「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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日本の風力発電の未来(2)-最近の円安(続き)-

先回の記事を書いた時に最近の円安について取り上げましたが、その原因についてもう少し深く掘り下げたいと思い、引き続き調べていました。その結果がある程度見えてきたので、予定を変更して再び円安について取り上げてみたいと思います。

 

(3)最近の円安の根本原因は金利

先回の記事では円と海外通貨との間の為替変動の原因は、

①海外との金利

②経常収支、特に貿易収支

③金融投資筋の動向

にあると述べた。

引き続き調査した結果、やはり今回の円安に関しては①が支配的であるという結論となった。

以下に示すのは、日本を含む世界主要国の通貨の今年に入ってからの対ドルの変動率、各国の金利差、貿易収支である。

 

図-1 2022/1~2022/10の間の各国通貨為替の対ドル変化率

(図はクリックで拡大、以下同様)

為替 - 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)USD VND 過去データ - Investing.com より

 

 この値は各国通貨の月平均であり、今年1月の対ドル価値を100としてそこからの変化をしめすものである。参考のために2019年以降の1月時点の値も左側に示している。

ブラジルとメキシコとを除き、各国の通貨は年初からその価値が軒並み下落しており、特にトルコと日本とが目立つ。ちなみにドル/円の1月の月平均は¥114.85、10月は¥147.01である。

 トルコと言えば、今のエルドアン大統領が全くの経済オンチであり、「インフレ抑制のために金利を下げる」という経済の常識とは真逆な政策を取るために、物価高が制御不能状態になっていることは広く知られている。

筆者は、以前から「トルコ国民があの異常な物価高にも関わらず暴動を起こさないのは不思議」、「なぜ大統領を追い出さないのだろう」と思ってみていたのだが、日本も既にトルコ並みになっているとは、このグラフを作ってみるまでは全く認識していなかった。

このような通貨価値下落に伴うインフレへの対策としては、トルコ以外の各国では金利を上げて対抗するのが常識となっている。下に各国の今年年初からの政策金利の推移を示す。

なお、ここで政策金利とは各国の中央銀行が金融政策の一環として公的に定めている金利のことであり、銀行間の貸し借りに関する金利と定めていることが大半のようである。

日本の政策金利は2016年1月から-0.1%に固定されたままとなっている。日本国債の十年物の金利上限の0.25%が政策金利と見なされることが多いが、これはあくまで長期金利の誘導目標とのこと。各国間の比較には-0.1%を用いるべきだろう。

 

図-2 2022年の各国の政策金利の推移

同じデータを使って、各国の年初からの金利上昇の比較を下の表に数字としても挙げておこう。

表-1 2022年の年初からの各国政策金利の上昇分

主要各国の政策金利の推移をグラフでチェック!|IMM通貨先物ポジション/経済指標・政策金利 - ザイFX! (diamond.jp)

世界の政策金利 2022 ― Worldwide Policy Interest Rates 2022 (180.co.jp) より

 

日本と中国の利率がほぼ一定であり、トルコが利下げしている以外は、大半の国がインフレへの対抗策として既に利上げを実施済である。

次に各国の政策金利と通貨の下落率の相関を見ていこう。今年の1月を100とした場合の今年9月時点の対ドル通貨下落率と、この間の政策金利の平均値との関係をグラフ化して下に示す。横軸の「平均政策金利」としては、絶対値ではなく米国の平均政策金利との金利差を採用した。

 

図-3 通貨下落率と政策金利の相関

結果は一目瞭然で、基準通貨を持つ米国と異常な金融政策に固執するトルコとを除けば、通貨下落率と金利差の間には強い相関関係がある。その関係の最下端に位置しているのが我が日本国ということになる。

もう少し詳しく見ていくと、ブラジル、メキシコ、豪州、インドネシアのように天然資源に恵まれている国は通貨の下落率が小さく、むしろ米ドルよりも強くなっている場合もある。資源輸入国である韓国、英国、日本は通貨下落率が大きいが、同じ資源輸入国であっても輸出産業が好調な台湾やベトナムではそれほどでもない。

なお、新型コロナとウクライナ戦争が勃発する以前の2019年についても同様なグラフを作ってみたが、図-3のような強い相関は認められなかった。

平穏な時期の通貨変動では、金利や貿易収支よりも金融関係者の投機の方が支配的となるようだ。今年のように世界的に大きな変化があった場合には、各国通貨の価値は基本的な要因である金利と貿易収支に立ち返って決定されるのではないだろうか。

 

ついでに政策金利と貿易収支の関係についても見ておこう。下の図に各国の2021年における国民一人当たりの貿易収支と、2021年の各国の平均政策金利との関係を示した。平均政策金利については、ブラジルとアジア諸国(日本、中国、台湾を除く)では年間を通じての平均値が入手できなかったので、2021年末の値で代用した。

2021年の一人当りGDPが12000米ドル未満の国を途上国、それ以上の国を先進国とした。厳密には中国は「中進国」なのだろうが、既に12000ドルを超えているのでこの場では先進国とみなした。

図-4 各国の政策金利と貿易収支の関係

世界の貿易収支ランキング - 世界経済のネタ帳 (ecodb.net)

国・地域別に見る | ジェトロ (jetro.go.jp)

図中の青い線は途上国に限定しての近似線である。貿易が赤字の国になるほど金利が急に上がる傾向が鮮明だが、これは自国通貨の防衛のために金利を高くせざるを得ないという事情があるためだろう。タイは例外的に自動車などの輸出産業が盛んなために、金利を低くして国内投資を活発化させようとする傾向が見られる。仮にコロナ禍の渦中でなかったならば、タイやベトナムの貿易収支はもっと増えていたことだろう。

先進国では貿易以外にも金融や他国への投資など収益を得る手段が色々とあるので、米国や英国のように大幅な貿易赤字でも低金利でやっていける。ただし英国についてはEU離脱で欧州の金融の中心から外れたこともあり、今後は経済的には苦境に立たされることになる可能性が高い。

台湾と豪州は大幅な貿易黒字となっている。これは当然の結果なのだが、半導体、または鉱物・農産物が強い競争力を発揮しているためである。

 

さて、上の図-3に戻ろう。この図に見るように、日本の貿易収支が早急に黒字に転換するとは思えない現状では、日本が元の円高水準に手っ取り早くもどるためには政策金利を上げるしかない。しかし、前回に書いたように政治的な事情によって日銀では金利引き上げは禁句となっているように見える。この辺をもう少し定量的に見てみたい。

 

前回にも示したが、今年度の政府当初予算の中身をもう一度眺めてみよう。

図-5 2022年度の日本政府の当初予算

財政に関する資料 : 財務省 (mof.go.jp) より

 

歳入のうち新規発行国債は36.9兆円、歳出のうち過去発行した国債の返却分が16.1兆円、利息支払い分が8.3兆円である。36.9-16.1=20.8兆円が今年度に新たに積みあげられる国の借金となる。

利息支払い分の推移についてはどうだろうか。同じサイトに次の図がある。

 

図-6 日本の普通国債残高とその利払い費・金利の推移

今年度の令和4年度に利払い費が急増しているのは、2020年からのコロナ対策のための国債残高急増を受けてのことだろう。「安倍+黒田」によるアベノミクスの効果によって赤い線で示す金利は現在0.8%まで下がっているが、円安対策で金利を数%に引き上げたら何年かあとから先は利払い費が急増することになる。過去の国債元金の返済どころではなくなり、日本政府は破産しかねない。

現在のような緊急事態に対して利上げもできず、アメリカの金利が低下するのを待つ以外には政府も日銀もなすすべがない。住民の健康被害や環境・景観悪化のおそれがある風力発電への投資が停滞するのは朗報だが、その一方で、我々国民は物価高にあえぎつづけることになる。「アベノミクスには出口は無い」と従来から予言されてきたことが、今現実になっているのである。

 

突飛な話になるが、筆者は図-3や図-6を見ているうちに、特に日本に固有の現象とされている「引きこもり」を連想してしまった。返す当てのない国の借金を続けては自分たちの支持層へのバラマキを続けている政治家と、自分の椅子を守るためだけの「事なかれ主義」に徹している官僚群とが、いつまでも働く気力が持てず世間に出て行けない息子や娘に対して自分たちが老齢になってもいつまでも給餌し続けている哀れな両親に重なって見えるのである。

政府や日銀からの優遇策や補助金に甘えるばかりで自己変革できず、いつまでも生産性を上げられないでいる企業群(各自治体の役所やその関連団体も含む)を「引きこもり企業」と呼ぶことにしたい。どういう業界にこのタイプの企業が多いのかという点については、あえて言うまでもないだろう。

これら企業群と、親に甘えて自室に閉じこもりゲームやアニメなどの二次元世界に耽溺して日々を無為に過ごしている息子や娘の間にも共通点がある。いずれも「自分はこんなことでいいのか」との不安に日々駆られながらも、自己の将来に直結する重要な決断を先送りするばかりなのである。

日本が母性原理社会であることについては、この夏の当ブログの一連のハノイ訪問記の最後の記事ですでに触れた。日本社会の著しい特徴は父性原理の不在にあるといってよいだろう。

本来、父親は甘える子供に対して社会の規範を教えるべき立場にあるのだが、日本の父親はその役目と責任とを放棄して、職場なり趣味なり自分の心地よい場所の中に逃げ込んで出てこなくなる傾向が強い。家庭における父親と規範の不在と、国・政府におけるリーダーと規範の不在とがダブって見える。いずれにおいても「自分個人で責任を引き受けることを極力避けようとする、とにかく集団の後ろに隠れたがる」のである。

日本では他の都市の大学に入学した子供に親が仕送りするのは当たり前なのだが、米国では子供は高校卒業と同時に独り立ちするのが一般的とされているようだ。米国の大学生の大半は自らローンを契約した奨学金で大学生活を送り、卒業後には自分の稼ぎで全てを返済する。日本の大学で学生が勉強しないのは、親が子に甘いことにその根本原因がある。

これからは日本の親も米国の親のマネをするようになれば、「引きこもり」は確実に減ることだろう。日本政府も借金までしてのバラマキを止めれば、「引きこもり企業」は自分の努力で生き延びるしかなくなる。長いこと停滞していた日本経済も再び成長を開始できるのかもしれない。

ただし、「いったん楽な椅子に座ってしまえば、自分のシリに火がつかない限りは絶対に動こうとしない」のが過去の歴史から見た我々日本人の特徴でもある。今よりもさらに状況が深刻化しない限り、日本政府は今の状況を放置し続けるだろう。

次回は当初予定していた「日本の風力発電の未来」の話に戻ります。

/P太拝