「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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理想的な自治体首長とは?(2)

 自治体の首長はどんな人が望ましいのか?先回に引き続いて、他の自治体の例を紹介しましょう。今回は福島県の矢祭町、根本前町長のお話。小泉内閣が平成大合併を推進する渦中、2001年に「合併しない宣言」を発表して一躍全国的に有名になった人物です。

 同町が合併しない道を選んだ理由の第一としては、「昭和の大合併」時に合併先をめぐって町内で大抗争が起き、血の雨が降った事。

 また、茨城県との県境に位置する山村であり、どこと合併しても辺境扱いされて疎化が急速に進むのが避けられないことが明白。この辺は、鳥取市周辺の岩美町や若桜町、智頭町が合併しない道を選んだことと共通の背景のようです。

 さらに、町内の主なインフラ整備はすでに完了していたこと。そして、住民の意識を調査した結果、約七割が合併反対であったことが決定的な理由となりました。

 矢祭町は、現在の人口が六千人に満たない小さな町です。ウィキペディアで調べてみると、そこにも根本氏が進めた行政改革の内容が載っていました。

 サイト① 「矢祭町(wikipedia)」

 「合併しない宣言」後に推進した改革の主な内容は、次のようになります。

 ・新規職員の採用停止、職員数を半減。
 ・町議会定数を18→10人に削減。
 ・議員の年俸制を廃止し、議会がある時だけの一日三万円の日当制に変更。
  ちなみに、議員の日当制は矢祭町が全国で初めて。

 ・町役場のトイレ掃除は、助役以下の当番制。
 ・職員の自宅を出張町役場にして、住民は自宅の近所で届出・納付が可能に。
 ・役場窓口業務をフレックス制とし、年中無休に。
 ・商店街の商品券やスタンプ券でも、税金や公共料金の支払いを可能に。
 ・年間で約十人しか利用しない「住民基本台帳ネットワークシステム」の接続に二千万円もかけるのはムダとして非接続を決定(2015年になって接続した)。

 ・古い武道館を改修して「矢祭もったいない図書館」を開設。蔵書は全国から寄付をつのり、約43万冊を確保した。運営はボランティアが担当。

 ・町役場は古いままで改修しながら使用(「日本一オンボロな庁舎」と言われている)。

 等々、大いに参考になります。住民の反対を強引に押し切って大金をかけて庁舎新築を強行、そのツケを下水道や上水道料金の値上げによって住民に押し付けている鳥取市のトップとはえらい違い。

 根本氏の改革の内容については、次のサイトで詳しく見ることができます。


 町民の圧倒的な支持を集めて六期二十四年の長きにわたって町長を務めた根本氏ですが、元々は町の家具屋の社長さんでした。先回の海士町山内町長と同様に、行政改革で実績を挙げた首長の大半が民間出身であるのは偶然ではありません。

 民間企業の経験者(筆者も含めて)から見ると、今の自治体行政の実態は何とも奇妙です。過去からの慣習に囚われ続けてムダを放置したまま。そもそも、財源の大半は国や県などから自然と降って来るものだと思っているように見える。自前で財源を生み出すという発想が根本的に欠けている。施策に国や県からの補助金が付くと聞いたら、そこで思考停止して無条件にその施策を実施してしまう。本当に自分の町に必要な施策なのか、自分のアタマで考えようともしない。これは首長も、職員も、議員でさえも同様な傾向。

 さて、根本氏ですが、面倒見がよいことから町長に担ぎ出されて以降なかなかやめさせてもらえず、ようやく退任できたのが2007年でした。現在の根本氏の近況を取材した記事が昨年秋にネット上に掲載されています(ちなみに、筆者はこの記事で矢祭町のことを知りました)。


 根本氏があまりにも傑出した人物であったためか、町民は彼が町長を辞めた後の矢祭町の将来を極めて不安視していたことが判ります。次の記事は、自治体首長の多選の問題は、むしろ選ぶ側に問題があることを鋭く指摘しています。なお、この記事を書かれた相川俊英氏は地方自治体行政を専門とするジャーナリストであり、当「市民の会」の活動についても、過去に何度か取材されています。


 次の記事では、根本氏の引退時の言葉を紹介しています。
「・・・そして最も大事なのは、働き盛りの成人のみなさんにとっては、朝から晩まで真っ黒になって働いて、税金をちゃんと納めて、そしてその人たちが自分たちに何をしてくれるんだというようなことを言わないような町をつくろうということであります。・・・」
 要するに、町が自分になにをしてくれるかではなく、自分が町に対して何ができるかを第一に考えようということでしょう。


 この記事の最後の方には、根本氏が町を訪れる人々との懇親会の費用をほとんど自分の私費で支払っていたこと、任期全体ではその金額の合計は数千万円にも達したであろうと言うことが書いてある。これを貫いた根本氏は立派と言うほかはないが、矢祭町の人たちは氏に甘えすぎていると思う。もう少し配慮があってしかるべきだったでしょう。

 引退した自治体首長は、普通は国から叙勲を受けるものであるが、総務省の方針に逆らった根本氏には叙勲の話は全く無かったとも書いてあります。勲章などと言うものは、国が国民に言うことを聞かせるための道具に過ぎないことがよくわかるエピソードです。

 来春には、また鳥取市長選がめぐってきます。根本氏と同等までとは言わないが、その姿勢の十分の一、いや百分の一でもいいから共有する姿勢を持っている人物に出馬してもらいたいものです。

 鳥取市政を、自分の政治的出世と私利獲得のための踏み台としか考えていない人物、そのような人物に唯々諾々(いいだくだく)と盲従し自ら操り人形の役割を引き受けている人物には、絶対に、二度と市長選には出てもらいたくない。

/以上