「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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コロナ敗戦の原因(2)

今回もコロナ禍について取り上げてみたいと思います。記事のタイトルとしている日本の「コロナ敗戦」の実態についてもう少し詳しく見てみましょう。

(1)ワクチン接種率もコロナ検査回数も、開発途上国以下の日本

先回の記事で日本のワクチン接種率が開発途上国並みであることを紹介したが、PCR検査や抗体検査などの検査回数についてはどうだろうか。「Our world in data」のコロナウィルスのサイトの6/18時点での主要国と日本の周辺国の各国別の千人当たりの検査数の比較を下に示す。(図はクリックで拡大)

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縦軸は千人当たりの検査数であり、各国の線の一番上端が6/18時点でのその国の検査数を示し、線の下端は検査開始時の検査数と日付を示す。横軸は2017年の各国の一人当たりのGDP(米ドル換算)である。

全体としては、一人当たりGDPが高い、いわゆる豊かな国ほど検査数が多い傾向がある。これは当然予想される話。
ところが、日本だけがこの傾向から大きくずれている。以下に一人当たりGDPが高い国から順に、6/18時点での各国の千人当たりの検査数(オーストラリアのみ、6/22時点)を示す。シンガポールのように1000を越えている国は、一人当たり一回以上検査したことを示している。

シンガポール 2189、米国 1388、ドイツ 752、オーストラリア 775、英国 2868、

日本 117、韓国 198、トリニダード・トバコ 153、タイ 106、南アフリカ 208、

インドネシア 44.8、フィリピン 122、インド 279、ベトナム 51.8

日本より検査数が少ないのはタイ、インドネシアベトナムの三か国だけ。南アフリカやフィリピン、インドの方が日本よりも多い。さらに一人当たりGDPが年$20,000以上の約45カ国に限ると日本が最下位、そのひとつ上の順位のトリニダード・トバコを参考のために図中に示した。

五輪を間近に控える東京都ですら175(6/21時点)であり、南アフリカよりも少ない。そのような状況下なのに、日本政府は「安全安心な開催に努める」と、具体的な対策も示すこともなく「壊れたレコード(死語)」のごとく繰り返すばかりである。

コロナ対策に関しては既に日本は発展途上国以下であり、国民の過度の行動自粛によって感染者数が抑え込まれているに過ぎない。いやそれどころか、五輪をやりたいばかりに、感染者数を低く見せるために意図的に検査数を抑えている可能性もあり得る。

(2)コロナ敗戦の根本原因

どうして日本政府は、このような低レベルのコロナ対策しか取れないのか。去年からの一連の政府対策の不手際を見ていると、次のような要因が浮かび上がってくる。

① 自民党の支持業界の既得権益を極力温存
上の図に見るように、政府はPCR検査回数を一向に増やそうとしてこなかった。また、ワクチン接種担当をほぼ医師・看護師のみに限定してきた。このように、政府が個人や企業による医療業務への新規参加を一貫して拒み続けてきていることは明白である。医療業界の既得権益の保護を国民の健康よりも優先している。

昨年の「GOTO・・」事業で交通・観光業界に税金をばらまき、結果的に全国に、特に沖縄県にウィルスを拡散させたのと同様の構図である。コロナと五輪関連では、広報で電通、人材派遣ではパソナとの癒着が明瞭だ。医療体制の整備に最初から全力を投入しようとせず、まず自分のバックにいる業界の利益を最優先しようとするから、連発する政策の全てが不合理かつツギハギだらけになってしまうのである。

② 官僚の不作為・傍観姿勢
誰も使おうとしない「アベノマスク」の欠陥を指摘せず、国費を無駄に浪費させた。税金を浪費しながら感染をまき散らすことが最初から自明の「GO TO・・・」政策の実施を傍観。ワクチンが必要なことは最初から分かっているのにその手配が遅れた等々、上から叩かれることを恐れるあまり、有効な対策を自発的にボトムアップで政府トップに提案することを避け続けている。

③ 政府トップの著しい無能ぶり
昨年春の突然の一斉休校、アベノマスク配布、GOTOによる感染のまき散らし、観客を入れての五輪の強行等々、客観的な効果予測を伴わなず国民へのまともな説明もできない場当たり的な政策の羅列が続く。

そもそも、上の②に挙げた官僚の不作為・傍観姿勢も、その根本原因は安部-菅コンビが2014年に実施した内閣人事局の設置にある。トップの命令に逆らって左遷されることを恐れた各省庁の幹部級は、トップの思いつきに過ぎないデタラメな政策に対して全くモノを言わなくなってしまった。現在の菅総理の右往左往ブリも元々は自らが蒔いたタネなのである。

もっぱら、楽屋裏での公表できない取引や票やカネの貸し借りで権力を拡大してきた前総理と現総理ではあるが、それ以外の専門知識については一般人よりもかなり乏しいらしい。トップの思いつきにすぎない実施不可能な政策に日本中が振り回されている。

①について付け加えれば、ワクチンの打ち手を限定した結果、打ち手不足となったことで医師の日給は高騰が続いている。日本医師会会長は表面的には政府批判をしてはいるものの、既得権益に一切手をつけさせなかった上に、人件費として医療業界に巨額の税金が流れ込んだことで内心はウハウハ状態ではないだろうか。既得権益を守り切ったことで会長の座は当分安泰だ。政府と医師会の間には最初から出来レースの筋書きが出来ているのかもしれない。日本医師会は次の選挙でも組織を挙げて自民党候補の集票に奔走するのだろう。
「ワクチン日給17万円も・・・医師確保へ一手」 

日本とは対照的な例として、既に一人当たり三回近くも検査済、さらにワクチン接種の完了者も国民の半分近くに達しようとしている英国のワクチン接種体制の仕組みを紹介しておこう。なお、この記事は三月中旬時点での話である。
「日本はコロナ対策で周回遅れの国になった」英国在住作家が嘆く理由」

この記事によると、英国ではワクチン注射もボランティアが行っているとのこと。法律を改正して、適切な研修を受ければ素人でも注射を打てるようにしたそうだ。注射担当だけでも全国から三万人超ものボランティアの応募があった。ボランティアだからほぼ無給だろう、政府の負担も軽くて済む。

一方、我が国では日給最高額17万円の医師に注射を打たせているが、その原資は国民から集めた税金なのである。これでは国の借金がさらに増えるのは当たりまえだ(のクラッカー!・・?)。英国の対応は、「法律の制約があり医師と看護師しか注射を打てない」と主張しつづけている日本政府のそれとは大違いだ。

必要だと思えば国会を開いて法律を変えればよいだけのこと。国会では与党が過半数を占めているのだから法律を変えるのは簡単だ。要するに、菅総理には今の医療体制に若干でも手をつけようとする気が全くないのである。
また、英国では近所の薬局でも接種可能な体制となっているとのこと。パフォーマンス優先で自衛隊のケツを叩いて東京と大阪に大規模接種会場を設置したものの、予約が三分の一程度とガラガラの状態。あわてて全国各地からの接種も受け付けることに変更した某自称先進国とは大違いである。このコロナ禍の中、高齢者がわざわざ電車に乗って都心まで出かけるものと信じて疑わない政府トップ。彼ら(彼?)が実際の民意からはかけ離れた発想しかできないことを露呈した典型的な事例である。

このように他国と比較してみると、今回のコロナ禍も東日本大震災の後の経過と全く同じである。震災の後、被害を受けた沿岸各地には住民が望んでもいない巨大な防潮堤建設が強行されて大手ゼネコンが大儲けをした。今回も国民が納めた税金から巨額の人件費が医療業界へと流し込まれる。「GOTO・・」で菅総理の地盤である観光・交通業界に税金が流し込まれたのと同じ構図だ。

大災害や伝染病の大流行(パンデミック)が起こるたびに、根本的な対策や解決方法を後回しにして、まずは自民党の関係団体や企業が大儲けをする。「焼け太り」、きつい言い方をすれば「火事場泥棒」の公然の活躍が毎回繰り返される。

筆者個人としては、危険な現場で日夜頑張っておられる医療関係者にはもちろん感謝を惜しまないが、国全体の動きを他国と比較してみれば今の日本の暗部が見えてくる。かくして感染者の累増は続き、コロナ禍の収束と経済の回復は遅れ、国の借金と将来世代へのツケはさらに膨らむのである。

菅総理には早く辞めてもらいたいし、この秋には実際にそうなるだろうが、その先はどうなるのか。

自民党は国内各種業界のいたる所に網の目のように自党の支持組織を張りめぐらして来た。そのことは、参院選の全国比例区自民党候補者の出身団体を見れば一目瞭然である。票と引き換えに各業界に税金をばらまくことでその支持組織を維持してきたのだが、今回のコロナ禍のように「医療を優先すれば交通・観光・飲食・五輪がつぶれる。その逆をやれば医療崩壊が起こる。」ような状況になってしまうと、彼らはもはやどうしていいのかわからない。さらに国債を発行して国の借金を増やしながらカネをばらまいて、各業界を何とかなだめる以外には手がない。
例えていえば、自分で張りめぐらした網に逆に手足をからめとられて動きが取れなくなってしまった、愚かなクモのようなものだ。

コロナはいつかは収束するのだろうが、日本国内にはこのような事例は既にほかにいくらでもある。政府の方針が全く見えない原発事業などが典型例だ。いままで構築してきた支持業界との強いヒモに縛られて、どこにも進めなくなってしまったのが今の自民党である。自分でそのヒモを切るだけの決断力も腕力も、ヒモを切った後にどこに向かって進むのかの構想力すらも、今の彼らには無いのである。もはや自民党が国を統治する能力すら急速に失いつつあることを露呈させたのが、今回のコロナ禍の最大の教訓と言ってよいのかもしれない。

一般の会社であれば、経営者が無能で会社が危機に瀕した場合には経営者を交代させる。根本的な立て直しが必要である場合には、社内外への今までのしがらみがない優秀な外部人材に経営を一任することが多い。ゴーン氏が統治していた日産自動車は、その初期段階に限ればこの手法によって目覚ましい回復を見せた。

では、日本国の場合には、しがらみだらけの自民党から野党へと政権交代させれば問題は解決するのだろうか。残念ながら今の野党には、与党と同様に将来への具体的な構想力が欠けているし、かっての野党にもその力は無かったように思う。一定勢力を代表して反対するだけの座に安住し続けて来たのではないだろうか。

思い出すのは2009年8月の衆院選で圧勝した旧民主党が選挙の公約に掲げていた「政権交代」である。「政権交代さえすれば何でもうまくいくと思っているのか?具体的な政策も示さずに・・。こんなのが公約じゃダメだろうなあ・・。」とあきれながらも、当時のアソウ総理には既にアイソウが尽きていたのでいちおうは投票には行ったが、政権交代後の同党の四分五裂と迷走ブリは既にご存じの通りである。案の定、予想が的中してしまった。

今の野党に求められるのは将来構想力の強化である。学者・知識人との連携の強化が絶対に必要だ。知恵袋がいないままに選挙目当ての思いつきのスローガンを連呼しても、仮に一時的に政権を奪取したとしても山積する問題を何ひとつ解決できないで終わるだけだろう。時間はかかるだろうが、国の将来構想を構築する力と、その構想を国民に分かりやすく伝える表現力の強化なくしては、この坂道を転がり落ちるような日本の衰退は止められないだろう。
特に歴史の勉強が必要だ。現在のコロナ禍への政府対応と70数年前の自滅的戦争までの経過とを結びつけて語る論者が多いのは、決して偶然ではない。昨年の日本学術会議をめぐる騒動の中で、菅総理が昭和初期の現代史研究の第一人者である加藤陽子東大教授の学術会議入りを拒んだ事実は象徴的である。

おそらく菅総理は、まともな歴史書などは一冊も読んだことがないのだろう。本を読む時間よりも、料理屋で会食しながらの密談の方を優先しているはずだ。

「歴史を勉強しようとしない愚者は、同じ失敗を何度でも繰り返す」ものである。漫画しか読まない副総理、母方の祖父のできなかったことを実現することにしか関心がなく、フリガナ無しでは漢字もまともに読めない前総理も似たようなものだろう。

与党も、野党も、霞が関の官僚も、次の選挙目当てに過ぎないポピュリズム政策ばかりを競い合っていないで、国の将来を見据えた基本構想を今一度根底から検討し直すべきである。そうしなければ、今回のコロナ敗戦の経験も、またしても単なる思い出話に終わることとなる。

/P太拝