「開かれた市政をつくる市民の会(鳥取市)」編集者ブログ

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東京五輪雑感

一昨日で東京2020終了。カネまみれの五輪という印象が強かったので、開会式も閉会式も見ませんでした。以下、この二週間ほどのうちに感じたことを書きとめておきたいと思います。

(1)開催時期だけを見ても、IOCJOCの選手へのリスペクトはゼロ

我々日本人にとっては、近年、梅雨明けの七月下旬がほぼ毎年のように猛烈な暑さとなることは既に常識。2013年に東京での開催が決まった時の経緯については筆者はよく覚えていないのだが、招致責任者である当時の都知事猪瀬直樹徳洲会から五千万円の賄賂を受け取ったとして、2013年末に就任して約一年で辞任)であった。また、開催を支援する立場にある国のトップは安倍晋三前総理であった。

彼らは「東京の夏は温暖で五輪には理想的」だと説明して今回の五輪を誘致したらしい。(他にも、もう一つのウソがある。安倍前総理は「福島第一原発事故は既にアンダーコントロール」と主張して五輪を誘致したが、それから八年たっても汚染処理水は放出できず、炉心デブリの取り出しは技術的に極めて困難な状況であり、廃炉計画全体の見通しすらも未だにあいまいなままである。このどこが「アンダーコントロール」なのか?)


「「地獄のような嘘」東京五輪の暑さに海外から批判続出。“理想的な気候”と招致したのに」
「『温暖で晴れの日が多い東京の夏』は、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」との猪瀬・安倍の主張は、日本人なら誰でも即座にウソだとわかる。しかし、日本の夏の不快な蒸し暑さを経験したことのない外国人にはこのウソを見破れない人が多いのだろう。

我々は、彼ら政治家のつくウソには既に慣れてしまい見え透いたウソにも何とも思わなくなってしまっているのだが、総理や都知事が世界に向かって大ウソをつくのは国としての信用にかかわる大問題なのである。
さて実際の酷暑の程度はどんなものだっただろうか。今年は太平洋高気圧があまり発達しなかったので関東地方では西からの山越えのフェーン現象が起こらず、例年に比べれば35℃を超えるような地点はかなり少なかったはずなのだが・・・。

「国立競技場が「40度」の酷暑を記録!現地取材の英記者が嘆き、韓国メディアは五輪招致時の“アピール“に言及」
この記事はトラックのそばに設置されている公式温度計についての話だが、陸上競技日程の後半になると、なぜかこの温度計の表示が消えていた。外国からの酷暑批判を恐れてのセコい処置なのだろう。
筆者は根っからの陸上競技マニアなので、世界的な陸上競技の大会の中継はできる限り見るようにしている。7/31だっただろうか、午前11時ごろに国立競技場での陸上競技中継を見ていたら、アナウンサーが「先ほどフィールドの芝生の上に置いてある温度計を見たら44℃もありました」と話していた。これは多分、ハンディタイプの小さな温度計での測定値なのだろう。

「出場106人中30人棄権、倒れ込む選手も…夏マラソンの過酷さ示す」
東京でのマラソン実施は危険とのことで会場を札幌に移したのだが、それでもこの惨状である。日本の服部選手はフラフラの状態で73位でゴールしたが、その直後には体温が40℃を超える重度の熱中症になっていたことが確認されたそうである。今後の選手生命にもかかわりかねない事態であった。

選手は国の代表としての責任感を周囲から強要されがちであり、五輪では普通のレースよりもとかく無理をする傾向が強い。「アスリートファースト」の公式的な掛け声とは真逆であり、競技の実態は完全にIOCJOCの説明に相反している。
アメリカへのテレビ放映の視聴率狙いでこの時期での開催を決めたIOCJOCには、参加する選手への敬意・リスペクトのかけらも見られないのである。各国の代表選手は、彼らがさらにカネと権力を集めるための単なる道具であり将棋のコマに過ぎないのではないか。

そもそも、数十種類にも及ぶ異質な競技の国際大会を、なぜ一定の期間内にまとめて一つの都市でやらなければならないのか?本当に個々の選手を尊重しているのであれば、IOCは各競技ごとに選手のベストを尽くせる競技環境と気候条件とを提供すべきだが、それは同一都市で同一期間中に一律に実現できるものでは到底ない。
さらに、数十万、数百万人もの大量の観客を一カ所に集めれば、人類全体に差し迫った喫緊の課題である低炭素推進方針にも逆行する。今回心配されたようにパンデミック感染をさらに促進することにもなりかねない。

二千数百年前には多くても人口数十万人程度であっただろうギリシャでやっていた小さなイベントを、人口70億人を超える現代の地球規模で数十種目に増やしてまで、なぜやらなければならないのか?巨額の費用をかけてやるとすればその意義は何なのか?世界各地での紛争、飢餓や貧困、人権無視や差別、不平等、各民族の自由と伝統文化への抑圧を放置しておきながら、看板だけで中身がない「平和の祭典」を開いていていいのか?五輪の全面的な見直しが必要だろう。

 

(2)その他の問題点

酷暑以外にも不満を訴える選手は多い。
「五輪=競泳女子エフィモワ「東京大会はアンフェア」」


「テレビ&冷蔵庫なしの選手村 ロシアの〝クレーム〟に「基本的に有償レンタル」」
JOC側は「事前に申し込みが無かったから」とのことだが、「テレビや冷蔵庫くらい、選手村全室に据え付けておけよ。自称、先進国でしょ!」と言いたい。

「メインプレスセンターの食事が高額[海外メディア陣に粗末なおもてなしをする理由]」
下に示すように、竹中平蔵傘下のパソナやその他の日本政府御用達の企業には日給35万円も支払っている一方で、参加選手や報道関係者というお客様に対してはこのような塩対応では、クリステルのあの「おもてなし!」の約束はいったいどこへと消えてしまったのか?都民税や国民の納めた税金の大半は、「おもてなし」には使われずに政府の身内企業へと流れてしまったのではないか?


「「東京五輪の日当は35万円」 国会で暴露された東急エージェンシー、パソナへの“厚遇”」

参加選手からの直接の不満以外にも、この東京五輪の招致決定経過には不明朗な点が多い。巨額のカネが絡むようになってしまった現在の五輪には、動機不純な連中が数多く集まってくるようになってしまったのだろう。

次の記事は三年も前のものだが、政府と癒着した企業が無償参加のボランティアを食い物にする構造を既にその時点で予測している。ボランティアの大半は善意で応募しているのだろうが、すこし離れた立場から客観的に見ると、この五輪の機会を利用して電通パソナなどがボランティアの善意に付け込んで参加者に当然支払うべき人件費を浮かせて儲けている実態が見えてくる。

「東京五輪「ブラックボランティア」中身をみたらこんなにヒドかった」

 

次の記事は誘致過程での賄賂疑惑に関するもの。


「JOCが弁護費用2億円負担 五輪招致で疑惑の元会長に」

この記事によると、竹田恒和元理事長は「本件は、理事長の職務として行った行為であり、私的な利益や動機は全くありません。」と話しているそうだが、こんなことに公的機関の資金を流用するのは全くもって言語同断である。こんな説明では、資金を提供した協賛企業も含めて、JOC組織全体で賄賂工作にかかわっていたと受け取られかねない。
東京五輪誘致の成功によって、その立役者としての竹田氏の知名度と各方面からの引き合いがさらに増えたことは間違いないだろう。wikipediaによれば「ネトウヨのアイドル」と称され、かつ元皇族の末裔であり再び皇族としての復活を願っているであろう竹田氏のあの有名な息子にしても、親父の威光の元でテレビ出演や著作本の販売額が増えたことは確実だったろう。竹田氏の弁護費用はあくまで竹田氏自身が私費で負担すべきである。
さらに下の記事によれば、竹田元理事長は、東京五輪誘致のためにIOC元委員の息子が関係するブラックタイディングス(BT)社に2.3億円を支払った以外にも、総計で11億円超にのぼる内容不明な海外送金をしていたそうである。

「五輪招致、海外送金11億円 疑惑BT社以外は非公表」

さて、2013年に東京五輪招致に成功した当時の責任者、猪瀬、安倍、竹田、森の四名は、今回の開催前にはそろいもそろって姿を消してしまった。安倍前総理に至っては、リオ五輪閉会式の際にはスーパーマリオの着ぐるみまで着たそうだが(渡航費と着ぐるみ製作費用は国民の税金から)、今回は開会式にすら出なかったらしい。いったいどこへ消えたのやら。今後、この四人が決して再登場することのないように願いたいものである。

「招致から旗振り役の4人全員が去った トラブル続き東京五輪への道」


「リオ五輪閉会式 安倍首相の“スーパーマリオ”に非難と嘲笑」
「一将功成りて万骨枯る」と言うが、この場合には「全将罪を得て国庫枯る」だろう。

なお今回、女性や障がい者に対する差別言辞や演出を開始直前で止めるなど、積年で溜まったウミを若干ながら出せた点については、良い前例となるので評価したい。

 

(3)日本陸上短距離陣惨敗の背景

さて、今回の五輪で筆者が熱心に観戦したのは、先回のリオ五輪と同様に陸上競技と七人制ラグビーだけだった。五輪終盤になってからそれまで無関心だった女子バスケチームの大活躍にビックリ、米国との決勝戦に注目し、小さな日本女性が大きな米国選手の隙間をすり抜けてショットを決めるプレーには大いに拍手を送ったものだが、ここでは日本陸上短距離陣の今回の惨敗の背景について触れてみたい。
結論から言えば、現在の日本短距離陣は世界と戦うにはまだ実力不足であったと言ってよいだろう。リオの時と違って100mで九秒台記録保持者が既に四人出たこともあって一部のマスコミは大いに期待したようだが、どのような条件下でも九秒台が出せる選手は日本にはまだいない。日本選手の九秒台はその時々の試合時に追い風に恵まれた面が大きい。各選手の過去の記録、今回の予選での記録、世界の有力選手の記録について、この風の影響を補正して風速ゼロ時の記録に換算し比較してみよう。下にその結果を示す(図のクリックで拡大)。
なお、使用したデータはwikipedia「100メートル競走」 による、

 

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無風時への換算には次のサイトを使用した。無風時の換算に国内で一番よく使われているサイトのようであるが、その計算の根拠が明らかにされていないので上の換算値は参考程度としていただきたい。
「記録の無風換算 関東高校陸上競技結果情報」

上の無風補正後の数字に見るように、現時点では日本勢は誰一人として無風時には10秒の壁を切れてはいないだろうことが判る。新国立競技場では構造的に外部からの風が入ってこないので、鳥取や福井のような海から吹く追い風は期待できない。最初の予選段階ですら、日本選手はほぼ自己ベストに近い記録で走らなければば準決勝には進めないのである。今後は、五輪や世界選手権の決勝に進むためには9.8秒台を経験して置く必要があるだろう。
ここで注目されるのは、決勝で金メダルを取ったイタリアのマルセル・ジェイコブスと中国の蘇炳添だ。マルセルの従来記録は山縣選手と同じ9.95であったが、山縣と同組の予選の段階で自己記録を突破する9.94、決勝ではさらに更新して世界歴代十位に相当する9.80を出した。蘇選手も準決勝の段階で自らが持つアジア記録9.91を大幅に更新する9.83を記録した(この時にはテレビで見ていたが、思わず「スゴイ!」と唸ってしまった)。新国立競技場のトラック材質は世界最高峰と言われており、ポンポンとよくはずむそうである。彼らの大幅な自己記録更新にはこのトラック材質が味方した可能性が大きいようだ。なお、以前にも書いたが、鳥取市布勢運動公園のトラックの材質はこの新国立競技場と同じメーカーのものを使用している(たしかイタリア製とか、完全に同一材質かどうかは不明。)。

100m、200m共に全員が予選敗退した日本短距離陣は、400mリレー決勝でもバトン渡しに失敗して惨敗した。仮にバトン渡しがうまくいっていたとしても、以前とは異なり各チームのバトン技術も向上しているから上位に食い込むのは難しかっただろう。このリレーの惨敗は、あえてリスクを無視してギリギリの線を狙ったためだろうが、元々の原因は個々の選手の走力の不足にある。
今回の五輪では白人のイタリア選手が優勝、また中国選手がアジア人としては従来にない驚異的な記録を出すなど、かっての決勝に残るのは黒人選手のみであった時代からの変化がみられる。東アジア人の蘇炳添選手が出せた記録が日本人選手にも出せないはずはなかろう。今回の失敗にめげずに、基本的な走力の強化から再度取り組んでもらいたものである。

 

(4)TVと共に膨張肥大してきた五輪の行方は?

 今回の五輪のせいで一番困ったのは、それまでNHKBSで見ていた米大リーグの中継が見られなくなったことだった。大谷選手のホームランを見てスカっとしたいのに、後でネット上のツイッターの短い動画を見るしかなくなってしまった。色々探したら、Abema TVで無料でライブ配信していることが判り、最近はそちらを見るようにしている。NHKBSの画面よりもパソコンで見る画面の方が各数字が判りやすい。担当しているアナウンサーもMLBの知識は豊富だ。

残念なのはオールスターでのホームラン競争の疲れなのか、後半戦に入ってから大谷のバッティングが不調になってしまったことだ(日本のオールスター戦は十数年前から全く見ていないが、今年初めてMLBのオールスター戦を見た。その前日のホームラン競争はまさに球場全体がお祭り騒ぎで、アメリカ人の活力を感じて結構面白かった。)。

五輪期間中はテレビのどのチャンネルを回しても競技中継か五輪の話題ばかりだった。関心の持てない競技が大半なので、普段と同様にテレビはあまり見ずに主な情報はネット経由で得ていた。このテレビが五輪にハイジャックされたような状況は将来も続くのだろうか。

あまり人気のない弱小競技にとっては、五輪は競技内容を知ってもらう絶好の機会なのだろうが、サッカーのような世界的な人気スポーツにとっては五輪の意義はたいしてないのだろう。中国やロシアのような全体主義的国家にとっては五輪はナショナリズムを鼓舞する絶好の機会だが、民主主義を国是とする国家にとっては、自分の支持率を挙げたい政権担当の政治家は別として、国が獲得するメダルの数は大した問題ではない。マスコミは今回日本が獲得したメダル数は過去最高とさかんに報じているが、競技種目数が激増しているのだから、平均的にはどの国でも過去最高になって当たり前なのである。

筆者の例でいえば、昨年まではプロ野球では楽天を応援していたが、今年からMLBエンゼルスへと移ってしまった。楽天のオーナー某氏が、地道に頑張っている監督のクビを毎年のようにサッサと切ってしまうことに愛想がつきたのである。幸い、大谷選手というたぐいまれな選手が今年になって本格的に活躍しはじめたこともあり、今年見ている野球の試合はエンゼルスがらみのものが大半だ。おかげで日本の選手よりもMLBの選手の方に親しみを覚えるようになった。


ネット経由であれば、比較的簡単に海外のスポーツを見ることも海外に配信することも出来る。仮にあまり人気のないスポーツであっても、世界中のファンを集めればかなりの数になるだろう。四年に一度の五輪でたった数時間だけテレビ放映してもらうよりも、日頃からネットで情報発信し、できればライブ中継までできるようになれば、競技の普及には大きな効果があるのではないだろうか。

さて、この酷暑の中での五輪開催の元凶である米国NBCテレビの五輪番組の視聴率だが、どうやら過去最低となりそうな状況らしい。今後のテレビの衰退は必然的だから、テレビ業界の要求に完全適応してしまった今の五輪の在り方を全面的に見直す時期が今きているのだろう。

オワコン(終わったコンテンツ)という言葉があるが、テレビと五輪は既にオワコンの代表例となってしまったのかもしれない。各種目の世界選手権を、そのつど十分な時間をかけてネット配信したほうが、各種目の振興のためにはよほど有意義であるように思う。
「五輪独占放映権のNBC、期待外れの視聴率低迷で一部広告主へ補償策提案も」

/P太拝 

野坂川が氾濫する条件

先週の月曜日の7/12に中国地方は梅雨明けとなりましたが、先々週の県内では激しい雨が降り続きました。直接の死者は出なかったものの、7/7には鳥取市内の多くの地域に対して避難指示が発令されました。

対象となる人数は7/7の夜の時点で最大で、下の図-1に示すように約16.1万人と実に市人口の86%にも及びました。これは岡山県倉敷市広島県などで多数の犠牲者を出した2018年7月の西日本豪雨の際に、鳥取市の全域に避難勧告が出て以来の規模でした。

図-1 2021/7/7時点の鳥取市内各種警報(図のクリックで拡大、以下同様)

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以下、今回の豪雨の特徴について調べてみたいと思います。

 

(1)梅雨期には珍しい日本海側からの風

従来、鳥取県では梅雨の時期には河川氾濫の可能性が高まるほどの豪雨はほとんど発生していなかった。下の表に見るように、千代川水系での主な洪水は、従来は全てが秋の台風によるものであり、梅雨期の大規模な洪水は2018年(平成30年)の西日本豪雨が初めてである。この時には千代川水系では戦後二番目の流量を記録した。

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この西日本豪雨に比べれば先々週の豪雨はかなり規模が小さかったが、西日本豪雨の時とはかなり異なる特徴があった。それは山陽側ではなくて、むしろ山陰側、特に鳥取県の海岸部の降水量が多かったという点である。

2018年の西日本豪雨の時の西日本各地の全期間中降水量を下の図-2に示す。

図-2 2018/年7月 西日本豪雨の各地降水量

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鳥取県側では智頭で岡山側に匹敵する降水量を記録しているが、県全体としては岡山側よりも強雨の範囲は狭い。山陽側よりも川が短くて降水が一気に海に流れ出るという地理的条件もあって、千代川水系では氾濫の一歩手前で済んだ。この豪雨の間の代表的な天気図(図-3)を下に示す。梅雨前線が南西から北東方向に中国地方を横断する形で伸びており、この前線の南側に沿って線状降水帯が形成されたのである。

図-3 西日本豪雨時の天気図

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一方、先々週の豪雨の際の天気図はかなり様相が異なる。一番雨が激しかった7/7の天気図(図-4)では、下に示すように梅雨前線は緯度線に対して水平というよりは若干右下がり、北西から南東方向に中国地方を横断している。

図-4 2021/7/7の天気図

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前線がこの形の場合には、線状降水帯に沿って日本海の水蒸気を十分に吸い込んだ北西風が吹き込み、中国山地にぶつかり上昇して山陰側の海岸部に大量の雨を降らせる。この構造は冬に山陰が大雪になる場合と同様である。
従来は梅雨前線は水平または右肩上がりとなることが大半であり、鳥取県中国山地の風下側となるので、海からの水蒸気が山にぶつかる風上側となる山口・島根、または山陽側よりも雨量は少なかった。どのような場合に梅雨前線が今回のような形になるのかはまだよく判らないが、表面的には、7/7朝に関東付近に低気圧が発生したことで梅雨前線がそれまでの水平または右肩上がりから右肩下がりへと変化している。
(以上の天気図は「気象庁 過去の天気図」より引用)


先週の雨の降り始めからの県東部各地のアメダスの積算降水量を次の表に示す。比較のために、2018年の西日本豪雨時、及び野坂川が氾濫に近い所までいった2018年9月30日の台風24号通過時の積算降水量も併せて示す。

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(1)の西日本豪雨の時には智頭と佐治の降水量が鹿野と青谷よりも多かったが、(2)と(3)ではこれが逆になっている。後者の場合には、千代川本流よりもその支流である野坂川の方が氾濫の危険性が高くなる。

 

(2)野坂川の増水の実態

筆者が野坂川の氾濫危険性に気づいたのは、三年近く前の2018年9月末の台風24号の通過がきっかけである。その時の当ブログの記事は以下。

「台風24号は去っていったが・・」

また、現在鳥取市南西部で計画中の大規模風力発電所設置計画が、この野坂川の水害危険性をさらに高めかねないことについても、今年二月の当ブログ記事で既に指摘済である。

「鳥取市の大規模風力発電事業の問題点 ① -水害への影響-」

先週の豪雨による野坂川の増水はどうだったかを以下説明したい。まず、野坂川の増水の程度について下の図-5に示す。7/7と7/8の二回の増水ピークがある。なお、このグラフを横切る三本の線の一番上は「氾濫危険水位」4.3mを示している。

図-5 野坂川 徳尾水位計の推移

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千代川の水位が高い場合には野坂川からの放水が妨げられ、前者の水位が極端に高ければ、支流に本流の水が流れ込む「バックウォーター(逆水)」現象が起きる。同時に千代川の水位の推移も見ておく必要があり、それを図-6に示す。こちらでも二日間で二つの増水ピークがある。この二つのピークが若干越えている黄色い線は「氾濫注意水位」の4.7mである。

図-6 千代川 行徳水位計の推移

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なお、野坂川徳尾水位計は千代川との合流点から約1.8km上流、千代川行徳水位計は合流点から約1.1km上流にある。下の図に位置関係を示す。この図の右側に千代川右岸のスポーツ広場の監視カメラの映像が映っているが、この映像から、7/7 15:24にはスポーツ広場の一部が既に冠水していることが判る。(これらの図は国交省「川の防災情報」から入手した。)

図-7 千代川・野坂川の各種観測機器の配置

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次に現場での実際の増水の跡を見ておこう。次の写真は今回の増水と2018年の台風24号の時の増水とを比較したものである。これらの写真は、徳尾水位計から約100m下流の橋の上からそれぞれの増水の翌日の朝に筆者が撮影したものてぜある。

7/7の増水よりも、7/8の増水の方がより高い所まで届いており、一部ではさらに高い所にまでゴミを押し上げている。7/8の増水で倒れた草の傾きが小さいので、7/8の増水は短時間で終わったらしい。ただし、2018年の増水の時に比べれば、7/8の増水は1m弱程度は低かったようである。

図-8 野坂川徳尾での過去の増水

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さて、下流での増水を事前に予測するためには、まずは上流に降る降雨量との関係を把握しておく必要がある。野坂川流域にはアメダス観測所はないが、この明治谷の最奥の鷲峰山の南側にある峠を越えた向こう側には鹿野町河内のアメダスが設置されている。この鹿野のアメダスから峠までは約2kmしか離れていないので、鹿野アメダスの降雨量データと野坂川流域の降雨量の間には強い相関があるものと予想される。今回の豪雨では北西から大量の水分を含んだ風が吹き込んだので、鹿野町河内を通過した風がそのまま高山山塊に当たり、麓の野坂川源流部に大量の雨を降らせたのだろう。

一方、鹿野の次に近い佐治町加瀬木のアメダスは、野坂川からは最短でも約11kmほど離れているので、相関は鹿野よりもかなり弱いだろう。以下、鹿野アメダスの降雨量と野坂川の水位の関係に絞って考察することにしたい。

次の表は各豪雨時の野坂川徳尾と千代川行徳の水位ピークを比較するものであり、その中の最高水位を赤字で示している。2018年7月の西日本豪雨の時点では、野坂川の氾濫危険性について認識していなかったので徳尾のデータについては把握していない。今後入手するようにしたい。

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以下の図は、各豪雨時の鹿野降水量の推移と徳尾水位ピーク、智頭降水量推移と行徳水位ピークの関係を示したものである。降り始めから48時間または72時間までの一時間当たりの降水量の推移を示しており、上からの矢印はそれぞれの豪雨時の各水位計のピークを示している。(気象庁「過去の気象データ検索」よりデータを収集)

図-9 鹿野降水量推移と徳尾水位ピークの関係

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図-10 智頭降水量推移と行徳水位ビークの関係

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図-9によれば、今年の7/7の徳尾水位のビークは鹿野降水量のピークの7時間後、7/8の水位ピークは降水量ピークの3時間後となっている。7/7の水位ピークの立ち上げに時間がかかったのは、7/6以前の一週間の累積降雨量がわずか24mmと流域全体が乾燥していたためと考えられる。要するに、降雨量の中のかなりの割合が土壌や植生に吸収されたのだろう。7/8の水位ピークが早くも降水量ピークの3時間後に訪れたのは、流域全体が十分に濡れて、水の通り道が至る所にできていたためと考えられる。

2018年/9月のデータでも、降水量ピークの2.5時間後には水位がビークとなっている。前日からある程度の量の雨が降り続いていて、既に流域の保水力が飽和していたものと推測される。

図-10では智頭の降水量がピークに達してから2.5~6時間後に行徳水位がピークを迎えている。千代川の流域は県東部のほぼ全域に及ぶので、支流の八東川流域、さらに下流側で合流する袋川や野坂川の影響も考慮する必要があるが、智頭の降水量は行徳の水位を予測するうえではある程度の目安にはなるだろう。

ここで注意していただきたいのは、上の二つのグラフに示した鹿野と智頭の一時間当たり降水量がいずれも50mm/hを超えていないことである。先週の7/12には、一時間だけではあったが、境港のアメダスが一時間に76mmの豪雨を記録している。近年では、降水量80mm/h以上の豪雨が日本全国で年に数十件発生している。

今回は島根県東部から鳥取県中部にかけて線状降水帯が南北に行き来することで各地に断続的に豪雨を降らせたが、仮に線状降水帯が動かずに50mm/h程度の豪雨が三、四時間も続いていたら、水位が堤防を越える可能性は徳尾でも行徳でも極めて高かっただろう。もはや、県内のどの川で氾濫が発生しても不思議ではなくなって来ている。「どこで氾濫するかは、その日の運しだい」なのである。

(3)野坂川が氾濫する条件

野坂川は全長が短くて流域も狭く、さらに周辺山地の地質は崩れやすい真砂土地帯であり、既に半ば天井川に近いと言えるほど川床も高くなりつつある。上に見たように、流域に豪雨があれば短時間で水位が上がる川でもあり、氾濫の危険性は千代川本流よりも相当程度高いと言ってよいだろう。

さらに、仮に野坂川が氾濫して堤防が決壊した場合には、下流に位置する徳尾・徳吉・緑ヶ丘・安長の密集住宅地、市の商業中心地である商栄町や千代水地区には甚大な被害が発生することになるだろう。豪雨の際には、県や市から状況に応じて警報が出されるのだろうが、市民サイドとしても日ごろから豪雨に対する注意と万一のための準備とをしておく必要がある。これまで説明してきたデータから、どのような時に野坂川が氾濫するのかという条件を以下にまとめたので、今後の参考とされたい。

①「鹿野アメダスの降水量が、降り出してから半日以内に累積200mmを越えたら要注意。

 今月7/7の例では、鹿野での降り始めから10時間で累積で200mmを超え、その3時間後には徳尾水位計が最初のピークの4.4mに到達している。この時点で既に「氾濫危険水位」の4.3mを越えており、市から避難勧告が出るのが当然という状況となっている。このような状況になった場合には、上に紹介した「国交省 川の防災情報」アメダス等によって常に最新の情報を把握し続けることが望ましい。避難勧告が出た場合には、とりあえずはスマホと身の回りのものだけを持って、指示に従って素直に指定された避難所に向かうべきだろう。

②「弱い雨が長期間降り続いたり、前日に一時的に強い雨が降った後の場合、激しい雨が短時間続いただけでも急激に増水する場合があり得る。

 流域内の土壌水分量が既に飽和して保水力が失われている場合には、少ない雨量でも短時間のうちに増水する。今月7/8の水位の第二のピークがその例である。この時には再度降り始めてからの累積約100mm程度で徳尾水位の第二のピークを引き起こしている。

これから判るように、流域内の保水力は日ごろからなるべく確保しておくべきであり、そのためには流域内の山地の森林は今以上に保全すべきである。この流域内の稜線を何十kmも切り開こうとする現在進行中の風車設置計画は、下流の住民が水害に遇う危険性をさらに増すことになる。

③「鹿野の降水量が急激に増えた場合、2~3時間後には徳尾の水位も急速に上昇すると予想される。」この場合には至急安全な場所に避難すべきだ。

(4)海水面の上昇の影響

温暖化に伴って豪雨の発生頻度は今後さらに高まると予想されるが、同時に温暖化は海水面の上昇の原因にもなっている。海水面が高くなることによって、従来は海に排出されていた雨水が川にとどまり続けることで、豪雨時の水位をさらに押し上げることになる。

次の記事によると最近の日本周辺の海面上昇率は約4mm/年とのこと。このままの上昇率であれば、2050年には今よりも12cm、2100年には32cm程度上昇する計算になる。しかし、当面は温暖化ガスが今よりも増え続けることはほぼ確実だから、実際の海面上昇の速度はさらに加速するだろう。

「1mで日本の砂浜9割を水没させる「海面上昇」はどこまで進んだか」

最近発表された次の記事では、2100年までに海面が最大で2m上昇する可能性があると主張している。

「海面上昇、従来予測の2倍に 氷解が加速=英研究」

他の要因としては、気圧が下がると海面が上がるという現象が挙げられる。気圧が10hPa(ヘクトパスカル)下がると、周囲から海水が吸い寄せられることで海面が約10cm上がるとされている。標準大気圧は1013hPaだから、仮に山陰海岸に990hPaの停滞前線が居座っているとしたら、通常よりも海面が20cm程度は上がるだろう。920hPaの台風の中心では、海面は通常よりも約90cmも上がると予想される。

さらに、満潮・干潮の要因もある。山陰東部の一日の満干潮の差は夏の最大時には約40cmになるので、大潮の満潮時に豪雨に見舞われるとかなり危ないことになる。このように海面上昇には多くの要因が関わっているが、集中豪雨時に海面上昇が悪影響を与えるケースは、将来的には今よりもさらに増加することは間違いないだろう。

なお、上に挙げた各地の水位計の水位は海水面を0mと想定して決めているので、海面が上昇すればその分だけ川の勾配が減少することになる。

 

(5)いまだに防災無線に頼る「周回遅れの日本」

今月の7/7の 15:44、大正、豊実、千代水地区他に避難指示が出された時(図-1参照のこと)、筆者はちょうど千代水地区内の路上を傘をさして歩いていた。屋外にいて防災無線の放送内容がよく聞こえたので、「車が水に漬かっては大変だ!」と自分の車に慌てて戻り、さっさと対象地区外へと逃げ出したのである。放送を聞いてから数分後にヤフーの気象情報を見たが、この避難指示はまだ掲載されてはいなかった(この時には鳥取市の公式サイトは確認しなかったが、市はサイトに掲載してから放送したのだろうか?)。

こんな時に思い出すのが、中国で働いていた十年ほど前の出来事である。中国でも北京より南には梅雨期がある(そもそも、梅雨という言葉自体が中国語からの借用)。筆者はその頃は華中の某市にいたのだが、六月末のある日、その街で買って仕事で使っていた安物の携帯に突然メールが入った。見ると市政府からのメールで、「今後、当地方を集中豪雨が襲う可能性が高いから十分に注意しなさい」との内容だった。

あれから十年近く経ったが、日本で使っている携帯には未だに大半の災害情報が配信されてこない。配信されるのは、ニ、三年前にやっと送ってくるようになった緊急地震速報だけだ。なんで水害その他の緊急情報は配信されないのか?これこそ縦割り行政の弊害の典型例ではないか?

屋内にいてはほとんど聞こえない防災無線、せっかく買ったけど、常時つけているとうるさいので結局は電源を切ってしまう人が多い防災ラジオ。こんな時代遅れのシステムにいつまでも頼っておきながら、仕事をした気にならないでもらいたい。

既に国民の八割以上が持っているとされるスマホや携帯を、なんで頻発する水害対策に活用しないのか、実に不思議である。霞が関と各地方自治体の行政担当諸氏は、自分たちは自身が受け取る給料に見合った仕事をしていると国民の前で断言できるだろうか?

十年前の中国が既にやっていたことがいつまでもできないどころか、やろうとすらしない日本。こんな有様では、今までずっと自慢して居座り続けてきた「先進国の椅子」からの転落も間近だろう。

/P太拝

コロナ敗戦の原因(3)

最近はできるだけ毎日、大谷選手の試合を見るようにしています。朝、その日の放映時間を見てから仕事の時間をずらすこともたびたびあります。先日のヤンキース戦の登板では、一回も持たずに七失点と残念な結果に終わりました。しかし、失敗を後に引きずらないのが彼のすごい所。先週土曜日の二本の本塁打とサヨナラ勝ちをもたらした本塁への走塁は見事でした。特に、7-6と逆転した時の二本目の30号には見ていて鳥肌が立ってしまった(鳥取弁で言えば「サブイボが立った」)。

この日本の梅雨空とは対照的な、アメリカの晴れわたる青空のもとでの26才の若者のはつらつとしたプレーこそ、彼が我々に送ってくれる一服の清涼剤と言ってもよいのではないかとさえ思う。
それに引き換え、国内のニュース、特にコロナ関連の毎日のニュースでは、政治家や官僚による後での責任回避のためでしかない言い訳、国民への説明不足、その場しのぎのいい加減な約束、責任者不在による大混乱等々のオンパレードだ。日本は、いつからこんなに「偽善者だらけのダメな国」になってしまったのだろうか?


コロナ関連の記事は先回で終わる予定でしたが、この一週間ほどの間に注目される記事がいくつもあったので今回も同じ話題とします。コロナに関する状況が日ごとに急速に変わっていくので、なかなか目が離せないのです。

(1)世界の感染状況

アメリカMBLの中継をほぼ毎日見ているのだが、最近は観客の中でマスクをつけている人を全く見ない。六月の初め頃までは、エンゼルスのベンチの中では水原通訳などは必ずマスクをつけていたのだが、現在はベンチ内の誰もがマスクをつけていない。最初に、米国やその他の国の最近の感染状況を確認しておこう。

世界の最新の感染状況では次の記事が参考になる。
「接種率40%超の「ワクチン先進国」でも次々と感染再拡大 気になる要因とは?」

記事を要約すると、接種率が四割を超えたのに感染が再拡大している国としてはチリ、ドミニカ、ポルトガル、英国が挙げられるとのこと。その原因は次のようになる。

①チリ:効果の低い中国製ワクチンが主、変異株ガンマ型(ブラジル型)の拡大、一時的にロックダウンを解除
②ドミニカ:中国製ワクチンが主、国民の接種率が鈍化
ポルトガル:英国からの観光客受け入れによる変異株デルタ型(インド型)の蔓延
④英国:デルタ型の蔓延

日本はポルトガルや英国と同じく欧米製のワクチンの接種を進めているが、今後のデルタ型の感染拡大に伴って英国などと同様に再拡大する可能性は高い。


この記事からもう一つ言えることは、中国国内の今後の感染予想についてである。懇意の中国在住者の最近の話によれば、「国からの公式説明は全くないが、身の回りの状況から見て既に国民の半分程度は接種済ではないか」とのこと。

中国で接種されているワクチンは当然全て中国製なのだろうが、その効果は欧米製よりも低く、特に変異株に対して効果が薄いことが既に明白である。中国はコロナ感染抑制レースの現時点での勝ち組だが、今後の変異株の中国国内への流入量によっては感染が再燃する可能性は大いにあるだろう。現在、中国政府はファイザーやモデルナと同じmRNAタイプのワクチン開発に必死になっているのだろうが、それが変異株の流入までに間に合うかどうかが今後の最大の問題点となるだろう。今後のワクチン開発の状況次第では、中国の国境開放が世界よりも遅れ、経済の回復もとん挫して、中国の世界からの孤立化がさらに進む可能性もあり得る。

次に世界各国の死亡率の推移を見ておこう。各国の検査数が大幅に異なるため、単に陽性者発生率を比較するだけでは感染状況を正確に反映しているとは言えない。コロナ感染によるものと公式に判定された死者の対人口比を見る必要がある。

下の図は「Our World In Data」から抽出した、今年の4/1から7/2までの各国の百万人当たりのコロナによる一日当りの死者数の推移である(図のクリックで拡大)。上の記事で指摘された四カ国中三か国の推移も載せている(ドミニカのデータはこのサイトには載っていないので不明)。

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この期間に限れば、各国を以下の五グループに分けてよいだろう。


①死亡率が高止まり      ブラジル、チリ
②死亡率が漸減        ドイツ、米国
③死亡率が上昇したのちに減少 インド、日本
④死亡率が最近増加      インドネシア、英国、ポルトガル、(フィリピン?)
⑤死亡率が低位安定      韓国

 

インドと日本は同じ③のグループだが、最近の減少の理由は全く異なる。インドの状況は最初に紹介した記事の末尾で「ワクチン接種が進み、ロックダウンも再強化」とあるが、既に国民の何割かが感染済で抗体ができていることも、この減少の大きな要因なのだろう。
「印ムンバイ、18歳以下の半分がコロナ抗体保有」
「ムンバイのスラム街住民、半数以上が新型コロナ感染か」
なおインドでの感染の五月のピークの頃には、実際には公式のコロナ死亡者数の何倍もの死者が出ているとの報道が相次いでいた。この死亡者急増の原因は、春先のヒンズー教の祭りの開催を政府が黙認したことにあるとされており、その影響を軽く見せたいモディ政権が故意に死者数を減らしているのかもしれない。

日本の事情はインドとは全く異なる。緊急事態宣言という名の「ゆるいロックダウン」によって死亡率は五月下旬をピークにいったん減少したが、国民の大部分が未だに未感染で抗体を持っておらず、後で述べるようにワクチン接種もなかなか進んでいない。このような状況下で変異株が次々に流入すれば、既に接種がかなり進んでいる英国やポルトガル、米国やドイツ以上の死亡率となる可能性は高い。

インドネシアの死亡率が最近急増しているが、これはデルタ株の蔓延によるもので、五月のインドと同様に酸素の奪い合いが起きていることのこと。東アジアでの「ファクターX」による感染予防効果という神話も、デルタ株の前にはもはや過去のものとなってしまったようだ。また、最近の急増との関係は明確ではないが、初期のワクチン接種は中国製が主だったとのことで、国民の間には中国と自国政府への不信が高まっている。
「インドネシア、医療崩壊「目前」 駐在員の帰国検討も」
「感染急拡大中のインドネシアで湧き上がる「中国製ワクチン」への不信感」 

さて、最初に述べたように米国では既にマスクをしている人をほとんど見かけなくなっているが、現時点での死亡率はまだ日本の約三倍もある。以前の最悪期に比べれば既に大幅に改善したという解放感からマスクを外してしまった人が多いようである。下に感染初期の2020年2月から先月末までの各国の死亡率の推移を示す。

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米国ではピーク時には百万人あたりで一日に約10人が死亡しており、それに比べれば現在の死亡率は13分の1程度である。「もうコロナは終わった」と感じている人が多いのだろう。

ただし、米国での変異株の蔓延はこれからというところであり、さらにトランプ支持者や共和党員では接種を拒否する割合が高いそうである。近いうちに、主要メディアが報道する科学的内容を理解しようとしない、仲間内のSNS上のデマしか信じない共和党支持者だけが死亡率が突出して高いということになるのかもしれない。
「政治問題化する米国のワクチン接種 共和党員の意欲上げるには有効性PRよりトランプ氏?」

欧州では英国のデルタ株の蔓延が目立つが、大陸のEU諸国でもデルタ株の割合が増えてきている。コロナ感染全体としては現在は沈静化してきているが、デルタ株による感染再拡大が懸念されはじめた。なお、欧米製のワクチンの接種はデルタ株にも従来株ほどではないにせよ有効であることが明らかになってきており、接種することによって少なくとも重症化や死亡の危険性は大幅に回避できそうである。今後の展開はワクチンの接種率しだいと言えるだろう。
「フランス「デルタ株」の感染割合3分の1に イタリアでも拡大、夏に流行再燃も」 


直近の情報として下に示す今朝(7/6)の記事によれば、各国でのデルタ株の蔓延は日付が変わるごとに深刻化しつつある。このような中で約10万人もの外国人選手や役員を東京に入れるのは無謀と言うほかないが、既に走り出してしまったからにはもはや止めようもない。この夏は、特に関東地方から来た人を極力避けながら、今までと同様にひっそりと過ごすしかないのだろう。

「デルタ株、世界で猛威 死者400万人に迫る―東京五輪に不安も・新型コロナ」

 

(2)日本の医療体制の問題点-日本医師会は「対コロナ戦争」からはさっさと敵前逃亡、安全な後方で金儲け-

先回の記事では自民党日本医師会の癒着を指摘したが、今回は医師会のより具体的な実態についての記事を取り上げてみよう。次の元木氏による記事が日本医師会の問題点を総合的に取り上げていると思う。
「「国民の命より開業医が大事」 まともな医者ほど距離を置く日本医師会はもう要らない」 

以下、この記事の内容を要約。

・全国の感染症対策可能な病床のうち、コロナ患者を受け入れているのはわずか4%。神奈川県内の病院の八割がコロナ患者の受け入れを拒否。

自民党への大口献金団体である日本医師会には、国民の利益と医師会の利益が相反する法案が準備された場合には、政治力を使ってその法案をことごとくつぶして来たという黒歴史がある。

・医師会に入っていない病院はコロナ対策のワクチンがもらえないという現状がある。また医療関係者へのワクチン優先配布では、病院が必要人員以上の過大な申請をしても実態確認することもなく配布されている。

・ワクチン接種で大儲けしている医師が続出している。時間外と休日だけに接種する平均的な場合でも週に40万円、多い場合には週に140万円の荒稼ぎ。一方、大規模接種会場で働く自衛隊医官の場合、一日に十時間以上働いても日当は三千円。

(なお、先回の記事で既に紹介したが、英国ではコロナワクチンの注射や接種の受付に、それぞれに応じた研修を修了したボランティアの市民が参加し活躍している。ボランティアであるからには、彼らはほぼ無給で社会奉仕として参加しているはずだ。この英国と日本との極端な違いの理由は何か?)

・現会長の中川俊男氏は緊急事態宣言中に自民党議員の政治資金パーティーに出席。昨年にはコロナ禍のなかで、自ら推薦して要職につけさせた年収1800万円の女性と高級すし店でシャンパンデートとやりたい放題。さらに自分が経営する病院ではコロナ対策不備でクラスター発生とずさんな経営実態が明らかに。

最後の中川会長に関する指摘については、下の二つの記事を見ていただきたい。カネには汚く、女と肩書が異常に大好き、外ではきれいごとを言いながら自分の会社ではそれを全然守らない偽善者という、政権与党に大口の献金している業界団体のトップにはよくあるタイプの人物のようだ。先代の横倉義武会長も政権との距離は近く、麻生副総裁とはツーカーの仲だったとのこと。

「まん防の最中、日本医師会・中川俊男会長が政治資金パーティーに参加していた」 

「日本医師会・中川会長の病院「不十分なコロナ対策でクラスター発生」職員5人が告発」 

我々が日頃通っている「町医者」の大半は日本医師会に所属しているそうだ。この中川氏程度の人物が会長になったのも、基本的には会員である町医者の皆さんの支持があったからである。であるからには、我々が日頃接しているお医者さんたちにもそれなりの責任があるはずだ。「あれは会長個人の問題」と逃げないでもらいたい。

このような日本医師会ではあるが、その中にも少数だが使命感を持つお医者さんは存在する。対コロナ戦争の最前線に立って奮闘している尼崎市の長尾和宏医師の事例を次に紹介しよう。

この記事によると、保健所の介入で症状がむしろ重症化する例が多発しているとのこと。また、上の中川会長には長尾氏自ら対談を二回申し入れたが、ことごとく断られたそうだ(すし屋での対談なら応じてもらえたのかも)。

「「開業医に治療を拒否できないように」 日本一コロナ患者を診た「町医者」が語る日本医師会の問題」 

日本医師会の縄張りを聖域化し、そのやりたい放題を黙認してきた過去数十年のツケこそが、今回のコロナ敗戦の主な原因なのだろう。
さらに、世界最悪の借金国である日本には、コロナ敗戦だけでは済まない大問題がある。日本の国家予算の支出の約三分の一が社会保障費、その社会保障費の中の最大項目が医療費である。医療費の中の医薬品費については後発薬の普及などで抑制されつつあるが、医師に支払われる診療報酬分は一向に下がらない。その最大抵抗勢力こそが日本医師会なのである。

次の政権を誰が担当するのかはまだ全然わからないが、この不合理かつ腐りきった日本の医療体制の根本的改革を断行する勇気のある人物の登場が絶対に必要である。中川会長が「すし屋デート」で支払った費用のほぼ全てが、我々が病院窓口で支払った医療費と、それとは別に国に納めた税金とから出ているのである。

(3)国内のコロナワクチン接種は予定通りに進むのか?

ここからは話を一転させてワクチン接種に関する身近な話題へと移りたい。筆者も最近、高齢者の仲間入りをしたので、今年の五月の初めに鳥取市からワクチン接種券が送られて来た。5/22から集団接種開始とのこと。のんびりしていて数日間放置してからネットで申し込んだら、既に市内の各集団接種会場は満員で受付終了であった。あわてて開業医での接種に切り替えることにした。

かかりつけの医者は特にないので、接種券に同封の資料に「(接種対象者は)かかりつけのみ」とは記してはいない近所の五カ所の開業医に電話したが、どこも既に予約はいっぱいになったとのこと。中には「途中から受け付けるのはかかりつけの患者さんだけに変更しました」という病院もあった。あきらめて5/24からの第二次予約受付開始まで待つことにした。

5/24の朝、受付開始時刻にネットで予約を取ったが、その時点での一番早い第一回目接種は七月中旬だった。ファイザーワクチンの二回目接種は三週間後なので、二回目が八月上旬になることも同時に確定済となった。「菅総理が言っていた「七月末までに接種完了」とは話が違うじゃないか!」とあきれたが、すでに後の祭りである。

念のため、少し過去の報道を調べてみよう。下の記事に示すように、4/23に菅総理が高齢者の七月完了を表明。その直後には政府機関が一斉に各自治体に連絡してその日程での実行を迫った。
「ワクチン接種の「7月完了」、総務省が自治体に直談判」 

次の記事によると六月半ばまでに全自治体が七月中は完了可能と政府に回答しているが、少なくとも鳥取市はこの時点で政府に対してウソをついていることになる。既に五月末の時点で、鳥取市が筆者に対して二回目接種は八月初めになると回答した事実こそが、その証拠に他ならない。

そのように市民には伝えていながら政府には七月中に完了すると言っているのだから、鳥取市役所の中では、職員が上部組織に向かって平気でウソをつく、いわゆる「面従腹背」の習慣が蔓延しているのだろう。中国の地方政府が北京に対して「面従腹背」で対処していることは既に有名だが、日本の自治体も東京に対して似たような態度だとは今まで全然知らなんだ。まあ、日本政府自身も国民に対しては平気でウソをつくのだから、政府も鳥取市も、どっちも似たようなものではあるが。
「高齢者接種、7月完了にめど 新型コロナワクチンで政府」

さて、最近になってやっと「七月末には接種が完了しない見込み」との声が挙がり始めた。下の鹿児島の南日本新聞の7/1報道によると、鹿児島県は「個人の判断しだいでは八月まで伸びる」と回答しているが、これ、本当だろうか?

筆者の場合には、鳥取市は筆者の希望を全く聴くことも無く、最初から市の一方的な決定で八月になってからの接種完了にされてしまったのである。
「高齢者接種の「7月末完了」大丈夫? 8月以降の予約も…ワクチン必要量は確保、県「個人の判断」 新型コロナ・鹿児島」

全国紙には、この「七月中接種完了は不可能な見込み」という内容の記事はしばらく見当たらなかったが、6/29になってようやく朝日新聞が疑念を発し始めた。
「高齢者ワクチン、「7月完了」は不透明 定義もあいまい」

こんなことは実態を調べればすぐにわかることなのだろうが、他の大手紙では今のところこの件に関する記事は見当たらないようである。対コロナ戦争では、すでに大手メディアに報道管制が敷かれているのかもしれない。

日本のマスメディアは、もはや政府の翼賛体制下にあるのではないだろうか。民主主義国家であったはずの我が日本国も、全てのメディアがそろって政府に都合の悪い情報を隠蔽してしまう中国と同様の位置にいつの間にやら転落してしまったようである。

さて、筆者の周辺の鳥取市在住の高齢者の接種予定についても述べておこう。同級生の十名近くの中では、既に二回目の接種を終えたのが二名、全体の約半分は筆者と同様に二回目接種が八月になる見込みらしい。より高齢の知人六名の中では、その半分が八月の接種完了予定となっている。接種券の到着が遅かったとか、うっかりしていて申し込みが遅れた人たちである。

政府の公式表明の「本人が希望すれば七月中に接種完了する」というのは、少なくとも鳥取市に関する限りは既に完全なウソである。もう少ししたら、菅総理が「接種完了の定義とは、一回目の接種を終えたということです」と言い出すのかもしれない。

鳥取市に関してはもう一つ問題がある。筆者よりも一回り高齢の知人のことだが、五月の時点でかかりつけの医院やその他の医院に電話しても全く接種予約が取れなかった。この方は糖尿病の他にもいくつかの持病を抱えていて、感染した場合には重症化する可能性が非常に高いものと予想される。本人が市の保健所にそのことを何度も電話して接種を優先するように頼んだものの、市の担当者からは全く相手にされなかったそうである。結局、彼の接種完了予定は八月の中旬になってしまったとのこと。かなりの高齢者であり、かつ既往症歴があるにも関わらず、八月上旬の筆者よりもさらに遅くなってしまったのである。

接種の順番をどうするかは各自治体の裁量に任されており、持病を持つ高齢者の接種を優先している自治体もかなりあると聞く。鳥取市の姿勢は実に官僚的といわざるを得ない。彼らは、自分の仕事を増やすような面倒なことには最初から極力関わりたくないだけなのである。「役人の、役人による、役人のための鳥取市政」という今までの鳥取市政を観察しての結論に、新たな証拠がまた一つ付け加わったというだけの話だ。

さて、七月中には終わらないにしても、八月までの接種予定は変わらないだろうと思っていたのだが、ここ数日の報道を見ていると、それも何だか怪しくなってきたようだ。職域での接種用のモデルナのワクチンだけではなくて、各自治体で高齢者用に使うファイザーのワクチンまで供給不足になっているらしい。筆者自身の七月中旬の第一回目の接種予定もどうなることやら・・。

自治体が「接種の予定が立てられない」と一斉に悲鳴を上げ始めているというのに、政府からの状況説明が全く聞こえてこないのである。
「ワクチン供給減、接種見直し自治体困惑 予約停止相次ぐ」 

この記事によると、大阪市では予定外のこのワクチン不足に直面しても、高齢者向けの二回目の接種はあくまで当初の計画通りに七月末までに終える計画らしい。早くも五月末の時点で七月末での高齢者接種完了目標をさっさと放棄しておきながら、政府に「七月末までの完了は問題ない」とのウソの報告を六月にした鳥取市とは大違いだ。

次の二つの記事は、ワクチン不足が深刻化しつつある中で、菅政権がワクチンを自分の権力を強めるための「アメとムチ」政策の有力な道具として使い始めているという内容を含むものである。

コロナ対策用に政府が配ったタブレットポンコツ過ぎて使わなかったらワクチンを減らされたとか、政府方針に何かと抵抗する沖縄県にはワクチンを出ししぶる一方で、知事が自衛隊出身かつ自民党である宮城県にはモデルナワクチンを既に大量供給しているとか・・。

この記事の内容が本当であるとしたら、日本国の主権者でありかつ納税者でもある国民に対して、その国民が納める税金のおかげでメシを食わせてもらっている一介の政府ごときが、国民個々の思想信条の違いを理由として不当に差別していることになる。日本国憲法に対する明らかな違反にほかならない。菅内閣は、まさに恥知らずの、史上最低の政権と言うほかはないだろう。

「明石市長が激白「ワクチン寄こせ」と西村大臣に直談判もゼロ回答 「利権化し、官邸が恣意的に運用」」

「供給不足と格差、東京五輪でピークになる「ワクチン二重不安」」

/P太拝

コロナ敗戦の原因(2)

今回もコロナ禍について取り上げてみたいと思います。記事のタイトルとしている日本の「コロナ敗戦」の実態についてもう少し詳しく見てみましょう。

(1)ワクチン接種率もコロナ検査回数も、開発途上国以下の日本

先回の記事で日本のワクチン接種率が開発途上国並みであることを紹介したが、PCR検査や抗体検査などの検査回数についてはどうだろうか。「Our world in data」のコロナウィルスのサイトの6/18時点での主要国と日本の周辺国の各国別の千人当たりの検査数の比較を下に示す。(図はクリックで拡大)

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縦軸は千人当たりの検査数であり、各国の線の一番上端が6/18時点でのその国の検査数を示し、線の下端は検査開始時の検査数と日付を示す。横軸は2017年の各国の一人当たりのGDP(米ドル換算)である。

全体としては、一人当たりGDPが高い、いわゆる豊かな国ほど検査数が多い傾向がある。これは当然予想される話。
ところが、日本だけがこの傾向から大きくずれている。以下に一人当たりGDPが高い国から順に、6/18時点での各国の千人当たりの検査数(オーストラリアのみ、6/22時点)を示す。シンガポールのように1000を越えている国は、一人当たり一回以上検査したことを示している。

シンガポール 2189、米国 1388、ドイツ 752、オーストラリア 775、英国 2868、

日本 117、韓国 198、トリニダード・トバコ 153、タイ 106、南アフリカ 208、

インドネシア 44.8、フィリピン 122、インド 279、ベトナム 51.8

日本より検査数が少ないのはタイ、インドネシアベトナムの三か国だけ。南アフリカやフィリピン、インドの方が日本よりも多い。さらに一人当たりGDPが年$20,000以上の約45カ国に限ると日本が最下位、そのひとつ上の順位のトリニダード・トバコを参考のために図中に示した。

五輪を間近に控える東京都ですら175(6/21時点)であり、南アフリカよりも少ない。そのような状況下なのに、日本政府は「安全安心な開催に努める」と、具体的な対策も示すこともなく「壊れたレコード(死語)」のごとく繰り返すばかりである。

コロナ対策に関しては既に日本は発展途上国以下であり、国民の過度の行動自粛によって感染者数が抑え込まれているに過ぎない。いやそれどころか、五輪をやりたいばかりに、感染者数を低く見せるために意図的に検査数を抑えている可能性もあり得る。

(2)コロナ敗戦の根本原因

どうして日本政府は、このような低レベルのコロナ対策しか取れないのか。去年からの一連の政府対策の不手際を見ていると、次のような要因が浮かび上がってくる。

① 自民党の支持業界の既得権益を極力温存
上の図に見るように、政府はPCR検査回数を一向に増やそうとしてこなかった。また、ワクチン接種担当をほぼ医師・看護師のみに限定してきた。このように、政府が個人や企業による医療業務への新規参加を一貫して拒み続けてきていることは明白である。医療業界の既得権益の保護を国民の健康よりも優先している。

昨年の「GOTO・・」事業で交通・観光業界に税金をばらまき、結果的に全国に、特に沖縄県にウィルスを拡散させたのと同様の構図である。コロナと五輪関連では、広報で電通、人材派遣ではパソナとの癒着が明瞭だ。医療体制の整備に最初から全力を投入しようとせず、まず自分のバックにいる業界の利益を最優先しようとするから、連発する政策の全てが不合理かつツギハギだらけになってしまうのである。

② 官僚の不作為・傍観姿勢
誰も使おうとしない「アベノマスク」の欠陥を指摘せず、国費を無駄に浪費させた。税金を浪費しながら感染をまき散らすことが最初から自明の「GO TO・・・」政策の実施を傍観。ワクチンが必要なことは最初から分かっているのにその手配が遅れた等々、上から叩かれることを恐れるあまり、有効な対策を自発的にボトムアップで政府トップに提案することを避け続けている。

③ 政府トップの著しい無能ぶり
昨年春の突然の一斉休校、アベノマスク配布、GOTOによる感染のまき散らし、観客を入れての五輪の強行等々、客観的な効果予測を伴わなず国民へのまともな説明もできない場当たり的な政策の羅列が続く。

そもそも、上の②に挙げた官僚の不作為・傍観姿勢も、その根本原因は安部-菅コンビが2014年に実施した内閣人事局の設置にある。トップの命令に逆らって左遷されることを恐れた各省庁の幹部級は、トップの思いつきに過ぎないデタラメな政策に対して全くモノを言わなくなってしまった。現在の菅総理の右往左往ブリも元々は自らが蒔いたタネなのである。

もっぱら、楽屋裏での公表できない取引や票やカネの貸し借りで権力を拡大してきた前総理と現総理ではあるが、それ以外の専門知識については一般人よりもかなり乏しいらしい。トップの思いつきにすぎない実施不可能な政策に日本中が振り回されている。

①について付け加えれば、ワクチンの打ち手を限定した結果、打ち手不足となったことで医師の日給は高騰が続いている。日本医師会会長は表面的には政府批判をしてはいるものの、既得権益に一切手をつけさせなかった上に、人件費として医療業界に巨額の税金が流れ込んだことで内心はウハウハ状態ではないだろうか。既得権益を守り切ったことで会長の座は当分安泰だ。政府と医師会の間には最初から出来レースの筋書きが出来ているのかもしれない。日本医師会は次の選挙でも組織を挙げて自民党候補の集票に奔走するのだろう。
「ワクチン日給17万円も・・・医師確保へ一手」 

日本とは対照的な例として、既に一人当たり三回近くも検査済、さらにワクチン接種の完了者も国民の半分近くに達しようとしている英国のワクチン接種体制の仕組みを紹介しておこう。なお、この記事は三月中旬時点での話である。
「日本はコロナ対策で周回遅れの国になった」英国在住作家が嘆く理由」

この記事によると、英国ではワクチン注射もボランティアが行っているとのこと。法律を改正して、適切な研修を受ければ素人でも注射を打てるようにしたそうだ。注射担当だけでも全国から三万人超ものボランティアの応募があった。ボランティアだからほぼ無給だろう、政府の負担も軽くて済む。

一方、我が国では日給最高額17万円の医師に注射を打たせているが、その原資は国民から集めた税金なのである。これでは国の借金がさらに増えるのは当たりまえだ(のクラッカー!・・?)。英国の対応は、「法律の制約があり医師と看護師しか注射を打てない」と主張しつづけている日本政府のそれとは大違いだ。

必要だと思えば国会を開いて法律を変えればよいだけのこと。国会では与党が過半数を占めているのだから法律を変えるのは簡単だ。要するに、菅総理には今の医療体制に若干でも手をつけようとする気が全くないのである。
また、英国では近所の薬局でも接種可能な体制となっているとのこと。パフォーマンス優先で自衛隊のケツを叩いて東京と大阪に大規模接種会場を設置したものの、予約が三分の一程度とガラガラの状態。あわてて全国各地からの接種も受け付けることに変更した某自称先進国とは大違いである。このコロナ禍の中、高齢者がわざわざ電車に乗って都心まで出かけるものと信じて疑わない政府トップ。彼ら(彼?)が実際の民意からはかけ離れた発想しかできないことを露呈した典型的な事例である。

このように他国と比較してみると、今回のコロナ禍も東日本大震災の後の経過と全く同じである。震災の後、被害を受けた沿岸各地には住民が望んでもいない巨大な防潮堤建設が強行されて大手ゼネコンが大儲けをした。今回も国民が納めた税金から巨額の人件費が医療業界へと流し込まれる。「GOTO・・」で菅総理の地盤である観光・交通業界に税金が流し込まれたのと同じ構図だ。

大災害や伝染病の大流行(パンデミック)が起こるたびに、根本的な対策や解決方法を後回しにして、まずは自民党の関係団体や企業が大儲けをする。「焼け太り」、きつい言い方をすれば「火事場泥棒」の公然の活躍が毎回繰り返される。

筆者個人としては、危険な現場で日夜頑張っておられる医療関係者にはもちろん感謝を惜しまないが、国全体の動きを他国と比較してみれば今の日本の暗部が見えてくる。かくして感染者の累増は続き、コロナ禍の収束と経済の回復は遅れ、国の借金と将来世代へのツケはさらに膨らむのである。

菅総理には早く辞めてもらいたいし、この秋には実際にそうなるだろうが、その先はどうなるのか。

自民党は国内各種業界のいたる所に網の目のように自党の支持組織を張りめぐらして来た。そのことは、参院選の全国比例区自民党候補者の出身団体を見れば一目瞭然である。票と引き換えに各業界に税金をばらまくことでその支持組織を維持してきたのだが、今回のコロナ禍のように「医療を優先すれば交通・観光・飲食・五輪がつぶれる。その逆をやれば医療崩壊が起こる。」ような状況になってしまうと、彼らはもはやどうしていいのかわからない。さらに国債を発行して国の借金を増やしながらカネをばらまいて、各業界を何とかなだめる以外には手がない。
例えていえば、自分で張りめぐらした網に逆に手足をからめとられて動きが取れなくなってしまった、愚かなクモのようなものだ。

コロナはいつかは収束するのだろうが、日本国内にはこのような事例は既にほかにいくらでもある。政府の方針が全く見えない原発事業などが典型例だ。いままで構築してきた支持業界との強いヒモに縛られて、どこにも進めなくなってしまったのが今の自民党である。自分でそのヒモを切るだけの決断力も腕力も、ヒモを切った後にどこに向かって進むのかの構想力すらも、今の彼らには無いのである。もはや自民党が国を統治する能力すら急速に失いつつあることを露呈させたのが、今回のコロナ禍の最大の教訓と言ってよいのかもしれない。

一般の会社であれば、経営者が無能で会社が危機に瀕した場合には経営者を交代させる。根本的な立て直しが必要である場合には、社内外への今までのしがらみがない優秀な外部人材に経営を一任することが多い。ゴーン氏が統治していた日産自動車は、その初期段階に限ればこの手法によって目覚ましい回復を見せた。

では、日本国の場合には、しがらみだらけの自民党から野党へと政権交代させれば問題は解決するのだろうか。残念ながら今の野党には、与党と同様に将来への具体的な構想力が欠けているし、かっての野党にもその力は無かったように思う。一定勢力を代表して反対するだけの座に安住し続けて来たのではないだろうか。

思い出すのは2009年8月の衆院選で圧勝した旧民主党が選挙の公約に掲げていた「政権交代」である。「政権交代さえすれば何でもうまくいくと思っているのか?具体的な政策も示さずに・・。こんなのが公約じゃダメだろうなあ・・。」とあきれながらも、当時のアソウ総理には既にアイソウが尽きていたのでいちおうは投票には行ったが、政権交代後の同党の四分五裂と迷走ブリは既にご存じの通りである。案の定、予想が的中してしまった。

今の野党に求められるのは将来構想力の強化である。学者・知識人との連携の強化が絶対に必要だ。知恵袋がいないままに選挙目当ての思いつきのスローガンを連呼しても、仮に一時的に政権を奪取したとしても山積する問題を何ひとつ解決できないで終わるだけだろう。時間はかかるだろうが、国の将来構想を構築する力と、その構想を国民に分かりやすく伝える表現力の強化なくしては、この坂道を転がり落ちるような日本の衰退は止められないだろう。
特に歴史の勉強が必要だ。現在のコロナ禍への政府対応と70数年前の自滅的戦争までの経過とを結びつけて語る論者が多いのは、決して偶然ではない。昨年の日本学術会議をめぐる騒動の中で、菅総理が昭和初期の現代史研究の第一人者である加藤陽子東大教授の学術会議入りを拒んだ事実は象徴的である。

おそらく菅総理は、まともな歴史書などは一冊も読んだことがないのだろう。本を読む時間よりも、料理屋で会食しながらの密談の方を優先しているはずだ。

「歴史を勉強しようとしない愚者は、同じ失敗を何度でも繰り返す」ものである。漫画しか読まない副総理、母方の祖父のできなかったことを実現することにしか関心がなく、フリガナ無しでは漢字もまともに読めない前総理も似たようなものだろう。

与党も、野党も、霞が関の官僚も、次の選挙目当てに過ぎないポピュリズム政策ばかりを競い合っていないで、国の将来を見据えた基本構想を今一度根底から検討し直すべきである。そうしなければ、今回のコロナ敗戦の経験も、またしても単なる思い出話に終わることとなる。

/P太拝

コロナ敗戦の原因(1)

久しぶりにコロナ禍の問題を取りあげてみたいと思います。

(1)東京五輪との関係

先回の記事でも触れたように、筆者はこの世界的なパンデミックの渦中での東京五輪開催には反対だが、今の流れでは感染がよほどの事態とならない限り、このままズルズルと開催に至ることになるだろう。そして開催されれば国内メディアは五輪報道一色となることも確実だ。

何しろ主要メディアがそろってスポンサーとなっているのである。下の公式スポンサー一覧には、読売、朝日、日経、毎日、産経、北海道新聞の各紙、さらに、アリババ、インテル、グーグル、ヤフーなどのIT関連もそろって名を連ねている。投資した以上は売り上げを上げなければならない。テレビもネットも朝から晩まで五輪関係の報道ばかりとなる。その結果、忘却力にかけては世界最強の日本国民のこと、それなりに拍手を送ることになるだろう。総理の目論見どおりに内閣支持率も少しは上がるだろう。毎度おなじみのパターンである。

このスポンサー一覧を見ると、先日、五輪開催批判派を批判して逆に大炎上した竹中平蔵会長が率いるパソナもやっぱりスポンサーの一員であったことが判る。これ以外にも五輪競技を中継する各テレビ局も巨額の放映料をIOCに支払っているはずである。そもそも、日本の酷暑のピークである七月下旬に開催時期を決めたのも、IOCに8500億円もの巨額を支払って米国の五輪放映権を独占したNBCの意向によるものであったとのこと。巨大企業と政府とが「マネーマネーマネー」を追求し続けた結果、熱中症による死者が出る事態にもなりかねない。五輪が「世界最高の選手を決める場」だというのは、もはや過去の話だろう。
「東京五輪公式スポンサー 一覧」
「竹中平蔵氏、KY発言「世論が間違い」に医療関係者猛反発!」
「東京五輪、なぜ真夏に開催か 猛暑で懸念高まる」

日本人に特徴的な傾向なのだが、いったん方向が決まると、それがたとえ不合理な方向であっても、全員が雪崩を打つがごとく一斉にその方向に向かって走り出してしまい止まらなくなるという傾向がある。約90年前に関東軍が勝手に起こした満州事変は、陸軍中央の不拡大方針を無視してその範囲をズルズルと拡大した結果、満州国が成立。当初は事態の拡大に反対していた昭和天皇も、結局はその結果を追認した。この中国領土内での傀儡国家の建設によって国際的な批判を浴びた結果、国際連盟を脱退、宣戦布告なき日中戦争の勃発、そして太平洋戦争の開戦へと続き、日本は亡国の泥沼へと坂道を滑り落ちて行ったのである。
この日本民族に固有の「周りの流れには逆らわずに身をまかせる」「赤信号、みんなで渡れば、怖くない」という傾向は、現在も民族の精神的DNAとしてしっかりと継承され続けている。その端的な例が世界最悪の政府債務の対GDP比率だ。既に2012年の時点で先の戦争末期の1944年のそれを上回っており、今回のコロナ禍でさらに急増することは確実である。
この傾向は企業・団体のレベルでも日常的に観察される。近年では東芝の歴代トップによる長年の不正決算、日本を代表する大手メーカー各社による品質データの相次ぐ捏造などが挙げられる。組織を構成する個々の人間が「こんなことをやっていては、そのうちに破滅する」と思いながらも、全体の流れに異を唱えることもなくズルズルと引きずられ続け、ウソの上にウソを重ねていくのである。
コロナ禍での例としては、前政権による予告なしの突然の一斉休校や税金の無駄遣いに過ぎなかったアベノマスク配布などもその例だろう。いくら不合理かつ実効性のない政策であっても組織の末端にいる人間は従わざるを得ないが、トップのすぐそばにいる上層部の人間すらも、まともな議論をすることも無く、トップの非合理的判断に全く異を唱えようとしないのが日本的特徴である。「和をもって貴しとなす」という聖徳太子の有名な言葉も、こんな場面で使われるようでは実に困ったものだというほかはない。


今朝の報道によれば、昨日のG7で各国首脳は東京五輪の開催を支持したとのことだが、ワクチン接種率では日本を除くG7各国の大半が既に五割を超えていることを忘れてはならない。後でデータを示すが、少なくとも一回以上接種した住民の割合は、6/11時点では最低のフランスでも44%、最高のカナダは63%。日本は12%にすぎない。

各国は、数百人程度の選手・役員が日本から帰って来ても自国内の感染状況にはほとんど影響はないと踏んでいるのだろう。ここでは、とりあえずは初参加の日本の総理の顔を立てておこうというだけのことだ。一方で、日本は少なくとも数万人の選手・役員・報道陣を引き受けねばならず、彼らの滞在中の医療費や大会全体の防疫体制費用も負担しなければならないのである。

このまま五輪開催を強行(強行というよりも、「止める勇気が無いために流され続けて」と言う方が適切なのだろうが・・・)して、結果的にたいしたことが起こらなくても、世界は「日本は不合理な選択をあえてする理解不能な国」との印象を強めることになるだろう。まして五輪後に各国で再び感染拡大するような事態になれば、その非難が日本に集中することは避けられない。

各国政府からの非難はなくても、日本で感染した選手・役員が個人的に日本政府、東京都、JOCを相手として訴訟に訴えるケースも十分にあり得る。仮に誰一人感染しなかったとしても、選手・役員・報道陣からの、「コロナ禍の下、酷暑と会場とに順応する十分な準備期間も取れず、宿舎にずっとカンヅメのままで外食も観光もできず、観客・市民とも触れ合えなかった史上最低の五輪」、「酷暑と会場とに慣れた地元の日本選手だけが一方的に有利となった、アンフェア極まりない五輪」との評価を受けることは、開催前の現段階で既に確定的である。なんでこれが、「コロナに打ち勝ったことを示す平和と友好の祭典」なのだろうか?
さて、五輪に関係する話題だけで今回の記事を終えてもよいのかもしれないが、当ブログは筆者の主観だけではなく、現在起こっている事実を伝えることも主な目的としている。以下、世界のコロナ禍の現状についても触れておこう。

 

(2)世界のコロナ感染・ワクチン接種の現状

英国オックスフォード大学の研究者等によって運営されている「Our world in data」のコロナウィルスのサイトを久しぶりにのぞいてみた。このサイトのデータを引用している報道機関は多数あり、データの信頼性は世界的にもトップクラスと言ってよいようである。
最近の大きなトピックスが各国でのワクチン接種の進展であり、まずそのデータから紹介しよう。なお、以下のデータは全て6/11時点でのものである。

なお、このサイトのデータは毎日更新されているので、最新データを知りたい方は上のサイト中の該当する項目を探していただきたい。

下の図-1は国別の少なくとも一回以上接種を受けた住民の割合。

図-2は各国別の一回接種と二回接種の区分である。

(以下の図は、全て図をクリックすることで拡大される。)

この図にはイスラエル、チリ、バーレーン、モンゴルのような主要国とは言いがたい国も含まれているが、これはこのサイトが接種率の高い国から順に表示しているためであり、日本とその近隣の国をさらに加えて表示した。具体的な数字も必要と思われたので、6/11の直前の日のデータも図中に示した。

図-1 各国のワクチン接種率(累積)

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図-2 各国のワクチン接種率(接種完了+接種途中)

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図-1を見ると、フランス、シンガポールとブラジルの間に大きな差があることが判る。ワクチンの主要製造国が欧米に偏っていることを反映しているためか、一般的に欧州諸国の接種率が高い。

一方、昨年の段階では感染率が低かった東南アジアを含む東アジア諸国は、全体的に接種率が低迷している。ほぼ唯一の例外がモンゴルだが、これは同国が全方位外交を展開して、欧米、ロシア、中国から幅広くワクチンを積極的に集めた成果であるとされている。
「ワクチン供給の憂いなし...モンゴルの戦略的外交が導いた成功モデル」

日本は最近になってようやく接種数を増やしているが、韓国はそれ以上の勢いで接種数を増やしており、日本とは既に二倍近い差がついている。インドはワクチン生産国でもあるが、何しろ人口が14億人と巨大なためにまだ十分にワクチンが行きわたってはいないようだ。初期の感染防止対策が称賛されていたベトナム、タイ、台湾だが、感染対策に自信があり過ぎたためか現時点での接種率は低迷している。

次に、各国の死亡率を見ておこう。各国の検査体制が大きく異なるために感染者数では感染実態の比較が難しく、死亡者数の方が国別の感染まん延の差を把握しやすいものと予想される。

図-3は感染が発生して以来、現在までの百万人当たりの累積死亡数、

図-4は今年の3/1以降の各国の百万人当たりの一日当り死亡数、

図-5は図-4と同じ内容だが東アジアと南アジアだけに限定したもの。なお、図-4と図-5は七日間の平均値で表示している。

図-3 各国の死亡者数(百万人当たり、累積)

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図-4 各国の死亡者数(百万人当たり、一日当り)

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図-5 各国の死亡者数(百万人当たり、一日当り、東アジア+南アジアに限定)

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図-3を見ると、東南アジアを含む東アジアでは、最近は急増傾向にあるものの他の地域に比べればまだ累積の死亡者数は一桁程度少ないままにとどまっている。この東アジア特有の現象の原因は既にIPS細胞の山中教授によって「ファクターX」と呼ばれているが、その正体は現時点では不明のままである。

図-3と図-4ではハンガリーの死亡率が高いことが目を引くが、同国では二月からアルファ型(英国型)の変異株が急速に拡大したことが原因とのことである。図-1、図-2を見ると同国の現在の接種率は55%に達しており、感染拡大は沈静化しつつあるようだ。
「変異株拡大のハンガリー、新型コロナの死亡率が世界最高に」 

また図-1,2と図-3,4を見比べることで接種と死亡率低下の関係が見えてくる。接種の効果がはっきりとは見えない代表例がモンゴルとチリだ。チリでの理由は明らかではないが、同国で接種されているワクチンの大部分が中国製であり、このワクチンは二回接種後でないと十分に効力を発揮しないとの指摘もある。
「チリ首都ロックダウン ワクチン接種進んでも感染拡大」
「チリ、ワクチン接種率は高いのに感染急増 気の緩みなど原因か」

対照的に、ワクチン接種の進展と共に死亡率が大きく下がったのがイスラエル、英国、米国などである。

最後に、図-6として今年一月以降の各国の百万人当たりの一日の感染者数の推移を示しておこう。

図-6 各国の感染者数(百万人当たり、一日当り)

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この図で注目されるのは、いったんは落ち着いていた英国と南アフリカで約一か月前から感染者の増加が再び始まっていることである。南アフリカの状況は不明だが、ワクチン接種率でトップグループにいる英国の再増加の背景については、二日前に公開された次の記事で理解することが出来る。
「イギリスがデルタ株の感染再燃で正常化先送りなのに、G7参加の菅首相は「五輪開催」宣言」

この記事によると、英国での感染者再増加の理由は変異株であるデルタ株(インド株)の急増によるものであり、その感染力は従来株の2.8倍にもなるとのこと。さらに、ワクチンを二回接種完了した対象者でもデルタ株には約二割の人が感染するとのこと。従来株に対する二回接種完了者の感染確率は一割以下であったはずなので、ワクチン接書完了後の感染の危険性が変異株の出現で大幅に増していることになる。

今後、英国以外の他の国でも同じ傾向が確認されたならば、ワクチンの二回接種が完了しても完全に安全とは決して言えないことになる。また、「死亡率への影響が明らかになるまで 4 週間かかる」との記述があるので、図-4によれば現在の死亡率が日本よりも低い英国も、これから再び死亡率が増えることになるだろう。

図-6によるとインドの感染のピークは先月の五月半ば、マレーシアの感染ピークは今月の六月初め頃であったが、これらは共に変異株、特にデルタ株の急増によるものであったらしい。

日本国内でもデルタ株は週ごとに倍増しつつあり、来月には感染者の大半がデルタ株によるものになるとの予測が専門家の中では主流となっている。現在は第四波が収束しつつある段階だが、デルタ株による次の第五波に備えておかなければならない。

以上に述べたコロナに関する世界の現状をまとめると以下のようになるだろう。

① ワクチンはかなり有効だが、一回接種だけではまだ危険性は高い。二回接種を終えても絶対に感染しないとは言えず、特に変異株は従来株よりも接種完了者に対する感染力が高くなっている可能性が高い。接種を終えても、従来と同様に、マスク、消毒、手洗いの習慣は継続すべきだろう。
②未知の要因「ファクターX」があるから安全だろうと言われて来た東アジア各国でも感染増加が始まっている。主に変異株によるものとの見解が多い。日本でも同様に今後増加する可能性が高い。
③ 既に国民の半分近くが二回接種を終えた英国で感染の再拡大が始まり、同様の米国でも感染者数の減少が底打ちの状態に入った。まだ、大規模な人の移動を伴うイベントを解禁できるような状況ではない。

菅総理は既にG7の舞台で大見得を切ってしまったこともあり、よほどのことが起きない限りは、いまさら自分から五輪中止は言い出せないだろう。IOCやG7の開催支持を既に取り付けてしまったからには、小池知事にしても既に中止を言い出せる時期は過ぎてしまった。今後、我々は、自分が感染しないように今までと同様の自粛生活を送りながら、この二人の責任のなすり合い、泥仕合を見守るしかないのだろう。

この件を調べてみて良かったことと言えば、子供の頃に白黒テレビで見て興奮していた昔の五輪がいつの間にやら変質してしまい、今の五輪は「カネまみれの、フェイクな、インチキなお祭り」になってしまったとはっきり認識できたことだけだ。今年の梅雨から夏にかけては、ずいぶんと憂鬱な季節となりそうな予感がする。

/P太拝

・「追記」(6/15)  英国でのデルタ株による感染増加に関する記事が本日のNEWSWEEK日本版に載っていたので、追加で紹介しておきます。

上の「イギリスがデルタ株の感染再燃で・・」の記事とは別の研究機関によるものだが、全体としては大体同程度の評価結果となっています。ただし、この記事にはアストラゼネカワクチンの評価も載っており、ファイザー製等に比べれば有効性はかなり低いとのこと。

「コロナ変異株、デルタは入院リスクがアルファの2倍 ワクチンは依然有効」

 

布勢で9.95の日本新誕生!

先日の記事の期待通り、ついに山縣選手がやってくれました!一昨日の男子100mでの日本新記録誕生です。また女子100mハードルでも青木益未選手が日本タイ記録の12.87を出して優勝しました。

これで布勢陸上競技場の「記録が出るトラック」の評価がさらに上がり、有力選手の参加もさらに増えることでしょう。布勢が「日本陸上短距離界の聖地」となる日も近いのではないでしょうか。

日本新が出る裏には関係するスタッフの協力も大いにあったようです。一昨日布勢は追い風が強く参考記録となる例が度々あり、スターターもスタートの号砲を鳴らすタイミングにかなり神経を使っていたとのこと。
「風が弱まり「今だ」スターター歴30年の直感、山縣の日本記録へ」
また、日本ではここと新国立競技場の二か所にしかない高性能トラック素材も新記録を後押ししたようです。
「日本新記録のウラに競技場?防風ネット&新国立と鳥取にしかないトラック」

さて、今回の「布勢スプリント2021」の全記録を載せたサイトを見つけたので紹介しておきます。全部で40ページものPDFファイル。

これはスポーツ界の記録全般を集めたサイトの一部のようです。(なお、布勢スプリントの公式サイト では、二日経っても未だに「結果は準備中」との表示のまま。この公式サイトは記録公開スピードが遅い上に内容もわかりづらく、陸上ファンの要求するレベルからは程遠いものがあり、今後の改善が必要。)

・男子100m結果 (このファイル10ページ目  GP 100m Men)
 意外だったのは小池選手とケンブリッジ選手の不調でした。コンディションがこの日に合わなかったのでしょうか?桐生選手は体調が万全ではなく、最初から決勝を欠場する方針だったそうです。予選の追い風2.6mでの10.01は、この日の収穫に十分に値すると言ってよいのでしょう。

・男子110mH 13ページ GP 110mH Men)
 日本新の期待が高まっていたものの、結果は低調に終わりました。
「男子110mHは金井が13秒40で快勝」

・女子100m (28ページ  GP 100m Women)
 期待したほどには記録が出ませんでした。優勝した御家瀬選手は若手のホープ。かっての第一人者の福島選手は、今回ようやく、今月6/24からの日本選手権の参加記録を突破し出場資格を得た状態。今後の復活に期待したい。
「女子100mは御家瀬緑が11秒57で復活V」
「福島千里「首の皮一枚つながった感じ」」

・女子100mH(31ページ  GP 100mH Women)
 この日、青木選手の日本タイ記録が出たことに見るように、この種目は現在大幅に記録向上中。それでもまだ五輪参加標準記録の12.84には届いていません。
「女子100mHで青木益未が12秒87の日本タイ!! 2位・寺田は12秒89」

この他にも、このファイルには小中高と一般の参加選手の全記録が載っており、近所の学校の名前を見るだけでも楽しいものがあります。

参考までに、現時点の男女100mの日本ランキング10位までを紹介しておきましょう。男子は10名中2名、女子では実に10名中5名が布勢で自己ベストを出しています。

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さて、陸上界でも東京五輪への期待が高まっているのでしょうが、筆者は今回の五輪の開催には反対です。開催を中止すべきであると思います。その理由はいうまでもなく世界中で対コロナウィルス戦争が続いているからです。
オリンピックが平和と友好の祭典だとするならば、世界中で何億人もの感染者や失業者が苦しんでいる状況下でお祭りをやれるはずがありません。東京でのお祭り騒ぎをテレビで見彼らはどう感じるでしょうか?彼らの眼に日本という国がどのように映るでしょうか?ワクチンを打った人たちだけが集まって自分の健康さを自慢し合っているのを見て、「自分たちは取り残されてしまった」と感じることは明らかです。

五輪の強行は、世界の格差と分断と憎悪をさらにあおるだけの結果となるでしょう。その程度の想像力すらも持ち合わせていない開催推進派の人々は、その一方で毎日のように「格差解消、人権擁護、貧困根絶、SDGs推進」を訴え続けているのです。その無神経さと傲慢さにはあきれるしかありません。彼らは、本音では、今までに五輪に投資したカネの回収しかアタマにないのです。

さらに五輪開催に伴う何万人もの人の移動によって、当然ですが感染は拡大します。PCR検査で100%感染者を捕捉できるわけではなく、当初正しい判定率は七割と言われており、その後も判定率が大きく改善されたという情報は無いようです。また、たとえワクチンを接種した人であっても一割程度は感染します。変異株にとっては各国への拡散の絶好の機会となります。開催の強行によって死ななくても良かったはずの人々を余計に死なせてしまった責任は、いったい誰が取るつもりなのでしょうか。医療関係者がそろって開催に反対しているのは、彼らにとっては全く当然の職業上の反応です。

来年七月にはアメリカで陸上の世界選手権が行われる予定です(東京五輪の延期に伴い当初の予定を一年延期)。参加国は五輪よりも多く、名実ともに陸上競技の最高峰を決める大会です。来年は、多くの国でまともな選考会すら開けない今年よりも状況が改善していることは確実でしょう。山縣選手を始めとする有力選手には、来年の世界選手権に向けてさらに実力を高めてほしいと思います。

/P太拝

6/6(日)、布勢スプリントで九秒台の日本新誕生?

コロナ禍でイベントの多くが無観客と化してしまった昨今、今週末に鳥取市布勢総合運動公園で行われる「布勢スプリント 2021」も残念ながら無観客で行われることになりました。とはいえ、コロナ禍で開催自体が中止となった昨年よりは一歩前進というべきでしょう。

大会の様子は6/6 16hから日本海テレビで放映(ライブではない)されるとのこと。またネットでのライブ有料配信もあるそうです。

「日本海テレビ 特設ページ」

大会の公式サイトはこちらです。

なお、主な出場選手の一覧は、次の日本陸連のサイトが判りやすい。

「サトウ食品日本グランプリシリーズ 鳥取大会 布勢スプリント2021」

男子100mは日本記録保持者のサニブラウン以外の有力者が一堂に集まるという超豪華版。条件に恵まれれば九秒台、さらに日本記録更新も期待できます。また男子110mハードルでも、現時点での記録ランキングトップスリー(金井、高山、泉谷)がそろって出場予定。布勢での日本記録更新の可能性も十分にあり。

女子100mは昨年秋に日本歴代三位記録を出した大学生の兒玉、2018年のこの大会二位の市川、さらに再起に賭ける現日本記録保持者の福島千里の奮闘にも期待したい。女子100mハードルでは、ママさん選手で日本記録保持者の寺田(昨日、日本記録を再更新、今季二度目)、歴代三位記録の紫村と青木、歴代六位のベテラン木村と、こちらも現在出場可能なトップクラスが全員集合です。

筆者はこの布勢スプリントは2018年、2019年年と続けて競技場で観戦。2018年については当ブログの記事をご覧ください。100mは山県選手が10.12で優勝しました。

2019年は当ブログの記事は書いていませんが、桐生選手が10.05の大会新で優勝。男子110mハードルでは高山選手が当時の日本タイ記録を出しました。この時は会場の駐車場が満車で車の置き場所探しにはずいぶん苦労、帰る時にも会場周辺で大渋滞が発生した記憶があります。

布勢の陸上競技場は国内トップクラスの高速トラックとして定評がある上に、春から秋の日中は晴れればほぼ確実に追い風が吹くという気象条件にも恵まれています。鳥取で新たな日本記録が生まれるか、要注目です。

/P太拝

My favorite songs (15) 沢田研二

元々テレビを見ないが、最近は益々見なくなりました。特にテレビのニュース。政治家や役人が何の具体的な根拠も示さずに「安全、安心」と楽観的な口癖だけを毎日繰り返す、その厚顔さにはホトホトうんざりしている。

そんな中で唯一の清涼剤と言えるのが、アメリカMBLで現在大活躍中の大谷翔平選手。彼が出る試合の中継は極力見るようにしている。おかげで最近は朝起きるとすぐに、その日のテレビ番組表を確認するようになりました。

あの、ホームランを打った時の、「パッカーン!」という猛烈な打撃音は何度でも聞きたい。このまま故障なくプレイしてもらえば、世界の野球界で「百年に一度の大選手」と言われるようになる可能性も高い。陸上競技の選手に例えれば、既に引退した短距離界のボルトのような空前絶後の存在になり得るのではないか。

さて、ボルトや大谷選手ほどではないにしても、沢田研二という歌手もなかなかすごかったんだということを最近発見しました。特に、彼が1970年代に歌っていた曲が素晴らしい。当時、筆者は貧乏学生と安サラリーマンの間を行ったりきたりで忙しくしていて、テレビの歌番組などは全く見ていなかった(そもそも、自分のテレビを持っていなかった)。40数年たってからの再発見、これもyoutubeのおかげでしょう。この二、三か月、夜に家でビールを飲むたびに、youtube沢田研二さんの歌を聞きたくなる。よく聞いている曲を以下に紹介します。

① 「Love 抱きしめたい」 

沢田研二にはまるきっかけとなったのがこの映像。声量、ルックス、表現力、どれを取っても歌手として超一流。歌詞も秀逸だ。

「皮のコートを 袖も通さず 風に吹かれ 出て行くあのひとを 色あせた絵のように 黄昏がつつみ ヒールの音だけ コツコツ響く」という冒頭を聴いただけで、その場の情景が頭に浮かんでくる。
背景の演出もすごい。フォーカスを故意にぼかしながら、足元の霧から始めて、スタジオ内で稲びかりを光らせ、さらに雨、みぞれ、雪を次々に降らせるという演出には恐れ入った。
コメント欄には「映画を見ているみたい」との感想が多くあるが、実にその通りだ。わずか五分間ほどの映像だが、見始めるたびに目が離せなくなり、見終わった時には一本のドラマを見終わったような気分にさせられてしまう。テレビ全盛期における歌番組の最高到達点を示す映像だと言っても過言ではないと思う。

② 「憎み切れないろくでなし~勝手にしやがれ」 (冒頭、森昌子ちゃんが一瞬写ってる。可愛い!)

今回紹介する曲の大半が、作詞:阿久悠、作曲:大野克夫のコンビによるもの。沢田研二はもちろん天才だが、既に故人となった阿久悠も天才だと感じる。「勝手にしやがれ」の冒頭の「壁際に寝返りうって 背中で聞いている やっぱりお前は出ていくんだな・・・」で、既に関係が壊れてしまった男と女が未だに共に過ごしている一室の、最後の夜の情景が鮮明に想像できる。
最近の歌詞、特に自分で作詞・作曲をする人たちの歌詞を聴いていても、一向にその背景となる情景が見えてこない。ひたすらに「自分はあれがしたい、これが欲しい」と繰り返すばかりである。たまたま同じ気分にいる人には受けるのかもしれないが、それ以外の人にとっては想像力が喚起されることのない単なる言葉の羅列にすぎない。背景描写による間接的な感情表現という手法がほとんど見られない。

俳句や和歌に見られるような、風景や自然の描写を介して自分の感情を表現するという技法は、伝統的に日本人の得意とするワザであったはずなのだが。世代を超えたヒット曲が最近は全然生まれない背景も、こんな所に、作詞能力の貧困化にあるのではなかろうか。作詞家を志す人たちは、阿久悠の詩を今一度味わってみるべきだろうと思う。

③ 「【放送事故】沢田研二 - 勝手にしやがれ (1977年5月23日放送)」

曲は上と同じ内容だけど、見るたびに毎回笑えます。今思えば、昭和の時代はおおらかでした。スターが放送画面から何十秒間(?)か消えてしまっても、今みたいに「ネットで炎上!」なんて事はなかったし。

④ 「危険なふたり/時の過ぎゆくままに」 

この頃のジュリーはずいぶん細かったんですね。樹木希林さんにも若い時があったとは知りませんでした(失礼・・)。TVドラマの「寺内貫太郎一家」で、壁に貼ったジュリーのポスターの前で「ジュリー!」と叫びながらお尻をフリフリしていたおばあさん役の希林さんの姿。今だに強烈に記憶に残っています。

⑤ 「カサブランカ ダンディ」 

歌詞の内容は「男のやせ我慢」だが、映像から受ける印象は何だか違う。当時の言葉で言えば「ユニセックス」とでもいうのか、今でいえば「トランスジェンダー」的とでもいうのだろうか(「間違い」とお叱りを受けるかも・・)。1980年代のバブル狂乱期の前兆の映像のようにも見える。いずれにしても、右の耳に花を飾っても違和感を感じさせない男性は、未だにこの人くらいしかいないのではなかろうか。2:22あたりの「背中のジッパー、つまんでおろす」仕草のシーンが何ともセクシー。

⑥ 「君をのせて 1971」

時系列的には、今回挙げた曲の中でこれが一番若い。1971年にソロデビューして最初の曲。映像は1973年のテレビドラマ「同棲時代」からのもの。

この女優、ひょっとしてと思って調べたら、やっぱり梶芽衣子さんでした。1972年の映画「女囚さそり」の、あの人を突き刺すような視線が印象的だったので、彼女にもこんなやわらかい表情が出来たのかと今さらビックリです。

この二人、この映像の中では結構相性がよいように見える。でも、男と女、実際に一緒になってみなければ本当のことは判らないというのが右往左往した挙句の筆者の結論。

⑦ 「ヤマトより愛をこめて」 

時代は一転、これは現代に近くて、多分十年くらい前の映像か。声についてはやむを得ない点はあるが、年齢と共に表現力はむしろ増しているように思える。コメント欄を見ると、「幻滅!」とか「もっと痩せて!」とか、ファンからの悲痛な叫びが散見されるが、彼はもう他人の指示通りに振る舞い、演技することに疲れてしまったのだろう。これから先は、ありのまま、素のままの自分として人生を終えたいのではなかろうか。彼よりも少し下の世代の筆者にも、その気持ちはよく判るような気がする。

 

なお、沢田研二さんの生誕地は鳥取市となっていますが、ご本人には鳥取の記憶は全くないでしょうから、出身地はやはり京都市というべきでしょう。

ずっと前に「ジュリーが寄贈したピアノが津ノ井小学校にある」と聞いたことがあります。以来、同校卒業者に「それ本当?」と確認しようと思っているのですが、毎回忘れてしまい、あとで「しまった!」と思うことしきり。そのピアノ、今でもあるのでしょうか。

鳥取市出身の芸能人では、ご本人ではないのですが、昨年惜しくも亡くなられた竹内結子さんのお父さんが鳥取市内の出身とか。筆者の高校の同級生の話によると、旧市内の中学校で一緒だったそうです。伯耆町出身のイモトアヤコさんと非常に仲が良かったのも、ひょっとして鳥取県つながりという面もあったのかもしれません。

かってのこの街は、美男美女を輩出する土地だったようです(今でも?)。

/P太拝

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(6)   -地域と国の経済への影響-

 風力発電の最大の問題点として低周波音による健康被害が挙げられますが、今まで見てきたように、環境省は「耳に聞こえる周波数音域」だけで環境基準を設定している現状を全く変えようとはしていません。低周波音域については、ずっと知らん振りを決め込んでいます。国民の人権を役所自ら無視しており、最近話題のSDGsの方針に明らかに反しています。環境省も、風力発電を推進してきた多くの企業も、今後はSDGs不適格団体と呼ぶべきでしょう。
 さて、そのように指摘してみても、「少々の被害者の発生には目をつぶっても、経済発展を優先すべき」と言う声も少なからずあるのでしょう。もちろん、彼ら自身は風車から遠く離れた安全な地域に住んでいるのでしょう。

 今回は風車が地域経済、さらに日本の経済にもたらす影響について考えてみたいと思います。なお、風車関係の記事は今回でいったん終了し、今後の展開に応じてまた取り上げていく予定です。

 (1)風力発電所建設工事の内容

風力発電所の設置に賛成する人々の中には、設置に伴う建設工事によって地域に落ちるカネに期待している方が多いのかもしれない。しかし、一般の企業誘致に伴う工場等の建設工事とは異なり、こと風車の建設に関しては、その特殊性ゆえに地元企業が参入する余地は多くない。以下、鳥取市南西部での風力発電所設置計画(以下、鳥取風力)と青谷町での設置計画(以下、青谷風力)についてその内容を見ていこう。

鳥取風力の事業者である日本風力エネルギー(株)の親会社であるヴィーナ・エナジーのサイトの「企業情報」を見ると、「建設工事等の施工管理は系列会社のヴィーナ・エナジー・エンジニアリング(株)」が担当する」とある。また「事業案内」のページの施工管理の項目には、「アジア太平洋地域に渡って事業展開する規模の経済を生かし。調達と施工にかかるコストを最適化」とある。要するに事業者のグループ内で既に施工のヒナ型は出来上がっており、地元企業に参入する余地があるとすれば、その下請け作業に限られることになる。
また、風車の部材搬入・建設には特殊な技術が必要であり、長さ100m近い羽根の輸送、高さ100m近いクレーンの現地での組み立て等は到底地元企業の手に負えるものではない。

風車の基礎工事や搬入路の建設あたりに地元企業の参入機会があるのだろうが、先の第一回の記事で既に指摘したように、稜線上での数十kmにも及ぶ作業道・管理道の設置は、今でさえ危ない鳥取市の水害危険性をさらに増すことになる。

青谷風力に関しては、そもそも風車の設置位置からして既存の農道脇に建設することとなっており、新たな道路建設は予定されていない。風車の基礎工事だけに地元企業の参入余地があるのだろう。この事業者である自然電力(株)も自前の施工会社を持っており、風車建設についてはこの会社が全体の施工管理を行うことになるようである。


(2)風力発電所建設後の地域経済への影響

風力発電所が稼働し始めてから後の運用では、基本的に現地に人が駐在する必要はない。発電量や風況、機器異常などのデータはリアルタイムで事業者の本社に送信されるはずである。故障が起こった場合には中央から専門家チームを派遣しなければならず、仮に現地に数人のスタッフがいたとしても、彼らだけでは手の打ちようがない。風力発電所の開設による地元での雇用吸収力はほぼゼロと断言してよいだろう。

再生エネルギー発電施設はどこでもこれと似たようなもので、筆者は2014年に当時国内最大級と言われた米子市「鳥取米子ソーラーパーク」(出力42,900kW)を見学したことがあったが、併設の環境学習施設に来訪者への説明のための職員二名が配置されているだけであった。この職員の方に確認したところ、発電業務に直接かかわっている人は現地にはゼロで、ソフトバンクの本社からリアルタイムでデータの全てを監視・記録しているとのことだった。

次に事業者が支払う土地借用料について見てみよう。2020/8/21付の日本海新聞の報道によれば、鳥取風力の予定地の中に位置し、その周囲三方に風車が建つとされている岩坪集落では、事業者から契約後に地代として年間で約450万円を自治会に支払うとの説明を受けているそうである。予定地のどの範囲が同集落の持ち分になるのかは不明だが、少なくとも風車数本分には相当するのだろう。

年間で数百万円が入っても、風車による健康被害のために先祖代々の家を捨てて村を出ていく人間が増えるようでは元も子もない。また、外部から補助金や支援金などの名目で巨額のおカネが流れ込んできたために、今までは仲が良かった集落内の人間関係が壊れてしまったというのもよく聞く話である。

そもそも、前回の記事で示したような風車からの低周波音のせいで夜に安眠できなくなった家に、自分の子供や孫が泊りに帰って来てくれるはずもない。そうなってしまえば、借地契約が終わる20年ほど先には村の中が空家と廃屋だらけになってしまうことは確実だろう。風車の建設は、地域振興どころか中山間地の過疎化をより一層加速させることになるだろう。

青谷風力については、予定地の大半を所有する蔵内地区が既に事業者との間に土地の売買契約を結んだと報道されている。それが事実ならば、前回の記事で既に指摘したように同地区は風車の低周波音による健康被害を集中して受けることになるだろう。

土地売却金額はかなりの巨額になるのかもしれないが、それと引き換えに、近いうちに村そのものが消滅してしまう可能性もある。風車の麓に立つ集落の土地は、買い手がつかないままに暴落するだろう。蔵内集落以外の風車周辺の集落では、健康被害を受けるだけでおカネは全然入って来ないのだから、風車建設は全くのマイナスでしかない。

既に報道されているように、河原町北村地区では県外から移住予定であった数家族が風車建設の計画を聴いて既に移住を取りやめている。わざわざ移住してきて風車の下に住みたがる人間はめったにはいない。地元の人間が逃げ出し、移住してくる人もいないとなれば、近い将来には、廃村となった無人の家々を見下ろしながら風車だけがクルクルと回り続ける光景が目に浮かぶ。人が住まなくなれば、集落の周辺の農地も荒廃するのは当然の結果である。

景観に対する風車の影響については、近いうちに具体的な予想図も含めて改めて記事にしたい。いま言えることは、風車が林立する景観は明らかに鳥取県内の観光業にとってマイナスに作用するだろうということである。

現在はコロナ禍のさなかにあってインバウンドによる外国人客の訪問はゼロだが、この騒ぎが収まれば再び観光客も増えるだろう。彼らが鳥取県に求めるものは、自国では見ることができない「伝統的な日本の田舎の光景」なのである。林立する風車をバックにきれいな着物を来て写真を撮りたがる外国人客はいないだろう。

 (3)日本経済の中での風力発電の位置づけ

鳥取風力の事業者の日本風力エネルギー(株)はシンガポールに本拠を置くヴィーナ・エナジーの子会社である。風車が発電した電力の大半が中国電力に売却され、その代金は東京に集められて最終的にはシンガポールに送金されることになるだろう。青谷電力の事業者の自然電力(株)の本社は福岡市にあるので、福岡に電力の売却金が流れることになる。鳥取市は場所を貸しているだけなのである。

'00年代の自治体による風力発電ブームの時には電力売却金は一応は自治体の収益になっていたが、その後、税金で建てられた風車は次々に民間企業へと売却されていった。現在、鳥取県内で公営で運営されているのは、鳥取市越路で県が運営している鳥取放牧場風力発電所の一カ所だけだ。公営の風力発電所であれば、まだ地元に還元される資金をも期待することもできたのだが、自治体が風力発電を運営しても赤字になるだけのようである。

日本全体としての風力発電の位置付けについても確認しておこう。まず設備面でいえば、昨年の段階で陸上風車を生産する日本メーカーはゼロになった。2019年から2020年にかけて、日立、三菱重工日本製鋼所の三社が次々に自社での風車生産の終了を公表した。数百kW以下の小型風車のメーカーはまだ国内に何社かあるようだが、今後、日本国内に建つ大型風車は全て外国メーカー製になる。

鳥取風力でも、青谷風力でも、外国製の巨大な風車が林立することになる。特に鳥取風力の場合には、外国資本が外国製の風車を鳥取市内に建設し、鳥取に吹く風を利用して得た電力を作り、それを売って得た利益の大半が再び外国に還元される。「植民地化」という言葉が脳裏に浮かぶ。国内に風力発電所をさらに建設することは、イコール、他の事業でせっかく稼いだ貴重な外貨を国外に流出させることに他ならない。

参考までに、2019年時点での風力発電メーカーの世界シェアを確認しておいていただきたい。15位までを欧米と中国メーカーで独占しており、日本のメーカーの名前はどこにもない。なお、三菱や日立などの大手メーカーは自前の生産はやめたものの、外国製の風車の国内販売は続けるとのこと。
「風力発電メーカー市場シェア 2019年」

余談だが、太陽光発電設備の世界シェアも似たようなもので、かっては世界のトップに立っていた日本だが、国別ランキングで見れば既に世界六位以下に転落してしまっている。
「2019年の世界太陽電池市場、シェアトップ5社は?」

鳥取市内でも、メガソーラーとも言えない数十m四方ほどの小規模太陽光発電所が最近は猛烈な勢いであちこちに設置されているが、近くに行って調べてみると、使われているパネルのほぼ全てが中国製である。最近は日本製を全く見ない。電圧を直流から交流に変換するパワーコンバーター(略称パワコン)も多くが中国製で、今話題のファーウェイ製のパワコンも複数の発電所で最近確認している。

次に風力発電のコスト競争力も確認しておこう。「風力発電は非常に低価格」というのは最近よく聞く言葉だが、詳しく調べると実態はそうでもない。次の表は2020年時点での各種再生エネルギーによる電力の調達価格(配電業者が発電業者から調達する価格)である(クリックで拡大)。経産省資源エネルギー庁が昨年11月に公表した文献から引用した。

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数年前は確かに太陽光よりも風力の方が安かったのだが、近年の太陽光パネルの急激な値下がりで、現在は太陽光発電の方が大幅に安くなっている。風力発電のコストは、近年は低価格化の速度が緩慢となっている。
なお、我々が毎月支払っている電力価格は、中国電力を例にとると、一般家庭向け、小規模な商店・事業所向けが21~25円/kWh(300kWh/月以下の場合。基本料金込み、燃料費調整額と再生エネルギー賦課金は除く)となっている。太陽光発電の電力価格とは大差があるが、電力用途の過半を占める大型の工場や事業所向けの高圧・特別高圧電力の料金は、通常時は15円/kWh以下、夜間は9円台/kWhとなっている。中国電力太陽光発電の電力を買って大儲けしているわけではなさそうである。

今後、風力発電のコストも太陽光発電並みに年々安くなっていくのだろうか。キャノンの研究所による次の記事が参考になる。

「風力発電のコストは上昇している -英国からの報告-」
以下は要約。なお、文中の英国ポンド表示は、現在の為替水準である1ポンド=151円で円に換算した。

・この調査結果は、過去15年以上にわたる欧州内に風力発電所を所有・運営する350社以上の監査済会計報告から得られた、実際の発電コスト(=資本費+運用費)のデータに基づいている。
・英国の洋上風力の資本コストは、洋上発電の総累積容量が年々大きくなるほどに上昇している。累積出力が百万kWの頃には1000kW発電に要する資本は平均で3.5億円であったが、累積で千六百万kWとなった最近の時点では、1000kWの発電のために平均で7億円の資本が必要となった。これは時間の経過とともに、海岸からより遠く、より深い地点での立地を余儀なくされたためである。
・浮体式洋上発電に要する資本コストは着床式の約二倍。
・陸上風力も同じ傾向であり、年々資本コストが上昇している。これは従来よりもより困難な場所での設置を強いられることによる。
・着床式洋上風力発電所の運転コストは操業時間の経過と共に上昇する。水深10m未満の浅い海に設置した場合、1000kW当たりの運転コストは操業1年目が755万円、操業12年目で1360万円。水深30m以上の深い海の場合には、1000kW当たりの運転コストは操業1年目が2870万円、12年目が5440万円となる。
・この運転費の増加により、操業開始から15年以内に運転費が市場電力価格を上回ることになる。操業して15年以内に資本費を回収しなければならない。
・洋上風力では機器の故障率が陸上風力に比べて著しく高い。陸上風力では、古い小型(1000kW以下)のものは、2005年以降に建設された2000kW以上のものよりもはるかに故障が少なかった。

この英国からの報告によれば、今後、陸上も洋上も含めて風力発電のコストが大きく下がる可能性はなく、むしろ上昇する可能性が高い。風力発電業者と投資した金融機関は破綻するか、あるいは英国の消費者が将来にも電力料金の高騰圧力を受けることになるだろうとの結論である。

公平のために、欧州の洋上風力発電について楽観的な将来予測をしている文献も紹介しておこう。これは我が国の経産省のサイトからの引用である。

「欧州における洋上風力発電の規模について」

詳細については文献そのものを参照していただきたいが、ここでも風力発電所の規模が大きくなっても電力コストは下がらず、むしろ上がる傾向が見て取れる。また経産省が最近強調している「欧州の風力発電は7円/kWh程度と安価」というのは実例のごく一部に過ぎず、英国とドイツの発電所の大半では10~16円/kWhとなっている。

さらに、この文献では発電コストとして毎年の売却価格が一定である「平準化価格」を採用しているが、これは上記文献①では、その末尾で「時間の経過とともにコストも性能も体系的に変化することを考慮していない、非常に誤解を招く指標」であるとして厳しく批判されている。

また、東大の先生が書いた次の文献によれば、現在、日本政府が力を入れている洋上風力発電で欧州並みの安い電力を得ることは、自然条件の違いから見て全く不可能とのこと。
「風況の違いによる日本と欧州の洋上風力発電経済性の比較」

以下に簡単な要約を示す。なお、この文献での洋上発電とは着床洋上発電を意味しており、浮体洋上発電のことではないと推測される。また、①の文献に示された設置場所の海の深さの違いによる資本コストの差も考慮されてはいない。

・欧州洋上(北海)7地点、日本北海道・北東北洋上(日本海)4地点、台湾洋上(台湾海峡)5地点について、NASAによる風況実測値を元に各風車の設備利用率を計算した。その結果、設備の年間平均利用率として欧州55%、日本35%、台湾36%を得た。同一の発電機を使っても、日本と台湾では欧州の約2/3の電力しか生み出せない。欧州では年間を通じて強い偏西風が吹いているのに対して、台湾では春の、日本では夏の風速低下の影響が大きい。
・日本では欧州よりも風がほとんど吹かない日が長く続く傾向があり、この期間に備えて、風力以外の代替電源の準備が欧州よりもより多く必要となる。このことが風力発電のコストをさらに押し上げる。
・採算性の比較のために、日本と欧州に同一の洋上発電所(デンマークVestas社製 9500kW×37基)を建設した場合の売電価格を試算した。結果は欧州12.6円/kWhに対して日本19.5円/kWhとなった。この差は地理的自然条件である風況の差によって生じるものであり、技術開発や運転習熟度によって埋められるものではない。

 以上の文献を読む限り、風力発電の未来は暗いと言ってよいだろう。日本をはじめとして各国政府は現状の実態を無視して洋上風力によるバラ色の未来を描き続けてはいるが、結果的には「絵にかいた餅」に終わる可能性は高い。そのツケは、風力発電業者と金融業者の破綻や、電力価格の値上げによる消費者への負担転嫁という形で表面化するだろう。風力発電に投資してきた、或いはこれから投資しようとしている金融関係の方には、今一度、欧州での実態を精査されることをお勧めしたい。

なお、最近は1万kW級の巨大洋上風車の建設が既に始まっているようだが、海の生物への影響はないのだろうか。空気中と水中では音波に対するインピーダンスが大きく異なるために、インピーダンスのミスマッチング効果により空中から水面に当たった音波の大半は反射されて再び空中に戻る。しかし、風車が巨大になれば水中に侵入する低周波音波の持つエネルギーも無視できなくなるだろう。

クジラは低周波音を使って互いに会話している。イルカやクジラの保護に熱心な欧米の研究機関が、こと洋上風車に関しては沈黙を決め込んでいるように見えるのが不思議だ。先回の当サイトの記事では、「陸上風車のそばの海から魚やウミガメが姿を消した」との声も紹介している。

 (4)日本は再生エネルギー戦略の見直しが必要

二酸化炭素の排出急増による地球温暖化の可能性については、先見性を持つ優れた科学者によって1960年代という早い時期から繰り返し指摘され続けてきていた。筆者は大学生の頃から日本は再生エネルギーの採用を早急に拡大すべきであると考えてきた。

最近、この点についてようやく全地球的な共通認識が得られるようになってきたことは実に喜ばしいが、単に二酸化炭素を排出しないというだけで石油・石炭に代わる代替エネルギーとしていまだに原子力発電を主張するヤカラが存在しているのが何とも不思議である。

彼らが原発再稼働に賛成し続けるのであれば、再稼働の結果としてさらに排出される放射性廃棄物という名の核のゴミの少なくとも今後の発生分については、この先の十万年間の核のゴミを保管する場所と費用と安全についても彼ら自身がその責任を負うべきであるのは当然の話だろう。貧乏自治体の首長の頬下駄を札束(元々は国民が納めた税金!)でひっぱたいて核ゴミの処分を押し付けておいて、自分たちは安全な場所にいて政府に決めさせた有利な価格の元に金儲けしようという連中は、人として最低ランクでしかない。

原発問題はさておいて、再生エネルギーの一種としての風力発電については、筆者は今までは基本的に賛成の立場だったが、今回の調査でその考えを完全に改めた。風力発電には問題点があまりにも多すぎる。今回得た結論は、「風力発電は、少なくとも日本には似合わない」。今までの一連の記事の中でその理由を述べて来たが、ここであらためて以下にまとめておこう。

① 低周波音による健康被害は明らかに現実に発生している。しかし。環境省は「耳に聞こえる周波数範囲だけが問題」だとして被害者の声を無視し続けている。その結果、風車からの騒音被害によって不眠となり健康を害した住民、寿命を縮めた住民、自宅を捨てて逃げ出した住民が、何の補償も受けられずに「泣き寝入り」するしかないという深刻な人権問題が発生している。

② 近年の風車の大型化に伴って、低周波音による健康被害が従来よりもさらに広範囲で発生するものと予想される。人口密度の高い日本では、陸上の風車をこれ以上増やすことは人権上、許されるものではない。

③ 日本の国土の75%が山地と言われている。人家の近くに建てられないうえに、標高が高いほど風が強くなる傾向もあって、近年は風車を山の稜線上に建てるしかなくなってきている。しかし、日本の山々は一般に急傾斜であり、稜線や山腹の森を切り開いて道路を付けることで山の保水力は低下する。さらに温暖化によって今後さらに豪雨被害が増えることは、既に社会の常識となってきている。防災上の観点からも、山地での風車建設は中止すべきである。

④ 日本の風力発電メーカーは既に壊滅状態だが、これはある意味で当然な結果ともいえる。人口稠密で広大な未利用荒地がほぼ皆無な日本では、元々から風力発電の適地は乏しい。国内で十分な実績を積めず商品力も十分に磨けていないメーカーがいきなり海外に進出しても、コストがかさむばかりで勝負にならないのは当然の結果である。

広大な牧場や不毛荒地を国内に持つ欧米、国内に砂漠や未利用乾燥地を有する中国が相手では、まず地理的条件からして日本は不利である。元々から条件的に不利な分野で、あえて頑張る必要はない。現在の日本の人口は世界人口の約1.7%に過ぎない。「どんな分野でも日本がトップ」でならなければならない理由など、何もない。

⑤ このように不利な条件下でも、経産省は「これからは洋上発電だ」と意気盛んなようだが、大半の設備を外国から輸入までして、あえて取り組む必要がある事業とは思えない。上の文献で見たように欧州よりも風況が劣る日本では、さらに設備の輸入経費も加えれば、欧州並みの低コストの実現は絶対に無理である。風力発電という事業は偏西風帯に位置していて常に強風が吹く欧州でこそ成立する事業であり、他の地域で猿真似する必要はない。中でも日本は、地理的かつ社会構造的に見て、風力発電には最も不適な国の筆頭だろう。

⑥ そもそも、風力発電事業は風況が適している欧州でこそ実績はあるが、ほかに地理的条件が欧州に似た地域として挙げられるのは、同じく偏西風帯に位置するカナダ西海岸や南米パタゴニアくらいしかないのではないか。これらの地域は電力消費地からあまりにも遠いために、当面の事業化の可能性は低い。

本家本元の欧州でも風車を建てる適地が乏しくなっているために、今後は陸上・洋上ともにコストはむしろ上昇する傾向にあるようである。風力発電再生可能エネルギーの主力には到底なり得ないだろう。

⑦ 観光・景観面でも風力発電はマイナスである。かって島根半島に風車を建てる計画があったが、「出雲大社のそばに風車を建てるなんて・・」と反対する声が圧倒的で建設中止になったという新聞記事を読んだ記憶がある。十数年前だったか、鳥取砂丘の西端にも小規模な風車を建てる計画があったが、これも砂丘の景観を損ねるとの反対があって計画撤回となった。

最近では、昨年、山形県出羽三山に巨大風車を40本も建てる計画があったが、計画を公表して直ぐに知事を始めとする山形県内からの猛烈な抗議にさらされて、公表してひと月も経たないうちに事業者の前田建設は計画の白紙撤回に追い込まれている。

「霊場・出羽三山に大型風力発電計画 山形県など反発」
筆者もこの記事を見た時には「何と乱暴な! 神様の住む山をいったい何だと思っているんだ!?」とあきれたものである。今回、風力発電の経済性を調査してみて、神様を山から追い出したうえに経済的にも成り立たない、誰のためにもならない本当にブザマな事業計画であったと改めて感じたしだいである。東京都内の全てのビルの屋上に政府補助金付きで太陽光パネル設置を義務付けた方が、経済的にはよほど有意義だろう。

観光客が見たいものは、古来から「神々が居ます」とされて来た伝説を伝える山々、人々の日々の信仰と崇敬の想いが先祖代々投影されてきた山々と、その麓に住む人々の暮らしと笑顔である。クルクル回る機械が針のように林立するだけの、人間の欲望に引き裂かれたような山々を、わざわざカネを払って見に来るようなモノ好きなどはいないだろう。

⑧ パネルの大半を中国製に依存することになってしまったとはいえ、再生可能エネルギーの中では太陽光発電が既に最も低コストなのだから、当面は太陽光を主体に温暖化対策を進めていけばよいだろう。「山を切り開いてメガソーラーを作ったために、豪雨時に川があふれた」等、いくつかの環境問題も発生してはいるが、風力発電に比べれば、太陽光ではそれほど深刻な問題は出ていないようである。
従来のシリコン製の太陽光パネル以外では、日本が開発で世界に先行しているペロブスカイト型太陽電池が特に有望である。薄くて自由に曲げることが出来、窓に張り付けても発電できる。車のボディや都会のビルの壁や窓に張り付ければ、純正の産地直送電源になる。日本は新型の蓄電池の開発でも世界に先行しており、太陽光発電の余剰電力をためておいて夜間に使えるようにするなど巨大な需要が期待できる。

国内の太陽光発電だけで国内で必要なエネルギーを賄うのは無理だろうから、足りない分はオーストラリア等、日本との関係が安定している国の砂漠で太陽光発電した電力で水を電気分解し、発生した水素をタンカーで日本に運べばよい。水素の運搬に必要な技術も、既に日本国内では実用化の一歩手前にまで来ている。

今後コストが下がる見込みがない風力発電をさらに拡大することは、将来の消費者の負担をさらに増やすことになるだけだから、経産省は洋上風力拡大政策を即刻止めるべきだ。日本が先行している分野には集中的に投資する一方で、もはや勝てる見込みのない事業分野からはさっさと撤退すべきである。対GDP政府負債比率では世界最悪の指定席に長らく座り続けている我が国には、将来主力となる見込みのない事業、事業者の赤字が確実な事業にさらに税金をつぎ込む余裕など全くないはずだ。

しかし我が国の現状では、霞が関の官僚は、国の将来よりも自分の老後の生活の安定を最優先しているように見える。担当する事業の前途が見込み無しとの結論を下して自分の代で廃止させてしまった場合、事業をつぶした張本人というマイナス評価を自ら引き受けるのみならず、前任者である先輩の顔にも泥を塗ることになる。先輩との人間関係は当然悪化、自分の将来の出世にも差し支えることになる。一番望ましいのは、担当する事業の可否の判断は先送りしてそのままダラダラと継続させ、誰か適当な後継者を早く見つけて押し付けてしまい、自分自身はもっと前途有望な事業の担当にさっさと乗り換えることだろう。かくして、将来見込みのないテーマの数は高級官僚の人数に比例して膨らみ続け、国費の浪費も牛のヨダレのごとくいつまでも続くのである。

/P太拝

鳥取市の大規模風力発電事業の問題点(5)  -全国各地の風車による健康被害の実例-

この風力発電に関する記事シリーズも今回で五回目。ここで全国各地での過去の風車による健康被害の実例をいったんまとめておきたいと思います。過去の事例を詳しく見ていくことで、鳥取市で計画されている風力発電事業の問題点がさらに明確になるはずです。

(1)各地の風車による健康被害の実例

 各地の風車からの騒音・低周波音による被害を下の表-1にまとめた。この内容は単にネット上の記事をまとめただけであり、鳥取環境大による現地調査で鳥取県内での大量のクレームと被害者の存在が初めて明らかになったように、この他にも表面に出ていない被害例はたくさんあるのだろう。

風車の建設場所は中山間地や奥山が大半であり、その近くの住民はネット発信に不慣れな高齢者が大半と思われるので、綿密な現地調査をしない限り国内での風車被害の全貌は見えてこないだろう。


下の表をクリックすると、別画面でこの表が拡大表示されます。(以下の表・図も同様)。なお、例の(8)から(10)は、この記事シリーズの三回目で紹介した被害例の再録です。

表-1 国内の風車騒音・低周波音による健康被害

 f:id:tottoriponta:20210423081048j:plain・文献
「石狩風車の低周波音測定結果・・」 
「風力発電、実は「エコ」じゃない」 
「環境省 騒音に係る環境被害について」 
「風力発電、近所で頭痛・不眠 環境省、風車の騒音調査」  
「愛知 田原市の風車騒音問題 中日新聞」
「風車騒音・低周波音による健康被害 風車問題伊豆ネットワーク」
「風力発電 施設近くの住宅内で低周波音・・」 
「風力発電、低周波被害の実態把握 「考える会」が訴え」 
⑨「2020/11/15 明治小講演会 武田氏提供資料」当サイト記事
「高知県大月町大洞山ウインドファーム考察 その2 被害者たちの証言」 
「低周波音被害について医学的な調査・研究と十分な規制基準を求める意見書 日弁連」  
⑫「伊豆熱川における騒音・低周波音被害」


以下、これらの被害例を見ての感想。

・国内で大型の風力発電が開始された十数年前には、住宅から200~300mという近距離でも事業者は平気で風車を建てていた。伊方町での被害(例 4)に見るように、その結果は惨憺たるものとなった。県内でも湯梨浜町の風車(既に撤去済み)は伊方町の1000kWよりも低出力の600kWであったが、鳥取環境大の調査結果に見るように、風車を直接見上げる位置にあった西側の泊地区では、風車からの距離が200~300mでも多くの住民が健康被害を訴えている。

・2010年代に入ると風車出力も2000kW以上へと大型化し、それに伴って風車からの距離が1km以上離れた地域でも被害が発生するようになった (例 8,9,10)。

・人間だけでなく、各種の動物も風車からの騒音を不快に感じているものと推測される。犬、猫、野鳥、ウミガメ、魚などの異常行動が確認されている(例 2,6)。

・2014年2月にブレードが破損した愛知県豊橋市細谷の風車(例 6)はGE製の出力1500kWだが、同一メーカーで同一出力の東伯発電所の風車が2020年1月に同様のブレード破損事故を起こしている。鳥取県内にはGE製で同一出力の風車が現在24基有り(大山、中山、東伯の各発電所)、今後も同様の事故が発生する可能性がある。

・風車による深刻な健康被害を受けている住民が各地にいる一方で、同じ集落内に居住しているにも関わらず被害をそれほど感じていない住民もいることは確かだが、これは前回の記事で述べたように自宅の共振周波数が風車から発生する低周波音の周波数と一致するか否かによるものと推測される。

幸運にも自宅の共振周波数が風車から発生する周波数からずれている場合には、自宅の揺れはそれほどでもないだろう。逆に一致した場合には、自宅の揺れは深刻な状態となり不眠や不快感の原因となる。自分の自宅が風車からの低周波音波に共振するかどうかは、実際に風車が建って羽根が回り出してみなければ判らないだろう。前回の記事で既に述べているが、「家が新築なら安全」とも言い切れない。

・風車による健康被害は確実に存在する。事業者や環境省は、もっぱら「精神的なものが原因、気のせい」と強調するばかりだが、どの例でも「転居すれば改善する」との報告が大半であり、風車と健康被害との因果関係は明白である。自分の集落近くでの風車建設を容認する人たちは、最悪の場合には、自分自身の自宅を捨てて遠くに引っ越す可能性があることもあらかじめ了解しておくべきだろう。

・風車による健康被害が救済された事例は、今回調べた限りでは過去には全く無い。裁判に訴えた例としてはわずかに田原市での例5があるが、名古屋地裁環境省の騒音基準を根拠にこの訴えを簡単に却下してしまった。

風車による健康被害者は、今までずっと泣き寝入りしてばかりである。現在話題となっている新型コロナ対策のワクチン接種の場合には血栓症が百万人に一例出ただけでも大騒ぎになるが、風車による健康被害では一つの集落中で何割もの住民が被害を訴えているというのに、政治家も自治体も大半のマスコミも、被害住民の訴えを無視し続けている。
例8の和歌山県由良町の場合には、町議会の場での風車被害に関する質問自体を議長が公然と拒否する始末である。風車の被害者はその絶対数が少ないので、選挙の票には結びつかないと政治家は思っているのだろう。
最近の政治家や役人は、「安全安心が最優先」とか、「被害者に寄り添って・・」とか、口先だけのきれいごとを毎日のように連発してはいるが、こと風車騒音の被害者に対しては、彼らのうちの誰一人として被害者に寄り添おうとしては来なかった。裁判所も、既に田原市での例に見るように、行政や大企業の味方となって事なかれ主義に徹してしまう有様である。蛇足だが、最近の裁判官のやる気の無さ・正義感の無さについては、最近読んだ次の記事でその背景がやっと理解できた。ご参考まで。
「人事に異常な興味を示す日本の裁判官の特異性」 

・以上に述べたように、政治家も、環境省も、自治体も、裁判所も頼りにならない現状では、住民自身が風車による健康被害の実態をよく知って、風車建設用の土地を事業者に絶対に渡さないことでしか自分たちの生活と健康とを守れないことは明らかである。上の表に挙げたような健康被害鳥取県内で今後も再現してしまうようでは、身をもって風車による健康被害を体験し、その被害の深刻さを訴えてきた全国各地の被害者の皆さんに対して申し訳ない。

 

(2)鳥取市青谷町で計画中の大規模風力発電について

当サイトの風車記事シリーズでは、当初は鳥取市南西部の風力発電計画を念頭に置いて執筆してきたが、青谷町で計画中の別の風力発電計画の内容を知るにつれて、この計画の危険性も非常に深刻であることに気づいた。以下、この青谷町での計画について、全国各地の健康被害の実例を踏まえながら検証してみよう。

従来、鳥取県内に設置されてきた風車の大半は平地またはゆるやかな丘陵地に設置されて来た。しかし今回鳥取市内で計画されている二つの風車計画は、共に集落からの高度差が少なくとも200m程度はある山の尾根上に風車が建設される予定となっている。上の表-1に挙げた被害例を見ると、その大半が山の尾根上に建設された風車による被害である。
平地に建設した風車の場合には、風車よりも下方に放射された騒音の大半は地面で反射して上空に帰り、人家のある集落までは届かない。しかし、風車の下方が斜面となっている場合には、騒音は斜面に沿って広がり集落に届く割合が増える。また山地の谷間にある集落では、周りの山々からの反射音が谷間に集まってくる。前々回の記事中で述べた「音溜まり」現象である。風車から1~2km離れていても被害例が報告された上の表の例8と例9は、いずれも山に囲まれた谷間にある集落での被害例である。

青谷町で風力発電を計画している自然電力(株)が2017年に提出した「環境影響評価方法書」の概要版を見てみよう。三ページ目に風車の建設予定地が赤い丸で表示されている。この赤丸を中心として半径1kmで青い円を描いた図を下の図-1に示す。ちなみに半径1kmというのはとりあえずの目安であって、この円の外では被害は無いということを意味してはいない。上記の表-1によれば、2000kWの風車から2km離れていても被害を訴えている人がいる。仮に半径2kmで円を書いた場合には、浜村、鹿野、青谷の市街地のすぐそばにまで円が達することになる。

図-1 青谷風力発電所の風車予定配置図

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2017年時点で、この事業者は「2000~3000kWの風車を最大15基程度立てる」としていたが、今年2/14の日本海新聞の報道によると「2000~4000kWを12基程度建てる」との内容に変更されている。風車の出力が当初の計画よりも大きくなっており、表-1の被害例よりもさらに広範囲に被害が及ぶ可能性は高い。

さて、この図-1を見ると、「青谷発電所」とは言いながら、気高町側の方に健康被害がより多く出ることが予想される。気高町下原付近から鹿野町殿に至るまで、この谷沿いの集落の大半が風車から1km圏内に入っている。対して青谷町側で1km圏内に入るのは蔵内、養郷、早牛、山根の一部にとどまる。

今回、地形の詳細を把握するために国土地理院のサイトでこの地域の地図を入手して一番驚いたのが、蔵内地区が典型的な「音溜まり」の地形の中に位置していることだった。下の図-2と図-3を使って詳しく説明しよう。これらの図の中の直線は、図中の小さい窓に表示されている地形断面図の位置を示す。

図-2 蔵内地区北側

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図-3 蔵内地区南側

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蔵内集落は、南からの蔵内川が日置谷沿いの平野に出て日置川に合流する地点に位置している。集落の南西には山根地区との間を隔てる標高185mの舟山がそびえる。

蔵内より南側の風車、図-1の⑥から⑩あたりまでの風車から出た低周波音は、蔵内川の渓谷の中を両岸で反射を繰り返しながら北に進み、平野への出口で蔵内集落にぶつかる。一方、北側の風車の③~⑤から出た低周波音は舟山にぶつかり、その反射波が集落を襲う。各風車から出た低周波音は日置川の西側の山地で反射されるが、その反射波も日置川の対岸の蔵内地区に集まってくるだろう。同地区が「風車騒音の音溜まり」となる可能性は極めて高い。

下の図-4には、蔵内地区の地形断面図と表-1に示した健康被害を受けた各地のそれとの比較を示す。縦と横の縮尺はほぼ同一にそろえてある。また、地形を強調するために、全ての断面図で縦方向の縮尺を横方向の縮尺の三倍としている。

図-4 蔵内地区と風車による健康被害を受けた各地との地形の比較

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赤い楕円で示した所が集落の位置であり、蔵内集落と風車との位置関係は、既に健康被害が発生している各集落と風車との位置関係に非常によく似ている。しかも蔵内集落の近くに建設される風車の出力は、表-1の風車よりもさらに強いのである。

参考のために、各被害地の地図も図-5,6,7として併せて掲載しておく。地図中の赤い丸が風車の位置である。

図-5 東伊豆町熱川温泉

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図-6 由良町畑地区

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図-7 伊賀市上阿波汁付地区

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上記の2/14付け新聞報道によれば、この予定地の大半が蔵内地区の所有であり、同地区はこの風力発電計画に対して、既に「集落全体が賛成して、土地の売買契約を昨年結んだ」そうである。

同地区には巨額の売却金が入ることになるが、同時に風車による深刻な健康被害を被る可能性も極めて高い。いくら集落にカネが入っても、集落住民の多くが家を捨てて逃げ出してしまうようでは元も子もない。そもそも、この風車建設によって、同地区は他の集落で発生する健康被害者から強い恨みをかうことになるだろう。後で人から恨まれるような選択はしてはいけない。

 

(3)鳥取市南西部で計画中の大規模風力発電について

鳥取市南西部の中山間地で計画中の日本風力エネルギーによる風力発電所建設計画については、まだ風車の位置が確定していないので健康被害を受ける可能性のある地域の正確な地図は描けないが、大体の予想図を図-8として下に示す。

図-8 鳥取市南西部での風車予定配置図

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青谷の場合と同様に、青い円で風車から半径1kmの範囲を示した。風車の位置としては、赤い線が山の稜線上に設定された風車建設予定地なので、この赤い線のそれぞれの末端に風車を建てるものと仮定して青い円を描いた。鹿野町、明治地区、東郷地区、神戸地区、河原町北村地区の主要集落が、共通して風車から大体1~1.5kmの範囲内にあることが判る。この計画で予定されている風車の出力は4500kWであり、表-1での最大出力2000kWの2.25倍もあるので、「1km離れていけば大丈夫」などとは絶対に言えない。

特に三方を山に囲まれた盆地である岩坪集落について注目して、同集落については近くの予定地の赤い線の中で集落に一番近い地点を中心に青い円を描いてみた。岩坪が三方向の予定地からちょうど1km程度ずつ離れていることがよく判る。この集落も典型的な「音溜まり」となる盆地地形の中に位置しており、計画通りに風車が建てられた場合には深刻な健康被害を被る可能性が高い。

下の図-9には岩坪集落の写真を載せておこう。昨年の11月に初めて現地に行った時に、集落入口から西向きに撮った写真だが、陽当たりが良く周囲の展望も開けていて、鳥取市の中心部に割と近いにも関わらず「山間の別天地」というような印象を受けた。春先の桃や桜の咲く頃には、桃源郷のような風景が見られるのかもしれない。この穏やかな景観の周りを多数の巨大風車が取り囲む風景などは、想像したくもない。

図-9 岩坪地区の写真(2020年11月撮影)

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この写真の正面左側に見えるの山の上には、当初の計画通りであれば、高さ150mの風車が少なくとも二、三本は建つだろう。写真を撮影した地点の右側の尾根上にも一本、左側の河原町との境界をなす尾根上には数多くの風車が建つ見込みだ。

風車が建った後で発生する健康被害のために、市内の勤め先にも十分に通える距離にあり自然環境にも恵まれているこの土地を捨てて逃げ出さなければならなくなったとしたら、こんなに不幸なことは無いと思うのだが・・。地元の方の思いはどうなのだろうか。

次回は風力発電所建設による地元経済への影響について考察する予定です。

/P太拝