「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

当ブログの内容は編集者個人の見解であり、「市民の会」の公式見解ではありません。当ブログへのリンク、記事内容の引用等はご自由に!

中国四国地方の原発と活断層の位置関係

「新年あけましておめでとう」と言いたい所ですが、新年早々の元旦の夕方に大地震が起こってしまいました。

 ちょうどサッカーの日本対タイの親善試合中継を見終わった頃、室内の天井の照明が揺れ始めた。かなりの振幅で揺れたので近くでの地震かと思ったが、震源はここからは350kmも離れた能登半島だったとのこと。鳥取市の震度は4でしたが、この震度の割にはそれほどゆれなかった印象でした。

 一週間以上たった現在でも、日に日に死者と行方不明者増えるばかりです。亡くなられた方とそのご家族には心からお悔やみ申し上げます。道路状況が非常に悪いとのことで、被災された方々にはまだ十分に物資が届いていないそうです。自衛隊や専門家、物資輸送の車を優先すべきであり、一般人が入るのは後からでも遅くはないでしょう。

 

 さて、今回の能登での地震によって恥ずかしながら初めて気づいたのだが、能登半島にも原発があった。「原発銀座」の福井県の陰に隠れていて認識不足だったが、能登半島の西側に北陸電力が所有する志賀原発(一号機54万kW、二号機120.6万kW)が既に設置されていた。

 幸い現在は停止中であったものの、この一号機の真下に断層が存在することが既に指摘されており、この原発の稼働停止状態は今後も長期にわたって続くことになりそうだ。「志賀原子力発電所」


 今回の地震では、発生当日には原発にトラブルはなかったと林官房長官が得意げに発表していた。しかし数日後には、変圧器の油が流出したとか、住民の避難路が地震で寸断されて交通止めとか、周囲の測定値に比べて北陸電力の発表した振動値が異常に低いとかの問題が次々に明らかになって来た。また、震源に近い地域に設置している放射能測定用のモニタリングポストの多くが1/4現在で測定不能になっており、原発周辺で不安の声が高まっているとのこと。
「志賀原発の周辺15カ所で放射線量を測定不能 モニタリングポストが「壊れているのか、埋まっているのか…」」


ここ数日で出て来た他の記事もいくつか紹介しておこう。

「志賀原発2号機の変圧器からの油漏れ、当初の5倍超 能登半島地震」

「能登半島地震・志賀原発 避難ルート「のと里山海道」は一時全面通行止め 避難計画は“絵空事”だった」

「能登半島地震で露呈した原発の「不都合な真実」 政府が志賀原発を“異常なし”と強弁した理由」

 これからも、世間がこの地震のことを忘れた頃になってから、原発に不利なデータがポツポツと後出しで出て来るのだろう。この国には、国民を守ることよりも、自分が座っている椅子を守ることの方を優先する人間が多すぎるのである。彼らの多くが高い社会的地位に付いており、かつ一般国民を守るべき職業上の責任を有しているのにもかかわらず。

 

 さて、注目されるのは、この志賀原発と今回の震源域との距離がかなり近いということだ。下に1/3時点までの震源の分布を示す。赤い丸が1/1に発生した震度7の震央地点、青い丸が志賀原発の位置。赤い直線が震源の中央線であり、今回はこの付近の断層が動いたと推定される。

 この付近の断層については、従来はその存在が確認されていなかった。後で示すが、2020年の時点では能登半島の先端部は他の地域に比べて地震が発生しにくい地域とされていた。

図-1 能登半島地震震源分布(図、表はクリックで拡大、以下同様。)

「令和6年能登半島地震 地震の活動状況まとめ(3日20時)」 より

 この赤いラインと志賀原発の間の最短距離は約13km。一般的に言って、特定の活断層が活動した後にはその周辺の断層が次々に活動期に入るとされているので、志賀原発の直下を走る断層の危険性がさらに高まることが予想される。


 なお、「志賀原子力発電所」の中で示されている2001年以降、及び2016~2017年の震源マップを見ると、上の図に示した赤いラインに沿ってすでに地震が頻発している。志賀原発建設前には地質調査が実施されているはずなのだが、この種の調査があてにならないことがよく判る。

 

 他の原発とその周辺の活断層の距離が気になったので、とりあえず中国・四国地方原発について調べてみた。そのための資料として、国の「地震本部」が公開している以下のサイトを参考とした。
「主要活断層の評価結果」

 中国・四国地方原発は、現在は以下の島原発愛媛県伊方原発の二か所。

 なお、福井県内の若狭湾沿岸には、廃炉処置中も含めて六ヶ所に合計15基もの原発が既に存在するが、その周辺でも活断層が多数確認されている。これらについても別の機会に調べてみたいと思っている。

 

(1)島根原発

 

 島根原発は1号機は廃炉決定済。2号機は2022年に島根県が稼働に合意し、現時点では2023年度中、要するに今年の春までには稼働再開の見込みとのこと。
 地震本部のサイトから得た下の宍道(鹿島)断層の地図に、島根原発の位置を青い丸で書き込んだ。黒い線で示された断層までの距離はわずか2kmに過ぎない。

図-2 島根原発宍道(鹿島)断層の位置関係

 ちなみに原発から松江市中心部の島根県庁までの距離はたったの9km。仮に放射能漏れ事故が発生した際に北寄りの風が吹いていたならば、県民・市民に避難行動を指示する立場にある島根県知事・松江市長と県職員・市職員自身が真っ先に避難を強いられることになるだろう。

 鳥取県側で言えば、境港市役所までが21km、米子市役所までが32km。風速5m程度の西寄りの風が吹いていた場合、放射性物質は事故発生の数時間後には境港や米子に到達する。

 上の図を見ると境水道もこの断層の延長線上にあり、この部分までもが動いた場合にはさらに巨大な地震になるものと思われる。当然、境港や米子の市民にとっても、地震そのものによる被害も深刻な規模となることだろう。今後は境水道の部分もこの断層の延長に含まれる組み込まれる可能性が高い。

「島根原発2号機 宍道断層の再延長検討 中電 対策費増す可能性」

 また、下の図のように、さらに東に伸びて鳥取県沖西部断層や鳥取県沖東部断層に連なっている可能性までもが指摘されている。

図-3 島根原発周辺の活断層の位置

 「福島~山口 いのちの会のブログ」 より

 鳥取県の沖合にあるこれらの断層までもが動いた場合には、その直後に鳥取県沿岸に津波が押し寄せる事態も想定される。マグニチュード7以上の震災に加えて島根原発からの放射能漏れ事故が発生した場合には、少なくとも山陰両県については、13年前の福島県と同じく県外への大規模な避難が必要となり人口が激減することになるだろう。

 1/4付の次の記事によると、この宍道(鹿島)断層の危険性は、境水道部分を加えない現時点でも既に四段階の危険度ランクの中で一番高くなっている。地震本部の評価によると、仮に全体が動いた場合には今回の能登地震と同様のマグニチュード7以上となる可能性があるとのこと。

「「西日本は南海トラフ発生前の地震活動期」能登半島地震 “流体の影響”研究する専門家指摘 阪神・淡路大震災前より “切迫”評価 危険度「最高ランク」の活断層とは」

 また、上の記事の4ページ目には、京大の西村教授の発言として以下の記載がある。我々、鳥取・島根両県民には十分に注意しておきたい内容だ。実際、2000年に発生したマグニチュード7.3の鳥取県西部地震も「未確認の地下断層による地震」であったとされている。

活断層というのは、断層のズレが地表に明瞭に現れて地形になって現れている所だが、山陰地方では地下に伏在していて地表に現れていない断層がいっぱいあると考えられている。特に最近の100年間では、マグニチュード7クラスの地震がかなりいっぱい起こっている。

 また、微小地震の数を見ても、山陰地方は日本の中でも内陸地域では地震活動が高い場所で、広島県北部の三次市やその周辺も含まれる。そこでは活断層がなくても、周囲に比べて地震活動が高く、今後大きな地震が起こりやすい場所。」

 

(2)伊方原発

 愛媛県西部にある伊方原発については、1号機と2号機は既に廃炉が決定済。3号機は2022年1月より稼働を再開している。この原発についても、島根原発と同様に地震本部が公開している下に示す地図の中に青い丸でその位置を示した。

 なお、地図上を右上から左下に横切っている黒い線の集まりは日本列島を南北に分けている中央構造線に沿った断層の集合である。伊方原発と、この図から読み取れる一番近い断層との距離は5kmである。

図-4 伊方原発中央構造線の位置関係

 中央構造線とは、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む圧力を受けて生じる地殻の裂け目である。四国から九州にかけたこの線よりも南側の地殻は、大陸プレートの下に潜り込むフィリピン海プレートからの南西方向への圧力を絶えず受け続けている。その圧力に耐えきれなくなるたびに、この裂け目がずれて大地震が起きるのである。


 静岡県から宮崎県の太平洋沿いに位置する南海トラフは大陸プレートとフィリピンプレートとの境界線を示しており、現在、ここでのマグニチュード8~9クラスの巨大地震の確率が高まっている状況にある。その発生確率は昨年末時点で今後30年間に70~80%とされている。この巨大地震の発生前後には地表近くを震源とする直下型地震が頻発しており、この中央構造線の周辺で想定される地震もその直下型の一例である。

「南海トラフ地震に関連する情報」

 

 地震本部の評価によると、この伊方原発近くの中央構造線伊予灘地域の活断層の危険度は、四段階のうちの上から三番目(今後30年以内の発生確率:ほぼ0%)となっている。その主な根拠は1596年の慶長伊予地震慶長豊後地震でこの伊予灘地域の断層が動いたと想定されていることによる。

 しかし、参考文献を詳しく読んでみると、この時代の断層活動が実証的に確認できた地点は全長約90kmに及ぶこの断層区分の両端でしかない。伊方原発が位置するこの断層区分の中央付近の断層が、実際に動いたかどうかの確証は未だに得られていないようだ。従って、危険度が上記よりも高くなる可能性がかなりあるように思われる。

 「中央構造線」の中の「伊方原子力発電所近くの活断層」の中から、伊方原発に想定される地震の規模に関する記述を以下に抜き出しておこう。

 「伊方原発活断層との距離は約6 kmであるが、活断層調査にあたった高知大教授・岡村真によれば、もし伊方原発に最も近い活断層で、あるいは中央構造線断層帯全体が一度に動いて、予想される最大規模のM8の地震が起きた場合、原発周辺は震度7の揺れに見舞われる可能性があるという。」

 現時点から見れば「よりによって、なんでこんな地質的に不安定な場所に原発を建てたのか」と思うのだが、計画を立案した1960年代には(今でもそうなのだが・・)、「なるべく大きな都市から離れた辺鄙な田舎で、事故が起こっても都市部の被害が少ない場所」であることを最優先してこの場所を選んだのだろう。

 最後に「国の現在の地震予想がいかに当てにならないか」という実例として下の図を紹介しておきたい。これは現在も地震本部のサイトに公開されている図であり、2020年時点での直近の全国地震動を予測しているものだ。

 日本海側の大半の地域と同様に、今回の地震が発生した能登半島の先端部分は、危険性が一番低いのと二番目に低いのとのいずれかに含まれている(これら二つのクラスの色分けはよく似ていて、どちらなのかは判別できない。意図的にそうしたのかもしれない。)。

図-5 全国地震動予測地図

 

 国の今までの地震予想が全くあてにならないことを、この国のどこに住んでいようと震災への備えは常に万全にしておかなければならないということを、この図の内容に反して、今回能登半島の先端で大地震が発生したという具体的な事実が示している。

 さらに、政府や各電力会社が今まで言ってきた「既に設置した原発に関しては、地震被害に逢う可能性は極めて低い」という主張は単なるマユツバに過ぎなかったということも、この図が示しているのである。

/P太拝