「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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170億円を投じて建設したが、肝心の時に役立たずに終わった「巨大防災施設」

 九月から十月にかけて、関東地方は台風15号、19号、さらに21号に伴う大雨と大変な被害に見舞われました。先月末、これらの被害に関連する注目すべき記事を読んだので、以下紹介します。

「茨城・台風直撃なのに170億円投入の防災アリーナが役立たず 市民から怒りの声「まずは開けてくれないと…」」

  内容を要約すると、

・九月の台風15号の際、災害時に一万人収容できるとうたって神栖(かみす)市が約170億円の税金を投入して建設した「かみす防災アリーナ」が閉鎖されたままで、住民が中に入ることができなかった。また、「防災拠点」であるにもかかわらず、施設のガラスは強風で破損、軒下の防水シートもめくれあがってしまった。

・この施設はPFI方式によって民間業者(東京アスレチッククラブ)が運営しており、毎年3.3億円以上の税金が市から業者に支払われている。

・批判を受けて10月12日の台風19号の際には短時間(40時間)だけ開放して避難者を受け入れたが、洪水警報が出ていた13日の朝には避難者を追い出して再び施設を閉鎖してしまった。

・この施設の建設に170億円もの巨額費用をかけることについては、以前から市民からの批判があり、建設計画の見直しを求めて2017/10に住民投票を実施。「計画見直し賛成」が多数を占めた。

住民投票直後の2017/11に市長選を実施。ここでも「施設計画の見直し」を唱えた石田氏が当選したが、既に建設に着手していたこともあり、当初の計画のままでの施設の建設がすすめられた。 

 

「防災対策をうたう巨大ハコモノ建設計画」→「市民の批判が殺到」→「住民投票実施」→「市長選」という一連の流れを見ると、到底、他人事とは思えない。実に我が鳥取市の「市庁舎新築移転問題」とそっくりの経過ではありませんか!

 住民投票の後、市長選の前の時点で週刊東洋経済が出した記事も以下に紹介しておきます。住民投票の後で、当時の市長が住民投票結果を無視して「計画は予定通り進める」と表明したところなんぞも、我が市とそっくりです。(鳥取市の場合には、住民投票後に一年以上をかけて地元マスコミも利用して、真綿で首を絞めるが如く「ああだこうだ・・」とイチャモンをつけ、「住民投票結果で支持された現庁舎耐震改修案は実際には費用が高くなるので実行不能」との市民に対する世論操作を仕掛け続けていった果てに、ようやく当時の竹内市長が新築計画の再開を公表したのですけれど・・。)

J1鹿島の地元「神栖」がハコモノ行政に大揺れ

 

  ここで、神栖市がどのような市であるか確認しておきましょう。茨城県南部に位置し鹿島臨海工業地帯の一角を占め、人口は約9.5万人で鳥取市の約半分。市内には、日本製鉄、ダイキン花王クラレ等々、日本を代表する大企業の工場が多数集中、これらの事業所からの法人税で市財政は十分に潤っています。

 自治体の財政の健全性を示す財政力ランキング(2014年版)を見ると、神栖市の財政力指数は1.32。基準となる収入額を支出額で割った数字が財政力指数なので神栖市は収入が支出の1.32倍あることになり、全国1763自治体中で財政力指数は14位とトップクラスに位置しています。国からの支援である地方交付税は財政力指数が1.0以上の自治体には基本的には支給されないため、神栖市は自前の財源だけでも運営ができるリッチな自治体であるといえます。この防災アリーナの建設費の多くが神栖市自身の財源から出ているのでしょう。

 ちなみに我が鳥取市は財政力指数が0.51、税収等の自主財源は基本的に必要な額の約半分しかなく(実際には、今年度予算での自主財源比率は40%)、残りは国からの地方交付税や国庫支出金が頼り。全国の県と市町村全てからなる1763自治体中の順位は737位。人口20万人程度の自治体の中ではかなり貧しい部類に入るといってよいでしょう。このように貧しい自治体が、約100億円もかけて市庁舎を新築すること自体、そもそも無謀なのです。

 

 次に、神栖市住民投票とそれに続く市長選の結果を見ておきましょう。

(1)2017/10/1 住民投票 投票率33.4% 

   防災アリーナ計画の見直しに賛成 13,812票

   同上に反対           11,482票

 2012/5/20に投票の鳥取市住民投票投票率50.8%に比べると、大幅に低い投票率となっている。多くの大企業の城下町であり住民の出入りが激しいために地元意識が低い、市財政は十分に豊かであるため巨額建設費への抵抗感が薄い等々の理由が考えられる。 なお、当時の保立市長は、住民投票直後の10/6には、早くも投票結果を無視して「従来計画通りの建設続行」を表明した。

(2)2017/11/19 市長選結果 投票率54.9%(前回は44.9%)

   石田 進 22,933  伊藤 大 12,870  境川 幸雄 5,719

 当選した石田氏は建設計画の見直しを主張、他の二人は従来計画の推進派とのこと。前回よりも投票率が10%上がったことは、この問題が市民の関心をある程度集めたことを示している。しかし、結局は、石田新市長も当初計画通りの建設を承認した。既に工事が始まっており、中止すると資材費や解約料として約38億円の出費が発生するというのがその理由であった。

 

 さて、この一連の騒動が示すものは何でしょうか。筆者なりにまとめてみると以下のようになります。

① 各自治体の巨大ハコモノ建設への志向体質は、リッチな自治体であれ、わが市のような貧乏自治体であれ、今日の日本でも基本的にはあまり変わりがない。神栖市のような収入の多い自治体ならば余ったカネをどうしようと基本的には好きにすればよいのだろうが、市民からは「救急車が来るのに一時間もかかる」という声も上がっているとのこと。自分の選挙のために土建業界へ投げ与えるエサを確保することよりも、まずは住民サービスの確保を優先するのが当然だろう。鳥取市のような貧乏自治体が自分の経済力も考えずに裕福な自治体のマネをして巨大ハコモノを次々に建設、その必然的な結果として年々市民サービスの水準を切り下げ続けているのは実に愚かというほかはない。

② 防災のためには堤防等のハード面の整備も必要であるが、温暖化に伴う近年の災害規模の急速な増大に対応した巨額費用の捻出は困難であり、ハード面だけで災害対策することは現実には到底無理だろう。一方、ソフト面での対策にはそれほど巨額な費用は必要としない。住民の生命を守るために急がれるのは、

「行政側の各部門間の連絡網の整備」、

「刻々と変わる状況に対応する方針決定の責任者の明確化と、彼による迅速な判断」、

「安全な避難所の再選定」、

「住民に対して避難情報を迅速かつ確実に伝える連絡網の整備」

等々だろう。

③ この神栖市の施設を運営している民間業者の東京アスレチッククラブは、基本的には自治体所有の運動施設の受託運営が主な業務。この防災アリーナには市民向けの運動施設が併設されており、防災業務の管理も併せて受託したものと思われる。しかし、同社にとっても、防災施設の管理は全く初めての経験であったらしい。

 そもそも、住民の生命を守るべき施設の管理を、営利追求を目的とする企業に丸投げすることなど、絶対にあってはならないはずだ。上の事例にみるように、会社としては、余計な時間外労働や夜勤などはコストの増加につながるので極力さけたかったのだろう。企業活動としては当然の選択なのだが、その結果として、本来は救われるべき人命が失われる事態にもなりかねなかったのである。自治体職員であれば納税者である住民に対して責任を持つのが当然だろうが(そうあってほしいものだが・・)、公営施設に派遣されて来た社員の目線が、住民の方ではなくて自分の働きを査定する会社の上司の方を向いてしまうのは避けられないことだろう。

 鳥取市では、新庁舎の窓口に座っている受付職員は、既にその大半が人材派遣大手のニチイ学館から派遣された社員に置き換えられてしまっているそうだ。同社の狙いは、より職員数の多い市営保育園や市立病院に自社の社員を大量に送り込むことではないだろうか。その動きは既に始まっているのかもしれない。保育園や病院では市民の命に直接かかわる業務が大半であることはいうまでもない。

 鳥取市では、市の公的業務の外部委託は現在急速に進行中であり、最大のものが河原町に建設中の可燃物処理場である。市と周辺四町からなる県東部広域行政組合は、昨年二月に処理場建設費用193億円と完成後20年間の運営費用(約6.6億円/年)の合計総額325億円の計画案を可決した。国内第二位の製鉄会社であるJFEの子会社のJFEエンジニアリングが、この施設建設と運営に当たることが既に決まっている。

 また、上水道と下水道についても、国の後押しもあって民営化の動きが今後加速しかねない。両者ともに人間生活には必要不可欠なインフラであり、人命にかかわる事業といってもよいだろう。このような重要な事業を民営化しようとするようなグータラで役立たずの市職員や議員がもしもこれから出てきたら、さっさとお払い箱にしてやろうぜ!市民の皆さん!

 市の主要業務の外部業者への委託は、市民や国から得た税金の多くが、大企業経由で東京や大阪に流出してしまって地元には還元されないことを意味している。このことは我々市民の間で循環するおカネの総量の減少を意味しており、地元経済の振興の面で極めて重大な問題となる。この点については、稿を改めて別の記事で詳しく述べたい。

 

 最後に、本日、本格的に業務を開始したという鳥取市の新庁舎の防災上の役割について述べておこう。先回の記事で紹介したハザードマップに見るように、新庁舎は「指定緊急避難場所・指定避難場所」のいずれにも指定されてはいない。つまり、災害発生時には、この約100億円を使って建てた新庁舎では、今のところ、ただ一人の避難民すらも受け入れる予定はないのである。先回の記事で述べたように、この新庁舎周辺の数カ所の指定緊急避難先は、水害時には水没して使用不能となる可能性が高い。新庁舎周辺の住民は一体どこに避難すればよいのだろうか?

 新庁舎の避難民受け入れに関しては、市が庁舎新築移転が確定した位置条例採決から半年たった時点のH27年5月に公表した「みんなでつくる鳥取市庁舎の考え方」のP6に、たまたま災害発生時に庁舎内にいた市民を対象として、「来庁者など市民が一時的に避難することできる(記載ママを転記)一時避難スペースを設ける」と書いてあるだけなのだ。この文書によると、新庁舎内に設ける仮眠室やシャワー室は、あくまで職員専用らしい。

 巨額費用をかけて新築した新庁舎からは締め出され、近くには一時的に寝泊りする「指定避難場所」すら全くない状況下で、被災した旧市内の市民は一体どこで寝泊りすればよいのだろうか?これでは、「鳥取市の現在の防災対策は、あの神栖市以下」と言わざるを得ないだろう。

/P太拝