「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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安倍総理まで「同一労働、同一賃金」を言い出したが、その真意は?

 先回の記事で、「野党は「同一労働、同一賃金」の大原則を掲げるべき」と書きましたが、先週末の国会では、安倍総理にこのスローガンを先取りされてしまいました。


 但し、この記事の末尾では、内閣の内部でさえ、総理の言っていることは実現不可能と見ていることが触れられています。
 いわく、「・・・ただ、同一労働同一賃金については、首相が実現への強い決意を強調したものの、実現への道筋は示していない。萩生田光一官房副長官は22日の記者会見で、「まだまだ検討を加えなければならない事項が数多くある。直ちに法案作成や制度設計に入るということではない」と指摘した。」
 参院選に向けた単なるリップサービスと言っていいでしょう。

 では、なぜ首相は唐突にこの問題を持ちだしてきたのでしょうか。アベノミクスの元での格差の拡大をどうにも隠しきれなくなったことが、その背景にあると考えます。


 この記事の中では、「労働者全員に支払われる報酬総額である総雇用者所得(実質)はどうか。・・・安倍政権になってむしろ実質総雇用者所得は微減となっているのだ。2012年から2014年の安倍政権における変化を見ても、102.6から101.6へと減少している。いずれにせよ、アベノミクスで総雇用者所得が着実に増えている姿は、データの上からは見て取れない。」と書いてある。

 安倍総理はことあるごとに、「アベノミクスで経済が良くなった」ことを強調している。確かに大企業の昨年の経常利益は過去最高だとか。しかし、この主な理由は円安で大企業が海外であげた利益が円換算で膨らんだことにある。海外に事業所をもたない中小企業や零細企業には縁のない話だ。

 企業利益が最大になる一方で総雇用者所得が減少していることは、大企業が利益を労働者には還元せずに内部留保としてため込んでいることを示している。このままでは次の選挙にはマイナスなので、この内部留保をはきださせようとするポーズが必要と感じたのか、最近はお上自らが経団連などに春闘での賃上げの要請を始めた。今回の「同一労働、同一賃金」のスローガンも同様な発想だろう。

 では、大企業はお上の指導どうりに大幅な賃上げをするつもりがあるのだろうか。「政権へのお付き合いで、若干上げて見せてお茶を濁す」というのが大方の対応だろう。

 そもそも、日本の勤労者の約7割は従業員300人以下の中小企業で働いているのである経団連に所属しているような大企業の従業員は一社当たり数千人程度はいるだろうから、経団連など経済三団体に所属する大企業の正規従業員の数は、日本の勤労者約六千万人の中のせいぜい一割程度と見てよいだろう。彼らの給与を少々あげてみたところで、残りの九割に及ぼす影響は微弱でしかない。経団連に賃上げを指導して、「格差是正に努力しています」というのは、実効を期待できない単なる選挙向けのポーズでしかない。

 では、格差を是正するためには、今、何をすべきだろうか?次の記事を参照されたい。

 この筆者はアメリカ在住らしく、少々アメリカ社会を理想化しすぎているとは思うが、結論としては、「同一労働・同一賃金の実現を妨げているのは、日本の労働慣行に深く根ざしている」との主張である。確かに、新卒一括採用、年功序列、職務範囲や評価基準のあいまいさ、などの日本独特の労働慣行に踏み込まなければ解決できない問題であろう。

 政治家は、与党も野党も目先の選挙のことしか頭にない。彼らにゲタを預けていても、ロクな政策は期待できないことはよく判った。彼らの大半は、一年後には誰も覚えていないような、その場限りのパフォーマンスに終始しているだけなのである。

 結局、危機意識を持った民間の経営者やその下で働く勤労者の自発的な取り組みに期待するしかないだろう。すでにあちこちの職場で、同一賃金・同一労働に向けた取り組みが始まっている。この場では触れないが、実際の取り組み例を集めて、今後、あらためて紹介することとしたい。

/以上