同世代の数%に過ぎなかったことや、儒教の二千年以上に及ぶ影響もあり、高い教育を受けた者は直接手を汚すような仕事はしないのが当たり前という社会的雰囲気がある(この辺の雰囲気は、同じく儒教圏であった韓国も同様)。彼らの両親も、将来、そのような職位につくことを期待して苦労しながら子息を大学にまで行かせたのである。このような親の期待と社会的価値観もあって、同世代の半分を超えるようになった大量の大卒者の行く先がなかなか見つからないようだ。

 思い出すのは、筆者が一番最初に中国の自社系列工場に出張した際、工場長(日本人)にまず注意されたのが、「工場内を歩いていてゴミを見つけても、絶対に拾ってはいけない」ということだった。理由は、「この工場ではゴミ掃除専門の担当者を雇っているので、その人の仕事を奪うことになる(これは安価な労働力が豊富にあった約二十年も前の話)。何よりも、周りの人間から、その程度の仕事をする人物かとお前が見下されることになる」とのことだった。

 当時、大手取引先の日本国内の工場で部下数千人を指揮する工場長が、自社の社内報に「自分は毎朝、工場内を回りながら煙草の吸殻などのゴミを拾っている」と自慢しながら書いていた記事も思い出す。この工場長氏、日本では称賛されるのだろうが、中国で同じことをやったら見下されることは確実だ。日中両国の仕事に対する価値観はこれほどまでに違うのである。

 たいていの日本人は、建前だけなのかもしれないが「本来、人はみな平等」と思っているようだ。中国人は「人には生まれつき能力差があってあたりまえ。その結果として待遇が著しく違うのも当然のこと」と思っている。昔は科挙という名の官吏選別試験で能力差を判定していた。現在は最終学歴で能力差を判断しているようにみえる。

 中国の大学には厳然とした序列があって、そのランキングは国が決めている。中国の都市も同じ省内の都市の序列を国が決めていて、車のナンバープレートを見ればどの町から来た車なのかがすぐわかる。とにかくどんな業界や団体でも、メンバーの序列がはっきりと眼に見える形で存在しているのが中国という実にシビアな世界なのである。逆に、公式の序列が存在しない場合には、序列をめぐっての争いがひっきりなしに起こり、混乱するばかりで仕事が前に進まないのだろうとも考えられる。この序列志向主義が消えない限りは、中国で欧米や日本並みの民主化が実現する日は永遠に来ないような気もする。

 本題に戻ろう。中国の経済成長率が低下し若者の失業率が増えることで中国の不動産バブルがはじける日もまじかに迫っているようだが、その打撃を受けるのは都市住民だけではなく地方政府(日本でいうところの自治体)も同様である。中国の地方政府の収入の約半分は土地使用権の売却によるものと言われている。既に開発した土地が売れなくて多額の負債を抱えている地方政府もかなり多い。地価が下落すればさらに打撃となる。

 次のサイトによれば、中国の地方政府を含む政府全体の負債は対GDP比で52.6%、世界92位とまだ健全なレベルである。政府を批判するメディアの存在がほとんど許されない国なので、この数字自体もマユツバものだが、世界一位の日本の238%を大きく下回るレベルには違いない。

「世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング」

 とはいえ、国内の景気維持のために、つくればつくるほど営業赤字を垂れ流すだけの高速鉄道網をさらに延伸することや、米国への対抗上、軍事費がさらに増大することもほぼ確実だ。生産を中国一国に頼ることへの警戒感が世界的に高まっているので、今後の外国からの投資も今までのように順調には伸びないだろう。

 今後、経済の不振でまともな職につけない市民、特に若者層の不満が高まり社会が不安定化しても、1989年の天安門事件のような抗議行動が直ちに再現されるとは思えない。都市部のいたるところに監視カメラ網がはりめぐらされ、どんなメールも全て検閲可能な社会では、政府非公認の団体の活動は基本的に不可能だろう。ただし、次のようなパターンでの抗議行動の広がりはあり得るのかもしれない。

 前任者の胡錦涛総書記の時代には、現在の習近平時代に比べれば、中国国内にはまだしも民主化への期待があった。報道の自由もある程度は許されていて、各地の反公害運動などの報道もネットや新聞で紹介されるようになってきていた。

 一例として2012年に発生した上海の少し北にある南通市での市民によるデモ(中国語では「群体制事件」)に関する記事を紹介しておこう。この記事自体は日本人によるものだが、当時中国にいた筆者も、この事件に関する現地のテレビ報道を見たような記憶がある。

「啓東デモから日本企業が学ぶべきこと」

 この事件は、南通市に工場を建設しようとした日本の王子製紙が、その処理した排水を目の前の長江ではなく、90kmも離れた黄海に面する啓徳市までパイプで輸送・排出しようとしたことに抗議して、多数の啓徳市民が啓徳市役所を占拠した内容であった。特に相手が日本企業だからというわけではなく、自分たちの生活基盤が侵害されることへの抗議から発生したものだが、当時はこのような環境汚染に反対するデモが中国各地で頻繁に起こっていた。

 自分の権益が侵された場合、中国人は相手が誰であろうと直ちに抗議しようとする。彼らの行動は、権威に対してはとりあえずは従順であろうとしがちな多くの日本人とは全く異なる。

 この当時は、2013年から習近平が最高指導者の地位につくことが既に確定していたが、当時中国で働いていた日本人の間には「習近平政権になればもっと民主化が進むのでは・・・」とのいくぶんの期待感があった。ところが、習近平時代になってからの民主化勢力への弾圧強化は既にご存じのとおりだ。あのように一見穏やかそうで表情を変えない、自身の本心を決して見せようとしないタイプの人物の本質を読み取るのは、本当に難しいものがある。

 個人や団体による散発的抗議を圧殺することは簡単だが、一つの都市住民の大半が抗議に立ち上がるとなると、地方政府も何らかの妥協をせざるを得なくなる。まして中国各地の都市で大多数の市民が参加するような自然発生的抗議活動が同時に発生した場合には、いかに強権的な中国共産党政府といえども対処するのは非常に困難だろう。市民の大部分が政府に対して強い不満を持つのは、自分たちの経済的生活が危機にさらされた時である。住宅価格の暴落、失業率の増加、物価の急騰、等々がその候補となる。

 中国人は理念では動かないが(冷静に見れば、我が国も含めて大半の国の国民も同様だが・・)、経済面では極めて積極的に行動しようとする。過去の中国の民主化運動が知識人の運動だけで終わり全て失敗してきたのは、民衆の抱える経済問題とのリンクがほとんどなかったからだろう。

 過去の高度経済成長の時代には、多少の不満があっても、自分が努力すればいつかは豊かになれるはずという希望があった。自分がいくら努力しても報われないと思うようになった段階からは、市民の不満の対象は社会のシステムに、最終的には政府へと向かう。歴史的には、外敵の侵略を除けば、歴代の中国王朝は農民反乱の激化によって滅亡していた。今の中国では、都市の中間層がそのカギを握っている。

 昨年11月のアリババの子会社上場計画への中国政府介入事件に見られるように、習近平政権は民営大企業すらも中国共産党体制の敵とみなしはじめた。アリババの分割国有化も話題にのぼるようになってはきたが、国有企業がイノベーションを担えるはずもない。技術的・システム的価値の創造は、権力を傘に威張り散らす役人や政治家のもとでは決して生まれない。そのことは、例えば、今の日本政府のコロナ対策のお粗末さを見ても明らかだろう。

 価値の創造は、自由かつ多様な議論と、互いの人格や身分の批判・評価までには絶対に踏み込まない、あくまで議論の主題のみに関しての相互批判とが保証された環境の中でしか生まれないのである。現在、習近平がアリババに対してやっていることは、自分で自分の首を絞めているに等しいと思う。これでは、中国経済の成長がさらに鈍化することは必至である。

 今後、中国経済の停滞が始まれば、中間層と企業経営者層の政府への不満が、火山噴火前のマグマ上昇の如く高まることも必至だろう。習近平体制の崩壊は意外に近いのかもしれない。中国の住宅価格の動向は、その時期を事前に検知するセンサーとして相当有効であるように思う。

/P太拝

日本のコロナ対策は実に非効率 

 先月の話になりますが、12/22付の日経新聞に下の記事が載っていました。(注:以下の全ての図と表は、それをクリックすると拡大します。)

 日本の今年度補正予算と来年度(2021年度)のコロナ対策費の合計(財政支出+金融支援)は昨年の9/11の時点で182兆円もの巨額で世界第二位、さらに昨年12月の時点で74兆円を追加で積み増すことを決定したとのこと。
 このニュースをパッと見ただけでは、「菅内閣はよくやっている」と思う人が多いのかもしれない。

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 しかし、各国の人口はマチマチです。このコロナ対策費を一人当たりに換算したらいったいどうなるのか。また、各国のGDPに対しては、さらに各国政府が抱えている負債に対しては、どの程度の割合になるのでしょうか。計算した結果を下の表に示します。

 なお、各国のGDPと人口、政府負債は以下のサイトからの引用。

 政府債務残高は、中央政府、地方政府、自治体、社会保障基金の合計です。また、ドル円換算には、2020/1~/11の平均値である1US$=¥107.04を使用しました。

世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF) – Global Note

世界の人口 国別ランキング・推移(国連) – Global Note

世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移 – Global Note

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 昨年9/11時点での日本の一人当たりコロナ対策費は絶対額ではドイツに次いで二番目、対GDP比でも同じくドイツに次いで二番目です。ただし、昨年12月に追加した74兆円も加えれば、ドイツを抜いて一位になることは確実です。

 巨額の対策費をつぎ込む点に関しては、日本はなかなか健闘しているようには見えますが、問題は、日本の政府負債が先進国中ではもちろんのこと、あのほぼ破綻国家状態のベネズエラさえも抜いてダントツで世界一であるということです。(上の引用サイト「世界の政府負債残高対GDP比 国別ランキング」を確認のこと。) 

 次のグラフは各国のコロナ対策費を対GDP比で比較したものです。

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 日本の政府負債に目盛りを合わせるとほかの国の値が差がほとんど無いように見えてしまうので、対GDP比の目盛りを120%に抑えてあります。もちろん人命は最優先すべきですが、世界一借金している政府が、コロナ対策だからと言ってこんなに大盤振る舞いしてもいいものでしょうか?日本のコロナ対策では、まずその有効性と効率性を最優先すべきであると思います。

 現時点でのコロナ対策の成果の指標として、各国のコロナによる死亡率を比較してみましょう。既に昨年12/9付の当ブログの記事で説明したように、この死亡率では東アジアと欧米諸国の間には大きな差があります。おそらく、免疫に関連する遺伝子の違い、類似した感染症への感染歴、BCG接種の有無等の要因が考えられるが、この差に関する明確な説明は現時点ではまだ現れていないようです。

 従って、比較対象国を東アジアとオセアニアだけに絞って、百万人当たりの累積死者数の比較を試みました。オセアニアの二カ国は欧米系の国民が多いものの、島国という地理的条件と感染初期の対応が迅速であったために感染の蔓延を食い止めることにほぼ成功しています。国民の大半が欧米系であっても、政府の対応が優秀であれば目覚ましい効果をあげることができるという実例にほかなりません。

 下のグラフが、今年の1/17時点での百万人当たりの累積死亡数の比較です。出所は、例によって、Coronavirus (COVID-19) Deaths - Statistics and Research - Our World in Data

 韓国とオーストラリア以外の国のコロナ対策費は不明ですが、感染を抑え込めている台湾、ベトナム、タイ、中国の一人当たりのコロナ対策費が日本の数分の一以下であることは確かでしょう。ニュージーランドのそれは、国の成立経過もGDPでも似通っている点から、オーストラリアと同レベルくらいになるのでしょう。 

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 現在、日本の百万人当たりの累積死者数は韓国の1.38倍。おそらく、今後一週間以内にオーストラリアの値を上回るのもことも確実でしょう。

 一方、コロナ対策費の対GDP比では、日本は韓国とオーストラリアのそれの約2.6倍も使う予定。他国よりも段違いに多くの税金を投入するとは言いながら、日本がいまだにコロナに対する有効な抑制策がとれていないことは明らかでしょう。

 誰も着けようとはしなかったアベノマスク、富める者や雇用が保証されている者までも対象とした一世帯当たり一律十万円のバラマキ、多額の税金を使っては感染者を全国にまき散らしただけのGOTO事業等々、この一年間、ピントが外れたコロナ対策のオンパレードが続いています。

 国のトップ、いわば国のアタマの部分が相当悪いのか。それともGOTO事業に見るようにこの騒動を利用して甘い汁を吸おうとする、いわゆる火事場泥棒を働くヤカラの勢力が強いのか。おそらく両方なのでしょう。

 当ブログで繰り返し主張してきたように、当初から検査数を増やして感染者の特定と隔離を進めていれば、これほどまでに感染者が増加し多くの人が亡くなることは無かったでしょう。上のグラフでいえば、台湾、ベトナム、タイほどまでには行かなくても、ニュージーランドと韓国の間あたりにまで抑えられたのではないでしょうか。

 上のグラフのオーストラリアの昨年夏の死亡者の急増にも注目してください。この時期は南半球では冬。冬になると感染者が急増することは半年以上も前から国内の専門家が既に指摘しており、この夏の南半球でのデータを見ても十分予想されることだったのに、日本政府はこの間、何の対策も打って来ませんでした。この半年間、スカ内閣は経済対策と称してもっぱらGOTO事業に入れ込むばかりで、検査体制と医療体制の充実についてはほとんど置き去りのままにしてきました。

 経済対策とは第一に感染予防と医療体制の充実であるべきです。感染予防と経済対策とは両立します。感染者数がもっと少なければ、わざわざ税金を使って国民に旅行を促す必要もない。国内の物流も通勤も、今ほどまでは抑制しなくても済むはず。

 現在の政府がこれまでやって来たコロナ対策を例えて言えば、眼の前で燃えている大火事の消火よりも、自分の後援者の家の焼跡の補償の方を優先しようとしている、実に愚劣極まりない自治体首長がやっていることと同じレベルなのです。

 参考までに、各国の2020年と2021年の経済予測も見ておきましょう。下の表はみずほ経済研究所が昨年12/10に公表した各国のGDP予測です。なお、ニュージーランドの予測値については、このサイトの中では触れられていませんでした。

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 コロナ死亡率が極めて低い台湾とベトナムは2020年もプラス成長を維持。死亡率が低いタイが大きくマイナスなのは、タイの主要産業が観光業(GDPの約20%)であるためでしょう。豪州は今年末には2019年時点にほぼ復帰、韓国も今年中には再びプラス成長路線に戻るとの予測。世界全体でも今年はプラス成長に復帰するとの予想です。

 日本は昨年の12/10の時点では、今年だけでは一昨年のGDPからの落ち込みに対して三分の一程度までしか回復しないとの予想でした。感染が拡大した現時点ではもっと悪化した予想となっているのでしょう。上の表の中では、今年年末までに昨年の落ち込み分を回復できそうにないのは日本とタイだけです。

 経済の維持・成長のためには、感染初期段階での感染抑制が必要であったことは上の表を見れば明らかです。今回のコロナ騒動に対する政府対応の拙劣さによって、日本経済の国際的な地位がさらに低下することも確実でしょう。「経済維持のためには、まずGOTO事業の実施が必要」などと強硬に主張してきた我が国の主要政治家の責任は極めて大きいものがあります。

 さて、日本のコロナ対策費=182+74=256億円は対GDP比で47%に相当します。この財源の大半は政府の借金である国債発行に頼るほかには財源はありません。今回のコロナ対策費を従来の政府債務に積み重ねることで、日本政府の負債が世界史上前例がない、GDP比300%に達する日も近づいてきたようです。

 三年ほど前に当ブログに書いた記事の中でも取り上げたが、日本の政府債務が前回のピークを迎えたのは1944年でした。ただしその時ですら、政府負債はGDPの二倍を超えませんでした。国は戦争遂行のために国民に国債を買わせては弾丸や船・飛行機をどんどんと作ったが、敗戦後にはその国債は全て紙くずと化してしまいました。

 現在の国債残高膨張の主要な原因は次の三点にあると思います。

① 「政治家のポピュリズム」  目先の選挙に勝つために、あらゆる種類の補助金や給付金を乱発。その一方で、有権者の反乱を恐れて増税案は先送りするばかり。

② 「政治家と国民の危機感・想像力の無さ」 過去の失敗の歴史には全く学ぼうとせず、今までの体制が今後もずっと続くはずと思い込んでいる。現実を直視する勇気がないから、単に「見たくないものは見ないことにした」だけのこと・・・。

③ 「無駄な公共工事の乱発」 大手ゼネコン等への利益供与による業界票の確保。地方の政治家が未だに新幹線路線網の拡大に熱心であることに見られるように、経済的効果が期待できない場合でも、税金を浪費してムダなインフラをさらに作り続けようとする。

 ③の具体例としては、東日本大震災の後、地元の意向を無視して国と県が巨大防潮堤の建設を推進した事業が挙げられます。特に自衛隊OBである宮城県知事が熱心だったとのこと。守るべき人は大半が村から去り、後には巨額の税金を投入した巨大な壁だけが残りました。儲けたのは工事業者だけだったとさ。

「「復興という名の災害だ」小さな町が直面する人口激減、孤独死」

 「波の音消えた「日本一美しい漁村」 壁が囲み人は去った」

 また、原発事故後の福島県浜通りでは、「・・・避難指定地区は、国と大企業によるロボットやドローン、トラクターの無人運転等の実験場と化してしまった」そうです。(一昨年の年末に参加した福島原発事故のミニ学習会で聞いた話。当ブログの当時の記事の第二部の所からの引用。)

 このように何か災害が発生すると、それを機会にさらに儲けようとするのが、時の政治と癒着している企業(特に大企業)がとる典型的な行動です。今回のコロナ騒動の前にも、東日本大震災後にはこれら火事場泥棒どもが大活躍していたようです。

 この国の空前の借金についてはまた改めて記事にしたいと思います。一年先か、数年先なのかは知らないが、コロナはいつかは収束する。しかし、今の政治の延長が続けば、日本政府の借金は収まるどころか、今後もさらに増え続けることは確実。

 最後に一つだけ確実に言えることは、日本が他の国と決定的に違うのは、元々、いつ大震災や火山噴火が起きるか判らない国であるということ。

 本来ならば、大災害に備えて財政的な余裕を日頃から十分に確保しておかなければならない国であるはずなのに、今の日本の政府は役に立たない政策を乱発してますます国の借金を増やし、さらに政策の選択肢を失って身動きが取れなくなるばかり。次の南海トラフ地震、首都圏直下地震、富士山大噴火、再度の原発事故(原発へのテロ攻撃も含む)等々のいずれかの大災害発生を契機として、「日本の第二の敗戦物語」が本格的に始まることも、まず間違いはないでしょう。

/P太拝

詩人「菅原克己」の紹介(3)

 冬の山陰は雨や雪の日が多く、どうしても家に閉じこもりがちになります。持っている本を読み返す時間も増えました。このブログで去年二回紹介した菅原克己の詩も何度か読み返しました。その中で特に好きな詩を追加分として紹介しておきたいと思います。

 学生の時に退学処分となった仲間を救おうとして逮捕・退学となり、社会への疑問から左翼活動に参加したことで再び逮捕。戦時中は空襲で家を焼かれ、戦前・戦後を通じてずっと生活苦に苦しんだ。

 こう書くと実に悲惨な人生を送った人のように思えますが、彼の書く詩には、なぜか、苦難の底を突き抜けたような明るさとユーモア、他者への思いやりがあります。

 今の時代を取り巻く状況も、彼が生きた時代とあまり変わっていないような気もします。たくさんの人に彼の詩を知って欲しいと思っています。

「菅原克己の簡単な年譜」(再引用)

「人形」

満州に行く妹が
かたみに人形をくれというので
おれはまた人形をつくりはじめた。
おれも他のきょうだいのように
お嫁入する妹に
何か買ってやりたいのだが、
おれにできることは土をこねるだけなのだ。

胡粉と緑と紅で華やかに彩ろう。
これは別離のときのカチューシャ。
吹雪の中の可哀想なマスロウ・カテリーナ。
ハルビンに行く妹よ。
雪橇(ゆきぞり)の音が聞こえるペチカのそば、
東京のきょうだいは、と話するお前の家で、
プラトウグをかぶったおれの贈物が
きっと手をふるよ。


「涙」

涙はひとりでにあなたの瞳を濡らした。
どうしてよいかわからないとき、
涙はうぶ毛の頬をつたわった。
十七の娘にはわからないことが多すぎて、
なぜ素直なことが素直にゆかないか、
正直に言ったことがいろんな問題をひきおこすか、
それを抗議するように
涙はひとりでに流れた。

苦しいことを苦しいと
口に出して言えない言葉は
すぐ涙となってながれた。
口もとは笑い、
何かひとりごとのようにはなしながら、
涙は敏感に心の苦痛をうけて
光りながらあなたの頬をつたわった。

ああ、大人になりかけて
いろんな世の中の出来ごとが一時にあふれ、
やわらかい芽が雨にぬれるように
涙はあなたの蒼みがかった瞳を濡らす。


「自分の家」

もう帰ろうといえば、
もう帰りましょうという。
ここは僕らの家の焼けあと。
きのうまでのあの将棋駒のような家は
急にどこかに行ってしまって、
今朝はもうなにもない、なにもない、
ただ透き通るような可愛らしい炎が
午前四時のくらい地面いちめんに
チロチロ光りながら這いまわっているばかり。

ゆうべ水と火の粉をくぐったオーバーの、
汚れた肩先をぼんやり払って、
もう帰ろうとまたいえば
もう帰りましょう、と
お前は煤けた頬で哀れに復唱する。

光子よ、帰ろうといってもここは僕らの家。
いったいここからどこへ帰るのだ。
自分の家から帰るというのは
いったい、どういう家だ。


「ブラザー軒」

東一番丁。ブラザー軒。
硝子簾(がらすのれん)がキラキラ波うち、
あたり一面氷を噛む音。

死んだ親父が入って来る。
死んだ妹をつれて
氷水(こおりすい)喰べに、僕のわきへ。

色あせたメリンスの着物。
おできいっぱいつけた妹。
ミルクセーキの音に、びっくりしながら
細い脛(すね)だして 椅子にずり上がる。

外は濃紺色のたなばたの夜。
肥ったおやじは 小さい妹をながめ、
満足げに氷を噛み、ひげを拭く。

妹は匙ですくう 白い氷のかけら。
僕も噛む。白い氷のかけら。

ふたりには声がない。
ふたりには僕が見えない。
おやじはひげを拭く。妹は氷をこぼす。

暖簾はキラキラ、
風鈴の音、
あたりいちめん氷を噛む音。

死者ふたり、つれだって帰る、
僕の前を。
小さい妹がさきに立ち、おやじはゆったりと。

東一番丁、ブラザー軒。
たなばたの夜。
キラキラ波うつ 硝子簾の向こうの闇に。

 ・参考: この詩は、「酔っぱらいフォーク歌手」として知られていた故高田渡さんが曲をつけて歌ったことで、よく知られるようになりました。私の場合、どちらかというと、高田さんのよりも次のハンバートハンバート版の方が好きです。

「ブラザー軒 ハンバートハンバート」

 

ウルトラマン

こどもには未来しかないが、
ぼくときたら
もう過去しかないのである。
おとなりの三つの子は
黒すぐりのような目を見張って
ぼくを見上げるが、
それはぼくではなく
過去という怪獣で、
こどもはカイジュウが好きである。

朝、わが家のドアをノックし、
風が吹きこむように
いたずらのかぎりをつくし、
ウルトラマン!と叫んで、
苦もなくカイジュウを敗かすが、
ウルトラマンは、この間
おしめパンツをはずしたばかりなので、
それを云われると
どうにも
恰好がつかないのである。


「一つの机」

部屋のまんなかに
大きな机がある。
ぼくの書きもの机だが
ぼくがいない時には
かみさんの専用机にもなる。
彼女はここで
とうもろこしをむき、
じゃが薯を切る。
昨夜は若い来客があり、
みんなで賑やかにズブロッカを飲んだ。

今夜はもうすこしたつと
かみさんと
食事の場になるだろう。
ふしぎだ、
ここ三十年ほどちっとも変わらない。
ぼくはさっきまで書きものをし、
かみさんは台所で
静かな水音をたてる。
そして貧乏ぐらしは特権のように
一つの机のうえで
そのまま堂々と
明日に移っていく。

亡くなった先輩詩人たちにとっては
こんなことはごくふつうのことなのだ、
といえば、かみさんは食器をならべながら
笑って何も答えない。
机のすみに裏で摘んできた
野バラの花がチラチラ咲いている。

 /P太拝

コロナ、GoTo、菅総理(4)-スガーリン体制は早急に打倒すべき-

 菅総理については、コロナ関連ではもう書かないつもりでしたが、スカ内閣のコロナ対策の迷走の根本原因はやはり彼個人の特性に帰すべき点が極めて多いと思うので、今回あらためて取り上げておきましょう。

 (5)菅義偉という政治家の特徴

 昨日の18h過ぎにこのブログを書き始めたのだが、その時点では、菅総理による記者会見がネットで中継され、一都三県に対する「緊急事態宣言」が発表されていた。総理曰く、「何としても感染拡大を食い止める、1か月後には必ず事態を改善させる」とのこと。

 具体的な中身は何もないくせに、言葉だけは勇ましい。対応策は例によって国民の自発的な自粛への期待が主である。「よくもまあ、何の根拠もないのに、こんな楽観的なことをよく言うよ」と思う。

 約80年前の日本は、客観的な詳しいデータも集めないままに、たとえ集めても悲観的な結論は故意に無視したままに、ただひたすら希望的楽観論だけを振り回してあの泥沼の戦争へとはまり込んでいったのだが、何だかその時代からひとつも進歩していないような気がする。今回のこの対コロナ戦争における、決断を先送りしての小出し戦力の逐次投入による相次ぐ惨敗という現象も、約80年前と全く同じパターンなのである。

 なぜ、こんなにも、スカ内閣の政策は貧困、かつ文字づらだけの空疎で抽象的な内容に終始しているのだろうかか。よくよく考えるに、これはやはり菅総理自身が過去構築してきた官僚統制体制に根本的な原因があるのだろう。「独裁化し異論を封殺すること」は、イコール「没落への近道」なのである。

 菅氏自身が官房長官時代の2014年に発足させたこの「内閣人事局=スガーリン体制」下で、霞が関の官僚諸氏は菅氏の言うことに反対すれば即刻左遷という実例を嫌と言うほど目にしてきた。結果、「モノ言えば唇寒し」とばかりに、上から言われたことには直ちに従って持論を封印する「何でもイエスマン」と化した。その典型例が、モリトモ問題で国会で百回以上もウソをついても現在までは罪に問われることも無く、減額されたとは言え無事に約五千万円の退職金(=国民の税金)を手にできた佐川宣寿元国税庁長官なのだろう。

 現在、各省庁の上層幹部は、ひたすら自分の退職金の計算をしながら、定年退職の日が早く来るのを待ち望んでいるだけの無為な日々を送っているのだろう。このような「官畜」と化した上司に愛想をつかした若手の職員は、優秀で気骨のある人間から先にどんどんと民間企業へと逃げ出していった。後に残ったのは、民間でやっていくだけの自信も無く、既存のレールにしがみつくほかには選択肢も無い、時の体制にしたがって風見鶏よろしく向きをコロコロと変えるだけの「体制順応派」の職員ばかりなのではなかろうか。

 当然、今の霞が関の役人には、コロナ対策での画期的な政策の提案などは到底期待できない。それどころか、時の政権に不利なデータすらも上に挙げようとはしないだろう。挙げれば即刻左遷される。その結果、総理が発表する政策は、具体的な数字の裏付けを欠いた抽象的かつ空疎な美辞麗句の寄せ集めと化してしまっているのである。我々がいま眼にしているのは、過去に自ら仕掛けた行き過ぎた官僚統制によって、結果的に自分自身の首を絞めて政治家生命を終えつつある、愚かな一人の政治家の姿なのだろう。

 では、なぜ菅総理はこれほどまでに、客観的な事実を無視してまで独善的な持論に固執し続けようとするのか。それは、菅義偉という人物の政治家人生を詳しく見ていけば、直ちに了解されることなのである。

 最初に、元衆院議員の井戸氏による次の記事を参照していただきたい。

「菅政権の「残念すぎる現実」がいよいよ見えてきた…!」

 この記事の主題は菅内閣のデジタル化推進の一環としての婚姻離婚届けに関する話であり、手続き簡素化の以前に世帯主概念など婚姻の社会的意味を問うべきというものだが、四ページ目以降に30年前に井戸氏が菅義偉氏に直接面会した時の話が出て来る。

 当時の菅氏は故小此木彦三郎元通産大臣の秘書を務めながら横浜市会議員として活動していたはずだが、井戸氏が菅事務所を訪問したところ、通された部屋の壁には一面に無数のポストイットが張り付けられていたそうだ。

「・・・菅氏は話が終わるとポストイットをとって、ゴミ箱に捨てて部屋を先に出た。ゴミ箱はポストイットの山。今日だけで何人、一生涯にどれほどのポストイットを使うのか、一体何万件の陳情を裁くのかと思いながら、事務所を後にした。・・・」

 この部分を読んで思ったのは、菅氏は大量の陳情を処理することで着々とその地位を固めてきたのだろうということだ。陳情の優先順は相手から引き出せるカネや票数の多寡で決めているのだろう。それらとの交換で国民や横浜市民から集めた税金の優先的割り振り先を決めていく。まことに判りやすい作業だ。

 仮に、カネも無く大量集票も期待できない社会的弱者が菅事務所を訪れても、即刻門前払いをくらうだけであっただろうことは想像に難くない。そんな連中に関わって時間を無駄にしていたら、大臣にも、まして一国の総理大臣にも到底なれない。

 この日常活動の姿から判るように、菅氏は、国民に対して自らの政策を訴えて支持を得るタイプの政治家では断じてない。もっぱら人目につかない楽屋裏で、決して公にはできないたぐいの取引を約50年近くも山ほど行うことで支持基盤を拡大してきた政治家なのである。70才を過ぎて総理になった彼が、国民に直接訴えかける言葉を持っていないと批判されるのも、その経歴を見れば当然のことなのである。

 彼を支持している人々は、彼からの自分への直接の利益を得ることを期待して集まっているのであって、彼の政策や方針に期待しているわけではない。そもそも、彼には主張したい政策など元々ないのだろう。あるのは自分の勢力をより大きくし維持し続けたいという欲望だけなのである。

 持論の政策などは元からないのだから、確実な票を持っている相手でさえあれば、その主張には関係なく誰とでも手を組める。公明党や維新の会との間に築いた豊富な人脈がその証拠である。何とも空虚な人物と言うほかはない。

 10月に上の記事を読んでからは、筆者は菅内閣に対する関心を早々に失った。持論を持たず、カネと集票能力に引かれて誰とでも組むような人物には、この難題山積の日本をより良い方向に導くことなど到底出来るはずもないからである。

 「スガーリン体制」をさらに強化し官僚を飼い殺しにして、その能力発揮の場を封じる一方で、国民が期待する医療体制への支援・充実よりも、自分の支持基盤である観光業やJRのために巨額の税金を投入することを最優先。コロナ対策の看板を掲げてはいるが、その実態はドサクサに紛れての火事場泥棒に過ぎない。

 おまけに自身には科学的・論理的思考力が欠けているのに、専門家の意見を聞くことよりも自分のタニマチ(後援者)にみつぐほうを優先したものだから、政府のコロナ対策が支離滅裂な結果となってしまったのは現状に見る通りである。最初に医療関係や検査体制への投資を十分に行い感染拡大の芽を早期に摘み取っていたならば、彼のタニマチ連中のフトコロもこれほどまでは痛まなかっただろう。今の日本の苦境とは、歴史観・大局観を欠いた人物を国のトップに据えてしまい、その人物が自分の目先の利害にとらわれて右往左往した結果に過ぎないのである。

 参考までに彼のタニマチ連中に関する情報を以下にまとめておこう。

「菅首相を操る面々 ぐるなび・楽天との関係と「Go To」」
「・・・菅が秘書として仕えた小此木は横浜市議から国政に転じ、運輸政務次官衆議院運輸委員長などを歴任し、中曽根康弘の腹心として行政改革国鉄分割民営化に取り組んだ。国鉄長期債務特別委員長を務め、安倍晋太郎派の三塚博加藤六月らとともに「国鉄三羽烏」の異名ととった中曽根派の大物運輸族議員である。・・・」

 JRとの密着、さらにはその関係を通じて懇意となった「ぐるなび」や「楽天」を特に支援したいがために、菅氏がGoTo事業にことさらに力を入れたことは明白だろう。(筆者は楽天イーグルスの永年のファンであったが、もうファンであることも、楽天サイトを通じての物品購入も全部やめることに決めた。)

 JRとのズブズブの関係は、下の記事を見ても判る。
「菅義偉首相の実弟が自己破産後、JR企業の役員に就任していた」

 地元の横浜市内では、暴力団がらみの話として、本来は転売禁止の県有地を外国籍の後援者が取得することに尽力した疑惑が浮上している。「菅首相後援者の神奈川県有地転売疑惑 反社会勢力も関与か」

 大手ネット証券やマスコミとの密着ぶりも指摘されている。菅氏が地方銀行の再編に熱心なのは、SBI証券会長の北尾氏からの入れ知恵によるものだろう。「「菅総理」を抱き込む怪しい「政商」の正体 特捜部のターゲットになったことも」

 次は観光・カジノがらみの話。筆者は以前、ここに出て来るアトキンソン氏の著書を読んで「日本企業の生産性をあげるためには中小零細企業の統合が必要」との主張に共感して当ブログに紹介したことがある。

 その時は、民間が自主的に判断してその方向に進めばよいと単純に思っていたのだが、本人が以前から菅氏とつながりがあり、現内閣のブレーンになって上から政策を進める立場になるとは全く予想だにしていなかった。強制的に中小零細をつぶして淘汰させる政策が実行に移される恐れが出てきた。
「菅首相を動かす観光立国政策の指南役D・アトキンソン氏とは」

 叩けばいくらでもホコリが出てきそうな菅氏である。上に紹介はしなかったが、横浜のホテルで数千人を集めて開いた菅後援会の参加費用が異常に安かったとの話もある。退任後の菅氏については、なにやら安倍晋三氏の「桜を見る会」の展開の再演となりそうな気配でもある。

 さて、早くも、菅内閣終了後の次の首相候補がマスコミの話題にあがるような情勢となって来ている。あまり期待できる候補もいそうにないが、少なくともタニマチにシッポを振り続けるだけの人物よりはましだろう。

 誰がなるにせよ、「スガーリン体制の打倒」=「内閣人事局の廃止」だけは真っ先にやってもらいたい。せっかく採用した優秀な国家公務員に十分な活躍もさせずに飼い殺しにしておいて、欲まみれの人物が自分の権力維持のために税金を好き勝手に使う現状は国家的な犯罪に他ならない。国家公務員の人事については、内閣や省庁から独立した第三者機関を設立して、その判断にゆだねるべきだろう。

/P太拝