「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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日本のコロナ対策は実に非効率 

 先月の話になりますが、12/22付の日経新聞に下の記事が載っていました。(注:以下の全ての図と表は、それをクリックすると拡大します。)

 日本の今年度補正予算と来年度(2021年度)のコロナ対策費の合計(財政支出+金融支援)は昨年の9/11の時点で182兆円もの巨額で世界第二位、さらに昨年12月の時点で74兆円を追加で積み増すことを決定したとのこと。
 このニュースをパッと見ただけでは、「菅内閣はよくやっている」と思う人が多いのかもしれない。

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 しかし、各国の人口はマチマチです。このコロナ対策費を一人当たりに換算したらいったいどうなるのか。また、各国のGDPに対しては、さらに各国政府が抱えている負債に対しては、どの程度の割合になるのでしょうか。計算した結果を下の表に示します。

 なお、各国のGDPと人口、政府負債は以下のサイトからの引用。

 政府債務残高は、中央政府、地方政府、自治体、社会保障基金の合計です。また、ドル円換算には、2020/1~/11の平均値である1US$=¥107.04を使用しました。

世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング・推移(IMF) – Global Note

世界の人口 国別ランキング・推移(国連) – Global Note

世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移 – Global Note

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 昨年9/11時点での日本の一人当たりコロナ対策費は絶対額ではドイツに次いで二番目、対GDP比でも同じくドイツに次いで二番目です。ただし、昨年12月に追加した74兆円も加えれば、ドイツを抜いて一位になることは確実です。

 巨額の対策費をつぎ込む点に関しては、日本はなかなか健闘しているようには見えますが、問題は、日本の政府負債が先進国中ではもちろんのこと、あのほぼ破綻国家状態のベネズエラさえも抜いてダントツで世界一であるということです。(上の引用サイト「世界の政府負債残高対GDP比 国別ランキング」を確認のこと。) 

 次のグラフは各国のコロナ対策費を対GDP比で比較したものです。

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 日本の政府負債に目盛りを合わせるとほかの国の値が差がほとんど無いように見えてしまうので、対GDP比の目盛りを120%に抑えてあります。もちろん人命は最優先すべきですが、世界一借金している政府が、コロナ対策だからと言ってこんなに大盤振る舞いしてもいいものでしょうか?日本のコロナ対策では、まずその有効性と効率性を最優先すべきであると思います。

 現時点でのコロナ対策の成果の指標として、各国のコロナによる死亡率を比較してみましょう。既に昨年12/9付の当ブログの記事で説明したように、この死亡率では東アジアと欧米諸国の間には大きな差があります。おそらく、免疫に関連する遺伝子の違い、類似した感染症への感染歴、BCG接種の有無等の要因が考えられるが、この差に関する明確な説明は現時点ではまだ現れていないようです。

 従って、比較対象国を東アジアとオセアニアだけに絞って、百万人当たりの累積死者数の比較を試みました。オセアニアの二カ国は欧米系の国民が多いものの、島国という地理的条件と感染初期の対応が迅速であったために感染の蔓延を食い止めることにほぼ成功しています。国民の大半が欧米系であっても、政府の対応が優秀であれば目覚ましい効果をあげることができるという実例にほかなりません。

 下のグラフが、今年の1/17時点での百万人当たりの累積死亡数の比較です。出所は、例によって、Coronavirus (COVID-19) Deaths - Statistics and Research - Our World in Data

 韓国とオーストラリア以外の国のコロナ対策費は不明ですが、感染を抑え込めている台湾、ベトナム、タイ、中国の一人当たりのコロナ対策費が日本の数分の一以下であることは確かでしょう。ニュージーランドのそれは、国の成立経過もGDPでも似通っている点から、オーストラリアと同レベルくらいになるのでしょう。 

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 現在、日本の百万人当たりの累積死者数は韓国の1.38倍。おそらく、今後一週間以内にオーストラリアの値を上回るのもことも確実でしょう。

 一方、コロナ対策費の対GDP比では、日本は韓国とオーストラリアのそれの約2.6倍も使う予定。他国よりも段違いに多くの税金を投入するとは言いながら、日本がいまだにコロナに対する有効な抑制策がとれていないことは明らかでしょう。

 誰も着けようとはしなかったアベノマスク、富める者や雇用が保証されている者までも対象とした一世帯当たり一律十万円のバラマキ、多額の税金を使っては感染者を全国にまき散らしただけのGOTO事業等々、この一年間、ピントが外れたコロナ対策のオンパレードが続いています。

 国のトップ、いわば国のアタマの部分が相当悪いのか。それともGOTO事業に見るようにこの騒動を利用して甘い汁を吸おうとする、いわゆる火事場泥棒を働くヤカラの勢力が強いのか。おそらく両方なのでしょう。

 当ブログで繰り返し主張してきたように、当初から検査数を増やして感染者の特定と隔離を進めていれば、これほどまでに感染者が増加し多くの人が亡くなることは無かったでしょう。上のグラフでいえば、台湾、ベトナム、タイほどまでには行かなくても、ニュージーランドと韓国の間あたりにまで抑えられたのではないでしょうか。

 上のグラフのオーストラリアの昨年夏の死亡者の急増にも注目してください。この時期は南半球では冬。冬になると感染者が急増することは半年以上も前から国内の専門家が既に指摘しており、この夏の南半球でのデータを見ても十分予想されることだったのに、日本政府はこの間、何の対策も打って来ませんでした。この半年間、スカ内閣は経済対策と称してもっぱらGOTO事業に入れ込むばかりで、検査体制と医療体制の充実についてはほとんど置き去りのままにしてきました。

 経済対策とは第一に感染予防と医療体制の充実であるべきです。感染予防と経済対策とは両立します。感染者数がもっと少なければ、わざわざ税金を使って国民に旅行を促す必要もない。国内の物流も通勤も、今ほどまでは抑制しなくても済むはず。

 現在の政府がこれまでやって来たコロナ対策を例えて言えば、眼の前で燃えている大火事の消火よりも、自分の後援者の家の焼跡の補償の方を優先しようとしている、実に愚劣極まりない自治体首長がやっていることと同じレベルなのです。

 参考までに、各国の2020年と2021年の経済予測も見ておきましょう。下の表はみずほ経済研究所が昨年12/10に公表した各国のGDP予測です。なお、ニュージーランドの予測値については、このサイトの中では触れられていませんでした。

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 コロナ死亡率が極めて低い台湾とベトナムは2020年もプラス成長を維持。死亡率が低いタイが大きくマイナスなのは、タイの主要産業が観光業(GDPの約20%)であるためでしょう。豪州は今年末には2019年時点にほぼ復帰、韓国も今年中には再びプラス成長路線に戻るとの予測。世界全体でも今年はプラス成長に復帰するとの予想です。

 日本は昨年の12/10の時点では、今年だけでは一昨年のGDPからの落ち込みに対して三分の一程度までしか回復しないとの予想でした。感染が拡大した現時点ではもっと悪化した予想となっているのでしょう。上の表の中では、今年年末までに昨年の落ち込み分を回復できそうにないのは日本とタイだけです。

 経済の維持・成長のためには、感染初期段階での感染抑制が必要であったことは上の表を見れば明らかです。今回のコロナ騒動に対する政府対応の拙劣さによって、日本経済の国際的な地位がさらに低下することも確実でしょう。「経済維持のためには、まずGOTO事業の実施が必要」などと強硬に主張してきた我が国の主要政治家の責任は極めて大きいものがあります。

 さて、日本のコロナ対策費=182+74=256億円は対GDP比で47%に相当します。この財源の大半は政府の借金である国債発行に頼るほかには財源はありません。今回のコロナ対策費を従来の政府債務に積み重ねることで、日本政府の負債が世界史上前例がない、GDP比300%に達する日も近づいてきたようです。

 三年ほど前に当ブログに書いた記事の中でも取り上げたが、日本の政府債務が前回のピークを迎えたのは1944年でした。ただしその時ですら、政府負債はGDPの二倍を超えませんでした。国は戦争遂行のために国民に国債を買わせては弾丸や船・飛行機をどんどんと作ったが、敗戦後にはその国債は全て紙くずと化してしまいました。

 現在の国債残高膨張の主要な原因は次の三点にあると思います。

① 「政治家のポピュリズム」  目先の選挙に勝つために、あらゆる種類の補助金や給付金を乱発。その一方で、有権者の反乱を恐れて増税案は先送りするばかり。

② 「政治家と国民の危機感・想像力の無さ」 過去の失敗の歴史には全く学ぼうとせず、今までの体制が今後もずっと続くはずと思い込んでいる。現実を直視する勇気がないから、単に「見たくないものは見ないことにした」だけのこと・・・。

③ 「無駄な公共工事の乱発」 大手ゼネコン等への利益供与による業界票の確保。地方の政治家が未だに新幹線路線網の拡大に熱心であることに見られるように、経済的効果が期待できない場合でも、税金を浪費してムダなインフラをさらに作り続けようとする。

 ③の具体例としては、東日本大震災の後、地元の意向を無視して国と県が巨大防潮堤の建設を推進した事業が挙げられます。特に自衛隊OBである宮城県知事が熱心だったとのこと。守るべき人は大半が村から去り、後には巨額の税金を投入した巨大な壁だけが残りました。儲けたのは工事業者だけだったとさ。

「「復興という名の災害だ」小さな町が直面する人口激減、孤独死」

 「波の音消えた「日本一美しい漁村」 壁が囲み人は去った」

 また、原発事故後の福島県浜通りでは、「・・・避難指定地区は、国と大企業によるロボットやドローン、トラクターの無人運転等の実験場と化してしまった」そうです。(一昨年の年末に参加した福島原発事故のミニ学習会で聞いた話。当ブログの当時の記事の第二部の所からの引用。)

 このように何か災害が発生すると、それを機会にさらに儲けようとするのが、時の政治と癒着している企業(特に大企業)がとる典型的な行動です。今回のコロナ騒動の前にも、東日本大震災後にはこれら火事場泥棒どもが大活躍していたようです。

 この国の空前の借金についてはまた改めて記事にしたいと思います。一年先か、数年先なのかは知らないが、コロナはいつかは収束する。しかし、今の政治の延長が続けば、日本政府の借金は収まるどころか、今後もさらに増え続けることは確実。

 最後に一つだけ確実に言えることは、日本が他の国と決定的に違うのは、元々、いつ大震災や火山噴火が起きるか判らない国であるということ。

 本来ならば、大災害に備えて財政的な余裕を日頃から十分に確保しておかなければならない国であるはずなのに、今の日本の政府は役に立たない政策を乱発してますます国の借金を増やし、さらに政策の選択肢を失って身動きが取れなくなるばかり。次の南海トラフ地震、首都圏直下地震、富士山大噴火、再度の原発事故(原発へのテロ攻撃も含む)等々のいずれかの大災害発生を契機として、「日本の第二の敗戦物語」が本格的に始まることも、まず間違いはないでしょう。

/P太拝