「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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原発からの「核のゴミ」処分場問題・テロの脅威

 先週の1/17に1995年に阪神淡路大震災が発生してから28年目を迎えました。

 あの日の朝六時前、自宅の二階で寝ていたら、遠くから次第に振動が近づいてくるの気づいて目が覚め、飛び起きたことを覚えています。恐怖を感じるほどの揺れではなかったものの、今年元旦の能登地震に比べれば相当に大きな揺れでした。

 今と違ってネット経由の情報はわずかしかなく、テレビのニュースを見ても詳しい被害状況が判らず、たいしたことは無かったのではと思いながら普段通りの時刻に会社に向かいました。職場で始業時間を過ぎてしばらくすると「電話がつながらない!」との声があたこちで上がり始めた。誰かがテレビをつけたら、あの高速道路が横倒しになっている映像が真っ先に眼に飛び込んできて大騒ぎとなりました。

 昨日読んだニュースによると、次は福井県鯖江敦賀が危ないのではという指摘もあるそうです。巨大地震が福井の原発銀座を直撃しないことを祈るばかりです。

「地震専門家「次は鯖江市と敦賀市を注視」 40年前から能登半島で独自調査 エネルギー放出直前の可能性も」

 さて、前回は中四国原発地震が直撃する可能性について書きましたが、今回は原発から出る放射性廃棄物(いわゆる「核のゴミ」)、中でもウラン等を燃やした跡に残る使用済み核燃料等からなる「高レベル放射性廃棄物」の処分地問題について取り上げてみたいと思います。また、原発に対するテロや軍事攻撃の脅威の深刻化はロシアのウクライナ侵攻の現状に見る通りです。この点についても考えてみたい。


(1)「核のゴミ」の処分地問題

まずは、この「使用済み核燃料」についてその概要を予備知識をまとめておきたい。
「使用済み核燃料」

上のサイトによると、一般に核燃料として使用されるウラン235核分裂によって原子炉内で燃焼させてエネルギーを取り出したあとには、プルトニウムやその他の放射性生成物が残る。

「3%濃縮ウラン燃料 1ton 投入時の組成、ウラン238が 970kg、ウラン235が 30kg」

    原子炉での燃焼後、      ↓

ウラン238が 950kg、ウラン235が 10kg、プルトニウム 10kg、生成物 30kg。」

 

 この使用済み核燃料に含まれるプルトニウム放射能は非常に強く、ごく微量を吸い込んだだけでも、肺での発ガン発生確率が非常に高くなる。また化学的な毒性も強い。 「かつて人類が遭遇した物質のうちでも最高の毒性をもつ」という指摘も存在する。

 プルトニウム239の半減期は2.41万年であるため、今から10万年経ってようやくプルトニウム239が放出する放射能の強さが現在の16分の1以下にまで減るという計算になる。

 また、原子炉を用いて人工的に得られるプルトニウムは、自然採掘した天然ウランから核分裂可能なウラン235を濃縮するという複雑かつ困難な工程が不可欠なウランに比べて、はるかに容易に原子爆弾を作れるという特徴がある。実際、北朝鮮の核兵器開発では、当初は黒鉛減速炉を建設して、北朝鮮国内に豊富に存在する天然ウランをその燃料として使用することで核兵器用のプルトニウムを大量に生産しようとしていたものと推測されている。

 このように燃焼後の核燃料から再びその一部を抽出して燃料とし、再利用するのが「核燃料サイクル」計画だが、日本国内での実施は、六ケ所村の再処理工場の竣工が26回連続で延期になることなどによって当初計画よりも大幅に遅れており、一部の使用済み核燃料をフランスや英国に送って処理してもらっている状況である。。

 このような、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、ウラン238と混ぜて再び既存の原子炉で燃やすというのがプルサーマル計画である。

海外で抽出したプルトニウムを使ったプルサーマル計画は既に一部の原発で進められており、現時点では玄海、伊方、高浜の三原発で実施中。

 さて、この使用済み核燃料だが、強い放射線を出し、かつその半減期が極めて長いので、少なくとも10万年間は外部に漏れださないように一定の区域内に保管し続けなければならない。

 また、原子炉から取り出した直後は核分裂による発熱量が大きいために、まずは地上で30~50年冷却したのちに深さ300m以上の地層に埋設処分される予定となっている。日本ではこの埋設処分の候補地が、1963年の原発による発電開始から60年経った現在になっても未だに決まっていない。これが「原発はトイレのないマンション」と言われ続けているゆえんなのである。

 この候補地については、2002年に原子力発電環境整備機構(NUMO)が地層処分を行う場所の公募を開始。2028年までに調査を終えて処分地を決定、2038年までに処分を開始するタイムスケジュールとなっている。

 2017年には経済産業省資源エネルギー庁地層処分の適・不適の別を記した「科学的特性マップ」を公表している。下にそのマップの一部を示す。緑色の部分が処分場としての適地である。日本全国の図については、経産省資源エネルギー庁のサイトを確認していただきたい。

「科学的特性マップ」で一緒に考える放射性廃棄物処分問題」

 さいわい、我が鳥取県は、ほぼ全県が茶色(火山活動の恐れあり)に塗られていて不適当な地域の方に分類されている。

図-1 使用済み核燃料の地層処分に関する適・不適マップ(北海道南東部)

                (図と表はクリックで拡大、以下同様。)

 現時点でこの処分場の候補地として調査に協力を申し出ているのが北海道の神恵内村寿都町の二つの自治体である。

 上の図に見るように、これらの自治体は北海道電力泊原発のすぐ近くに位置している。おそらく、泊村に巨額の原発交付金が落ちるのをみて、「うちの街にも、あんなふうに税金をドバドバと落としてくれたらいいのに・・」と、うらやましく思った首長や議員がいるのだろう。

 なお、海外からのスキー客で近年大盛況のニセコスキー場があるニセコアンヌプリ山は、この泊原発から22kmしか離れていない。コロナ後のニセコでは、現在、一泊15万円のホテルが満杯になるという繁盛振りだとか。

 仮に、泊原発放射能漏れ事故でも起こした場合には、ニセコのホテル群は一転してカラッポになることだろう。近隣の大半の自治体にとって、いまや原発は心配の種でしかない。

 さて、この神恵内村だが、上の図に見るように茶色に塗られていて火山活動が予想される地域である。つまり、使用済み核燃料を10万年間安全に保管できるかどうかに疑問符がつく地域なのである。以下、この村での地層処分の安全性に疑念を投げかける記事を紹介しよう。

「地震大国・日本で核のゴミの地層処分は可能か、学者と電力業界の評価真っ二つ」

 この記事の内容は、この積丹半島の地質を長年調べて来られた岡村聡・北海道教育大名誉教授(地質学)の見解を紹介するもの。要約すると以下のようになる。結論としては、この地域に地層処分場を建設することなど、到底ありえないとのこと。

神恵内村の北側にある積丹岳(積丹半島の中央部に位置)は、第四紀(約258万年前~現在)に活動した証拠が見つかっていて、その周辺での地層処分は不可能。
神恵内村の大部分が、噴出したマグマが海中で冷えてできた水冷破砕岩からなる岩盤から成る。この岩は亀裂が多いために地下水を通しやすく、かつ不均質で弱い。
積丹半島の大半がこの水冷玄武岩に覆われている。1996年には半島西側の古平町の豊浜トンネルで岩石崩落事故が起きて、バスの乗客など20名が圧死。このトンネルの岩も水冷玄武岩だった。
・もう一つの候補地である寿都町も、同様に極めて不均質で複雑な中新世の火山岩類からなる。これらの火山岩は主に海底火山の噴出物からなり、かつ不均質で少し離れるだけで地質状況が全く変わる。しかも高透水な層を含んでいて、現在の技術ではこのような地質構造を非破壊で明らかにすることは困難。
・2019年に原子力規制委が泊原発の位置する半島西西岸に活断層があることを指摘、この活断層は村全体に伸びているものと推測される。2018年に発生して43名が亡くなった北海道胆振東部地震は、既知の活断層から約15kmも離れた未知の活断層によるもの。現在の地震学のレベルではこのような地震を予測することはほぼ不可能。

 上に挙げたニセコアンヌプリ山も約25万年前まで活動していた火山であり、20世紀初頭の火山活動が記録されている火山もすぐ近くにある。泊原発の周辺は、いつ大規模噴火が起こってもおかしくない地域なのである。これほどまでに原発建設や使用済み核燃料の処分場設置には不適格な地域も珍しいように思う。

 少し別の観点からも、この処分場問題を考えてみたい。日本では、阿蘇山のような巨大カルデラが約一万年に一度の頻度で巨大噴火によって形成されることが既に明らかになっている。「破局噴火」とも言われるこの種の巨大噴火は、この数十万年間では主に北海道と九州で発生している。

 日本列島にはこの種の巨大噴火でできた地形が数多くあり、例えば槍や穂高などの北アルプスも、約170万年前まで連続形成されていた巨大カルデラ群の残骸であることが明らかになっている。

 一例として下の図に九州南部で発生した巨大カルデラ噴火を示しておこう。図中の赤字は噴火した時期を示している。

図-2 九州南部で発生した巨大カルデラ噴火の位置

 古いカルデラは、新しい噴火で覆いつくされて地表からは確認できなくなっていることが多いので、11万年前から現在までのカルデラ噴火に絞ってみると、現在までに四回起こっている。九州南部だけで見ても約三万年に一度の頻度だ。

 下の図-3に9万年前に発生した阿蘇山の大噴火による火砕流と火山灰の広がりを示す。火砕流は九州の大半を焼き尽くして、その先端は山口県まで到達している。愛媛県でも、ちょうど現在の伊方原発があるあたりまで来ている。

 

図-3 阿蘇カルデラ噴火時の火砕流と火山灰の広がり


 伊方原発の運転差し止めを求める訴訟では、2017年の広島高裁で、いったんはこの阿蘇噴火による危険性を認めて運転差し止めの仮処分が出たものの、その後でどこかからの圧力があったようだ。結局、同高裁は「自然災害の危険をどの程度まで容認するかという社会通念を基準に判断せざるを得ない」と一転して運転再開が認めた。

 広島高裁の裁判官のいう社会通念とは、どうやら、「阿蘇からの火砕流によってほぼ九州全土で伊方原発と共に数多くの人びとが焼け死んで埋められ、その後の強い放射能原発に近づくこともできず、さらに四国やその他の地域までもが放射能汚染で居住不能となっても、これも我々の運命だとキレイサッパリとあきらめること」であるらしい。 

 9万年前は、我々ホモサピエンスはまだ東アジアには到達していなかったはずで、九州は人類無住の地であり、この巨大噴火に直撃された新人類の犠牲者はいなかっただろう。

 もしかしたら、あのデニソワ人の一派が既にこの列島にまで来ていたのかも知れないが、彼らの痕跡は日本国内では未だ発見されていない(近年、デニソワ人に近い可能性がある旧人類の骨の一部が中国大陸で数例発見されている。)。

 以上の九州の噴火の歴史から見れば、10万年もの間、外部への放射性物質漏出があってはならない地層処理処分場を九州に設置するのはまず無理な話だ。

 

 北海道西南部に戻って、この地域での破局噴火についても見ておこう。上で紹介した「破局噴火」のサイトによると以下のようになる。

4.6万年前 - 支笏:マグマ水蒸気爆発 → 降下軽石火砕流噴火。総噴出量 100~130 km3 DRE。
10.6万年前 - 洞爺:洞爺火砕流。総噴出量 38~77 km3 DRE。
110~135万年前 - 北海道道央?:支笏泥溶岩
162万年前 - 赤井川:長沢火山噴出物中部
206万年前 - 赤井川:長沢火山噴出物下部

 10.6万年前以降の巨大噴火でできた噴火口に水が溜まってできたのが、現在の支笏湖洞爺湖である。赤井川は積丹半島の中央部の神恵内村泊原発のすぐ近くにある川で、この川の位置を中心に破局噴火が二回起こっている。上で触れられていたもろい水冷玄武岩はこの時にできたらしい。

 支笏カルデラの噴出量は7300年前に発生した鬼界カルデラ噴火とほぼ同じ量を噴出している。図-4に鬼界カルデラ火砕流の広がりの範囲と、それをコピーしたものを北海道の近くに張り付けて示しておこう。

図-4

 その広がりの半径は最短部で約100km。赤い小さな丸で支笏湖洞爺湖の位置を示したが、支笏湖から積丹半島の突端までは約90km。

 仮に神恵内村に使用済み核燃料を埋設処分したのちに火砕流がその上を覆いつくしたとしたら、その時点で我々の子孫が(AIに負けて絶滅することもなく・・)まだ生き残っていて、かつ、使用済み核燃料がその地に埋まっているという情報が消えずに残っていたとしても、当分の間は何も手がつけられないだろう。その後、岩盤の中のひび割れた隙間を通ってプルトニウムを含む地下水が地上まで上がってくる事態も想定される。

 もう一つの候補地である寿都町も、洞爺湖から約50km、支笏湖から約80kmであり、過去と同様の規模の噴火が起こった場合には、この町も火砕流に埋もれる可能性が高い。この先、せいぜい数十年程度しか続かないであろう国からの交付金と引き換えに、将来世代に負担をかけることがあってはならない。

 使用済み核燃料の最終処分場に手を挙げている自治体に、伝えておかなければいけないことがもう一点ある。それは自分たちの地域に処分場が出来てしまったら、地域からの出身者が将来差別を受けかねないという現実だ。

 福島第一の事故のあとで避難を余儀なくされた人々、特に子供たちは、各地の避難先で「放射能がうつるから近寄るな!」等の残酷、かつ根拠のない暴言やイジメに苦しめられた。

 何かの理由を見つけて他人を見下すことでしか自己肯定感を得られないタイプの人たちというのは、いつの時代でも、どこの土地にも、必ず何人かは居るものなのである。本当に情けない人たちと評するしかないのだが、この種の人たちが未だに多い現状では、自分の子や孫が将来に差別を受ける原因となるような施設を自分たちの土地の中に作らせることは避けるべきだろう。

 

 最近、フィンランドやフランスで使用済み核燃料埋設処分場の建設に着手したという報道が眼につくようになって来た。それらを見習って「日本でも早く処分場をつくろう」という声が経産省や電力業界から聞こえるようになったが、なんでも欧州のサルマネさえしていればよいというものでもない。

 少し話が脱線するが、これは日本の風力発電業界にも共通する姿勢であり、この業界は、一年中強い風が吹いている英国やオランダ、ベルギーなどの北海周辺諸国と強い風は冬にしか吹かない日本との差を故意に無視して、「将来は風力発電、特に洋上風力しかない」と主張している。

 同じ大きさの風車を日本とベルギーに建てても、日本の風では絶対にベルギー並みの発電量は得られない。おまけに風車本体は欧州からの輸入に頼っている。これでは、日本で風力発電で得た電力の料金が欧州よりも高くなるのは当然の結果なのである。

 さて、処分場問題での日本と欧州との一番の違いは地盤の安定性である。下に「地質学者ら指摘「日本には適地ない」、放射性廃棄物「地層処分」の重大リスク」という記事に掲載されていた図を紹介しておこう。この記事の結論はそのタイトルにある通りだ。日本には「核のゴミ」を埋める適地はどこにもないのである。


図-5 世界各地の地質区分

これは世界各地の地質を地質学で使われる区分概念に基づいて色分けした図である。図の左下に地理的区分を示しておいたが、あらためて以下に説明しておこう。

 

茶色  :「楯状地」5億7千万年以上前に形成された、先カンブリア時代後の地殻変動の影響をほとんど受けず、造山運動や断層運動他の構造運動が非常に少ない、比較的平らな地域。

ピンク色:「卓状地」地球の初期に火成岩と変成岩が一体化してできた基盤岩が平坦または緩やかに傾斜した、主に堆積岩からなる被覆物によって覆われた地域

薄緑色 :「造山帯」 造山運動の起こった地帯、また、起こっている地帯。ふつう褶曲山脈が形成され、地層の著しい褶曲、広域変成帯の形成、花崗岩類の貫入などで特徴づけられる。

青色  :「盆地」周囲を山地や丘陵に囲まれた、周辺よりも低く平らな地形。

紫色  :「巨大火成岩岩石区」 広大な範囲に渡り火成岩が分布している地域。大陸地域の洪水玄武岩による台地、海底での海台が形成される地域、大規模な貫入岩脈が残っている地域など。

黄土色 :「大陸地殻延長部」大陸を取り巻く海面下の大陸の延長部分をいう。

  この中で楯状地と卓状地は過去数億年から数十億年にわたって火山活動がない極めて地質が安定している地域である。

 その対極にあるのが造山帯だ。ここは日本のようにいたる所で火山活動が起こっていたり、ヒマラヤ山脈のように南のインド大陸と北のユーラシア大陸からの圧力を受けて年に5mmの割合で標高が高くなり続けている地域なのである。そのような絶え間ない地殻変動の結果、造山帯では巨大地震が頻発している。日本列島の大半がこの造山帯に含まれている。

 下の図に世界の地震発生地域を示す。これも図-5と同じ記事から取得したもの。

図-6 世界の地震分布 

  赤い丸が2011~2020の十年間に発生した地震震源を示しているが、図-5の造山帯の分布と地震の分布がピッタリと重なっていることがお分かりだろう。日本列島の全体が赤色に覆い隠されて海岸線が見づらくなっている。
 それに対して、処分場建設に着手したフィンランドで記録された地震は10年間でゼロ、フランスでは数回発生しているが、みな小規模なものであり、処分場に対する危険性は日本よりもはるかに少ない。

 日本での地震や噴火のリスクを隠しておいて「欧州で処分場を建設しているから、日本でも建設を急ごう」というような発言は、本当に無知、かつ無責任の極みだと思う。

 処分場適地も確保できない原発再稼働を強行し、現在も埋める目途も立たないままに日々ダラダラと核のゴミを増やし続けている電力会社と原発関連会社、さらに両者からの政治献金を受け取り続けて来た政治家連中には、彼らの主張のせいで余計に増えてしまった核のゴミの十万年分の保管・管理費用を前もって負担してもらわなければならない。前金払いのその費用、いったい、いくらになるのだろうか?


(2)原発に対するテロ攻撃の脅威

 上で述べたように、標準的な核燃料を原発で燃やすと、プルトニウム1%とその他の放射性物質とを含む使用済み核燃料に変わる。これらはまだ大量の熱を放出しているので、原発敷地内部で水冷または空冷の状態でしばらく保管されることになるが、この保管施設に対する攻撃への警戒も、原子炉本体と同様に絶対に必要である。

 現在、日本国内の各原発には、2023年9月現在で16,580 tonもの使用済み核燃料が保管されており、六ケ所村、又は海外での再処理を待っている状況にある。その内訳については電気事業連合会の以下のサイトで確認できる。

chozo.pdf (fepc.or.jp)

 十年ほど前は、「ハイジャックされた飛行機が原子炉に突っ込んでも大丈夫なのか」というような疑問がよく話題になった。使用済み核燃料の保管施設の強度は、原子炉本体に比べればはるかに弱いだろう。

 ロシアのウクライナ侵攻でドローンが戦場で大量に消費され多数の人々の殺傷を続けている現在、「ドローンが、使用済み核燃料の保管施設や再処理工場に突っ込んでも大丈夫なのか」という質問も必要になってきた。

 2015年に筆者が当ブログで原発再稼働に反対する記事を書いた頃は、一番安価な攻撃手段として漁船に偽装した小型船からのミサイル攻撃があり得るだろうと想定していた。旧ソ連圏では軍による兵器の横流しが横行していて、そのルートを使ってテロ集団がミサイルを安価に入手できたからである。

 ドローンのような小型で安価な兵器が次々に登場するにつれて、原発周辺の警備費用はますます膨らむぱかりである。近い将来には、警備コストの上昇によって原発からの電力が再生エネルギーのそれを上回ることになるだろう。警察や海上保安庁原発警備のために費やしている税金を財源とする公的支出も含めれば、既にそのレベルに達しているのかもしれない。もはや原発は日本社会に対する負債、お荷物となってしまっているのである。

 仮にドローンで攻撃された結果、保管施設内で爆発が起こって大量の放射性物質が飛び散ってしまったら、福島第一の事故の時と同様に周辺住民は直ちに退避しなければならない。避難対象範囲は飛散した放射性物質の量と風向きしだいで決まることになる。 

 爆発によって放射能で高濃度に汚染された原発敷地内は極めて危険である。復旧対策の人員が入るのは容易ではなく、ロボットくらいしか入れないかもしれない。しばらくの間は、プルトニウム等の汚染が広がるのをただ遠くから眺めているだけになる可能性が高い。

 テロ集団以外では、例えば仮想敵国が原発を狙う可能性も以前から指摘されている。その筆頭として北朝鮮が挙げられる。

 既に2017年の時点で、北朝鮮は仮に米国と全面戦争に入った場合には日本の原発も狙うと公言している。

「質問者:日本に対しては、どこに狙いを定めているのか?

 北朝鮮高官:第一に首都圏の横須賀基地、第二にわが国への攻撃に利用される在日米軍基地、そして第三に、日本海側に広がる原発だ。・・・」

 

 日本の原発がミサイル攻撃を受けた場合に想定される被害を試算した記事があるので、以下に紹介しておこう。
「もし北朝鮮のミサイルが日本の原発に直撃したら…!専門家が試算した、「約37万人死亡」という「ヤバすぎる被害」」


 2022年のこの記事では、場合によっては、原子炉内の核燃料の一部が漏出した福島第一の事故よりもはるかに甚大な被害が発生するとしている。

 この記事の中ではミサイルで原子炉を狙うと想定しているが、ドローンで使用済み核燃料保管施設を狙った場合も同様の結果となる可能性がある。爆発の規模や気象条件によっては、さらに巨大な被害になるのかもしれない。この記事で想定された東海第二原発には昨年九月の時点で370ton、原子炉内にある核燃料の約千五百倍(推定値)もの使用済み核燃料が保管されているからである。

 中国に関しては、他国に対してこのような原発攻撃を仕掛ける可能性は少ないだろう。2022年時点で中国では原発77基が運転または建設中であり、その大半が海沿いに面している。
「中国の原発発電量、22年は全体の約5%に」

 他国の原発を攻撃すれば、その報復で自国の原発も攻撃される可能性が極めて高いからである。一方、北朝鮮の核施設の大半が地下に建設されていると推定されるので、仮に報復してもその効果は乏しいように思われる。

 ロシアも、日本の原発も含めて、日本を攻撃対象とする可能性は乏しいだろう。彼らは地面を掘って取り出した天然資源を他国に売ることでしか稼げないのだから、戦争を仕掛けて自国軍の装備と人員を犠牲にしてまで、この小さな島国を獲得するのは経済的に無意味であるからだ。

 北方領土は実質的にロシアが既に自国領土化しているので、日本が仕掛けない限りは紛争にはならない。米軍基地に関連した局地的な小競り合いはあるのかもしれない。

 温暖化の進行に伴って、今後、中国がシベリアへの進出を加速することは確実視されているので、今は良好な中国とロシアの間の関係も今後は対立が激しくなると予想される。中国のけん制役としての日本の役割に期待する意味でも、ロシアは日本との決定的な対立は避けるのではないだろうか。

 こうしてみると、日本の原発に対して攻撃を仕掛ける可能性のある国は北朝鮮ぐらいしかないのだろう。仮にそれが実行に移される時が来るとすれば、金正恩王朝が追い詰められて最後に暴発する時なのではなかろうか。

 「虎は死んでも皮を残す」というが、「金王朝は滅んだが日本を道づれにした」ならば、少なくとも朝鮮半島の中に限れば、将来の歴史家の中で金王朝を評価する人たちが一定程度は現れるように思う。

 日本の原発に対するテロの可能性も、今のところは北朝鮮を背景とする集団によるものくらいしか考えられない。原発攻撃をちらつかせて政府を脅迫し、巨額のカネを得ようとするテロ集団というのは映画のストーリーでよく見かけるが、現実には実行はほぼ不可能だろう。

 ただし、米国のように世界中の紛争に軍事介入する国であれば、恨みによる報復としてその国の原発が狙われることは大いにありうる。今後、日本が外国の紛争に大規模に軍事介入するようなことはまずないだろうが(台湾有事は別として)、今までのように、他国からの恨みを買わないような外交政策を堅持し続けて欲しいと思う。

/P太拝