「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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コロナ、GoTo、菅総理(3)- 感染阻止の対策は? -

 前回の末尾に、「次は菅氏が総理の座に登りつめるまでを書きたい」と書きましたが、今回はやめにしました。既に多くの人が彼の無能力ぶりの深刻さに気づいてしまったので、今さらあえて菅氏について書くまでもないからです。

 ご本人は、何とか来年秋の衆院選までは這ってでも総理の椅子にしがみつこうとするでしょうが、どうせスカ内閣は長くはもたない。今回はもっと建設的な話題について取り上げたいと思います。


(4)コロナ感染拡大を止める方策

 先日読んだ記事で、東京都医師会会長の尾崎治夫氏が興味深い提言をされていた。

「「勝負の3週間」に敗北…日本のコロナ対策に決定的に足りないもの」

 その提言内容とは、この記事の3ページ目にある以下の部分。感染対策と経済対策を両立させるためには、長距離移動者に対して検査を義務化すべきとの意見である。

「・・「社会を動かすためのPCR検査」が必要です。「Go Toキャンペーン」が実施されましたが、東京から人が来ると受け入れる地方の人はやはりこわい。「けれど観光業、飲食業を守り、経済を回すためには……」という意見をよく聞きました。であれば、地方に行かれる方、特に新幹線、飛行機を利用される方は、旅行パックのなかにPCR検査、または抗原検査を組み入れ、陰性の方は出かけてもらうという仕組みを作ればいいのです。・・・」

 この提言には全面的に賛成したい。日本を含む世界各国が、国境で厳密なPCR・抗原検査と入境制限を実施して感染者の侵入を阻止しようとするのはなぜなのか。国境を越えての移動者が感染拡大の最大の、そしてほぼ唯一の原因であるからにほかならない。

 では、なぜ日本では、国境では厳密な入境規制をする一方で、国内では感染しているかどうかも判らない国民の自由な移動を放置し続け、さらに1.6兆円もの税金を投入して政府が移動の奨励さえもするのか? これでは国内全地域での感染爆発は当たり前だ。それなのに、我がスカ総理は、「GoToは感染拡大に影響していない」と、子供にもバカにされるような幼稚な主張を繰り返して来たのである。

 筆者も、以前から感染防止と経済の両立のためには移動者に対する検査を実施するしかないとの思考実験を既に行っていた。筆者のようなペイペイの一市民が言ってみたところでどうにもならないとは思っていたが、今回、東京都医師会の会長様に同じような主張をしていただいたので、この機会に以下に試案を述べておきたい。

① 国内で長距離移動をする人(全国民+全在住外国人)にはPCR検査(またはそれと同程度の信頼性のある検査)を義務付ける。検査終了後は、長距離移動中には「PCRパスポート」の所持を義務付ける。「長距離」の定義が難しいが、例えば隣県への移動はOKだが、自県と接していない県への移動は「長距離」とみなす、等々。

② PCR検査は無料とし、その費用は全額国が負担する。最近は二千円を切る価格でPCR検査を請け負う民間業者も増えている(以下の記事を参照)。仮に一件につき二千円と仮定すれば、全国民が検査を受けてもその費用は二千五百億円程度ですむ。GoToにかける1.6兆円をこの検査の財源に回せば、赤ん坊から高齢者までの全国民が検査を六回も受けることができる。また検査時間についても数十分で結果が出る方式なども増えているので、受診者にとってもそう負担にはならない。


「PCR検査「1980円」 理研発スタートアップが事業化」
「ソフトバンクG、低価格PCR検査を個人にも 21年3月に」


③ 最近は唾液によるPCR検査も可能となり、安全性も増している。素人でも、一定の研修を受けさえすれば検査要員として国が一時的に雇用することも可能だろう。コロナ禍によって失業した人々を、是非、検査要員として優先的に雇用すべきである。

④ 長距離移動者が交通機関の切符を購入する際には「PCRパスポート」の提出を義務付ける。長距離移動者がホテル・旅館にチェックインする際も同様とする。提出がない場合には、当該業者は切符の販売や宿泊を拒否しなければならない。

⑤ 業務で日常的に長距離移動を繰り返す労働者(長距離トラック運転手や営業マン等)に関しては、企業経営者が労働者にPCR検査を受けさせる義務を負うものとする。違反した企業には罰則(罰金、営業停止等)を課す。

⑥ PCRパスポートの有効期限は2~4週間といったところだろうか。専門家の意見を取り入れて決めればよい。

⑦ 自家用車で実家に帰る人などが検査の網から逃れることになるが、移動する大半の人が検査を受けた状況になれば、実家側でも検査を促すか帰宅を拒否することになるだろう。社会の同調圧力が強い日本では、検査の網から逃れようとする人は少数にとどまるだろう。

⑧ PCRパスポートを持っているからと言っても、完全に陰性であることが証明された訳ではない。このことは検査を受ける人を含めた全国民に周知させる必要がある。パスポートを持っていても、従来通り「三密を避けマスクをする」ことが要求される。

 以上のような提案をすれば、当然、「偽陰性や擬陽性の問題をどうするんだ」という指摘が当然出て来る。しかし、「百パーセント正確な結果が得られない検査は中止」などというのであれば、全国で実施中のPCR検査を全て中止しなければならなくなる。

 今は重箱の隅をつついて喜んでいるような局面では既にない。個々の誤判定はあっても、国全体として感染確率をいかに減らすのか、感染が減少していく地域の数をいかに増やすのかという議論を優先させるべきである。

 不思議なのは、検査数を増やすべきという意見に対して反論するのは、大体が医療関係者であるということだ。彼らの反論には数字が含まれておらず、客観性に乏しく感情的なものが大半である。「感染者数が増えたら設備が足りなくなって収容できない」というのであれば軽症者は自宅療養してもらうしかない。検査数を増やさないままでいれば、自分が感染していることも知らない数多くの人間が国内をウロウロと歩き回ることで、この先はもっと大変なことになる。現在はその五合目というところだろうか。

 また、「医療体制を万全にする、医療者の賃金も上げる」とずっと言い続けながら、その実、ちっとも実行しようとしない政府に対しては医療者側がもっと強く抗議すべきである。一体、何でそんなに政府に遠慮しているのか?

 一方、感染抑え込みにほぼ成功している台湾では、検査数は増やす必要はないという見解がほぼ定着している。下の記事に見るように、台湾の中央感染症指揮センターの指揮官である陳時中厚生大臣が8月の時点でPCR検査の扱い方について自ら発表しているのだが、これは感染者をほぼ完全に特定できている台湾だから言えることである。

「新型コロナを封じた台湾、日本との「決定的な違い」とは」


 東京や大阪で新規感染者の半分以上が「感染経路不明」となってしまった日本の現状では、到底、台湾と同じような方式はとれない。誤判定を承知の上で、少しでも全体の感染確率を減らすためには、やはり検査機会を増やす以外には道はない。特に全国への感染者の供給源と化してしまった大都市からの地方への移動、さらに地方から大都市への移動に対して検査というフィルターをかけることで、まず地方の感染機会を減らすこと。次の段階では大都市とその周辺部との間の移動にフィルターをかけること。このようにして感染地域を段階的に追い込んでいけば、感染の極小化も見えてくるのかもしれない。

 なお、上の記事の一ページ目にある擬陽性や偽陰性の割合が示されている図について。筆者はコロナに関する日本国内の記事をかなり詳しく読んで来たのだが、その中ではこのような明確なデータを見たことがない。結局、日本では「大変だ」と大騒ぎするだけで基礎的なデータさえも誰もまともに取っていないし、政府もそのようなデータを集めることには全く関心がないようだ。両国の政府トップの知的レベルの差がこんなところにも現れている。

 科学的な検討もろくにしないままに、わが政府は「三密回避とマスク装着」以外の対策では精神論を振り回すだけである。我が国の指導者層は、戦後75年経ってもいまだに「焼夷弾が落ちたらバケツリレーで対処」のレベルのままで思考停止している。彼らは、この騒ぎを利用して自分のタニマチ(後援者)に税金をみつぐことにしか関心がないようにみえる。

 さて、感染の現状を示す指標として重要なのは「実効再生産数」Pである。これは一人の感染者が何人に感染させるのかを示す指標で、Pが1以上なら感染は拡大、Pが1以下なら感染は収束方向にある。東洋経済オンラインのサイトでは、この指標が表示され毎日更新されている。

「新型コロナウイルス国内感染の状況」


 このサイトの最初のグラフ群の三段目の「実効再生産数」がそれである。(この指標の計算式は、グラフの下の「もっと読む」の所をクリックすると現れる。この計算式は等比数列(高校の数学で習うはず)を使って導くことが出来る。興味のある方は証明にトライしてみてください。)

 このグラフによれば、12/29時点での「実効再生産数」は1.17となっている。感染拡大期ではあるが、それほど急速に拡大しているわけではない。したがって、何らかの手段を用いて感染が次の人に移るのを少しでも防ぐことが出来れば、実効再生産数は容易に1以下となり感染収束期に移行するものと予想される。その有力な候補こそが、上に述べた遠距離移動者に対するPCR検査の義務化なのである。

 このグラフでは今年の3/1以降の値もたどることができる。実効再生産数のピークは、感染がもっとも急速に拡大している時点を示す。その時点とは、感染第一波では4/3に2.27、第二波では7/4に1.86、第三波では11/12に1.42となっている。現在は感染が急速に拡大しているように見えるが、感染が全国に広がって母数が大きくなっているためにそのような感じがするのであって、第一波、第二波の方がもっと急激な増加を示していたのである。
 なお、この第二波での実効再生産数のピークの日付、7/4に注目されたい。「GoToトラベル」の開始は7/22であった。仮に、この指標に注目するような賢明な政府を我々が持っていたならば、その賢明な政府は感染の急速な拡大を察知して即座に有効な対策を取っていただろう。現実の、我々の愚かな政府は、逆に「GoToトラベル」のような愚劣な政策を立案し、さらにその実施を前倒しして、約五か月間にわたって感染者を積極的に全国にばらまいて来たのである。

/P太拝

毎日魚を食べていたら、コロナで死なずにすむ?

(1)コロナにかかっても死なないためのビタミン

 一週間ほど前、非常に注目すべき記事を読みました。
「新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体」

 そのビタミンの正体とは「ビタミンD」。この記事によると、今回の新型コロナウィルス covic-19によって感染者が死に至る原因の大半は、自身が持っている免疫システムの過剰反応にあるとのこと。ビタミンDはこの免疫システムの暴走、いわゆる「サイトカインストーム」を抑制する働きがあるのだそうです。

 上に紹介した記事の中では、アイルランドとスペインでの二つの症例結果を示しています。アイルランドの例では、感染したが軽症で済んだ21名と感染して重症化した12名(うち4名が死亡)の血中のビタミンD濃度を調べたところ、前者の平均値は後者よりも約6割も高かったとのこと。

 スペインの症例では、コロナに感染した76名を二グループに分けて、一方にはビタミンDを投与、多方には投与しませんでした。前者では50名中で1名のみが重症化してICU(集中治療室)に入室したのに対し、後者では26名のうちの半数の13名がICUに入室、最終的にはこの13名中で2名が死亡しています。
(なお、成人のビタミンDの摂取上限量は一日あたり0.1mg=100μgとされているので、この例の前者に対する初日投与量は、この値を一時的とはいえかなり超えています。二回目以降は上限値以下に抑えられています。)

 以上の調査結果からみて、ビタミンDを日頃から摂取していれば、またはコロナに感染してからでもビタミンDを投与すれば、重症化、さらには死亡する可能性を大幅に低下させることができそうです。ただし、ビタミンDをたくさん摂るほどコロナには感染しにくくなるかどうかはまだ不明なようです。現時点では、「感染しても重症化しにくくなる」というところまでしか判っていません。

 ビタミンDの効果については、一昨日公開の以下の記事でも触れていました。冬でも、日光を積極的に浴びて体内のビタミンDを増やすことが必要との内容です。なお、この記事の中でのサプリメント(錠剤)での摂取推奨量の2000IUは50μgに相当します。かなり高めの量となっていますが、日本政府が定めている摂取上限量100μgの半分程度です。

「なぜ冬にコロナは広がりやすいのか? 理由は「密閉」の他にも」

(2)ビタミンDを多く含む食品は?

 ビタミンDは食品から取ることもできますが、日光を浴びることで我々の皮膚で合成することもできるそうです。陽が当たらない冬の間とか、高齢者の場合には体内での合成ができにくくなるので、食品として摂る必要があります。ネットでビタミンDの多い食品を検索するといくらでも出てきます。例えば次のサイトなど。
「ビタミンDの多い食品・食べ物と含有量一覧」

 次のサイトは絵入りで分かりやすい。ビタミンD骨粗しょう症にも有効とのことなので積極的に摂りましょう。なお、上限値の一日100μgを超えて毎日過剰に摂り続けていると障害が出て来るとのことです。
「骨を強くする栄養素 ビタミンDを多く含む食品」

 ビタミンDと言えばすぐ干しシイタケを連想しますが、これらのサイトを見ると、魚介類を一日一回でも食べていれば、とりあえずは十分なようです。

 

(3)魚をたくさん食べる国ほどコロナでの死者は少ない?

 これらのデータを見ていると、「魚をたくさん食べている国ほど、コロナによる死者が少ないのでは」という疑問が当然浮かんできます。さっそく調べてみました。
 対象国としては、人口が三千万人以上の国、或いは地理的・食生活的に魚介類をたくさん摂っていそうな国を選びました。世界には小さな島国もたくさんありますが、小国では医療面のインフラが整っていないことが多いと予想されるため、医療水準の極端な差はなるべく避けたいと思って対象からは外しました。

 各国の一人当たりの魚介類摂取量のデータについては「国連FAO」のサイトから最新値(2016年版)を、コロナによる死亡者数については「Our World in Data」から12/11時点のデータを集めました。

 結果を下のグラフに示します。グラフをクリックすると拡大版が表示されます。

 地理的・遺伝的に似通った国々をひとつのグループとして、グルーブ間でも比較する必要があると思われたので、「東アジア」「西欧」「北中米」等、10のグループに分けて、同じグループの国を同じマーカーで表しました。

 欧州はグループ分けが難しいが、政治的に旧東側であった国を「東欧」、残りの国の中でデンマーク以北を「北欧」、ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルを「南欧」、残りを「西欧」としました。オセアニアは二カ国だけなので「東アジア」と同じグループに入れました。

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このグラフの下の方の、より死亡率の低い国々を拡大して下に示します。

http://sustainabletori.com/fish-2.jpg

 このグラフを作っているうちに重大なことに気づきました。今年の春ごろには「全国民にBCG接種を義務付けている国のコロナ患者数は、そうでない国の患者数よりも明らかに少ない」ということが話題になっていました。当ブログでも4/12付の記事等でこの話題を取り上げました。

 旧東欧以外の多くの欧州諸国、北米、オセアニアでは、かってはBCG接種 (昔の呼び方では、ツベルクリン) を全国民に対して行っていたものの、1960年代以降は順次撤廃。現在は、結核に感染する危険性が高い子供や希望者のみに接種しているようです。その他のアジア、アフリカ、中南米の国では若干の例外を除いて全国民に対して幼児期に接種をすることになっているはずです。

 上の二つのグラフで「全国民に対してBCG接種を義務付けてはいない国」を赤い丸で囲むと、その大半が死亡率の高い領域にあります。この赤い丸をつけた国を除いてBCG接種を義務付けている国だけに限定してみると、ポルトガルとペルーを除けば、魚介類摂取量と死亡率の間には強い相関があることが読み取れます。

 ちょうど昨日公開された下の記事では、これらの二つのグループの間では死亡率は20倍もの差があると報じられていましたが、それを裏付ける結果です。上のグラフを見るともっと大きな差があるようにも見えます。

 下の記事の中の回復者の抗体保有率が高いという事実も、今後のワクチンの効力に直結する非常に重要なデータでしょう。

「BCG接種国は新型コロナの死亡者が20分の1 回復者の98%が抗体保有のデータも・・」
 さて、全体として見れば、やはり魚介類(魚+貝)をたくさん食べている国ほど死亡率が低い傾向が認められます。ただし、それ以上に目につくのは、地域間で極端な差があることです。上のBCG接種の有無以外の要因もかなりありそうです。

 特にアジア諸国の死亡率が低いことが目立ちます。イランとイラク以外のアジアの国は、その全てが死亡率が200以下。特に東アジア・オセアニアに限れば、欧米に比べればほとんどゼロに等しい。やはり遺伝的・体質的要素の影響は大きいように思います。BCG接種が義務付けられていず、かつ白人が多いオセアニアの二カ国については、島国で防疫措置が容易なこと、感染初期時の対応が優秀であったことが死亡率が低い理由でしょう。
 もう一つは気候の影響がありそうだということ。死亡率が高いのは、若干の例外はあるものの「寒くなる季節がある国」が大半です。室内感染機会の増加以外にも、冬季に浴びる日光量が少なくてビタミンD不足を招いていることが死亡率の増加につながっている可能性が考えられます。

以下、グループ別に少し詳しく見ていきます。

① 北欧五カ国

 このグループでは死亡率と魚介類摂取量との相関がかなり明瞭に読み取れます。例外はスウェーデンですが、ごく最近までマスクもしないで感染前と同じ生活をしていた特異な国なので、この結果は当然という気もします。いくら魚を食べていても、マスクすらしないのでは、結果的に死者が増えるのも仕方がないというところでしょうか。

② 南欧四カ国

 BCG接種を義務化しているポルトガルギリシャは死亡率が比較的低くなっています。魚やオリーブオイルをふんだんに使った「地中海料理」は一般的には健康によいはずですが、コロナに関しては他の欧米諸国との違いが明確ではなく、むしろ高め気味です。感染初期時に医療崩壊が真っ先に起こったのがイタリアとスペインなので、その影響なのかもしれません。一応は西欧に分類したフランスですが、ラテン系の国で南欧的な要素も多いせいなのか、イタリア・スペインと似た位置にあります。

③ 東アジア・オセアニア

 中国、台湾、ベトナムが死亡率がほぼゼロ(中国とベトナムでは政府発表以外の報道が許されないので、その数字の信頼性には疑問があるが、少なくとも公表値より何倍もの多くの死者が出ていることはないはず。出ていれば、今頃はもっと社会が混乱しているはず。)なのは、感染初期時の対応が迅速であったためと言ってよいでしょう。

 タイの死亡率がほぼゼロなのは、先の12/9付けの記事でも書いたようにその理由がよくわかりません。タイとベトナムに挟まれた国であるカンボジアラオスについては、死亡率が公表されてはいないものの、その100万人あたりの感染者数はカンボジアが21、ラオスが5と極めて少なく、この両国も死亡率はほぼゼロとみてよいでしょう。ちなみにベトナムの百万人当たりの感染者数は14、タイは60、日本は1386 (12/11時点)。

 ベトナムラオスカンボジアの国民は主としてオーストロアジア語族からなり、遺伝的・体質的にはかなり似通っているはずです。初期対応がかならずしも優秀とは言えなかった国が多いこの地域の感染率・死亡率が著しく低い理由の解明は今後の課題でしょう。

 以上の国を除いた残りのマレーシア、韓国、ミャンマー、日本、インドネシア、フィリピンの六カ国については、魚介類摂取量と死亡率の相関がかなり明瞭に見えています。いずれも政府のコロナ対応は程度の差はあれかなり泥縄的で、その政策レベルも大体似たような位置にあったようです。

④ アフリカ

 アフリカ諸国の大半で死亡率がほぼゼロであり、魚食との関係はよくわかりません。ただし、ヨーロッパに近い地中海沿いの三か国と南端の南アフリカでは、かなりの値の死亡率となっています。

 他の地域と共通する問題点として、「政府の公表値が死亡者の死因を正確に分析したうえで集計されているのか」という疑問点が挙げられます。第三者が現地に行って直接調査することができない現状では、現地政府の公表値をそのまま使うしかありません。今後、事態が落ち着いてきた段階で、医療インフラがぜい弱である国の数字が大きく書き換えられる可能性があります。アフリカの多くの国については、現時点では判断を保留しておいた方がよいでしょう。

⑤ その他地域

 上のアフリカの所で挙げた「政府公表値の正確性」については、他の地域でも同じことが言えます。死因を判定できる医療機関どころか、内戦や紛争で政府機関さえもまともに機能していない国では、公表される死亡率が総じて低い傾向があります。

 例えば、世界最貧国の一つとされるハイチの死亡率は20.4、ベネズエラ34.4、シリア33.8、ソマリアが7.8、等々。いずれも日本の19.3と同程度の値です。これらの国に対する判断も保留して置いた方が無難でしょう。

 以上に挙げたグラフのデータ一覧表は、ここをクリックすると画像として現れます。ご参考まで。

 さて、結論として言えることは、やはり「コロナ重症化を避けるためには、魚を積極的に食べた方がよい。また冬の間も、できるだけ日光を浴びた方がよい。」ということ。魚ばかりを過剰に食べる必要はないが、今まで日々ほとんど魚を食べていなかった人は、一日にしらす干し大さじ二杯程度もよいから毎日食べておいたほうがよいでしょう。

 ただし、「俺は魚をたっぷり食べているから、コロナにかかっても絶対に死なない」と自信満々になって、マスクを外してあちこち歩き回るのは、行く先々がスウェーデンみたいなことになるから絶対にやめるべきでしょう。感染している本人が死ぬどころか無症状のままでも、他の人に感染させて死なせるリスクは十分にあるのですから。

/P太拝

 追記:「世界で一番魚を多く食べるのは日本人」というのが未だに日本国内の常識ですが、実態は上に示した通りで、既にマレーシアや韓国の方が日本よりもニ、三割も多く消費しています。一般的には、国の経済発展に伴って健康に良いといわれている魚の消費量が急速に伸びる傾向があり、世界的にみれば水産業は成長産業、特に養殖業の伸びは著しいようです。

 このような中で、日本だけが魚の消費量が急減しており、ピークの1988年には一人当たり71.9kgであった年間消費量が、2016年には45.3kgとピーク時からは37%も低下してしまいました。国の勢いの低下を示しているようで、何だか寂しいものがあります。

 

鳥取市出身のオペラ歌手、谷口伸氏が年末にN響をバックに第九を歌う

 鳥取市内の音楽関係者の中にはすでにご存じの方も多いと思いますが、鳥取東高出身で国際的に著名なバリトン歌手である谷口伸さん(現在、ドイツ在住)が、今年の年末に東京でNHK交響楽団をバックに独唱でベートーベンの「交響曲第九番」を歌われるとのことです。

 公演日程は以下の通り。内容の詳細については「NHK交響楽団」公式サイトをご覧ください。
  12/23(水) 於 NHKホール
  12/25(金) 同上
  12/26(土) 同上
  12/27(日) 於 サントリーホール

 また、この公演の模様は、NHK FMNHK Eテレ(旧教育テレビ)で全国放送されるそうです。

  12/23(水) 19:00~ NHK FMラジオ放送
  12/31(木) 20:00~ NHK Eテレ(2ch )

  筆者も数年前に鳥取市内で谷口さんの熱唱を拝聴しましたが、市民会館の大ホールいっぱいに響き渡る力強くて豊かな声量に圧倒されたことを思い出します。

 今年は何かと大変な年になってしまいましたが、谷口さんの唄う「希望の歌」を聴きながら、来年がよい年になることを祈りたいと思います。

/P太拝

コロナ、GoTo、菅総理(2)- 支離滅裂な総理発言 -

(前回からの続き)

 一昨日、GoTo政策に関する野口 悠紀雄氏(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授)の記事を読んだので紹介しておこう。野口先生の記事には、常に数字によるデータが明示されているので非常に説得力がある。世の中に数多く出回っている、自分の感情にまかせて書きなぐっただけの記事とは雲泥の差があると思う。

「「強きを助け、弱きを見捨てる」、これがGoTo政策の本質だ」

 記事の内容を要約すると、

・GoToが支えている宿泊・飲食・娯楽業は単価の高い大企業が主で、元々単価の低い零細企業は対象外。現在、本当に苦しんでいるのは零細企業などに属する低賃金の弱者。

・(大企業に勤める人の割合が多い)勤労者世帯の実収入はコロナ禍にもかかわらずむしろ増えている。

・GoToを利用して旅行に行って得をしているのは感染しても重症化する恐れが少なく、かつ収入面では旅行する金銭的余裕がある若者層。今の政府の政策が、彼らと貧困層・高齢者層との間の格差を拡大させている。

 「GoToトラベル」の現場の実態については、以下の記事でよくわかる。コロナ対策として始めた「GoToトラベル」とは、要するに、その対象を大手ホテルやJTBなどの大手旅行代理店に限定しての国民の税金による救済策に他ならない。その副産物としてのコロナ感染が全国拡大してしまったのが現在の惨状なのである。本末転倒というほかはない。

「テレビが報じない「GoToキャンペーン」の異常なウラ側」

「1泊6万円」旅館、高級ホテル-GoTo恩恵は高額旅行に集中

「内部資料入手「GoToトラベル事務局」大手出向社員に日当4万円」

「安倍政権のゴリ押し「GoToキャンペーン」で窮地に立たされる沖縄。感染拡大止まらず」

 先回の記事では「GoToの被害者の典型例が沖縄県」と言い切ってもよいほどの感染の実態について書いたが、上の8/13付けの記事はそれを裏付けるものだ。安倍前総理と菅総理は、二人して真っ先に沖縄に行き、沖縄県民に土下座して謝罪すべきだろう。

 この記事の筆者は「本土側も、今の沖縄の状況を対岸の火事とは言っておられなくなる」と既に八月の段階で指摘していたが、四か月たった現在、その予言通りとなってしまった。

 (3)支離滅裂な菅総理の発言

 さて今回の本題に入ろう。菅内閣が発足してからの三か月間で見えてきたものは、菅総理が発する言葉の異常なまでの支離滅裂ぶりである。これほどまでに公的な場で非論理的な発言を連発する人物を筆者知らない。実例を二件あげておこう。

 ①「GoToトラベル」による感染の拡大を否定する一連の発言。

 先月の中頃だったか、テレビのニュースを見ていたら、「GOTOトラベルでの利用者の感染は〇〇人」との報道をやっていた。確か、その時に報道された人数は数十人程度だったと思う。

 「利用者だけを対象に数えて済むはずがないじゃないか、出先で接触した人間は数えないのか、アホか!」とその時は思っただけだったが、その後も次々と同じようなニュースを流していた。こんな情報を流せばごまかせると思っているのだから、今の内閣は本当にレベルが低い。

 以下、時系列的に当時のニュースへのリンクとあわせて画像へのリンクも貼っておこう。

(注:サイトへのリンクと共に画像へのリンクも貼っておいたのには理由がある。先ほどの 12/14 18h過ぎに、「GoToトラベル、全国一律停止」のニュースが流れた。

 このような現政権の政策に不利なニュースが流れると、現政権の政策に関するそれまでの関連記事のサイトが一斉に消去される傾向がある。おそらく内閣府から各報道機関に対して消去の圧力がかかるのではないか。仮に直接の圧力は無いとしても、各社が政権に忖度して自主的に消去する可能性はある。
 あわてて「GoTo トラベル」に関して以前にチェックしてURLを記録しておいた記事を見直したが、既にいくつかの記事が消去されていた。ただし、yahooやmsnニュースのようなまとめサイトでは、公開後数日にして消されることもある。元々の発信元サイトでも一か月もしないで消されることもあるので、消去されたこと自体が発信元が政権に忖度した結果とは直ちには断定できない。

 ともあれ、近い将来に消されてしまう可能性は大いにあるので、念のために、この件に関連した現時点での公開記事を先ほど画像としてコピーしてストアしておいた。)

 「11/03 観光庁「GoToトラベル」の利用者76人の新型コロナ感染を報告 -ホテルバンク-」 「同 画像」

「11/13 GoToトラベル、138人が感染報告 -共同通信-」 「同 画像」


「11/27 GoTo トラベル利用、感染者は202人に -FNNプライムオンライン-」

  「同 画像」

 

 次の記事は、国会での菅総理の答弁に関するもの。
「11/26 GoTo 強気の菅首相 効果に自信、「元凶説」否定 -予算委- -時事通信-」  「同 画像」

  この記事によれば、首相は国会で珍妙な自説を堂々と展開したそうである。以下、記事の一部を引用する。「(首相は野党からの質問に対して)・・・『トラベル事業の利用者延べ4000万人に対して、関連する感染確認は180人程度にとどまる』と数字を挙げ、取り合わなかった。 首相の強気を支えているのは、地方の観光関連業者を中心に事業継続への期待は根強いとの判断だ。安倍内閣官房長官時代に前倒しでの実施を主導した経緯もある。25日の答弁では「地方は『トラベル』で雇用を維持できている」と断言した。」 

 ちなみに、「GoTo トラベル」を開始した7/22時点での全国の感染者数は27,265人であった (NHK特設サイト)。先回の記事でも示したように、GoTo開始後に感染者は急増、12/13時点での感染者数は180,630人、この間の感染者増加は実に153,365人である。沖縄県だけを取ってみても、この間に157人から4805人へと4648人もの激増である。

 その全てがGoToのせいとは言わないが、その何割かはGoToをやらなければ感染しないですんだ人々なのではないのか。菅総理は、どのような根拠をもって「影響は180人どまり」などと主張しているのか?

 ここで気になるのは、「首相は・・・地方は『トラベル』で雇用を維持できている」と断言した。」との部分だ。雇用を維持できているのは首相の支持基盤である「観光関連業者」だけではないのか?官房長官当時の菅氏が異常なまでにこのGoTo事業を熱心に推進した理由はここにあると思う。疲弊する医療従事者や、コロナ感染拡大で受注が停まった零細な製造業者に対する配慮はかけらも見られないようである。

  さて、多くの人がすでに気づいていると思うが、菅総理は、GoToの影響による感染者を「GoTo利用者自身に限定した感染者だけ」としかとらえていない。利用者が旅先で接触する人々へ感染を移す確率は、なぜかゼロとみなしている。我々国民にとってはすでに常識である「無症状者でも他人に感染させる危険性がある」ことすらも、総理は未だにご存じないようだ。

「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)-厚生労働省-」

 また、体調の悪い人は、このような状況下では当然のことだが、あえて旅行や出張にはでかけないはずだ。出かけるのは自分の健康に自信がある人が大半だろう。そのような人だけに限定して感染者を数えておいて、「GoTo利用者の感染は少ない」と主張するなどというのは、完全に子供だましというほかはない。
 最近の小学生はスマホを使うせいか、実によくものを知っている。この菅総理の説明が実にアホくさいことは小学生でもわかる。この説明にうなずくのは幼稚園児くらいなものだろう。そういう意味で、現職の総理大臣による実に幼稚な説明と断言して差し支えないだろう。

 さらに驚くのは、国のトップであるはずの総理大臣が、国権の最高機関であるはずの国会の場で、このように幼稚、かつ客観性がまるで欠如した議論を堂々と展開していることだ。最初にこの説明をし出してから一か月以上も、このアホな説明を官房長官も動員して展開している。さすがに東大経済学部卒の加藤勝信官房長官は、恥ずかしいのか目を伏せながら小声で説明してはいたが・・。自ら進んでバカな上司を選んだ結果なのだから、自業自得というほかはない。

 

②「日本学術会議のメンバーの45%が旧帝大の出身者」との発言

「菅首相 学術会議の会員 旧帝国大所属45%で“偏り”と説明」

10月にこの発言を聴いた時にも「アホか!」と思った。菅内閣になってからは、ニュースを聞いて「アホか」とつぶやくことが非常に多くなってしまった。

 前内閣が旧帝大に重点的に予算配分してきたことは、少なくとも大学関係者には常識である。一例として、旺文社がまとめた2017年度の各国立大学への国からの「運営交付金」の内容を下に示しておこう。各大学への分配額は8ページ目に載っている。

「国立大「運営費交付金“等”」の仕組と狙い! -H29 年度「運営費交付金等」は東京大 824.1 億円、京都大543.5 億円など-」

 86校もの国立大学がある中で、交付金金額が多い順では東大を筆頭にその八位までに旧帝大七校の全てが入っている。この七校への運営交付金の合計は運営交付金全体の33%を占めている。この割合は過去十数年間ほとんど変化していないようである。

 国からの運営交付金は全国立大学の収入の約四割を占めており、残りは各大学自身の努力による自己収入だが、自己収入の約7割が医学部付属病院の収入である。旧帝大の全てに医学部が設置されているので、自己収入分を含めれば、全国立大学の全収入の約半分程度が旧帝大七校の収入となっているものと推測される。

 資金をより多く獲得している大学に、優秀な学者・研究者がより多く集まるのは自然な流れである。菅総理が「日本学術会議構成員の45%を旧帝大出身者が占めているのは、けしからん!」というのであれば、この七大学への運営交付金を集中的に削っていればよかっただけのことである。

 国家予算の全てに関与でき責任も有する官房長官の椅子に過去七年間も座っていながら、この構造を何も変えようとしてこなかった人物が、今になってから急に取って付けたように「けしからん!」と言い出す訳が全くわからない。72歳にして、既に自分がやってきたことを全部忘れてしまったのだろうか?

 菅総理には「説明能力」が全く欠けていると以前から思っていたのだが、これらの発言をあらためて整理しなおしてみると、「知的理解力」と「論理展開能力」も非常に欠落しているように見える。

 普通の能力と感性を持つ大人であれば、少なくとも上に挙げたような非論理的な話を人前で公然とするのは恥ずかしくてとてもできないだろう。その意味では、菅総理は例外的に「厚顔無恥力(無知力?)」に関してだけは、ダントツでトップに位置しているのかもしれない。

 何はともあれ、ようやく昨日になっての「GoTo トラベル  Stop!」は素直に歓迎したい。コロナで死ぬ人がこれで少しは減るだろう。

/P太拝

 (1億2千6百万人が乗る日本丸の舵取りをする船長としては非常に能力的に問題があると思われる菅氏が、なぜ総理の座にまで登りつくことができたのかという話については、次回に回したいと思います。

 この人の行動や発言を調べていると、今の日本の政治が抱えている問題点がかなり明確になってくる感じがするので、ついつい話が長くなってしまうのです。)

 

 

コロナ、GoTo、菅総理(1)- 近隣各国との比較、GoToの影響 -

 既にコロナ感染の第三波に突入してしまったこともあり、久しぶりにコロナに関する話題を取り上げてみたい。

(1)コロナ感染状況 -近隣各国との比較-

 世界の感染者数は6600万人を既に超え、死者も150万人を超えた。2020年現在の世界人口は推定78億人とのことだから、既に世界中の人類の1%弱で感染が確認されたことになる。

 人口あたりの感染者の発生率は地域によって著しく異なり、我々が位置している東アジアは他の地域よりも感染率が大幅に低い。この原因については、東アジアに特有の遺伝子による体質の差によるとの説、或いは、この地域で既に流行したコロナウィルス類似の感染症によってできた抗体が感染を軽度に抑えているためとの説などがあるが、現段階ではまだその理由が明確になってはいない。

 欧米その他の地域よりも大幅に感染率が低いのは日本だけだとカン違いしてはいけない。

 以下、東アジアと東南アジアの九カ国に限定して国ごとの感染状況を比較してみたい。下の図-1は、人口百万人あたりの累積感染者数の推移を示している。この図の出典は、英国オックスフォード大学を拠点に世界各地の研究者が参加して運営されている民間団体の「Our World in Data」。この組織の財源は主として民間からの寄付金によっているとのこと。

 なお、以下の図の中の文字が小さくて読みにくい場合には、図をクリックしてください。もう少し大きめの図が別途表示されます。

(図-1)

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 12/4時点での人口百万人当りの累積感染者数は、フィリピン 3982、マレーシア 2170、インドネシア 2061、日本 1252、韓国 720、中国 65、タイ 58、台湾 29、ベトナム 14。感染者数が多い5カ国と、少ない4カ国とにはっきり分かれている。最大と最小の差は300倍近くにもなる。この差は、いったい 何に由来するのだろうか。


 日本と、日本よりも感染者数の少ない四カ国について、コロナ対策の内容を比較した表を試しに作ってみた。表-1として下に示す。

(表-1 下の図をクリックすると拡大された図が別途表示されます。)

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 中国については、政府発表情報以外の第三者による客観的な情報が得られないために除外した。この表の中の「入境規制開始時期」については、国によって公表されている情報量にかなり差があり、あまり正確ではないかもしれない。参考程度とされたい。なお、この表の作成には、主に以下のサイトからの情報を引用した。

 新型コロナウイルス関連情報 | 在タイ日本国大使館ウェブサイト (emb-japan.go.jp)

【タイのコロナ事情】緊急事態宣言から現在までのタイの現状|ライフデザインズ (life-designs.jp)

【緊急レポート】新型コロナ対策優等生といわれるベトナム。在住日本人から見たベトナム政府の対応はどうだったか? | 橘玲×ZAi ONLINE海外投資の歩き方 | ザイオンライン (diamond.jp)

韓国における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ* (reuters.com)

 

  現在まで感染を抑え込めている国には、以下の共通した特徴がある。

 初期対応の早さ。ベトナムと台湾は早い段階で中国からの入境制限を実施。特に台湾については、初感染者が現れる三週間も前から準備を開始しており、その手際の良さには感嘆するしかない。


 スマホアプリを駆使しての感染経路確認、及び個々の個人への政府情報の確実な伝達。感染初期の段階では、韓国もその徹底した感染経路の把握が世界から称賛されていた。なお、表中には特に記載はしなかったが、タイのスマホ普及率は既にほぼ100%と言われており、その普及率は日本よりも高い。当然、同国でもスマホを利用しての対策が取られているようだ。

 この中で特に注目される国がタイである。特筆されるほどの政府対策も取らず、観光業がGDPの二割を占める観光大国だけあって入境規制を始めたのが三月下旬と遅かったにもかかわらず、いまだに台湾に匹敵するほどの低感染率にとどまっている。

 高温多湿であるほど飛沫が飛びにくくなり感染リスクは減るとはされているが、同じように熱帯に位置するフィリピンやマレーシアに比べて感染率が二けたも低いというのが何とも不思議だ。タイの状況をよく調べることで、感染回避のヒントが見えてくるのかもしれない。

 ベトナムは中国と同じく共産党一党独裁の国ではあるが、たまたま、約二年前にハノイを訪れた筆者自身の経験によれば、中国とはずいぶん違う雰囲気であった。一言でいえば、中国に比べて社会の雰囲気がずいぶんと「ゆるい」と感じた。

 ベトナムの、特に北部は父系社会的とは言われているが母系的要素もあり、権威的かつ厳密な父系社会である中国(孔子の数十代後の子孫が現代でも存在しているような国)とは雰囲気が全く違う。この「ゆるい一党独裁制」をもって、いかにしてコロナ感染を食い止めているのかという点については、実に興味深いものがある。

 いずれにしても、感染を抑え込めた国は経済的打撃も当然軽微である。東南アジアでは、唯一ベトナムだけが2020年のGDPがプラス成長になるものと予想されている。台湾と中国も、今年もプラス成長を維持する見込み。ただし、タイについては、外国人観光客の大幅減少の影響でマイナス6%程度になるとの予測である。

 さて、日本では、中国からの入境を全面禁止したのは4月になってからであった。明白な感染源であった湖北省からの入国を禁止したのも、春節(2000年は1/24~1/30)が終わった1/31になってからという情けなさであった。

 韓国のような感染経路の精密な追跡ができない日本では、国内に感染者がどんどん入ってしまった後で入境を禁止しても何の意味もない。さらに、検査数を大幅に増やすことも全く無いままで、感染者がどこにいるのかもほとんど把握できていなかった。

 現在では状況はさらに深刻化し、鳥取県のように今まで感染者が少なかった地域を除けば、感染経路の確認などはほぼ不可能な状態となってしまった。

 「国民の健康・安全よりも、五輪や観光業の方が大事」という安倍政権、さらに菅政権の姿勢にその根本原因があることは明白だろう。後で繰り返し指摘することになるが、この「観光重視に起因するコロナ感染の蔓延・悪化」こそが、日本のコロナ対策 (対策ですらないと思うが・・) における最大の特徴といってよいだろう。


 なお、今年十月時点での国際通貨基金(WEO)の予測では、2020年の日本のGDP成長率はマイナス5.3%になるだろうとのこと。日本貿易機構(JETRO)によれば、韓国はマイナス1%程度になるとの予想。


(2)「GO TO トラベル」の影響

 今年の夏の感染第二波の主な原因が、7/22の「GoToトラベル」の開始にあることは全くもって明白である。次に示す図-2は、日本と他の四カ国の累積感染者数の推移のグラフにGoToの開始時期を書き加えたものである。

 「GoTo トラベル」を開始したあたりからグラフの傾きが急峻になっている。8月に韓国の感染率を一気に追い越してからは、秋になっていったん傾きはゆるやかになったが、GoToに東京を追加してしばらくたってから、第二波よりもさらに傾きが急な第三波を迎えている。

(図-2)

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 最近の第三波による急増は、冬になったことで人が室内に集まるようになったこと、暖房によって乾燥した室内の空気では飛沫が遠くまで届くようになったこと等が主な理由だろう。世界各国の感染者数の推移を見ても、カナダ、アメリカ、ロシア、北欧など、北に位置する国ほど最近の増加が顕著である。一方、夏を迎えた南アフリカや南米では感染者数が減少してきている。

 累計死亡者の推移を図-3に示す。死亡者数の急増が、感染者数の急増よりも一、二週間遅れて始まっていることが判る。

(図-3)

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 現在の日本の死亡者数2436名(12/8時点)は、既にGoTo開始時の二倍を超えている。GoToのような「政府がわざわざ税金を使って感染者を国内にまき散らす」という愚か極まりない政策を取らなかった韓国と比べれば、本来は感染せずに済んだはずの人々がGoToによって余計に亡くなってしまったことは明らかだろう。この「死ななくてもよかったはずの数百人もの人々の、無念の死」の責任は、いったい誰にあるのか?

 

 次に国内各地の状況も見ておこう。まず、下の図-4に示した沖縄県の新規患者発生数の推移を見ていただきたい。その下には、沖縄県がまとめた今年の観光客の月別入りこみ数を図-5として棒グラフで示した。全都道府県について調べてはいないが、観光客数を月単位で集計して即公表しているのは、数県を調べた範囲では沖縄県だけであった。

(図-4)

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(図-5)

 

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 離島で観光業が主産業である沖縄県では、観光客の増減とコロナ感染者数の間には強い相関があるものと予想される。結果はまさにその通りで、GoToを開始して約二週間後には新規感染者のピークを迎えている。なお、図-5の「東京方面」というのは、必ずしも東京都民だけを意味しているわけではないことに注意されたい。

 WHOによれば、コロナに感染してから発症するまでの潜伏期間は人によって差があるが平均で5~6日とされており、発症してから保健所でコロナと確定されるまでにはさらに数日はかかる。GoTo開始の翌日の7/23からの四連休を利用して多くの観光客が夏の沖縄に殺到しただろうから、二週間後に感染のピークを迎えたというのは納得できる。

 他の県についても見ておこう。下の図-6は北海道の推移である。北海道は第一波の段階で既に医療機関がひっ迫した状況にあったが、現在はさらに緊急を要する事態となっている。北海道では夏の第二波の影響はあまり受けていないが、ここでも、7/22の1~2週間後に若干の感染増加が認められる。

(図-6)

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 我が鳥取県は、今のところは全国で一番感染者が少ない(12/8現在で66名)ので、その感染者発生の推移を見ても、あまり明確な傾向は読み取れない。代わりに感染者が677名と約10倍多い隣の岡山県の推移を調べてみたので、その結果を図-7に示す。

(図-7)

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 ここでも沖縄県と同様、GoTo開始後約1~2週間でピークを迎えている。注目されるのは、7/22以前からかなり感染者が増える傾向を見せていることだ。

 この点については当時もかなり問題視されていたようで、wikipedia の「GoTo キャンペーン」には次の記載がある。感染が再び増加傾向となり、各地の知事が不安を訴えていたにも関わらず、安倍総理と菅官房長官は当初の予定通り、7/22にGoToトラベルを開始したのである。

『 7月に入って以降、再び感染者が増加する傾向にあり、地方自治体の首長からは「Go To トラベルキャンペーン」は時期尚早ではないかとする意見が上がった。青森県むつ市の宮下宗一郎市長は、「旅行客により地元に感染者が増えれば人災だ」と発言。村井嘉浩宮城県知事は「宮城も東京が由来の感染者が多くなっている」とし、内堀雅雄福島県知事は「不安や懸念がある」と発言。
 また、移動や観光を控えるように知事らが呼びかける動きも発生した。例えば、7月2日から3日連続で1日あたりの東京都内の感染者数が100人を超えたことをうけ、7月4日に小池百合子東京都知事が都民に対し不要不急の都外への移動を自粛するよう要請した。大村秀章愛知県知事は首都圏への不要不急の移動を自粛するよう要請した。また、埼玉県知事は7月17日に「埼玉県民には観光の目的地として東京を選ぶことは避け、県内や近場にとどめてほしい。」と発言した。・・・』

 

 上に紹介した三つの道県に共通するのは、第一波と第二波の間は、ほとんど感染者が発生していなかったことだ。この状態がそのまま維持されていれば、決して今日のような状況にはならなかっただろう。

 一方、東京、大阪、愛知などの大都市圏では、この期間中も第一波よりも数が減ったとはいえ連続して感染が続いていた。要するに、各大都市がいったんコロナの培養池となり、GoTo開始によって、ここから日本列島全域に感染がバラまかれてしまったという構図である。各地の知事の不安が的中してしまったのである。

 なお、上に紹介した各県ごとの感染者数推移は、NHKのコロナ特設サイトに掲載されているグラフを加工して作成したもの。
 近い将来、菅総理の筆頭子分の山田真貴子内閣広報官が、NHKに「あのサイトを消去しろ」とまたしても電話をかけてくるのかもしれない。心配だ。

 さて、菅総理はあくまで「GoTo トラベル」を継続するつもりでいるらしい。先日は「来年六月までの延長」を公表、追加予算にさらに3000億円を使うとか。「愚の骨頂」とは、こんな時につかう言葉なのだろう。


 菅内閣が現在やっていることは、典型的な「マッチポンプ」政策だ。自分で「GoToマッチ」を擦っては国のあちこちにコロナ感染という火をつけておいて、次には巨額を投じたポンプを使ってその火を消すことで「どうだ、俺はすごいだろう」と自慢したがっているだけのように見える。昨日発表した「自衛隊看護士の応援要請」は小さなポンプ、追加経済対策の73兆円は巨大なポンプだ。「自分は全力投球で頑張っています」と見せたいのだろう。

 結局は、国中を焼け野原にしてしまうか、仮に消火できたとしても、後に残るのは破産寸前の国家財政だけなのではないか。「第二の敗戦」を経て日本が先進国の椅子から転げ落ちる日は、どうやら今までの予想よりもずいぶんと近くにありそうである。

/P太拝 

(次回は、菅総理が、これほど異常なまでにGoToに固執し続ける背景について書いてみたい。)

「追記」12/09

 本文中で紹介するつもりだったが、 一昨日に報道された次の記事を書き洩らしてしまったので、改めて紹介しておきます。既に読まれた方も多いでしょう。

「GoTo利用者は「発症」2倍 -トラベルで東大チームが初調査-」

 GoTo利用者には若い人が多いだろうから、利用者自身は臭覚・味覚異常程度で済んだのではないだろうか。都会から地方にGoToで行った利用者が地方の若者に感染させ、その若者がさらに高齢者に感染させるというパターンなのだろう。GoToの危険性が科学的にも裏付けられたことになりますね。

 もっとも、相手は科学的な真実などはどうでもよく、ただ自分が敵とみなす者を人事やカネの力で叩きつぶすことだけで出世してきた、陰湿極まりない人物だ。早速、報復として東大への来年度予算の削減を文科省に指示しているのかもしれない。今後の内閣のリアクションに注目したい。

中国政府による「人権無視のウイグル人迫害」に抗議する署名にご協力ください!

 本題に入る前に、鳥取市民の皆さんに連絡です。

 現在、鳥取市では旧本庁舎跡地の活用に関する検討が行われています。先月は市主催の「市民ワークショップ」が市内二カ所で実施されました。当会の会員数名も参加したのですが、ワークショップという名に反して参加者間の議論はほとんど成立せず、その内実は、「単なる集団アンケート」に過ぎないものでした。

 大変遅くなってしまいましたが、同ワークショップ参加した感想についての報告を当会公式サイトに本日掲載しました。是非ご一読ください。

 さて本論ですが、既に報道でご承知のように、英国との「一国二制度」の約束を無視して一方的に香港を植民地化した中国共産党政府の手先と化した香港政府によって、本日、香港民主化のリーダーであったアグネス・チョウ(周庭)さんやジョシュア・ウォン(黃之鋒)さんが禁固刑を求刑されました。該当する法律が成立する以前の行為をもって犯罪者とみなすという無茶苦茶なやり方です。

 中国政府によるこのような人権無視の事例は枚挙にいとまがありません。1960年代の文化大革命のさなかには、内モンゴル自治区「内モンゴル人民革命党粛清事件」としてモンゴル民族が大量に虐殺されました。

 チベット自治区では、1950年の中国人民解放軍によるチベット侵攻以降、現在までに推定百万人以上のチベット民族が虐殺されています(「チベット動乱」)。

 新彊ウイグル自治区では、1955年の自治区成立以降、北京政府による政治・宗教指導者に対する弾圧が徹底的に行われました。最近では、中国政府による強制収容所自治区内各地に建設され、一説には総計百万人以上ともいわれるウイグル人が既に収容され、イスラム教を捨てることを強要されて洗脳されつつあるとのことです(東トルキスタン独立運動)。

 これら三つの自治区に共通するのは、

漢民族による経済的支配(地下資源収奪と、現地民族を下働きさせて収奪することで成立する観光業)

②教育現場では、各民族固有の言語の使用を抑圧して漢語の優先使用を強制

③各民族が長い歴史の中で心の拠り所としてきたチベット仏教イスラム教の信仰を捨てることを強制

④中国本土で出た不要または危険なものは自治区に運搬して処分(新彊での度重なる核実験の実施、また、中国各省から出た原発廃棄物も各自治区に運搬して埋めている可能性が高い)

等々です。いずれも極端な民族差別と人権侵害にほかならず、現代の世界では到底容認できるものではありません。

 特に最近、世界的に話題になっているのはウイグル人に対する弾圧です。胡錦涛前総書記の時代にも、ウイグル人の女性を強制的に自治区の外に就職させて漢民族男性と結婚させようとする動きがありました。習近平が総書記になってからはさらにエスカレートし、強制収容所への監禁とイスラム教の棄教強制以外にも、強制的な不妊手術によるウイグル民族遺伝子の抹殺すらも進行中のようです。

 ちょうど二週間ほど前にオランダの学生とドイツのユダヤ人の若者によって、当ブログでも何回か紹介しているネット上の署名サイト「chang.org」上での「ウイグル人迫害に抗議するネットキャンペーン」が立ち上げられました。既に現時点までに全世界で156万人が署名しています。筆者も本日、さっそく署名しました。

 今の段階での署名を中国政府に提出してみても、鉄面皮の彼らは鼻先で笑うだけでしょうが、全世界での署名数が例えば一千万人を超えるようになれば、さすがに無視するだけではいられなくなるでしょう。中国政府の過酷な弾圧下にあるウイグルの人々が、彼らの今までどおりの日常の生活に一刻も早く帰っていただくためにも、下のサイトにアクセスして署名にご協力ください。よろしくお願いいたします。

「中国におけるウイグル人イスラム教徒のために、共に立ち上がってください!」

/P太拝

デジタル庁設置以前にやるべきことがある

 先週読んだ中で一番笑えたのは次の記事だ。笑った後で、スカ内閣のメディア界への統制の強引さに、そら恐ろしくなってしまうのでもあるが・・。

「総理、怒っていますよ…官邸からNHKへの「クレーム電話」その驚きの中身」


 「説明できることと、できないことがある」というのなら、説明できないような選択肢は最初から捨てればよいだけのことだ。世間に公表できないようなことを今まで山ほどやってきた人間だけがこのような発言をするのである。「バカは自ら墓穴を掘る」という好例に他ならない。

 そもそも、国のトップが国民に対して説明できないことをたくさん抱えている国が、何で民主主義国家なのか?菅総理が「インド太平洋地域で、自由,民主主義,法の支配といった普遍的価値を共有している国々と・・」と演説するたびに、「アンタの日本はどうなの?」と笑うしかない。

 総理お気に入りの山田真貴子内閣広報官が他の官僚から嫌われている現状は、一般の組織の中でもよくあるパターンだ。人事で組織を縛り強力に統制しようとするトップの元では、メンバーはトップに媚びる少数者と、それを舌打ちしながら傍観して目立たないように日々を過ごすだけの多数者とに分かれる。

 トップの方針に対して異論を唱えるとあとで左遷されることは明白なので、自己防衛のためにルーチンワークだけをこなし、言われたことには「なんでもイエスマン」の役割に徹する者がメンバーの大半となるのである。その結果、国民にとっては迷惑なだけで実効性のない政策が次々と誕生することになる。前内閣による、突然の全国一斉休校や、誰も使わないアベノマスクの配布などはその典型例に他ならない。

 このような組織は、当然ながら不活性化して、大きな成果を上げられるはずもない。多くの異論の存在を許容し、メンバー全員が参加して色々な観点から議論を戦わせることで実効力のある政策や方針が生まれるのである。山田広報官の目立ちぶりは、この新内閣がたいした成果もあげられないまま、結局は竜頭蛇尾に終わるであろうことを早くも暗示している。

 なお、この記事の末尾の「(山田氏が)忖度力を発揮」という表現は何だか変だ。正しくは「(メディアへの)忖度強制力を発揮」だと思う。

 さて、今回の本題に入ろう。菅内閣の目玉政策のひとつである「デジタル庁」についてだ。

(1)政府自身の透明性がデジタル化の前提として不可欠

「“デジタル後進国”のニッポン、じつは世界を「リード」する可能性が出てきた…!」

 この記事の内容は、デジタル化がもたらす社会と人間自身の在り方の変化について包括的に語る内容となっているが、表題にある「デジタル化で日本が世界をリードする」という点については楽観的にすぎるように思う。その理由は、この記事自身の3~4ページで主張されている「デジタル化の進展のためには政府と個人が対等の立場で透明性を高めることが必要」との記述にある。

 今の日本政府の透明性は、先進国では最低レベルにあると言ってよいだろう。何しろ、政治のトップが国会で「その質問についてはお答えを差し控えます」との発言を毎日連発している国なのである。モリカケ問題も、サクラを見る会の真相も未だに藪の中のまま。菅氏の子分格の河井克行・案里夫妻に自民党が支払った1億5千万円の決裁責任者は不明、その資金の出どころも内閣官房機密費なのか、自民党への政党助成金からなのかさえも未だに判らない(いずれにしても、両方とも元々は国民から集めた税金だ)。
 上に挙げたような税金の使い道に関しては、政府と国民は対等どころではない。当然のことだが、政府には納税者である国民に対して、税金の使い道とその理由を報告する義務がある。本来果たすべき義務を果たしていない政府に対して、国民が反発するのは当然のことである。税金の行方を隠し続けるスカ政権には、国民に対して個々人のカネの流れの詳細と個人情報の公開を求める権利など始めから無いのである。

 以上のように考えると、菅政権が政策の目玉としてデジタル庁設置を打ち出しているのは、政権自身の大いなる自己矛盾と言ってよいだろう。というよりも、この政権には自分たちの透明性を高めることや政府と国民の間の対等性などは最初から問題外であり、単に、国民の個人情報と財布の中身の情報を政権側で一方的に把握したいだけなのだろう。

 筆者自身もその一人なのだが、国民の大半が未だにマイナンバーカードを持っていないのは、提供した個人情報が政府によってどのように使われるのかがよく判らないという不安感があるからだ。この構造はデジタル庁が出来たからといって簡単に変わるものではない。政府自身が透明化しなければ「絵にかいた餅」に終わるだけのことだ。おそらく、短期的には、「ハンコの撤廃」くらいがデジタル庁の最大の成果になるのではないか。

 

(2)デジタル庁が汚職の新たな巣窟となる危険性

 当面、デジタル庁が取り組むべき内容としては、公的手続きのオンライン化、国と各自治体間のシステムの統一、官民データ基盤の整備、次世代通信基盤の整備等が挙げられるが、いずれも完全な実現には十年程度を要する長期事業となるだろう。注意したいのは、これらはいずれも巨額の税金を投入する事業であり、新たな政官財の癒着を生む危険性が極めて大きい点である。

 そもそも、デジタル庁の長官に任命された平井卓也氏は、広告業界で圧倒的なシェアを持っている電通の出身だ。さらに祖父は郵政大臣、父は労働大臣を務めた政治家一家の三代目。純正ブランド付き、正真正銘の「太子党」と言ってよい。

 さらに付け加えれば、母は香川県内で圧倒的なシェアを持つ四国新聞社の社主。この新聞社は系列のテレビ局の西日本放送を所有しており、平井氏自身、このテレビ局の社長を務めたこともある。まさに香川県のメディア界を独占的に支配する平井コンツェルンの御曹司に他ならない。地元メディアを支配している以上、香川県内で同氏が選挙で負けることなど、今後もありえないだろう。

 今後、平井氏が自らの出身母体である電通に大いに便宜を図ることが当然予想される。デジタル庁も含めた政府から電通への発注過程で、競争原理が機能したのか否かを十分に確認する必要がある。電通自民党との関係が既に深刻な癒着状態と化していること、その窓口はデジタル担当相となった平井氏自身に他ならないことは次の記事で明白である。

「デジタル担当相・平井卓也は、古巣の電通を使って自民党のネット操作を始めた張本人!」

 前総理のあの夫人も電通出身者であり、同時に大手製菓会社社長の娘でもあることは広く知られている。このことからも、政財界の有力者とのコネをつくるために、本人の能力には関係なく、電通がコネのある社員を採用していることが判る。次の記事は、元電通マン電通の内情について暴露した内容。警視総監の息子も採用されていたそうだ。電通とは「上級国民」が集まる場所らしい。

「サンデー毎日×週刊エコノミストOnline 記事もみ消しは当たり前の世界」

 二週間ほど前になるが、新聞の朝刊に「マイナンバーカードをつくったら五千円分のポイントをあげます」というチラシが入っていた。発行元は総理府。有名タレントの写真を使っているので、このチラシの作成に電通がかかわった可能性もあると思って調べてみたら、案の定、そうだった。五千円もらった程度で、自分の情報を今の政府に売り渡す気にはなれない。過去に政府経由で電通に流れた税金は、国民一人当たりでいくらになるのだろうか?

「電通への再委託、総務省でも マイナンバーポイント還元事業」

 今年の六月に経産省の「持続化給付金委託事業」が電通に丸投げに近い形で委託されていることが批判され、電通は「当面は」経産省事業を受託しない方針を公表したが、上の記事にあるように、総務省電通への委託を見直す気はないと言っている。

「「コロナ給付金」見えない下請け実態 電通関与になお不透明感」

「(経産省から)電通への再委託額は計1415億円 過去6年間で72件」

 電通と言えば、東大卒の女性社員が上司のパワハラを苦に自殺した事件が記憶に新しい。以上の記事を見れば、それも当然起こるべくして起こったことであったようだ。明らかに反社会的であり、かつ、SDGsにもこれほどまでに反する体質の会社に対して、我々の税金を湯水のようにつぎ込んでいる今の政府とは一体何者なのか?電通については、今後あらためて記事にしたいと思っている。

 

(3)デジタル化で既に最先端をいっている国家「台湾」

 国民への説明拒否を続ける政府と、それに癒着した大企業のあくどさばかりを取り上げていると気分が滅入って来る。ここでは一服の清涼剤として、コロナ感染の抑え込みで既に世界トップの実績をあげている台湾の現状を紹介しておこう。

 ただし、以下に紹介する記事は、必ずしもデジタルではなくても、紙ベース主体でもこれだけ優れた情報管理が出来るという好例である。日本人の一人として、この記事の最後の部分については何とも恥ずかしいものがある。

「「文房具店で売っている領収書」が、台湾では絶対に許されない理由」

 領収書の発行者と受領者が正確に口裏合わせをしておけば台湾でも脱税は可能なのかもしれないが、全ての取引内容が一カ所に集約され相互比較されることで、異常な価格での取引の発見も容易となるだろう。税負担の公平化・透明化のためには大変優れたシステムだと思う。

 次の記事は、上の領収書管理システムが実際に機能した結果、先日、政府要人による公費の私的流用が発覚した実例について述べている。このシステムは政界の汚職防止の役割も果たしているのである。今の日本では「夢のまた夢」のような話だ。

「行政院報道官が辞任 牛肉麺巡る失言で/台湾」

 台湾がこのように優れた税制管理システムを構築できたのも、当初は大陸政府との臨戦態勢の中で迅速な意思決定が可能な合理的システムが必要とされたからだろう。しかし、民主化後はそのシステムに改良を加えていき、政府機関すらもその対象とすることで、上に見るような官民対等、かつ透明性の高いシステムが実現できたのである。

 台湾のコロナ対策で主導的な役割を果たしたデジタル担当大臣のオードリー・タン氏。最近では毎日のように日本の新聞やネットで彼に関する記事を見るので、今さらの紹介は控えたい。

 さて、台湾の、というよりも中華圏文化に共通する特徴は、「優秀な専門家に特定部門の責任を一任し、任命権者以外には、有力者といえども部外者が彼の仕事の進め方に対して軽々しく口をはさむことはない」ということである。タン氏のような優秀な専門家を各部署の大臣として多く配置し、その能力を十分に発揮させたことで台湾の優秀なコロナ対策が実現したのである。

 一方、我が国では、その人物の能力が問われる以前に、時の権力者にシッポをたくさん振っている者ほど大臣に任命される傾向がある。上の平井氏のように、既に業者と完全に癒着しきっていて利益相反が懸念される人物すら、菅氏は平然と大臣に任命しているのである。まるで、「業者と癒着してどんどん儲けさせてやってくれ、後で向こうからそれなりの見返りがくるから。」と言っているようなものである。

 大臣の部下である官僚群も、その大半がわずか三年ほどで別部署に移動してしまうために専門家が育たない。結局、トップが十分に内容を理解しておらず、誰が決めたのかもよく判らない法案が、素人集団による「ヤッつけ仕事」で次々と量産されることとなる。

 さらに政権側の政治家どもが色々と口出しして来ては、自分にとっておいしい部分だけを次々とかじり取っていく。その結果、出来上がった政策は、全体の整合性に欠けたツギハギだらけ、穴だらけのザル法となり、施行しても有効に機能するはずもない。これが我が国の政治の現状なのである。

 さて、日本人の、他の国には見られない際立った特徴として、「個人としての責任を極力取りたがらず、責任の所在を常に集団に置いて曖昧化しようとする」傾向が挙げられる。上に挙げたように非効率かつ混乱を極めた政府行政の現状以外にも、世界との競争に敗れつつある日本企業の衰退に関しても、この特徴がその根本的な敗因であるように思われる。この点については、また別の機会に触れたい。

/P太拝

アメリカ大統領選を見ての感想

 アメリカの大統領選挙もようやく結果が確定したようで、以下は感想です。最初に断っておきますが、筆者は特にアメリカが好きというわけではありません。実質的に日本の宗主国である大国の政治の行方には関心を持たざるを得ないという点から、今月初めから注目していたのです。

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 「バイデンが勝った」ことよりも、「トランプが負けた」ことを歓迎している人の方が圧倒的に多いのだろう。筆者もその一人である。やっと予測可能なアメリカが戻って来てホッとしている。これで温暖化対策も加速するだろう。

 トランプがテレビのニュースに登場するたびに、何よりもあの傲慢そのものの顔と、甘やかされて育った人間に特有の舌足らずで甘ったれた声(日本のトップにも同じような声の人物がいたが・・)にはうんざりさせられた。もうあの顔を見なくて済むのは実に喜ばしい。

 さて、今回の大統領選の報道を見ていて感じたことが三点ある。うち二点は、トランプが米国民の半分近くの支持を集めたという事実に関して。もう一点は米国内部の政治的分断についてである。 

(1)宗教的背景

 トランプ支持者の核心部分はキリスト教福音派とのこと。「汝、殺すぺからず、姦淫すべからず、盗むべからず」が戒律であるはずのキリスト教の信者が、脱税も買春もやりたい放題のトランプをなぜ熱烈に支持するのか、その理由が今一つよく判らなかった。

 今回、色々調べてみてあらためて思ったのは、キリスト教も、他の一神教と同様に、自派以外の宗教の信仰者や無宗教者に対しては極めて非寛容であるということだ。キリストの名の元にイスラム教徒を何度も大量虐殺した十字軍、アメリカ先住民は我々と同じ人間では無いとして金銀財宝を強奪し銅鉱山で彼らを酷使したスペイン人、アフリカから奴隷を大量輸入しては農園で酷使したイギリス人やスペイン人等々、キリスト教徒による大量虐殺は歴史上で枚挙にいとまがない。

 アイルランドにおけるカトリックプロテスタントの間の抗争のように、キリスト教内部での対立も頻繁に起こっている。このような歴史的事実から考えると、他派の信者や無宗教者と対立し、いったん相手を敵とみなした場合、「神の名の元に相手の財産を奪うことも、時にはレイプや殺人さえも許される」という発想がキリスト教の根底にはあるのではないか。

 ただし、若干の弁護のために付け加えれば、この発想はイスラム教やユダヤ教など一神教全体で共通のようである。ある意味、今の世界を対立と混乱の中に巻き込んでいる元凶は、自派以外の他者に対しては非寛容な一神教にあるのかもしれない。(一神教全般がどうにも好きにはなれない筆者だが、多くの神々の存在を容認する仏教や古代神道(明治以降の国家神道ではない)には惹かれる。その理由は、それらが持つ寛容性にほかならない。)

 以上のように考えれば、アメリ福音派の信者が、トランプ支持者以外を全て異教徒とみなしてライフル片手に投票所の周囲をうろつくのも、当然予測されるべきことだったのかもしれない。  

 

(2)破壊者出現への期待

 素行も品性も人並外れて劣悪なトランプがあれだけの票を集めた別の理由としては、「選挙の機会を利用して日頃のウップンを晴らしたい」人たちが多かったためではなかろうか。IT革命で経済成長が続くアメリカの中で、伝統産業に従事し続けて成長から置いていかれた「ヒルビリー」と呼ばれる貧乏な白人がその主体となった。

「日本人がまったく知らないアメリカの「負け犬白人」たち」

 彼らは、下品な言葉を連発しては既存の偽善的政治の枠を打ちこわして行くトランプの姿に、自分たちが閉じ込められてきた牢獄の破壊者としての期待をいだいたのだろう。かって、「ゴジラが新幹線や国会議事堂を踏みつぶす映画」に我々日本人が熱中したのと同様の破壊願望である。今回のトランプ敗戦でこの破壊者待望論はいったんは封じ込められることになるが、今後、別の強力な破壊者候補が現れれれば、雪崩を打ってそちらに再集結することになるだろう。

 日本でトランプ支持層に重なるのは、例えば、橋本徹百田尚樹の愛読者・視聴者層だろう。また政党でいえば、大阪維新の会の支持者が典型的だ(これら全てが大阪出身者であるのが不思議)。橋本氏と百田氏、この二人が既成勢力、特に「いわゆるサヨク」を徹底的に叩く姿に、日頃のウップンを晴らし溜飲を下げる人々が年々増えているようである。ただし、彼らが前総理や現総理と既に強い関係にあることに見るように、この二人が、将来自分のカネヅルになりそうな相手は決して叩こうとしないことには注意すべきである。

 アメリカと違ってほぼ同質社会である日本の場合には、破壊者待望論というよりも、むしろ「自分よりも弱そうな相手や、同質社会から若干外れた人間を探し出して来ては、ことさら見下して差別することで自分が偉くなったと錯覚したがる」という「人間が持つ負の本能」が、この現象を後押しているようにも思う。橋本氏や百田氏が相手をボロカスに罵るのを見て快感を覚える人々は、そのつど現実の世界から遊離して自分自身も強者になったと錯覚し、つかの間の勝利感に酔っているのだろう。

 元NHK記者であった木村太郎氏が、今回の大統領選で最後までトランプ当選の可能性を主張し続けたことは、トランプ支持層とフジ・産経の視聴者・読者層の同質性を象徴的に示している。ほぼフジ・産経の専属タレントと言ってよい木村氏は、世間一般に反してあえてトランプ寄りの発言を続けることで、一部の視聴者からの自身への強い共感と支持とを期待していたのではないか。

 いずれにしても、「特定のグループや民族や国家に対する憎悪をあおる」ことで手っ取り早く利益を得ようとする人たちには、さらに彼らに迎合することで販売部数やクリック数を稼ごうとするマスメディアには、ろくな未来が待ってはいないだろう。「人を呪わば穴二つ」の最大の実例はアドルフ・ヒトラーなのである。もっともヒトラーが掘った穴は二つどころではなくて、推定で数千万個にもなったが・・・。

 

(3)アメリカ内部での地理的な政治分断

 多くの州で僅差となり勝敗が決まるまで数日かかったので、接戦州の詳しい票の出方を見る機会が多かった。驚いたのは、地理的に民主党優位と共和党優位の自治体がはっきりと分かれていることだった。どこの州でも、大きな都市とその郊外は青色の民主党、その他の地域は赤色の共和党が優勢であった。赤い海の中に青色の島が何点か浮かんでいるようなイメージだ。

 これを見て思ったのは中国との類似である。中国共産党独裁政権下にある中国では、自由な選挙など近い将来には到底実現しそうもない。しかし、仮に住民一人当たりの年収で中国国内の各自治体を色分けした場合、上のアメリカの開票結果と似たような地図ができることは確実だろう。同じ省の中でも、農村部の平均年収は都市部のそれの数分の一でしかないのである。繁栄する都市部と、疲弊し貧困化する農村部。二つの超大国でそれぞれに社会の分断が進みつつある。日本でも同様の現象が見られるようだ。

 米国が複雑なのは、青色の民主党支持層がさらに二つに分裂していることだ。一方には高収入のIT関連の新興企業等の経営者層と専門家集団、もう一方には、主としてサービス業に従事する低賃金労働者や定職を持てない若者・学生。共に移民を多く含み、同じ民主党を支持するが、志向している経済政策は真逆である。今後、バイデン政権下での両者の対立の激化は必至だが、放置していては米国の政治が再び機能不全に陥ることになる。バイデン氏が何とか折り合いを付けて政権を運営していくことに期待したい。

 

追記:

 これも何かの偶然なのかもしれないが、今日の朝、作家の雨宮処凛(あまみやかりん)氏が、トランプ大統領相模原の障碍者施設で19人を殺害した事件の犯人である植松死刑囚の関係に関する記事を公表していた。今日の夕方になってから記事を発見した。この記事によると、植松死刑囚はトランプ大統領をトコトン尊敬していて、公判の中でもその思いを繰り返し述べているそうである。

「アメリカ大統領選と、相模原事件・植松死刑囚。これで分断の時代は終わるのか?」

 トランプ支持者がみな犯罪人になり得ると主張する気は毛頭ないが、「トランプ的傾向」が持つ危険性については、社会生活の安全のためにも我々は深く慎重に考えておいた方がよいだろう。自分の中で十分に自問自答することもなく、極端な結論へと突然飛躍してしまうのが植松被告の著しい特徴とのこと。

 なお、彼は事件の何年も前から大麻を常用していたそうである。「日本でも欧米並みに大麻を解禁すべき」と主張する人たちには、この事件の持つ意味をよく考えてもらいたい。

 雨宮氏については今日まで全然知らなかったが、上の名前の所にリンクを張っておいたwikipediaの記事を見ると、右に左にと極端に振れ幅が大きい人のようである。この人自身、固有の、かなりの生きづらさを抱えているように感じた。

/P太拝

旧本庁舎跡地の活用策は、鳥取市財政の現状を踏まえて慎重に検討するべき

 現在、鳥取市では旧本庁舎跡地の活用に関する市民ワークショップを市当局主催で開催中です。当「開かれた市政をつくる市民の会」では、その前身である「市庁舎新築移転を考える市民の会」が2010年以来一貫して新庁舎新築移転に強く反対してきた経緯もあり、現在、この跡地活用案の行方について注目しているところです。

 11/15にこのワークショップの最終日程が終了した時点で、あらためてこの件に関する市の取り組みの現状について当会サイトで報告する予定ですが、合理的な跡地活用のためには、現在の市の財政状況を把握しておくことが必要不可欠であると考えます。

 そのことを踏まえて、市財政の現状、特に市の借金である市債の近年の急増についてあらためて広く知っていただきたく、先日、下記の当会公式サイトに市財政の現状に関する記事を掲載しました。

「開かれた市政をつくる市民の会」

 その内容を簡単にまとめれば、鳥取市の財政は近年の本庁舎新築移転等々、市の経済実力に見合わない大規模投資を連発したこともあり、今後の市財政の窮乏化と市民サービスの更なる低下は必至との結論です。

 市財政の現状を知っておくことは、単に旧本庁舎跡地の活用に関してだけではなく、これからの鳥取市の将来像を描く上でも絶対に欠かせない前提条件でもあります。是非ご一読ください。

/P太拝

My fovorite songs (14) 朝崎郁恵

 朝崎郁恵 さんは、現在、御年84才。奄美島唄の第一人者とのこと。知ったのは半月ほど前。以来、彼女の唄が頭の片隅に住み着いて離れない。ある唄が好きになった時の筆者のいつものパターンなのだが、昼間、何か別のことをしていても、その唄の歌詞が脳裏にポッと浮かんでくる。

 とはいっても、ほぼ全ての唄が奄美方言で唄われているのだから、自分が覚えられる歌詞はごく少ない。次の唄「阿母」がほぼ唯一といってよい。

 

(1)「阿母(アンマ)」

 コメント欄に載っている歌詞を以下に紹介しておきます。 この唄を聴くたびに、「私という種が育つために、私の母はどれだけの涙を流しただろうか・・。」と思ってしまうのである。

「夏はかけ足で 無常に過ぎてゆく 時はつかまらず ここまで流れつき
 雪の降る日も 道無き夜も この手を放さずにあなたは微笑んだ

 出逢う喜びと 叶わぬ悲しみと 夢はいつまでも歌に宿りゅん
 蕾をつけた樹樹(きぎ)のなかには 幾千もの夏が秘められている

 種が育つために 流れる涙 あの海にかえるまで 枯れることはなく
 時計草の花が 静かに開きだす でぃごにもたれて あなたとうたたね」

 音程が高音から低音まで短時間で広範囲に大きく振れるので、最初に聴いたときには「音程が不安定な下手な歌手」と思われるかもしれないが、これが奄美島唄の大きな特徴らしい。かって全国的にヒットした、元ちとせの「ワダツミの木」や、中幸介の「花」と共通する特徴。

 (2)「千鳥浜」with タナカアツシ&五十嵐典子

 タナカアツシさんは奄美島唄を演奏するユニット「マブリ」のリーダー、朝崎さんの伴奏も担当しているとのこと。

 (3)Ikyunnyakana「(行きゅんな 加那)」

 「加那」というのは「恋人」の意味。去っていく恋人を思う唄。胡弓の響きがもの哀しい。

 歌詞の詳しい内容がよく判らないので、コメント欄にあった英文での翻訳を以下に載せておきます。でも、何回も聴いているうちに、標準日本語の語句と共通する言葉のいくつかは聞き取れるようになりました。

「Are you leaving? Will you forget me
 when you leave? When I think of you,
 It hurts to see you go away. It hurts to see you go away.

 I wake up. Night after night,
 I wake up. When I think of you,
 I can't sleep. I can't sleep.

 Mother and father, please don't worry.
 Mother and father, I'm harvesting rice and I'm harvesting beans
 for you to eat. For you to eat.

 The singing bird offshore by the shrine
 That singing bird certainly must be
 my loved one's soul. My loved one's soul.」

 (4)「あはがり」

 NHKBSの「新日本風土記」のテーマ曲とのこと。歌詞については次のサイトを見てください。標準現代語訳(意訳)も載っています。「Uta-Net あはがり」。

 意訳を読むことで、奄美の人々の世界観の一端を知ることができるように思います。

 (5)「100年前の美しいアイヌ民族」

 朝崎さんの存在を知ったのは、たまたま、このサイトを見たことがきっかけです。上の(1)で紹介した「阿母」が映像のバックに使われています。

 このサイトを見たのは、奇しくも亡き母の11回目の命日。昼間に墓前で線香をあげた日の夜のことでした。これはユングのいう「共時性」の一例なのでしょうか。初めて聴いた時には、母を思うというこの歌詞の内容を全く理解していなかったのに、画像を見ながら聴いているうちに、なぜか涙があふれて止まらなくなってしまいました。

 なぜこれほどまでに、北のアイヌ民族の画像に対して南の奄美の人が歌う唄が似合うのでしょうか、不思議です。そもそも、そう思う以前に、朝崎さんの唄の歌詞の内容が我々以上に理解できていないはずの外国人のコメントが大変多いのはなぜでしょうか?youtube上の朝崎さんの唄のいくつかを見ると、コメントの大半が外国語であることに驚かされます。彼女の唄の中には、というよりも奄美が代々伝えてきた唄には、民族の境界を超えて人の魂をゆさぶる力があるように思えてなりません。

 江戸時代初頭、奄美武力侵攻してきた薩摩藩支配下におかれ、カネになるサトウキビ栽培を強制され、その利益の大半を薩摩に吸い上げられました。江戸時代も末期になるほどに薩摩藩による搾取はより過酷になったそうです。そのような過酷な歴史にもかかわらず、島固有の言語・文化・世界観を連綿と継承し、現在ではむしろその内容で世界各地に影響を与えつつある奄美の人々の粘り強さに対して、深く敬意を表したいと思います。

 

追記:

 アイヌなどの日本の、さらに世界中の少数民族については、以前からかなりの関心を持っているのですが、昨日読んだアイヌに関する記事が非常に気になりました。

「安倍政権最大の功績は“アイヌ博物館”だった? 200億円をブチ込んだ「ウポポイ」の虚実」

 著者は安田峰敏氏。現場取材がモットーの中国ウォッチャー、「八九六四 「天安門事件」は再び起きるか」で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されています。

 北海道に今年、アイヌ文化を展示する「ウポポイ」という博物館が出来たことは筆者も知ってはいましたが、この記事は安田氏が実際に同館を訪れての感想を述べたものです。今年の夏に開館したとのニュースを聴いて、筆者は「国によるアイヌ文化の公的な展示場所が初めてできたのは歓迎すべきこと」と単純に思っていましたが、実情はそんな簡単なものではなかったようです。以下、記事の概要。

・人権にはたいして関心がないはずの安倍政権下でこの展示館が実現したのは、安田氏にとってもなんとも意外であった。しかし、よく調べてみると、この館の実現にとりわけ熱心であり旗振り役を務めたのは、当時は官房長官であった現在の菅総理

菅総理は、以前に「インバウンドの集客目当てでウポポイを建設する」と明言している。先住民族の人権に対する配慮からではなくて、自らの支持基盤である観光業への利益供与目的で、国民から集めた税金238億円を同館建設と広報に投入したことは明白。(広報には電通を使ったのだろうか?)

・その証拠に、アイヌ民族が江戸時代から今日に至るまでの間に、松前藩や明治政府等による苛烈な迫害と差別によってその人口を急激に減らしたこと、現在も差別を恐れてアイヌであることを公表できないでいる人が多くいること等の厳然たる事実については、この館の解説では一切触れられていない。あくまで観光客にカネを落としてもらうための施設でしかない。

・もう一点、この記事を読んであきれたのは、いまだに「アイヌ民族は存在しない」とか、「日本は単一民族国家」とか主張するアホウな評論家が結構いるのだそうである。アイヌ民族に対しての漁業権などの生業を奪う迫害と差別、強制的土地収用、義務教育では日本語を押し付けて固有の言語を奪うなど、その迫害の程度が奄美琉球に対するよりもさらに過酷であったことは、少し調べればすぐに判ることだ。

(2020/11/08 追記  アイヌ民族の成立、和人からの迫害の歴史、先住民族として国際的に既に認められている現状について、よく理解できるサイトを見つけたので紹介しておきます。北海道庁が投稿した資料のようです。 「アイヌモシリ 民族の誇り」

 このような現状を見て思うのは、日本政府が中国共産党政府にますます類似しつつあるということ。隣の大国の政府は、国内各地に少数民族村を建設して歌や踊りを提供し観光業の目玉として集客する一方で、ウイグルチベット内モンゴルの固有の文化・言語・宗教を奪い、土地を奪い、牧畜等の生業を奪い、あたかも、はるか以前から中国大陸には漢民族しかいなかったかのように歴史を歪曲しようとしている。残念ながら、今回、菅総理自身が旗を振ったウポポイ建設も、アホウな評論家諸氏も、中国共産党と同質の発想レベルにいるように見える。

 民主主義国家のリーダーには到底ふさわしくない現総理の極度の説明能力の貧困も、日本政治の中国化の一端の表れかもしれない。中国共産党政府には国民に対して真実を説明する責任が全く必要とされていないからである。今後、日中政府が合わせ鏡のようにさらに同質化するとしたら、その間を取り持つのは二階幹事長だろうか。

 少数民族政策としては現在の台湾がその手本となるだろう。同じ安田氏による以下の記事を参照されたい。

「「ウポポイをどう評価する?」日本で暮らす台湾原住民が見たアイヌ」

   コロナ対策でもそうだったが、少数民族政策でも、日本は既に台湾よりもはるか後ろに劣後してしまった。今のままではその差はさらに開く一方だ。

 思うに、現総理にはこれと言った理念も目指す国家像も無く、現在唱えている個々の政策も、その大半は自分の勢力拡大とその維持のための手段にすぎないのだろう。菅総理が今国会で野党の質問に対して沈黙するか、論点のすり替えで対応するしかないのは当然のことだ。彼には,今までに自分の信念・理念に基づいて政策を主張・選択したことはほとんど無いのだろうから。自らへの政治資金や集票力、または周囲からの自分への評価の獲得を基準として政策の優先順を決めてきたのではないか。与党政治家の大部分が同様なのだから、特に菅氏だけを強く責めている わけではない。

 むしろ、「自分は観客であり傍観者役」と思い込んでいる我々自身が問題の根源なのだろう。台湾の民主化も、市民が国民党政権の圧力に負けずにデモに参加したこと、選挙に参加し実際に投票したことで実現したのである。何かを変えようと思えば、思っているだけではダメで、まず自分が具体的に何かを始めることが必要だ。

 さて、素晴らしい朝崎さんの唄の紹介の末尾に、こんなグダグダとした追記を書いてしまって申し訳ない。朝崎さんに代表されるような日本各地の、いや世界各地の伝統文化は人類共通の遺産であり財産でもある。いっときの政権が今後どうなろうと、素晴らしい文化は時代を超えて伝承されるだろうし、そうなるべきであると強く思う。自分が感動し素晴らしいと思ったことや人物を、少しでも多くの人に伝えることからその一歩を始めたいものである。

/P太拝