「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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ロシアによる核攻撃の可能性

 ウクライナ各地ではロシア軍による戦争犯罪が次々に明らかになっている。先回の記事で予想したように、彼らの残虐行為(虐殺、誘拐、強姦、物品略奪)はかっての遊牧民による他民族への襲撃跡に残された惨状と同一、まさに瓜ふたつである。彼らにとってみれば、戦闘で獲得した捕虜や占領した地帯の住民は、自分たちが生殺与奪の権利を完全に掌握した単なる家畜の群れにしかみえないのだろう。ロシア軍に占領地での人権を尊重した扱いを期待することは、元々から無理なようだ。

 歴史的に欧州は東からの遊牧民の襲撃を何度も経験しており、大きなものとしては5世紀のアッティラに率いられたフン族の来襲、13世紀のチンギス・カンの孫のバトゥに率いられたモンゴル軍の襲撃がある。今回のロシア軍によるウクライナ侵略は、プーチンに率いられたフン族が、核兵器をたずさえて千数百年の時を越えて再び東欧に再出現したに等しいと評してもよいのだろう。(プーチンがこの評価を聞いたら、むしろ自慢のネタにするはずだ。)

 最近になって知ったのだが、ロシア人の風習のうちの一つに、男性集団が二組に分かれての殴り合い(スチェンカ)があるとのこと。このような暴力的な競技を総称してマースレニツァと呼ぶそうだ。遊牧民の間で継承されて来た伝統競技なのだろう。下の記事はロシア政府系のサイトによるものらしいが、この暴力的伝統を自慢し、自らの野蛮さを誇っているかのような書き方である。自分たちの暴力をこれほどまでに自慢している国家はロシア以外には存在しないだろう。

「5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう」

 一般の日本人がロシア社会の雰囲気を伝えているサイトをもう一つ紹介しておこう。かって世界94カ国を訪れたという女性による記事だが、ロシアの空港で係に荷物を預けておいたら中身を盗まれたとのこと。街を歩いているロシア人が誰も笑っていないことにも驚いたそうだ。

 街で笑っていたら、隙だらけの「チョロいやつ」と見下されて略奪や暴行の対象になりかねないのだろう。ロシア社会とは、日常的にずいぶん緊張を強いられる社会らしい。今後、ロシアを訪問される人は(その数は激減するとは思うが)十分に注意された方がよいだろう。

「町でロシア人は笑わない?モスクワで助けてくれたロシア人男性が教えてくれたこと」

 今後、仮にプーチンが早々に排除されたとしても、次の政権が外国に対して急に協調的になるとはどうにも思えないのである。このロシア特有の暴力賛美の風潮が続く限り、次期政権の体質も現在の政権からたいして変わらないのではなかろうか。

 なお、ロシアの現政権とロシア軍とは戦争犯罪者として大いに批判すべきだが、個々のロシア人を非難することはまた別の話である。いったん関係ができると、個人としてのロシア人は親切な人が多いというのが、ロシアに長く暮らしている日本人の多くが抱く感想でもあるようだ。個人としては穏和な人々が、いったん集団化すると政府があおり立てるナショナリズムに染まって攻撃的になるというのはよくある話だ(かっての日本人もそうだったのだろう)。個々のロシア人に対しては、基本的にはロシア人というだけでむやみに排除したりせず、胸襟を開いてオープンに接するべきだろう。

 

さて、今回の記事の主題は、日本も含めて世界が今一番気にかかっていること、「今後、ロシアは核兵器を使用するかどうか」についてである。この話題に関する記事をいくつか紹介しながら考えてみたい。

「中村逸郎氏 ロシアの核使用の可能性に「デフォルトに陥った場合、金融市場から締め出されますので…」

 この記事の一部を以下に引用する。欧米が経済的圧力を強めている現在の状況は下の(4)の条件に近いとロシア側が判断する可能性があるとのこと。

『 ロシアの元大統領で同国安全保障理事会副議長のメドベージェフ氏が英ガーディアン紙のインタビューで、ロシアが核使用する条件として

(1)ロシアが核ミサイル攻撃を受けた時
(2)ロシアや同盟国がその他の核攻撃を受けた時
(3)重要インフラが攻撃され核抑止部隊がまひした時
(4)通常兵器での侵略攻行為で国家の存在が脅かされた時

の4条件を挙げたと伝えた。』

 また、同じ番組の中で中村氏は、核兵器を使用する場所としては、以下のように述べている。
「中村逸郎氏 ロシアが核使用した場合の対象は「バルト三国とポーランドのNATO軍の駐屯地とか基地が」」

 『 今一番緊張が高まっているウクライナ以外ですと、実はバルト三国なんですね。バルト三国ポーランド、この辺りにはNATO軍の駐屯地とか基地がありますので、そこ辺りをロシア軍は狙ってくるんじゃないかというふうに思われる。』

 

ロシアの核の使用に関しては、次の記事も参考になる。
「忍び寄る先制核使用の恐怖 プーチン大統領は本気なのか

 この記事の中で、東大の小泉悠氏と一橋大の秋山信将氏の二人の研究者は、ともに「小規模の限定核の使用は、ロシアの敗北が見えて来た段階か、新規の参戦国が現れた段階に至れば、その可能性は高い」と指摘している。この二人はさらに、ロシアによる一発の限定核の使用が発端となって全面的な核戦争である第三次世界大戦に発展する可能性についても指摘している。

 ロシアと米国の小型核の配備の現状については次の記事を参考とされたい。小型核と言っても、ロシアの小型核(戦術核)の最小で広島原爆(TNT火薬で16kton相当)の約3分の1とのことで、その破壊力は一つの都市を完全に消滅させるに十分な規模である。
「ロシアが小型核先制使用の恐れも:核のハードル低下が呼ぶ「第3次世界大戦」リスク」

 以上をまとめれば、「ロシアの敗戦が濃厚になった段階になれば、プーチン政権にとって国内に勝利をアピールする手段としては、限定的な核使用しか残っていない」との見方が主流ということになる。通常兵器を使ってロシア軍に対して圧倒的な勝利を勝ち取ってしまうと、その直後に核兵器による報復が待っているだろうと言うのが何とも恐ろしい。歯がゆい話だが、勝利の寸前にまで来たら、綱引きの綱を引く力を意識して緩めなければならないだろう。

 プーチンのような戦争犯罪人に対しては、その責任を徹底的に追及すべきだが、強烈な被害者意識を抱え込んでいる者を追い詰め過ぎると暴発するというのはよくある話である。

 日本国内の例で言えば、最近発生した京都のアニメ会社や大阪のクリニックにおける大量殺人事件の放火犯の心理と共通するものがあると感じる。事件を起こす直前の彼らは、自分の失敗続きの人生に由来する被害者意識と、周囲の不特定多数に対する復讐心とのとりことなっていたのである。一国のトップただ一人の心理状態しだいで世界中が大混乱させられるのは、専制独裁国家であるロシアや中国ならではの話だ。
「なぜ放火犯は京都アニメーションを狙って33人も殺害したのか? 連鎖する無差別殺傷事件」


 次に、ロシアによる小型核攻撃が行われる場合、その候補地がどこになるかについて考えてみたい。前述の小泉悠氏は、現在発売中の「文芸春秋 五月号」の記事「徹底分析 プーチンの軍事戦略」の中で、ウクライナ国内の攻撃候補地について以下のように指摘している。

① 人口密集地、工業地帯、軍事拠点のいずれか一、二か所を小型核で攻撃
② 海域、または無人地帯に小型核を落として警告

 なお、同記事の中では、米国は「ロシアが小型核を使用した場合には、同規模の核を一発撃ち返す」方針を、2018年のトランプ政権の時点で既に決定していることも紹介されている。現時点で実際に米国がどうするのかは現在の米政権の対応次第とのこと。

 仮にロシアがウクライナ国内に核ミサイルを撃ち込んだら、その被害の大小にかかわらずウクライナ国民のロシアへの反発がさらに高まることは必至だろう。今後に懐柔の余地を少しでも残しておきたいのであれば、ウクライナ自身を核攻撃することはロシアとしても避けたいはずだ。

 ウクライナ以外の国がロシアの攻撃対象となる選択肢についてはどうだろうか。下に欧州東部のロシア・ベラルーシの隣接地域におけるNATO軍の基地の配置を示す。

図-1 東欧のNATO軍基地の配置図(クリックで拡大)

注:「6枚の地図が明らかにするロシア・ウクライナの衝突」より転載


 NATO軍基地には米軍も駐留しており、NATO加盟国に対する攻撃には米軍も含めたNATO参加国全体で反撃することになっている。仮にロシアがNATO軍基地を攻撃すれば、米国も含めた全面的な戦争、第三次世界大戦に発展する可能性は高い。その段階になれば、NATO軍基地のみならず日本の米軍基地(三沢、横田、厚木、横須賀、岩国、沖縄)や自衛隊基地も、数千発もの核ミサイルを保有するロシアからの核攻撃を受けることになるだろう。

 ロシアも米国との全面戦争は極力回避したいだろう。警告する意味で小型核を落とすとすれば、NATO加盟国以外で候補として真っ先に挙げられるのが、最近になってNATO参加の意思を表明したフィンランドスウェーデンだろう。特に長さ1300kmもの国境を接しているフィンランドは、ロシアが過去に何度も戦火を交えてきた相手でもある。同国のNATO入りの前にロシアが攻撃してしまえば、米国からの反撃も回避できるかもしれない。

 一方で、NATOの空軍司令部はドイツのラムシュタイン空軍基地に、同陸軍司令部は同じくドイツのハイデルベルグにあるのだが、ロシアがドイツを核攻撃するだろうと予測する記事はこれまではほとんど見当たらない。これは、ドイツがNATOの欧州における中心的存在であり、さらに同国がロシアとは経済的に今まで緊密であったことも影響しているのだろう。

 「世界経済のネタ帳 ロシアの貿易」によれば、ロシアの貿易相手国の中で、ドイツは輸出で第三位、輸入で第二位を占め、今までは貴重なお客様であり、かつ重要な先端技術の供給源だったのである。戦争の行方を占うためには、これまでの経済関係に注目する必要がある。

 以上をまとめると、ウクライナ以外で核攻撃を受ける危険性が大きい国を順に並べると、次のようになるのではないだろうか。

フィンランドポーランドバルト三国スウェーデン>ドイツ

 このように米国とロシアの対立の間に位置する、いわゆる緩衝国が真っ先に狙われることになるだろう。さて、東アジアの米中対立の場では、この緩衝国に相当するのが日本と韓国である。共に米軍基地が存在するという点も東欧の現在の状況にそっくりだ。習近平が台湾侵攻する際には、やはり日本と韓国も核兵器による恫喝の対象となるのだろうか。この点については、次回の当ブログの記事で考えてみることとしたい。

 そうならないことを切に願いたいものだが、今後、仮にプーチンが東欧のどこかの国に本当に核ミサイルを撃ち込んだとする。それを契機に第三次世界大戦がはじまってしまえば、この世界はおしまいだ。

 幸いにも破滅的な世界大戦に至らなかった場合、その後の世界はどう変わっていくのだろうか。確実に言えることは、旧ソ連に含まれていた国々は、一斉にロシアに対する自衛のために核武装に向かって走り出すだろうということである。特にロシアとの関係が良いとはいえないジョージアアゼルバイジャンがその先頭に立つだろう。地域紛争を抱える国が多い中東やアフリカ、さらに東アジアでも核武装の検討を開始する国が一気に増えるだろう。

 破産国家の北朝鮮ですら核兵器を持っているのである。ある程度の経済力を持つ国でさえあれば、核兵器を持つことは既に容易である。不安に駆られた国々は北朝鮮やイランに核技術の提供を求めるだろう。孤立していた北朝鮮やイランにとっては外貨を稼ぐ絶好の機会となるはずだ。「北朝鮮 ver.2」のような国々が世界のあちこちに新たに出現して、世界は急速に不安定になっていくだろう。経済のグローバル化の流れは完全に逆転し、紛争の頻発と経済のブロック化とが進む。

 エネルギーや食料の自給すらもできない日本のような国は、今以上に不安定な立場に、経済的な苦境に立たされることになる。ロシアの核攻撃の一発がパンドラの箱を開け、中に閉じ込められていた無数の悪を世界中にまき散らすことになるだろう。

/P太拝