「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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アメリカ大統領選を見ての感想

 アメリカの大統領選挙もようやく結果が確定したようで、以下は感想です。最初に断っておきますが、筆者は特にアメリカが好きというわけではありません。実質的に日本の宗主国である大国の政治の行方には関心を持たざるを得ないという点から、今月初めから注目していたのです。

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 「バイデンが勝った」ことよりも、「トランプが負けた」ことを歓迎している人の方が圧倒的に多いのだろう。筆者もその一人である。やっと予測可能なアメリカが戻って来てホッとしている。これで温暖化対策も加速するだろう。

 トランプがテレビのニュースに登場するたびに、何よりもあの傲慢そのものの顔と、甘やかされて育った人間に特有の舌足らずで甘ったれた声(日本のトップにも同じような声の人物がいたが・・)にはうんざりさせられた。もうあの顔を見なくて済むのは実に喜ばしい。

 さて、今回の大統領選の報道を見ていて感じたことが三点ある。うち二点は、トランプが米国民の半分近くの支持を集めたという事実に関して。もう一点は米国内部の政治的分断についてである。 

(1)宗教的背景

 トランプ支持者の核心部分はキリスト教福音派とのこと。「汝、殺すぺからず、姦淫すべからず、盗むべからず」が戒律であるはずのキリスト教の信者が、脱税も買春もやりたい放題のトランプをなぜ熱烈に支持するのか、その理由が今一つよく判らなかった。

 今回、色々調べてみてあらためて思ったのは、キリスト教も、他の一神教と同様に、自派以外の宗教の信仰者や無宗教者に対しては極めて非寛容であるということだ。キリストの名の元にイスラム教徒を何度も大量虐殺した十字軍、アメリカ先住民は我々と同じ人間では無いとして金銀財宝を強奪し銅鉱山で彼らを酷使したスペイン人、アフリカから奴隷を大量輸入しては農園で酷使したイギリス人やスペイン人等々、キリスト教徒による大量虐殺は歴史上で枚挙にいとまがない。

 アイルランドにおけるカトリックプロテスタントの間の抗争のように、キリスト教内部での対立も頻繁に起こっている。このような歴史的事実から考えると、他派の信者や無宗教者と対立し、いったん相手を敵とみなした場合、「神の名の元に相手の財産を奪うことも、時にはレイプや殺人さえも許される」という発想がキリスト教の根底にはあるのではないか。

 ただし、若干の弁護のために付け加えれば、この発想はイスラム教やユダヤ教など一神教全体で共通のようである。ある意味、今の世界を対立と混乱の中に巻き込んでいる元凶は、自派以外の他者に対しては非寛容な一神教にあるのかもしれない。(一神教全般がどうにも好きにはなれない筆者だが、多くの神々の存在を容認する仏教や古代神道(明治以降の国家神道ではない)には惹かれる。その理由は、それらが持つ寛容性にほかならない。)

 以上のように考えれば、アメリ福音派の信者が、トランプ支持者以外を全て異教徒とみなしてライフル片手に投票所の周囲をうろつくのも、当然予測されるべきことだったのかもしれない。  

 

(2)破壊者出現への期待

 素行も品性も人並外れて劣悪なトランプがあれだけの票を集めた別の理由としては、「選挙の機会を利用して日頃のウップンを晴らしたい」人たちが多かったためではなかろうか。IT革命で経済成長が続くアメリカの中で、伝統産業に従事し続けて成長から置いていかれた「ヒルビリー」と呼ばれる貧乏な白人がその主体となった。

「日本人がまったく知らないアメリカの「負け犬白人」たち」

 彼らは、下品な言葉を連発しては既存の偽善的政治の枠を打ちこわして行くトランプの姿に、自分たちが閉じ込められてきた牢獄の破壊者としての期待をいだいたのだろう。かって、「ゴジラが新幹線や国会議事堂を踏みつぶす映画」に我々日本人が熱中したのと同様の破壊願望である。今回のトランプ敗戦でこの破壊者待望論はいったんは封じ込められることになるが、今後、別の強力な破壊者候補が現れれれば、雪崩を打ってそちらに再集結することになるだろう。

 日本でトランプ支持層に重なるのは、例えば、橋本徹百田尚樹の愛読者・視聴者層だろう。また政党でいえば、大阪維新の会の支持者が典型的だ(これら全てが大阪出身者であるのが不思議)。橋本氏と百田氏、この二人が既成勢力、特に「いわゆるサヨク」を徹底的に叩く姿に、日頃のウップンを晴らし溜飲を下げる人々が年々増えているようである。ただし、彼らが前総理や現総理と既に強い関係にあることに見るように、この二人が、将来自分のカネヅルになりそうな相手は決して叩こうとしないことには注意すべきである。

 アメリカと違ってほぼ同質社会である日本の場合には、破壊者待望論というよりも、むしろ「自分よりも弱そうな相手や、同質社会から若干外れた人間を探し出して来ては、ことさら見下して差別することで自分が偉くなったと錯覚したがる」という「人間が持つ負の本能」が、この現象を後押しているようにも思う。橋本氏や百田氏が相手をボロカスに罵るのを見て快感を覚える人々は、そのつど現実の世界から遊離して自分自身も強者になったと錯覚し、つかの間の勝利感に酔っているのだろう。

 元NHK記者であった木村太郎氏が、今回の大統領選で最後までトランプ当選の可能性を主張し続けたことは、トランプ支持層とフジ・産経の視聴者・読者層の同質性を象徴的に示している。ほぼフジ・産経の専属タレントと言ってよい木村氏は、世間一般に反してあえてトランプ寄りの発言を続けることで、一部の視聴者からの自身への強い共感と支持とを期待していたのではないか。

 いずれにしても、「特定のグループや民族や国家に対する憎悪をあおる」ことで手っ取り早く利益を得ようとする人たちには、さらに彼らに迎合することで販売部数やクリック数を稼ごうとするマスメディアには、ろくな未来が待ってはいないだろう。「人を呪わば穴二つ」の最大の実例はアドルフ・ヒトラーなのである。もっともヒトラーが掘った穴は二つどころではなくて、推定で数千万個にもなったが・・・。

 

(3)アメリカ内部での地理的な政治分断

 多くの州で僅差となり勝敗が決まるまで数日かかったので、接戦州の詳しい票の出方を見る機会が多かった。驚いたのは、地理的に民主党優位と共和党優位の自治体がはっきりと分かれていることだった。どこの州でも、大きな都市とその郊外は青色の民主党、その他の地域は赤色の共和党が優勢であった。赤い海の中に青色の島が何点か浮かんでいるようなイメージだ。

 これを見て思ったのは中国との類似である。中国共産党独裁政権下にある中国では、自由な選挙など近い将来には到底実現しそうもない。しかし、仮に住民一人当たりの年収で中国国内の各自治体を色分けした場合、上のアメリカの開票結果と似たような地図ができることは確実だろう。同じ省の中でも、農村部の平均年収は都市部のそれの数分の一でしかないのである。繁栄する都市部と、疲弊し貧困化する農村部。二つの超大国でそれぞれに社会の分断が進みつつある。日本でも同様の現象が見られるようだ。

 米国が複雑なのは、青色の民主党支持層がさらに二つに分裂していることだ。一方には高収入のIT関連の新興企業等の経営者層と専門家集団、もう一方には、主としてサービス業に従事する低賃金労働者や定職を持てない若者・学生。共に移民を多く含み、同じ民主党を支持するが、志向している経済政策は真逆である。今後、バイデン政権下での両者の対立の激化は必至だが、放置していては米国の政治が再び機能不全に陥ることになる。バイデン氏が何とか折り合いを付けて政権を運営していくことに期待したい。

 

追記:

 これも何かの偶然なのかもしれないが、今日の朝、作家の雨宮処凛(あまみやかりん)氏が、トランプ大統領相模原の障碍者施設で19人を殺害した事件の犯人である植松死刑囚の関係に関する記事を公表していた。今日の夕方になってから記事を発見した。この記事によると、植松死刑囚はトランプ大統領をトコトン尊敬していて、公判の中でもその思いを繰り返し述べているそうである。

「アメリカ大統領選と、相模原事件・植松死刑囚。これで分断の時代は終わるのか?」

 トランプ支持者がみな犯罪人になり得ると主張する気は毛頭ないが、「トランプ的傾向」が持つ危険性については、社会生活の安全のためにも我々は深く慎重に考えておいた方がよいだろう。自分の中で十分に自問自答することもなく、極端な結論へと突然飛躍してしまうのが植松被告の著しい特徴とのこと。

 なお、彼は事件の何年も前から大麻を常用していたそうである。「日本でも欧米並みに大麻を解禁すべき」と主張する人たちには、この事件の持つ意味をよく考えてもらいたい。

 雨宮氏については今日まで全然知らなかったが、上の名前の所にリンクを張っておいたwikipediaの記事を見ると、右に左にと極端に振れ幅が大きい人のようである。この人自身、固有の、かなりの生きづらさを抱えているように感じた。

/P太拝