「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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人口急減が止まらない鳥取市

一昨日の夜は中秋の名月。昼間晴れて期待していたのに、夜には厚い雲に邪魔されてお月様を拝めず残念。昨夜は快晴でようやく拝めましたが、まん丸ではなくて若干面長に見えたお月様でした。

さて、最近、鳥取ネタをまた一つ見つけました。今回は漫画、下の図をクリックすると拡大します(以下の図、表も同様)。f:id:tottoriponta:20210923095834j:plain

鳥取から砂丘を取ったら何も残らない」という所で笑うのは鳥取市民としては自虐の香りブンブンですが、別のページでは青森も相当オチョクラレているので、その点については公平かも。

この「世界の終わりに柴犬と」という漫画、犬好きの人(筆者もその一人)にお勧めです。出て来る人物、じゃなかったモノすべてが、荒唐無稽でシュール、かつアナーキー。「天才バカボン」を書いていた頃の赤塚不二夫や、漫才の「コント山口君と竹田君」と共通するものを感じます。第一話の冒頭で「シュレディンガーの猫」の話が出たのを見て、思わずのけぞってしまった。

筆者は現在二巻目まで持っているが、近いうちに三巻目を買うのは多分確実。次のサイトからその一部を無料で読むことが出来ます。

「世界の終わりに柴犬と 第37話」

さて、本日の本題は鳥取市の人口急減問題。このままでは、本当に「鳥取から砂丘を取ったら何も残らなく」なりかねないのです。

 

(1)人口推移の近隣都市との比較

中国地方の、主として山陰側に位置する人口14~20万人の五つの都市の人口推移を下の図-1に示す。これらの都市は互いにある程度孤立しており、同時に周辺地域の中心的な存在となっている。人口が大体同じレベルの都市を選んだのは、一般的に人口規模が小さい自治体ほど人口減少率が高い傾向があるためだ。

 

図-1 鳥取市と近隣各都市との人口推移の比較

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五年ごとの国勢調査年の10月1日時点での人口を、2005年の国勢調査の結果を100としてそれに対する比率で示した。図に示したいずれの都市においても、2000年あるいは2005年が人口のピークでそれ以降は減少に転じている。日本全体の人口も、2010年の1280.6万人をピークに減少に転じている。なお、国勢調査はふだん日本に居住している全ての人を対象としており、三か月以上日本国内に居住する外国人もこの調査結果の中に含まれている。

さて、この五つの都市の中では、明らかに鳥取市の人口減少率が最悪である。ピーク時の2005年の20万1740人から、2020年の18万8614人へと、この15年間に1万3126人、6.51%も減少している。各都市と日本全国の2020年時点での人口、及び2005年からの人口減少率を以下の表-1に示しておこう。

なお、鳥取市の住民登録人口(国勢調査の対象とは異なる)は、先月の2021年8月末時点で18万4,943人となっている。鳥取市の住民登録人口は、過去五年間では、約1000~約1500人/年の速度で減少を続けている。このままのペースでいけば、約五年後には17万人台にまで落ち込むことはほぼ確実だろう。

 

 表-1各都市の現在の人口

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五つの都市の中で人口減少率が二番目に大きいのは松江市だが、その減少率は鳥取市の約半分にとどまっている。

米子市出雲市は、ほぼ横ばいか微減。出雲市は電子部品等の製造業の割合が高く、たびたび報道されているように市内の工場で働く外国人労働者の比率は大都市並みに高い。米子市では、市を代表するような大企業は乏しいものの、商業・流通業が数多く集積している。

観光業のイメージが強い山口市が意外に健闘しているが、これはユニクロの運営会社である世界的大企業のファーストリテイリングの本社が山口市内にあることと関係がありそうだ。山口市の産業構造を調べてみると、繊維関係の製造・流通業の構成割合が他都市に比べて著しく高いのである。

 

(2)鳥取県内各自治体の市町村住民税の推移の比較

上に述べたような鳥取市の急激な人口減少の根本原因が近年の市経済の不振にあることは確実だろう。人間は経済的動物であり、より良い仕事、より高い賃金、より豊かな生活を求めて、世界中の無数の人々が県境や国境を越えて絶えず移動し続けていることは、日々のニュースに見るとおりなのである。
住民個々の収入の推移については、各自治体が徴収する住民税の総額から推定できるだろう。個人住民税は県民税と市町村民税からなり、各個人の控除後の申告所得金額に対して、その4%が県民税、6%が居住する自治体への市町村住民税として徴収される。この税率は国が定めた標準税額であり、名古屋市等の少数の例外を除いて国内の大半の自治体が同じ税率である。従って各自治体の個人市町村民税総額の推移を見れば、その自治体の住民が豊かになって経済的に発展しているのか、或いは住民が貧乏になり経済が衰退しているのかを判定することができるはずだ。
「住民税」

さて、今年の7/2の日経新聞に次の記事が掲載された。
「中四国の個人住民税、「島留学」島根・知夫村が伸びる」

この記事によると、2009年を100とした時の個人住民税総額の伸びの中国地方ランキングは以下のようになる。

一位 岡山市

二位 島根県知夫村隠岐諸島

三位 広島市

四位 鳥取県日吉津村

五位 高知県大川村(四国山脈中の愛媛との県境の村)

六位 島根県海士町隠岐諸島

人口数百名の離島や山間部に位置する村が岡山市広島市という大都市に肩を並べてランキングの上位に入っているのが注目される。この記事の中の「ふるさとクリック 地図で見る個人住民税」という所をクリックすると、日本地図が現れて自分の街の住民税の推移を見ることができる。

まず中国地方を主とする西日本の地図を下の図-2に示す。個人住民税総額の伸びが著しく高いのは、そのほとんどが名古屋、大阪、堺、京都、岡山、広島、北九州、福岡など人口70万人以上の大都市(政令指定都市)に限定されている。

これは国の指示によリ2018年度に県から政令指定都市へと個人住民税の財源の一部が移譲され、個人住民税の配分がそれまでの市6%+県4%から、市8%+県2%へと変えられたことの影響である。人口70万人以下の市では従来と同じく市6%である。

政令指定都市以外にもボツボツと伸びが大きい小規模自治体が散見されるが、こういう自治体こそが真に伸びている自治体であると言ってよいだろう。

 

図-2 西日本の各自治体の個人住民税総額の伸び

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次に、図-1と表-1で人口推移を比較した鳥取市を含む五つの市について、2009年から2019年までの住民税の推移を下の図-3に示す。我が鳥取市は10年間でわずか1.32%しか増えていない。要するに、鳥取市でずっと働いていても、なかなか給料が上がらないのである。これでは人口流出が止まらないのも当然だろう。

 

図-3 鳥取市と近隣都市との個人住民税総額の伸びの比較

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さらに鳥取県内の全ての自治体、さらに県外の注目される自治体について、この日経のサイトで得たデータをまとめた表-2を下に示す。ここで注意しなければならないのは、各自治体間で人口増減に大きな差があることである。

個々の住民が納める住民税が毎年変わらなくても、人口が増え続ける自治体では個人住民税の総額は当然増加する。反対に、個々人が納める住民税が毎年増えていても、全体の人口が減っている自治体では住民税総額は減少しかねない。各自治体の経済の発展程度を個人レベルで比較するためには、住民一人当たりの個人住民税の推移を見る必要がある。

 

表-2 鳥取県内各自治体、及び県外自治体の個人住民税の伸びの比較

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2009年と2019年の各自治体の登録人口を入手するのは容易ではないので、ここでは2010年と2020年の国勢調査の結果を載せた(2020年の値は確定値ではなく速報値)。一年のずれはあるが大体の傾向は変わらないだろう。

表-2に見るように、山間部の若桜町や日野郡の三町では、この十年間で人口が20%以上も減少している。小さな自治体ほど人口減少が激しい傾向にあることが判る。

さて、住民一人当たりの個人住民税の指標として、(2009年の個人住民税総額)/(2010年の人口)と、(2019年の個人住民税総額)/(2020年の人口)とを比較した。前者を100とした時の後者の増加分を下の表-2の第三列目に「一人当たりの個人住民税伸び率」として表示した。

鳥取県内の各自治体についてこの指標を比較すると、何と(!)、鳥取市が県内で最下位であった。対照的に、山間部に位置する日南町、江府町、若桜町は急速な人口減少にめげずに大いに健闘している。
表-2では各項目の指標が高い方から順にベストスリーを赤字で示している。地理的に恵まれた位置にある日吉津村や湯梨浜町が好成績なのは当然として、八頭町、琴浦町北栄町、大山町、日野町もかなり健闘している。

また、この表の第四列目には2019年時点での「住民一人当たりの個人住民税金額」を示す。この計算では、上と同様に各自治体人口として2020年の国勢調査の速報値を使用した。言うまでもなく、この数値が大きいほど個人所得も大きくなる。鳥取市は、この十年の間に境港市にも抜かれて平均個人所得で県内第四位へと転落した。他県近隣都市と比較しても、鳥取市よりもこの金額が低いのは兵庫県豊岡市だけである。

県内全体をみれば、この「一人当たり個人住民税」にしても、「個人住民税総額」にしても、東部の自治体が総じて振るわない傾向がある。地域の中核であるべき鳥取市の経済的不振が、東部地域全体の足を引っ張っているように見える。

表の末尾の県外自治体の「一人当りの住民税伸び率」を見れば、山口市が意外に不振なのを除いて、他の自治体は総じて好成績である。「人口減少に負けない元気な村」として各種の記事によく取り上げられているような小さな自治体では、やはりこの指標が非常に高いことがよく判る。人口減少率も離島や山間地という不利な位置の割には小さい。

なお、智頭町に隣接する岡山県西粟倉村は、近年は林業による村おこしが盛んで全国的に有名になっている。都会からの移住者も増えているようだ。

鳥取県の日南町もこれら「元気な町や村」の仲間に加えてよいだろう。当ブログでも以前に紹介したことがあるが、2018年に惜しくも急逝された増原前町長が強いリーダーシップを発揮、都会から若者を呼びよせる街づくりを積極的に行ってきた。人口減少という大波の中で独自の政策で頑張っている自治体の共通点とは、多くの住民が一致して認める優れたリーダーの存在なのである。

 

(3)鳥取市の経済不振の原因

以下、なぜ今の鳥取市が経済不振におちいって人口流出が止まらないのか、その原因を筆者なりに考えてみた。詳しく書くと非常に長くなるので、以下、簡単に箇条書きにする。個々の具体的な点については、当「市民の会」の公式サイトや当ブログの過去の記事を参照していただきたい。

① 「ハコモノづくり」偏重の市政


 1970年代の日本の高度成長末期の「列島改造論」以来、国も地方も景気刺激策と称して、何かと理由を見つけては道路や公共施設を次々に建設してきた。2000年代に入って「平成の大合併」後には、各自治体が過剰なハコモノやインフラを抱えていることが明白になり、新規の建設どころか既存施設の廃止が主要課題となった。しかし、我が鳥取市は最近になるまで相変わらずハコモノづくりに執着し続けてきた。いくつかの実例を挙げれば、次のようになる。

・元々きれいな千代川の水をわざわざフィルターを通して市民に飲ませるために、数百億円をかけて建設した巨大浄水場。急速な人口減少の結果、今ではその処理能力が大幅に余っている。過去の巨額設備投資を回収するために、2018年に市は水道料金の大幅値上げを強行した。


・2012年の住民投票で市民に支持された「耐震改修案」を後でひっくり返して、駅南に百億円をかけた新市庁舎を建設。おそらく耐震性には問題がないであろう旧庁舎を、わざわざ数億円をかけて現在解体中だが、市はその跡地を活用するプランを未だに何も準備していない。


・南吉方の鳥取三洋跡地を市と県が買い取り、数億円の税金をかけて建物と設備とを岡山の製菓企業に提供。それで市内の雇用はどれだけ増えたのだろうか?深澤市長には説明する責任がある。誘致企業に税金と人材とをむしり取られて嘆いている地元企業は多いと聞く。


・約10億円をかけて2013年に完成した駅前の屋根開閉式広場「バードハット」(別名、ダラズハット)。いったい何のために建てたのか?百パーセントの市民が理解不能である。テレビの「ナニコレ珍百景」への登録資格だけは十分にありそうだ。まさに、「ハコモノ建設に執着し続けてきた鳥取市政」を象徴する記念碑に他ならない。

 

② 過去の巨額インフラ投資の経済効果は?


 上に見るように、何かと理由を見つけてはハコモノを作り続けてきた鳥取市。合理性を欠いた過剰な投資が続いた結果、現在、その負債が市民の肩にのしかかっている。過剰な浄水設備、まだ使える市庁舎を放り出し巨費を投じて新築した市本庁舎、嘲笑の対象でしかないバードハット等々、それ自身では一円も生まないどころか、維持経費が余計にかかる施設ばかりだ。
ハコモノの建設費の大半は合併特例債等の国からの補助金で賄うから大丈夫と市は説明し続けてきた。しかし、平成の大合併時の合併特例債を利用してハコモノを市内のあちこちに建設した結果、維持経費がかさんで市財政が悪化、夕張市のような財政再建団体に転落しかかった丹波篠山市の例もある。巨大浄水場建設にみるような不合理な市政を続けてきたために、本来は必要ではなかったはずの余計な支出が市民に強制され続けている。市民が消費に回せるカネがその分減った分だけ、市内の経済はより一層の停滞が続いているのである。
さらに、合併特例債等の国からの補助金も、元々は日本国民が国に納めた税金がその財源なのである。ただでさえ乏しい国の貴重な財源を無意味なハコモノづくりに浪費し続けてきた鳥取市は、日本全体からみれば、単なるお荷物どころか、前に進もうとする国の脚を引っ張る邪魔者でしかない。

鳥取駅前のバードハットや、住民投票結果を日本で初めて市長と市議会がひっくり返して建設した駅南の新市庁舎の無意味さと、自分たちの納めた税金が無駄に使われたことにあきれた観光客は、鳥取市に対してどういう印象を持つのだろうか?

 

③ 「ハコモノ偏重」=政治家の選挙対策

どんなに小さな自治体にも、道路や橋のインフラ設備、役場や公民館などの公共建物、民間住宅なとが存在する。これらの建設や維持管理のための土木建設業者が町内に全く存在しないという自治体は日本のどこにもないだろう。過疎地域では、土木建設業が町や村の主要産業となっている自治体も多い。自治体側から見ても、公共事業による土木建設工事は主要な支出のうちの一つである。役所と特定業者との癒着が発生しない場合でも、業者側が各種選挙の際に「公共事業への投資増加」を公約に掲げる候補を応援したがるのは明らかだ。これほど行政と癒着しやすい業界は他にはないだろう。

竹内功鳥取市長は旧建設省(現国土交通省)出身である。東大法学部を卒業して1974年に建設省に入省した。当時の首相は、インフラ投資と国土開発を強力に推進して1972年には「日本列島改造論」を公表、全国の土木建設業界からの強力な支持を背景として、学歴は高等小学校-専門学校卒ながら政界のトップにまで登りつめた田中角栄氏であった。田中氏ほどの成功例ではないとしても、公共事業乱発によって支持を拡げて政界の権力階段を登り詰めていく政治家は、当時は数えきれないほどにいたことだろう。竹内氏も、建設官僚としてのキャリアを通じて、政界での上昇手法や関係法の網の目をくぐる手口を十分に学んできたであろうことは想像に難くない。

2002年に前任の西尾市長が始めた巨大浄水場建設計画の凍結を公約として初当選してからの竹内市政は、いったん休眠させた浄水場建設を再び復活させ、2012年の住民投票で否決された新市庁舎建設を開票翌日には断念すると言っておきながら再び計画を復活させて建設を強行するなど、ハコモノ建設に著しく執着し続けた三期12年間であった。当時副市長をつとめていた深澤現市長を後継者に指名し、自身は2016年夏の参院選全国区に出馬したものの、全国で獲得した約九万票のうち県内で約二万票、地元とする鳥取市内に限ればわずか一万票しか集められないという惨状で落選した。
自らの公の場での約束を何度も平気でボツにし、なにかと悪い噂も絶えない同氏の人格に対して、圧倒的多数の鳥取市民が「No!」を突きつけたのである。

国の財政悪化に伴って国内の土木建設業は縮小が続いており、この業界に以前の集票力がもはや無いことは明らかだ。公共事業のバラマキで票を集めて政界の階段を登っていくというかっての成功ストーリーは、既に時代錯誤でしかないのである。

地方自治体の首長の椅子を自身の政界での出世のためのワンステップとしか考えないような政治家を、不注意にも首長に選んでしまった市民は不幸である。彼は、市民のための政策を検討するよりも、国会議員、大臣、さらには首相になるための自身の勢力圏の拡大の方を優先するからである。現時点で言えば、某都知事氏もこのタイプの政治家の一人なのかもしれない。もっとも、彼女が自分の基盤として狙っているのは土木建設業界ではなく、マスメディアを介しての自身の虚像づくりなのだが。

 

④ 平成の大合併は、地域住民が自らの努力で豊かになろうとする機会と意欲とを圧殺した

上に示した表-2によれば、住民一人あたりの所得の伸びでみれば、人口数百人程度の極小自治体が、人口十数万人程度の中都市~百万人近い大都市のそれを上回っている(大都市の人口は増加もしくは横ばいだから、個人住民税総額の伸びが同程度であれば、人口が減少している小さな自治体の方が大都市よりも一人当りでの伸びは高くなる)。この理由は、役場が地域の実態をよく理解している小さな自治体ほど、地域の実情に応じた実行しやすい政策を次々に打ち出せるためだろう。この点から見ると、国が主導して実施した「平成の大合併」は、個々の地域の発展のためにはむしろマイナスに作用してきたことは明らかだ。
鳥取市の場合には、周辺の八町村との合併実施は2004年11月であった。以来17年、旧町村からの旧鳥取市域への人口流出が止まらない。当ブログや当「市民の会」のサイトでも何度か取り上げているが、合併された旧町村では住民が自から地域を良くしようとする機会と意欲が急速に失われつつあり、地域での生活はますます困難になっている。現地からの声も含めた現在の状況を、以下、いくつか箇条書きにしてみよう。

佐治町では町内の店舗がほぼゼロとなり、買い物するには車を運転して用瀬町まで降りなければならない。以前は集落まで来てくれた移動販売車は売り上げ減少で来なくなった。高齢で運転ができなくなったらどうしたらよいのか。


・青谷の奥の自分の集落から青谷駅までバスで往復するだけで約千円、JRも使って鳥取駅まで往復すると二千円近くかかる。公共交通のコストが高すぎるし、便数もどんどん減っている。


・青谷町の若者は、その多くが結婚を契機に長尾鼻の坂を越えて浜村へ、さらには旧市域へと引っ越してしまう。人口が急速に減っており、地元に一軒しか残っていないスーパーが消えるのではと心配だ。


・上とは反対に旧市内での話。旧市域では、小さな新築住宅が通勤・通学の便のよい地域に続々と密集して建っているが、その多くは旧町村部からの移転である。市外からの転入は少数にとどまる。


・市内各地で耕作放棄地が急速に増えている。隣町への農道も手入れがなされず、藪が繁って通れなくなった。


・合併前は集落の共有林を集落内の合意だけによって切り共同利用設備の購入に充てていたが、合併後は市長の許可が必要となり利用が困難になった。


・合併で町役場が廃止され代わりに各地に総合支所が出来たが、支所に与えられている決済権限は数万円程度。ほぼ全ての決済を本庁舎に仰いでいる状態。


・支所の職員は三年程度で本庁舎に帰るのが大半であり、地域の実情を把握している市職員が育たない。住民からは「支所に行っても、顔を知っている職員が一人もいない」との声が挙がる。

2004年に鳥取市と合併していなければ、表-2に示した西粟倉村のように、地域の問題を地域の中だけで相談して解決でき、都会との連携も自ら率先して進められたはずである。地域から意欲のある住民が消えることで、今まで活用されて来た地域の多くの資源が使われないままに失われようとしている。実にもったいない話だ。

鳥取市との合併を解消して旧町村部を再び分離・独立させた方が、よほど旧町村、鳥取市、さらに国にとってもプラスになるのではないか。

なお、鳥取市の竹内前市長が平成の広域合併に極めて積極的であった理由は明白だ。合併して市の人口と面積が増えれば増えるほど、自分が決済できる金額が大きくなるからである。国会議員を目指している同氏にとっては、自分の権力をさらに強化し、かつ影響力の及ぶ範囲をさらに広げられる機会を絶対に見逃さないのは全く当然のことなのである。

 

⑤ 市の業務を次々に大企業に切り売りし続ける鳥取市

約百億円を投じて新築した市本庁舎。設計と建設は県外の大企業が担い地元企業は下請け的に参加しただけだったが、完成した新庁舎でも市民と直接触れ合う窓口職員は、そのほぼすべてが東京の一部上場企業であるニチイ学館からの派遣社員となってしまった。社員自体は大半が地元住民だが、従来の市自身による臨時職員の直接雇用とは異なり、職員を管理する対価として新たに相当の税金が東京へと流出することとなった。

これと同様の現象が市内のあちこちで起こっている。現在、数百億円を投じて河原町に建設中の可燃物処理場では、施設の設計・建設・運営を東京の大企業であるJFEエンジニアリングに丸投げしている。

市内吉成で更新建設中の市民体育館も、建設と完成後の運営業務を、大阪市に本社を置き世界的スポーツメーカーでもあるミズノを主とする企業体に一任してしまった。この結果、巨額の税金が市内を素通りして東京や大阪に吸い上げられることになった。

長期的に見てさらに問題なのは、業務の外注化によって市職員の実務能力が失われることである。施設の建設やゴミ処理などを大企業に丸投げして直接物品購入や作業管理を担当しなくなった市職員は、購入価格の詳細や作業工数の実態がわからなくなってしまうはずだ。結局、担当職員は大企業が出して来た見積もりをそのまま承認するしかなくなる。その結果、市内や国から集めた税金が市内に廻ることなく、さらに余計に外部へ流出することになる。

外部に流出するカネが増加する一方で、市内を循環するカネの総量が減れば、それに比例して市内の雇用と個々の市民が得るカネの量も減ることになる。また、市職員の能力が低下すれば、仕事内容に見合わない高給を得ている市職員がその分だけ増加することになり、市内の公務員と民間企業従業員との間の格差をさらに助長することになる。

度の過ぎた市業務の外注化は、結局は市民を貧困化させるだけなのである。公共施設の設計・建設や管理の仕事は、市内企業が請け負えるレベルの範囲で極力計画するべきである。市内企業に仕事を回そうとしない深澤現市長は、自ら市の貧困化を促進し続けていると断言してよいだろう。

 

⑥ 市の基幹産業であった電機産業が壊滅的となった後、何ら経済再生の道筋を示せない鳥取市

今まで述べて来たような市経済の衰退は「市の基幹産業であった電機産業が壊滅した以上は仕方がない」という声が挙がるのかもしれない。しかし、日本の電機産業の生産工場の海外への流出は1990年代から既に始まっていた。筆者自身もこの分野の某社で働いていたのだが、既に90年代初頭から県内の工場を次々に閉鎖、県内取引先との関係も相当程度絞っていた。2000年代に入ってからは国内の生産工程の大半を中国や韓国に移し、国内では大規模なリストラを何度も実施してきた。市内での電機製造業の縮小傾向は少なくとも今世紀の初めにはもはや明白だったのに、市は相変わらず国内からの工場の誘致に熱心であった。

このように従来の市の基幹産業が急速に衰退しつつある場合には、少なくとも市は公的資金を投入して市内の需要と消費の低下を極力抑えるべきだっただろう。具体的には、市内の企業が受注できるように、市の発注する工事や業務の内容を市内企業のレベルに合わせて再調整すべきであった。

ところが、過去十数年間の竹内・深澤市政の方向はこれとは真逆であり、上で述べたように工夫次第では市内企業でも受注可能となる業務や工事でも、発注先は市外の大企業一辺倒であった。市民や国から集めた税金はそのまま市外へと流出し、そのために市内の景気は余計に冷え込むこととなってしまった。

この間、竹内・深澤市政がずいぶん熱心であった企業誘致に関してさらに付け加えれば、広大な工業団地と優遇制度を整備して生産工場を誘致しても、景気が悪くなるか他に有利な生産拠点が見つかればさっさと撤退されてしまうことになる。市が至れり尽くせりで優遇した結果、自前の投資無しでやって来た会社は、投資をしていない分だけ逃げるのも早いのである。

仮に市内に本社機能があった場合には、生産工場が市外に移転した後でも製品開発や管理部門が残るのだろうが、鳥取市内に本社がある大手・中堅企業は元々極めて少ないのである。山口市ファーストリテイリングの本社があるのは、同市内の小郡地区が同社発祥の地であったからだ。

時間はかかるが、自前の資本投資を地域内に集積し続けてきた地元企業や、意欲のある人材による市内での新規起業を市が強力に支援すべきである。元々から鳥取市に愛着を持っていない企業にカネをつぎ込んでも、公的資金と人材とを食い逃げされて終わってしまう可能性が高い。

松江市ではソフトウェア開発を主とする情報産業と観光とが活発になってきているが、鳥取市の情報産業の数はわずかであり、市の観光業への取り組みも中途半端である。もっとはやく第二次産業偏重の姿勢を改めて、サービス業などの第三次産業への変換を図るべきであった。

「電機関係がダメになったから、市の人口が減るのは仕方がない」と、市長を始めとする市の幹部職員や市会議員が既に努力を放棄しているのであれば、もはや、彼らには市民の税金でメシを食う資格はないのである。

/P太拝