「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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日本の風力発電の未来(1)-鳥取市内の風力発電計画、風力発電のコスト、最近の円安-

先週初めからこの十日ほどの間に筆者が一番注目したのは、何と言っても中国共産党大会における習近平の独裁体制の確立であった。

周りをイエスマンだらけで固めてしまった彼を停めるものはもはや誰もいない。習が念願とする台湾侵攻も、従来の2027年頃との米国の予想よりも早く始まる可能性が高くなった。

平氏による下の記事にみるように、今回の人事によって戦争のための党内体制もすでに整えた。中国に関係している日本企業は、「台湾有事」への対策を早急に検討し、非常時に備えておくべきだろう。

「これは対台湾「戦時体制」だ-習近平3期目政治局の異例人事の意味」


仮に台湾有事が起こらなくても、中国経済の今後の没落は避けられない。かってのナチスドイツと同様に「中華優越」妄想に囚われた習近平とは対照的に、今回引退が決まった李克強は経済に精通したリアリストである。彼には、もはや大波の襲来を避けられなくなった中国経済の行く末がはっきりと見えているのかもしれない。中国の不動産バブルの崩壊、金融の混乱、消費低迷、外資撤退、失業増加はこれからが本番だろう。

習に退陣を迫られたというよりも、李は単に「習と一緒の泥船には乗りたくなかった」だけのようにも思えるのである。後で振り返ってみれば、2022年のこの大会こそが「中国の終わりの始まり」となった可能性は高いだろう。

さて、久しぶりですが、今回は風力発電について再び取り上げてみたいと思います。

 

(1)青谷・気高の風力発電所計画は手続き中断へ

約一か月前の九月末、鳥取市内の青谷町と気高町にまたがる山地に設置を計画していた「(仮称)青谷町風力発電事業」の計画中断が発表された。この発表は事業者である福岡市の「自然電力」によるもの。

新聞やテレビの報道によると、中断の理由を「最近の円安や資材の高騰により、初期設備投資額が計画を大きく上回ったため」としている。ただし、申請手続きは中断するものの当初の2027年運転開始予定には変更がないとのこと。中断の理由となった風力発電設備の最近の価格高騰については次の節で詳しく見ていきたい。

当ブログでは、昨年末から今年初めにかけての二回の記事で、この計画の風車(最大3000kW程度)の建設位置が近隣集落にあまりにも近接しており、健康被害が発生する可能性が極めて高いこと、また鳥取市内の有力な観光地である鹿野・浜村温泉の景観を損ねる恐れが高いことを指摘した。今回計画の中断が発表されたことは、当地域の未来のためにまことに喜ばしい。願わくば、この計画はこのままオクラ入りになって欲しいものである。

鳥取市内ではもう一カ所、市南部の中山間地域に「(仮称)鳥取風力発電事業」が現在計画段階にある。当初の計画によれば、国内に設置例がない4500kWという国内の地上では最大級の風車を最大32基設置する予定とのこと。

今年の夏に設置予定地区内の方から聞いた話では、現時点では風車設置に前向きなのは岩坪だけになったとのこと。ここの出身の現職の市会議員が誘致に熱心らしい。岩坪を除く神戸地区、さらに明治、東郷、河原町西郷地区はいずれも風車設置には反対だそうだ。岩坪でも「なるべく岩坪集落から離して風車を建てろ」と事業者に言っているとのこと。離した分だけ他の地区には迷惑になる訳で、ずいぶんと勝手な主張だというほかはない。

こちらの計画の事業者はシンガポールに拠点を置く外資系であり、風車機材の大半が「青谷風力」と同様に欧米からの輸入となるはずだ。最近の円安が今後も続けば、日本国内で発電した電力を日本の電力会社に日本円で売っても、米ドル換算して得られる売上高は当初計画よりも大幅に下がることになる。

欧州から風車その他の設備を買った場合、日本に設置するよりも対ドル比での通貨下落が小さい国に、例えばベトナムに設置した方がドル換算での収益が大きいことは子供でも判る話だ。この計画も実質的に凍結状態になっている可能性は高い。

仮に今後、電力会社が従来の方針を変更し、風力発電からの電力調達価格を現在よりも引き上げることが可能になれば、これら市内二か所の風力発電事業が再び軌道に乗るのかもしれない。

しかし、既に2020年時点で太陽光発電のコストは風力発電のそれよりも大幅に安くなっている。現状よりも高くなった風力発電の電気を中国電力があえて買う可能性は少ないだろう。ただし、今後、他の要素の変化もあり得るので、これらの事業が帳消しになったとまでは断言できない。まだまだ油断は禁物である。

この鳥取市南部での計画については、昨年の当ブログの六回に及ぶシリーズ記事でその問題点を指摘済である。

防災面では、この計画地域の大半が雨で崩壊しやすい真砂土地帯であり、山地の稜線に作業道を設置すれば豪雨のたびに土砂が流出し、今でさえ氾濫の危険性が高い野坂川等の氾濫危険性がさらに高まること。

過去の全国各地の風車による健康被害例を調べてみると、その原因は風車から発生する超低周波音が近隣住民の住居の共振周波数に近いために発生する住宅全体の共振である可能性が高いこと。さらに過去の健康被害は1000~2000kWの風車でも発生しており、今回計画されている4500kW風車では、「1km以上離れていれば安心」とは到底言えないこと、等々を指摘した。

なお、現時点では「風車による騒音被害」という言葉が独り歩きしているが、過去の健康被害の内容を調べた結果から見れば、正しくは「風車による振動被害」と表現するべきであろう。

人間の耳では20Hz以下の音波は聞こえないとされており、国内では20Hz以下の超低周波音は騒音に関する環境基準の対象外となっている。しかし、風車から発生する音波の中で最も振幅が大きいのは、風車の羽根が支柱の前を通過する際に発生する周波数が数Hzの音波であると推測される。

この超低周波の音波、言い換えれば空気振動の周波数が、住宅の各部分が持つ固有振動数と一致した場合、その部分の振動が時間と共に増大するという、いわゆる共振現象を起こす。風車による健康被害者の多くが、自宅内に居る時のめまい・ふらつきなどの車酔い・船酔いに似た症状や、不眠などの睡眠不足を訴えているのはこの振動が主な原因と推測される。

今まで、風車による健康被害者が裁判所に風車の運転差止訴えてもほとんど無視されてきたのは、訴状の中で「騒音被害」という言葉を使ってきたからだろう。こんな言葉を使ってしまったら、事業者からは「騒音計を使ってお宅の近くで騒音を測定してみましたが、環境基準の〇〇デシベル以下だったので法律的には問題ありません」と言われて門前払いになるのがオチなのである。

人間は言葉無くしては自分の思考を進められない。いったん「騒音」という言葉を使ってしまえば、検察も裁判官も「では、現行の騒音基準はいくらなのか」という思考の流れの中に囚われてしまう。

この状況を打開するためには、「騒音」ではなく「振動」を問題にするべきである。住民が被害を受けている居住家屋の振動そのものを直接測定する必要がある。振動の具体的な大きさの値を把握し、その値が人間の健康に与える影響をストレートに追求していけば、風車による過去の健康被害者、さらには今後発生するであろう健康被害者を救済していく道が開けると思う。


(2)風力発電のコスト上昇について

 現在、日本のメーカーは風車本体と風車用発電機の市場からは既にほぼ撤退してしまっている。2021年のこの分野での企業別シェアを下に示す。

図-1(図はクリックで拡大、以下同様)


「風力発電機・風車・ウィンドタービンの市場シェア」より

10位までを合計した国別シェアでは、中国 25.3%、ドイツ 11.4%、デンマーク 10.2%、米国 7.8%となり、中国が他を圧倒している。ただし、中国から日本への輸入は小型の廉価品に限られており、数千kW級の風力発電所の本体はその全てが欧米からの輸入となっているようだ。

海外大手メーカーは風車の建設も自社で受け持っていることが多い。日本企業の担当部分は、発電所設置・管理事業者を除けば、現地までの道路建設、風車基礎部分の工事、既存電力線への接続等に限られるようである。

日本国内にはほとんど風力関連のメーカーが存在しなくなっている現状では、鉄、銅、プラスチックなどの原材料や輸送費の高騰と円安による価格上昇が今後も続くようであれば、日本での風力発電の導入は相当程度停滞することになるだろう。以下、各種資材や円相場に関する今後の見通しについてざっと見ていこう。

鉄や銅の価格は基本的に中国の需要の増減に左右される。今後、不動産バブル崩壊に伴って中国の新規住宅建設は相当落ち込むことが予想されるので、これらの価格は徐々に低下していくだろう。アルミの需要は軽量化のための自動車向けに今後も拡大していくと予想されるが、風車を軽量化する意味は特に無いのでアルミ価格の変動は風力発電には関係しないだろう。

石油価格は、最近OPEC諸国が減産を決めたこともあり、現在の高値の水準がかなり長期にわたって続くだろう。脱炭素への流れで化石燃料の新規開発への投資が急速に減るために、既存の産油国の生産量も今後はしだいに落ちていくはずだ。需要に対する供給不足の傾向は現在よりもさらに強まるので、近い将来に原油価格がコロナ以前の値にまで下がるとは考えにくい。

樹脂の原料は現時点ではまだ石油が大半なので、樹脂の価格も高止まりが続く。風車の羽根の材料は炭素繊維で強化した樹脂なので、現在はかなり高騰しているはずだ。

原材料価格との直接の関係はないが、米国や英国ではコロナを機に働くのを止めた労働者の割合が高く、人手不足で全般的に人件費が上昇している。これが米英のインフレ率が他国に比べて特に高くなった要因のひとつと言われている。この結果、設計、営業、各種サービス等のいわゆる間接費用も軒並み値上がりしている。特に世界のITサービスの大半は米国企業の支配下にあるので、今後、ソフトウェア関係の費用は世界的に値上がりすることになるだろう。

 

次に、最近の極端な円安が今後どうなるかという点について。

最近の円安の原因としては、日本を除く主要国がインフレ対策のためにいっせいに利上げに踏み切ったことがその根本にあるというのが現在の主流の説明である。

下に1985年以降の日米短期金利差と円ドル相場の推移を示しておこう。

図-2

「日米金利差による「円安」は終了へ…それでも「日本には期待できない」という理由」より

確かに2020年以降についてはその通りなのだが、それ以前では、特に2008年以前には現在よりも日米金利差が今よりも大きかった時期はいくらでもある。にも拘わらず現在の円安は三十数年ぶりなのである。この原因はいったい何なのだろうか。

実際の各国通貨の為替相場を説明するものとして「購買力平価」(略称:PPP)という概念がある。
「財やサービスの取引が自由に行える市場では、同じ商品の価格は1つに決まる。このとき、国内でも海外でも、同じ商品の価格は同じ価格で取引されるので、2国間の為替相場は2国間の同じ商品を同じ価格にするように動き、均衡する。この価格を購買力平価と呼ぶ。」

(あまり適切とは言えないが)購買力平価の一例としては、マクドナルドのビッグマックの各国ごとの価格を比較した「ビッグマック指数」がある。

かなりの経済学者が「実際の為替相場は長い目で見れば購買力平価に近づく」という説を支持しているらしい。代表的な意見を下に示す。

「外貨預金に走る人への警告・将来円高になって元本を失う危険がある」

この文献の中の図を下に示す。

図-3

この図は、2000年以降の日米間のドル円の実際の為替レートと、OECD諸国を主とした国の間で計算した購買力平価とを比較したものである。確かに昨年の2021年に至るまでは実際の為替レートが購買力平価に限りなく近づいているように見える。

ただし、「いつかは元に戻る」というだけでは将来予測としては物足りない。この記事を投稿された野口悠紀雄氏は、実際のデータに基づく経済解説を多く発表されており筆者も参考とすることが多いのだが、こと、この記事に関しては掘り下げが足りないと言わざるを得ない。

より細かな分析を行い最近の円安傾向の原因を詳しく解説している文献として、第一生命研究所による次の記事を挙げておきたい。
「円安パズルの解明 ~為替が購買力平価よりも円安である理由~」

この文献からも図を転載しておこう。上記の購買力平価からの実際のドル円相場のズレの推移を示したものである。

図-4

この文献の著者である熊野氏の主張は以下のようになる。

・かっての円高(上の図でいえばプラス方向へのズレ)は、日本の製造業が国内で生産して輸出する高品質の貿易財による貿易黒字に支えられていた。

・2014年以降の円安は、原発停止と化石燃料輸入の増加、さらに原油高騰による貿易赤字が主因である。

・黒田日銀総裁による2013年からの大幅な金融緩和がこの円安傾向をさらに加速させた。また利下げの結果として発生した国内から海外への資金移動も円売り圧力を強めた。

・黒田緩和によっても日本の貿易黒字は定着せずさらに円安が進んだ。背景には国内製造業の輸出競争力の低下がある。また、円安によって国際比較での日本人の労働コストは大幅に低下したが、それでも輸出は増えていない。

・黒田緩和の最大の誤算は円安にしても輸出が増えなかったことだ。また日本人の貿易黒字への関心も薄れて当面は貿易赤字が、言い換えれば円安が続くことになるだろう。

 

これらの主張に、筆者がさらに付け加えるとすれば次の二点になる。

① 日本の製造業は円高が進行していた1990年代から一貫して生産の海外移転を推進して来た。今では、日本の製造業の少なくとも大手企業では、主要な量産基地は海外に移行してしまっている。過去に海外で巨大な投資を積み上げて来たこともあり、円安が進んだからと言って簡単に生産を国内に戻す訳にはいかない。人口減少に伴う国内市場の縮小と労働人口の減少がこの傾向に拍車をかけている。

② 下の図は2000年以降の日本の経常収支の内訳を示したものであり、2012年からの数年間の貿易収支の大幅な赤字は上記の化石燃料輸入増加と原油価格の高騰によるものである。2011~2014の間の原油価格は100ドル/バレルを超えていた(現在は80~90ドル/バレル)。

図-5

「経常収支とは 投資収益が黒字支える」より

 

一貫して増加が続いている第一次所得収支の中身は、日本企業が海外に設立した子会社の挙げる利益からの本社への配当、個人や金融機関による海外の株や債券への投資の利息などからなっている。

この所得収支は、利子等については日本円に替えられるが、その他の多くは海外関連会社の内部留保として現地に留め置かれ次の投資へと回されることになるだろう。従って、トータルの経常収支が黒字であっても、円に置き換えられるのはその一部でしかないことになる。これが、日本の大企業が海外で十分な収益を上げているにも関わらず円安が続くことの理由である。

円安の要因のひとつであるエネルギーの海外依存については、日本の地理的条件によるものであり早急に解決できるような課題ではない。今できることは、国内で自給できる再生可能エネルギーの総量をなるべく早く増やすことである。

この方針には筆者も大いに賛成したいが、今回の本稿の目的は「風力発電については、採算が取れ、かつ周辺住民と周囲環境とに被害を与えない場所に限定して設置すべき」ということにある。日本の再生エネルギーの中での風力発電の位置づけは従来よりも下げるべきだろう。

原発再稼働は絶対に選択肢とすべきではない。常に地殻が動き続け、かつ一万年に一度の割合で九州全体を覆うような破局的大噴火が起きるこの日本列島内では、使用済み核燃料を十万年間も安全に保管することはほぼ不可能だろう。今、「原発再稼働」を声高に唱えている人たちは将来世代に対して実に無責任というほかはない。

さらに、仮に敵対国がいま日本の原発にミサイルを何発か打ち込んだとしたら、原子炉が稼働していようといまいと、行き場が無くて国内全ての原発の敷地内に保管され続けている大量の使用済み核燃料が広範囲にまき散らされることになりかねない。日本の国土の何割かが居住不能となるだろう。原発を再稼働すれば、潜在的に危険な使用済み核燃料がさらに増え続けることになる。

 

円安のもう一つの要因のゼロ金利政策(現在の10年国債利率の上限0.25%は、利率数%の他国から見ればほぼゼロでしかない)は単なる日銀の方針でしかなく、撤廃しようと思えばすぐにでもできるはずである。なぜ撤廃しないのか?

黒田総裁は「利上げをしたら景気を冷やす」とか言っているが、ゼロ金利のもとでカネを借りたがるのは株や外国証券を買おうとする投機筋ばかりで、経済成長に結び付く企業の設備投資のための資金の借り手が少ない今の日本では、利率を若干引き上げたところで景気の状況がたいしてかわるはずもない。利率を上げられないのは政治的な理由があるからだろう。

現在の日本政府の借金(国際)残高は対GDP比で260%という世界史上未曽有の領域に達しており、その元利支払いである国債費は下の図に示すように今年度予算では24.3億円、歳出の23%を占めている。

 

図-6

「22年度予算が成立 過去最大の107兆5964億円」より

 

仮に国債利率を上げて国債費が今後さらに増えれば、数年後には政策実施のための予算枠を減らすしかなくなる。社会保障費、防衛費、教育・研究費等々、必要とされる政策経費は膨らむ一方という現在、日銀が物価対策と称して金利を上げれば、今後の政府予算は不人気な増税で維持するしかなくなる。

増税を実施したうえに選挙目当てのお得意のバラマキ政策もできなくなれば、次の国政選挙で負けることは確実だ。政権与党から見れば、日銀が金利を上げるなんてとんでもないということになる。

また今年度予算の歳入では、新規国債の発行額36.9兆円がその34%を占めている。日銀が現在続けている国債引き受けを停止したとたんに、他には誰も日本国債を買わなくなって予算編成は不可能となり、内閣は即刻退陣となるだろう。「安倍+黒田」が推進して来た、ゼロ金利国債の日銀引き受けの二本立てからなるアベノミクスには、もはや出口はないのである。

 

もう一点指摘しておかなければならないのは、インフレは我々国民にとっては悪材料だが、借金を多く抱えている政府にとっては好材料であるという点だ。物価が高騰してもそれに比例して過去の借金の額が増加することはない。

物価が高騰すれば消費税や企業の法人税はそれに比例して上がり、時期的な遅れはあるものの労働者の給与もそれにつれて上げざるを得ないから、やがては個人からの所得税も上がる。結果的に国の税収も増えるので、それを返済に回すことで国債の対GDP比率を減らすことも可能となる。

極端な例を挙げるとすれば、激しいインフレを放置することで、或いは故意に政策的にインフレを引き起こすことで政府が過去の借金を帳消しにした例は、世界の歴史の上では数多く存在する。日本では戦後すぐの新円切替が人為的にインフレを発生させた典型例であり、この結果、戦前・戦中に政府が発行した国債は紙クズと化してしまった。今の政府にそこまでの意図があるとは思いたくはないが、政府の財務関係者の本音としてはどうなのだろうか。

 

先日、英国のトラス内閣が発足後二か月も持たずに退陣したが、英国の政府負債の対GDP比は日本の半分以下の100%程度にすぎない。英国でバラマキ政策を選択した内閣がすぐに倒れるのは、政府が発行する国債を英国中央銀行が引き受けないからである。そういう面に関しては英国の政治と経済はまだ健全といってよい。

日本では、最近の歴代内閣では、その背中を日銀が支えてやっていることで選挙対策としての有権者向けの大盤振る舞いが出来ているのである。今後、誰が日本の首相になろうとも、日銀の低金利政策と国債引き受けというツッカイ棒が外れたとたんに、内閣退陣のドミノ現象が起きることだろう。

安倍晋三氏は存命中に「日銀は政府の子会社だ」と発言したそうだが、建前上は日銀は政府から独立した機関であるはずだ。なのに黒田総裁は正面からの抗議をしなかったところを見ると、彼はやはり「自分は政府の子会社の社長」と自覚しているのだろう。安倍総理に忖度しながらアベノミクスを推進して来た結果が、現在の急激な円安を招いてしまったのである。

黒田総裁は在学中は周囲から「稀に見る秀才」と評されたそうだが、いくら学校の勉強ができても、上とケンカする度胸が無くては国民には何の役にも立たない。安倍氏アベノミクスをずっと支持して来たであろう人々が、現在の円安・物価高騰の原因も理解できないままに、一円でも安い商品を探して毎日あちこちのスーパーを駆けずり回っている光景を見るのが哀しい。

さて、今後は再び円高に戻るのだろうか。黒田総裁の任期は来年三月までである。後任の総裁、副総裁、さらに審議委員については内閣が任命権を持つことが法律で決まっており、後任も内閣に都合のよい人物が任命されることになるだろう。従って、現在の金融緩和政策、低金利政策が来年以降も続くことになる可能性はかなり高いと思う。

 

今回、あらためてドル円相場を決める要因が何なのかを調べてみたが、主たる要因は ①海外との金利差、②経常収支、特に実際の資金の移動がある貿易収支、③投機筋の動向 であることが理解できた。投機筋の動向を予測することは困難だが、金利差と貿易収支の面から見れば、現在の円安と物価高は来年以降も続くことになるだろう。

なお、インバウンドの再開による海外からの旅行者の「円買い増加→今後の円安」を期待される向きもあると思うが、インバウンドがピークとなったコロナ前の2019年の旅行収支が約2兆円。直近の貿易収支のピークの2017年の約5兆円の半分弱であり、貿易収支に比べればその効果は小さい。

 

私事になるが、一昨日、筆者は鳥取市内の全国規模の量販店に自分にとっては定番の作業用シャツを買いに行った。以前は中国製だったが数年前からバングラデシュ製、値段は安いが生地があまり丈夫ではなくて、すぐに穴が開いたり破れたりするので数か月ごとに買い替えている。

同じ銘柄を使い始めてから約十年になるが、この間ずっと千円台で同一価格であった。そのシャツの値段が昨日買いに行ったら、なんと一気に五割増し! 他の銘柄も値上がりしており、まだ一番安いことには変わりないので買うしかなかったが、シャツの仕立ては今まで使っていたものと全く変わりが無かった。

数日前にも、毎日飲んでいる緑茶パック50袋入りが残り少なくなったのでスーパーに買いにいったら、先回買った時には確か400円台だったのが700円弱まで値上がりしていて非常に驚いた。過去に経験したことがないほどの強烈な値上げの津波が自分の周りに押し寄せてきていることを、ヒシヒシと感じてしまう今日この頃なのである。

 

次回は、温暖化に伴う世界各地の風力エネルギーの今後の変化、国内各地での風力発電所計画の現況、他の再生可能エネルギーの状況等について取り上げる予定です。

/P太拝