「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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理想的な自治体首長とは?(3)

 望ましい自治体首長の実例を紹介する三回目の記事です。過去二回では過疎と人口減少に直面する二つの町を紹介ました。打って変わって今回は、人口急増中の街、愛知県の長久手(ながくて)市の紹介です。

 長久手市の人口は、現在約六万人。名古屋市の東隣に位置しており、近年ベッドタウンとして急速に発展。2015年の国勢調査では、先回調査からの人口増加率が全国一。また、住民の平均年齢が全国で一番若い自治体とのこと。

 さらに、東洋経済社が毎年発表している「住みよさランキング」では、長久手市は毎年トップクラスの評価を得ています。特に「快適度」の面では五年連続で日本一。下に2015年の「長久手市が快適度で日本一」の記事を引用しましたが、2016年もその座を維持し続けているとのこと。


 ちなみに我が鳥取県内では、倉吉市が2015年の「安心度」で第一位にランクされています。

 さて、このように恵まれた立地条件にあるだけでなく国内でも住みやすさがトップクラスにある長久手市の首長を務めているのが、吉田一平市長。この人、なかなかユニークな人物なのです。詳しくは、下の日経新聞の記事をお読みください。


吉田市長の取り組みの内容を簡単にあげておきます。

・住民から害虫駆除の要請があっても、直ちには実施しない。市職員と住民が議論しながら、時にはケンカしながら、根本的な対策を作っていく。
・市庁舎の入り口横に市長室を作り、なるべくそこに居るようにしている。ふらりと入ってきた市民からも話を聞けるようにしている。
・毎朝、二時間以上歩いて出勤。途中で喫茶店にも立ち寄って、極力、市民から話を聞く。
・市の政策は、まず市民に考えてもらうことが基本。
・各組織を大きくしない、うわべの効率を追わない。
・短期的な成果のみを求める「会社の論理」が、地方の自治能力を弱めた。
・昼間、名古屋で会社員として働いていた人たちが、夜に長久手に帰ってきた時に、地域の人たちと一緒に集まれる場所を市内各地に確保している。
・教育・福祉予算を極力増やさず、日常生活の中で市民の相互協力によって、教育と社会保障が可能な街を目指す。
・目標は、「町全体を特養老人ホームにする」こと。
等々。

 このような政策の背景には、吉田市長個人が自分の生活史から体得した信念があることは明らか。その詳しい内容については上の記事の中に載っていますが、あらためて、彼の経歴を以下に簡単にまとめておきましょう。

1946年に長久手に生まれる。商業高校を出て名古屋市の鉄鋼商社に就職。猛烈に働いて営業成績を上げるが、過労からのヘルニアで10か月間休職、会社中心の人生に疑問を感じるようになる。その後は地域の消防団活動にのめりこむ。

1979年、商社を退社。宅地開発で周囲の雑木林が消えて行くこと、人口が増えているのに幼稚園が足りないことに危機感を持ち、1981年に雑木林の中に幼稚園を開設する。

1986年、雑木林の中に特養老人ホームも開設、さらにその隣に「もりのようちえん」を併設し、老人と幼児が交流できる場を確保。2002年には、市内中心部に長屋を建設、一階には要介護の老人を、二階には「階下の老人と接する」という条件で家賃を割り引いてOLや子供のいる若夫婦を住まわせるようにした。

2011年、福島の原発事故に効率至上主義の社会に対する危機感を覚え、市長選への出馬を決意。同年9月に市長に当選。2017年現在、市長二期目。

 彼の人生史を上のようにまとめてみると、現在の吉田長久手市長の施策内容は、彼の全人生体験に裏打ちされた確固としたものであることは明らかでしょう。現在の長久手市の教育・福祉政策は、彼が取り組んできた幼児教育・老人介護の体験を全市内に拡大したものにほかなりません。長久手市が「快適度」と「子育てのしやすさ」で全国一の評価を受けたのも、吉田氏の長年の個人的努力に負うところが大であることも間違いないでしょう。

 全国各地で無投票当選する自治体首長が増えています。よくあるパターンは、現町長が引退するに際して、自分に忠実に従ってきた助役を後継者に指名するというもの。我が鳥取市ても、市長選挙こそ一応はあったものの、結果的には、前市長によって後継者に指名された前副市長が現在の市長となっています。

 「誰がなっても同じ」という声もよく聞きますが、長久手市で、吉田氏ではなく役所にずっとい続けた人物が市長になっていたとしたら、この街は今のような高い評価を受ける街になっていたでしょうか?役人上がりに、自分の出身元の役所の中を根本的に改革できるはずもありません。

 役人出身者が複数出てきた首長選挙では、確かに「誰がなっても同じ」でしょう。吉田氏のような経歴と信条の持ち主が首長選に出た場合には、決して「誰が首長になっても同じ」ではないのです。

 (筆者は十年ほど前、長久手市内(当時は長久手町)の企業を出張で何回か訪問したことがあります。ゆっくり走る日本初の小型リニアモーターカー(普通の電車とどこが違うのかは、よく判らず・・)のリニモに乗って窓の外を見ると、日本全国どこにでもあるような新興住宅地が延々と続いていました。

 上に紹介した記事を読んで、吉田市長が出勤途上で喫茶店に入り、名古屋名物のモーニングサービスを食べながら隣の市民とああだこうだと雑談している光景をあらためて想像してみました。途端に、あの何の変哲もない印象の街が、ずいぶん暮らしやすい街のように思えてきました。)

/以上