「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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最近の香港情勢から見えるもの

 あいかわらず香港情勢が気になっている。11/24の区議選で民主派が圧勝してからは、中国側も次の一手に苦慮しているようだ。この二週間の間に読んだ香港関係の記事記事の中で、これは注目すべきと思ったものを以下に紹介します。 

① 「次の世代のために自分が銃弾を受け止める番 20歳女性」 

 最近、NEWSWEEK誌が二日に一回くらいの割合で香港市民の声を紹介しており、この記事はその一部。自由を守るため、普通選挙を勝ち取り民主主義を実現するために、死ぬ覚悟でデモに参加している人たちがたくさんいるのである。

 これを読んで改めて感じるのは、わが国の最近の選挙では、投票率が50%を切るのが普通になってしまったということだ。明治維新以来の約150年間、性別・収入にかかわらず成人国民全員が参加できる普通選挙の実現のために、どれくらいの血が流されたのだろうか。もちろん、最大の犠牲は、軍と民間合わせて約300万人以上が命を落とした先の戦争であると言ってよいだろう。それまで25才以上の男子だけに与えられていた選挙権が、敗戦からまだ二か月しかたっていない1945年10月には、20才以上の全ての男女に与えられることになったのである。

 ただ、心配なのは、今の我々の選挙権は、日本の再軍国化を防ぐため急速な民主化を意図した米国によって上から与えられたものであるということだ。日本国民が直接に民主化を求めて下から権力と戦ったために、300万人もの死者が出たわけではない。日本国民が権力に対してあまりにも従順であったがために、これだけの数の日本人が死ぬことになり、さらに周辺諸国では推定でその何倍もの死者が出たのである。
「第二次世界大戦の犠牲者(wikipedia)」

  もちろん、筆者には、「米国が押し付けた憲法と共に今の選挙制度を撤廃し、自主憲法と自主選挙制度の実現を!」などと叫ぶつもりは毛頭無いのだが、「容易に与えられたものは、また容易に失いやすい」ことを心配しているだけなのである。

 現在の日本の我々が「持っていて当然」とか、「投票に行くかどうかは、その日のお天気しだい」などと気軽に考えている選挙権だが、今の香港人と同様に行動した先人達が流した血の上に獲得されたものであることを、絶対に忘れてはならない。

 

② 「香港デモ魂は既に広東へ、習主席も恐れる革命の揺籃」

 区議選の前に出ていた日経新聞の記事。いくら中国政府が隠そうとしても、香港のデモの影響が隣接する広東省にも及び始めているとの内容。これは、例えば中国側の深圳市から香港の大学や企業に毎日通学・通勤している人がたくさんいるのだから当然の結果なのだが、この記事の中の以下の部分に注目したい。

 広東省出身のBさん、香港の大学に通っていて、この夏に友人と一緒にデモに一度参加した。故郷に里帰りしたら警察に呼び出されてデモ参加を追及され、ついには香港に帰れなくなってしまった。

 「・・・香港の街中に張り巡らされた監視カメラなどで個人が特定されていたという。中国のデジタル技術の進化もあって、百万人もの抗議デモの群衆の中からでも個人を特定できるらしい。マスクで顔を隠していたぐらいでは何の役にも立たない。・・・」

 この記事からわかるのは、香港の警察が集めた防犯カメラの情報が、そっくり中国本土の警察に渡されているということだ。かっては仕事で何十回も中国に通っていた筆者だが、最近の中国に行こうという気はもはや全く消え去ってしまった。全土に何億台ものカメラが張り巡らされて、つねに行動を監視されているような国には、到底足を踏み入れる気になれないのである。

 その点、香港や台湾はまだセーフだろうと思っていたが、香港も監視体制の点では既に大陸並みになりつつあるらしい。中国系文化圏を訪問する外国人が自分の個人情報を安心して守れる場所は、今や台湾だけになってしまったようだ。

 ③ 「香港区議選:中国共産党は親中派の勝利を確信していた(今はパニック)」

 これもNEWSWEEKの記事、同紙は香港に多くの記者を配置して熱心に報道しているようである。区議選の投票前、習近平政権は結果を極めて楽観的に考えていたとのこと。筆者はこれを読んで、1950年代末の「大躍進政策」を連想してしまった。

 このwikipediaの「概説」の中の記述の一部を以下に紹介しよう。大躍進時の現場指導者と中国政府が現在香港に配置している情報網、当時の毛沢東と今の習近平とが完全に重なって見えるのである。

 「・・・同政策に意見するものがいなくなるとともに、一層無理なノルマが課されるようになり、ノルマを達成できなかった現場指導者たちは水増しした成果を報告した。そして、その報告を受け取った毛沢東は、実態を把握しないまま更なる増産を命令するという悪循環に陥っていったのである。・・・」

 毛沢東は従来の政策を反省することもなく、更なる増産を指示。その結果、一説には七千万人とも言われる膨大な数の餓死者を出す大惨事となった。当時の中国の一般民衆のほとんどが無教育であり、上部の命令に無批判に従ったことがこの惨事に拍車をかけた。なお、この頃の中国社会の実状については、例えばユン・チアンが書いた「ワイルド・スワン」を読むことでリアルに知ることができる。

 大躍進政策の悲惨な結果を受けて、毛沢東は実権を失って半ば隠居状態となり、政権の実権は劉少奇と鄧小平を中心とする集団指導体制に移った。この失った権力の再奪取を狙った毛沢東が学生・労働者を扇動して始めたのが1966年からの文化大革命であり、さらに犠牲者数を増やすこととなった。

 従来から、例えば中国のGDPの異常に高い増加率については、各省の統計担当者が相当に水増ししているためだろうと噂されていた。以前、中国駐在が長い日本人に聞いてみたことがあるが、「物流データ等から見て、政府発表の増加率の半分くらいかな。6%と言っていたら2~3%位が本当なんじゃないか。」とのことだった。「上に政策あれば、下に対策あり」というのは中国ではよく聞く言葉だ。「下の対策」とは、この場合には、水増しデータや故意に楽観的な見通しの報告に他ならない。

 「ウソの報告が多いのは、中国だから・・」と笑ってばかりもいられない。太平洋戦争中には、日本軍現場指揮官の過大な戦果や楽観的な報告を信じた大本営が、現場では実行不可能な積極的な作戦計画を連発、結果的に軍の壊滅を速めた。ドイツでも、ヒットラーの叱責を恐れた現場指揮官が故意に楽観的な戦況報告ばかりをしていたらしい。

 権力トップの独裁が強まるほどに政権内ではウソの報告がまかり通るようになり、結果的には独裁制の急速な崩壊を招くという例は、国や地域を問わず、世界史上にあまたの実例を見ることができる。

 最近では「桜を見る会」問題に関する官房長官の説明で、事実関係のツジツマが合わずに答弁に詰まるシーンが再三見られるが、安倍内閣の内部でもウソの報告がまん延し始めていることの現れではなかろうか。まあ、トップ自らがウソをついていれば、下もそのマネをするのが当たり前なのだが・・・。

 さて、習近平は香港に対してこれからどう動くのだろうか。独裁者は自分にウソをついた部下には決して容赦しないものである。今回も区議選の終了後、香港担当部門のトップを即刻クビにしたとのこと。さらに部下への締め付けを強めることは間違いないだろうが、そのことでウソをつく部下がさらに多くなるという悪循環にはまり込みそうな気配である。

 今後、対香港と対党内でさらに厳しい姿勢を取ることになれば、習体制の崩壊は意外に早いのかもしれない。

/P太拝