「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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今回の鳥取市市議選の結果について

11/20(日)に鳥取市の市会議員選挙が行なわれました。この機会に、久しぶりに鳥取市政について取り上げてみたいと思います。「日本の風力発電の未来」シリーズ記事については、あと一回、「風力に替わる再生可能エネルギーは?」の内容で書く予定です。

 

(1)低下する一方の投票率

今回の市議選の結果については市の公式サイトを見ていただきたい。定数32に対して37名が立候補し、現職24名、新人8名が当選した。

今回の選挙で最も目についたことと言えば、先回をさらに更新する過去最低の投票率39.15%であった。有権者10名のうち6名強が投票しなかったことになる。

2008年以降の市議選の投票率の推移を下に示す。同じ年の春に行われる市長選の投票率の推移も併せて示した。

図-1 鳥取市市議選・市長選の投票率の推移(以下、図・表はクリックで拡大)

            過去の選挙結果|鳥取市 (tottori.lg.jp) より

 

市議選の投票率が一貫して下がり続ける一方で、市長選の投票率は大きく変動している。これは市長選の候補の構成が毎回異なるためである。

2006,2018,2022の三回は現職と共産党系新人の一騎打ち、2010年は現職と元大手新聞記者の新人の一騎打ちであった。2014年は前市長が後継に指名した前副市長、元県会議長の保守系前県議、元地元テレビ局アナウンサーの三つどもえ戦となったために、久しぶりに投票率が50%を超えた。

筆者は、2014年の市長選の際には前県議の応援にかなり尽力したのだが、三つどもえの激戦にもかかわらず投票率がようやく50%を若干超えるにとどまったのを見てずいぶんとガッカリしたことを覚えている。「みんなは、市政に対してたいして関心を持っていないのだな」と。

その頃の仲間と会うと、今でもよく「第三の候補の突然の出馬が無ければ、当然、鉄永さんが勝っていたんだろうな」という話になる。その場合には、鳥取市政は現状とはずいぶんと違っていたことだろう。

このように市長選の投票率は候補しだいで大幅に変わるのだが、市議選の投票率の低下の理由については個人的には理解できる点が多い。そもそも、筆者自身、以前は市政にはほとんど関心を持っていなかったので、2010年の市議選までは自分が誰に投票したかを全然覚えていないのである。国政選挙、知事選、市長選に関しては必ず投票に行っていたはずなのだが・・。

多分、当時の筆者は、市議選に関してはほとんど投票に行っていなかったのだろう。当時は、「そこそこ常識のある人達が鳥取市政を運営しているのだろう」くらいに思っていた。後で、この認識は完全に間違っていたと痛感することになったのだが。

筆者が市議選で投票所に足が向かわなかった理由についてあらためて考えてみると、その理由は以下のようになるだろう。

 

① 無所属で立候補している候補者が大半であり、どのような政策を持っているのかが判りにくい。さらに選挙公報を見ると、どの候補者も似たような公約を掲げており、その差が見えてこない。

② 市会議員の話を聴く機会が全くないので、各議員の考え方と実行力の有無を確認することができない。四年に一度だけ、一週間、朝から晩まで街宣車で自分の名前を連呼されるだけでは、「この人に何を期待したらいいのか」が判らない。街宣車が通り過ぎるたびに、ただ「ウルサイ!」と思うだけなのである。

③高齢化で昔から住んできた人が減少し、転入者も増えて地域の共通課題が見えにくくなってきた。近所の人がどのような不満や欲求を持っているのか、そのことを知る機会が少なくなった。当然、市政に何を要望したらいいのかがわからなくなってきている。

④ 筆者自身、多忙な会社員生活を送っていた頃には、国の政策、あるいは部分的には県の政策が自分自身の生活や働き方にも関係してくるとは認識していた。しかし、市の政策となると、自分の生活にどう関係してくるのかがよくわからなかった。その点を理解できるようになったのは、会社を退職してある程度ヒマになってからのことである。

⑤ 以前は、市の政策が話題になるのは、地元の飲み仲間で飲んでいる時に出て来る話題くらいであった。「隣の地区には野球のグラウンドが出来た。市会議員に頼んでうちの地区にもつくるべきだ。」というようなたぐいの話題である。その場では適当に合槌をうってはおいたが、腹のうちでは「必要なら隣の地区の施設を借りにいけばよい。単なる地域エゴの無駄遣いだ。議員は市全体のことも考えるべき。」と思っていた。

当時は、大半の市会議員はこのような地域エゴの代弁者にすぎないのだろうと思っていた。そうではなくて市民全体の利益を追求している議員もいるのだと知ったのは、退職後に市議会を傍聴するようになってからのことだ。

⑥ 水道料、ゴミ処理料金、各施設手数料、保育料等々の生活面での身近な費用が市議会で決まるのだという事も、以前ははっきりとは認識していなかった。さらに我々が市に納める所得税や消費税の使い方についても、市議会はたいていは市長の方針を追認するだけに終わるということも認識していなかった。

さらに国から市への地方交付税も加えた巨額の税金が、地域の産業振興や雇用拡大、福祉の充実のために使われるのなら良しとするのだが、その巨額の税金を使って、駅前のバードハットだの、市庁舎の新築移転だの、必要な処理能力をはるかに超えた巨額浄水場建設だの、特にやらなくても済むはずのムダな公共工事ばかりを、市長と市議会とはなんで強行しようとするのか?そのような疑問を抱いたことがきっかけで、筆者は市政に関心を持つようになったのである。

 

さて、上の図-1に戻ろう。2014年から2018年にかけて市議選の投票率が53.0%から41.7%へと一気に11.3%も激減した原因は明らかである。

2014年の市議選に当選したA議員は、その直後の市議会で市議選当時の公約を撤回し、市庁舎移転の位置条例に賛成する側に変わった。その結果、移転賛成議員が市議会の2/3を超えて移転条例が成立するに至り、約100億円を要する市庁舎新築移転が正式に決定したのである。

2012年には住民投票まで実施して市を二分したこの市庁舎新築移転問題が決着したことを受けて、新築移転に反対していた市民の間には「選挙に行っても結局はムダ」という気分が広がり、市政への関心が急速に失われてしまったのである。なお、このA議員は今回の選挙でも当選し、いまだに議員の椅子を守り続けている。

今回の市議選の投票率は四年前をさらに2.5%を下回り史上最低を記録した。今回の地区別の投票率はまだ公表されてはいないが、四年前の市議選の地区別投票率によれば投票率が30%台の地区は以下のようになる(地名付きの投票所である小中学校、公民館等のみを抜き出した)。

城北、浜坂、富桑、日進、修立、東中、稲葉山、面影、大正、世紀、松保、湖山、美保南、中ノ郷、若葉台、桜ケ丘、宮下、浜村、日置

なお、前回選挙では、南中のみが唯一の20%台となる投票率29.48%を記録した。

このように見ていくと、市の中心部と、周辺部で特に住宅新築が盛んな地区、言い換えれば人口流動が激しい地区で投票率が特に低いことがよく判る。やはり、地域内のコミュニケーションが少なく共通課題が判りにくい地区では、市政への関心が希薄で投票率が低くなるという傾向があるようだ。

その一方で、旧町村部や旧市内でも中山間地では投票率が70%を超えている地区もある。このような地区では、良くも悪くも「周囲の眼を気にせざるを得ない」ことが投票率を高めることに効いているのかも知れない。

 

(2)開票結果について

以下、開票結果の内容を見ていきたい。次のサイトには候補者の年齢と職業が載っているのでご参考まで。このサイトは多分、今後数年間は消されないはず。

鳥取市議会議員選挙 - 2022年11月20日投票 | 候補者一覧 | 政治山 (seijiyama.jp)

 

(2-1)組織票が優勢

トップ当選は、市の選挙で初めて党派として「維新」を名乗った新人であった。物珍しさが票を集めた面もあるとは思うが、念入りな事前活動にも注目したい。

公示の一か月ほど前だっただろうか、宣伝カーが同候補の名前を連呼しているのを聴いて「いったい何なのか」と思ったことがある。そのうちに市内のあちこちにポスターが貼ってあるのを見て、市議選の立候補予定者であることにようやく気づいた。

これだけの事前活動をするためには、かなりの活動資金が必要だろう。不動産会社の経営者ということだが、この会社は土木・建設会社グループの一員である。既に豊富な資金源を背後に確保していることは間違いなかろう。

一般に「いったん投資をした以上は、後での回収を徹底する」というのが商売の鉄則ではある。その回収の内容が実利とは関係のない「広範な民意の反映と実現」の範囲に留まっておれば良いのだが・・。よからぬ方向へと進まないことを切に祈りたいものである。

二位には前回のトップ当選者が入ったが、前回よりも800票ほど減らしている。一位、二位ともにそのバックには土木・建設業界がついており、当然、業界票がこの二人に集中したと見てよい。鳥取市の従来の公共事業偏好の姿勢は今後も続くことになるだろう。

公明党は五名全員が当選し新人二名は五位と六位、最低当選者でも十四位であった。組織票の割り振りがうまくいったのだろう。投票率が低かったことも堅い組織票を持つ同党には有利に作用した。公明党は一貫して現市長の政策を支持してきた。主に会派新生と公明党との支持を得て、市長の提出する政策が今後も従来と同様に順調に市議会で成立し続けることは間違いないだろう。

 

(2-2)新人・若年層への期待が大きい

新人や若年層の上位当選が目についた選挙でもあった。32名を上位当選者と下位当選者の各16名ずつに分け、さらに現職・新人と年代別に分けて比較してみた。

「現職・新人」  現職    新人

上位当選者     9     7

下位当選者    15     1

 

「年代別」   30~  40~  50~  60~  70~

上位当選者    1    2    3    8    2

下位当選者    0    2    2    7    5

 

新人当選者8名のうち、実に7名が上位で当選しており、有権者は新人を優先して選んでいる。さらに上位当選者は30~40代の若年層が多く70代以上の高齢層が少ないのに対して、下位当選者には高齢層が多い。ただ一人だけ下位で当選した新人が60才代であったことを見ても、有権者が新人、かつなるべく若い候補者を選んで投票したことが判る。

今後の市政の主流は従来とあまり変わることは無いだろうが、新人と若年層とが上位を占めたことは、有権者が現職の市会議員の従来の活動にかなり不満を抱いていたことを示している。「今の鳥取市のままではだめだ、何かを変えなければ」という意識が市民の意識の底に生まれ始めたのではないだろうか。

 

(3)衰退が進むばかりの鳥取市

ある街の活力を表す代表的な指標は人口の推移だろう。経済的に活気がある街には人が集まり、経済活力を失った街からは人が去っていく。経済面のみに人生の価値がある訳ではないことはもちろんだが、経済が不振になれば、自治体は高齢者の福祉や子供の教育に回す財源すらも確保できなくなる。地域内の消費が落ち込めば、チェーン店も全国的企業の支店もこの街から急速に消えていく。

鳥取市の人口推移を県内第二の都市である米子市、さらに日本全体と比較してみよう。図-2に2014年3月末の人口を100とした時の毎年3月末における両市の住民登録人口の推移を示す。なお、日本の数値としては、国勢調査の数値に合わせるために毎年10/1時点での推定人口を用いている。

 

図-2 鳥取市米子市、日本全体の推定人口の推移

月別世帯数・人口|鳥取市 (tottori.lg.jp) 米子市統計資料…住民基本台帳に基づく人口世帯数表/米子市ホームページ (yonago.lg.jp) より

 

2014年は深澤現市長が初当選した年でもある。それから八年で鳥取市の人口は5%近くも減少した。この減少率は米子市の約二倍、日本全体の約三倍に相当する。これを衰退と言わずして何を衰退と呼ぶのだろうか。

都市の人口が多いほど人口減少率は小さくなる傾向があるが、現在の鳥取市の人口は18.3万人、米子市のそれは14.7万人とわずかな差でしかない。しかも米子市の方が規模が小さいので鳥取市よりも人口減少が激しいはずなのだが、実態は逆だ。

過去五年間の鳥取市の人口は前年同月比1000~1500人の範囲で減少を続けており、二年程度先には人口が17万人台に転落することがほぼ確実な状況となって来た。2004年の大合併直後の人口20万人超は一瞬の夢でしかなかったのである。

2014年の市長選では、故鉄永候補は「2012年の住民投票結果を尊重し、市庁舎の新築移転は実施しない」ことを明言していた。同候補はさらに公約のひとつとして「地域内でおカネを循環させる」ことを挙げていた。

地域内に入って来たおカネを、すぐに地域外に持ち出すことを極力避け、なるべく地域の中で循環させる。循環させるおカネの量が増えるほど、それに比例して地域内の雇用も増える。具体的には、「市が必要とする仕事はなるべく地域内の企業に任せる、市が市内の需要と雇用とを率先して創出する」ことであった。

それに並行して、彼は「市内の中小企業の下請け体質からの脱却と、競争力強化の支援」をも公約として掲げていた。筆者は当時、鉄永氏に「市内に本社を持つ企業を応援して、その数を増やしましょう」と進言したことがある。市内に本社を持つ企業は、倒産・廃業しない限りは、この街から出て行かないからである。

 

今の深澤市政がやっていることは、この鉄永氏の公約内容とはまったく真反対である。新築移転後の新庁舎では、窓口業務のほとんどを東京の大企業であるニチイ学館からの派遣社員に丸投げしてしまった。市が窓口担当者を直接雇用してきた従来の体制と比較すれば、ニチイ学館が東京に持ち帰る分だけ市内を循環するおカネが減ることになる。

また、正職員が窓口に立たなくなったことで、正職員は市民の声を直接聞く機会が失われた。市民の不満や苦情が正職員に届きにくくなってしまったのである。

さらに、現在、解体・新築中の市民体育館では、市は「解体・新築とその後の運営」の一切をスポーツ用品メーカーのミズノを主とする企業連合に55億円で丸投げしてしまった。施設の運営を市職員が直接担当するか、または市内の業者に委託すればすむことなのに、間にミズノを入れたことで多額の税金がミズノの本社がある大阪市に流出することとなった。

深澤市長は東京や大阪の大企業の方ばかり向いて仕事をしているように見える。彼はいったい誰のための市長なのだろうか?また、窓口業務や体育館の運営を外注にまかせてしまった市の正職員は、新築した市庁舎の中でいったい何をしているのだろうか?

彼らは本当に価値を生み出す仕事としているのだろうか?彼らの本来の仕事とは、市民の生活向上を支援するためのサービス提供が最優先であって、上司や国・県に見せるためだけの当りさわりのない内容にすぎない書類つくりは二の次に過ぎないと思うのだが。

深澤市政の目玉のひとつである企業誘致の面ではどうか?市は南吉方の鳥取三洋の跡地に税金で工場を建て機械設備までそろえて岡山の菓子メーカーを誘致したが、この工場の市経済への貢献はどうなっているのか?この工場の前を通り過ぎるたびに社員駐車場に眼が行ってしまうのだが、従業員数は以前にここを占めていた三洋の工場よりも一桁は少ないことは確実だ。市内の雇用への貢献は微々たるものだろう。

このブログで以前に取り上げた河原町の山手工業団地にしても、その後も進出企業は現れず、市が整地した用地の大半が空き地のままに放置されているらしい。

知人から聞いた話では、市内の某中小企業の経営者が「市が誘致した企業が高い給料を示して、せっかくわが社に入って将来を担う貴重な人材として育てていた社員をさらっていってしまった。我々が納めた税金で市が誘致した企業に自社の社員が奪われるとは・・、踏んだり蹴ったりとはこのことだ。」と話していたそうだ。

市外から誘致した企業は、いざ業績が不振となればさっさと出て行くだけのことだ。県と市とが至れり尽くせりで操業条件を整えてくれたおかげで自前の投資が少ない分、操業を止めて出て行くのも簡単だ。鳥取にこだわりを持ち、本社をこの街に置こうとする企業だけが市内に残ることになる。それは現在市内で業務・操業している地元の中小企業に他ならない。

巨額の税金を投入して外部の企業を呼んで来ても、たいていは無駄な投資に終わる。政治家と役所の単なるパフォーマンスでしかない。そのことは鳥取市内の電気産業の壊滅で既に経験済のはずなのに、またぞろ同じ失敗を繰り返そうとしている。

また、市庁舎新築移転、目的不明なバードハット(通称ダラズハット)の建設、巨大浄水場の建設等々、国からの補助金を目当てとして、竹内前市長と深澤現市長とはともに市内の公共事業・ハコモノ建設に狂奔してきたのだが、その効果はいっこうに現れてきていない。税金を浪費して国の借金を増やしただけに終わった。

これらの見当ハズレで間違った政策の結果が、図-2に示した人口の急減として既に明白に現れてきているのである。

 

筆者が2013年に市庁舎新築移転に反対する運動を手伝うようになってから既に九年も経ってしまったが、この間にわかったことが二つある。

一つ目は、「市会議員を数名ほど取り替えてみたところで、市政の向かう方向はほとんど変わらない」ということだ。

本会議や各委員会での質疑を見聞きしていると、かなりの数の議員の行政に関する知識や能力の不足には相当ヒドイものがある。これでは議員による条例の提案などは(熱意と能力のある少数の議員を除けば)一般的には望むべくもない。大半の議員には、市長提案をそのまま追認するか、若干の修正を加えるぐらいのことしかできないだろう。

市長の下には約二千人もの職員がスタッフとしてついているが、議員の側にはスタッフ一人を雇う余裕すらもなかなか無いだろう。議員は基本的には自分個人の能力だけで議会に臨むしかない。質問をするにしても事前の詳しい調査作業が必要となる。これでは、市長の提案をそのまま認めてしまった方が楽である。市議会で市長賛成派が多数になりがちなのにはこのような背景がある。

中には議員を就職先と勘違いしているような議員も散見される。「口の悪い」知人は、選挙期間中の宣伝カーの名前の連呼を聞くたびに「また、四年に一度の就職活動の季節がやって来ましたね」とボヤいている。

「議員に就職」した議員の例を挙げるとすれば、この四年間で本会議での質問を一回しかしなかった某議員がその筆頭だろう。こんな活動内容ではさすがに地元からの信頼も失われたのか、今回の選挙では相当下位の方でなんとか当選されていた。一人当り年間約700万円の議員歳費の無駄遣いでしかない。

今回の選挙公報に「議員数32は多すぎる、全国平均から見た鳥取市の適正値は25.5だ」と書いて議員数の削減を主張された候補者もいたが、惜しくも落選してしまった。

なお、各議員の本会議での発言は「鳥取市議会会議録」で閲覧できる。ご参考まで。

具体的な議論は各委員会の場でなされ、その場で大筋の方向が決まることも多いので各委員会での議事録も公開すべきだろう。既にDX化(デジタル化)が急激に進んで来ているので、録音から文章に落とすのは簡単だろう。人間が文章化するよりもはるかに低コストでできるはずだ。

 

わかったことの二つ目は、「市政を根本的に変えるためには、まず市長を変えなければならない」ということだ。

上に述べたように、自治体の首長の握っている権力は個々の議員に比べてはるかに強い。各地の自治体で同じ人物が五回も六回も連続して首長を務めている例が多いのも、人材不足というのもあるが、「一度トップをやってみたら、もうこの椅子を手放したくなくなった」と感じている首長が多いせいもあるのだろう。

首長は基本的には配下の全職員の人事権を握っているはずなので、役所の中であえてたてつこうとする者はほとんどいないということもあるのだろう。リーダータイプの人間にとっては、自治体の首長というのは実に座り心地がいい快適な椅子であるに違いない。

現在の深澤鳥取市長がリーダータイプからは程遠い人物であることは衆目の一致するところだ。二期目限りと思っていたが、この春に三期目に出馬するとは予想していなかった。筆者には彼が何を目指しているのか全然わからないのだが、内心には何らかの目標を抱いているのかもしれない。しかしそれを表に出す勇気を全く持ち合わせてはいないことは確かである。

竹内前市長から後継指名されたことからも判るように、上から見れば彼は忠実で使いやすい部下なのだろう。しかし、竹内氏がこの夏まで数か月間だけ参院議員を務めて実質的に政界引退した現在、彼はいったい誰の指示を受けているのだろうか?単に「周囲の中で一番強い人」に従うということだけなのかもしれない。いずれにしても、少なくともあと三年は今の深澤市政が続くので、鳥取市の衰退はさらに続くことになるだろう。図-2の人口減少は、今後さらに急角度で落ち込むことになるだろう。

 

鳥取市の歴代市長は、1959年就任の高田市長以降、その全てが県や市の役人からの転身である。高田氏の前の入江氏は中学校長からの転身だったようだ。過去71年間、民間出身の鳥取市長は一人も出ていない。

鳥取市 - Wikipedia

今の「役人天国鳥取市」が生まれた背景には、この「以前からの職場仲間を重視する役人出身市長」の存在が大きいだろう。深澤現市長が初当選した2014年の市長選では、市民会館に市職員を主に約三千人が集まって深澤候補の応援集会を開いたそうである。当時、筆者は市職員団体が作成した、公選法違反の疑いが濃厚な内容のチラシを見たことがある。このチラシはその後すぐに姿を消した(保管するか撮影しておけばよかったのだが、その時はそのまま見過ごしてしまった。残念なことをした。)

こういう背景もあって、今の市長はとにかく正職員には甘い。そのおかげで正職員は不平や不満を言う市民の対応を窓口の派遣社員に丸投げし、自分たちは背後の安全な場所に引きこもっていて、仕事をしているのかしていないのだか、外部からはよくわからない。(新市庁舎は「正職員引きこもり所」とでも呼んだ方が実態にふさわしい。)

 

さて、現在の鳥取市長とは対極的な存在として、何かとニュースに登場することが多い明石市泉房穂市長を挙げておこう。最近また副市長相手に暴言を吐いたとのことで、来年春の任期終了をもって市長を退任するそうだ。

なお、彼の暴言癖には「実家が漁師」ということも関係しているように思う。「板子一枚下は地獄」の場所で、死と隣合わせで過酷な仕事をしている漁師の言葉遣いが荒いのは世界共通の現象だろう。良家のお坊ちゃま育ちの議員や役所幹部には、「関西弁」+「荒っぽい漁師言葉」で怒鳴られた経験がなかったのかもしれない。

職員や議員に対する暴言やパワハラはあってはならないことだが、その一方で、彼は明石市民からは圧倒的な支持を受けていて、今期は無投票での四選目であったことにも注目したい。体を張って市民の生活を守ろうとした結果、動かぬ職員にいらだって暴言を吐くに至ったという面もあるのだろう。

次の記事は泉市長の行動に対する多様な意見を載せていて参考になる点が多い。立ち退き関連の市長発言の録音を一年半も寝かせて置いて、市長選の直前になってからマスコミに公開したという所に計画的な意図を感じる。

「ただのパワハラか「市民の安全のため」か 明石市長の暴言に賛否分かれるネット」

仮に泉氏が極端な暴言を吐かず、役所内と議会の手続きをきちんと守ったうえで、市民生活の向上のために働くという自分の信念のとおりに着実に行動していたならば、のちに各方面から「名市長」と称賛されるようになる可能性は高かっただろう。

一市民の立場としては、やはり、「泉氏」-「暴言・パワハラ」=「理想的な市長」と思いたい。なお、泉氏も市長になる前には役所勤めは一度もしたことがないらしい。大学卒業後の彼の経歴は、テレビ局局員、民間の弁護士、衆院議員一期となっている。

 

三年後の鳥取市長選では、有能な民間出身の候補者に何とか出て来てもらいたいものである。

と、ここまで書いた所で片山前鳥取県知事のことを思い出した。中央官僚出身者でも片山さんのような人もいたんだ。二期八年で鳥取県の行政の透明性を著しく改善し「県民にわかりやすい県政」を実現したのは片山氏の功績に他ならない。

いささか古くなってしまったが、2010年度の「全国情報公開度ランキング」では鳥取県は神奈川県に続いて全国第二位にランクされている。

「都道府県別情報公開度」

この遺産は現在でも生きていて、例えば、鳥取県の公式サイトには非正規も含めて県の全職員の名前と連絡先とが掲載されている。市民が面会しても、「詳しい所属部署を教えない」、「名刺を出さない」、「名前を名乗らず「名無しのゴンベエ」で押し通そうとする」鳥取市の職員とは実に対照的である。もちろん、現在の市の公式サイトには市長と市会議員以外の職員の名前はほとんど掲載されていない。鳥取市の情報公開度はおそらく全国最悪レベルだろう。

十年ほど前、県と市との定例の合同会議の傍聴に何度か出かけたことがあったが、議論に加わるのは県職員ばかりで市職員は全く発言しようとしなかった。唯一の市側の発言は副市長による毎回の最後の挨拶だけだったが、これが全く形式だけで中身のない空疎な内容でしかなくて、本当にあきれた。おまけに声が小さくて、何を言っているんだかよく聞き取れないことが多かった。現在、この人物が鳥取市長を務めている。

外国では、会議で全く発言しないメンバーはそれだけで無能と判断されることが多い。日本の、特に行政機関では、まったく自分の意見を言わない人物でも発言する人と同じように給料をもらい、トップにまでなれるのが不思議だ。なお、この合同会議で市の職員が全く発言しないという状況は現在も同様である。

片山さんのような人は、やはり役人の中では例外に属するのだろう。今後も役人出身の市長が続く限りは、鳥取市の衰退は止まらないだろう。

/P太拝