「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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アベノミクスの六年間がもたらしたもの(1)

(1)野口悠紀雄氏の一連の記事 「日本社会に新たな二重構造が出現!」

 豊富な経済データを駆使して日本経済の問題点を浮き彫りにすることで定評のある、野口悠紀雄一橋大学名誉教授によるダイアモンド オンラインに先月掲載された三つの記事に要注目。 データ等の確認も含めて各記事を読んでもらえばよいのですが、簡単な要約を以下に示しておきます。


・この数年間、上場企業の利益は顕著に増加したが、零細企業は全般的に利益も賃金も低下した。

・全産業でみると、零細企業(資本金1000~2000万円)の一人当たり給与は大企業(資本金10億円以上)のそれの約2/3であり、アベノミクスの六年間(2012~2018年)で4.5%下落。大企業の一人当たり給与も1.7%下落。

・製造業で見ると、零細企業はこの六年間で従業員数が約一割減少、一人当たり給与も5%減少。人と給料を減らしてやっと黒字化している。一方、大企業はこの六年間で利益を九割増やし、一人当たり給与も4%増加。

・非製造業では、零細企業の六年間の利益の伸びはほぼゼロ、一人当たり給与は0.9%の伸び。大企業は、六年間に利益を六割増やす一方、一人あたり給与は4%の減少。

・非製造業で零細企業の場合には、一人当たり給与が六年間で極めて低下している業種が目立つ。飲食サービス業が40%減、宿泊業が12%減、小売業が10%減など。

・規模別・業種別の収入格差は極めて深刻であり、零細飲食サービス業の2018年10~12月期の一人当たり給与は平均で16.5万円/月に過ぎない。一方、製造業の大企業のそれは平均で43.7万円/月である。介護分野での平均は、大企業が29.7万円/月、零細企業が22.1万円/月である。

・非製造業零細企業の従業員は約671万人であり、製造業大企業の従業員291万人の二倍近い。政府は「好景気が続いている」と宣伝しているが、製造業大企業だけを取り上げてそう言っているのである。その約二倍の従業員を抱えている非製造業の零細企業の現状については触れようとはしない。

・日本の労働市場は高生産性産業(例:製造業大企業、情報通信業大企業)と低生産性産業(例:小売業零細、飲食サービス業零細、医療福祉業零細)に分断されている。かって日本経済は、近代的大規模企業と前近代的中小零細企業が併存する二重構造といわれていた。その後の高度経済成長によってこの二重構造による格差は解消したと言われていたが、近年は上に見たような「新たな二重構造」が復活したと考えてよい。

・企業が人件費を減らすための手段として、女性や外国人によるパート、非正規の就労を増やしている。女性の就労拡大や外国人労働者の拡大を安易に考えるべきではない。

・以上は、日本の総就業者6456万人の中の、法人企業統計(金融機関を除く)がカバーしている全産業の従業員約3440万人に関する話(そのうち、資本金10億円以上の大企業の従業員は781万人。零細企業の従業員は847万人)。
  さらに国家・地方公務員339万人を除いた総就業者中の残りの約2700万人の大部分が自営や個人事業で就労していると推測されるが、彼らの労働状況は零細企業よりもさらに劣悪と想像される。


・国内全企業の営業利益は2012年から2018年までの六年間に55%も増加したが、人件費はたった7% (記事には0.7%とあるが、たぶん記載ミス)しか伸びなかった。仮に人件費も伸びていれば、営業利益がこれほど増加することはなかったはず。

・この六年の間に零細企業全体の売り上げは1.7%しか伸びず、その人員は約7%減少、一人当たり人件費も0.7%減少した。一方、大企業全体では、売り上げは12.2%増加、人員も12.2%も増えているにもかかわらず、一人当たり人件費は逆に1.2%減少している。これは、零細企業から放出された人員の多くが、同じ賃金かさらに低い賃金レベルでより大きな企業に非正規職として再び雇用されたことを示していると思われる。

・以上は全産業での状況だが、非製造業での零細企業と大企業の間の業績格差は極めて大きくなってきている。この六年間に、非製造業零細企業では売り上げ高が1.3%の増加、人員は6.2%の減少、一人当たり人件費は0.1%の減少。これに対して非製造業大企業では、売上高が16.2%増加、人員も22.8%も増加、一人当たり人件費は3.1%の減少である。

・次に非製造業の各部門別に見てみよう。
 小売業では、零細企業は売上高は47.7%減少、人員は23.1%減少、一人当たり人件費は6.0%の減少。大企業は売上高は2.1%の減少、人員は6.5%増加、一人当たり人件費は4.6%の減少。

・飲食サービス業では、零細企業は売上高5.9%減少、人員は22.0%減少、一人当たり人件費は45.1%も減少。大企業は売上高18.0%減少、人員は27.8%減少、一人当たり人件費は11.9%の増加。

・医療・福祉業では、零細企業は売上高43.2%減少、人員29.5%減少、一人当たり人件費1.0%増加。大企業は売上高1.6%増加、人員22.5%増加、一人当たり人件費は0.2%の減少。

・零細企業では大半の業種では売上高と人員の減少が急速に進んでいる。一人当たりの人件費も医療・福祉業を除いて減少している。元々賃金が低い零細企業で、さらに賃金低下が進むのは大きな問題だ。

・いくら政府が春闘に介入しても、その効果は大企業の賃金を改善するだけにとどまり、国民の大半を占める零細企業従業員や自営・個人事業者に賃上げが波及しないのは明らかだ。


アベノミクスの六年間で、全産業での売上高と利益の伸びを企業規模別に見ると、資本金五千万円以上の大中企業と五千万円未満の小企業では大きく異なる。大中企業では売り上げと利益ともに大きく伸びているのに対して、小企業では売り上げは横ばいか減少、その利益も減少もしくは若干の伸びに留まる。

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・全産業の人員数と賃金についても企業規模別に見てみよう。人員は、大中企業ではこの間に一割から二割近くまで人員を増やしているが、小企業では一割近く減少。一人あたりの賃金については、資本金2000から5000万円規模の小企業を除く全ての企業規模で横ばいか減少。人件費は大中企業では一割から二割近く伸びているが、小企業では横ばいもしくは減少。

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・まとめれば、小企業では売り上げが伸びないため人員を削減、この労働力が大中企業に移動した。しかし、低賃金のままの移動であったので、大中企業が利益を大幅に伸ばしたにもかかわらず、その賃金は横ばいか若干低下した。大中企業は、結局は、主に人件費の抑制によって利益を増やしたのである。

・小企業から大中企業へ移動した労働者の低賃金が変わらないままであるのに対して、元から大中企業にいた労働者の賃金はこの間順調に上がったものと推測される。

・過去の日本では、農村から都会に供給される労働力が経済の高度成長の原動力であった。現在の日本では、小企業、零細企業、自営業等から放出される低賃金の労働力が大中企業の成長を支えている。潜在的な低賃金労働力はまだ大量にあるものと思われ、これが日本全体の賃金が上がらない主な要因だろう。

・現在の日本の賃金統計や労働統計は、労働力の移動を直接には捉えていない。労働者が実際にどのように移動したか、そして賃金がどうなったかは、今の統計では直接には分からない。統計の取り方を時代に即して変えていく必要がある。

・現在言われている人手不足は、小企業・零細企業では顕在化しているが、大企業ではそれほど深刻な状況ではない可能性がある。

(2)感想

 政府はアベノミクスで企業収益が大幅に上がったと強調し続けているが、その収益の大部分は低賃金の労働者から収奪したものである疑いが強まった。
 大企業の収益増大が生産性の向上や新規分野の開拓によるものではなく、低賃金労働者に働きに応じて本来渡すべき賃金をケチることで達成されたものであるとは、実になさけない限りである。 首相は「同一労働同一賃金」を叫んでいるが、例によってスローガンだけで中身のないものに終わるだろう。実際にはそれとは逆の動きが進んでいるのである。

 ほかにも紹介したい記事がいくつかありますが、次回に回します。

/P太拝