「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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中国の台湾侵攻の可能性について(1) -各国の労働人口と経済成長率の比較-

 例年、今の時期は個人的に何かと忙しいことが多く、原稿を途中まで書きかけたままで一度も投稿しないうちに五月が過ぎてしまいました。

 ウクライナ情勢は膠着の度合いを強めているものの、当初心配された「プーチンによる戦術核の使用」については、下の5/20付けの記事に見るように、最近は否定的な観測が強まりつつあるのは歓迎すべきことでしょう。テレビ朝日は、このウクライナ戦争の報道に随分と力を入れているようです。

「プーチン大統領は「核を使えない」? 情報分析のプロ指摘 クーデターの可能性は」

 ウクライナ戦争よりもさらに我々日本人にとって身近で深刻となりそうな問題が、ロシア vs ウクライナの関係と、中国 vs 台湾の関係の類似性です。

 戦争は観念によって始まり、経済によってその勝敗が決まります。前者の例はナチスドイツの「アーリア人優越、ユダヤ・スラブ人蔑視思想」、大日本帝国の「大東亜共栄圏構想」、アメリカの「ベトナム=反共防波堤構想」等々。中国の場合には、彼らの持つ「中華思想、漢族優越思想」が、国内少数民族に対する深刻な迫害と台湾への侵攻可能性の主因となっていることは明らかです。

 今回の記事では、まず「中華思想」の地図上での具体例を確認、次に中国の人口動態と経済成長率を各国と比較しながら、中国の今後について考えてみたいと思います。

 

(1)中国の国恥地図

 ウクライナ情勢から中国による台湾侵攻が連想されるのは当然な話だが、この中国の台湾や尖閣諸島南シナ海、インド方面等への領土拡張の執念はいったいどこから出て来るものなのか。

 かっては東アジアで圧倒的な勢力を持っていた巨大な国が、過去二世紀にわたって欧米や日本に経済主権と領土とを次々に侵食された屈辱と恨みがその根源にあるのは確かだろう。過去の歴史については我々日本人も反省しなければならない点は多々あるが、だからと言って、過去の日本とよく似た強権的体質となってしまっている今の中国に「台湾をお好きなように」とは到底言えない。

 現在の日本と同様に平和裏に政権交代が可能な民主主義国(実態としては台湾は既に国)を、その国の国民の意志に反して、武力による威嚇や実際の武力行使によって強制的に併合するような暴力行為は到底容認できるものではない。

 この件を議論する上で、まずは中国が持っている自己勢力範囲に関する自意識を確認しておく必要がある。いったい中国は、地球上のどこまでを自分の勢力範囲として意識しているのだろうか。それを知る上での参考になるのが、約一世紀前に描かれたとされている、中国のいわゆる「国恥地図」である。

 ネット上で最近入手した「国恥地図」を下に紹介しよう。元々は日中戦争開始以前に、蒋介石の国民党政権が支配地域の小学校で中国の歴史を教えるための地図として作ったものらしい。

図-1「中国国恥地図」(図・表はクリックで拡大。以下同様。)

 この地図の詳細については、作家の譚 璐美(たん ろみ)氏が以下の記事を書いているので参照されたい。記事中の地図の表題は異なるが、地図自体は上の「図-1」に示したものと同一のようである。

「中国が考える本当の領土?「国恥地図」実物を入手」


 この地図は「元々、我が中国の領土はこんなに広かった」と当時の子供たちに主張するためのものだった。これを見ると、なぜ現在の中国共産党政権が例の「九段線」で南シナ海全域を自国の領海だと強硬に主張しているのか、その背景がよくわかる。

 要するに彼らは、この海の周辺のベトナム、マレーシア、タイ、ミャンマーなどは、以前から全て自国の勢力範囲であったと認識しているようだ。だとすれば、それらの国に囲まれた南シナ海も、当然その全てが自分たちのものという発想なのだろう。

 西側のカザフスタンの大部分、ウズベキスタンキルギスタジキスタンアフガニスタン、南側のネパール、ブータンインドシナ半島全域、インド領アンダマン諸島、東側の朝鮮半島全域と奄美琉球諸島、北側のモンゴルとバイカル湖以南のロシア領シベリアの南部、その全てが中華文明の勢力範囲とされている。幸いなことに日本の本土四島はその範囲内には含まれていないようである。

 この地図から、中国の持つ自らの勢力圏の判定基準として以下の三条件が推測できる。

① 過去に少なくとも一度は中国領土となった領域。(ロシアが進出する前の清王朝初期には、シベリア南部も清の勢力圏であった。)


② 最近まで継続して朝貢してきた領域。(19世紀まで朝貢を続けて来た李氏朝鮮阮朝ベトナムがその典型例。日本、フィリピン、インドネシアなどは過去に朝貢したことはあるが、最近数世紀は朝貢していなかった。「中原王朝に朝貢した政権の一覧」を参考とされたい。)


③ 以前は現在の中国国内に居住していたが、現在は国外に居住している民族の現居住地域。或いは、中国国内の少数民族と同質の民族が現在居住している国外の地域。(ベトナムラオス、タイ、ミャンマーなどは、以前は中国南部に住んでいたものの、漢民族による再三の圧迫から逃れて南下した民族が作った国とされている。清の時代に主に東南アジアに移住した華僑の現住地(シンガポール等)も勢力圏とされているのかもしれない。)

 ③の論理はロシアがよく使う屁理屈だ。「ロシア領のサハリン(樺太)には少数民族としてのアイヌ民族が住んでいる。北海道にもアイヌが住んでいるから、北海道も元々からロシア領のはずだ。」という主張を初めて聞いた時には、単なるジョークで言っているのだろうと思った。しかし、今回のウクライナ侵略で明らかになったように、ロシアとは徹底した「ジコチュー」国家であり、「自己中心史観」に凝り固まった「領土拡張が国是」の民族であることが判明したからには、どうやら本気で言っている可能性が高い。

 これと全く同じ論理を中国も頻繁に使っている。シベリアのバイカル湖の南側の現ロシア領(ブリヤート共和国など)は、モンゴル国と隣接していて昔からモンゴル族の居住地なのだが、ロシアのシベリア進出の過程で暴力的にロシア領にされた。モンゴル国が中国に帰属するならば「同じ民族が住んでいるロシア領も当然中国のものだ」という理屈になる。

 今後、中国の力が強くなればなるほど、ロシアとの関係が悪化するだろうと予測される理由のひとつには、この「中国国恥地図」にみるように両国間の領土観の対立があることが挙げられる。

 各民族が入り混じって形成されたこれまでの複雑な歴史を一方的に無視した、このような自分勝手な屁理屈が現代世界で通用するはずもなかろう。この主張が正当ならば、現在の中東地域の大半と東欧の南部は、19世紀のオスマントルコの後継者である現在のトルコ国に帰属することになる。また、フランスや英国など中欧・西欧の大半と地中海周辺国は、約二千年も前のローマ帝国の後継者である現在のイタリアによって支配されなければならない。

 一番問題なのは、各地域、各民族によってそれぞれに言語、習俗、価値観、文化が異なるのに、それらを全て否定して自分たちの言語や文化だけを一方的に押し付けようとしている点だ。ロシア、中国などのいわゆる大国のこのような姿勢は、人類が地球上の各地でそれぞれに育んできた豊かな文化を抹殺するものでしかない。現在進行中のチベット、新彊ウイグル内モンゴルの言語、宗教、習慣、文化の中国政府による迫害と圧殺はその最たる例である。

 漢民族は「自分たちの文化・政治体制こそが世界で一番」と思っているようだが、実際にはそんなにたいしたものじゃないことは、例えば、現在進行中の北京政府によるコロナ対策の大失態が立証しつつある。

 さて、習近平の頭の中には上に紹介した「国恥地図」が焼き付いているのかも知れないが、もはや、大国が領土拡張のために戦争を起こすような時代ではない。以下、話が少々脱線するが、いくら領土を集めてみてもどんどんと貧乏になっている国の典型が今のロシアだ。

 グーグルの創業者の一人であるセルゲイ・プリンは、ソ連時代のモスクワに住むユダヤ系の両親の元に生まれ、六歳の時(1979年)に両親に連れられて米国に移住した。彼がスタンフォード大学博士課程の同級生であったラリー・ペイジと共に1998年に設立したグーグルの持ち株会社であるアルファベットの売上高は年々急増、昨年は2576億US$(2021年)に達した。現時点での同社の時価総額は7257億$(2022/5/1時点)、日本円換算で約94兆円となり、ほぼ日本の国家予算に匹敵する巨額である。

 一方、ロシア全体のGDPは1兆7750億US$(2021年)、2022/5/1時点でのロシア市場の株式時価総額は2575億US$であり、日本円で約34兆円でしかない。ロシアという国全体のGDPは、米国の一企業であるアルファベットの売上高の約二倍強に過ぎず、ロシアの全ての上場企業の株式全体の価値の合計はアルファベット一社の約三分の一でしかない。しかもその会社をつくったのが自国から逃げ出した移民の息子だというのだから、これ以上の皮肉はないだろう。

 戦争を起こして領土を少し広げてみても、そこに埋まっている石炭・石油や鉱物資源を掘り出す以外には能がない国の場合、戦争をして獲得できる価値はたかが知れている。価値を獲得するどころか、むしろ自国と相手国の人の命を大量に奪い、両国がそれまでに積み上げて来たインフラを破壊し尽くしつつある。このような国をオロカと言わずして、いったい何をオロカというのであろうか。

 バカが「自己肥大妄想」という名の観念にとらわれると、ますますバカに、不幸になるという典型的な例だ。中国がこの二例目にならないことを切に祈りたいものである。

 アルファベットが所有している土地の総面積は自社ビルと世界各国の支店を合わせた程度でしかなく、ロシアの国土面積の何百万分の一程度でしかないのだろう。その代わりに、同社にはこれまで世界中を劇的に変えて来た知識・データと技術とが大量に蓄積されているのである。

 サービス業や情報産業が経済的付加価値の大半を占めるに至った現代では、もはや領土という概念には、人命をかけて争奪するほどの価値は失われつつある。

「世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF)」を見れば、首位のルクセンブルグをはじめとして、その上位にはアイルランド、スイス、シンガポールアイスランドデンマーク等々、自身では小さな領土しか持たない小国がずらりと並んでいる。現在、経済的価値の存在場所は、モノ自身から、モノを十分に活用するための知識とその知識を生かすためのシステムへと急速に移行しつつある。

 領土という概念に今後も価値があるとすれば、土地に依存せざるを得ない農林水産業、鉱業、観光等の産業や、自分が帰属すべき故郷や言語・風習などの感情の拠り所という性質に限定されることになるだろう。

 以前よりも領土の持つ価値が減るにしても、だからと言って他国の領土を暴力で奪って自国の領土にくっつけることが正当化されるわけではない。それは他国の国民の基礎的な生活基盤なり、故郷なりを暴力で奪い取ることでしかないからである。不良の中学生がクラスメートを脅し殴りつけ、その小遣いを奪い取っては不良仲間に自慢しているのと何ら変わりはないのである。

 

(2)中国経済の今後

 冷静な目で見れば、戦争ほど非合理的な政策選択は他にはないだろう。固定観念や妄想に囚われてその奴隷となってしまい柔軟な政策選択ができなくなったヒトラープーチンのような独裁者、あるいはかっての日本のように「場の空気」に支配された集団が、冷静な計算を意図的に無視した結果、戦争を引き起こすのである。生産力が何十倍も違う米国に対して、あえて開戦に踏み切った81年前の日本がその代表例だろう。

 固定観念への隷属や感情の暴発によって戦争は始まるのだが、その戦争の結末がどうなるかは、やはりその国の持つ経済力と他国への影響力によって決まることになる。その意味で、まずは中国、さらに日本や米国等の周辺国が持つ経済力を比較してみたい。(以下の各国の経済関連データは、主として「世界経済のネタ帳」から引用した。)

 

(2-1)生産年齢人口減少の影響

 過去三十年近くにわたって驚異的な経済成長を成し遂げて来た中国経済だが、今後その成長率が急減することは間違いない。その主たる要因としては、まずは中国でも人口減少が始まろうとしていることが挙げられる。水増し疑惑が再三指摘されている中国政府の公式統計によってさえも、既に2015年をピークに中国の生産年齢人口(15~64歳)の減少が始まっている。

 次の図に日本、中国、韓国、台湾、さらに欧米諸国の生産年齢人口と一人当たりの実質GDPの推移を示す。実質GDPとは名目GDPから物価上昇率を差し引いたもので、その国の実質的な経済成長率を示している。なお、この図の実質GDPは、その全てが各国のそれぞれの自国通貨で評価した値である。

 この図では各国の生産年齢人口がピーク値を取った年の値を100としてその人口の推移を左側の縦軸に、その生産年齢人口ピーク時の年の実質GDPの値を100としてそのGDPの推移を右側の縦軸に示している。図中の青と赤の矢印のあるところがその生産年齢人口ピークの年である。

図-2 各国の生産年齢人口と実質GDPの推移

 以下、この図を詳しく見ていこう。左側の一番上の日本のグラフでは、生産年齢人口の青い線は1995年にピークとなり、それ以降は実質GDPを示す赤い線の伸びが明らかに鈍化している。日本の他国と異なる特徴は、生産年齢人口が1995~2020年までの25年間に14.8%と他国に比べて著しく急減していることである。

 その右に中国のグラフを示す。中国では2015年に生産年齢人口のピークを迎えたが、2020年時点では実質GDPの成長率に鈍化はみられない。過去に再三報道されて来たように中国が公式発表するGDPの信用度は低く、実際にはこのグラフほどには成長はしていない可能性は高い。また同国が公式発表する人口統計も、かなり水増しされている可能性が高い。
「中国人口は本当に14億人?…14歳以下で出生データに差、水増し疑惑」


 図の上から二列目の韓国のグラフでは、中国と同じく2015年が生産年齢人口のピークとなっている。日本ほど顕著ではないが、このピークを過ぎた2020年には実質GDPの伸びが若干減速している。

 その右に台湾のグラフを示す。同国の生産年齢人口のピークも中国、韓国と同じ2015年であるが、実質GDPはピーク後も急成長が続いている。これは世界の半導体需要が加速度的に増えていることと関係がありそうだ。台湾政府の公式データは中国政府のそれとは異なって透明性が高く、十分に信頼できる数字と見なしてよいだろう。

 三列目左にイタリアのグラフを示す。イタリアの生産年齢人口のピークは日本よりも早い1990年であるが、日本と異なるのはその低下が今日に至るまでわずかであることだ。2020年でのピーク値からの低下は1.6%でしかない。

 これは欧米各国に共通するが、外国からの移民を労働力として数多く受け入れていることが大きい。イタリアの実質GDPは2005年までに約二割増加したものの、その後はむしろ減少している。イタリアの右にはフランスのグラフを示す。フランスの生産年齢人口のピークは2010年だが、実質GDPはその10年前から停滞が続いている。

 四列目にはドイツと英国を示す。ドイツの生産年齢人口のピークは日本と同じ1995年だが、実質GDPは日本とは対照的で順調に伸び続けている。生産年齢人口の減少も移民流入の効果で、2020年になってもピーク時から2.7%の減少にとどまっている。

 英国は2020年時点でも生産年齢人口は移民流入により増え続けており、未だにピークを迎えていないようである。英国の最近の実質GDPの停滞はEUからの離脱の動きの影響が大きいためだろう。離脱に伴って移民の流入も昨年以降に急減しただろうから、今後の英国の経済は困難な時代を迎えることになるだろう。

 最後に米国のグラフを示す。同国の生産年齢人口が2010年をピークに減少に転じていることには意外だった(移民の大幅な流入が続いていると思っていた)。しかし、2010年以降も実質GDPの伸びは順調である。これは同国が世界に先駆けて進めている経済のデジタル化の効果なのだろう。台湾経済の好調さも、デジタル化に伴う半導体需要の堅調さによるもののように見える。

 以上の結果をまとめれば、以下のようになる。

① 生産年齢人口が増加している間は経済も順調に発展するが、同人口がピークに達した後では、自国通貨で見た実質GDPは一般的に停滞する傾向がある。

② 自動車・生産機械に強いドイツ、ITで経済のデジタル化を主導する米国など、得意な産業分野を持っている国は生産年齢人口のピークが過ぎても経済成長が続いている。

③ 日本を除くアジア三カ国はこれから生産年齢人口の急減を経験することになるので、日本と同様に経済の停滞に陥る可能性が高い。

④ 日本の実質GDPは、自国通貨で見る限りは1995→2020年の25年間で14.9%上昇しており、生産年齢人口が14.8%も減っている中では比較的健闘しているように見える。(生産年齢人口の全員が働らき、その他の年齢層の全てが働かないと仮定すれば、この間の一人当たりの生産性は年平均で1.4%増加する。)ただし、これはあくまで自国通貨で見た場合の話であり、国際比較については後述する。

⑤ 欧米諸国は、移民の流入によって生産年齢人口の急減が抑制できているものとみられる。

 上記の⑤については別の資料でも確認しておこう。下の図-3に各国の流入移民比率と購買力平価GDPの間の関係を示す。購買力平価GDPとは、国によって異なる物価を考慮して修正したGDPであり、物価の安い国のGDPはより高めに、物価の高い国のそれはより低めに修正される。

 この図における移民とは、短期的な仕事目的(いわゆる出稼ぎ)で入国した外国人全てを含んでおり、中東やシンガポール・香港などの都市国家・地域になるほど高い比率になる。

図-3 各国の流入移民比率と購買力平価GDPの比較

 図-2で示した生産年齢人口には、この外国から流入した労働者が含まれている。日本が最近の25年間で生産年齢人口が15%も落ち込んだのは、外国からの労働者の移入がほとんどなく、日本国籍者の人口減をそのまま反映した結果だからである。移入者が多い国ほどその国のGDPは高まり経済の高成長が続く。歴史的に見ても、世界各地からの移住者が集まる国ほど繁栄が続いたという事実がある(ローマ帝国、中国の唐王朝元王朝、19世紀の大英帝国、20世紀以降の米国)。

 なお、この図では中東のカタールUAEの移民比率が飛び抜けて高いが、中東諸国への移民の大半は、男性が南アジアのインドやパキスタン等から、女性の移民の職種は主に家庭内のメイドでフィリピンやアフリカ諸国からが多いらしい。彼らの給料は中東諸国の国民に比べて著しく低く、その労働環境も劣悪である。この図の縦軸は、その国の国籍を持つ国民と国籍を持たない移民とを合わせた平均値であるから、国民だけのGDPに限ればさらに高額になるはずだ。

 カタールUAEの働いている国民はその大半が公務員で、石油・ガスからの収入で遊び暮らしており、実際の3K労働は移民に丸投げしている。国民自身は特にこれといった能力・技術は持っていないというのが、欧米諸国とは非常に異なる点である。移民と言っても色々な段階があり、中東諸国への移民に限れば、下の記事に見るように、まさに「現代における奴隷的存在」であることには注意が必要だろう。

「日本人が知らない、観光都市ドバイを造った「現代の奴隷」」
「アラブの裏の顔 - 被害者が加害者にもなり得るという現実:アラブ世界の「現代の奴隷制度」を考える」

 上の⑤で既に予想したように、やはり欧米諸国では一般的に移民労働者の比率が高い。移民労働者はその大半が生産年齢に含まれるはずだから、移民が多いほど国全体のGDPが上がるのは当然の結果だろう。

 移民労働者は出稼ぎ先の国に所得税を納めており、自分自身がその恩恵に浴するかどうかは別にしても、出稼ぎ先の国の社会保障費用も負担するのが一般的なようだ。この点から見れば移民労働者の流入は受け入れ国にとっても歓迎すべきことなのだが、少なくとも東アジア地域ではあまり歓迎されてはいないようだ。

 この図-3では流入する移民の割合のみを横軸に取っているが、同じ2019年の国外への移出労働者の比率を調べて「移入-移出」の差を取って見ると、日本は人口の1.3%(移入だけだと2.0%)になる。中国はマイナス0.7%、韓国はマイナス2.0%と流入する外国人よりも流出する自国民の方が多い。

 なお、ロシアについてはこの差は日本より小さく、0.8%である(移入は8.0%、移出は7.2%。前者はおそらくロシアよりもさらに低賃金の周辺の旧ソ連諸国からの出稼ぎ者が主であり、後者の年間約一千万人は欧米に出稼ぎに行くロシア人が多くを占めているのだろう)。

 このように移入者が欧米に比べて極端に少ない東アジア諸国では、欧米のように移入民によって生産年齢人口の減少を食い止めることはほぼ不可能と言ってよい。特に、厳しい規制が多く社会の自由度が少ない中国に移民したがる外国人は極めて少ない。2019年の(移入人口)/(全人口)の比率は、日本が1.98%、韓国が2.24%であるのに対して、中国はわずか0.07%でしかない。なお、これらの数値は、上に示した図-3の横軸の値にほかならない。

 今後は日本と同様に、いや、それ以上に中国の生産年齢人口が急減することは確実であり、それに伴って同国の経済成長が終焉を迎えることも、まずは確かなことだろう。

 図-2では各国の自国通貨の枠内でのGDPの推移を示したが、通貨自体の相対価値は時間とともに変化する。各国通貨を米国ドル(US$)という共通通貨に換算して各国のGDP推移を示した図を図-4として以下に示す。

 なお、東アジアの四カ国は実線で、欧米の五カ国は点線で示している。また、各国の生産年齢人口がビークとなった年をそれぞれ色を変えた矢印で示している。

 

図-4 各国の一人当り名目GDPの推移(US$換算)

 この図を見ると、近年の中国の成長が著しいとは言っても、一人当りのGDPで見ると未だに米国のそれの約1/6、その他の諸国の1/3から1/4程度に過ぎないことが判る。

 また、各国ともに基本的には右肩あがりのカーブを描いているのだが、唯一日本だけが大きく波打っており、しかもそのレベルが一定の範囲内で停滞している。これは米国ドルと日本円の間の為替変動が大きいのと、日本経済の実力そのものの停滞が続いていることによる(1990年以降の年間平均の米国ドルの円への換算は、1990年 144.8円、1995年 94.1円、 2000年 107.8円、 2005年 110.2円、 2010年 87.8円、 2015年 121.0円、 2020年 106.8円)。

 円高になるたびに米ドル換算のGDPが跳ね上がり、1995年には、なんとドイツと米国を抜いて一人当りGDPで世界一の座を獲得していたのである。確かにこの頃は、(ネコもシャクシもと言ってよいほど・・)たくさんの日本人が海外旅行に出かけて円高の恩恵を満喫していた記憶がある。しかし、一ドル=130円程度となった現在では、世界一どころか、韓国や台湾にも抜かれかねない体たらくである。海外旅行もなかなか財布の中身が許さないという状況になりつつある。

 ついでに物価水準も加味した一人当りの購買力平価GDPを図-5に示しておこう。この指標で見れば、日本はすでに2010年時点で台湾に、2020年時点ではさらに韓国にも抜かれてしまっている。中国は2020年時点で日本の約四割、台湾に比較して約三割となっている。

 

図-5 各国の一人当り購買力平価GDPの比較(US$換算)

 日本円で見る限りは、日本のGDP労働分配率が変わらないとすれば日本人の平均的給料はGDPに比例)は少しずつは上がっているようには見える。しかし、米ドルに換算して国際的に比較して見ると、円の価値の下落によって、日本は先進国としての経済的レベルから急速に落ちこぼれつつあると言ってよかろう。

 

(2-2)中国の成長神話の終焉

 日本経済の停滞の話になってしまったが、話を本題の中国経済に戻そう。四月にサッカーのプロクラブの世界選手権のアジア予選ACLの東地区グループリーグが終了したが、かっては日本や韓国の強力なライバルであった中国のクラブチームが、そろいもそろって壊滅的な成績に終わってしまった。

「「恥ずかしすぎる」ACLの中国勢、2年で “0勝2分け23敗・6得点89失点”の惨敗を母国メディアが糾弾!」

 この原因は、昨年以来の恒大集団の経営危機に代表されるような中国不動産業バブルの崩壊にある。中国のサッカークラブの多くが大手不動産企業の元で運営されて来たのだが、昨年来、多くのクラブで選手への給料不払いが頻発していとのこと。そのため、これまで高額で契約していた欧州リーグ出身の有名選手たちが全員帰国してしまっらしい。

 この中国不動産バブルの崩壊は、やはり過去の過剰投資と人口減少の開始にその主因があることは明らかだろう。各地方政府が収入の柱にしてきた国有地使用権販売への投資が回収できなくなったことで、中国国内での民間企業への投資にも支障が出始めている。

「恒大危機:社会主義の中国で不動産バブル、破綻回避し国有化模索か」

「中国経済の隠されたリスク、海外投資家の中国離れで何が起きるか 恒大集団問題が中国ハイテク企業にもたらす深刻な悪影響」

 この不動産バブルの崩壊は、世界の中で中国だけが取り残された形となっているゼロコロナ対策との相乗効果で、国内各方面に玉突き現象のような影響を及ぼし始めている。その一例として深刻化する大学生の就職難を挙げておきたい。

 次の記事は署名が無いのだが、確か、上海か北京の大学で経済学を教えている日本人教授(名前は失念)による記事と推定される(この先生は「Record China」に以前からよく記事を書いていた)。なお、中国の全ての学校の卒業式は六月に行われるので、卒業生にとっては今の時期に就職先が決まっていないというのは相当な危機的状況である。ちなみに中国の大学進学率は既に58%に達しており、日本の64%と大きな差はない。「世界の大学進学率 国別ランキング」


「就職が厳しい中国の大学卒業生、取りうる選択肢が多様化」

「中国で「高学歴貧乏」が増加、若者の深刻な就職難・リストラの実態とは」

 今の中国は、ちょうど日本の土地バブル崩壊後の1990年代から2000年代初頭にかけての就職氷河期とよく似た状況になりつつある。中国では学生の大半が一人っ子であり、富裕層以外の普通家庭の両親や祖父母は、自分が行けなかった上の学校に我が子や孫を行かせるために身を削って働いて来たはずだ。工場労働者の求人ならば今でもまだかなり多いようだが、大学まで出て今さら工場でワーカーとして働くのでは親に申し訳ないというのが大半の学生の気持ちなのだろう。就職がうまくいかなければ結婚も当然遅くなる。中国の少子化はさらに深刻化する可能性が高い。


 さて、現時点でのその他の中国関連の話題としては、なんと言っても「ゼロコロナ対策」による目下の大混乱が挙げられるだろう。北京や上海でのロックアウトについては、連日のように大量の記事が出ているのでそちらを読んでいただきたいが、中国特有のコロナ対策として「物流段階での徹底消毒」も挙げておこう。

 先日、久しぶりに中国の検索サイト「百度」を見ていたら、次の図のような写真と共に、浙江省義烏市(百円ショップ向け等の安価な日用品の集積地として有名な街)で「労働者が物流基地で防疫作業に奮闘中」という内容の記事が載っていた。日本や韓国から市内の物流基地に送られてくる物資を入れた段ボール箱や運送トラックを全て消毒しているのだそうである。

図-6 中国国内の物流基地では外国からの貨物は梱包まで消毒

 このような対策は、2020年秋に中国国内で「ドイツから送られて来た物資の表面からコロナウィルスが検出された」という政府公表(ホントかウソかは不明)がその発端のようだ。

 当時は武漢市の研究所からのウィルス流出がコロナの世界的パンデミックの発端ではないかと疑われており、外国からは中国に対して説明責任が強く求められていた。コロナの中国起源説を否定するためには、この外国から送られて来た物体表面からのウィルス検出は絶好の反論材料となったはずだ。これ以降、中国国内では商品・梱包材の表面、建物内部外部、街路に至るまで大量の消毒液が散布され続けて来た。消毒液のメーカーはさぞかし大儲けしただろう。

 そこまでの徹底的な消毒は不要との見解は、既に一年以上前に世界各地の専門家によって結論が出ている。論文の一例を以下に紹介しておこう。

「表面からの感染リスク低い、執拗な消毒はむしろ有害 米CDC」

多分、世界の中で中国だけが、この過剰かつ無駄な消毒を未だに続けているのだろう。ゼロコロナ対策としての北京や上海のロックアウトと同様の対応であり、資源と労働力の浪費でしかない。

 最適な政策を生むためには、寛容な雰囲気の元で、多くのメンバーが参加しての自由な意見交換と建設的な相互批判とが欠かせないのだが、中国ではただ「上御一人」の指令のみが絶対的なのである。独裁者と政府のメンツを守るためについたウソ、そのウソを守るためにまた次のウソが必要となる。次々とつき続けた自分たちのウソのチェーンに自身がからまれて身動き取れなくなったのが、今の中国のコロナ対策の現状だ。まさに自縄自縛である。

 独裁者のメンツを守るため、その配下にいる自分たちの責任を回避するためには、インチキ消毒パフォーマンスへの巨額の浪費もいとわない、指導者への忠誠ぶりを示すためにはロックアウトで国民の人権を無視するのは当然のこと、反政府運動に発展しない限りは国内のあちこちでパラパラと人が死ぬのもかまわないという中国の官僚社会の姿勢。このような人権無視かつ不合理な政策を続けているようでは、今後、中国の経済がさらに発展するとは到底思えないのである。

(次回に続く)

/P太拝