「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

当ブログの内容は編集者個人の見解であり、「市民の会」の公式見解ではありません。当ブログへのリンク、記事内容の引用等はご自由に!

コロナ敗戦の原因(6)-現在の各国の感染状況の比較-

新型コロナの第五波は急速に収束、現在の新規発生患者数はピーク時からは驚くほど減少しましたが、この状態はいつまで続くのでしょうか。この先に第六波が来るとすれば何時頃になるのでしょうか。

これが今の日本国内での最大の関心事と言っていいのかもしれません。その手がかりをさぐるべく、例によって「Our World In Data」の最新情報を元に各国の現状を調べてみました。

 

(1)各国の現状の比較

今回はワクチン接種が日本と同程度進んでいる国を主として、さらに近隣のアジアの数カ国を加えた12カ国について調べた。下にデルタ株の蔓延が広がった今年7/1以降、10/26までの一日あたりの新規感染率、新規死者数の推移のグラフを示す。


国の数が多いので、感染率と死亡率の推移のグラフは、各々欧州とアジア・米国の二つに分けた。日本、シンガポールイスラエルは両方のグラフに比較のために共通して含めた。

図-1 一日当りの新規感染率推移(アジア・米国)(図はクリックで拡大、以下同様。)

f:id:tottoriponta:20211029084149j:plain

図-2 一日当りの新規感染率推移(欧州)

f:id:tottoriponta:20211029084224j:plain

図-3 一日当りの死亡率推移(アジア・米国)

f:id:tottoriponta:20211029084321j:plain

図-4 一日当りの死亡率推移(欧州)

f:id:tottoriponta:20211029084414j:plain


さらに昨年の感染当初からの累積感染者数、累積死者数、累積検査数等の一覧表を下に示す。

表-1 各国の累積感染者、累積死者数、累積検査数、累積ワクチン接種率の比較

f:id:tottoriponta:20211029084502j:plain

以下、この表の内容について見ていこう。

①累積感染率

 昨年初頭の感染確認以来、現在までの各国の累積感染者数を各国人口で割った値。一見して判ることは、日本を含む東アジア諸国と欧米諸国との間に大きな差があることだ。欧州で最低のドイツの約5%を上回っているアジアの国は約7%のマレーシアだけなのである。

②累積死亡率

 現在までの各国の累積死者数を各国人口で割った値。

なお、%で表すには値が小さすぎるため、この表では実際の値を100倍した値を載せている。例えば日本の実際の値は0.0144%、英国のそれは0.2077%である。先進国の年間死亡率は1%前後だろうから、英国のように二年弱の間に国民の約0.2%がこの病気だけで死亡するというのはかなり大変な事態なのである。

日本の死亡率は欧米よりも一桁小さいが、「重症化した風邪のようなもの」と軽視する訳にもいかない。何と言ってもインフルエンザよりもはるかに死亡率は高く、その病気が他人に容易に感染してしまうのだから、社会的規制は強化せざるを得ない。

この死亡率の指標でも、マレーシアを除く東アジア諸国のそれは欧米よりも一桁小さい。

なお、(死者数)/(感染者数)の比率は東アジアと欧米とであまり変わらない点には注目したい。要するに、いったん感染してしまえば重症化の頻度は国によってはあまり変わらないということだ。例外はこの値が日本の五分の一以下と低いシンガポールで、これは後で述べるように、無症状感染者の存在についても徹底して調べる同国の方針によるものだろう。

「東アジア人は欧米人に比べてコロナに感染しにくい」という点については、昨年前半の感染初期の段階では、いわゆる「ファクターX」としてかなり話題になった。その結論は出ないままになっているが、このように表にしてみるとその傾向はかなり明確である。ただし、その傾向が遺伝的な差や食習慣の差によるものなのか、あるいは「外出時には必ずマスクをつける」というような社会的規範の違いによるものなのかは、未だに不明確なままだ。

③ 累計検査率

 現在までの累計検査数(PCR検査、抗原検査等)を各国人口で割った値。

この値が100%を超えている場合には、その国の国民がこの二年弱の間に平均で一回以上の検査を受けている計算になる。この表をつくる前から予想していたことだが、この12カ国中で検査率が最低なのが我が日本国であった。未だに全体の二割の国民しか検査を受けていないのである。

この指標でも、マレーシアとシンガポール以外の東アジア諸国は総じて検査実施数が低い。

欧米諸国の中では、なぜかドイツだけが検査数が低い。また、ドイツは感染者数が低い割には感染後の死亡率が高い。

特段の感染対策を取らずに国民が感染するにまかせて集団免疫の成立に期待、結果的には高齢者の高い死亡率を招いたのはゲルマン系のスウェーデンだが、ドイツも民族的には同じゲルマン系である。この二国からは「弱い者が死ぬのはしかたがない」という優性思想の匂いが嗅ぎ取れるのかもしれない。

フランスについては、なぜか検査数累計を公表していない。何か具合の悪い事情があるのだろうか。

 

④ ワクチン接種率

 接種率が既に高い国を選んだこともあり、大半の国で完全接種者が60%超えである。ベトナムとタイはまだ50%に達していないが、現在急速に接種が進んでおり、近いうちに他の国に並ぶだろう。米国の接種率が停滞している背景に政治的な対立があることは、頻繁に報道されている通りである。

ワクチン接種の進展度と新規感染者数の相関については、また後で触れることにする。

 

(2)各国の検査方法の比較・モニタリング調査

日本では 第五波が八月下旬にピークを迎えて以降は、新規感染者が急激に減少。これに伴ってイベントの規制等が次々に解除されているが、他の国と比較しての本当の状況はどうなのだろうか。以下、各国の状況を参考にしながら急減の理由を探っていきたい。

 

① 各国の検査方式の比較

 まずは「Our World In Data」で、日本の検査方式が世界からどのように見られているかを確認しておこう。下の図に各国の検査方式の違いを示すマップを示す。

図-5 各国の検査方式のマップ

f:id:tottoriponta:20211029110555j:plain

今回の記事で取り上げている12カ国のカテゴリー一覧表と、上の図中の各カテゴリー(図の下の方にある色のついた棒の左から順に1,2,3,4とした)の説明を翻訳したものを下の表に示す。

表-2 各国の検査方式の内容説明

f:id:tottoriponta:20211029110906j:plain

今回取り上げた12カ国の中では、日本だけがカテゴリー2に分類されている。同カテゴリーの仲間を見ると、シリア、ウクライナ、イエメン等の紛争当事国が含まれている。どうやら、いわゆる先進国でこの組にいるのは日本だけらしい。

上の表は単に元の英文を和訳しただけなのだが、実際には、発熱や体調不良を自覚している人であれば、濃厚接触者でなくてもPCR検査を無料で受けられるはずだ。日本の実態はカテゴリー3に相当すると思うのだが、海外から見れば不備な点があるのだろうか?

ワクチン接種が進んでいる国の大半、及び日本以外の先進国の全てはみなカテゴリー3か4に位置している。

検査数が多いイスラエルと英国がカテゴリー3というのにはビックリした。感染が発生して以来、平均では一人当たりで三回から四回も検査を受けているはずの両国で、今まで症状を訴える国民だけを検査して来たとはとても考えられない。当然、無症状の国民も政府自ら検査しているはずである。実態としては、この両国もカテゴリー4に相当するとみてよいだろう。

確か、去年の夏ごろには、ドライブスルーで車から一歩も出ないで検査できる公共検査場が日本国内各地に出来ていたのはずなのだが、あれはどこに行ってしまったのだろうか?

このように見ていくと、大半の先進国はカテゴリー4であり、カテゴリー3の先進国は日本(実質的に)、オーストラリア、カナダ、スウェーデンくらいということになる。

しかし、上の表-1には示してはいないが、カテゴリー3の仲間であるはずのカナダやオーストラリアの累積検査率は現時点で既に100%を超えており、実質的にはカテゴリー4と見てよいだろう。同じカテゴリー3の仲間であるはずのインドでさえも、国民の43%が既に検査済で日本の二倍以上なのである。なお、何か隠したい事情でもあるのか、スウェーデンはフランスと同様に累積検査数を公開していない。

とにかく、日本の検査数の少なさはインド、タイ、ベトナム以下であり、世界最低レベルと言ってよいだろう。検査数を故意に少なくして無症状感染者を認知せず放置し続けて来たのだから、公式の感染率が低くなるのも当然の結果なのである。

 

② 無症状感染者の推定

 無症状感染者の割合の推定は感染防止のためには必要不可欠であり、日本では無作為のモニタリング検査を実施しているはずなのだが、先回の記事の中で9/16付の日経新聞の記事を紹介した時には「公的発表サイトが不明」だと書いた。その後、ようやく内閣官房で以下の公式サイトを見つけた。なかなか見つからなかったことから明らかなように、このサイトを訪れる人はほとんどいないのだろう。

本来は担当省の厚労省が一括して公表するべきなのに、例によって政府機関のあちこちでバラバラに、かつ資料がコマギレのままで公開されている。これも日本特有の縦割り行政の一例に他ならない。

「感染拡大の予兆の早期探知のためのモニタリング検査」

この検査は今年二月から始まり、現在までに約100万人を検査して平均の陽性率は約0.1%とのことである。

この検査の対象者の大半は無症状のはずだから、症状を有する感染者とその接触者等の中の感染者の合計である公式の新規発生患者数と、このモニタリング検査結果とを比較してみれば、無症状者が有症状者に対してどの程度いるのかについてのある程度の知見は得られるはずである。

以下、比較手順とその結果について示す。

「手順」

(1) このモニタリング検査の陽性率が日本全国の無症状感染者の比率を代表しているとみなして、各月ごとのモニタリング感染者陽性率を集計。

(2) 厚労省のサイトが公表している日々の新規感染者数を月ごとにまとめ、それを全国人口で割って公式感染率を集計。

これらの公式感染率と陽性率を月ごとに比較したグラフを以下に示す。なお、10月は10/1から10/24までのデータである。

図-6 日本政府の公表感染率、及びモニタリング検査陽性率の推移

f:id:tottoriponta:20211030202020j:plain

五輪が開催された八月は第五波の真っ最中で全国で約56万人が感染しているのだから、感染率が0.4%台になるのは当然のこと。考えてみれば、ひと月のうちに国民の200人強に一人が感染したのだから、ずいぶんひどい状況だった訳である。

さて、公式の感染率とモニタリング陽性率との間には事前に予想したほどの大きな差はない。前者は自覚症状がある感染者とその接触者等の中の感染者の合計だが、有症状者と無症状者の間の割合が公開されていないからこのデータの中の無症状者の人数を計算することはできない。一方、後者のモニタリング検査陽性者はほぼすべてが無症状者とみてよい。

注目されるのは、新規感染者が多かった7月から9月にかけてはモニタリング陽性率を公式感染率が上回っていた一方で、新規感染者が少ない他の月にはこの関係が逆転することである。感染率が急激に減った10月の場合には公式感染率は0.012%だが、モニタリング検査陽性率はその約3倍の0.035%となっている。

このデータが正しいならば、現時点での無症状感染者も含めた真の感染者数は公式発表の四倍程度はあるのではないだろうか。他の国では無症状感染者も感染者として発表しているのだが、日本政府にはそのような意志はサラサラないらしい。

そもそも、このモニタリング検査を内閣官房が管理していること自体が怪しい。内閣官房は総理の直属機関であり、総理の意のままになる機関でもある。このモニタリング調査の開始時期が今年二月であることに注目したい。正月に来た第三波の直後で東京五輪の半年前である。

表向きの感染状況をその裏で左右する無症状感染者の増減は、菅総理にとっては極めて重要な情報であったはずである。厚労省にまかせておけば完全な情報統制ができず、不都合な情報が何時マスコミに流出するかもわからない。東京五輪の開催に影響しかねない悪いデータが出たらいつでも握りつぶせるように、自分の直属機関に管理させたと見るのは勘ぐり過ぎだろうか。

上のグラフによれば無症状感染者の数は公式の感染者とそれほど差はないが、仮に無症状感染者が公式感染者の五倍も十倍もあった場合には、この内閣官房のサイトはとっくに閉鎖されていたのかもしれない。

さて、まだ不審な点がある。マスメディアはモニタリング検査についてはこの日経の記事以外には全く報道していないようだが、政府によるもの以外にも東京都独自のモニタリング検査が存在していたらしいのである。肝心な情報を独自に調べて報道することもなく、政府発表を頭から信じて右往左往している既存メディアには本当にウンザリする。

先回の記事で触れたモニタリング検査はどうやら東京都が独自に行っている検査であり、その結果が都の行政検査の結果よりも十倍も高いということであった。その東京都によるモニタリング検査の6月末から9月上旬(第五波に相当)にかけてのデータと、上の内閣官房の東京都に限定しての同期間のデータを比較してみた。

 

図-7

f:id:tottoriponta:20211031022536j:plain

左のグラフが内閣官房のデータによるもの、右は日経の記事から転載した東京都による陽性率のグラフである。縦軸の縮尺は同一にそろえてある。

内閣官房のデータは全体としては東京都の検査結果よりも低く抑えられている。例えば、右のグラフでピークとなる8/16~8/22では、東京都による検査の陽性率の0.74%に対して内閣官房のそれは0.305%、8/30~9/5では東京都の0.64%に対して内閣官房では0.191%である。

内閣官房の値は東京都のそれの三分の一程度である。内閣官房が陽性率が低くなりそうな場所を特に指定して検査している可能性もあり得る。無症状感染者の数が公式発表の感染者数の数倍に達することは、どうやら間違いなさそうである。

さらに、これら内閣官房と東京都のモニタリング検査の対象者は、その大半が成人であったものと思われる。ワクチン接種率が低い十代の中高生や、そもそも接種の対象となっていない小学生を検査対象としなければ、今後の感染予測のためのデータとしては不十分だろう。

 

③ 日本人に特有の同調性

 日本の新規感染者数の推移のグラフは他の国に比べれば実に特徴的であり、第五波まできれいに周期的な振動を繰り返している。こんな国は他にはないだろう。筆者と同じく理科系の人間ならば、この振動の理由を知りたくなるに違いない。

定量的なことは言えないが、この理由の一つとして、日本人に特有の周囲の空気に対する強い同調性があるのではないだろうか。ニュースで「コロナ感染が拡大している」と聞けば、自分のわずかな体調の悪化もコロナのせいではないかと心配になる傾向が他の国よりも強いのだろう。

日本ではPCR検査は基本的に自己申告制であり、自分にコロナの症状がありそうだと感じた人が、自身で保健所や医療機関に電話して症状を詳しく説明しなければ無料検査を受けられない。彼や彼女の心理は、この検査を受けるまでの手間暇の面倒くささと、自分はコロナかもしれないという不安感との間を揺れ動くことになる。

近所で感染者が増えていると聞けば、不安はますます募る。その結果、感染がいったん広がり始めると、類は類を呼んで検査希望者が受付に殺到することになる。理科系の言葉で言えば、こういう現象を「正のフィードバック」と呼んでいる。

反対に感染が収束し始めると「もう大丈夫だろう」という空気が世間に流れ始め、やや体調が悪くても「単なる風邪だろう」と済ませてしまいがちになる。日本の検査体制は他国よりもかなり複雑なので、検査に行くのも面倒と感じてしまうことになる。

日本と対照的なのが英国や米国で、その新規感染者数の推移はなだらかで日本のような周期的な振動は全く見られない。彼らの「周りの空気を読まない(読もうとしない)」という国民性がこの違いを産んでいるのではなかろうか。それに加えて、その方針の是非はともかくとして、米英政府のコロナ対策は目的に対して合理的かつ一貫していてブレが無い。自から正確なデータを調べて、その結果を十分に検討して対策を立てることすらもろくにせずに、外部からの情報だけで国民同様に右往左往している日本政府とはまことに対照的なのである。

まあ、この同調性うんぬんに関しては数字で示すこともできないので、単なる筆者の憶測でしかないのですが。

 

さて、この記事の目的は、各国の感染の推移を見ながら、今後の日本に第六波が来るかどうか、来るとしたら何時頃になるかを予測することにあったのですが、途中が長くなり過ぎました。先に片付けねばならない仕事もできたので、ここでいったん休憩とします。この続きは、多分、数日中には追加でアップできると思います。

(続く)

/P太拝