「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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とっとり地域自治研究所 第二回フォーラムの報告

 10/12(土)、台風12号が関東地方に接近、鳥取市でも雨と強風が吹き荒れる中、とっとり自治研主催の「フォーラム 人口減少に負けない地域づくり」が開催されました。鳥取西道路は閉鎖、JR山陰線や因美線も運休となる悪天候にもかかわらず80名強の参加者を得て盛況でした。以下、概要を報告します。

 

(1)基調講演「鳥取県内での「平成の大合併」後の現状」 藤田安一氏 鳥取大学名誉教授

①「平成の大合併」の背景 

 国は1999年に「改正 合併特例法」を成立させて合併を奨励した結果、全国の市町村数は3232(1999年)から1543(2018年)へと減少。その主な目的は「国から地方へ給付している地方交付税の削減」にある。合併しない自治体の地方交付税を削減。その一方で、合併する自治体には合併に伴う地方交付税の削減を10年間猶予、さらに合併特例債という名の借金発行を認め、その元金+利子の七割は国が地方交付税に組み入れて支給すると約束した。

② 合併のメリット・デメリット

 合併により行政サービスの低下と住民負担の増大、住民の声が行政に届きにくくなるなどの弊害が生じた。特に周辺地域での弊害が大きくなった。

鳥取県における合併の現状

 39の市町村が19へと約半減。特に県東部では、9市町村が大型吸収合併により鳥取市の1市となった。

鳥取市に見る合併の現状

合併特例債を限度額いっぱいまで使って新本庁舎などのハコモノを建設したことにより市財政を圧迫、その結果として住民サービスが低下。
・旧町村部では合併によって、住民税、固定資産税、介護保険料、ゴミ袋代、ガンや骨粗しょう症の検診料などがアップした。逆に通学費補助は減らされた。
・合併後の旧町村部の職員数は大幅に削減され、現状は合併前の五分の一以下。結果、周辺部住民の要望が無視されることが多くなり、過疎化が急激に進んだ。

・2018年に鳥取市中核市へと移行したが、県から2000を超える業務を引き継ぐことになり、その実行力と財源が危惧される。

⑤まとめ

・合併時のスローガン、「人が輝き、まちがきらめく、快適環境都市 鳥取」は幻想におわった。
・合併によって地域づくりは弱体化した。さらに市の窓口業務を今年春から企業(ニチイ学館)に任せたことで、官製ワーキングプアの増加、行政サービスの低下、個人情報の流出が危惧される。
道州制推進下でのさらなる市町村合併の可能性

 

(2)シンポジウム「平成の大合併」後の地域づくり

 

① 智頭町のまちづくり実践と「SDGs未来都市」 寺谷誠一郎氏(智頭町町長)

(参考:「SDGsとは何か」 今年7月、内閣府は智頭町と日南町を「SDGs未来都市」に選定した。)

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 「平成の大合併」の時には「鳥取市と合併すると町の借金が無くなる」との誘い文句があった。町民の中には「合併すると自分の家の借金もなくなる」と誤解した人も結構いたようだ。一時、国は「地方創生」を盛んに唱えたが、今はどこへいったのか。自分は今の地方創生大臣の名前も知らない。

 国は机上の計算だけで規制をかけて地方を意のままに操ろうとしている。先日突然発表された「公立病院の赤字」問題にしてもそうだ。国は卓上の論理だけで病院の統廃合を唱えているが、我々は赤字になっても住民の命を助けなければならない。自分は今年75才になったので、もう怖いものは何もない。

 ・「日本1/0(ゼロ分のイチ)村おこし運動(地縁型住民自治)」をやっている。町内には88の集落があるが、集落ごとに「10年後にどういう集落になりたいか」を徹底的に議論してもらう。出てきたアイデアには町がお金をつけるが、口は出さない。

 ・「百人委員会(テーマ型住民自治)」は、教育、林業などテーマ別に分かれて関心のある町民が自主的に参加して議論する仕組み。毎年12月に町の幹部がヒヤリングをして、予算をつけるかつけないかをその場で決める。町職員は委員会で出てきた意見を否定せず実現方法を検討し、基本的には提案者と賛同した委員が責任をもって実行することになっている。
 当初は町民だけの参加だったが、鳥大学生、智頭農林高校や智頭中の生徒と参加者の範囲をどんどんと広げてきた。今話題の「森のようちえん」はこの委員会に参加した移住者のひと言から始めたものである。当初、我々地元の人間は「見慣れた智頭の森の一体何がいいのか」とか、幼児を森の中で遊ばせて危険はないかとか心配していたが、やってみたら特に問題はなく、他の市町村にもどんどんと広まっていった。
 この委員会の問題点は、町議員から「我々の存在意義がなくなる」との苦情がくること。また、長くやっているとメンバーが固定化されて、なかなか新しいアイデアが出てこなくなることも問題点。


② 琴浦町における民間主導のまちづくり 四門隆氏(琴浦まちづくりネットワーク会長)

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 琴浦町には24ものまちづくり関連の団体があり、その支援を行いながら地域の活性化に取り組むのが「琴浦まちづくりネットワーク」。設立して五年目を迎えた。行政だけでは行き届かない点を各団体に担ってもらうことを目的としている。「中間支援」として、町からの補助金も活用して各団体の活動を支援している。

 具体例としては、自宅の古民家を民泊施設に改造したいとの町民からの要望があり、このための団体を設立して開業するためのアドバイスを実施したことなどが挙げられる。
 

③ 廃校の隼小学校を活かした隼Lab.(はやぶさラボ)によるまちづくり 田中周氏(シーセブンハヤブサ 事業マネージャー)f:id:tottoriponta:20191017101125j:plain

 八頭町の隼地区はスズキのオートバイの「ハヤブサ」ライダーの聖地として既に有名だが、隼駅前のJAの空き施設を利用したレストランや古民家を改修したゲストハウスなど地元の若者による起業が始まっている。隼小が廃校になるのを機会に、八頭町と鳥銀をはじめとする民間企業7社と地域住民とが集まって同小の活用策を検討、2017年12月に隼Lab.をオープンさせた。

 旧隼小を改修して「公民連携コミュニティ複合施設」とし、カフェ、ショップ、貸スペース、体育館、プールなどを整備。貸スペース12室は満室、オープン後に約10件の起業を果たすなど活発に活動している。

 隼Lab.の運営会社であるシーセブンハヤブサの目標は、「地域の価値を最大化し、新たな産業や人材を生み出し、日本の未来のモデルになる田舎をつくる」ことである。

  以上の三件の取り組み発表のあとで、藤田教授も含めた四者に対する質疑応答が行われた(下の写真)。時間が短時間にとどまり、会場参加者に質問の機会が与えられなかったのは残念であった。

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(3)傍聴しての感想

① 藤田教授

 藤田先生が強調されていたのは、大合併した鳥取市では、各総合支所の職員数の大幅削減に見られるように周辺部の衰退が著しいということ。先生が青谷町の現状を調査に行った際、青谷和紙工房のある山根地区への行き方を青谷総合支所の窓口職員に問うたところ、その職員は和紙工房の位置すらも知らなかったそうである。青谷町観光の目玉であり市の所有施設でもある同工房への行き方を支所の職員が知らないようでは、合併後に青谷町が急速にさびれつつあるのも当然というほかはない。市職員のやる気のなさが目に見えるようだ。

 市の窓口職員の外注化も大きな問題。受注したニチイ学館の本社は東京にある。我々の税金から同社に支払ったかなりの部分が、同社の利益として東京に流出し地元には還元されない。従来も窓口業務には非正規職員が多かったのだろうが、今までは彼ら彼女らを市が直接雇っていたので、少なくとも給与の大部分は市内で消費されることで地元に還元されていたはずだ。

 鳥取市の非正規職員は増加の一途をたどり、既に全職員数の半分以上が非正規である。こんな市は全国でも珍しい。例えば、市保育所の保育士の大部分が正規職員ではない。

 そもそも、市民との最大の接点であるはずの窓口業務を民間企業にまかせておいて、市の正規職員はいったいどんな仕事をするつもりなのか? 自分たちが楽をすることしか考えていないのではないだろうか? 市職員が市民との直接の接触を面倒くさがり怖がっているようでは、満足な市民サービスなどできるはずもない。筆者が思いつくのは以下のような「仕事」だ。

・非正規職員や企業からの派遣社員の働きぶりや、窓口で暴れる市民がいないかどうかを、庁内各所に設置のカメラで監視。何かあったらすぐ警察に通報。
・自分の席に一日中座って、誰もろくに読まないような書類を量産。
・一日中会議室にこもって、さも重要な要件を検討しているようなふりをする。
・NHK鳥取を始めとするテレビや新聞を毎日呼んで来ては、熱心に仕事をしているように見せかけるパフォーマンスをカメラの前で連発。

 ろくに仕事もしない市職員や議員の生活費となる税金を払うような余裕は、我々貧しい鳥取市民には到底ないのである。

 鳥取市の合併に伴う問題点の詳細については、当ブログの「鳥取市政」カテゴリーや「市民の会」サイトにも若干記事を載せているので、そちらも参照していただきたい。

 

② 智頭町

 以前から智頭町の百人委員会の内容については詳しく知りたいと思っていたのだが、今回、寺谷町長自らの説明を聞くことによってその概要を把握することができた。この委員会の存在は「住民による直接民主制」の試みというべきであり、「議員を媒介とする間接民主制」と対立することは原理的に当然だが、試み自体は非常に賞賛に値するものであると思う。住民が自主的に声を発することによって、町内の不平等や格差の縮小が期待される。マンネリ化の弊害を克服しながら今後も頑張っていただきたい。

 以前にも寺谷町長の講演を聞いたことがあるが、ずいぶんエネルギーに富んだ人だと思った。今回もその印象は変わらない。以前、当ブログの記事で全国的に注目されるほど頑張っている自治体の首長の紹介を三回連続でしたことがあるが、全員がエネルギーにあふれる人との印象があった。やはりリーダーはこういうタイプでないとだめだ。

 現鳥取市長のように、声が小さくて何を言っているんだか聞き取れない、かりに聞き取れてもいったい御自身で何をしたいんだかサッパリ判らないようでは、「誰かに利用されるための操り人形」の存在にしかならない。

 

③ 琴浦町

 まちづくりの団体が町内に24もあるのは素晴らしいことだと思う。ただし、それらの団体の活動を後押しする、この「まちづくりネットワーク」の活動の内容が今一つ理解できなかった。もっと具体的な例を数多く挙げていただければよかった。

 一つ気になったのは、町当局と各団体に参加している住民の間の橋渡しの役割を引き受けて推進するのは良しとして、団体に参加していない住民に対するサービスはどうなるのだろうか。行政の公平性は、どのような場合でも保証されなければならないと思うのだが。

 

④ 八頭町

 シーセブンハヤブサの取り組みが順調に発展しているのは実に歓迎すべき話であり、県東部の中心と空威張りしているだけの鳥取市の外でこのような活発な活動が自発的に始まっているのも喜ばしいことだ。筆者自身、旧隼小のカフェに行ってみたくなった。

 ただし、発表者自身が述べられていたように、この地区に結果的にせよ町からの投資が集中してしまっている現状は、あまり好ましいことではないだろう。自発的なまちづくりの意欲を示す町内の全ての地区に対しても、(あまりコストをかけない形で)隼地区と同様に町が援助していく姿勢をはっきりと示す必要があると思う。智頭町の「地縁型住民自治」の取り組みが参考になるのではないだろうか。

 

⑤ 感想のまとめ

 シンポジウムの最後に、シンポジウムの進行役を務めた多田憲一朗氏(鳥大教授)が「地域のつながりを作ることが大切。協働がこれからの地域づくりのキーワードになる」と述べられていたが、まさにその通りだと思う。

 今の鳥取市は、住民投票結果に反して新庁舎建設を強行、その新庁舎窓口には派遣社員を配置して正職員は奥に引っ込み安逸を貪る等々、行政当局自らが「行政と市民との間、行政と地域との間のつながりを断ち切る」行動に余念がない。行政自ら率先してワーキングプアを増やしては市民間の格差拡大に拍車をかけ、国からの税金を市内に落とさずにその大半を東京や大阪の大企業に吸い上げさせて喜んでいる。「愚かさももここに極まれり」と評するほかはない。

 こんな鳥取市には、絶対に明るい未来はありえない。その一方で、智頭町や日南町の現在の取り組みの先には大いに明るい希望がありそうに思える。これから日本の将来を担うのは、案外、「平成の大合併」から取り残された小さな自治体なのではないだろうか。「地域のつながりを大事にして安心して暮らせる、過疎化に負けない自治体」を是非とも応援していきたいものである

 筆者の知人は、既に「こんな鳥取市には絶対に税金を納めたくないので、去年は別の町にふるさと納税をした」そうである。筆者も見習いたい。

 今年の12月末までにどこか自分の好きな自治体に寄付をすれば、その金額の大半は来年二月の確定申告で控除され、現在住んでいる自治体への住民税と所得税を大幅に減額ことができる。国が保証している制度なのだから、日本の将来をよくするために堂々と有効に使いましょう。詳しくは、以下を参照してください。皆で「自分が好きな自治体」を探しましょう。

「ふるさと納税とは?」

/P太拝